対訳
登場人物
- グンター(バリトン):“偉大な国王”という異名をもつブルグント国王
- ウーテ(アルト):グンター王の母
- ダンクヴァルト(バス):グンター王の父で、ハーゲンの兄弟
- フォルカー(テノール):ハーゲンの仲間で、グンター王の血族
- ギーゼルヘア(ソプラノ):グンター王の弟
- クリームヒルト(ソプラノ):グンター王の妹で、“令嬢”と呼ばれている
- ハーゲン(バス):通称“残忍なハーゲン”、グンター王のおじで相談役
- その他の血族:ゲールノート、リューディガー、ハルトムート、ムートハルト、ゼンメリン、ブレーデリン、ディートライベ、ライベディート、ヘッテル、フェッテル(上演ではカットされることが多い)
- ジークフリート(テノール):竜退治の英雄
- ブリュンヒルデ(ソプラノ):イーゼンラントの女王
- ティッツェル・タッツェル:2匹の子供の竜
- 小鳥(ソプラノ)
- 騎馬武者
- 女騎馬武者
- 民衆
あらすじ
第1幕
- ヴォルムスにあるブルグント国の王宮では王グンターが元気ない。“偉大な国王”の異名を持つが実は小心者で、ブリュンヒルデとの一騎打ちを恐れているのだ。イーゼンラントの女王ブリュンヒルデは剛力で、自分に勝った者としか結婚しないと豪語している。グンターは勢いに任せてブリュンヒルデに結婚を申し込んでしまい、今日、ブリュンヒルデがヴォルムスに来ると言うので、一騎打ちを前に逃げ出したい気持ちだ。今までに一騎打ちでブリュンヒルデに勝ったのは、竜退治で有名なジークフリートだけだ。
- ジークフリートと聞いてグンターの妹のクリームヒルトが、ジークフリートと夢で会ったと語る。父親のダンクヴァルトと母親のウーテは、それは正夢かもしれないと期待する。そこにジークフリートがやって来る。
- 皆がジークフリートのことを知りたがるので、ジークフリートは自分の生い立ちを語る。竜を退治して財宝を得た後、ジークフリートは資産を運用して、ライン河の浅瀬(Bank)でなく、ライン銀行に預けていると言うので、王宮の人々は安心する。ジークフリートとクリームヒルトは互いに惹かれ合い、二重唱を歌う。
- そこにブリュンヒルデがやって来る。グンターは逃げ出そうとするが、窮地を救ってくれたら国を半分やると言うので、ジークフリートは助けを申し出る。グンターは戦う真似をするだけで、ジークフリートが隠れ頭巾を被ってブリュンヒルデと戦うと言うのだ。そしてグンターは勝利する。
第2幕
- グンターとブリュンヒルデ、ジークフリートとクリームヒルトの二組の結婚式が行われ、全員へべれけに酔っ払っている。ハーゲンはクリームヒルトに、ジークフリートが不死身でない箇所を聞き出すように唆す。
- クリームヒルトはジークフリートとの甘い二重唱の中で、ジークフリートの不死身でない箇所を聞き出そうとする。
- 一方、グンターは寝る前の取っ組み合いでブリュンヒルデに負けて、部屋から追い出されてしまう。そこでジークフリートに助けを求め、ジークフリートはまたブリュンヒルデと戦うことになる。ただ、隠れ頭巾をクリームヒルトに取り上げられてしまったので、今度は真っ暗闇の中で取っ組み合いをする。その時、暗闇の中でグンターがうっかり物音を立て、灯りがつけられると、そこに抱き合っているようなブリュンヒルデとジークフリートがいる。グンターとジークフリートしか事情を知らず、このスキャンダルに、ブリュンヒルデとクリームヒルトは激怒する。ジークフリートはグンターに頼まれたからだと弁解するが、グンターは否定し、二人のどちらが正しいか神の裁きを受けるために、一騎打ちをすることになる。
- グンターはハーゲンに助けを求める。クリームヒルトはジークフリートが不死身でない箇所を教え、一騎打ちの最中にハーゲンが後ろから打つことになる。
第3幕
- ジークフリートは未だ死んでいない。皆、ジークフリートの財産が欲しい。それに昨夜の出来事をジークフリートに公言されても困る。そこであらためてジークフリートには死んでもらおうということで全員一致する。やるのは勿論ハーゲンだ。ハーゲンは良心の呵責を感じる。
- 一方、ジークフリートは小鳥に自分の運命を尋ねる。小鳥は、オペレッタの中では死んだりしないと答える。そこにハーゲンがやって来るが、クリームヒルトが印をつけておいたと言うジークフリートの不死身でない箇所を見つけられず、退散する。ジークフリートはそんなハーゲンに親しみを感じる。
- 小鳥がジークフリートにブリュンヒルデとの和解を勧めるので、ジークフリートはブリュンヒルデに語りかける。但し、新しい歌が思いつかないので、クリームヒルトに歌ったのと同じ歌を歌う。ブリュンヒルデも強い男が好きなので、悪い気はしない。
- ジークフリートは財産を半分譲ることにする。そうなると財産を奪うためにジークフリートを殺す必要もなくなり、ジークフリートはブリュンヒルデとクリームヒルトの二人と腕を組んで、フィナーレとなる。
訳者より
- このオペレッタの作曲者オスカー・シュトラウス(1870~1954)は、フランツ・レハールや、レオ・ファル、ローベルト・シュトルツ、エメリッヒ・カールマンなどと並ぶ、ウィンナ・オペレッタの白銀時代の作曲家です。
- そのオスカー・シュトラウスの最初のオペレッタがこの「愉快なニーベルンゲン」(1904)で、ジークフリートやブリュンヒルデ、グンター、ハーゲンといった登場人物で分かる通り、ワーグナーの「ニーベルングの指環」、中でも「神々の黄昏」のパロディです。
- ワーグナーの「神々の黄昏」では、ジークフリートはブリュンヒルデのことを忘れて、グンターの妹のグートルーネに惹かれますが、このオペレッタの中ではグンターの妹はクリームヒルトです。兄のグンターがブリュンヒルデを妻にするのに、「神々の黄昏」ではジークフリートが隠れ頭巾を被ってグンターに変装しますが、オペレッタでは、透明人間になってブリュンヒルデとグンターの一騎打ちでグンターを加勢します。
- グンターや妹のキャラクターはオペラとオペレッタで似ていますが、ジークフリートとハーゲンは違っています。ワーグナーのジークフリートは純粋無垢の英雄ですが、オペレッタのジークフリートは奪った財宝をライン銀行に預けて、投資で稼ぐという実業家です。一方、ハーゲンは「神々の黄昏」では皆を操る憎々しい存在ですが、オペレッタでは自分のことを“残忍なハーゲン”と言い、“得意技は背後からの一撃”と言われてジークフリート殺害を任されますが、良心の呵責に苛まれ、ジークフリートを殺すことができません。
- 音楽的には「愉快なニーベルンゲン」は「ニーベルングの指環」のパロディですので、ワーグナーの「ニーベルングの指環」の一節が出てきてもおかしくありませんが、「タンホイザー」の一節が出てきます。
- このオッフェンバック風のオペレッタは1904年にウィーンで初演され絶賛されましたが、その後、ベルリンで上演されると笑いの渦が沸き起こり、大成功となりました。この匿名の台本作者リーデアムスはベルリンの弁護士で、(リーデアムスとは“笑いましょう”という意味ですが、)ヴィルヘルム二世の時代を皮肉った内容が、ベルリンで大いに受けたようです。オペレッタなので、歌以外の台詞も多く、台詞の部分は和訳役名の脇に(台詞)と表記しました。リーデアムスの歌詞は殆ど全て脚韻を踏んでいますが、残念ながら対訳は意味を伝えるのがやっとで、韻は踏んでいません。オペレッタでは歌や台詞がカットされることがよくありますが、このリブレットの[]の付いている箇所はCDでもカットされています。
- オスカー・シュトラウスはこの後、「ワルツの夢」ではレハールの「メリー・ウィドゥ」と並んでウィーン・ブームをもたらしましたが、ユダヤ系のためナチスの台頭と共に作品は上演禁止となり、オスカー・シュトラウス自身も亡命を余儀なくされました。アメリカに渡ってからはミュージカル風の「チョコレートの兵隊」や映画音楽などで人気を博しましたが、生涯、愛してやまなかったのがこの「愉快なニーベルンゲン」です。
- 尚、「愉快なニーベルンゲン」にはウィーンならではのドイツ語が随所にあり、例えばMagenというドイツ語は「胃」を意味しますが、ここでは「親戚たち」の意味で使われています。
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最終更新:2023年09月03日 19:08