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第一話『Who Wham I ?』

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orisuta

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人々は寒そうに白い吐息を吐き、足早に横断歩道を走り抜けるある者は手を擦り合わせながら
ある者は首元の襟巻きで暖を取りながら、冬の朝を過ごして行く


赤人間から青人間へ変わる歩行者用信号機を一瞥しながら、ロベルト・バッジョは電柱へ寄り掛かる



ジャパンのとある歩行者天国にて佇むこの男の蒼い瞳と白い髪は、嫌でも人目に付く
その為、現在彼はニット帽を被り、サングラスを掛けている

ダウンジャケットのポケットで両手を暖めながら、素早く周囲へ目を走らせて『何か』を探す
油断無く、抜かりなく、獲物を狙う肉食獣の様に



「(――アレか)」
視界が捉えたのは黒服の一団
『いかにも』な雰囲気を体全体から発散するその集団は、明らかに周囲から奇異の視線で見られている
「(馬鹿が。もっと上手い追い方があるだろうに)」
心の中で毒づくと、バッジョはゆっくりと電柱から離れ、黒服達に背を向けて歩き出す。
直後



――バァン!!と
突然の銃声に、周囲のざわめきは一瞬で悲鳴に切り替わる
「(な……ッ!?)」
あまりの出来事に、思わず振り返る
だがそれが『不味かった』
ゴツゴツとした拳銃を天に掲げた黒服と、視線がぶつかる
「(――チィッ!!)」
身体を低く屈め、逃げ惑う群衆に紛れ、離脱を図るが――


「何……ッ!?」
声が出てしまうほどに、驚いた
黒服が『目の前に』居る
先程まで一塊になって自分の背後に居たはずの黒服の一人が、まるで瞬間移動でもしたかの様に、バッジョの目の前で拳銃を構えていたのだ
「――ワムッ!」
叫ぶ
黒服が引き金を引くより速く、バッジョの背後から現れた『何か』
頭部にガスマスクを被ったその『何か』は、チューブが巻きついた腕を黒服の腹へ減り込めせる
黒服が宙を舞う
その下を獣の如く駆け抜ける
背後から銃声
絶えぬ悲鳴
破壊
侵略
追跡
蹂躙






『 Who Wham I ? 』
 
 
 




結論だけ言うと、黒服達を振り切る事は出来なかった。
幾ら小道に入ろうとも
幾ら人混みを利用しても
ピッタリと貼り付くように、バッジョの視界に入っている
微妙な間を空けながら、まるで獲物が弱るのを待つ様に
逃げ水の様だ──と思う
尤も、此方が追われている側なのだが



しかし解った事が三つ
一つはアレから全く発砲して来ないと言うこと
一つはあれだけ居たはずの黒服達が『一人しか』居ないこと
一つは、先程『奴』を殴ったときの手応えが、やけに『軽過ぎ』たこと
「(十中八九、『奴』は『スタンド使い』だ)」
しかし――どう出る?
今も背後に付く黒服の男は、此方の疲弊を狙っている事は明白だ
「(あの騒ぎで未だに警察が来ないと言うのも懸案だが)」
考えて歩いている内に、人の多い通りを外れてしまったらしい
「(此処は──工事現場か)」
路地に放り出されたシャベルやセメント袋が邪魔で仕方ない
建設途中のそのビルは、今は巨大な城門の様に感じられた


――ジャリ
しまった。袋の鼠か
振り返る


其処に居たのは──
 
 
 




其処に居たのは、“大勢の『黒服達』



──多すぎる。百は優に越えている
この狭い路地で、しかし互いが互いの動きを阻害している様には見えない動きで
『黒服達』はバッジョに拳銃を突き付けた
「──ワムッ!!」
バッジョの背後から顕現したのはガスマスクを被った『スタンド』──『ワム!』だ



バッジョがスタンドを出したのを合図に、『黒服達』が一斉に口を開いた

「おやおや、『戦う気に』なったのですか。尤も、そんな『体力』が残っているのなら、の話でしょうが」
違和感を感じるのは、『一人分』しか声が聞こえて来ないからだろう
「アレだけ鬼ごっこをしたのですから、そろそろへたれてくれたモノと思いますが」
確かに、体調は万全では無い
しかし、戦えない程でもない
「私はターゲットを少ない弾数で『確実』に心臓を撃ち抜き始末する事で有名な殺し屋ですので、余り無駄に弾を使わない主義なのですよ」
「………」
ナルシストが。と、内心吐き捨てる
「(一流の『殺し屋』って奴は、『名も知られず常に殺す事だけ』に長けた奴の事を言うのだ)」
「しかし困った。どうにも貴方は確実に心臓を撃ち抜ける程弱ってはいないらしい」
ザァ──と、黒い波がバッジョを取り囲む
「そういう訳で、『音をあげる』まで『私と戯れて』居なさい」
押し寄せる黒波を、スタンドの拳が吹き飛ばす
「(──やはり、手応えが薄いッ!!)」
殴られた『黒服達』は、黒い粉を散らして霧散し、再び集結して形を成す
何体か蹴散らしている内に、霧散し素早く集結する黒粉の中心に、銀色の『何か』を発見した
「(──アレは、『蝶』?)」
背後、影が肉薄する
振り返らず、スタンドの裏拳が、建設途中のビルの鉄骨ごと、黒服を打ち鳴らした


霧散、集結、そして
「(成る程『そういう』能力か──ッ!!)」
『ワム!』は握った拳を開き、平手打ちの構えを取る



「(少しでも『広く』──)」
『黒服達』を迎撃する拳が、羽虫を払う様な平手で幾度も振るわれる

暫く続けていると、黒服の小馬鹿にした声が聞こえてきた
「何を無駄な事を。諦めの悪い方だ、そろそろ限界でしょうに、いい加減──」

┝゛┝゛┝゛┝゛┝゛┝゛┝゛┝゛.....
地鳴り、いや──
 
 
 




「な……ッ!?『ビル』が…『鉄骨』が『揺れて』いる!?」

崩壊は一瞬だった
無数の鉄骨が雨の様に降り注ぐ
霧散、集結、霧散、集結、霧散、集結
派手な音と共に、最後の一本が地面に突き刺さる
砂埃が立ち込める
「貴様の能力は──」
それを切り払う様に現れたのは、無傷のバッジョだった
側面に佇むスタンドは、静かな呼吸音を立てている
「そこの『スタンド蝶』の鱗粉を散蒔き『自分』の幻覚を見せる事だな?」

バッジョが指差す方には、小刻みだが激しく『振動』する『蝶』達の姿が確認出来る


離れた物陰から、悲鳴にも似た声が聞こえた
「ま、まさか……『振動』で鱗粉が……」
バッジョは歩き出す
迷い無く一直線に
「そしてこういう能力を持つ奴等の『本体』は──」
声のした物陰まで5m、それを一歩で詰める
「──物陰で震える小物と相場が決まっているッ!!」
ひぃ、と、今度こそ悲鳴が聞こえた


とっさに向けた拳銃も、『ワム!』の一撃で粉々に砕け、散った
「一つ教えてやる。殺し屋と言う者はな──」
スタンドが拳を握り
「──名前を知られてる時点で『三流』なんだよッ!!」
放つ!
「フラフラフラフラフラフラフラフラフラフラフラフラフラフラフラフラフラフラフラフラフラフラフラフラフラ!」

怒涛のラッシュが黒服の男を捉え、空中へ舞い上げる
「──フラゴーレッ!!」
「ジイザアアアアアスッ!!」


ボグシャアッ!!と
トドメとばかりに突き出された両の拳が黒服の顔面に直撃し、黒服は赤い弧を描きながら吹き飛んでいった

バッジョは思う
スタンド使い達は不思議な引力を持っている
互いが引かれ合った時、其処に『物語』が生まれる
もし、自分がそんな歯車の一員ならば
此からも多くの『物語』に関わって行くのだろうか、と



或いは、もう後戻り出来ない程、のめり込んでいるのだろうか――と




 【黒服の男】
 【スタンド名不明】   
 【再起不能】



To Be Continued.....


使用させていただいたスタンド


No.817
【スタンド名】 ワム!(Wham!)
【本体】 ロベルト・バッジョ
【能力】 殴った(触った)ものを『揺らす』




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