オリスタ @ wiki

第09話『思い出との対話 その1(The Reliving Part1)』

最終更新:

orisuta

- view
メンバー限定 登録/ログイン


 
~腰越海岸 正午~

丈二「・・・・・・」ザッザッザッ

ザクザクと足を砂に突き刺しながら、三人は以前訪れた『洋館』に向かって冬の砂浜を歩いていた。
前来たとき季節は夏で、後ろにはカズがいた。アイスを食べたいとかぼやいていたっけ。

丈二「・・・・・・なあ」

那由多「?」

あいつとは色んな話をした。昼飯のこと、車のこと、服屋の店員さんが可愛いって話・・・
内容なんてどうでもいい、話す事が重要なのだ。それ自体がたった一つの大切なこと。
人がお互いを理解しあって、想い合うようになるにはそれ以外に方法はない。
これは100年前の時代も、1000年先の未来でも変わらないことだ。

丈二「俺達はさ、まだ全然知らないだろ?お互いのこと。もう結構長いこといるのに
   子供のころ何処に住んでたかとか、どうやってスタンドに目覚めたかとか」

未来「・・・ま、確かに」

丈二「だからさ、ちょっと座って昔話でもしない?」

那由多「本気?」

丈二「待ち合わせまではまだちょっと時間あるしさ。あそこの階段に腰掛けて」

未来「・・・・・・・・」

丈二「ダメ?」

那由多「・・・ハァー・・・しょうがないな」

未来「じゃあ少しだけ」

三人は砂浜に面した石造りの階段に腰を下ろし、海を眺めた。
ねずみ色の空が寒々しい。

丈二「俺のことは、もう結構知ってるだろ?だからお前らの話が聞きたい。
   那由多から。」

那由多「私? ・・・・」

那由多「私が生まれたのは、宮城県の仙台市。杜王町ってところよ。特産品は牛たん」

未来「上京してきた田舎娘って?意外ですね」
 
 
 




那由多「東京に来たのは10歳のとき。両親が死んで、母方の叔母に引き取られたの。
    叔母は交通事故だって言ってたけど、それは真っ赤なウソ。それに気付いたのは15のとき。」

丈二「ウソ?」

那由多「私の父は・・・正直言って頭が悪かったのよね、ちょっと。全然合理的じゃないの。
    そのくせお人好しだった。度が過ぎるほどにね。おかげでいつもトラブルを抱えてたわ。」

那由多「ある晩家に電話が掛かってきた。受話器を取った父は『友達から』と言って家を飛び出していったわ。
    助けてほしいとか何とか言われたんでしょうね。2、3時間経つとワイシャツに返り血をつけて帰ってきた。」

未来「・・・・・・・・」

那由多「そのときは別に気にしなかった。血気盛んな人だから、どこかで喧嘩でもしてきたのかと。
    それからしばらくした日、日曜の夜だったかな。知らない男達が家に押し入ってきて・・・
    ・・・・・・・・・・・・・・・・・父と母が頭を撃ちぬかれて、姉は首の骨を折られた・・・・・・・・・・」

丈二「家?君もその場にいたのか?」

那由多「そう。おかしいよね、何にも覚えてなかったの。家族が殺されるのを目の前で見てたっていうのに。
    『報復』だった、『組織』の。私の母と姉は父のお人好しに殺されたのよ」

未来「・・・・・・・・・・・・・」

那由多「私はクローゼットに隠れてた・・・みたい。ショックでそのときの記憶が全部抜け落ちてたの。
    叔母は覚えてない私に事故だったと教えたけど、ある日ふと思い出したわ。そのときのこと。」

丈二「・・・・・・・・」

那由多「本当に、ふと。放課後、教室で帰り仕度をしてたら思い出したの。
    そしてそのときからスタンドが使えるようになった。」

未来「急に?『ウイルス』じゃないんですか?」

那由多「急に。叔母に聞いたら父もスタンド使いだったみたい。遺伝かな。」

丈二「・・・父親のことを恨んでる?」

那由多「いいえ。確かにどうしようもない人だったけど・・・嫌いになったことなんて一度もない。
    家族って、わかんないよね・・・・・・」

丈二「・・・・・・・・・・」

那由多「私の話はこんくらいかな。面白い思い出とかなくてゴメンね」

丈二「いや、聞けてよかったよ。」

未来「僕もです。」

那由多「そう、じゃあ次は未来ね。」
 
 
 




未来「生まれは足立区。昔っからの都会っ子です。ついでに鍵っ子でした。両親は共働きで。
   ・・・実は小学校のころイジめられてました。」

那由多「えーっ、ホントに?意外」

未来「成長が早かったんです、他の子たちと比べて。背も高かったし・・・
   小学生って、特に高学年になるとそういうのに敏感になるでしょ?」

丈二「ああ、まあ・・・そうだな」

未来「だからそういう連中と一緒の学校に通うのがイヤで、勉強して私立の中学に入れさせてもらいました。
   今思うと全然面白くなかったですね。笑えてくるくらい。」

那由多「イケてなかったんだ?」

未来「イケてない芸人でした・・・高校は柔道部に入りました。空手を習ってたこともあったので
   武道をやりたくて。剣道と迷ったけど、柔道のほうがお金かからなくていいかなーと」

丈二「はは」

未来「『ウエスタン・ヒーロー』が発現したのは高二のときです。ランニングしてたら
   後ろからブスっとやられました。『組織』の工作員にね。」

未来「あとから聞いた話ですけど、実験だったみたいです。『ナイフ』を刺すのは誰でも良かったとか。
   そしてたまたま試験にパスしてしまった・・・・そのせいで・・・・」

丈二「そのせいで?」

未来「皆殺しですよ、家族全員。そして僕は何がなんだかわからないうちに『組織』に引き取られてました。
   いつの間にか『スタンド使い』としてコキ使われてたんです。」

那由多「・・・・・・・・・・・・」

未来「最初は混乱してて、とにかく言われるがまま働いてました。生きてく方法がそれしかなかったから。
   でもある晩、ベッドに入って寝ようと電気を消したら、何故だか知らないけど涙が急に溢れ出てきたんです。」

未来「悲しみがどっと押し寄せてきて、堪え切れなくなりました。一晩中泣き腫らして、
   朝日が昇るとようやく冷静な思考を取り戻しました。
   天野さんと連絡を取ったのはそれから二週間後くらいだったと記憶しています。『組織』を潰すために僕から接触したんです。」
 
 
 




未来「僕には思い出と呼べるものが何もないんです。だから絶対に『組織』を潰したい。
   『やり直したい』んです、人生を。今度こそ躓かないように歩きたい。」

丈二「・・・・・・・」

未来「と、まあこんな感じです。どうでした?」

丈二「・・・・・・みんな背負ってるものがある。俺達は自分の人生を取り戻したい。
   聞けてよかった・・・軽い気持ちで闘ってるやつなんていない、ってこと確認できた。」

那由多「・・・そうね」

丈二「・・・そろそろ行こう。時間だ」

未来「ええ・・・」

スタッ

丈二(考えてみれば・・・まだ一度も泣いてないな、親父が死んでから・・・・・・)



~『組織』アジト 某時刻~

コンコン
護衛1「失礼します」

柏「なんだ」

護衛1「『準備』が整いました。決行できます。」

柏「そうか、ご苦労。あとは待つだけ・・・」

護衛2「それですが、実は気がかりが・・・」

柏「?」

護衛2「阿部の『チーム』の残党が不審な動きを見せています。情報部が掴んだ情報によると、
    三人は今朝方神奈川へ向かったようです。」

柏「やはり生きていたか・・・神奈川へは何故?」

護衛1「わかりません。・・・が、我々から逃げているワケではなさそうです。何か企んでいるのでしょう。」

柏「・・・ふむ、神奈川・・・」
 
 
 




護衛2「僭越ながら申し上げます。決行を予定より早めた方が良いかと・・・」

柏「・・・・・・いや、それはダメだ。この計画は10年も前から練られてきたもの。今更変えられない。
  決行日に変更はなしだ」

護衛1「では・・・」

柏「なに、『不純物』を取り除けばいいだけの話・・・計画を台無しにはさせんよ。
  君たちに頼みたい、すぐに神奈川へ飛んでくれ」

護衛1・2「はッ!」

柏(邪魔はさせないぞ城嶋・・・・・・!)



~天野のアジト 某時刻~

カタカタ
天野(・・・・・・・・)

天野(この調査ファイルを見る限り・・・『組織』はここ数年で二百回近い実験を行っている・・・
   財務記録上では郊外に『土地』を買っているな・・・おそらく研究施設を作るための・・・)

天野(もしもヤツの目的が『アレ』ならば・・・)
カタカタ

天野(!! ・・・やはり・・・!)

天野(あの頃から何も変わっていない、そうなんだな?柏・・・)
 
 
 




~洋館 PM1:22~

浜辺を歩き、ようやく目的地にたどり着いた丈二たち。
赤錆を滲ませた鉄門を開け、中庭に入る。手入れをされていないから草は伸び放題だし、
地面に散乱したガラスの破片が、歩くたびにジャリジャリと音を立てる。
何故、相手はこんな場所を指定したのだろうか?こんな廃墟を・・・

ギィィィィィ・・・・

丈二「!」

館の玄関扉が開き、中から『女性』が現われる。
遠目からでは彼女が黒髪だったこともあってわからなかったが、彼女が歩み寄ってきて
2mほどにまで距離が縮まると、ようやく全容を掴むことができた。
『外国人女性』だ。おそらくアメリカ人。

???「ハイ、あなたたちが『試練』を受けにきたスタンド使い?」

未来「・・・あなたは?」

ミシェル「『ミシェル・ブランチ』よ。一応シンガーソングライターやってるの。よろしくね」スッ

那由多「ど、どうも・・・」スッ

ミシェルと名乗ったその女性に手を差し出され、ぎこちなく握手に応じる那由多。
天野の知り合いと聞いていたから、もっと仙人的な、戦闘の達人的な人が来るのかと勝手に想像していた。
実際目の前にいるのは自分達とそう歳の変わらない『女性』で、『歌手』で、おまけに『外国人』だ。
しかも驚くほどに日本語が上手い。

ミシェル「まさかのガイジンで驚いたでしょう?ムリもないと思うけど」

未来「ええ・・・しかし、日本語お上手ですね」

ミシェル「子供の頃はトーキョーで暮らしてたのよ。アメリカにも日系の親友がいるしね」

丈二「天野って人のこと?」

ミシェル「いいえ、彼とは『クサレエン』ってやつかな。アハッ」

丈二「はぁ・・・」
 
 
 




ミシェル「じゃあ早速始めましょうか。準備はできてるんでしょ?誰がやるの?」

那由多「あの・・・えっと・・・・」

ミシェル「?」

那由多「色々聞きたいことがあるんですけど・・・『今ここで』やるんですか?
    『何を』?『誰が』っていうのは・・・?」

ミシェル「あれ、もしかして何やるか全然知らないとか?」

未来「知らないです・・・この『洋館』を選んだのも『試練』に関係あってのことですか?」

ミシェル「ええそうよ。まあ、ここじゃなくても『使われてない』ところなら何処でも良かったんだけどね。
     ビルとかホテルとか。」

丈二「『洋館』を使うんですか?」

ミシェル「まず第一に、あなたたちにこれからしてもらうことを説明するわ。
     この『洋館』に入って、無事に『出てくる』こと。それが私の『試練』よ」

未来「???」

ミシェル「第二に、『試練』を受けられるのは『一人』だけ。三人同時に受けることはできないのよ。
     それがこの『試練の館(ホテル・ペイパー)』の絶対ルール!」

那由多「『試練の館(ホテル・ペイパー)』?」

ミシェル「私のスタンドよ。この洋館・・・外からじゃ一見何の変哲もない建物だと思うでしょうけど・・・
     中は違うわよ。私の『スタンド能力』がこの洋館を『ホテル・ペイパー』に変えた。」

丈二「なんだか知らないけど、ようは玄関開けて中を回って戻ってくればいいんでしょ?
   それなら簡単だ。前にここに来たことがありますから。」

ミシェル「話聞いてないの?『中は違う』のよ。あなたが前にきたときとは何もかもね。広さも高さも内装も・・・
     そして第三に、中では『スタンド』の使用が一切できない!これがどういうことかわかる?」
 
 
 




未来「どういうことですか?」

ミシェル「下手したら、ってかしなくても死ぬかも・・・ってこと。運が悪いとね」

一同「!?」

ミシェル「『ホテル・ペイパー』内では量子力学とか形而上学だとか、そういうものが一切無視された『現象』が起こるの。
     常識から外れた『超常現象』がね。それは挑戦者にとって『良いこと』だったり、『悪いこと』だったりする。」

那由多「具体的に何が起こるんですか?」

ミシェル「わかんないわよ。私だって見たこと無いもの。それに発生する『現象』は人によって違うの。
     精神的なものだったり肉体的なものだったり・・・」

丈二「・・・」ゴクリ

ミシェル「中ではあなたたちは赤子同然!スタンドも使えずに、自分の五体のみで進まないといけない。『運』に縋り付きながらね。
     どう?これでも受ける?」

那由多「・・・」

未来「・・・」

丈二「・・・」

ミシェル「怖気づいた?」

那由多「いいえ。むしろ興味がわいてきたわ」

未来「誰から行きますか?じゃんけんで決める?」

丈二「俺が行くぜ。運はいいほうだしな」

ゴニョゴニョゴニョ・・・

ミシェル「・・・フフ、面白い子たちね・・・」
 
 
 




ミシェル「決まった?」

丈二「俺が行きます。」

ミシェル「そう。えーと・・・ミスター・ジョージ。ドアを開けたら中に『ボーイ』がいるわ。
     『ホテル・ペイパー』の案内役よ。彼の指示に従ってね。」

丈二「はい。・・・じゃあ、行ってきます。」

那由多「真っ直ぐ帰ってきなさいよ」

未来「死んでも墓は堀りませんからね!」

ミシェル「幸運を」

丈二「・・・・・・・・・」

ギィィィィィィィィィ・・・・・・・・

バタン!


那由多「・・・行っちゃった」

未来「待ってる間僕らはどうすれば?『組み手』とかやるんですか?」

ミシェル「『組み手』ェ~!?なにそれジャパニーズ・ジョーク?そんなダルいことなんで私がするのよ!
     私はねぇ、『歌手』なの。格闘家じゃないのよ! ヒマなら海行って遊んできなさいよ」

未来「はぁ・・・すみません・・・」
 
 
 




ギギギギギギギギ・・・・

丈二が『ホテル・ペイパー』の入口を開け、中へ消えて行ってから数十秒後、中庭の鉄製で錆びた門が開かれ
外からスーツを着込んだ二人組みの男が三人のもとへ進入してきた。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

護衛1「・・・・」

護衛2「・・・・」

スタスタスタ・・・

那由多「・・・・・・未来、誰か来た」

未来「・・・・・・みたいですね」

ミシェル「誰?知り合い?」

スタスタスタスタスタ・・・

那由多「・・・まあ、そんなとこかな。招待はしてないけど・・・」

歩幅や肩の揺らし方、目の動き。一目でわかる、『組織』の人間だ。
しかも那由多と未来には彼らの顔に見覚えがあった。

護衛1「よう那由多。ここで何してる?相変わらずつまんねー仕事ばっかしてんなァ」

那由多「なんだっていいでしょ。それにこれは仕事じゃない。アンタたちこそ毎日上司にコキ使われて、カワイソウ。」

護衛2「言うようになったねえ、まだ歩き方すら知らなかった小娘ちゃんがさ。
    忘れたのか?お前たちにスタンドの使い方を指導してやったのは『誰だったか』・・・」

未来「その説はどーも。えーと、『三村』さんと『川田』さん・・・でしたっけ?」

三上「『三上』と『川崎』だッ!育ててもらった恩を忘れやがってよォォーーッ!」
 
 
 




川崎「そこにいる『外人』は誰だ?『アメリカ人』?友達か?」

三上「お前ら確か『三人』でここに来たよなァ・・・『城嶋 丈二』はどこ行った?」

ミシェル「ちょっと、何なのアイツら!」

未来「ミシェル、少し下がっててください」

那由多「私達に勝てたら質問コーナーを設けてあげるわ。来なさいよ、ビビってんの?」

三上「まさか。久々に体が動かせて嬉しいゼェ、デスクワークには飽き飽きしてたところでなァ・・・」

川崎「スタンドを出せよ・・・久々に見てやるから」

未来「それじゃあお言葉に甘えて・・・」

未来「『ウエスタン・ヒーロー』ッ!」

ドバァァァーーン!


~ホテル・ペイパー 1階ロビー~

ゴシック調の内装で彩られた『ホテル・ペイパー』内部は、都内一等地に建てられた高級ホテルのような華やかさと、
寂びれたビジネスホテルのような陰鬱な静けさを共存させた、違和感むき出しの空間であった。
ここは普通の建物とは違う。不気味な空気が肌に纏わりつき、不快に思う一方でまた、心地よくも感じつつあった。
洋館は確か三階建てぐらいだったはずだ。だがロビーから天井を見上げると、明らかに十数階分の高さがある。

???『失礼、城嶋 丈二サマ?』

丈二「?」

機械的な声に呼びかけられ、後ろを振り向く丈二。背後にこのホテルの『ボーイ』が立っていた。
ミシェルの言っていた案内役、彼女の『スタンド』だ。手に『鍵の束』をぶら下げている。

ボーイ『『ホテル・ペイパー』へようこそ。チェックインありがとうございます。
    ワタクシは当ホテルのボーイを務めております、そのまま『ボーイ』とでもお呼び下さい。』

丈二「『試練』を受けにきた。ここで何をすればいい?」
 
 
 




ボーイ『城嶋サマには当ホテルの200近い客室の中から、『出口』のドアを見つけ出していただきます。
    この『鍵』で一部屋一部屋ドアを開けて、探してください。』ジャラッ

丈二「・・・200と言ったな?『鍵』は10本しか付いていないが・・・」

ボーイ『一度使用された『鍵』は消滅し、新たに『1本』追加されます。
    一部屋ずつ開放しながら、当ホテルを進んでいただきたい。』

丈二「なにかコツとかあるのか?」

ボーイ『ございません。最初のドアがいきなり『出口』だった人もいれば、最期まで見つけられなかった人もいます。
    城嶋サマの『運』次第でございます。』

丈二「ふーん、まあいいや。行ってくるよ」

ボーイ『ごゆっくりと・・・』


~ホテル・ペイパー 2階廊下~

スタスタスタスタ・・・

丈二(とりあえず『ドア』を片っ端から開けてけばいいんだろ?やってみっか。)

丈二は『204号室』と書かれた標識の付いているドアの前に立ち、『鍵』を鍵穴に差し込んだ。
右に『鍵』を捻ると、ガチャリとシリンダー錠のロックが解除された。ドアノブに手を掛け、丈二はドアを開く。

ギィィィィィ・・・・・
 
 
 




『204号室』に足を踏み入れたとき、丈二は強い既視感に見舞われた。
そこは一般家庭のキッチンルームだった。向かって左側、L字型にシンクやコンロが並べられ、部屋の中央にはキッチンテーブルが置かれている。
イスは3つ。

丈二「これは・・・」

シンクのところでしゃがんでいた女性が立ち上がる。その人は鍋を探していたらしく、丈二は最初彼女の姿が見えなかった。
彼女は丈二に気付かず、調理を進める。

丈二(気付いてない・・・見えてないのか・・・?俺が・・・)

奥の部屋のほうから、声が聞こえた。
男性と子供の声だ。たぶん親子だろう、一緒に遊んでいるらしくキャッキャと笑う男の子の姿が見えた。

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド

丈二(あれは・・・あの子供は・・・)

辺りを見回す。壁に貼られた絵、壁紙。ソファー、テレビ。男の子が手に掴んでいる戦隊ヒーローのおもちゃ。
そして彼と遊ぶ彼の父親・・・キッチンで料理をする女性。
何もかも見覚えがある。俺はこの部屋を知っている。この家を知っている。

男「よぉーし、良い子だ・・・・・・」

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド

男の子「キャッキャッ」

丈二(あの子供は・・・『俺』だ)

丈二(あいつは『親父』だッ!この部屋・・・いや、ここは『俺の家』だッ!!)

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド




第9話 終了


使用させていただいたスタンド


No.73
【スタンド名】 ホテル・ペイパー
【本体】 ミシェル・ブランチ
【能力】 廃墟になったホテルやビルなどの建物全体を「試練の館(ホテル・ペイパー)」に変える




< 前へ       一覧へ戻る       次へ >





当wiki内に掲載されているすべての文章、画像等の無断転載、転用、AI学習の使用を禁止します。




記事メニュー
ウィキ募集バナー