ザァァァァ・・・・・
朝方から続く曇天の空は、ここへきてようやく雨を降らせ始めた。
大きな雨粒がトタン屋根を叩きつけ、鈍い雨音が倉庫内に響く。
カズ「『ノー・リーズン』ッ!」
ノー・R『ウラウラァッ!』バシュバシュ!
敵を取り囲み、まずはカズの『ノー・リーズン』がパンチを打って出る。
素早く、正確なパンチだったが、敵はそれを容易にかわしていく。
柏「・・・・・・」スッ
L・M・S『ドラァッ!』シュバァァッ!
続けて『リトル・ミス・サンシャイン』が柏の後方にて蛇のようにしなる脚を振り上げる。
だがこちらも当たらない。脚は紙一重のところで空中へ放たれた。
未来「なかなかの身のこなし、だが!」
W・ヒーロー『ハァァァァァァァ』ドドドドドド
ガッ!
柏「!」
未来の『ウエスタン・ヒーロー』がすかさずタックルをかます。スタンドが胴体をがっちりと掴み、
ようやくヒラヒラと舞う紙のような敵の動きを止めることに成功した。
丈二「オラァッ!」
ドゴォッ!
柏「・・・・・!」
動きを止めた敵に、『アークティック・モンキーズ』が渾身の拳を胸へと叩き込む。
拳の感覚でわかる。クリーンヒットだ。
カズ「やった!」
那由多「スタンドも出さずに、浮かれすぎよ」
柏「・・・なるほど、動きは悪くない」ググッ・・・
未来「!!
・・・丈二、今決めましたよね?渾身のヤツを」
丈二「ああ、最高のパンチをくれてやったぜ・・・」
未来「じゃあ何故あんなに平気そうな顔をしてるんです?何事も無かったように『立ち上がって』きましたよ。
なにより・・・」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド
柏「・・・・・・」
未来「『痕跡』が見当たりませんよ、あの威力で服に少しのダメージがないのは・・・」
丈二「わかんねえ、確かにぶち込んだはずなんだが・・・」
カズ「どんなトリックかはしらねえけどよォ~」チャッ!
柏「・・・・・・」
カズ「これで種明かしだぜッ!」
ダッ!
そう言うとカズは懐から『ダガーナイフ』を取り出し、右手に握って柏に向け走り出した。
柏(ふん、避けられないとでも思うのか?)
カズ「さて、ここで『ノー・リーズン』」
ドバァァーン!
柏「!」
カズ「『ダガーナイフ』の握り手を『うやむや』にした!『右』か?『左』か?
どっちでしょーか!?」
柏「くっ・・・」
ドスッ!
柏「・・・・!」
カズ「正解は『右手』でした」ズブズブ・・・
ズボッ!
カズが右手の『ダガーナイフ』を柏の右腕に深く突き刺す。肉をじりじりと裂き、『ナイフ』を引き抜く。
柏「面白い『スタンド能力』だ、なかなか便利だな・・・私のスタンドほどではないが」
那由多「!!」
だが柏の右腕に、『刺し傷』は見つからなかった。『血』も出ていない。
確かに差し込んだ場所・・・『ナイフ』を引き抜くと同時に、そこから『傷』が消えたのだ。
未来「な、なに・・・ッ!?」
カズ「『傷』がないッ!『ナイフ』の刺し傷が!」
丈二「どういうことだ!?超スピードで傷が回復したとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ!」
柏「・・・・・・」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド
那由多「ちょっとカズ!ちゃんと刺したの!?」
未来「そうです、例えば皮膚を固くして刃を弾いたのかもしれない。そういう能力なのかも」
カズ「お前らだって見てたろ!しっかり刺しこんでやったんだ!
手の『感覚』でわかる、俺は確かに『ナイフ』を突き刺したッ!」
柏「仲良く相談しあって回答を探すのもいいが・・・時間をかけないでくれ。
『ウイルス』は誰が持ってる?」
那由多「尋問なんてする余裕はないかもね・・・仕方ない、本気でやりましょう」
那由多「丈二!」
丈二「な、なんだよ」
那由多「倉庫の隅に『赤ペンキ缶』がある。私達がこの男の相手をしてる間に使って」
丈二は倉庫の四隅に視線をやる。確かに対角の隅に『缶』が積まれていた。
倉庫内での戦闘に、丈二は最初から組み込まれていたのだ。
丈二「! わかった、行って来るぜ!」
ダッ!
丈二が中央を陣取る柏を横目に周り込み、『缶』の下へ向かう。
柏「小細工か、何の意味もないというのに・・・」
那由多「『リトル・ミス・サンシャイン』ッ!」ドバァァーン!
L・M・S『ドラァァァッ!』シュバシュバッ!
『リトル・ミス・サンシャイン』が『太陽』の埋まった拳を柏に向け突き出す。
那由多「くらえッ!」
柏「懲りずにまたも向かってくるか!いいだろう『使ってやる』!
私の『スタンド能力』だ!」
ドォォーン!
『リトル・ミス・サンシャイン』の拳が柏の体から現われた『スタンド』の掌に受け止められる。
『スタンド』は腕一本しかその姿を見せず、未だ敵スタンドの全容は視認できない。
L・M・S『・・・・・・・!』ギリギリギリギリ
???『・・・・・・』
柏「腕だけ出せば十分だ、お前らみたいなのは慣れてるからな」
那由多「そう、でも私達は一味違うわよ。私は『殴りたい』ワケじゃあないッ!
アンタが拳を『掴んでくれる』ことは予測済よ!」
柏「・・・・・・・」
那由多「『リトル・ミス・サンシャイン』!『太陽』を発熱させて!フルパワーよ!」
柏「『7』、ってところかな」
那由多「!? なんですって?」
未来「な、なんだ・・・?」
L・M・S『!?』ギリギリギリギリギリギリ
那由多(!! 何故・・・『太陽電池』が動かない!熱が・・・)
柏「その『球体』が君の切り札なんだろう?そういうのはちゃんと隠しておくべきだな。
さて聞くが、『ウイルス』を持っているのは君か?」
ギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリ
那由多「うっ・・・」プッ、プッ
柏「質問には答えた方がいいぞ」
敵スタンドの腕が片腕のみで『リトル・ミス・サンシャイン』の右腕をぞうきん絞りのように捻りあげる。
本体・那由多の右腕の肉が裂け、傷から血が噴出す。
柏「引き千切らせてもらう」
那由多「いいえ、無理よ 何故ならこれも『予測済』!『血』が噴き出ることも」
丈二「『アークティック・モンキーズ』ッ!」
突如どこからともなく丈二の叫びが響き、その瞬間掴まれていたボロボロの腕から、また別の腕が敵に目掛けて飛び出した。
シュバァァァーン!
柏「なにッ!」
バシィッ!!
柏「・・・・!」
カズ「くそ、弾かれた!」
那由多「うあ・・・っ」ブシュゥゥゥゥゥ
丈二「・・・・・・」
ズブ、ズブッ
ギリギリのところで迫り来る拳の軌道を反らすと、その腕は再び『血』の中に帰っていった。
目の前のスタンドに気を取られて気付かなかったが、いつの間にか辺り一面の床は『赤ペンキ』で赤く染まっていた。
柏(『赤』に潜る能力・・・!いつの間にこんな)
未来「チャンスです、叩き込みましょう!『ウエスタン・ヒーロー』!」
W・ヒーロー『ハァァァァァァァァッ!』
カズ「『ノー・リーズン』ッ!」
ノー・R『ウラウラウラウラ』
二人のスタンドが拳を振り上げながら向かってくる。バックステップで距離をとろうと試みた柏だが
背後、足元のペンキから『アークティック・モンキーズ』が飛び出し、羽交い絞めにされる形となった。
柏(!?)
那由多「『リトル・ミス・サンシャイン』ッ!」
L・M・S『ドラドラドラドラドラ!』
手負いの少女も再びスタンドを展開し、向かってくるスタンド使いは三人になった。
身動きが取れない。
柏(くそっ、この『猿』)
柏(やむを得ない、どうせ『見られた』ところで始末するんだ。問題は無い!)
ドバァァァァァーーーーーーン!!
ついに柏のスタンドが、その姿を曝け出した。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
???『・・・・・・・』
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド
未来(やつの『スタンド』!ついに出した!)
柏の目の前に現われた精神エネルギー体・・・人型で、女性的な風貌の『スタンド』だ。
両肩に大きな懐中時計を付け、パーティードレスを身に纏っている。
柏「まずはこの『猿』を引き剥がしてくれ。
???『・・・・・・・』コクリ
A・モンキーズ『ムヒッ!』
???『・・・・・・・』ドシュッ!
ドスゥゥッ!
『スタンド』が柏の指示に対して頷き、柏の脇の下から腕を伸ばす『猿』に対して、拳を突き出す。
他の近接パワー型のスタンド達に比べ少しばかり細く、華奢に見えるその腕から『槍』のように鋭い突きが繰り出される。
小さな腹に拳を受けた『猿』は、するりと絞めを解いてボールのように飛んでいった。
A・モンキーズ『ムヒーッ!』
丈二「ガフッ!」
空を切る『猿』に引き摺られるように、本体の青年も『赤』から飛び出した。
スタンドがダメージを受けると、本体もスタンドと同部位を負傷する。腹から逆流した『血』を、口から噴出していた。
柏「よし、これで動ける」
未来・カズ「うおおおおおおおおおお」
柏「次はあいつらを止めたい。アホ面の方の『眼』を、両方『1』ずつ。」
???『・・・・・・・』コクリ
再び『スタンド』が頷くと、今度はカズに向かって駆け出した。
ノー・R『ウラウラウラウラウラウラウラ!』バシュ!バシュバシュバシュバシュバシュ!
???『・・・・・・・』パシッ、パシパシパシパシパシ!
カズ「バカな!全部弾きやがった!『ノー・リーズン』の拳を!
ビュッ!
カズ「!!」サッ
ピトッ
ガードが緩んだ隙、柏の『スタンド』が人差し指と中指をカズの『両目』に向かって突き放つ。
咄嗟に後方へ跳ね、目潰しを回避したカズだったが、その指先はわずかに眼球に触れていた。
カズ「うああああ、くそ!いてえッ!」
カズが両目を手で押さえ込み、呻く。
柏「まだ二人いるぞッ!やれ!」
L・M・S『ドラァァッ!』バシュッ!
W・ヒーロー『ハァァァッ!』バシュッ!
???『・・・・・・・』フラフラ
『リトル・ミス・サンシャイン』と『ウエスタン・ヒーロー』が『スタンド』を挟み込むように立ち、
攻撃を開始する。だが『スタンド』はダンスを踊るかのような足取りでそれを流れるようにかわしていく。
???『・・・・・・・』スゥ・・・
未来・那由多「!!」
バッ!
ゆったりとした身のこなしで、『スタンド』が指を揃えた掌を振りかざす。
『手刀』だ。まるで本物の真剣を突きつけられたような威圧感に襲われ、二人は急いで距離をとる。
ブオオオオオオオオオオオン!!
スカッ!
???『・・・・・・・』
未来「・・・・!」ゴクリ
柏「ち、外したか」
那由多(ヤバイ・・・!あれ以上踏み込んでいたら首を切り落とされていた・・・!)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――
カズ「う・・・」パチリ
カズ「? なんだ?」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
痛みも引き、眼を開いて再び敵に視線を戻したカズは、そこで起きている異変に気を取られる。
那由多と未来、そして二人のスタンドが、敵の『スタンド』と距離をとっている。それはいい。
だが何か妙だった。
カズ「おい、どうした!」
未来「ヤツは危険です!無闇に近づかないで!」
カズ「?!」
ここでようやくカズはその場を包んでいた違和感の正体に気が付いた。
その場にいる全員が、誰も『動いていない』のだ。ショーウィンドウに飾られた『マネキン』のように・・・
表情を変えず、口を動かさずに言葉を発している。
那由多「な、何してるのッ!そこから離れてッ!」
彼女の声が聞こえる。だが口は動いていない。おかしい・・・何故動かない?何故止まったままなのか?
まるで『静止画』の様に、『時を止められた』かの様に・・・・誰一人としてピクリとも動かないのだ。
カズ「なんだよ、これ・・・どうなってるんだ・・・?」
未来「離れろって言ってるんだカズゥゥーーーーッ!そこから離れろォォーーーーーッ!」
ズバァァァァァッ!
目の前で展開された不可解な映像に夢中になっていた隙、カズは背中から腹部にかけての、
広がるような痛みと熱さを感じた。
ビチャビチャビチャ
ボタボタ・・・
カズ(う・・・なんだ・・・?熱い・・・ジンジンと・・・腹が・・・)
柏「あっけないな」
未来「カズウゥゥゥーーーーッ!!!!」
カズ(何が起きた・・・?『後ろ』から・・・・何か『ぶち抜かれた』・・・・・・『スタンド』攻撃か・・・でも・・・・・・・)
カズは見えない『何か』に腹を突き抜かれ、ゴポゴポと血を噴き零しながらその『何か』に支えられて宙ぶらりんになっていた。
朦朧とする意識の中、カズは必死に今起きている奇妙な現象について思案を巡らせる。
カズ(おかしい・・・『コイツ』は・・・・・・『敵』は目の前にいる、『止まったまま』・・・・・・
コイツの『スタンド』も・・・・・・向こうだ、動いてない・・・一歩も・・・・どう・・・やって・・・・)
ゴソゴソッ
柏「あった。『ウイルス』だ。持っていたのはお前だったか」
ズリュッ!
『ウイルス』を回収した柏に、勢いよく突き刺さった『何か』を引き抜かれ、カズは地べたに叩きつけられた。
その瞬間、カズの見ていた『静止画』が動き出した。
DVDで次のチャプターにスキップしたときのように、映像は一瞬で切り替わる。
カズの目に飛び込んできた最新情報は、高い天井と、自分の目を見つめながら必死に声を掛けてくる仲間の顔だった。
未来「ダメだ、ダメだダメだ!死ぬな!死ぬなよッ!」
那由多「あああ・・・そんなッ!イヤよ・・・!イヤ・・・」ギュゥ・・・
彼女が涙を浮かべながら、患部に布を押し当てていた。止め処なく溢れる血を抑え込もうとしている。
優しい娘だ。自分のために泣いてくれるのか。
未来「『リトル・ミス・サンシャイン』の『太陽』で傷を焼くんですッ!穴を塞いでッ!」
那由多「ムリよ!『太陽』が使えないの!『発熱』しないのよッ!」
カズ(・・・)チラリ
グッタリと仰向けになりながら、カズはチラリと横目で敵を見る。
『ウイルス』を回収できてご満悦のようだ。容器を光に透かし、中の水を覗いている。
そのとき、カズは再び『不可解な現象』を目撃した。
カズ(あの傷・・・)
敵が容器を持つその腕に、深い『刺し傷』が付いていた。血が傷口から滴っている。
カズ(あれは・・・さっき俺がつけた傷じゃないのか・・・?『ナイフ』で刺して・・・
なんで・・・?さっきはなかったのに・・・・・・・?)
こんなに物事を考えたのは生まれて初めてかもしれない。体は動かないが、頭は妙に冴えていた。
そしてそのフル稼働する脳みそが、敵の『スタンド能力』についての、たった一つの『回答』にカズを導いた。
カズ(そう、か・・・・あいつの『能力』は・・・・・・・・・・・・・)
ドクドクドクドク・・・・・
未来「『充電』し忘れたんですかッ!?まさか!」
那由多「そんなワケないでしょ!ちゃんとしたってば!!」
ああ、やめろ。言い争いなんかしてる場合じゃない。
心を一つにしないと、チーム一丸とならないと、ヤツの『スタンド』は倒せない・・・
あまりに強大な力だ・・・
ヌラリ・・・
丈二「う・・・なんだ?何が起こった・・・?」
丈二「!!!」
敵の攻撃を受け、ダウンしていた丈二が起き上がる。
この場の状況を飲み込むのに1秒もかからなかった。
丈二「こ、これは・・・」
那由多「しっかりしてよ、ホラッ!私を見て!見るのよッ!ちゃんと見てッ!!」
未来「何故ですカズ!『背中』からヤツの『スタンド』が迫っていたでしょうッ!何故避けなかったんです!?
君はその場に『棒立ち』で!ずっとヤツに『背を向けていた』ッ!」ギュウギュウ
カズ「・・・・・・」ドクドクドク・・・
丈二「カズ・・・!そんな・・・・・・・・!」
柏「・・・・・・」スタスタ
丈二の左を、柏が何事もなかったかのように通り過ぎ去る。
帰ろうとしていた。柏にとって、ここでする事はもう何もなかった。
『ウイルス』は回収し、目的は済んだ。
丈二「おい!待てよこの野郎ッ!」
柏「・・・まだ何かようか?」
丈二「帰すと思うのかッ!このまま!ふざけんなよ、『スタンド』を出せッ!
まだ終わってないッ!」
柏「私が何故このまま帰ろうとしているかわかるか?自分の『スタンド』を晒しておいて、
何故始末しないのか・・・?いや、最初は皆殺しにする予定だったが・・・」
柏「『必要』ないからだよ、したいことはした。口封じのために殺してやってもいいが
そんなことは無駄だと言う事が分かった。どうせお前らにはもう何も出来ない」
丈二「うるせェーーーーッ!!」
丈二「『アークティック・モンキーズ』ッ!」
丈二が自分のスタンドを、出口へ向かう敵の背後に送り込む。
ドバァァーーーン!
???『・・・・・・・・』バシィッ!
丈二「く・・・!」
柏の『スタンド』が、『アークティック・モンキーズ』の拳を拳で弾き返す。
柏「失礼する」
丈二「行かせるかよッ!」
ズブッ!
丈二が床の『ペイント』に潜り込み、柏の目の前に飛び出す。
『アークティック・モンキーズ』が背中に背負ったギターケースを振り落とそうと、両手でケースを掴みあげる。
丈二「くらえ!」
A・モンキーズ『ムヒーッ!』
柏「無駄だ・・・我が『スタンド』は既にお前に『触れている』。お前のスタンドにな・・・」
ピタッ!
丈二「!? なんだ!?」
A・モンキーズ『・・・・』
丈二「お、おい どうしたんだ」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
柏「『3』だ」
ギターケースを掴んで、持ち上げた。そこまではいい。
だが『アークティック・モンキーズ』は、それを敵に叩き込もうとはしなかった。動きが止まっている。
丈二「どうした、『アークティック』!何故攻撃しない!」
柏「するよ・・・『3分後』にな」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド
A・モンキーズ『・・・・・・』しーん
丈二「なんで動かないんだ・・・?」
柏「じゃあな城嶋 丈二。『3分』も待ってられん」
チャッ
丈二(スタンドが使えなくても!『武器』があれば十分だぜ、この『ダガーナイフ』で!)
ダダダダダ・・・
丈二「オラァッ!」ビュッ!
柏「だから言ったろう。もう『触った』んだ。君の攻撃は『今』じゃないんだよ」
ピタッ
丈二「!!」
柏「・・・・・・・・」
丈二(な、なんだ・・・?体が動かない)
???『・・・・・・・・・』スゥ・・・
ブオオオン!
柏の『スタンド』が『手刀』を繰り出す。丈二は咄嗟にサイドステップを踏み、それをギリギリのところでかわす。
ダッ!
丈二(いや、違う。動かないんじゃあない。走ったり、ステップ踏んだりはできる
でも『コイツに対しての攻撃』ができないッ!攻撃をしようとすると体が急停止する!)
丈二が『手刀』を避け、2m程距離をとった2秒後、敵のすぐ背後まで近づいていた未来と那由多が
自身のスタンドを展開し、再びラッシュの挟み撃ちを叩き込もうとしていた。
那由多・未来「うおおおおおおおおお」
柏「無駄だ、お前たちへの対策も完了した。私には触れない」
ピタァァ
未来「パンチが・・・出せない!出そうとすると、腕が動かなくなるぞ!石の様にッ!」
那由多「クソォッ!ここまで近づいたのに・・・!なんでよおおおおッ!」
柏「・・・・・・フン」
柏「教えてやる。お前達は今、『レイト・パレード』の能力攻撃を受けている」
丈二「『レイト・パレード』!?」
柏「『彼女』だよ、私の『スタンド』の名前だ」
L・パレード『・・・・・・・・』
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
柏が『レイト・パレード』と呼んだ、自身のドレスを纏った『スタンド』。
『レイト・パレード』の両肩に付けられた、懐中時計の針がゆっくりと進む。
柏「『彼女』が触れたモノに対してのあらゆる『事象の発生』、それを『数分』だけ『遅らせる』。
それが我が『レイト・パレード』のスタンド能力だ」
未来「なんだって・・・!?」
柏「お前達に触れたとき、『遅らせた』んだ。『私への攻撃』をな。
お前たちが『攻撃をする』と心で決めても、体がそれを実際に行動に移すのは、そこより『数分』あとだ」
那由多「・・・・・・!」
未来「さっき・・・カズにしたのは・・・?!」
柏「彼の『目』に触れて『脳への映像伝達』を遅らせた。彼は『1秒後の映像』を脳に送ることができず、
刻々と動き続ける景色を追えなかった。まるで『静止画』を見ている気分だっただろうな。」
那由多「私の『太陽電池』が動かないのも、アンタの能力だっていうの・・・!?『レイト・パレード』の・・・!」
柏「『発熱』を遅らせた。もうじき動き出すだろう」
丈二「・・・所詮見世物か」
柏「何だ?」
丈二「面白い手品をありがとう。トリックがわかればなんでもねえ」
スタスタ・・・
柏「どこへ行く?」
丈二「『3分後』なら攻撃できるんだろ。なら『3分』待つ」
柏「私は待たない。もう帰るところだ」
スタスタ・・・
そう言うと、再び柏は出口に向かって歩き出す。
バッ!
未来「行かせないッ!」
L・パレード『・・・・・・・・・』ドシュッ!
グシャッ!
未来「ぶぐゥッ!」
両腕を広げ行く手を遮ろうとした未来だったが、繰り出された『レイト・パレード』のパンチを避けられず
その重い拳を頬で受け止める形となった。鈍い肉の音が響く。
柏「お前達は私に『触れない』・・・どうやって止める気なんだ?すぐ外に車がある。
乗り込めば私の勝ち。阻止すればお前達の勝ち。だがお前達は私への『妨害行動』を封じられている」
那由多「こうするのよ」
L・M・S『・・・・・・・・』カパッ
那由多が『リトル・ミス・サンシャイン』の両掌に埋められた『太陽電池』を取り外す。
柏「直に効果は消えると言ったが・・・『発熱』はまだ先じゃあないか?
その『ボール』は当分使えないようにした」
那由多「『発熱』?そんなこと期待してない、こうするのよッ!」
L・M・S『・・・・・・・・』スッ
『リトル・ミス・サンシャイン』が、『小型太陽』を右手に握り、『投球』のフォームをとる。
柏「バカが、『私への攻撃』は出来ないッ!その『ボール』を私に向かって投げることは不可能だ!」
那由多「投げるのはアンタにじゃあない!上よ、『リトル・ミス・サンシャイン』ッ!」
L・M・S『ドラァァァァッ!!』ブオオオオオオン!!
柏(上!?)
彼女の上方、倉庫のトタン屋根に向かって投げられた『小型太陽』。『小型太陽』の到達点には『換気扇』が設置されていた。
柏「!?」
ベキィッ!
勢い良く投げつけられた『太陽』はファンフィルターを跳ね除け、『プロペラ』の中央に命中する。
軸を損傷し、支えを無くした『プロペラ』が『換気扇』から外れ、クルクルと回転したまま下へ降ってきた。
空を切る音を立てながら降りてくるその『ブーメラン』は、柏の『頭部』向かって飛ぶ。
シュンシュンシュンシュン!
那由多「これは『アンタへの攻撃』じゃあないでしょう?『事故』よ
私は『プロペラ』を外しただけ・・・」
シュンシュンシュンシュン!
柏(・・・・・・・)
シュンシュンシュンシュン!
柏「何がしたいんだ?この程度、出し抜いたつもりか」
柏「『レイト・パレード』!『プロペラ』を叩き落とせッ!」ドバァァーン!
L・パレード『・・・・・・・・・・・』バキャッ!
ボトッ
刃を回転させながら飛行していた『凶器』は、柏の体に触れる寸前のところで『レイト・パレード』の拳を受け
地面に叩き落された。
柏「蚊を落とす方がまだ難しい、小さいからな。さあ、次はどうする?」
那由多「どうもしない。それを考えるのはアンタの方よ」
チュドォォォォォォォーーーーーーーーーン!!!
柏「!?」くるっ
背後で大きな爆発音が響き、柏が振り返る。
倉庫の外で、自分が乗ってきた『自動車』が炎上していた。
丈二「お前には攻撃できねえけどよォー」
未来「『車』には出来ますよ。帰る手段を封じさせてもらいました、僕らのスタンドで」
柏「・・・いつの間に」
那由多「『勝利条件』は変更ね。さて、次はどうする?」
柏「・・・・・・」
スタスタスタスタ・・・・
丈二「『3分』経つぞ」
柏「・・・・・・・」
未来「もう『触らせない』・・・能力を教えたのは間違いでしたね」
那由多「覚悟しなさいよ・・・さっさとアンタを始末してカズを病院へ運ぶわ」
柏「・・・・・・昔」
丈二「?」
柏「犬を飼ってた・・・ミニチュアダックスだ。名前はリッチー
君のお父さんが付けてくれた名前だ。城嶋教授が」
丈二「・・・今更何の話だ?揺さぶりならやめろ。意味無いからな」
柏「彼とは親しかったよ。でも君が生まれてから彼は変わった。父親になって・・・『命の重み』を学んだとか何とか言ってたさ。
『組織』を捨て、私の下から去っていった」
那由多「当然の選択だわ」
柏「何故人は未来に投資しないんだ?今ある幸せがそんなに大事か?
孫や、その子供。もっと先の世代に生まれてくる者たちのために、何故努力しない?
より良い世界に住まわせてやりたいとは思わないのか?」
丈二「努力ならしてる、みんな。『明日』のために頑張ってる。より良い『明日』を迎えるために。」
柏「そうだな、人間はそうだ。『明日』楽をするために木を切って、大気を汚す。
そうやって科学技術を発展させていってるんだったな。ええ?」
未来「自然が人の命よりも大切なのか」
柏「比べるまでもない!人間はダニ以下だ、『地球』の表面に纏わり付いて・・・うっとおしすぎる!
これまでどれだけ『地球』に傷を付けて来た?私達の『母』に!これ以上の勝手な振る舞いを許せるかッ!」
丈二「あんただって人間だ、それに『未来の人間』のためにあんたは動いてるんだろ」
柏「『未来』の人々は現代のダニどもとは違う。自然と『共生』するためのチカラを持って生まれてくるんだ
『スタンド能力』をな」
丈二「!?」
柏「『地球』はやがて、私達のような『選ばれし者たち』だけが住む星となる。
偉大なる英知と能力を持った新人類だ。そのためには、まずは荷物を捨てなければならない。
余計なものを背負ったままでは、次なる世界には飛び立てないッ!」
丈二「人類全員を『スタンド使い』にする気かッ!?」
柏「全員じゃない、『淘汰』するんだ。『スタンド使い』が人類のニュー・スタンダードだ」
柏「そして『ウイルス』がそれを可能にする!あれは天から贈り物だ
『母』を救えと神が私達に授けてくれたのさ」
丈二「あんたは危険すぎる・・・『とり憑かれてる』よ、妄想に」
柏「・・・・・・・」
那由多「・・・・・・・・・」
L・パレード『・・・・・・・』カチッ
『レイト・パレード』の時計の針が進む。
未来「時間だ」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
那由多「・・・・・・・」
丈二「・・・・・・・・」
未来「・・・・・・・」
柏「いいだろう、打って来い。私に触られない自信があるのなら」
ドバァァァーン!
那由多「『リトル・ミス・サンシャ―――――――
重々しい沈黙を破るように、最初に那由多がスタンドを展開させ攻撃を開始する。
しかしその刹那、那由多は自分の後方にて何か『回転音』のようなものを聞く。
ギュルギュルギュルギュッ!
那由多「!?」
フワリ
柏「さっき『プロペラ』を叩き落したが・・・それだけだと思ったか?
『回転を遅らせた』・・・今時計が動いたが、これは『プロペラ』の静止解除を告げたのだ」
ビュウウウウン!
床に転がっていた先ほどの『プロペラ』が、再び回転を始める。
ふわりと宙に持ち上がったそれは、真っ直ぐに那由多のうなじへ飛び出し、突き刺さった。
ザクゥッ!
那由多「・・・がっ・・・!」
ギュルギュルギュルギュルギュルギュルッ!
ザクザクザクザクザクザクッ!
那由多「ああああああああああああああ」
ブシャアアアアアアアアアアアッ!
うなじに突き刺さった『プロペラ』は回転をやめず、首の肉をグシャグシャと引き裂いていった。
羽が骨に達した音が響き、真っ赤な血を噴水のように放出しながら那由多は倒れこんだ。
バタァッ!
那由多「・・・・・・・・」ドクドクドクドクドクドクドク
未来「な、那由多・・・・」
丈二「う・・・」
丈二「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
怒りと混乱の雄たけびを上げ、丈二は動けるようになった『アークティック・モンキーズ』を
敵に突っ込ませる。だが敵の方が一手速かった。
『レイト・パレード』と『アークティック・モンキーズ』は大体同程度のスピードとパワーを持っている。
戦闘能力の上で両者に明確な差が見られなければ、基本的には『先に』動いた方が『勝つ』。
L・パレード『・・・・・・・・』ブオオオオオオオオオンッ!
A・モンキーズ『!!』
丈二(『手刀』ッ!やべえッ、避けられねえッ!)
ドプンッ!
迫り来る魔の手から逃げ切るため、咄嗟に丈二は床の『赤ペンキ』に潜り込む。
だがこれは『悪手』であった。
柏「ちぃ、潜ったか・・・しかし残念だ、もう『出て来れない』・・・・」スッ
そう言うと、柏は落ちていた『リトル・ミス・サンシャイン』の『太陽電池』を拾い上げ、
『ペンキ』で描かれた床の乱雑なアートの上に落とした。
未来(!!)
柏「時間だ・・・・『発熱』を開始する」
ボォッ!
ボオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!
『ペンキ』の上に落とされた『太陽電池』が発熱し、瞬く間に炎がアートに燃え移る。
赤色の線に沿って炎は燃え広がっていき、倉庫内は炎に包まれた。
未来「な・・・・!」
柏「ふふふ・・・中で窒息か出てきて焼死か、好きなほうを選べ」
ゴオオオオオオオオオオオオオオオッ!
炎は『ペンキ』を伝い、仲間の体から流れ出ている『血液』にもその魔手を延ばす。
未来「マズイッ!那由多が燃えてしまうッ!」
那由多「・・・・・・・・」
ボオオオオオオオオオオオオオッ!
未来「くそッ!」グッ
横たわる彼女の体を抱え上げ、炎から離れる未来。
中央で燃え盛る炎の向こう側で、柏が微笑を浮かべながら出口へ向かう。
未来「待てよ!」
タタッ
ボオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!
未来「うああああっ」
すぐさま後を追いかけようとした未来だったが、炎に行く手を遮られ、進めない。
スタスタスタスタスタスタスタ・・・
柏「じゃあな、1時間したら消防車を呼んでおいてやるよ」
そう言って柏は倉庫の外へ消えていった。
未来「・・・・!!く、くそおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」
ボオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!
炎は壁を伝って屋根を焼く。那由多の体を抱えたまま、なす術なく立ち尽くす未来。
未来(脈がない・・・ダメだ那由多!死なないでくれ・・・!)
ボオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!
ドサァァッ!
焼け落ちたトタン屋根が頭上から降り注ぐ。
未来「・・・・・!」
未来(どうすればいい!? カズも那由多も丈二も、みんな死んでしまうのか!?
い、いやだ・・・・『仲間』なんだ、大切な仲間だ!絶対に失いたくないッ!)
~『赤』の中~
丈二(ダメだ、出口が見つからないッ!この倉庫にはもう『赤』がないッ!)
丈二(床の『血液』じゃ小さすぎて体を通せねえ・・・やべえ、こりゃあ・・・)
ごぽごぽごぽ・・・
丈二(マジで終わりかもな・・・)
・・・・らい
未来「!」
燃え盛る炎の轟音の中、未来はかすかに自分の名を呼ぶ声を聞いた。
未来「カズ?カズですか!?」
タタタタ・・・
カズ「・・・う・・・・未来」
未来「カズッ!あああ、よかったッ!生きてたッ!生きてた・・・・ッ!」
カズ「・・・・く・・・・首・・・・」
未来「喋らないで、今外へ運びます。」
ガシィッ!
カズの右手が未来の腕を掴む。
カズ「・・・や、やめろ・・・もう俺は・・・助からない・・・」
未来「何言ってるんです!諦めないで、必ず助けます!」
カズ「いいから・・・聞け・・・・俺は、もうダメだけど・・・・・・・・・・・・・
那由多は助かる・・・まだ・・・・首をこっちに向けて・・・・・・・」
ドバァァーーーン!
未来「!」
カズのそばに『ノー・リーズン』が出現する。本体の状態に比例するように、
『ノー・リーズン』のボディもボロボロで、割れたガラスのようにところどころ体の一部が欠けている。
ノー・R『・・・・・・・・・・』
カズ「首の傷を・・・『うやむや』にしろ『ノー・リーズン』・・・」
未来「ダメです、こんな状態で!スタンドを使う余裕なんてないッ!やめてくださいッ!」
カズ「こうしないと・・・助からない・・・・他に方法はない・・・・」
未来「ッ!ならまずは自分の傷を治してくださいッ!それからでいいはずだッ!」
カズ「ムリだ・・・あと『一回』・・・それしかできない・・・・・・わかるんだ・・・・・・・」
未来「・・・!」
カズ「二人に・・・・よろしく・・・・ときどき墓参りに来てくれたら・・・・嬉しい・・・・」
ノー・R『・・・・・・』スッ
ジュワァァァァァァッ!
那由多「・・・・・・・」
『ノー・リーズン』が那由多の首に触れ、傷を『うやむや』にしていく。
まるで自分の役目を終えたとでも言うように、最後の力を振り絞ったそのスタンドは、消えた。
カズ「・・・・・・・・」
未来(僕にはわかる、スタンドは『精神エネルギー』。『命』そのものなんだ
『ノー・リーズン』が消えたってことは・・・・カズは・・・・・・・・・・・・・)
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
スタンド:ノー・リーズン
本体:福野 一樹 死亡
本体:福野 一樹 死亡
ボオオオオオオオオオオオオオッ!
どんどんその威力を増していく炎は、倉庫のあらゆるところを破壊していく。
降り注ぐ屋根や鉄骨・・・しかし最も危険なのは『一酸化炭素中毒』だ。
体内に取り入れられた『一酸化炭素』は血液の中の、酸素を体中に運ぶ役割を持つ『ヘモグロビン』と結合する。
そうすると『ヘモグロビン』は『一酸化炭素』ばっかり運ぶようになり『酸素』を運ばなくなってしまう。
つまり極限の酸欠状態になって死ぬのだ。
モクモクモクモク・・・・
未来(出口は炎の向こう側・・・!いやだ、閉じ込められて死ぬなんてゴメンだ!
折角カズが助けてくれた『彼女』を、死なせてたまるか!)
未来「ゴホッ、ゴホッ」
『一酸化炭素』は確実に未来の体から酸素を奪い続けている。頭がうまく働かない。
この立ち込める『匂い』と『空気』が、『死』なのか。
倉庫中に燃え広がる炎とは裏腹に、未来の灯火は消え行こうとしていた。
那由多「・・・・う」
未来「!! 那由多」
那由多「・・・・どうなった?アイツは・・・・」
未来「逃げられました・・・おかげでこの有様ですよ、ハハ・・・ゴホッ、ゴホッ」
那由多「ゲホッ・・・丈二は・・・?追ってるの?ヤツを・・・・」
未来「・・・・・・・・」
那由多「ちょっと・・・何?何なの・・・?」
そのとき、倉庫の隅で横たわっていたカズに、炎が燃え移った。
それを見た那由多が叫ぶ。
那由多「!! カ、カズが!燃えてるわッ!未来ッ!カズが!」
未来「・・・・・・・・・っ」
那由多「聞こえないのッ!?カズが燃えてるのよ!早く助けないとッ!」
未来「・・・あれはカズじゃない、ただの『肉塊』です・・・・那由多」
那由多「え?な、なにそれ・・・?」
未来「カズは死んだんです・・・『死体』ですよ、あれは・・・
見ないで。自分が助かることだけを考えてください」
那由多「わかんない、何を言ってるの・・・?カズが・・・・『死んだ』・・・?」
未来「そうです。彼は死にました。残念です」
那由多「そんな・・・・」
未来「・・・・・・・・」
ずりずり
那由多「・・・・」
未来の腕を跳ね除け、那由多が体を引き摺って燃え上がる『死体』の方へ向かう。
未来「! 何してるんです!」
那由多「あれはカズよ・・・死んでもカズよ!見捨てるなんてできないッ!」
未来「やめろッ!カズの魂は天に召された!あれはカズじゃない、虚ろな入れ物にすぎないッ!」
那由多「なんで!?なんでそんな酷いことが言えるのよッ!」
未来「彼は君を助けて死んだんだ!言わせないでくれッ!」
那由多「!!」
未来「君の首の傷が塞ぎかかっているのはカズの『ノー・リーズン』が能力を使ってくれたからだ!
自分の傷も省みずに・・・!」
那由多「・・・・・!」
未来「あれがカズか?直に灰になるあれが。もしカズだと言うのなら、それは君の『命』だ
君の『命』こそが、彼を証明する世界でたった一つのものだよ。」
未来「だから死なせない、君が死んだら彼も死ぬ。・・・・完全に」
那由多「・・・・・・・・カズ・・・・!」
ボォォォォォォォォォォッ!
炎上するカズを見ていた未来は、その傍に『ペンキ缶』が転がっているのに気付く。
先ほど丈二が床に『赤』をつけるため、使用したものだ。
未来「・・・・・! 思いついたぞ」スッ
那由多「? なにを・・・・・・・?」
未来「丈二を助けて、ここから出る方法です」
立ち上がった未来はそう言うと、『ナイフ』を取り出し自分の手首を切り開いた。
ブシャアアアアアアアア!
未来「ぐ・・・・・」ボタボタボタ
那由多「!! ちょっと、何してんのよッ!」
未来「うぐ・・・・『血』を床に塗ってください。なるべく広く。人の体が通る大きさに。」
ズリズリズリ
何を考えているのかもわからずに、言われるがまま那由多は未来の血液を手で伸ばしていく。
未来「『リトル・ミス・サンシャイン』は出せますか?動かせる?」
那由多「ええ、なんとか・・・何をする気なの?」
未来「僕を殴って炎の向こうまで吹っ飛ばしてください。」
未来は『ペンキ缶』を拾い上げ、スタンドも出さずに無防備な状態で那由多に頼む。
ノーガードだ。
未来「思いっきりお願いします。」
那由多「死ぬかもしれない」
未来「構わない、やって!」
那由多「『リトル・ミス・サンシャイン』ッ!」
ドバァァァーーーン!
L・M・S『ドラァァァァァァッ!』
ドゴォォォッ!
メキメキメキッ
未来「うぐあ・・・・・・・・・!」
ドォォォーーーーン!
『リトル・ミス・サンシャイン』のパンチを受け、炎の向こう側へ吹き飛ぶ未来。
未来(ぐ・・・すごい威力だ・・・だがこれでいい・・・・)
未来「『ウエスタン・ヒーロー』ッ!『ペンキ』を殴れッ!」ドバアァァーン!
W・ヒーロー『ハァァァァァァッッ!!!』バシュッ!
『ウエスタン・ヒーロー』が『ペンキ缶』の底にわずかに付着していた『ペンキ』に拳を入れ、
そこから『ベルト』を作り出す。
未来「『赤ペンキのベルト』だ・・・!これをつければ・・・!」スチャッ
ビチャァァーーーーン!
炎の分離帯を飛び越え、出口側の空中にて未来が『ベルト』を装着する。
未来の体が『赤ペンキ』となり、缶をこぼしたように床に広がった。
未来(さあ、丈二出てきて!まだ死んでないでしょうッ!?ほら早く!)
ボォォォォォォォォォォォォォッ
だが、丈二は出てこない。
体を『ペンキ』にするというアイデアは良かったが、丈二が出てこないとそれは何の意味もない。
なんせ液状化しているので自分で『ベルト』を外せないのだ。そのうち火が燃え移って死ぬ。
このままでは、ただ自殺しにきただけだ。
未来(そんな・・・まさか・・・窒息したんですか、もう!?
ウソだろ・・・出て来い、出て来い丈二!丈二ッ!)
ズプゥッ!
そのとき、未来の体から腕が一本飛び出した。
未来(!)
丈二「プハァッ!ハァ、ハァ・・・くそ、助かったぜ・・・・!」
未来「全く、遅いんですよ!向こうに血があります。那由多を拾ってきてください」
丈二「ああ・・・・」
息継ぎをしてまた未来の体に潜った丈二は炎の向こう側、先ほど塗りつけた『血』のゲートに移動し
那由多を連れて再び未来の体から上がってきた。
丈二が未来の体に付いている『ベルト』を外し、未来が元の体に戻る。
未来「危なかった・・・もうすぐで燃え移るところでしたよ、火が」
丈二「俺が出てこなかったら、とか考えなかったのか?クレイジーなやつだ」
未来「お互いさまですよ・・・・ゲホッ!」
那由多「屋根が落ちる!出ましょうッ!」
タタタタタタ・・・・
~天野のアジト 某時刻~
天野「『ウイルス』は奪われ、仲間は死んだ・・・最悪な状況だな・・・」
丈二「まだチャンスはある。必ず取り戻してみせるさ」
未来「・・・・・・」
那由多「・・・・・・アイツのスタンド、強かった・・・どうやって倒せば・・・・」
天野「・・・・・・仕方ないな」
丈二「・・・?」
天野「私の知り合いに・・・・・協力してくれる人がいる。・・・・頼みたくはなかったが」
未来「協力?何の?」
天野「君たちのスタンドを・・・『進化』させてくれるかもしれない」
一同「!!」
丈二「なんだって?『進化』?そんなことできるのか?」
天野「スタンドは『精神エネルギー』!つまり自分自身の、『魂』の成長がスタンドに新たな力を与えてくれる・・・
こともある」
那由多「何故今まで教えてくれなかったんですか?」
天野「『くれるかもしれない』というレベルの話だからだ。実際に成功した事例を聞いたことはない。
何よりこれはとても危険だ」
未来「失敗したらどうなるんです?」
天野「・・・死ぬだろうね。十中八九」
丈二「・・・・・!」
天野「だが柏の凶悪なスタンドに立ち向かうには、もうこれしかないのかもしれない
どうする?君たちが望むなら連絡を取ろう」
一同「・・・・・・」
丈二「・・・・やるよ」
那由多「私も・・・やるわ。カズの仇を討つ」
未来「僕もやります。これ以外にヤツを倒す方法が思いつきませんから」
天野「決まりだな。私は『組織』の動向を調べてみる。君たちはその人のところへ向かえ。
死ぬなよ、必ず生きて戻れ!」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド
第8話 終了
使用させていただいたスタンド
No.113 | |
【スタンド名】 | アークティック・モンキーズ |
【本体】 | 城嶋 丈二 |
【能力】 | 赤い色のものに出入りできる |
No.181 | |
【スタンド名】 | リトル・ミス・サンシャイン |
【本体】 | 虹村 那由多 |
【能力】 | 手で触れたものを太陽熱で焼き尽くす |
No.177 | |
【スタンド名】 | ウエスタン・ヒーロー |
【本体】 | 倉井 未来 |
【能力】 | 殴った物質をヒーローベルトに変え、巻いた者はその物質が持っていた性質を取得する |
No.238 | |
【スタンド名】 | ノー・リーズン |
【本体】 | 福野 一樹 |
【能力】 | 触った物体・事象の理由をうやむやにしてその物体・事象を弱めたりなかったことにできる |
No.149 | |
【スタンド名】 | レイト・パレード |
【本体】 | 柏 龍太郎 |
【能力】 | 本体やこのスタンドが触れたものに対してのあらゆる事象の発生を数分「遅らせる」 |
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