対訳
訳者より
- モーツァルトの音楽劇の中では比較的後期、1786年の作曲ですが、その構成の特殊さからほとんど現在では上演されることはないでしょうか。
- もともと1786年の初め、オーストリア皇帝ヨーゼフ2世の義弟のオランダ総督がウィーンを訪れた時の余興として、ヨーゼフ2世自らが企画したイタリア語とドイツ語の音楽劇の競演のドイツ語の劇の作者として選ばれたのがこのモーツァルトでした(ちなみにイタリア語の方はサリエリで、彼はオペラブッファ「初めに音楽、お次が言葉」を書いています)。モーツァルトの方は台本作者に「後宮からの誘拐」でコンビを組んだシュテファーニエを選びました。ですが上演まで期間が短かったのと、このシュテファーニエという人がそれほど才気あふれる人でなかったということもあり、あまりぱっとしない台本になってしまった上に、その大部分がドイツ語の台詞による劇であり、音楽は有名な序曲を別にすると後半にわずか4曲だけという寂しさです。この音楽がどれも素晴らしいだけに、前半の長々と続くダイアローグがネックとなってほとんど取り上げられないというのは何とも惜しい状況になっております。
- 稀に上演される時はですからこの台詞部分は大幅に改変され、場合によっては全く別のお話にされていることもままあります。
- Net上にはこの全台本が載せられているサイトもあるのですが、全訳を試みはしたもののあまりぱっとしない会話の物語展開(しかも長いセリフの上に結構難しい言い回し)なので早々に断念、音楽が登場する第7場以降のみ台詞も含めた全訳ができましたのでそこだけをアップさせて頂くこととしました。
- あとの前半部分は簡単にあらすじだけ紹介させて頂くこととします。ご了承いただければありがたいです。
あらすじ
- 劇場支配人フランクは、ザルツブルクでの演劇の上演許可がおりたのを歌手のブッフに祝福されるが浮かぬ顔である。劇場経費が掛かり過ぎてあまり儲からないからである。二人は新たな劇団を作ろうとするが、ブッフは団員の給料を安く抑えることを提案する。そこへやってきたのが銀行家のアイラー、彼は劇団に融資をする代わりに自分の後援している女優マダム・プファイルを雇ってもらうよう依頼する。アイラー氏同席のもとオーディションを受けた彼女は週10ターラー以上は出せないと渋る支配人を尻目に12ターラーを勝ち取る。続いてやってきたマダム・クローネも14ターラーを貰うこととなり、お次のマダム・フォーゲルザンクに至ってはブッフの依怙贔屓もあって週18ターラーである。俳優のヘルツ氏は、歌える妻がいるというので彼女との抱き合わせで売り込むべく彼女を探しに行く。マダム・フォーゲルザンクも夫が歌えるということで同様に出て行く。ブッフはどうしてギャラが値上がりしてしまうのか訝しみながら嘆息するのであった(ここまでセリフのみ 第1場~第6場)。
第7場
- 妻をつれてきた俳優のヘルツ氏、さっそくオーディションに妻に一曲歌わせることにする。歌に感動した支配人のフランクはヘルツ氏のネゴもあり彼女に16ターラーを払うことになってしまう。
第8場
- 続いて売り込みにきたマドモワゼル・ジルバークランク、彼女も一曲歌いマダム・ヘルツと同額の週16ターラーをせしめるのであった。
第9場
- 今度はマダム・フォーゲルゲザンクが歌手の夫を連れてくる。歌手の夫が歌う前に彼女がマダム・ヘルツにギャラのことを聞いたものでちょっとした軋轢が生じる。そんな中、マダム・ヘルツとマドモワゼル・ジルバークランクの間でこの劇団のプリマドンナ争いが勃発し、ムッシュー・フォーゲルゲザンクがやむなく仲裁に入るのであった。
- 二人の女性歌手たちは折れて、何とかそれ以上の騒ぎにはならずに済んだ。
第10場
- そこへ一人だけ週12ターラーで契約させられた一番最初のオーディションを受けたマダム・プファイルが文句を言いにくる。またギャラ争いが勃発するが、すっかり嫌気がさした劇場支配人フランクが、「こんなことなら劇団を作るのをやめる」とキレたので、みなこれ以上の要求はしないということになって大団円となるのであった。
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最終更新:2015年07月26日 10:39