勇者ヨシヒコと魔王の城の第1話

ここは カボイのむら▼

村長「このままでは…… この村の人間全員、この恐ろしい疫病に殺されてしまうだろう」
村人たち「あぁ……」
村長「幻の薬草を求めて半年前に旅立った勇者・テルヒコは、いまだ戻らぬ。我々には、次なる勇者が必要だ」
村人たち「おぉ!」「そうだ!」
村長「今ここに、岩に突き刺さったまま、何者にも抜くことができぬという剣がある! 古の言い伝えによれば、この剣を岩から抜きし者が、真の勇者。我こそは勇者と思う者は、前に出よ!」
村人たち「おぉ!」「俺が行く!」
村の若者ヨシヒコ「よし。俺も行こう」
ヨシヒコの妹ヒサ「やめてください、兄様。兄様に争いごとは向きません」
ヨシヒコ「向くも向かないもない。村が苦しんでるんだ」
ヒサ「でも、兄様は少しおっちょこちょいだし…… 戦いでは、1つのおっちょこちょいで命を落とすのですよ」
ヨシヒコ「おっちょこちょいおっちょこちょい言うな! 村の男たちはみんなやる気だ」
ヒサ「嘘です。みんな行きたくない、行きたくないと言ってました」
ヨシヒコ「そんなわけないだろ」

むらびとAは つるぎを ぬこうとした。
しかし つるぎは ぬけなかった。▼

村長「お前は違う。次の者!」

むらびとBは つるぎを ぬこうとした。
しかし つるぎは ぬけなかった。▼

村長「ああっ、お前も違う! 次の者!」

カボイのむらの おとこたちは
だれも つるぎを ぬけなかった。▼

村長「あぁ~、嘆かわしや。最後の1人になってしまった。この村には、救世主なる勇者はおらぬのか?」
ヨシヒコ「……参ります」
村長「行くがよい」

ヨシヒコは つるぎを ぬこうとした。▼

ヨシヒコ「あっ」

なんと!
つるぎは ヨシヒコが ふれるまえに
いわから ぬけおちた!
ヨシヒコは うろたえている!▼

村長「ああっ…… 勇者の誕生じゃあー!!」
村人たち「おぉー!!」

ヨシヒコは うろたえている!▼

ヨシヒコ「あ、あの…… 抜くっていうより、倒れた感じ……」
村長「勇者ヨシヒコよ、我がカボイの村のために旅立つがよい!」
ヨシヒコ「あ、あの……」
村人「任せた!」「ヨシヒコ、頼んだぞ!」

ヨシヒコは かくごを きめ
つるぎを たかく さしだした!▼

ヨシヒコ「……勇者です! 私が、勇者ヨシヒコです!!」

ここは そんちょうのいえ▼

村長「あっちこっち、どっちそっち、あっちこっち、どっちそっち……」

そんちょうは
ヨシヒコの たびの みちのりを
うらなっている!▼

村人「オザル様? オザル様、どうなされた!」
ヨシヒコ「お静かに。オザル爺は私に行くべき方角を占ってくださっております」
村長「あっちこっち、どっちそっち、あっちこっち、どっちそっち…… うおぉーっ!!」
村人たち「おぉ……」
村長「……南東…… なーんかこっちの方」

そんちょうは
あいまいな ほうこうを さししめした。▼

ヨシヒコ「ありがとうございまする」

ヨシヒコは
たびの したくを おわらせた。▼

ヨシヒコ「馬ひけーい!」

ヨシヒコは うまに またがった。
しかし うまの すがたは
もろもろの つごうで
みることが できない。▼

ヒサ「兄様! 本当に行かれるのですか?」
ヨシヒコ「もともと私が行く運命(さだめ)なのだ。先に発ったテルヒコは私たちの父…… 私が行くのが当然だ」
ヒサ「でも、これで兄様がいなくなったら、ヒサは1人きりになってしまいます」
ヨシヒコ「待っているがよい、ヒサ。私は必ず戻ってくる」
ヒサ「兄様…… 信じてよろしいのですね?」
ヨシヒコ「ああ。ハイヤー!」

ヨシヒコは うまを はしらせた。
しかし うまの すがたは
もろもろの つごうで
みることが できない。▼

ヒサ「兄様…… 行ってしまわれた……」

ヨシヒコの まえに
スライムが あらわれた!▼

ヨシヒコ「何者だ?」
スライム「何者? 俺を知らないって勇者としてどうなのよ?」
ヨシヒコ「知らん」
スライム「待て待て待て! 旅に出たら最初は俺でしょうよ」
ヨシヒコ「最初は俺? どういうことだ……」
スライム「どういうことって、戦うんだよ! どーん!」

スライムの こうげき!▼

ヨシヒコ「ちょっ」
スライム「……どうだ? 1ポイントくらい痛いだろ」
ヨシヒコ「……痛い……」
スライム「ヘイヘイヘイ、ヘ~~イ! もういっちょ行くぜ、どーん!」

スライムの こうげき!▼

ヨシヒコ「やめなさいって」
スライム「うわー!」

ヨシヒコは
スライムの こうげきを うけながした!
スライムを やっつけた!▼

ヨシヒコ「………?」

ヨシヒコは さきを いそいだ。▼

やけに もみあげの めだつ
せんしが とうぞくと たたかっている。
もみあげの めだつ せんしは
とうぞくを きりすて
ヨシヒコの ところに ちかづいてきた。
ヨシヒコは きづかないふりを して
さきを いそごうとした。▼

戦士「待て」

しかし よびとめられて しまった!▼

ヨシヒコ「……はい」
戦士「嫌な時代になったもんだ…… 皆、人間は疫病に苦しみ救いを求める……」

ヨシヒコは にげだした!▼

戦士「人が話してるだろ!」

しかし よびとめられて しまった!▼

戦士「聞くんだ」
ヨシヒコ「……はい」
戦士「……嫌な時代になったもんだ…… 皆、人間は疫病に……」

ヨシヒコは にげだした!▼

戦士「聞こうよ、話を!」

しかし よびとめられて しまった!▼

戦士「何、普通の顔してスーッと通り過ぎようとしている!」
ヨシヒコ「長そうなんで……」
戦士「じゃあ、これだけは言わせろ。これを全部言ったら、お前のことサッと殺すから!」
ヨシヒコ「えっ……? 私は殺されるんですか?」
戦士「そう! これから全部、かっこよく語ったのちにな。冥途の土産ってやつだ」
ヨシヒコ「私は勇者だ。村を救わなくてはならない。あなたにどんな正義があろうと、私はあなたにここで殺されるわけにはいかない」
戦士「ふん、なかなか骨のある男だ。しかしな若造、お前が俺の話をしっかり聞くまで、逃がさんぞ? 俺の名はダンジョー。お前と同じ、ある人々を救うという使命を持って戦う男だ……」

ヨシヒコは にげだした!▼

ダンジョー「待てぇ! コラ! おい! ちょっと待て! まだ話は終わってないぞ!」

ヨシヒコは ダンジョーを むしして
さきを いそいだ。
やがて よるに なった。▼

ヨシヒコ「いつまでついてくるつもりですか」
ダンジョー「え? 俺の話をすべて聞くまでだと言ったろ。話を聞きすぎて疲れたころに、不意を突いて殺す…… それが、俺のやり方だ」
ヨシヒコ「すごい作戦ですね……」
ダンジョー「俺は頭がいいからな。今聞くか?」
ヨシヒコ「今日はもう寝ます」
ダンジョー「そうか」

ダンジョーは ヨシヒコの つるぎに
ちゅうもくした。▼

ダンジョー「この剣は……! なんて奴だ……」

よるがあけ ヨシヒコは たびを
さいかいした。
ダンジョーは まだ
ヨシヒコに ついてきている。▼

ダンジョー「ヨシヒコ、そろそろひと休みしよう。足がパンパンだ」
ヨシヒコ「そうですね。休みましょう」

ヨシヒコたちの まえに
あやしいおんなが あらわれた!▼

ダンジョー「何者!?」

あやしいおんなは
こちらが みがまえるまえに
おそいかかってきた!
あやしいおんなの こうげき!
ダンジョーは
ひらりと みをかわした!
ヨシヒコは
ふせぐので せいいっぱいだ!▼

ダンジョー「ヨシヒコ! 斬れ!」
ヨシヒコ「いえ、女は斬れません!」
ダンジョー「甘いぞ!」
ヨシヒコ「できれば男も斬りたくありません!」
ダンジョー「いいから斬れ! お前の剣は『いざないの剣』。斬っても死にはせん、眠るだけだ!」
ヨシヒコ「それは本当ですか!」
ダンジョー「平和の神が与えるという、伝説の剣だ!」
ヨシヒコ「信じます!」

ヨシヒコの こうげき!
あやしいおんなを ねむらせた!▼

ヨシヒコ「今の話、本当でしょうね?」
ダンジョー「本当だ! ……多分」
ヨシヒコ「『多分』ってなんですか!」
ダンジョー「絶対本当だ! 多分、絶対だ!!」
ヨシヒコ「どっちですか!?」

あやしいおんなは めをさました!▼

女「父の仇!」

あやしいおんなの こうげき!
ヨシヒコは
ひらりと みをかわした!▼

ダンジョー「そら見ろ、本当だったろ」
ヨシヒコ「そなた、私が父の仇というのはどういうことだ?」
女「我が名はムラサキ。父ヤシマルは、お前に殺されたのだ」
ヨシヒコ「私は自分の村を出たのは初めてだし、人を殺めたことなど一度もない」
ムラサキ「往生際が悪いぞ! ここで会ったが百年目。その首、家族のもとに持ち帰る」
ダンジョー「あー…… ムラサキとやら、ヨシヒコを仇と思うその根拠はなんだ?」
ムラサキ「これぞ動かぬ証拠、父が殺された場にいた男が書いた似顔絵だ! 見ろ」

ムラサキは
にんそうがきを みせつけた。
しかし にんそうがきは
おせじにも よくかけているとは
いいがたい できばえだった。▼

ダンジョー「うーん…… どうだ、これ……」
ヨシヒコ「私…… ですかね?」
ダンジョー「なんとも、これでは……」
ムラサキ「そっくりだ」
ダンジョー「もう少し上手い奴に書いてもらった方がよかったんじゃないのか?」
ムラサキ「その男が村で一番上手い」
ダンジョー「すごい村だな……」
ヨシヒコ「見ようによっては、私ですかね……」
ダンジョー「どう見たんだ」
ムラサキ「そっくりだ」
ダンジョー「これではなんともなー……」
ムラサキ「クリソツだ」
ダンジョー「……他に何か、伝えられた手掛かりはないのか?」
ムラサキ「割と目がパッチリしている、と」
ダンジョー「他には?」
ムラサキ「それだけだ」
ヨシヒコ「割と目がパッチリしている男は、結構たくさんいるぞ。パッチリならともかく、『割と』となると、すごくたくさんいるぞ! それをすべて殺して回るのは、大変なことだ」

ムラサキは
はげしく ショックを うけている!▼

ムラサキ「どれもこれも、人違い、人違い…… いったい私は、誰を殺せばいいんだ……」
ヨシヒコ「……どうだ、そなた、私たちの仲間にならないか?」
ムラサキ「………」
ヨシヒコ「ずっとそばにいて、私が父の仇だと確信することがあれば、その時は私を殺せばいい」
ダンジョー「ヨシヒコ、お人よしもいい加減にするんだ」
ヨシヒコ「私も父を救うために旅をしている。そなたと同じだ。どうだ、私についてこぬか」

ムラサキは まよっている!▼

ムラサキ「私の勘が、お前だと言っている」
ヨシヒコ「その勘が確信に変われば、いつでも私を斬れ」
ムラサキ「……そうさせてもらおう。これからは安心して眠れぬぞ」
ヨシヒコ「覚悟の上だ」

ムラサキが なかまに くわわった!▼

ダンジョー「よーし、日が暮れる前に、森を抜けよう」
ヨシヒコ「行こう」

ここは ウッサンのむら▼

村人たち「見えたぞ!」「教祖様ぁ!」

むらびとたちの まえに
へんなホクロのおとこが あらわれた!▼

村人たち「教祖! 教祖! 教祖! 教祖!」
ホクロの男「さぁ…… 施しの時間だよ」
村人たち「うおぉーっ!!」

むらびとたちは ねっきょうしている!▼

村人A「子供が…… 子供が、蜂に刺されました! どうすればいいでしょう、教祖?」
ホクロの男「……刺されたとこ、爪と爪で、こう、押す。押し出す感じでやって、そのあと…… 唾をつけよ」
村人たち「うおぉーっ!!」

むらびとたちは ねっきょうしている!▼

ダンジョー「おお、村だ。あそこで食料を調達するか」
ヨシヒコ「そうしましょう」
ムラサキ「父の仇っ!」

ムラサキは いきなり
ヨシヒコの かたに ナイフを
つきたてた!
ミス!
ヨシヒコは ダメージを うけない!▼

ヨシヒコ「何度言わせるんだ。もう少し確信を持ってから刺しなさい! きりがないから、引っ込むやつに変えておいたぞ」
ムラサキ「いつの間に、引っ込むやつに…… う~!」

ムラサキは
おもちゃのナイフを てにいれた。▼

ヨシヒコたちは
ウッサンのむらに やってきた。▼

村人たち「メレブ様ぁ!」「教祖ー!」
ダンジョー「なんじゃ、ありゃ」

なんと きょうそメレブは
おおきな いわを ちゅうに
うかべている!▼

村人たち「メレブ様ぁー!!」

ヨシヒコは
なにかを さぐるように
メレブを みている!▼

ヨシヒコは むらの みせで
しょくりょうを かった。
メレブが ヨシヒコたちに
ちかづいてきた。▼

メレブ「見ない顔だな。外の話が聞きたい。のちに、私の屋敷に来るがいい」
ヨシヒコ「はい、教祖」
ムラサキ「なんだ、あいつ。超上から目線じゃん」
ダンジョー「教祖様だからな」
村人B「さすがに重いな、あの岩」
村人C「さらにでかくされちゃったからなー」
ヨシヒコ「………!」

ヨシヒコは
なにかを つきとめた!▼

ここは きょうそメレブの やしき▼

メレブ「ご苦労だった。そなたたち、どこから来た?」
ヨシヒコ「カボイの村です」
メレブ「カボイか…… 知らない。疫病の具合はどうだ」
ヨシヒコ「何人も死にましたが、私は、幻の薬草を探すため先に旅立った父と、その薬草を求め、旅に出ました」
メレブ「それはご苦労であった。お前は?」
ダンジョー「俺は、こいつが俺の話を全部聞いて、俺がこいつを殺すまで、一緒に旅をすることにしてるんだ」
メレブ「何それ? すごいわかりにくいね動機……」
ヨシヒコ「仲間です」
メレブ「仲間じゃないでしょ。殺そうとしてんだよ、お前のこと。で、女は?」
ムラサキ「女とか呼ぶのやめてくんない?」
メレブ「おっと? 気ぃ強い系? 大丈夫大丈夫いいよいいよ、そういうの嫌いじゃない嫌いじゃ、うん、ごめんごめんごめん…… 名はなんと申す?」
ムラサキ「ムラサキ」
メレブ「ほほう。ムラサキ、お前はどういう関係だ?」
ムラサキ「こいつが父の仇。いつか殺します」
メレブ「えっ、2人ともこいつのこと殺そうとしてんの?」
ヨシヒコ「仲間です」
メレブ「仲間じゃないでしょ、だから。殺そうとしてんだよ、2人ともお前のこと。え、旅してても気が気じゃないよね? だって歩いてたって、その…… ど、どっからでも刺してくるよね?」
ヨシヒコ「ムラサキのは引っ込むやつですから」
メレブ「何が? 引っ込む? 何が引っ込むんだよ。な…… わかんないお前、やだ…… もういい、乾杯しよう乾杯。今日は、外の話でも聞いて盛り上がろう。逆に、何か受けたい施しはあるか?」
ヨシヒコ「時に教祖」
メレブ「なんだ」
ヨシヒコ「教祖が、大きな岩を浮かせているのを見ました」
メレブ「おお! あれ見てくれた?」
ヨシヒコ「あれ、布の裏側で人が持ち上げてますよね」
メレブ「……ははっ、はぁ~!? 何言ってんの? はぁ~? 違うよ? はぁ~?」

メレブは
あきらかに うろたえている!▼

ヨシヒコ「布の前に、板の台座があって…… それが布の裏側とつながっていて、それを3人ぐらいの人が持ち上げてますよね」
メレブ「ははっ、ちがっ、はぁ~? 何言ってんだろうねあのお兄ちゃんね、何言ってんだろうねおかしいねおかしいね」

メレブは きぼりのくまに
はなしかけた!
メレブは わざと
さけのつまみが はいった
こばちを ころがした!▼

ムラサキ「わかりやすくキョドってんじゃん」
メレブ「キョドってませんキョドってません、キョドってませんけど」
ヨシヒコ「『最近、岩が重くなってきた』と話している人たちがいました。多分、彼らが持ち上げているのでしょう」
メレブ「ははっ、誰だよそれ。誰だろうね誰だろうね?」
ムラサキ「一気に万事休すじゃん」
メレブ「……んだよ、うっせーな!! お前なんなんだよ、楽しく飲もうってんのによぉ来て早々よぉ、いちゃもんつけやがってよぉ!」
ムラサキ「逆ギレだよ……」
ヨシヒコ「いいえ、私は教祖を怒らせようと思って言ったわけではありません。私は村で大工をやっていたもので…… よくできた装置だなと思ったんです」
メレブ「そうなんだよ! よくできてるだろ、あれ? あれ一度もバレたことないの。結構何回もやってるけど一度も…… 違う! 何? バレるって。やだ! いやいや、違うよ! バレるってなんだよそれ…… いいよ、もうやだ! 気分悪い! 帰る! なんだよもう、なんでお前そういうこと言うの……」

メレブは へそをまげて
じぶんのへやに もどった。
ヨシヒコたちは このむらに
ひとばん とまり
よくじつの あさはやく
むらを でることに した。▼

メレブ「待ってくれ! おーい! 待ってくれ」
ムラサキ「どうしたの? インチキ教祖」
メレブ「インチキって言うな」
ムラサキ「じゃあ、ウソめっちゃつく教祖」
メレブ「さらに悪意を感じるぞ?」
ヨシヒコ「昨日はすいませんでした、失礼な質問をして」
メレブ「いいんだ。本当の話だから」
ムラサキ「ほら~」
メレブ「そういう言い方はやめて」
ダンジョー「ほら~」
メレブ「おっさんもそういうのやめて」
ダンジョー「おっさん言うな」
ヨシヒコ「どうしたんですか、こんな朝早く」
メレブ「……一緒に、旅をさせてくれ」
ダンジョー、ムラサキ「えっ?」
メレブ「教祖、疲れた。もう誰かにバレたらやめようと思ってたんだよね、もう村人の思い引き受けんのはもうまっぴらだ」
ヨシヒコ「しかし、教祖がいなくなっては村人たちが路頭に迷います」
メレブ「いなくなったらなったで、なんとかする。連中」
ダンジョー「退屈しのぎにするような、甘い旅ではないぞ」
メレブ「外の世界が見たいんだ。あっ、魔法を使えるのは本当だぞ? 岩を浮かすとかは無理だけど……」

メレブは
なんらかの じゅもんを となえた!▼

メレブ「な? ほら見ろ」
ダンジョー「ん……? 何が変わったんだ?」
メレブ「よく見ろ。ムラサキの鼻が、豚っ鼻になっている」
ダンジョー「本当だ……」
ムラサキ「ちょっ、何すんだよ!」
メレブ「人の鼻の穴を上に向ける…… 『ハナブー』という呪文だ」
ダンジョー「いつ、どこで使うんだ?」
ヨシヒコ「すごい……!!
ダンジョー「『すごい』? 絶対使わんぞ、この先!」
ムラサキ「ちょっと! もう、人の鼻の穴いつまで上げてんだよ。早く戻せよ!」
メレブ「戻してほしい?」
ムラサキ「うん」
メレブ「戻してほしかったら、『ブヒブヒ』って言え」
ムラサキ「……ブヒ、ブヒ」
メレブ「よくできました」

ムラサキの ハナブーが とけた!
ムラサキの ハナは
もとに もどった!▼

ヨシヒコ「私にもハナブーをかけてください!」
ダンジョー「かからんでいい」
メレブ「すまん、1日1回だ」
ムラサキ「使えねぇ……」
メレブ「どうだ? 俺は魔法使いだ」
ダンジョー「ああ…… 他にどんな魔法を使えんだ?」
メレブ「今のところ…… ハナブーだけだ」
ムラサキ「使えねぇ……」
メレブ「これから旅をしていくうちに、次々と呪文を覚えていくかもしんない!」
ムラサキ「覚える呪文も使えなさそう」
メレブ「なんだお前、やっぱ態度悪いな! じゃあなんだよ、お前は何使えんだよ!」
ムラサキ「私は父の仇取れればそれでいいんだよ!」
ヨシヒコ「行きましょう、メレブさん」
メレブ「……おお、連れていってくれるか!」
ヨシヒコ「こちらこそ! お手伝いくださってありがたいです」

メレブが なかまに くわわった!▼

メレブ「ヨシヒコ、何か欲しいものはあるか? この村にある物だったらなんでも持っていっていいぞ」
ヨシヒコ「私は…… 私は父上と薬草を探したいだけです。そのためだけに旅を続けます」
メレブ「無欲な奴だ」
ムラサキ「馬鹿なだけだよ」
メレブ「手伝うぞ、その願い」
ダンジョー「俺もだ。それがどんなに長い旅になろうともな」
メレブ「ああ。どんなに長くかかろうとも」
ムラサキ「じゃあ…… 私も、仇はしばらく我慢するか」
ヨシヒコ「行きましょう!」
ダンジョー「おう」
メレブ「ああ」

ヨシヒコたちの
けっそくが ふかまった!
あるいている うちに
ひが さしてきた。▼

ヨシヒコ「霧、晴れましたね」
メレブ「晴れるもんだね」
老人「あれ? ヨシヒコ」

とつぜん ろうじんが
ヨシヒコに はなしかけてきた。▼

老人「ヨシヒコじゃねぇか!」
ムラサキ「誰?」
ヨシヒコ「……父上っ!!」
ダンジョー、ムラサキ、メレブ「ええっ!?」

なんと ろうじんは
ヨシヒコのちち テルヒコだった!▼

テルヒコ「どうしたお前、こんなとこで」
ヨシヒコ「父上こそ! 薬草を採りに行って半年……」
テルヒコ「ああ、行った行った。幻の薬草な」
ヨシヒコ「いかがされたのですか? 志半ばで、やむなく戻られたのですか?」
テルヒコ「んーん。あったあった」
ヨシヒコたち「えぇ……」
テルヒコ「もう、めっちゃくちゃたくさん採ってきたよ」

テルヒコは
かごいっぱいに つまれた やくそうを
みせた。▼

ヨシヒコ「では、なぜ村へ戻らずに……」
テルヒコ「ああ、それがさ……」

テルヒコは わかい おんなと
ちいさい おんなのこを つれてきた。▼

テルヒコ「付き合ってます」
ヨシヒコ「えっ!?」
テルヒコ「これが、連れ子でさ…… 名前、言いなさい」
女の子「はい、リンです」
テルヒコ「でもって、これが…… これなんす」

なんと テルヒコの こいびとは
すでに テルヒコの こどもを
みごもっていた!
ヨシヒコは こんらんしている!▼

テルヒコ「帰りづらくなっちゃってさ…… あっ、そうだ! お前が持って帰れ、薬草! 疫病、ピタッと治るわ。これ。な?」

ヨシヒコは
やくそうを てにいれた。▼

テルヒコ「あっ、皆さん、旅のお仲間……」
ダンジョー「はぁ……」
テルヒコ「……ヨシヒコが、お世話になってまーす。父でーす……」

びみょうな くうきが
あたりを つつんだ!▼

テルヒコ「……ヒサは、元気?」
ヨシヒコ「……はい……」
テルヒコ「……ということで、ごめんな、ヨシヒコ。もう、この世に父はいないと思ってくれていいから。じゃあ」

テルヒコは
むせきにんな せりふを のこして
たちさった。▼

テルヒコ「小さな幸せ、つかもうな……」

きまずい くうきが
あたりを つつんだ!▼

ダンジョー「おやおや? ということは…… 旅、終了?」
ヨシヒコ「……そう、ですね……」
メレブ「おぉう…… え? じゃあ…… これ…… えぇ? これ、アレ? 解散?」
ヨシヒコ「……そうですね……」
メレブ「おぉー…… おぉ…… おわー…… えぇ、すげぇ……」
ヨシヒコ「……何かすいません、こんなにも早く願いが叶うとは……」
メレブ「あっ、ううん、いや、いいよいいよ。あの、願いとかね、あの、早く叶う方が、あの、アレだから」
ダンジョー「……じゃ、あの…… お疲れ」
ヨシヒコ「……お疲れさまでした」
ダンジョー「お疲れ……」
メレブ「お疲れっす」

ダンジョーは さっていった。▼

メレブ「……あの、今度よかったら、飯とか……」
ヨシヒコ「そうですね……」
メレブ「家飲みとか、しよう?」
ヨシヒコ「はい……」

メレブは さっていった。▼

ムラサキ「何これ」

ムラサキは さっていった。▼

???「ヨシヒコ……」

とつぜん なにものかが
ヨシヒコたちを よびとめた!▼

ダンジョー「なんだ、この声は?」
???「ヨシヒコ……」
ダンジョー「あれは!?」
メレブ「仏様……?」

ほとけが あらわれた!▼

仏「ヨシヒコよ、よく聞くのだ」
ヨシヒコ「………」
ムラサキ「……ヨシヒコ? 仏様に返事しなよ」
ヨシヒコ「いえ…… 全然見えないです、仏様が」
仏「ヨシヒコよ、お前の使命は父上を探すことでも薬草を…… おいおいおい、どっち見てんだヨシヒコ」

ヨシヒコは キョロキョロしている。▼

ダンジョー「おい! あそこだよ、あそこ」
仏「……えっえっ、待って待って待って? えっ、何? 何? えっ、ちょっと待って? 私のこと見えないの?」
メレブ「なんで? あんなはっきり見えるよ?」
ヨシヒコ「すいません……」
仏「おい、おい! おーい! おい、私のこと、マジ? 何、見えないの!? おい、なんだよおい、主人公に見えないんだったらお前、しゃべったってしょうがねぇじゃんよ~!」
メレブ「おい、お前、これかけてみろ。かけてみ、かけてみ」

ヨシヒコは
りったいメガネを そうびした。▼

ヨシヒコ「……おおっ、見える!! 仏様だ!!」
仏「お、見えた見えた? いいじゃんいいじゃんいいじゃん、はい、じゃお告げ行くよ、はい」
ヨシヒコ「おお…… すごい、飛び出して見える!」
仏「いや、別に飛び出して見える必要はないんだけどね」
ヨシヒコ「顔が大きい……!」
仏「お前なんでそんな真顔で言うの、それ? ねぇ? そりゃ大きいよ、確かに大きいけれども、あの、俺よく言われるのはね、あの、なんていうのかな、その、体の割にさ、あの、顔がでかいっていうのはね、あの、よく言われる…… って、ほっとけよ! 仏だけに、ほっとけよ!」

ほとけは ノリツッコミを した。
ヨシヒコたちは ポカンとしている。▼

仏「……はい、いい。はい、じゃあ行くよ、はい、お告げ行くよ? お告げ行くよ? はい、はい…… ヨシヒコよ、いざないの剣を手にしたお前の使命は、下界に降り立った魔王を倒すことだ」
ヨシヒコ「魔王?」
仏「彼はかつて、下界に降り立ち地中深くに眠ったが、今、その眠りを解き、地上に現れた。疫病は彼の仕業なのだ。彼は、人々の心を、操り…… 下界を、が? を? 我が物に…… あの、しようとしている。ね」

ほとけは
せりふを おぼえていないようだ。▼

仏「えー、魔王の手によって、あの、人々はアレを宿し…… アレアレ、あの…… アレ、あの…… 邪悪な気を宿し…… 魔物がはこびる…… 『はこびる』ってなんだよ! 『はこびる』ってなんだよ! 『はびこる』!」

ほとけは
せりふを まちがえた!▼

仏「えー、うん…… んー、え? あっ、いいや…… えーと、魔王の手から、下界を救うのだ! それがお前の使命で!」

ほとけは またも
せりふを まちがえた!▼

仏「『使命で』ってなんだよ! 『使命で』ってなんだよ!」

ほとけは
ノリツッコミを しながら
すがたを けした!▼

ヨシヒコ「……ということです」
ダンジョー「なるほど。やはり長い旅は続くということだな」
メレブ「そのようだな」
ムラサキ「なんか、めんどくさ」
ヨシヒコ「共に、行ってくれますか」
メレブ「うむ」

ダンジョーが なかまに くわわった!
ムラサキが なかまに くわわった!
メレブが なかまに くわわった!▼

ヨシヒコ「行きましょう」

ヨシヒコたちの あらたなる
たびが はじまった!
ふいに ヒサが
きのかげから かおをだした。▼

ヒサ「兄様…… ヒサは心配です」


つづく▼

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最終更新:2022年11月14日 19:00