機動戦士クロスボーン・ガンダム DUSTの最終回

宇宙に浮かぶスペースコロニーの内、行き場を失ったサイド1・ネオ・1バンチコロニー9000万人の命を救うため、アッシュ・キングは、コロニー自体を輸送船「方舟号」として、大気圏突破して地球に降下するという、前代未聞の大脱出作戦「DUST計画」を立案した。

連邦軍キュクロープス部隊に身を置いていたフォント・ボーは、地球人口増加の阻止のために計画を阻もうとするものの、アッシュに押し切られて、キュクロープス大佐アーノルド・ジルベスターと共に、結局は計画に協力する形となる。
サイド1の統治者タルス・バンス、その娘のオリエは、コロニー降下の最中で死亡する。
アッシュは、暴君・首切り王(ヘッド・ハーベスター)ことエバンス・ジルベスターとの因縁の戦いで、ついに首切り王を倒したものの、自らも消息を絶つ。
幾多の犠牲を払いつつ、コロニーは地上へと降下してゆく。


フォント「ミノフスキー・ドライブ停止! 各機離脱!
レオ「“方舟号” 着…陸!


最終話
それは終わりでもなく、
始まりでもなく──


コロニーを誘導していたMSノエル・レイスの1機が、衝撃に耐えきれずに火を吹く。

パイロット「きゃああっ
マック「う! いけねぇ! 14番機が 落ちるっ 間に合わねぇ あっ!」
パイロット「あ あ あ」
連邦兵「こちらにまかせろ!」

連邦機のノエル・レイスが、そのノエル・レイスを支える。

着陸態勢に入った“方舟号”の揚力場は
海面に衝撃波となって叩きつけられ
“津波”となった

それは いくつかの
すでに人のいない史跡を破壊したが
水深20メートル程度の広大な入り江である
キャリフォルニア湾の地形に阻まれ
その莫大なエネルギーのほとんどは
また全面の平原に吸収され
また両岸の陸地を越えることなく戻ってきた

やがて海面からの気流がブレーキとなり
コロニーの回転が停止する頃


人々「きゃあああ

カグヤ「いまじゃ──っ
ニコル「あああ

カグヤのMSクレイン、ニコル(カーティスの息子)のX-13が、コロニー目がけて同時に狙撃する。

すでに待機していたクレインとX-13により
着地とほぼ同時にコロニーの“底”にあたる場所に
いくつかの穴が開けられ
そこから大量の海水混じりの土砂が流れ込む
土砂はコロニーを大地に固定し
水は真空状態だった外壁との間で
減圧され水蒸気となり
高度2000メートル付近で放出され
それはさらなる積乱雲となり
コロニーを包む巨大な暴風雨を伴う嵐となり
3日に渡って吹き荒れ続けた……

だが……
こうして前代未聞のコロニーによる地球降下計画は
“静かに”終了したのだっだ


レオが涙ながらに、オリエの亡骸を抱きしめる。

レオ「オリエちゃん…」


着地したコロニーから、大勢の人々が、歓声と共に地上へとあふれてゆく。
連邦軍のアーノルドが、フォントの隣で、茫然としている。

アーノルド「あ ああ 人が… あんなに… たくさんの… 人が…」

アーノルドが泣き崩れる。

アーノルド「う うう ううううう そこで命が…… 生きて… いるんだっ…」
フォント「へ へ へへへ ははははは ははははは 勝ったぜ! キゾ中将! 今度こそ! おれは… あんたに…な…」
アーノルド「キゾ? 中将? え? 誰?」
フォント「あ? いや…」

アーノルド「あなたを… 解雇します! フォント君…」
フォント「え?」
アーノルド「クビだといっているのですよ! 私とあなたの共生関係は今日で終わりです あなたの今回の采配は キュクロープスの司令として全くふさわしくないと判断します! これより私は一番近い連邦の基地から… 宇宙へ戻る道を探します …ですが 同行は許しません! あなたは… どこへでも… 勝手に… 自分の… 望む所へ… 行けばよいでしょう!」
フォント「アーノルド…」
アーノルド「だが私は今回のネオ・1バンチ住民による暴挙を認める気も許す気もない! 必ず── 移住民全員の罪を断じ 裁きを行い── あるべき正しい連邦の姿を取り戻してみせる! ふ ふふ もっとも… 正直 今回の件で… 戦力を… ボロボロにされ過ぎましたからね… キュクロープスを立て直すのに… 5年かかるか… 10年かかるか… まるで分かりませんけど…ね」
フォント「アーノルド…」
アーノルド「ですが! 忘れないで下さいね! もし その時 私の前に立ちふさがる者があるのであれば! 必ず叩き潰します! 決して容赦はしないとね!」
フォント「分かった! ありがとう アーノルド」
アーノルド「…な 何を? ……」

アーノルドは、自らのMSボルケーノへ向かう。
ボルケーノの手には、コロニーを住民ごと始末しようとしながら、最後まで使うことのできなかった核爆弾がある。

フォント「なあ アーノルド ところでその箱… 結局 何だったんだい? それ?」
アーノルド「ふっふっふ まったく! あなたという人は… 最後に友人として忠告しておきます! あなたは参謀など向いてません! 辞めておしまいなさい!」
フォント「そう…かも ですね じゃあな! アーノルド!」


レオたちは、バンスやオリエたち、この作戦での犠牲者たちを、地球の大地に葬り、墓に手を合せる。
そしてレオは、ネオ・1バンチの高官たちから、とてつもない依頼を受ける。

レオ「えええ? 私に? この“国”の? 女王になれ? ですって?

高官A「どうか引き受けてくださらんか?」
レオ「ど どうしてそんな? だって? 私… そんな… なんの資格も… ないし?」
高官B「いえ?」
高官A「すでに? タルス・バンス王とは養子縁組され… 御養女であらせられると伺っておりますが」
レオ「えええ そ そんな話は? 私は一度も… はっ! 聞いた覚えは…」

(バンス『ありがとうございます 娘のわがままなお願いをきいて下すって』)
(レオ「? ?』)

レオ (いえ? もしかして? あの時の? アレって?)

(オリエ『お姉ちゃんになってほしいな…』)

レオ (私…… 返事をしたつもりはなかったけど もしかして オリエちゃんが王様に?)

(オリエ『レオはお姉ちゃんになってくれるって言ったよ』)

レオ (そう伝えてあったなら?)

(オリエ『望む… 二番目にいいカタチには できたよ』)

(オリエ『アッシュは王様になるんだよ ずっとレオが好きでいてくれたら!』)

レオ「あ あ あ!」

高官A「お気持ち 察せぬわけではありません タルス王すでになく またアッシュ殿がみ… 未帰還という状況で 無理なお願いをしているのだということも承知しております ですが 頭を上げてご覧ください」

ネオ・1バンチの住民たちが地上で、テントを張り、仮住まいでの生活を始めている。

高官A「今は… どうあっても誰かがこの人々を導く“(かなめ)”にならなくてはいけないのです」
高官C「レオさん あなたは大気圏突入の折 隊列を離れ オリエ様を助けに行きました ……それは… 間違った行動だったと言っていいでしょう 為政者としては! です! ですが」
高官D「“人は本当はそう生きたい”のだと」
高官E「普段は… それが難しいのを知っていて 口に出すのをためらっていても 本当は誰の手も離したくはないのだと あなたは迷わず示されたのだ その“心”を!」
高官たち「頼るべきもののない我らは その“心”に すがってみようと 信じてみようと思うのです 無論 我らが全力でサポートいたします お引き受け願えませんか?」
レオ「で… でも でも…」

誰かが、レオの背を拳で小突いた気がする。
レオの背後に、アッシュの幻影が浮かび、ウィンクをしてみせる。

(アッシュ『世界… 作るんだろう?』)

レオ「あ」

ジャンガリたち、マックたち、カグヤ、ニコル、大勢の仲間たちが笑顔を送っている。

レオ「あ 世界を…


ネオ・1バンチの住民たちを前に、レオが愛機のMSブラン・リオンの上に立って呼びかける。

レオ「どうか── この私の声に 耳を傾けて下さい 皆さん! 私の名前は… レオ・キング! サイド1のタルス・バンス王の娘にして… 灰の王── アッシュ・キングの ──妻です!

カグヤ「なんじゃと?」
高官たち「え リハーサルとちがっ!」
ジャンガリたち「え? 聞いてなっ!」

人々がどよめく。

レオ「聞いて下さい 皆さん! 私達は多くの人々の努力と 多大な犠牲をもって コロニーによる地球降下という偉業を成し遂げました ですが これは私達の旅の始まりにすぎません! なぜなら地球に住む人々にとって やはり我々は侵入者であり 我らが── 彼らと同じ平穏を望むものなのだと ただ行き場を失い逃れてきた者だと理解してもらうには 長い長い時が必要だからです」

フォントのMSファントムが飛来する。
人々が逃げ惑う中、ファントムが地上に降り立つ。

マック「む?」

マック(無敵運送の新社員)が進み出ようとするが、レオが制する。

レオ「その為には どの勢力とも争う気もないのだということを 我々が誰もの隣人でありたいと願うことを! ただ──」

ブラン・リオンが、ファントムへ手を差し出す。

レオ「その手で その身で! 示し続けるしか… ないのです」

人々の見守る中、ファントムが、ブラン・リオンの手を握り返す。

フォント「少し 演出入れちゃおうか?」
ハロロ『そうですね! こういう時は! いいですね!』

レオ「え?」

ファントムが畏怖するように、ブラン・リオンの前にひざまずく。
人々から大きな歓声が上がる。

レオ「…… 皆さん! 私達は… 塵です!

人々が一瞬、どよめく。

レオ「ひとりひとりは例えようもなく小さく儚い! けれど! 幾千幾万と集まった時! 何ができたのか! 何を成し遂げたのか! 今日のこの日を覚えていて下さい! 決して忘れないでっ!

レオが大きく、手を掲げる。

レオ「宇宙の“星”は── 塵が集まって輝くのだということをっ」

人々から、一際大きな歓声が上がる。

人々「ここで生きていくぞ──っ


無論これで
宇宙世紀が終わるわけではない

フォント「やれやれ…… ここから百年は骨が折れそうだ」
ハロロ『そうですか? 声が生き生きしているように思えますが』
フォント「ははは そうかい?」

フォントが空を見上げる。
地球へ降下してくる宇宙船、中にベルの姿が見える。

だがこの事件が──
人類は滅び去るしかないに違いないという…
時代の閉塞感に風穴を開けたのも事実である

各コロニーは生き延びるための
あらゆる可能性を模索し始める

だがそれは いくつもの対立と…
混乱を生み出すことにもなるだろう

カグヤ「国に帰る方法を探さねばの…」
ニコル「そうですよね」

長く… 長く続く歴史の
始まりでも終わりでもない
ほんの一欠片である

これは塵達の物語である

だが──
その日 確かに


どこかの海の上。
モビルスーツの残骸と、脱出ポッドが漂っている。

砂浜で、1人の男が、傷だらけの脚に包帯を巻き、魚を捕らえた竿を担ぐ。

アッシュと思しきその男が、コロニーを目指して、歩いてゆく。


地上に一つ
“星”が生まれたのだ


Fin

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2021年06月12日 21:52