キテレツ大百科の最終回 (漫画版)

さらば大百科


キテレツが自室で、大慌てで何かを捜し回っている。

キテレツ「ない! ない! ない! どこにもないぞ!」
コロ助「なにがないかナリ」
キテレツ「キテレツ大百科がゆくえ不明なんだよっ」
コロ助「一大事ナリ」
キテレツ「ママ!」

ママ「キテレツ大百科? なによ、それ」
ママ「あ、あのボロっちい和とじのノート? あれ、いったの? ほったらかしにしてあったから。ゴミといっしょにすてちゃったわ」

キテレツが火がついたようにママを怒鳴りつける。

ママ「だって、なんにもかいてないただの帳面……」
キテレツ「かくしインクなんだよ。このメガネをかけると読めるんだよ! 今さら何いってもしかたがない。ゴミおき場へ行ってみる。どうかまにあいますように」

しかしゴミ置き場では、すでに収集が終わった後であった。

キテレツ「おそかった! 命から二番めの大百科が……」


その夜。キテレツは自室でふさぎ込んでいる。

ママ「どうしたの? 暗くなったのに電燈もつけないで。ごはんよ。おりてらっしゃい」
キテレツ「おなかすいてない。あとで」
ママ「はやくこないと なくなっちゃうわよ」

コロ助「はやく行くナリ」
キテレツ「おまえ 行け」
コロ助「男はさっぱりしないとだめナリ。すぎたことをクヨクヨしたって なんにもならないナリ。キテレツの気持ちはわかるが……」

開け放しの窓から、紙飛行機が舞い込んでくる。表面には見覚えのある文字が書かれている。

キテレツ「これは? やっぱりそうだ! キテレツ大百科の一枚! だれがとばしたんだろ」

キテレツとコロ助が、家の外へ飛び出す。

キテレツ「……だれもいないや」
コロ助「飛行機がここにも落ちてたナリ」
キテレツ「どこかのだれかが大百科の紙飛行機であそんでいたんだ。しかもたった今まで」
コロ助「きっと、もう帰ったナリ。とにかく、大百科がまだあることはわかったから おちついてさがす手だてをかんがえるナリ」
キテレツ「コロ助のいうとおりだ」

自室に戻ったキテレツは、その唯一手に入った大百科の紙面を見る。

キテレツ「ありがたい! 今のぼくにピッタリの発明だ! 『操獣座(そうじゅうざ)』 動物をあやつる装置なんだ。これをつかえば さがしやすくなりそうだ。ようしやるぞ!」

さっそくキテレツは、製作に取りかかる。

ママ「英ちゃん。ごはんどうするの?」
キテレツ「あした食べます!」


翌朝。キテレツが大あくびしながら登校する。

キテレツ「ファー。てつ夜になっちゃった。学校から帰ったら またすぐやろう」

キテレツ「学校がおわった。ただいま」
ママ「おやつがあるわよ」
キテレツ「あとで」

再びキテレツが、操獣座の製作を続ける。

キテレツ「こうしてる間にも、大百科がどうなってるかとおもうと……。気が気じゃないよ」

みよ子がキテレツのもとを訪ねる。

みよ子「キテレツさあん。七夕作ってるの いっしょにかざりつけしない?」
キテレツ「今いそがしい。二、三日してから」
みよ子「二、三日? 七夕は今夜じゃないの へんな人」


キテレツの作業は、夜遅くまで続く。

ママ「からだをこわしたら どうするの」
パパ「いいかげんにしないと おこるぞ」
キテレツ「あしたまでにおわるから!」
パパ「英一!」

パパが思わず、拳を操縦座を叩きつける。

キテレツ「こわさないでよう

キテレツに根負けし、パパとママはキテレツの部屋を去る。

ママ「むちゅうなのね」
パパ「あしたまでというから ほっといてやろう」


翌日、キテレツが学校から帰って来る。

キテレツ「ただいま あとネジ一本しめればおわりだ」

そしてついに、操獣座が完成する。

キテレツ「完成!」
コロ助「キテレツ大百科をさがしに行くナリ」

キテレツが操獣座に乗り込む。

キテレツ「じゃ、たのむな」
コロ助「わかったナリ」
キテレツ「原子間隔縮小!」

操獣座がキテレツを乗せたまま、豆粒のように小さくなる。

コロ助「これを犬にくわせるのかナリ」
キテレツ「そうだ なるべくりこうそうな 鼻のききそうな犬にな」

コロ助が近所を捜し、とある家の飼い犬を見つける。

コロ助「よさそうナリ」

キテレツの乗った操獣座を、犬の口へ放り込む。

犬「?」
キテレツ「外のフックを犬の神経につなぐ。これで、犬をあやつることができるんだ。まず大百科のにおいをおぼえる」

犬はキテレツの思いのままに動き、大百科の紙面の匂いを憶える。

キテレツ「しめたっ まだにおいがのこってるぞ。だれかが大百科をひろってもっていったんだ」

キテレツ(犬)がコロ助とともに、匂いを追って町を走る。

キテレツ「においのあとはこの角を右に曲がってつづいている。においが強まってきた 近いぞ!」

突如、目の前に別の犬が迫る。

犬「ワグワグ」「キャイン」
コロ助「何ごとかナリ」
キテレツ「すきだ 結婚してくれというんだよ。これメス犬だったの?」
犬「ガオ──
キテレツ「いやなら かみころしてやるって」

キテレツ(犬)たちはその犬に追い回された挙句、どうにか物陰に隠れる。

キテレツ「大百科のにおい! この家だ!」

キテレツ(犬)がその家を訪ねる。

主婦「はあい どなた」
キテレツ(犬)「ええ、ちょっとおたずねします」
主婦「キャー 化け犬」

喋る犬に驚き、主婦がキテレツ(犬)に水をひっかける。

キテレツ「いれてくれない」

1羽のハトが木に止まっている。

キテレツ「! あれにのりかえる」

犬の口から操獣座が飛びだす。

コロ助「豆がほしいか そらやるナリ」
ハト「クク」

操獣座を飲み込んだハトが、キテレツに操られて空を飛び、2階の部屋にいる少年を見つける。

キテレツ(ハト)「きみだな! 大百科をかえせっ」


キテレツ(ハト)がコロ助のもとへ引き返してくる。

キテレツ「近所のおばあさんがほしがってたから あげたって。いい和紙だからこよりを作って 七夕のたんざくをつけるんだって」

キテレツ(ハト)が空を飛び、その老婆の家へ向かう。

コロ助「まってくれナリ ワガハイも行くナリ」


キテレツ「この家だときいたけど どこにも七夕なんかないじゃないか」

縁側の老婆に、キテレツ(ハト)が大百科のことを訪ねる。

老婆「七夕ならもうおわったから うらのあき地へもやしにいったよ ヒエー

喋るハトに老婆が腰を抜かし、キテレツ(ハト)も腰を抜かし、家を飛び出して大慌て。

キテレツ「だ、だ 大百科が、や、や やかれる!」

空を飛ぶことも忘れたキテレツ(ハト)が、少年に捕まえられ、鳥小屋に閉じ込められる。

少年「伝書バトにしよう」
キテレツ「出してえ! もうだめだ…… キテレツ大百科はおしまいだ」

1匹の猫が、キテレツのハトに迫る。

キテレツ「ヒャア

ハトの口から操獣座が飛び出す。猫がそれを食べ、キテレツは猫を操って一目散に駆け出す。

キテレツ「大百科よ ぶじでいておくれ」

通りかかった家で、屋根から男が落ちそうになっている。

男「だれかあ、助けてえ」
キテレツ「わるいけど かまってるひまがないんだよ でも……。いまにも落っこちそうだ」

キテレツ(猫)がハシゴを運び、息を切らしつつ男を助けに向かう。

キテレツ「ハァハァ 今すぐ助けるからね! がんばってね」


そして──

コロ助「けっきょくまにあわず、キテレツ大百科は煙になっちまったナリ。キテレツはがっかりして 二階へこもったきり ひっそりしてるナリ。自殺でもしないかとしんぱいナリ」

キテレツは自室で、机に向かっている。

コロ助「ワー、キテレツが勉強してるナリ、頭がおかしくなったナリ!」
キテレツ「へんなこというなよ。大百科のことなら もうとっくにあきらめたよ」

キテレツ「これからはキテレツ斎さまにたよらず 自分の力でりっぱな発明をしていきたいとおもうんだ。それにはやはり勉強しなくちゃな」
コロ助「キテレツはりっぱナリ!」


〈キテレツ大百科 / おわり〉

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2016年10月02日 19:17