現在の登場人物
■ 杖谷模
仲間を見つけたと思われたが、折が合わず傷心。しかし、四宮の死をきっかけに五代と本当の仲間になる。
【スタンド名】
サウンド・ドライブ・セクター9
【能力】
相手と同じ「世界」に「入門」する能力。
- 第一の世界『波紋の世界』
- 第二の世界『衝撃の世界(ブラック・スペード)』
■ 一之瀬紅葉
スタンドの存在を教えたことで、『弓と矢の男』との戦いに模を巻き込んでしまったのではないかと心配し、現在は自ら模と距離を置いている。
【スタンド名】
ブラック・スペード
【能力】
衝撃を操作する能力。
■ 五代衛
幼いころの経験から、四宮以外の人間を信用できなくなっていた。
四宮の死をきっかけに『弓と矢の男』に復讐を果たすため模と仲間になる。
四宮の死をきっかけに『弓と矢の男』に復讐を果たすため模と仲間になる。
【スタンド名】
ワン・トゥ・ワン
【能力】
あらゆるものを『2倍』にする能力。
■ 四宮藤吉郎(死亡)
五代と同じく幼いころのトラウマから、五代以外の人間を信用できなくなっていた。
圧倒的な力を持った『弓と矢の男』から自分の命と引き換えにして、五代を守った。
圧倒的な力を持った『弓と矢の男』から自分の命と引き換えにして、五代を守った。
【スタンド名】
スロウダイヴ
【能力】
強い強度と粘性をもった糸を出し、自在に操る能力。
■ 林原温子(アッコ)
小さな整備工場「武田モータース」をひとりで切り盛りしている女性。アッコの姉的存在。
ちなみにスタンド能力はアメリカのアリゾナ州をバイクで旅していた時に、奇妙な事故に巻き込まれ身についた。
ちなみにスタンド能力はアメリカのアリゾナ州をバイクで旅していた時に、奇妙な事故に巻き込まれ身についた。
【スタンド名】
スペア・リプレイ
【能力】
生物・無生物を問わず、『整備・修理』する能力。
■ 鎌倉銀次郎
世の中vs俺、連戦連敗。最近ひきこもりがちになっている。
【スタンド名】
レッド・サイクロン
【能力】
射程内のものを『掴む』能力。
■ 弓と矢の男
杜王町に潜む『陰謀』。五代・四宮と接触する。『組織』の指令をうけて行動しているらしいが……?
【スタンド名】
?
【能力】
スタンド攻撃が体をすり抜ける。「超スピードや催眠術では断じてない」らしいが、詳細は不明。
友達は、つくらない。
<紅葉「……もしかしたら、あんたはいい『仲間』になれるかもしれない。」>
仲間は『弱さ』だ。
<紅葉≪ばっ、模……ハッ、す、すぐに来てッ!『定禅寺一丁目』!≫>
仲間を作ると、人は『弱さ』を露呈する。
<模「紅葉は『波紋』の力を、『僕』の力を必要としてくれたんだろ!?
『はじめて』なんだッ!この僕を頼りにしてくれたのは紅葉が『はじめて』なんだッ!>
私は強くあるために、私の生き方を貫く。
信じられるのは自分だけだから。
紅葉(そう……決めていたはずなのに。私、矛盾しているなあ………。)
四宮が死んだ次の日、紅葉は授業中に教室の窓から外を眺めながら、この一週間のことを思い出していた。
朝のHRで、他のクラスの四宮藤吉郎が死んだと教師から告げられた。
原因は未だわかっていないと教師は言ったが、おそらく新手の『スタンド使い』にやられたんだろう……と、紅葉は思った。
紅葉(次は私あたりかな……。)
四宮が死んだことで自らの危機意識は高まったものの、四宮の死に対して紅葉は同級生が死んだこと以上の悲しみを感じなかった。
<模「僕たちはみんな、『弓と矢の男』に狙われてるんだ。
もし、これから誰かが襲われた時、みんなで助け合えないかな?そうすれば『弓と矢の男』だって……」>
<五代「心配されんでも俺たち二人は絶対に負けない。」>
紅葉(……やっぱり、仲間を作ることなんて『弱さ』にしかつながらない。
仲間がいるって安心感で……危機意識をにぶらせるんだ。四宮はもしかしたら五代を助けたのかもしれない。
……でも、自分が死んでしまったんなら何の意味もないじゃない。)
<紅葉「助け合うことが、自分の身を危険にさらすこともある。模……自分を守れるのは、自分だけなのよ。」>
紅葉(そう……孤独こそが『孤高』。自分の命を守るためには、仲間をつくるべきじゃない。)
紅葉(これまで……『弓と矢の男』が狙っていたのは『私』。『模』は……関係がない。
これは、私の問題なんだ。模を巻き込むわけにはいかない。)
プツッ
紅葉「痛っ!!」
紅葉の指に刺激が走った。思わず紅葉は声を出してしまった。
指先を見ると、赤く腫れているようだった。
プゥ~ン……
羽音が聞こえ上を向くと、小さなハチみたいな虫が飛んでいた。
紅葉(……ッチ、虫が飛んでたのにも気づかないなんて……。)
そして気がつくと、クラスの視線が紅葉に向いていた。
教師「おいどうした一之瀬。」
紅葉「………」
紅葉は教室内を見回した。クラスメートのほぼ全員が紅葉のほうを見ている。
紅葉「…………ちょっと虫に刺されたので驚いてしまったんです。
すみませんが、保健室に行ってもいいですか。」
教師「ン、わかった。……おい○○!ついてってやれ。」
○○「エエッ、俺ですか?そりゃ保健委員ではありますけど……。」
紅葉「いいです先生、薬もらってすぐ戻りますから。」
そういって紅葉は一人で教室を出て行った。
紅葉が保健室に入ると、保健医の先生はいなかった。
ベッドは一つだけつかわれており、仕切りのカーテンが閉められていた。
紅葉はソファに座り、右手の指先をみた。さっきよりも少しだけ膨れているようだった。
すると、ドアがガラガラと開く音が聞こえた。
ドアのほうを見ると、紅葉のクラスメートだった。
女子生徒「だいじょうぶー?」
紅葉「……えっと、あなたは……。」
女子生徒・ナナ「ナナだよう。あはは、さっきは急に声出したからびっくりしたよ。」
紅葉「いえ……それで、どうしたの?」
ナナ「ああ、いやあの先生無神経だよね。保健室行くのに、女の子には言えない理由だってあるのにさ。
心配になって来ちゃった。あっ、私ナプキンある場所知ってるよ?」
そう言ってナナはソファの後ろの棚へ向かった。
紅葉「いや大丈夫。ホントにただの虫さされだから。」
ナナ「あはは、そうだったんだ。私の思いすごしだったんだね。じゃ、虫さされの薬出してあげるね。」ガララ
紅葉「…………」
ナナ「それにしても驚いたよー。紅葉ちゃんってクールな人だと思ってたけど、ハチが手にとまってたのにも気づかないなんて!
意外とかわいいミスするんだね~。なんか親近感わくよ。」
紅葉はひとつだけ使われているベッドのほうを見た。
……そこから、異様な気配を紅葉は感じた。
ナナ「あれ~?虫さされの薬どこだったかな~?」ガサゴソ
紅葉「ナナ、………動かないで。」
ナナ「!」ピクッ
紅葉「ナナ、さっきあなたなんて言った?」
ナナ「え……え?……虫さされの薬どこだったかな…って。」
紅葉「……その前よ。私が『ハチ』にさされたって言わなかった?」
ナナ「え、そうだけど………。」
紅葉「私は『ハチに刺された』なんて一言もいってないよ。『虫に刺された』と言ったの。
たしかに私はハチのような虫に刺されたけど、どうしてあなたはそれがわかったの?」
ナナ「だ……だって、わたし、教室にハチが飛んでたの見たから……。」
紅葉「『本当にハチが飛んでいたのかしら?』私が刺されて思わず声を出した時、教室内の人はみんな私のほうを向いていた。
あのときも耳障りな羽音は聞こえていたけど、『だれもハチのほうは見ていなかった』。」
ナナ「それは、みんな紅葉ちゃんの声にびっくりしたからで……。」
紅葉「そもそも、教室にハチが入ってきて『みんな黙っている』と思う?
特に女子なんかはハチをみただけで大騒ぎする人のほうが多いんじゃない?」
ナナ「…………」
紅葉「でも、確かにハチはいたし羽音も聞こえた。それなら、どうして『私』と『あなた』だけがハチに気づいたのかしら。」
ドドドドドドドドドドド……
紅葉は『ブラック・スペード』を繰り出した。
そして『ブラック・スペード』は拳をゆっくりナナの目前に近づける。
ナナ「………ッ!」バッ
紅葉「どうしたの?どうして私から離れたの?私は何もしてないよ。それとも、『なにかみえたのかしら』。」
ナナ「~~~~~~~~~っ!」
紅葉「さあどうしたの。私が心配で来たのなら、早く棚から薬を出して私に渡してちょうだい。
早く、早く、早く、早く!早く!早く!早く!早く!!」
ナナ「くっ……くく……『クイーン・ビート』ぉ!!」
紅葉「『ブラック・スペード』!!」
バシィン!!
『ブラック・スペード』のパンチは、ナナの『スタンド』にガードされた。
ナナの繰り出した『スタンド』は、巨大な『ハチ』の形をしていた。
紅葉「やっぱり……あのハチみたいなのは『スタンド』だったんだね。」
ナナ「………フフ、思わず口がすべっちゃったね。でも、問題はない。
紅葉、あんたはすでに『クイーン・ビート』の攻撃を受けている。」
紅葉「これが……あんたの『能力』ってわけだ。」
ナナ「そう、おかげで私はこの通りの無傷。」
小さくなった『クイーン・ビート』に刺された紅葉の右手中指の腫れは、ビー玉ほどのサイズに『膨れて』いた。
この腫れが邪魔をしてうまく拳を握ることができなくなり、『ブラック・スペード』の攻撃力が落ちていたのだ。
むしろ変に拳を握ったことで『ブラック・スペード』の右手にダメージを負ってしまった。
ナナ「『クイーン・ビート』は刺した場所を『膨らませる』能力。
刺された場所はどんどん膨らんでいくわ。」
紅葉「これも……アンタの仕業なんだね。」シャッ
紅葉が使われていたベッドのカーテンを開けると、そこには首が風船のように大きく膨らんだ保健医の先生が横たわっていた。
保健医「うぐ……んっく……。」
首を膨らませたことで血管と気管が圧迫され、声すら出せず苦しそうだった。
紅葉「私があんたの正体に気づかなかったら……いまごろこうなってたわけだ。」
ナナ「棚のなかの薬を探すふりして、後ろから首筋に『クイーン・ビート』で刺してやるつもりだったけど……さすが紅葉ちゃん。
『あの人』から聞いていたとおり、何度もスタンド使いと戦っているだけあって用心深いわね。」
紅葉「やっぱり、『陰謀』の……『弓と矢の男』の刺客だったんだな。だが私は……『戦う覚悟』はできている。」
ブチャッ!
紅葉「ッ!」
紅葉は『ブラック・スペード』で右手の腫れをつぶした。
水ぶくれのようになった腫れは破裂した。
ナナ「あらあら~痛いでしょう?火傷したときのように、なにもしなくても痛むでしょう?」
紅葉「だが、これであんたをブン殴ることはできる。みたところそのスタンドは近距離型であるかもしれないけど、たいしたパワーは持ってない。
パワーはAクラスの……『ブラック・スペード』と張り合える?」
今、紅葉とナナは5メートルほどの距離をあけて立っていた。
ナナ「そうだね。手をケガしてるとはいっても、さすがに今度の攻撃は防御しきれないだろうね。
……でも、もう一度『クイーン・ビート』で刺してみたらどうかな?」
ナナは『クイーン・ビート』を繰り出した。
紅葉「やってみろ。あんたのスタンドが針を刺す前にあんたの顔をふっ飛ばしてやる。」
紅葉も『ブラック・スペード』を出し、ナナに歩み寄る。
ナナ「『ブラック・スペード』……様々な衝撃を操作する能力を持つ。」
紅葉「あんたに対してその能力は必要ないね。ただブン殴るだけだからなあ!」
紅葉とナナの距離がさらに近づく。
ナナ「……『思い込む』ということはなによりも『恐ろしい』。
しかも自分の『能力』や『才能』を優れた者と過信しているときはさらに始末が悪い……『クイーン・ビート』!!」
クイーン・ビート「BEEEEEEEEEEEEEEEE!!!!!!」ドシュウ!
クイーン・ビートは尾の先についた『針』を紅葉に向けて発射した。
紅葉「!『ブラック・スペード』、ガードしてッ!!」
ナナ「遅いッ!!」
ビシッ!
『針』は紅葉の左手首に命中し、腫れあがった。
ナナ「私の『クイーン・ビート』をただでかいだけのハチだと思ったのかしら?
『クイーン・ビート』の『針』はパチンコのように飛ばすことができる……。
今度は手首に命中したね?その腫れをつぶしたら、動脈を切って大出血することになる!
紅葉の左手は封じたッ!!」
紅葉「クソ……まだだ、右手で殴ることはできるッ!!」
ナナ「フフ………そのスピリット、私の『最終試験』にはもってこいの好敵手ね。
でも、それなりのダメージは与えた。ここはいったん退かせてもらおうかしら。」
紅葉「!!」
ナナ「さあ、私を追ってこれる?」バッ!
ナナは紅葉をおいて保健室を出た。紅葉もすかさずナナを追う。
しかし、紅葉が出るとナナはすでに廊下の奥、正面玄関のほうまで進んでいた。
ナナ「フフ……『クイーン・ビート』の『針』で刺して腫れさせた部分は物質の硬さによっては『弾力』をもつ。
……そう、『スーパーボール』のようにね。」
ナナは靴の底に『針』を刺し、硬い靴底に弾力を持たせてその『跳ねる力』でそのスピードを生んでいた。
紅葉(……これはマズいな。時間が経つと左手首の『腫れ』はどんどん大きくなる。
これは『身を守る』ための退却ではなく『攻める』退却……!)
紅葉「でも、この傷を模に治してもらえば………」
<ナナ「『あの人』から聞いていたとおり、何度もスタンド使いと戦っているだけあって用心深いわね。」>
紅葉「ダメだ!ナナは『弓と矢の男』の刺客だ。これ以上戦いに巻き込むわけにはいかないし、
まだ学校に他の刺客が潜んでいるかもしれない。模にスタンドを使わせるわけにはいかないんだ。」
そう紅葉が思ったのは、決して模に対して特別な感情を抱いているからではなかった。
仲間がいることで生まれる心の弱さや、仲間をかばうことで自分が危険にさらされることを紅葉は嫌っていた。
紅葉は、『孤高の強さ』を求めていた。
紅葉「私は……『強い』んだ。私は『一人』で戦う!ナナをここで逃がすわけにはいかない!!」
紅葉はナナを追い、学校の外へ出た。
【スタンド名】
クイーン・ビート
【本体】
蜂須賀ナナ(ハチスカ ナナ)
【タイプ】
近距離型
【特徴】
顔が髑髏になっている巨大な蜂
【能力】
スタンドで刺した場所を膨らませることができる
膨らんだ物体は風船のように弾力をもたせることができる
針などで刺すと破裂し元の大きさに戻る。
膨らんだ物体は風船のように弾力をもたせることができる
針などで刺すと破裂し元の大きさに戻る。
破壊力-C
スピード-A
射程距離-E
持続力-C
精密動作性-C
成長性-D
保健医が一人残された保健室に、一人の男が近づいてきた。
紅葉のクラスの保健委員「はぁ~、ふたりともすぐ戻ってこないからってなんで呼び戻しに行かされなきゃいけないんだ……。
どうせサボりに決まってんじゃんよ~。」ガラッ
保健委員の男子が保健室の扉を開けると、そこにはだれもいなかった。
保健委員「ほらなぁ~、やっぱり保健室になんかいねぇーよ………ん?」
保健委員の男子はベッドが一つだけ使われているのを見つけた。カーテンが閉まっているが、
よく見るとそこには一人が寝ているにしては大きすぎる影が見えた。
保健委員「……なんだ?」
保健委員の男子は忍び足でベッドに近づく。
耳をすますと、息切れに、かすかに声が聞こえた。
*「んっ………くっ……ん………」
保健委員「!!!………急に教室を飛び出した二人……ひとつのベッドに大きすぎる影……そしてこの声……」
保健委員の男子は胸の高鳴りをおさえられずにいた。
保健委員「あのふたりけっこう可愛いし……こいつぁまさかレールガン、
いやビリジアン……いや、レ○ビアンってやつじゃあないのか!?」ドキドキ
*「くぅっ………あ…………」
よく目を凝らすと大きな影はピクピクと動いていた。
保健委員「思春期真っただ中の健全な男子が、このイベントを見逃す手はねぇッ……!神聖な学校で事に及んでるこいつらが悪いんだッ!!」
保健委員の男子はカーテンをつかみ、開いて叫んだ。
保健委員「テメーら、何やってるんだッ!俺も……………ぎゃあああああああああああああ!!!!」
校舎から出たナナは、そのままぶどうヶ丘高校を出て市街地へ向かっていた。
一方紅葉は校舎を出るところだった。
紅葉「このままじゃマズい……もし身を隠されたらもう二度と、反撃はできなくなる。」
紅葉は何とかしてナナを追う方法はないか周囲を見渡した。
すると、そこに鍵の刺しっぱなしのバイクを見つけた。
後部座席に宅配ボックスが取り付けられていたので、バイク便のバイクのようだ。
紅葉「よしッ!これでナナを追える!『ブラック・スペード』!」
ブラック・スペード「ドラァ!」ボカン!
紅葉は宅配ボックスをふっとばして取り外し、バイクにまたがって学校の外へ出た。
紅葉がバイクで市街地のほうへ向かうと、ナナの姿が見えた。
ナナ「フフ……そう簡単にはいかないか。でも紅葉ちゃん、そんな大きいバイクを女の子がうまく扱えるのかな……?」
ナナは再び逃走を始めた。
紅葉の手首の腫れはすでにビー玉ほどの大きさになっていた。
紅葉「この『膨らむ』早さ……。さっき攻撃をくらってから2分で直径2センチ……1分で1センチ大きくなるとして、
私の手首をおおうほど大きくなったらマズイ。あと4~5分でカタをつけなきゃ…。」
しかし、ナナを追いかける紅葉は徐々にナナに近づきつつあった。
紅葉「あいつの『跳ぶ』スピードはせいぜい時速40キロ…こっちが時速50キロ以上で走ればスグに追いつける!!」
ナナ「まだわからないかなあ……こっちは『脚』で、そっちは『バイク』で走ってるんだよ?」
ナナと紅葉の距離が4~5メートルに近づいた時、ナナは急に踵を返し、紅葉の頭の上を跳んだ。
紅葉「なッ……!」
ギャギャギャギャギャ!!!
紅葉はブレーキングドリフトで方向転換を図ったが、体を投げ出されてしまった。
紅葉「ブ、『ブラック・スペード』!!」
紅葉は体を打ちつけられる瞬間、その衝撃をアスファルトに留めさせ、ピタッと着地する形でダメージを防いだ。
紅葉「あ、危ねえ……」
ナナ「フフ、そういう使い方もできるんだ……。」ビョーン
バイクに投げ出された様子を見ていたナナはまた逃げて行った。
紅葉「クソッ!」
紅葉「…………」
紅葉は衝撃を留めさせた部分のアスファルトを避けてバイクに近寄り、
バイクを起こしてまた走り出した。
住宅地に入ったところで、ナナは家の屋根に飛び乗り、足を止めた。
ナナ「…………はぁ、はぁ……」
スタンド能力で跳力が高まったとはいえ、実際に走るのは自分の足である。さすがにナナにも疲労が見えてきていた。
そして、バイクで追っていた紅葉が追いつく。
紅葉「……どうした、もう疲れたのか?」
ナナ「フフ……正直息が上がるわね。でも、ここで追いつかれても何の問題もないよ。」
紅葉「…………」
ナナ「『ブラック・スペード』が攻撃できる範囲はせいぜい2メートルでしょう。衝撃を移動させる能力の射程は何メートル?
たとえ10メートル以上あったとしても、あなたが『衝撃』を移動させるために地面や壁を殴ったとしても、それから逃げるくらいの余力はあるわ。
あなたの『衝撃』は時速40キロメートルで追ってこれる?」
紅葉「それは……どうだろうね。」
ナナ「私は逃げ続けているだけでいずれ勝てるわ。もう左手首の『腫れ』は相当大きくなっているんじゃない?」
紅葉の手首の腫れはすでに野球ボールほどの大きさになっていた。
しかし、紅葉はすこしも焦る様子はなく、凛とした冷静な目でナナを見据えていた。
紅葉「『逃げ続ける』……?本当にそうするつもりなの?」
ナナ「もう決着はついてるんだよッ!!私を追い続けることは無駄なあがきなんだッ!」
紅葉はナナの言うことを無視し、続けた。
紅葉「あんた、私にこう言ったよな。『私の最終試験にはもってこいの好敵手』……。」
ナナ「………それがどうしたの?」
紅葉「『最終試験』って何?もしかして、私を『倒す』ことが最終試験の『目的』なんじゃない?」
ナナ「…………」
紅葉「何を目的とした最終試験なのかは私は知らない。
……でも、私が完全に戦闘不能になるのを見届けずに逃げ切って、『紅葉を倒した』と報告できる?」
ナナ「……!!」
紅葉「フフ……『マズい!』って顔をしたね。そう、あんたは『私を自分の手でトドメを刺さないといけない』んだ。
最終試験に合格するためにね。だから、あんたは実は『私から離れることができない』。」
ナナ(く……紅葉……あの一言だけでここまで読むなんて…!)
ナナは『弓と矢の男』に指令を受けた時のことを思い出した。
ナナ「……早い話が『一之瀬紅葉』を始末すればいいんですね。」
弓と矢の男「フフ、すまなかった……まわりくどい言い方をするのが私の悪いクセなんだ。だが、まわり道するのも大事なことなんだ。
これは『最終試験』だ。君が『信』じ『頼』れる人間であることを証明してくれ。」
ナナ「そうすれば……許可していただけるのですね、『入団』を。」
弓と矢の男「ああ、私が『ボス』に推薦してやれば入団できるだろう。……われわれの『組織』に。」
ナナ「わかりました。……では。」
弓と矢の男「紅葉には用心しろよ。女だからと言って……というのは君に言うには失礼なことだが、
彼女の真の強さは『スタンド能力』じゃない。」
ナナ「……『スタンド能力』じゃない?」
弓と矢の男「彼女にはどんな危機的状況でも常に冷静でいられる『度胸の強さ』がある。
常に冷静に判断し、情に任されて動くことがない。そう、機械のような『冷静さ』と『したたかさ』が彼女にはある。」
ナナ(あの、たった『ひとこと』だけで私の目的まで読むなんて……『あの人』の言うとおりだった。………だけどね。)
ナナ「だけど、状況は何も変わっていないッ!あんたがベラベラ喋っているうちにその『腫れ』はどんどん膨らんでいくんだよ!」
紅葉の手首の腫れはすでにソフトボール大になっていた。しかし、紅葉の表情は変わらない。むしろ、微笑みすらあった。
紅葉「ベラベラ喋っているうちに……ね。フフッ、私が無駄におしゃべりしてるだけだと思った?
私は『時間を稼ぎたかった』んだよ。走り続けて疲れはじめているあんたは、私が話し続けていれば『逃走』より『休息』を選ぶ。」
ナナ「『時間を稼ぐ』?あははっ、時間が経つごとにどんどん腫れが膨らんでいくあんたに、何の得があるの!?」
紅葉「フフ……じゃあ教えてやるよ。もう、『狙いは定めた』。『ブラック・スペード』!!」
ドゴォン!!
紅葉が叫んだ瞬間、ナナの足元の屋根が爆ぜた。そして、ナナは足元から吹き飛ばされた。
ナナ「ななな、何ィーーーー!!」
紅葉「私が時間を稼ぎたかったのは、『衝撃』をあんたの足元に移動させるため。『衝撃』を移動する射程は私を中心に15メートル程度、
移動させるための十分な時間は稼げた。」
吹き飛ばされたナナは、靴の『弾力』も手伝って高く飛んだ。
ナナ(『衝撃』を移動させた!?そんな……紅葉がここに追いついてから、紅葉のスタンドは『衝撃』を留めさせる行動をとっていないのに……!)
ナナ「紅葉……あんたまさか、この『衝撃』は!!」
紅葉「……そうだよ。あんたにそそのかされてバイクから投げだされた時の『衝撃』だ。
バイクであんたを追ってる時、『衝撃』をずっと『並走』させてたんだよ!」
しかし、空中にいたナナはニヤリとわらった。
ナナ「そう……すごい冷静な判断だったね。……でも、私の靴の『弾力』は衝撃を吸収したみたいだよ。
結局、私はなんのダメージも受けていない!!」
紅葉「そんなこと、『想定の範囲内』だ。……よく見てみなよ。あんたの落ちてる方向をさ。」
ナナは下を見据えて青ざめた。ナナは『紅葉のいるところに落下していた』。
紅葉「『屋根』に乗っていたのが運が悪かったね。吹き飛ばされた時、ちょうど私のほうに向かうように傾いていた。」
ナナが紅葉の目前に近づいてくる。
ナナ「くっ『クイーン・ビート』!!!!」
紅葉「ガードさせるかッ!『ブラック・スペード』!!」
ブラック・スペード「ドラァーーーーッ!!!!!」
ボゴォーーーン!!!
『ブラック・スペード』の一撃はナナに命中し、ナナは家の塀に叩きつけられた。
ナナ「………ウグッ!」
紅葉「『戦う覚悟』はできているって言ったでしょ。自分の身を案ずることなんか二の次だ。
それとおなじほどの覚悟を……あんたは持っていたの?」
ドォ――――――――ン!
【スタンド名】
ブラック・スペード
【本体】
一之瀬紅葉(イチノセ クレハ)
【タイプ】
近距離型
【特徴】
スペードの形の装飾を身に着けたモノクロトーンの人型スタンド。
【能力】
様々な衝撃を操作する能力。
たとえば、スタンドが壁を殴ったとする。このスタンドのパワーなら通常壁は粉々になるところだが、
「衝撃を操作する」ことでその衝撃を別の場所に移して開放したりすることができる。
また、なんらかの事象で起こった「衝撃」をこのスタンドの能力によって操作することもできる。
ただし、生物に『衝撃』を潜ませることはできない。
たとえば、スタンドが壁を殴ったとする。このスタンドのパワーなら通常壁は粉々になるところだが、
「衝撃を操作する」ことでその衝撃を別の場所に移して開放したりすることができる。
また、なんらかの事象で起こった「衝撃」をこのスタンドの能力によって操作することもできる。
ただし、生物に『衝撃』を潜ませることはできない。
破壊力-A
スピード-B
()
()
射程距離-E
(能力射程-15m)
(能力射程-15m)
持続力-D
精密動作性-B
成長性-A
-『弓と矢の男』からナナへの指令の回想の続き-
弓と矢の男「彼女にはどんな危機的状況でも常に冷静でいられる『度胸の強さ』がある。
常に冷静に判断し、情に任されて動くことがない。そう、機械のような『冷静さ』と『したたかさ』が彼女にはある。」
ナナ「……心得ました。」
そして弓と矢の男はにぃっと笑い、さらに続けた。
弓と矢の男「だが、情に任されないからこそ弱い部分もある。」
ナナ「それは?」
弓と矢の男「フフ……紅葉を倒すのが最終試験だといっただろう。それは、自分で探すのだ。」
『弓と矢の男』の刺客を倒した、と一息つこうとした紅葉だったが、紅葉は自分の身に起きた異変に気づいた。
そしてその異変はしだいに熱を帯び、ついには痛みを感じた。
紅葉「……ッ!これは……!!」
紅葉の左手首の膨らんだ『腫れ』が破裂し、切られた動脈からは血が溢れ出ていた。
紅葉「ああああっ、うあああああああああぁぁぁぁあああ!!!」
紅葉は激痛と傷のショックのために叫んだ。悲痛の声をあげていた。
家の塀に叩きつけられ、気を失っていたと思われたナナが動き出した。
ナナ「紅葉……私が『覚悟』を持っていたかだって?……バカにしないでよね。」
ナナは立ち上がり、手首をおさえて悲痛の声をあげる紅葉に近づいた。
ナナ「私がさっき……『クイーン・ビート』を出したのは、あんたの攻撃をガードするため……じゃない。
『腫れ』に攻撃して破裂させるため…よ。そのために私はあんたの攻撃をモロに受ける『覚悟』をした。」
紅葉「あああああっ………そんな…そんな……」
ナナ「あんたが『時間を稼いだ』おかげで……腫れは膨らみ、『的』が大きくなったよ。」
紅葉「うっ、……あああああ!!『ブラック・スp…』……ッ!」ガクンッ
紅葉は立ち上がり、ナナに攻撃をしようとしたが、力が入らず膝をついてしまった。
紅葉「うっ……」
ナナ「あははは!立ちあがれないほどに血を流したようね。……もう、スタンドを出す力もないでしょう。」
紅葉はショックで精神力さえも弱り切っていた。
ナナ「もう、あんたに殴られる心配はないね。……トドメとして首に『クイーン・ビート』の針を刺す前に、あんたに聞いてみたいことがあるのよ。」
紅葉「………?」
紅葉の表情にはさっきまでの凛とした態度は見られず、恐れ、おびえていた。
手首の動脈を切っただけで人は死なないのを紅葉は知っていた。……しかし、紅葉にはもう敵に抗う気力はなかった。
ナナ「さっきあんたはたしかに私の目的を読み取った。そこから私が実はあんたから離れられないと見破ったのは見事だった。
……でも、結局あんたは私に勝てなかった。それはなんでだと思う?」
紅葉は下を向いてただ震えていた。手首の出血は穏やかになったもののまだ止まらない。
ナナは紅葉の髪をつかんで顔を持ちあげ、語りかけた。
ナナ「あんたにはね……目的がないのよ。私には『最終試験』に合格して『組織』の傘下に加わる大いなる目的がある。
その目的が、私に瀬戸際で粘る力をもたらした。……それに対してあんたは?」
紅葉「わ……わたしは、あんたたちから、ただ、自分の身を『守る』ため……」
ナナ「あははは!バカ言わないでよ紅葉ぁ、さっきあんたは『戦う覚悟』って言ってたじゃない!
『自分の身を案ずるのは二の次』って!!矛盾してるでしょう!?」
紅葉「あぅ……ぐっ……」
ナナ「結局あんたには『何も無い』。確かにあなたは機械のように冷静でしたたかだ。
でも、あんたは『守るものもない』、目的なく戦うたった『ひとりぼっち』のさびしい機械なのよ!
そう、あなたは大雪原に住む白うさぎ。でもあんたは目が紅くない白うさぎなの。
いくら泣いてもだれにも気づかれず『たったひとり』で死んでゆくのよ。」
紅葉「あああっ……あああああ………」
血を多く失い、めまいを起こしながらも、ナナの言葉はハッキリと紅葉の耳に響いた。
そして、紅葉は教室で自分が考えていたことを思い出した。
<紅葉(そう……孤独こそが『孤高』。自分の命を守るためには、仲間をつくるべきじゃない。)>
紅葉(そうか……私は……ひとりが強い……って、思ってたけど、気がついたらもう私には何も無かったんだ……。
守る……ものも、戦う……目的さえも。邪であれ、目的があったナナに勝てるはずがなかったんだ……。)
紅葉はそれ以上何も考えることはできず、気を失った。
ナナは紅葉が気を失ったのを確認し、立ちあがった。
ナナ「……ついに、やった。紅葉を……倒した。これで、私は……」
そこでナナは向き返し、
ナナ「いや、まだだよナナ。紅葉にトドメを刺さなきゃ。『クイーン・ビート』!!」
ナナはクイーン・ビートを繰り出した。
クイーン・ビート「BEEEEEEEEEEEEE!!!!!!!」
ナナ「これで終わりだあああ!!………あ?」
ナナは異様な気配を感じ取り、攻撃を中止した。
耳をすますと、エンジン音が聞こえた。……紅葉の乗ってきたバイクよりも重いエンジン音。
……後ろを振り返ると、そこには五代衛と杖谷模が立っていた。
ドドドドドドドド…………
ナナ「なっ!!」
模「……保健室の騒ぎがあって、スタンド使いじゃあないかと思って紅葉のところにいったら紅葉がいなくなってた。
学校内を探しても見つからないから、外に出たと思ったんだ。……そしたら、バイク便のお兄さんが
『バイクがなくなった』ってあわててたんだ。……きっと、紅葉が敵と遭遇したんだと思って五代くんを呼んだんだ。」
五代「……模を俺のバイクの後ろに乗せてとりあえず街のほうを走り回ってたらよー、模が『紅葉の声が聞こえる』って言ったんだ。
ホントかと思って気をつけて聞いてみたら、たしかにこの女の声だった。……そして来てみたらこの有り様だ。」
予想外の出来事にナナはたじろいでいた。
ナナ「な……なんで?『紅葉』と『五代』が仲間になっていたというのッ!?そんなの聞いてない!
それに、この男の子は誰なのよ!紅葉と同じクラスにいて、紅葉が仲間なんて……そんな気配も感じなかったというのに……。」
五代「……テメーも『弓と矢の男』の刺客か。俺はこの女と仲間になるつもりなんてなかった。
だが……模が、『紅葉は大事な仲間だ』っていうからよ。模にとっての仲間は俺の仲間だ。助けてやらないわけにはいかね―だろうよ。」
模「おまえが……紅葉をやったんだなッ!?許さないからな!」
ナナ「待って……あと少しだったのに……どうして…こんなのって……『アリ』なのオォォォオオオオオ!!?」
模「『サウンド・ドライブ・セクター9』、第一の世界『波紋の世界』!!」
五代「『ワン・トゥ・ワン』、ズームパンチラッシュ!!」
紅葉(………手があったかい。)
紅葉(……私、どうしてたんだっけ。)
紅葉(………ああ、そうだ。敵の攻撃を受けて、手から血をいっぱい流したんだ。)
紅葉(……でも、違う。血の温かさじゃない。)
紅葉(やさしい………あったかい……)
紅葉がゆっくり目を開けると、左手首の傷を『セクター9』が波紋の生命エネルギーで癒していた。
そして、左手を模がやさしくにぎっていた。
紅葉「……ば……模。」
模「アッ、紅葉が目を覚ました!」
紅葉が周囲を見渡すと、少し遠くでタバコを吸っている五代と、仰向けになって倒れているナナを見つけた。
模「……紅葉、もう大丈夫だから。」
紅葉「…………」
紅葉「……バカだね、模。もう私を助けなくていいって言ったのに……あんたも、狙われるかもしれないんだよ?」
模「……………」
紅葉「私から離れな……あいつ…五代からもね。今も、誰かが見ているかもしれない。だから……」
模「バカなのは紅葉のほうだ!!」
紅葉「……!」
模「どうしてひとりで背負おうとするんだよぉ!紅葉は……僕が『いい仲間になれるかも』って言ってくれたじゃないか!
仲間なら、もっと頼ってくれよ!僕は紅葉に、『セクター9』に本当の意味で会わせてくれた紅葉に恩返ししたいんだよ!!」
紅葉「……それでも、私の代わりに誰かを傷つけさせるなんて……模に、迷惑かけるわけには……」
模「バカヤロー!仲間なら、迷惑かけろよ!傷つけさせてもいいんだよ!!
気を使われてるっていうのが、迷惑かけたくないっていうのが、頼られてないのが、
僕の体が傷つくよりずっとつらいんだよ紅葉ぁ!!」
模は目に涙をためながら訴えた。
模「うっ……うっ……ううっ……」
紅葉と模のもとに五代が近づいた。
五代「……おい、紅葉。この女を倒したのは俺と模じゃない。まぎれもなくお前の力だ。
だが、……それは『たったひとりで戦ってきた紅葉』か?
それとも、『模という仲間がいた紅葉』か?……答えは言わなくてもわかるな。」
紅葉「…………」
<友達は、つくらない。仲間は『弱さ』だ。>
紅葉(違う、仲間を傷つけるのを恐れた弱い私が、友達をつくることを自ら避けたんだ。)
<仲間を作ると、人は『弱さ』を露呈する。>
紅葉(私が、『弱さ』を見せたくなかったんだ。『弱さ』を、補ってくれる仲間が本当は欲しかった。)
<私は強くあるために、私の生き方を貫く。信じられるのは自分だけだから。>
紅葉(私は、『ひとり』の私は強くなんかなかった。『信じられる仲間がいる』私より、ずっと弱かったんだ。)
紅葉「うあああああああああん……うああああああぁぁぁぁ……」
紅葉は大粒の涙を流し、子どものように大声で泣いた。
これまでの自分を洗い流すかのように、紅葉はずっと泣き続けた。
ずっと、ずっと泣き続けた。
その間、紅葉の二人の仲間はずっと彼女のそばにいた。
第三章 -機械仕掛けの世界- END
to be continued...
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