オリスタ @ wiki

第三章『機械仕掛けの世界』その①

最終更新:

orisuta

- view
メンバー限定 登録/ログイン



薄暗い部屋で、『弓と矢の男』は3枚の写真を眺めていた。

その部屋の明かりはデスクの電気スタンドだけ。机の上に広げられた写真を照らしている。

それぞれ、紅葉、五代、四宮を写していた。

弓と矢の男「この3人の生存は今だ確認されている、どうやら私が調達した新たなスタンド使いは、2人とも彼らに倒されたらしい。」

      ……スタンド能力は何になるかわからないとはいえ、あの二人では少々頭が悪すぎたかな。」

弓と矢の男の背後に女が近づいた。

???(女)「お呼びですか。」

弓と矢の男「……ああ、君に『仕事』を頼みたいんだ。」

???(女)「!では、もしかして……!!」

弓と矢の男「まあ、早まるな。私がある組織の入団テストを受けた時のことだ。こんな質問を受けた……。

      『人が人を選ぶにあたって……いちばん大切なことは何だと思う?』答えてくれ。」

???(女)「……『何ができるか』ですか?」

弓と矢の男「そう、確かに君の能力は任務をこなすにあたって非常に役に立つだろう……。かつて私もそう答えた。

      だが、もっとだいじなこと、『何ができるか』ということよりもだいじなことがある。」

???(女)「…………」

弓と矢の男「それは、『信頼』だ。私は見えないところでの『信頼』を試されたがね……。

      仲間というものの力は互いを『信』じ『頼』るところにある。」

???(女)「……その、『信頼』を見せろと?」

弓と矢の男「そう!……さて君に頼みたいことだが、この3人……さすがにこれ以上はほうっておくことはできない。

      私はこの3人を始末するよう『命じられた』……が、ここは君を『信』じ『頼』ってみようと思う。」

???(女)「…………」

弓と矢の男「なに、3人全員を始末しろというんじゃあない。……『一之瀬紅葉』、こいつを君にまかせる。

      君が紅葉を始末してくれるのを『信じて』私は五代と四宮を相手にする。」

???(女)「……早い話が『一之瀬紅葉』を始末すればいいんですね。」

弓と矢の男「フフ、すまなかった……まわりくどい言い方をするのが私の悪いクセなんだ。だが、まわり道するのも大事なことなんだ。

      これは『最終試験』だ。君が『信』じ『頼』れる人間であることを証明してくれ。」

???(女)「そうすれば……許可していただけるのですね、『入団』を。」

弓と矢の男「ああ、私が『ボス』に推薦してやれば入団できるだろう。……われわれの『組織』に。」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……







第三章 -機械仕掛けの世界-



<五代「……俺たちはお前たちのことを『信頼』したわけじゃねー。」>

<紅葉「これから私が襲われたとしても、自分の身が危なくなると思ったら、助けなくてもいいからね……。」>



やっと、仲間ができた。同じような能力をもった仲間ができた。

はじめて………『頼られた』。



模(……そう、思っていたのは、僕の勘違いだったのかなあ……。)



4人が屋上に集まった日から5日ほど経った。

彼らとは違うクラスだが、あれから紅葉は昼休みに僕のところにくることもなかったし、

五代くんや四宮くんの姿も見ていない。

今の僕は……ただのひとりぼっちの転校生にもどっていた。

転校した時は、ひとりのほうが気楽と思っていたが、一度できた友達が離れるとやっぱりさみしかった。



ただでさえ憂鬱な月曜日の朝だというのに、気分はいつにもまして落ち込んでいた。

しかし……スタンドと出会ったことで始まった奇妙な青春はいまだに続いていた。







アイスクリーム屋の前をトボトボ歩いていると、僕は電柱の下のゴミ捨て場に気になるものを見つけた。

模「……!こ、これは………『人形』?」

それは人形……というよりアンドロイドのようなものだった。もちろん、アンドロイドなんか映画でしか見たことがないから確信はないが。

ただ、それは僕の身長ほどある女の子の人形らしきものであることは間違いなかった。

もし遠くからパッと見れば人間に見えるかもしれなかったが、

近づいてよく見ると、髪の色が鮮やかすぎるし、耳のかわりにボルトが生えていた。

模「これって……」

しかし、確かに人形ではあるのだが、妙に『リアル』だった。今にも目を開けて起き上がってきそうな雰囲気さえ感じた。

模「ラブ○ー○……ってヤツじゃないよね。」

そして僕が人形に触れようとした時、

ガラッ!

模「!!」

近くの家の窓の開く音が聞こえた。

いくら捨てられた人形だからといっても、はたから見れば死体遺棄現場だ。

僕はすぐさまその場を離れて学校へ向かった。



オバちゃん「……なんだい、またカラスかと思ったよ。……アレ?ゴミ捨て場にあんなの、早朝見たときにはなかった気がしたけど…。」







教室に入ると、いつもよりもざわついているようだった。

*「……たしか、今日から来るんだよね?」

*「ああ、『アッコちゃん』?たしか先週退院したんだっけ。」

*「そうだよ、今日だよ。きのう先生にあいさつに言ってたのみたもん!」



模(………『アッコちゃん』?)

僕が転校してきてから1ヶ月、クラスメートの顔と名前くらいは覚えたのだが、ひとりだけ顔を覚えていない人がいた。

模(……もしかして、『林原温子(ハヤシバラ アツコ)』さんのことかな?)

僕の右隣の席の『林原温子』は、前年度から入院してるらしく、一度も学校に来ていなかった。

模(『アツコ』だから『アッコ』か、なるほどね。)

キーン、コーン、カーン、コーン……

始業のベルが鳴り、担任教師が教室に入ってきた。



教師「あー…みんな知ってるかと思うが、先週までぶどうヶ丘病院に入院してた林原が今日から学校に復帰した。

   まあ、いちおうあいさつだけしてもらおう。林原!」

教師に呼ばれ、林原さんが教室に入ってきた。



模「!!!」







なんと、教室に入ってきたのは今朝見た女の子の人形だった。

そういえば、あのときもぶどうヶ丘高校の制服を着ていた。

くりっとした目を輝かせて、ヒョコヒョコ歩いていた。

彼女はさも当然のように教壇にあがり、教師の横に立った。

しかし驚いたのは、クラスメートがみんな歓迎していることだった。

*「アッコちゃん、おかえりー!!」

*「ピューピュー!」

彼女の異様な姿を疑問に思う人は一人もおらず、『林原温子』に驚いているのは僕だけだった。

アッコ「えート、退院のゴあいさつというコトで………ただいマーっ!!」

*「ワァーーーーッ!!!!」

*「ピューピュー!!」

思考をもって自律運動をしているのを見る限り、彼女は『人形』ではないらしい。

……どうやら、彼女が『アンドロイド』もしくは『サイボーグ』であること以外はただのクラスメートに変わりないようだ。



教師「あー……林原、自分の席は分かるな?……そう、1コ空いてる席だ。」

アッコ「はいはーイ。」

林原さんは僕の右隣の空いている席に座った。そしてこっち側を振り向き、

アッコ「キミ……『転校生』だよネ?」

模「あ……ああ、うん。」

アッコ「………これからヨロシクネ」ニカッ

とっても怪しいけど……悪い人ではなさそうだった。







学校からの帰り道、なぜか林原温子は僕についてきていた。

模「あの……林原さん。」

アッコ「『アッコ』でいいヨ。」

模「………アッコさん。」

アッコ「『アッコ』!」

模「……アッコ、どうして僕についてくるの?」

アッコ「エと………」キュルキュルピー…



アッコは少し考えて(何か音がしたが気のせいと思いたい)、

アッコ「……バクのことが好きダカラだよ!」

模「…………」

いきなり告白された……が、さすがにこれを真に受けるほど僕はバカじゃない。

模「ハハ、何言ってるの。今日会ったばかりじゃない。」

アッコ「うーん……でも、アッコはバクのコト、気にいッタの!」

模「…………そう。」

でも、悪い気はしなかった。転校生の僕に積極的に話しかけてくる人なんてこれまでいなかったからだ。

アッコ「これかラあたしのウチにきなよ!」グイッ

模「え……ちょ、ちょっ!」

アンドロイドだからか、ものすごい力でひっぱられ僕はアッコのうちに連れてかれた。







連れてこられたのは霊園の近くにある小さな工場だった。

模「……『武田モータース』?」

アッコ「そウ、あたしここで『リク』おねーちゃんとくらしてるノ。」

工場のガレージにはいると、車の下にもぐりこみ、作業をしている人がいた。

アッコ「リクねえちゃ~ん、タダイマー!!」

すると、車の下から女の人が顔を出し………そして、『5人の小人のようなものが飛び出てきた。』

スペア1「ウォーッ、アッコダァーッ!」

スペア2「リクー、アッコ帰ッテキタゾ!」

模「えっ!!えっ!?なんだこいつらは!?」

アッコ「バク、この人が『武田陸(タケダ リク)』おねえちゃんだよ。」

陸「おー、おかえりアッコ。……ん?誰だこいつ。」

模「あ……ど、どうも。杖谷模と言います。」

スペア3「ナンダァー、コイツ。アッコノ彼氏カ?」

スペア4「ホホウ……オレノアッコニ目ェツケルタァ、女ヲ見ル目ガアルナ。」

模「あの………この、ちっちゃいのは……。」

スペア5「ミギィッ!?」

スペア3「ヤベェ、コイツ俺達ガ見エテルゾ!」

陸「………おれのスタンドが、見えるのか?アッコ、なんなんだよこいつ。」

アッコ「ニヒー。」

模「えっ……てことは。」

アッコ「ソウ、アタシも『スタンド使い』だヨ。」

模「ええええええええええ!!」

陸「『スタンド使い』は『スタンド使い』にひかれ合う……やっぱり本当なんだな。」

僕の前に突如現れたアンドロイドの少女『林原温子』と、整備士の『武田陸』。

この二人との出会いは偶然なんだろうか、それとも……。






【スタンド名】
スペア・リプレイ
【本体】
武田陸(タケダ リク)

【タイプ】
群体型

【特徴】
目が歯車になっている小人型 5体いて、性格はまばら

【能力】
生物・無生物を問わず、整備する。
整備されると、本来以上の性能や能力を引き出せたり、傷や怪我、体調不良なども改善することができる。
5体それぞれに担当が決まっていて、1体でもやる気をなくして手抜きをすると、担当分野で不備が起きる可能性も・・・

破壊力-D
スピード-C
()
射程距離-A

持続力-B
精密動作性-A
成長性-B






<模「ねえ、『味方』……にはなれないかな。」>

<模「僕たちはみんな、『弓と矢の男』に狙われてるんだ。

  もし、これから誰かが襲われた時、みんなで助け合えないかな?そうすれば『弓と矢の男』だって……」>



日が沈み、空が闇に染まりつつある頃、五代衛と四宮藤吉郎は杜王町の西にある霊園近くの河川敷を歩いていた。

五代「…………」

四宮「…………どうした。」



五代「……他人は信用できない。特に、『味方』なんて言って近づこうとするやつはな。そうだろ、四宮?」

四宮「…………」

四宮は何も言わなかったが、五代は昔から四宮が否定をしないのは『肯定しているのと同じ』意味であることを知っていた。







五代と四宮の生まれは杜王町であったが、ふたりとも孤児だった。

孤児院で一緒に暮らしていた五代と四宮は、幼いころ草むらに落ちていた『矢』(音石明が虫食いを撃ったもの)で手を傷つけてしまい、

四宮は傷口から『糸』があふれだし、五代は傷つけた人差し指が『2倍』の長さになってしまった。

(これがスタンド能力の発端であることをこの時二人は知らなかった。)

孤児であることだけでなく、普通の子どもにはない異様な特徴を持っていることで、ふたりはますますいじめられるようになった。

それからしばらくして、東京からきた実業家がふたりの里親になりたいと申し出てきた。このとき二人は10歳だった。

これまで誰ひとりとして味方がいなかった二人にとって、この男はかみさまのように見えた。

二人はこの実業家の子どもとなり、杜王町を離れることにした。

しかし、この男はかみさまなんかじゃなかった。

二人は『奇形児』としてほかの身体障害をもった子どもとともにテレビに出させられ、実業家はその出演料をがめていたのだ。

人間らしい世話はされず、まともな教育さえ受けることもできなかった。このころの二人は茫然自失だった。

テレビの倫理が問われるようになったため、二人がテレビにでることはなくなり、実業家にとっての二人の価値が失われた。

それから少したったある日の夜のこと、四宮は男の寝室に呼ばれた。

息を荒げた男は四宮の服をはがし、ベッドに四宮を抑えつけた。

四宮が見たその男は、人間の目をしていなかった。四宮は、もう何も考えることができなかった。

しかし、そのときであった。男は後ろから何者かに殴られて、悲鳴を上げて床に転がった。

男の後ろには五代が立っていた。そして、その隣には人型のビジョン……この時初めて五代は『スタンド』を発動させた。

頭を五代のスタンドに殴られた男はそばにあったガラス製の灰皿を手にし五代に襲いかかった。

しかし男は五代に近づく前に、後ろから首を『ひものようなもの』で引っ張られた。

このとき四宮もまた、はじめて『スタンド』を発動させた。『スロウダイヴ』の糸を男の首に巻き、引っ張っていた。

それから二人は無我夢中だった。五代はスタンドで男の体を押さえつけ、四宮は『糸』で男の首を締めあげる。

しばらくすると男は力を失い、息をしなくなった。

そのまま二人は男の家から逃げ出し、故郷の杜王町に帰っていったのだ。

翌朝、実業家は自宅で死体で発見された。死因は事業失敗が原因の『自殺』と発表された。

それから四宮の手の傷口はふさがったし、五代の指も元に戻ったが、もう二人は他人を『信頼』することができなくなった。

二人は奨学金制度でぶどうヶ丘高校に通い、カツアゲとパチンコで生活費をまかなっていた。

そして……今日、二人の運命はまたも大きく変わろうとしていた。







四宮「………!」

五代の前を歩いていた四宮は足を止めた。

五代「どーした、四宮……。」

四宮「………前から歩いてくる男、気をつけろ。」

周囲がすっかり暗くなった中、河川敷そばの道のむこうからこちらに向かって歩いてくる男がいた。

帽子を目深にかぶっており、犬を連れて歩いている。犬の散歩をしているようだった。

五代も足を止め、近づいてくる男を観察した。

男「………」ヒタヒタ

犬のほうも注視する。しつけができていないのか、じたばた落ち着きのない様子だった。

犬「ギャン……キャン…!」

五代(四宮……おまえの『スロウダイヴ』だ。ちょっと足を引っ張ってこかしてみろ。)

四宮「………」コクッ

男が、帽子の縫い目が見えるところまで近づいてくる。

五代と四宮は黙ったままだったが、男から発せられる異様な雰囲気を感じ取った。

男のスピードは変わらず、リードを持ったまま歩いている。

男が、五代と四宮にすれ違う。五代と四宮、そしてその男は視線を合わさなかった。

そして、男が通り過ぎた瞬間に四宮は右手だけを動かして、男の足をめがけて『糸』を発射した。







ビシュゥッ!



しかし、『糸』は足に当たらなかった。……というより、『糸』が足をすり抜けた。

五代「!!」

五代も、たしかに『スロウダイヴ』の『糸』が発射され、足に触れるのを見た。

しかし四宮の手には、命中した感覚がなかった。

そして、男は立ち止まった。手に持っていたリードを離すと、犬はおびえるようにその男のもとから逃げていった。

五代「て、てめーはいったい………」

男は背を向けたまま話しだす。

男「…………通り過ぎてから一発で腹をブチ抜くつもりだったが……さすがに『殺気』を出し過ぎたか。

  いや、それにしても見破るなんて、さすがは君たちだよ。」

五代「もしかしててめーが……『弓と矢の男』か?」

男「『弓と矢の男』?……ははあ、なるほど。私の存在が君たちに知れて、そう呼ばれているわけだ。

  鎌倉か……三田村がしゃべっちゃったかな?私の顔が割れるのはまずい。まずいが、まあ許してやることにしよう。」



弓と矢の男「これから君たち二人は『死ぬ』のだからな。『死人に口なし』だ。」

そして『弓と矢の男』は振り向いた。それと同時に五代が攻撃を繰り出す。

ワン・トゥ・ワン「オラァッ!!」

弓と矢の男「五代のスタンド『ワン・トゥ・ワン』……あらゆるものを『2倍』にする能力をもつ。つまり……」

ブオンッ!!

ワン・トゥ・ワンのパンチと同時に腕が2倍に伸びた。

……が、その攻撃は『弓と矢の男』の体を『すり抜け』、命中しなかった。

弓と矢の男「パンチ力と腕を2倍に伸ばすスピードが重なり『2倍』ってところだろう?五代よ。」

五代「な……何だと……。」

四宮「さがれ……五代。」

四宮は『スロウダイヴ』を発動し、糸で作った大きな輪で『弓と矢の男』をかこった。

四宮「『スロウダイヴ』……締め上げろ。」

ズギュゥン!

弓と矢の男「そして四宮のスタンドは強い強度と粘性をもった『糸』を自在に操る能力……。」

弓と矢の男を中心にかこった糸の輪は急速に小さくなって弓と矢の男に迫っていく。

しかし、その輪は弓と矢の男を締め上げることはなく、糸は体をすりぬけて弓と矢の男の足元にパラリと落ちた。

四宮「……!」

五代「な………」

弓と矢の男「と~っても驚いているな。そう、私のスタンド能力は『超スピードとか!催眠術じゃあだんじてねー』。

      さあ、それでも勝てるつもりなのかな?」







四宮「…………」

弓と矢の男「あと、逃がすつもりはないよ。君たちはいささか我々の『邪魔』をしすぎた……。

      抵抗しなければスタンドを再起不能にするくらいですませてやったが、君たちにはその気もないだろう。」

五代(『ワン・トゥ・ワン』も、『スロウダイヴ』の糸も効かない……)

五代は道の遠くから2つのライトが近づくのが見えた。

五代(『弓と矢の男』は……正体がバレるのを恐れている。……一般人がいるところではスタンド能力をつかわないだろう。)

弓と矢の男「さあ、覚悟したまえ。最期の言葉くらいは聞いてやるぞ?」

2つのライトがさらに近づく。重いエンジン音、大型トラックのようだった。

五代(トラックが来ると同時にこいつを殴る。刺し違えてでも、四宮を死なせるわけにはいかねえ。たった一人の『仲間』を!)

ブオオオオオオオオオ!!!

大型トラックが、間近に迫ってきた。

五代「いくぜ……『ワン・トゥ・ワン』!」

五代が『弓と矢の男』に向かう。『弓と矢の男』も身構えた。



しかし、前に進もうとしていたはずの五代は後ろに大きく『引っ張られた』。

五代「な……!」ドギュン!

ゴオオオオオオッ!!!

弓と矢の男「!」

五代は見た。自分の胴に『スロウダイヴ』の糸が巻かれているのを、

そしてその糸の先が、大型トラックの後ろにつながっているのを。







四宮「『スロウダイヴ』………ずっと遠くまで、五代を逃がしてくれ。」

五代「なッ………四宮!!」

四宮「………こいつには勝てん。………せめて、おまえは逃げてくれ。」

ガシッ!ゴガッ!ドガッ!

五代の体は大型トラックにひきずられ、そのまま遠くへ連れられていった。

五代「てめえ、まさか……しのみや、しのみやああああぁぁあああ!!」

四宮「……………さよならだ、五代。」



弓と矢の男「クックック……すばらしい『覚悟』だ、四宮藤吉郎。気に入ったぞ、その心意気!

      いいだろう、その心意気に免じて五代は見逃してやる!!いい生き様を見させてもらったぞ、四宮!!」

五代「くそ……ちくしょう……」

五代はスタンドで糸を引きちぎろうとした。

……が、その糸はいつもより太く、引きちぎることができなかった。

弓と矢の男が四宮に近づいていく。四宮は抵抗しようとさえせずに立ち向かっていた。

五代の視界から四宮と弓と矢の男がどんどん遠ざかっていく。

五代は四宮のいる方向をじっと見つめていた。

大型トラックに引きずられる痛みすら五代は感じなかった。





闇に染まる景色の中で、紅い光が小さく輝いた。







『武田モータース』にひっぱって連れてこられた僕は、なりゆきで晩ごはんまでごちそうになってしまった。

陸さんのスタンド『スペア・リプレイ』たちはトンカツを一切れずつ食べていた。

スペア1「うがぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ」ガツガツ

スペア3「うぎゃあ――うぎゃあー」バクバク

模「えーと……『スペア・リプレイ』は『整備・修理』するスタンドなんですよね。」

陸「そーだよ。スペア1は切り傷やすり傷のような外傷を治す。」

スペア1「傷ナンテコノ『レンチ』デ『ツマンデ』『ヒネッ』チマエバオッケーオッケーヨォ!」

陸「スペア2は骨折や脱臼なんかを治す『整形外科』。」

スペア2「骨ガ粉々ニナローガ、ハズレヨーガ、俺ガビチット『ネジ』デ留メテヤルヨ。」

陸「スペア3は体の中の病気を治す。」

スペア3「病ノモトをコノ『ハンマー』デブン『殴ッ』チマッテ、アトハスペア1ニ任スンダケドヨォー。」

陸「ま、こいつらは生物専門なんだ。魔法のようにパパッと治すわけじゃねーから、

  バイクと一緒に事故った奴も治せーってのはできねーけどよ。

  んで、スペア4は生物じゃなくて無生物を直す。アッコのメンテナンスなんかはスペア4だけでやってるんだ。」

スペア4「ボウズ、俺ノ目ガ黒イウチハ、アッコニ手ハ出サセネェーゼ……。」

スペア5「え――ん、え――ん……。」

陸「ン、どうしたのスペア5。……アッ、スペア3!人のモノ盗るなっていつも言ってるだろ!!」

模「……その、気の弱そうなのは?」

陸「心療内科・精神科のスペア5だ。心の病なんかを治すんだが、あんまり活躍の機会がないから5人の中で立場が弱いんだ。

  おれはえこひいきしないように気をつけてるぜ。誰かにふてくされちゃバランスが崩れてミスもでるしな。」

アッコ「ホらースペア5、あたしのいっコあげるヨ。」

スペア5「アリガトー、アッコォ。」







食事が終わり、模は片づけを手伝っていた。

模「…………陸さん。」

陸「ん――?」ガチャガチャ

模「アッコって、いったい何者なんですか?」

陸「…………アッコは、私の死んだ妹なんだ。」

模「…………」

陸「昔オヤジとオフクロがいたころ、ウチは整備工場じゃなくて車の部品を作る工場をやってたんだ。

  で、おれやオフクロが目を離していたら、アッコが工場の機械に巻き込まれて死んじまったんだ。

  悲しみに包まれた我が家に機械工学の博士がやってきて、アッコの亡骸を連れて行った。

  ………3ヶ月後、サイボーグになったアッコが帰ってきたんだ。今はオヤジもオフクロもいないけど――」

模「………あの、ウソですよね?」

陸「……あ、ばれた?アハハハ!」ジャ――

陸「わりィ、わりィ。おれは一人っ子だよ。アッコは人形に『矢』が刺さって発現した『スタンド使い』なのさ。

  スタンドを持つことで、意志をもったんだ。」

模「人形がスタンド使いに……。」

陸「アッコもヘンなやつでさあ、人形の体であることをいいことに、『改造してくれ!』なんていうんだよ。

  そしたらスペア4がはりきっちゃって。」



模「………アッコがなんで僕がスタンド使いだと分かったのかわかりませんけど、どうしてここに連れてきたんでしょうか。」

陸「?」

模「今、この街のスタンド使いが狙われているんです。アッコは、僕が敵だとは思わなかったのかな……。」

陸「………アッコは、仲間を見つけたのがうれしかったんだと思う。」

模「え?」

陸「君も経験ないかな?自分に見えるものが、他人に見えないことのさみしさ。」

模「………『スタンド』ですか。」

陸「『スタンド使い』って、その能力の強さの半面、心のどこかで弱さを持ってるんだよ。」

模「………」

陸「アッコも学校に復帰してすぐになじめるのか心配だったんだけど……君がいるなら大丈夫だな!」



キキィーッ

パパァーッ!パパァーッ!

車のクラクションが聞こえた。

陸「ん、こんな時間にお客さん?」







ガレージから外に出ると、大型トラックが止まっていた。

陸「どーしたんですかー?」

運転手「いやー、タイヤがパンクしちゃってよォ。何でかわかんねーけど、後輪の後ろのタイヤだけがパンクしたんだ。

    おかしいだろ?何か踏んだんなら後輪の前のタイヤがパンクするはずなのによー。」

確かに、後輪の二つ並んだタイヤの後ろのタイヤだけがパンクしていた。

陸さんがタイヤを見ていると、トラックの荷台から人が降りてきた。

???「ようやく……とまってくれたか。」

陸「何!?………う、うわっうわあああああ!!」

荷台から降りてきたのは、全身血だらけの五代くんだった。

模「ご………五代くんッ!!!」

五代「!……模、おまえがなぜここにいるのかしらねーが……この『糸』、切ってくれねーか。」

五代くんを見ると、腰からトラックに『糸』が垂れ下がっていた。

これは……『スロウダイヴ』の『糸』だ。そして、傷だらけの五代くん……。

………僕は五代くんになにがあったのか悟った。

模「五代くん……まさか、新手のスタンド使いに襲われて……!」

五代「いいから……糸を切ってくれ。……はやくいかねーと……。」

模「う、うん……。」

そしてセクター9で糸に手をかけると、『糸はもろく簡単にちぎれた』。



……五代くんの顔が青ざめていった。『スロウダイヴ』の強靭な『糸』がもろくなるという意味……

五代「しっ、四宮……!!」

五代くんは傷だらけにもかかわらず走り出した。

『スタンド使いの意志が強ければ強いほどスタンドも強くなる。』

………もし、これがそれと逆の意味を表しているんだとしたら………。

そして、僕も五代くんの後を追って走り出した。







霊園近くの河川敷につくと、先に来ていた五代くんを見つけた。

五代くんは、四宮くんを抱きかかえていた。四宮くんは、わき腹がえぐられて、大量の血を流していた。

五代「おい……四宮、返事しやがれ。」

四宮くんは五代くんの腕の中でぐったりしていた。

模「し……四宮くん……。」

僕は四宮くんのそばに駆け寄った。

五代「近寄るんじゃねえ!」

模「!」

そう、僕はまだ五代くんに信用されているわけじゃなかった。

長い付き合いだった五代くんにしかわからない気持ちもあるかもしれない。……でも、

模「セクター9!」

五代「四宮に触れるな!」

模「四宮くんはまだ生きてる!弱くとも『スロウダイヴ』の糸はまだ残ってるんだ!」

五代くんの体には『スロウダイヴ』の糸がからまったままだった。

五代くんはその糸を手に取った。

スタンドの力でも引きちぎれないというその糸は、今やそれこそ本物の蜘蛛の糸ほどにもろくなっていた。

模「第一の世界『波紋の世界』で、生命エネルギーを送り込む!」

セクター9「コォォォオオオオオオ……」





セクター9の手から四宮くんの体に温かい光が流れ込む。

すると、四宮くんの手がわずかに動いた。







五代「!……おい、四宮!」

セクター9が生命エネルギーを送り続けると、今度はかすかに口元が動いた。



四宮「…………五代……いるの…か?」

五代「!」

四宮「………目……みえない……。」

五代「おい模、四宮は……助かったのか?」

模「…………」

四宮「………五代、おま…え…に、いいたいこと……あるん…だ…。」

五代「ああ、敵(かたき)は……おまえの敵は絶対に取る。」

四宮「…………ち……が…う。」

五代「……」

四宮「……あの…夜、俺は……もう、……どうでも…よかっ……た。

   ………なすがまま……その…あとは……死ねば…いい…と………思った。」

五代は昔を思い出した。実業家の男を殺した日のことを。

四宮「………だが…おまえ……は、…助けて……くれた……。

   おれ……は、おまえのことを……考えも…せず、ただ……死にたい……とだけ……思っ…た。

   でも……おまえは……違っ……た。………生きよ…うと………した…だけじゃ……なく、

   ………おれ……も………救ってくれ………た。」

五代「いい、四宮。もうしゃべるな……!おい、模!まだなのかよ!!」

模「命の灯が、消えていってる!生命エネルギーが………追いつかない!!」



四宮「…………五代…『味方なんて言って近づこうとするやつは信用できない』……なん…て、言うな。

   それは……『おまえ』…なんだ。いつ……も、『味方』だ……と……おれに…手を…差し伸べたのは、おまえなんだ。

   そ…して、……おれ……はそれに…救われて……い…たんだ。」

五代「!!」

四宮「………きょう……やっと………今度は、おまえを…救って……やれ…た……。

   ……………お返し…だ。」

一度輝きを取り戻したと思われた『スロウダイヴ』の『糸』は、さっきよりももろくなり、ちぎれ始めていた。

五代「……おい、四宮。……待てよ、四宮!!」

四宮「…………ご……だい………………また…な…。」







セクター9が生命エネルギーを送り続けても、四宮くんは二度と動くことはなかった。

『スロウダイヴ』の『糸』は、線香の煙のようにふわふわと舞いあがり空気に混じって消えた。



  四宮藤吉郎  
   -死亡- 







五代「………なあ、模。」

模「…………」

五代「いまさら俺を『信頼』してくれとは言わない。……だが、頼む。

   力を貸してくれ。四宮を奪った……あいつに、この恨みを『倍返し』……してやりたいんだ。」



暗闇に包まれた河川敷。……その空に冷たい雨が降りはじめた。


降りしきる雨に濡れても、僕と五代くんは動かなくなった四宮くんを見下ろしてじっと立ち尽くしていた。

どしゃぶりの雨の中……五代くんの頬に一筋の雫が流れ落ちた。




それは雨だったのか、それとも――――





  弓と矢の男:スタンド能力……不明  





to be continued...



< 前へ       一覧へ戻る       次へ >





当wiki内に掲載されているすべての文章、画像等の無断転載、転用、AI学習の使用を禁止します。




記事メニュー
ウィキ募集バナー