楽長(カペルマイスター(マエストロ))と詩人が新作オペラのことで言い争っている(二重唱「Signor poeta mio」)。パトロンのオピーツィオ伯爵が4日のうちに新作のオペラを仕上げて上演しろというのである。そんな期間では無理だと言う詩人に、自分の昔書いたありあわせの音楽に君が適当に言葉をつけてくれれば十分だと言うマエストロ。結局立場の弱い詩人はそれに従うしかない。で、歌手の方の手配は?ということで伯爵推薦のオペラ・セリアの女声歌手に加えて、詩人のパトロンである公爵からも一人のブッフォの女声歌手がプロモートされているという話に。彼女にはこの詩人が惚れていることもあり、依怙贔屓の影を感じたマエストロは躊躇うが、起用すれば公爵から大金が手に入ると聞き考えを改める。
そこへプリマ・ドンナのエレオノーラがやってくる。彼女は今回の企画を考えたオピーツィオ伯爵推薦のセリア歌手である。スペインで大活躍したという自慢話にひとしきり付き合った後、マエストロのリクエストにこたえて彼女はサルティ『ジュリオ・サビーノ』のカヴァティーナ「Pensieri funesti」と、サビーノのレチタティーヴォ・アッコンパニャートとアリア「Non dubitar / Là vedrai chi sono」を歌ってみせるが、詩人がいちいち口を挟むので不機嫌になる。そのあと舞台のシーンを再現した方が良かろうということで彼女はこの二人の大男を子供の役にして無理な姿勢を取らせ、サビーノの別のアリア (Cari oggetti del mio core)を延々と歌うのであった。男たちは筋肉痛でぶっ倒れ、彼女は歌を家でおさらいして来ますと意気揚々と去って行く。
エレオノーラが去った後、楽長と詩人は仕事を進める。出来合いの音楽にあれこれと韻の合う詞を当てはめてみる詩人。なんとなくうまく行ったようなので、詩人のパトロンの公爵推薦のブッフォの女声歌手を起用するかどうかの話題となる。セリア(悲劇)とブッフォ(喜劇)を混ぜこぜにしてうまくいくかどうか悩ましいところであるが、二人はめいめい作業しながら歌う(二重唱「Se questo mio pianto」)。なんとなくよさげなものができたようなので、詩人は例のブッフォ歌手トニーナを連れて来るために出て行く。
そこで彼の没後200年である2025年に、彼のオペラのどれかを訳してみようと思いました。お話が大好きなシェイクスピア原作の「ファルスタッフ」にまず食指が伸びましたが、曲が長い上にリブレットが入手できずこちらは断念。となればやはり因縁の作曲家仲間モーツァルトと関係の深い1786年の短編オペラ「まずは音楽、お次は言葉(Prima la musica e poi le parole)」が目に留まります。この作品、ヨーゼフ2世のもとを訪れるオランダ提督をもてなすため、サリエリとモーツァルトがそれぞれ短編の作品を仕上げて競作する というものでした。この時のモーツァルト側の作品は「
劇場支配人
」2015年にあったモーツァルト祭りで取り上げて訳しているのですが、正直そんなに面白い作品ではありませんでしたので対抗馬のサリエリのこの作品の方もまあいいかと手も出さず... 今回およそ10年越しで改めて見てみると、何でこんな素敵な作品に今まで気付かなかったのかととても残念に思えるものでした。