子供のころは―――――――――――
父親が許せなかった。彼はいつも家にいなかった。
授業参観や運動会――――友達の父親が、友達に笑いかけるのを見るたび、胸が締め付けられる思いだった。
逃げ出したくなる衝動に駆られた。
彼と遊んだ記憶はほとんどない。昔は顔を合わせる度そのことで罵り合ってばかりいたが、今はそうじゃない。
歳を重ねるにつれ、どうでもよくなった。
俺も父のことを理解できるようになって、落ち着きを得られたある日、父は「キャッチボールをしよう」と俺を誘った。
買ってきたばかりのグローブを持って、子供みたいに目を輝かせながら。
父から誘われるのは初めてだった。気恥ずかしくて、俺は「用事がある」と―――それを足蹴にした。
父の、あのときのあの哀しげな眼差しがどうしても忘れられない。
なぜならそれが、父からの最初で最後の誘いだったからだ。
~カフェテラス PM3:10~
丈二「・・・・・・」モグモグ
時間があるとき、大抵はこのカフェでコーヒーを飲む。サンドイッチを齧りながら小説を読んで、
一服する。丈二はこの一人の時間が好きだった。
女「・・・すみません、ここ座っても?」
丈二「ああ、どうぞ」
女「ありがとう」
男の子「わー!!」バタバタ
女「こら、走るな!座りなさい!」
男の子「わー!!」ダダダダダ・・・
女「もう!」
丈二「息子さん?」
女「いえ、弟なんです。歳が離れすぎてますよね、はは」
丈二「元気な子だ」
女「ええ、本当に・・・来年小学校に入るんですよ」
丈二「そっか、じゃあ今が一番可愛い時期だね」
父は、一番可愛い時期の俺を知ってただろうか?
丈二は少し考えたあとコーヒーとタバコを持って店を出た。
~アジト PM6:55~
阿部「よし、きたな」
召集を受け、アジトにていつものように作戦の説明を受ける。今回も『ナイフ』の入手についてだ。
だが今日は三人しかいなかった。
丈二「他のヤツらは?」
阿部「他の仕事をしてる。『ナイフ』回収だけが俺達の活動の全てではないからな」
丈二「・・・・」
阿部「では説明する。・・・これは隣県を活動拠点にしてる『暴力団グループ』だ」スッ
そういうと阿部は、三人に『グループ』の資料を提示した。
那由多「知ってるわ、コイツら 目障りな連中」
阿部「明日の夜、このグループと他のグループが取引を埠頭にて行うとの情報が入った。
表向きはドラッグの密売とされているが、おそらく商品は『ナイフ』だ」
丈二「何故わかる?」
阿部「この写真に写ってる男・・・こいつは『スタンド使い』だ
そうだな、琢磨」
琢磨「・・・こいつは『クスリ売り』だが、実際のところヤクではほとんど稼いでない。
本業は『殺し屋』だ。おそらく『グループ』に雇われたんだろう。」
丈二(『桐本 琢磨』・・・『チーム』5人目のスタンド使い・・・
こいつは何だかよくわからない、考えてることも・・・過去も・・・)
琢磨「こんなのがいるってことは、間違いなく『ナイフ』の取引だ」
阿部「よし、琢磨は那由多ともに『ナイフ』を強奪、丈二は外でジャマが入らないよう見張りだ。
それでは明日22時、がんばれよ」
丈二「・・・」
~都内某埠頭 PM10:03~
見張り「~~~~~~~~~~~~~!」
ジュワァァァァァッ!
那由多「これでよし。あ、そうだこれ」スッ
丈二「? 『ペンキ』か?」
那由多「『赤』のね。これでもうわざわざ出血する必要はないわ」
丈二「・・・わざとやってるわけじゃないぞ」
那由多「ふふ、じゃあ見張りよろしく。それ、そこらへんに塗りたくっておいてね」
丈二「・・・」
ベタベタ
丈二(親父は・・・)
丈二(何故『ナイフ』なんか追っていたんだろうか・・・家族を犠牲にしてまで)
丈二(もしも親父が学者でなくて、『ナイフ』を知らなくて、警察にも協力してなくて・・・
・・・家族との時間を最も大事にするような人間だったら・・・俺は今頃・・・)
ブロロロロロロロン
この倉庫には入口が二つある。東京湾側と街道側。
丈二が東京湾側入口の付近で赤いペンキを塗りたくっていたとき、街道側入口の方から車のエンジン音が聞こえてきた。
ソロォ~
丈二(トラックか・・・運び屋だな、『ナイフ』を運ぶ・・・)
丈二(仮に強奪に失敗しても、俺があのトラックを持ち出される前に潰せばいい。楽勝だ)
~倉庫内 PM10:10~
那由多(来たわ)ヒソヒソ
琢磨(予想より数が多いな・・・)ヒソヒソ
倉庫脇から外壁を一部『溶かして』侵入した二人。二階のキャットウォーク部に身を潜め、静かにそのときを待っていた。
二人の眼下にて、今宵の取引に向け一人、また一人とぞろぞろ役者達が集い始める。
売り手側、買い手側両方合わせて二十人近いゴロツキが揃った。
ブロロ・・・ピィーッ、ピィーッ、ピィーッ
那由多(トラックが入ってきた、運送用ね)
琢磨(なあ那由多、こんなときに聞くのもなんなんだが・・・)
那由多(?)
琢磨(『城嶋 丈二』・・・彼のこと君はどう思ってるんだ)
那由多(なにそれ、どういう意味?)
琢磨(『信用』できるのかどうか聞いてる。君も阿部さんも他のヤツらも・・・
彼に心を開きすぎではないか?まだ入って日の浅い彼に・・・)
那由多(阿部さんが気に入って勧誘したのよ、信用する以外にないでしょう)
琢磨(俺がチームに入ったとき、君は3ヶ月もロクに俺と話してくれなかった。
なのにあいつはどうだ?入って次の日には、もう君はあいつと一緒にランチを食べてたぞ!)
那由多(・・・それは『好き』か『嫌い』かとか、そういう青臭い話なの?)
琢磨(!! ち、違う。違うさそうじゃない・・・ただ『警戒心』を持て、ってことなんだ
なんだか・・・あいつは『キナ臭い』んだよ)
那由多(そう、でもそれは私じゃなくて阿部さんに話すべきね)
琢磨(・・・)
那由多(・・・何かもめだしたわ)
琢磨(・・・?)
埠頭からは船がでる。船の積荷で囲まれた倉庫内部で、男たちが声を荒立て合う。
どうやら『ナイフ』を売る側が、金額を取引の場で急に大きく吊り上げたらしい。
買い手側の男が顔を真っ赤にし、拳銃を取り出した。
那由多(はじまる・・・)
だが、実際は何も起こらなかった。いや、既に『起こっていた』といったほうが正しい。
今にも爆発しそうな男の肩を、後ろからやってきた買い手側の『もう一人の男』がなだめるように軽く叩く。
写真で見た『クスリ売り』だった。
クスリ「まあ、落ち着きなよ・・・大丈夫。」ポンポンッ
ヤクザ「だ、だが・・・」
クスリ「ところでおたくら、『スタンド使い』は今日連れてきてないのか?」
売り手「? 何だって?『スタンド』?」
クスリ「ふぅ・・・これだからバカは困る。おたくら、何にも知らないんだな。その『ナイフ』のこと・・・」
売り手「あ?」
クスリ「無知のくせに商売なんか考えんのが間違ってんだよ」
売り手「・・・???・・・うっ・・・」ヨロ・・・
那由多・琢磨「!!」
ゴロツキ達「うう・・・」ヨロヨロ・・・
ストン
売り手「・・・・zzzzzzzz」
ゴロツキ達「ぐがー、ぐがー・・・」
ヤクザ「な・・・これは一体・・・?」
クスリ「銃を貸せ」
ヤクザ「あ、ああ・・・」スッ
クスリ「いいか?『殺し』ってのは相手を完全な無抵抗の状態にして行うモンなんだ。
ボコスカ殴ったり蹴ったりつかみ合ったりってのはよォ~」カチャッ
バンッ!
クスリ「そんなのは『殺し』じゃねえ ガキのケンカだ」
ヤクザ達「・・・・!!」
ざわざわ
那由多(・・・見た?アイツの『スタンド』・・・)
琢磨(知ってはいたが・・・初めて見たよ・・・一体アレは何をしたんだ・・・?)
バンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッ!
クスリ「これでよしだぜェ~」
ヤクザ「何者なんだ?アンタ・・・」
クスリ「知る必要はねえ」
ヤクザ「・・・うっ、な、なんだか・・・体が・・・」ヨロヨロ
ヤクザ達「・・・あ・・・」ヨロヨロッ
クスリ「お前らとも組んだ気はないんでな、わりいけど」カチャ
バンッ!バンッ!
クスリ「金と『ナイフ』は貰ってくよ」
琢磨「立ち去る気だ!」
那由多「行かせるわけないでしょ・・・!『リトル・ミス・サンシャイン』ッ!」
ドォォォォォォン!
L・M・S『ドラァッ!』ブオオオンッ!
女性的な風貌をした那由多のスタンド『リトル・ミス・サンシャイン』が、クスリ売りに向かって
スタンドの両掌に埋まっている野球ボールサイズの『球体』を投げつけた。
・・・・・・・・・ヒュウウウウウ
クスリ「!? なんだ!?」サッ
ガンッ!
琢磨「くそ、はずした!」
那由多「いえ、いいのよこれで。『シャッター』に当てて。『ナイフ』も一緒に燃やしちゃったら困るからね・・・」
ボオオオオッ!
クスリ「!!」
『シャッター』に投げつけられた『球体』は、オレンジ色の光と熱を発し、周りのコンクリートと鉄を
口に入れたキャラメルのように溶かし始めた。
ドロドロドロドロドロドロ
クスリ「なにッ!」
那由多「『シャッター』を溶接した!ここからは逃がさないわ・・・!」
ドロドロドロドロドロ・・・
クスリ「ち・・・おい起きろ!」パンパンッ!
トラック運転手「・・・・・・zzzzz」
クスリ「くそ、俺の能力は範囲内では無差別なのと、いささか効果が強すぎるのが難点だぜ・・・」
ザッザッザッザッザッ
那由多「・・・・・・」
琢磨「・・・・・・」
クスリ「この変な『ボール』みてえなモン投げつけたのどっちだ?おかげで帰れねえんだけどさ」
琢磨「『ナイフ』と金を置いていけ・・・そうすれば痛い思いさせないでやるぞ」
クスリ「面白い、ジョーク本でも買って覚えたか?偉いな」
那由多「よっぽど自信があるのか、状況が理解できてないただのバカか・・・
体に聞けばわかるわ」スッ・・・
ドバァァァァァン!
那由多「『リトル・ミス・サンシャイン』」
L・M・S『・・・・・・・・』
クスリ(『スタンド使い』・・・やっぱり闘いは避けられねえか、『運命』だよな)
クスリ「『スリーピング・フォレスト』・・・」
ドバァァァァァァン!
S・フォレスト『・・・・フシュゥゥゥゥゥ』
男が自分のスタンドの名を呟くと、男の40cmほど前方に濃緑色の植物のような精神体が出現した。
木の根のような手足をしている。
琢磨「それがお前の『スタンド』か」
クスリ「そ。・・・・まあ楽しくやろうや」
クスリ「・・・・・・」ス・・・
那由多「何故距離をとるの?打って来ればいいのに」
L・M・S『ドラドラドラドラドラ』ババババババババ!
『リトル・ミス・サンシャイン』が間合いを計るクスリ売りに突きのラッシュを繰り出す。
ガードの姿勢をとる『S・フォレスト』だったが、大半のパンチを防ぎきれず攻撃を喰らった。
ドガッ!ベコッ!
クスリ「・・・・・・うお・・・・ッ!」ドピッ
クスリ「がはァッ・・・・・・!」
琢磨「やった!コイツのスタンド、殴り合いは苦手らしいな。遅すぎるぜ!」
那由多「・・・・・・(なんでだか、知らないけど・・・)」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
クスリ「・・・・・・・・へっ」
那由多(『太陽』が発熱しない・・・どうなってるの・・・?)
クスリ「その『ボール』・・・『電池』か?」
那由多「なんですって?」
クスリ「残念だが・・・『S・フォレスト』相手に『電池』は使えねえな
ま・・・いわゆる『S・フォレスト』の『スタンド能力』ってやつさ」
那由多「・・・・・・!」
琢磨「オイいきがるんじゃないぞ 例えお前を燃やせなくても、殴り殺すのは簡単なんだぜ。
那由多の方が圧倒的に速いし、パンチ力もある。それに・・・」
ドバァァァァァァァァァン!
琢磨「こっちには『スタンド』がもう一体いるんでね!
『シックス・フィート・アンダー』 お前を挟み込んでボコボコにしてやるよ」
S・F・U『・・・・・・・・・・・・・』
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド
クスリ(は・・・何体いても同じことだってのに・・・)
琢磨「俺は後ろに回るッ!君は正面から叩き込め!」ダッ!
那由多「・・・・・・」ダダッ!
クスリ「ふん・・・バカども」
琢磨「いくぞ!『シックス・フィート・アンダー』!」
S・F・U『・・・・・・・・・・・』シュバシュバシュバシュバシュバシュバ!
L・M・S『ドラドラドラドラァ!』バシュバシュバシュバシュバシュ!
クスリ「・・・・・・」サッ
バゴッ!
那由多「・・・?!・・・ぶッ・・・」
琢磨「!?な・・・」
那由多の頬が赤く腫れ上がり、口からわずかに『血』が吹き出す。
『シックス・フィート・アンダー』のパンチは見当違いの方向に放たれ、那由多に命中した。
クスリ「おっと、やっちまったな。俺はちょいと横にずれただけだぜ」
那由多「・・・!どこ打ってんのよこのバカ!」
琢磨「す、すまない・・・なんだか・・・フラフラして・・・」
クスリ「もう『おねむ』の時間ってことさ」フッ・・・
S・フォレスト『シュアアッ!』ドゴッ!
バキィッ!
琢磨「ぐあ・・・・ッ」
那由多「な・・・何故避けないの、あんな遅いパンチ!」
クスリ「人は『眠くなる』とよぉ、頭と体が働かないんだよな
お前らも経験あんだろ?授業中に眠くなって、ノートの字がすげえ汚くなったようなさ」
クスリ「『戦闘中』に『眠くなったら』どうなる?多分だが遅いパンチも簡単に喰らっちゃうんじゃねえかな?
まともな状況判断もできなくなって・・・で、最後はあっさり殺される。寝てる内にな」
琢磨「・・・・う、・・・・(ま、まぶたが・・・重い・・・)」
クスリ「これが『スリーピング・フォレスト』の能力ッ!範囲内にいるもの全てを『眠り』の底へ叩き落す!」
那由多「・・・・・・・」
クスリ「いっとくが『眠らせる』のは何も生き物だけじゃねえ。『機械』も眠ることはあるんだぜ・・・
『車』とか、『電池』とかな」
那由多「なるほど。確かに恐ろしい能力だけど、私のパンチが避けられるようになったわけじゃないでしょう?」
クスリ「そうだが・・・一応範囲内にお前さんも入ってるんでね・・・もうちょいしたら永遠の眠りにつけるぜ」
那由多「へぇ・・・」ダッ!
クスリ「!!(な・・・速い!)」
L・M・S『ドラァッ!』ベゴッ!
クスリ「だぁッ・・・!」ブピッ
那由多「おやすみ前の歯磨きみたいなモノね・・・この程度」
L・M・S『ドラァァッ!』バシュバシュ!
クスリ「く・・・どんだけ体力有り余ってんだお前・・・もうとっくに寝てていい頃だぞ」
那由多「『日光浴』が趣味なの。陽を浴びながら『お昼寝』するのが日課よ」
クスリ「そいつはめんどくせえ・・・!」
バシュバシュ!バッ!
『リトル・ミス・サンシャイン』が男を捉えつつ、拳を突き出す。
だが簡単に当てられた先ほどとは違い、打ち込んだ数発のうち、その七割分を外してしまった。
徐々に精度が落ちつつあった。
那由多「く・・・ちょこまかと・・・」
クスリ「はは、眠気からは逃げられないぜミス・サンシャイン。少しずつ・・・お前さんの動きが鈍ってきてる」
那由多「う・・・」
クスリ「こんな遅いパンチも―――」シュッ
那由多「!!」
ガッ!
クスリ「ガードしちゃったな、ええ?さっきは避けられたのに・・・」チャッ
ズバッ!
那由多(・・・ッ!『バタフライナイフ』を・・・こいつ)ツー・・・
那由多(予想以上に・・・効果が強い・・・ダメだ、うとうとしてきた・・・)
クスリ「寝ちゃいなよ・・・雪山で遭難したワケじゃないんだ、大丈夫だって・・・」
那由多(・・・くそ・・・・・・)
クスリ「『眠り』に抗うってのはとても体に悪いんだぜ。脳内の神経細胞がどんどん破壊されてくからな」
那由多(・・・・・・・・)フラッ、フラァ
クスリ「フラフラじゃないか。無理して立つ必要はないよ。ほら、先に寝てるお仲間と一緒に・・・」チラッ
クスリ「!!!」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド
クスリ(!? いない、どこ行った!?)
・・・ズリッ、ズリッ
琢磨(ハァ、ハァ・・・やばい・・・あと数秒で・・・落ちる)
琢磨(すまない那由多・・・これくらいしかできない、これくらいしか・・・
君の無事を祈る・・・)
琢磨「『シックス・・・フィート・・・アンダー・・・』・・・・・・!」
ドバァァァァン!
S・F・U『・・・・・・』
琢磨「突き刺せ・・・・・・!」
そう本体が呟くと、『シックス・フィート・アンダー』が十字架を取り出し
目の前に転がっているゴロツキの死体にそれを押し当てた。
十字架には6つの『槍の先端』が付いており、それを死体に突き刺したのだ。
死体「・・・・・・」ピクッ
『シックス・フィート・アンダー』が突き刺した『槍』を死体から引き抜くと、
6つの『穴』が開いたそれが、かすかに動きを見せた。
琢磨(『七体』作った・・・『七体』だけ・・・これが限界だ・・・時間がない・・・もう・・・)ガクッ
フラフラ・・・
すとん
那由多「・・・・・・」
クスリ「そうそう、座るのが一番だよ。さあ目を閉じて・・・」
・・・・ダダダダッ!
クスリ「! 誰だッ!」
しーーーーーーん
クスリ(何だ・・・?まさかさっき仕留め損ねたもう一人の『スタンド使い』か?
だが、動けるわけがない、どっかでとっくに寝てるハズだ)
クスリ(これくらいの倉庫なら、丸々『スリーピング・フォレスト』の能力射程内だッ!
なんだか知らんが、すぐに動けなくなるさ・・・!)
・・・・バタバタバタバタッ!
クスリ「!!」
しーーーーーーん
クスリ「くそッ!なんだってんだ!」
那由多「・・・・・・銃を・・・」
クスリ「?! 何?」
那由多「拾ったほうが・・・いい・・・・・・あなたの・・・『スタンド』・・・防ぎきれない・・・死ぬ・・・」
ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!
クスリ「な・・・なんだこりゃあ・・・!」
死体達「ウガァァァァァァァァァァァァァッ!!!!」
ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!
まさに地獄絵図だった。銃弾をぶち込まれ、確かに命尽きたハズの『ゴロツキ』達・・・
動いている。生命の理を無視し、疾走している。
真っ赤に染まった目をギラつかせ、ヨダレを垂れ流し、獣のような雄たけびを上げながら
こちらに一心不乱に向かってくる。その数、およそ七体。
死体達「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
クスリ「う、うわああああああああああああああああああああ」
バンッ!バンッ!
得体の知れない恐怖に絶叫しながら、『クスリ売り』が怪物達に向け、再び発砲する。
肩、足とその弾丸は確実に『奴ら』の肉を射抜いているのに、止まるどころかよろめきすらしない。
ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!
死体1「ガァァァァァァッ!」バゴッ!
ベキィッ!
クスリ「ぐうあッ・・・・・・・・!」ベキベキベキ・・・
死体の一人の拳を喰らう。理性が完全に吹っ飛んでいるその死体は、自分の筋肉を100%の力で振るうため
『生きていた』頃とは比べ物にならないほどのパワーを持っていた。
痛覚がないのか、壊れるほどの勢いで殴ったために拳が裂け骨が飛び出しているのに、怯みもせず攻撃を続けてくる。
『クスリ売り』は、自分が殴られた箇所の骨が砕ける音を聞いた。
クスリ(や、ヤバすぎるこいつら・・・)
死体2「ガァァァァッ!」ガブッ!
クスリ「あああああああああああああああああああああ」
ブチッ
死体が『クスリ売り』の腕に喰らい付く。死体とは思えないほどの強靭なアゴの力で腕の肉を食いちぎり
ムシャムシャと食らう。引きちぎられた肉に他六体の死体達も集まり、奪い合いを始めた。
死体達「ハグゥッ!ハグッ!ハフッ!!」ガツガツ、ムシャムシャ
クスリ(こ、コイツら・・・肉を求めてる!生きた人間の、『新鮮な肉』を!
『食欲』だけが原動力ッ!ヤベえぞ・・・マジにヤベえッ!)ドクドクドクドク
那由多「・・・・・・」
死体3「ウガァァァァァァァ」
何も死体は『クスリ売り』だけを狙っているわけではなく、『エサ』なら誰でもよかった。例え本体でも。
普段、『シックス・フィート・アンダー』は死体達・・・『ゾンビ』の動きをある程度コントロールする。
基本的には自由に行動させるが、暴走はさせない。ルールの上で、安全に使うことで初めて『武器』と呼べるのだ。
だが今回は本体の意識が飛んでいるため、コントロールができなかった。
そのため『ゾンビ』達は全く手の付けようがなく、倉庫内に未曾有の『バイオ・ハザード』が発生した。
那由多「『リトル・ミス・サンシャイン』・・・私を守って・・・」
L・M・S『ドラァッ!!』ドゴォッ!
ゾンビ3「グガァァァァ」グシャァァァッ!
ドサッ
那由多(自分を守るのが精一杯・・・追撃は・・・もうムリ・・・)
クスリ「うおおおおおおおおおおおおおッ!!
『スリーピング・フォレスト』ッ!こいつらをぶちのめせェェェェェェェッ!!!」
S・フォレスト『フシャアアアアアッ!』バシュ、バシュ!
バシッ、バシッ
ゾンビ4「グギャアアアアアアアアアアアアッ!!!」
クスリ(き、効いてねえ・・・ッ!)
ガブッ!
クスリ「ああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!
足がああああああああ!やめろッ!やめてくれえええええええええええッ!」
ゾンビ4「ハフッ!ハフッ!」グッチャ、グッチャ、グチュグチュ
クスリ「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」カチャッ
バンッ!バンッ!バンッ!
ゾンビ4「ガァァァァ・・・・」ブシャァァァァ・・・
ドサッ
クスリ(ハァ、ハァ・・・頭に何発か撃てば死ぬぞ・・・!)
クスリ(このクソども・・・『死体』だから『スタンド能力』が効かないのか・・・!
『生物』や『機械』でないから・・・ッ!)
クスリ「だが、弱点は『頭』ッ!それを理解したぞ!死体は死体らしく静かに寝てろおおおおッ!」
カチッ、カチ、カチッ
クスリ(ま、まさか・・・・)
ゾンビ達「ウガァァァァァァァァァァァァァッ!!!」
クスリ(『弾切れ』・・・!やっちまった・・・こんなところで・・・こんな奴らに・・・終わった・・・ッ!)
クスリ「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
パーン!!!
クスリ「!?」
パーン、パーン!パーン!
ゾンビ「ガァァァァァ・・・・・・」
パーン!
クスリ(な、なんだ・・・?こいつら、『弾け飛んだ』・・・!)
『ゾンビ』達が『クスリ売り』の目の前で爆裂する。
『シックス・フィート・アンダー』によって開けられた『6つの穴』・・・『穴』は時間ともに少しずつ大きく広がっていき、
最終的に『ゾンビ』達の体をバラバラに引き裂いた。『ゾンビ』には活動時間が設けられていたのだ。
クスリ「・・・」ヘナヘナ
クスリ「た・・・助かった・・・」
那由多(・・・・・・)
ぐぐぐっ・・・
クスリ「ぐッ・・・・・・くそ、痛え・・・」
那由多「・・・・・・」
クスリ「は、残念だったな・・・でも惜しいとこまで来ていたよ・・・」
那由多「・・・・・・」
クスリ「くそ、お前らをぶっ殺してやりたいところだが・・・このケガだ、『スタンド』を出してるのも辛い
・・・『スリーピング・フォレスト』!戻れッ!」
バシュゥゥゥン
クスリ「『能力』を解除した・・・が、一度『眠り』に落ちたら人間はなかなか目覚められないモンさ
お前も、もう『能力』なんて関係なしに眠いハズだ。あと10秒もしないで寝ちゃうんじゃないか?」
那由多「・・・・・・」
クスリ「警察を呼んでおくよ、起きたら刑務所の中だ・・・じゃ、俺は帰るぜ」
那由多「・・・・・・『機械』は・・・」
クスリ「? 何か言ったか?」
那由多「『人間』は目覚めない・・・一度『眠り』に落ちたら・・・・・・それはいい・・・・・・
でも『機械』は?・・・『車』は、『トラック』は・・・・・・すぐに『動き出す』・・・・・・」
クスリ「なにいって――――――――」
那由多「『人間』は・・・目覚めないのが『良い』。
・・・『ペダル』を踏んだままで・・・・・・『居眠り運転』を・・・・・・・・・・・・」
ブロロロロロロロロロロロロロロロロロロロンッ!!!
トラック運転手「・・・・・・・・zzzzzzzzzzzz」
『クスリ売り』が運送用にと用意した『トラック』とその『運転手』・・・
『トラック』は『スリーピング・フォレスト』の能力から解放され、既に走り出していた。
しかしその『方向』は・・・『運転手』は眠りこけている・・・・・・。
クスリ「!!!!! な、な、な、な、なん
グシャアアァッ!
ドゴォォォーーーーーン!
クスリ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」グチャァァァァァ
那由多「・・・ふふ、ぺったんこね・・・・・・
・・・・・・もうダメ、おやすみ・・・・・・・・・」
スタンド:スリーピング・フォレスト
本体:クスリ売り
居眠り運転のトラックに轢き潰され、即死。
本体:クスリ売り
居眠り運転のトラックに轢き潰され、即死。
~倉庫外~
丈二「! なんだ今の音は」
タタタタタタタ・・・・
~倉庫内~
丈二「!! なんだよこれ・・・」
トラックが壁に突っ込む轟音を聞き、丈二は倉庫内に駆け込んだ。
倉庫の中の惨状を目撃し、一通り絶句した丈二は床に倒れこむ仲間を介抱した。
那由多「・・・・・・」
丈二「おい、大丈夫か!しっかりしろッ!」
那由多「・・・・・・zzzzzzzzzz」
丈二「・・・寝てるのか?なんでこんなところで・・・」
トラック運転手「・・・ん、・・・・・・寝てた・・・?一体・・・・・・
・・・・・・・!! う、うわあああああああああああああッ!」
丈二「!! なんだッ!?」
追突の衝撃で目を覚ました運転手がフロントガラス越しに見える真っ赤なペースト状の死体に気付き、悲鳴を上げる。
パニックを起こした運転手は『ナイフ』を持ってトラックから飛び出し、外へ走り出した。
丈二「おい、待てッ!」
タタタタタタタタタ・・・
運転手「ああああああああ、あああ」
丈二「止まれ!頭をぶち抜かれたいのかッ!」カチャッ
運転手「!! う、うう・・・・・・」
丈二「よし、ゆっくりとこちらに振り返れ」
運転手「・・・・・・た、助けて・・・」
丈二「・・・・・・!!あ、あんた・・・・・」
そこにいたのは昨日の昼過ぎ、カフェテリアで丈二と一緒のテーブルについた、あの女性だった。
女「あ、あなたは・・・・・・・・」
丈二「な、何で・・・・・・こんなところにいるんだッ!」
女「た、頼まれて・・・・・・『ナイフ』を・・・・・・『運べ』って・・・・・・」
女「『運んだら50万やる』って・・・そう言われたんです・・・。私は大学をやめて働いています
両親が死んで、弟を育てるために仕事に就くしかなかった。弟には大学に行かせてやりたいんです、お金が必要なんです」
丈二「・・・・・・そんな・・・くそッ・・・」
女「お願いします、見逃してください。私がいなくなったら・・・弟は一人になってしまう・・・」
そう言うと、女はボロボロと涙を流した。
丈二(・・・・・・・・・!)
女「お願いします・・・・・・お願いします・・・・・・」
丈二「・・・・・・ダメだ、その『ナイフ』は・・・渡せない」
女「あああッ、そんな・・・・・・『ナイフ』を持って帰らなければ、私は殺されてしまいます、弟も・・・・・・!」
丈二「・・・・・・くっ・・・・・・
・・・・・・・・『ナイフ』はダメだ・・・・・・置いていけ・・・」
女「う、ううううう・・・・・・」
丈二「・・・・・・あんたが持っていくのは・・・・こっちだ」スッ
丈二は懐から『レプリカナイフ』を取り出し、女に投げてよこした。
女「う・・・・・こ、これは・・・・・・」
丈二「それは『レプリカ』・・・・・ニセモノだ。あんたはそれを依頼者のところに持っていき、金を受け取るんだ」
女「・・・・・・・・・・・・」
丈二「いつかはきっとバレてしまうだろう。だから姿を消すんだ、弟と一緒に。
金を受け取ったらすぐにこの街から離れろ。」
女「いいんですか・・・?これはあなたが必要だから・・・持ってるんじゃないんですか・・・?」
丈二「・・・・・・そんなもんどうでもいい。持って行け」
女「ああ、あああ・・・・・・・ありがとう・・・ありがとう・・・・・・っ」
女は涙でぐしょ濡れになった頬を拭おうともせず、ひたすら丈二に感謝の意を述べ続けた。
丈二「さあ、『ナイフ』を」
女「どうぞ・・・・・・」スッ
丈二「よし。・・・・・・もう行け、二度と戻ってくるなよ」
女「ありがとう・・・本当に・・・」
女が立ち去ろうとしたそのとき、女の首に血まみれの男が噛み付いた。
ゾンビ「グガアアアアアアアアアアアアッ!」ガブッ、ガブッ
女「あああああああああああ」
丈二「!!!」
グシャッ、グシャァッ!グチャグチャ
ゾンビ「ハフッ!ハフッ!ハフゥッ!」
女「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
丈二「そ、そんな・・・・・・ッ」
琢磨「『ナイフ』を回収したんだろう?だったら何故殺さない」
丈二「お、お前・・・・・・!」
琢磨「トラックの音で目が覚めてね・・・君がこの女から『ナイフ』を受け取るところを見たよ。
まさか逃がそうとしてたのか?」
丈二「・・・・・・く・・・ッ」
琢磨「やはり君は『信用』できないな。『ナイフ』を渡せ。俺がアジトまで持っていく」
丈二「・・・・・・くそ・・・」
琢磨「どうした?さっさと渡せよ」
丈二「・・・・・・」
琢磨「ほら早く!」
丈二「・・・・・・持ってけよ・・・」ス・・・
琢磨「・・・よし 帰るぞ」
丈二「・・・・・・」
~都内某所 AM1:22~
平田「ありえない『失態』だぞ丈二。『ナイフ』を奴らの手に渡すなんてな!」
丈二「・・・・・・」
平田「私の思い違いだったのか?君は使える人間だと思っていた。私と力を合わせられると・・・・・・
『ナイフ』を取られて平気な顔をしてる、君の神経がわからんよ!どれほど重要なものか、まだ理解できてないのか!」
丈二「・・・・・・」
平田「なあ丈二、やる気がないならそう言ってくれないか。今すぐ後任の『スタンド使い』を探す。
意欲のないやつに付き合って時間をムダにしたくはないんでな!」
丈二「・・・・・・そんなことない、やるよ・・・やるさ・・・」
平田「そうか、なら今すぐにアジトに戻れ。聞きたいのは『成功』の報告だけだ!二度と失敗は許さん!」
ガチャッ
バターン
丈二「・・・・・・・・・」
丈二「・・・・・・平気じゃない」
丈二「平気じゃねえよ・・・・・・・・・・・・」
第4話 終了
使用させていただいたスタンド
No.181 | |
【スタンド名】 | リトル・ミス・サンシャイン |
【本体】 | 虹村 那由多 |
【能力】 | 手で触れたものを太陽熱で焼き尽くす |
No.81 | |
【スタンド名】 | シックス・フィート・アンダー |
【本体】 | 桐本 琢磨 |
【能力】 | 死体に6つ穴をあけるとその死体をゾンビにすることができる |
No.130 | |
【スタンド名】 | スリーピング・フォレスト |
【本体】 | クスリ売り |
【能力】 | 周囲の物を「眠らせる」ことができる |
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