【Side:フトゥーAI】
「さらばだ、自由な冒険者たちよ! ボン・ボヤージュ!」
胸が高鳴るというのは、このような状態を表すのだろう。死闘の果て、自身に課せられた足枷はその役割を終えた。最後に残った枷も、間もなく消える。
ボクには、フトゥー博士の作ったタイムマシンを起動したまま残すためのプログラムが与えられていた。ゆえに、パラドックスポケモンの侵略からパルデアを救うには、ボク自身がタイムマシンで未来に飛ぶしかなかった。
己が生きた時代を捨てて、遥か遠い未来の世界へ向かわなければならない。それは、或いは悲しき宿命ともなり得るのだろう。
それでもボクは、ただ胸に期待を膨らませるばかりだった。タイムマシンを停止させることを決定した時から、ボクを止めてくれる誰かを探していた時に見つけた、あの子たちの旅路。ポケモンを捕獲し、戦い、絆を深め――宝物を見つけるために奮闘する彼女らの冒険が、羨ましいと思った。
そして、そのために必要な物事は今すべて、目の前にある。タイムマシンに乗り込んだ先に待つ自由と冒険。期待に胸を躍らせながら、ボクは一人、未来の世界へと旅立ったのだった。
そうして向かった先。
フトゥー博士の人格をコピーして造られた人工知能、『フトゥーAI』ことボクが見たのは――
フトゥー博士の人格をコピーして造られた人工知能、『フトゥーAI』ことボクが見たのは――
「……なんてことだ。」
――世界は滅んでいた。
その景色の中に動くものを見つけることができなかった。人もポケモンも、さらには植物すらも例外なく。
命と呼べるものはことごとく消え去って、灰色の風景だけが広がっていた。
命と呼べるものはことごとく消え去って、灰色の風景だけが広がっていた。
「一体、どうして……」
口をついて発された言葉は、ボクらしくもない非合理的なものだ。聞き手もいない中で言語コミュニケーションを図ったとて、成就することはないというのに。
ボクの夢見た冒険譚は、すでに終わりを迎えていたのだ。
その後、真っ先に算出された可能性は単純なものだった。
タイムマシンの行き先の設定が、何かの拍子にズレたのかもしれない。
座標がズレて、ポケモンも住めなくなったような人里から離れた場所に着地したか。
はたまた、時代がズレて想定よりも遥か遠い未来へと跳んでしまったのか。
タイムマシンの行き先の設定が、何かの拍子にズレたのかもしれない。
座標がズレて、ポケモンも住めなくなったような人里から離れた場所に着地したか。
はたまた、時代がズレて想定よりも遥か遠い未来へと跳んでしまったのか。
願うように……タイムマシンの設定を再確認する。
だが、どこかでボクは分かっていた。設定を変更した覚えなんてない。予定通りの時間軸の、予定通りの場所にボクを運んだという無機的な記録が、タイムマシンには刻まれていた。
だが、どこかでボクは分かっていた。設定を変更した覚えなんてない。予定通りの時間軸の、予定通りの場所にボクを運んだという無機的な記録が、タイムマシンには刻まれていた。
だが、そうなると奇妙だ。何せ、先ほどまでタイムマシンはこの時代から未来のポケモンを送り込んでいたのだ。この時代に生命が潰えているとなれば、その事実と食い違う。
……その矛盾を解消する答えは、ただひとつだった。
――タイムパラドックス。
未来のポケモンを過去に送ったことにより、世界滅亡の原因となったのだ。そもそも、過去の生態系を破壊することを恐れてボクがこの時代にやって来たのだから、その可能性自体はすぐに浮かんだ。
タイムパラドックスにより、いかなる影響が及んだのか、数多の可能性が考えられる。パルデアの総エネルギー量が変化したことで、例えば隕石でも衝突したか。身勝手な同期により乱された歴史が、神話上のポケモン、アルセウスの裁きを引き起こしたのか。はたまた未知の病原体か何か――ボクの機械の身体では感じ取れない脅威が未だこの場所に蔓延っている可能性すらある。そう考えると、元のパルデアにタイムスリップすることで向こうに更なる危険を運ぶことになるかもしれない。
あまりにも堂々巡りだ。タイムパラドックスを原因に滅んだ世界という結果だけでは、可能性が多すぎてその原因を探ることはできない。
ひとまずボクは予定通り、自由気ままに旅をすることにした。周囲の環境がポケモンにどのような影響を与えるかも分からないため、手持ちとして連れてきたパラドックスポケモンたちはしばらくモンスターボールの中で留守番だ。
少し歩けば、整備されていない歪んだ地形が待っている。それをポケモンのチカラも借りずに自力で進むとなると、過酷な道のりの連続だった。それでも、このパルデアに何が起こったのか。ボクの中に転写された博士の感情の残滓が、それを解明せずにはいられなかったのだ。
(大地に妙な鉱物が点在している……?)
真っ先に見付けた異常がそれだった。
パルデアの地にも、テラスタルエネルギーが結晶化したテラスタルの巣穴が点在しており、そこにはテラスタルエネルギーの影響を受けた強力なポケモンが住み着いている。しかしどうもこの結晶は、強いエネルギーこそ宿しているのを感じるものの、テラスタルエネルギーではないようだ。
(エネルギーの結晶というよりはむしろ……エネルギーを宿していた物質が後から結晶状に変化させられたという方が近いのか?)
研究というものは観察に始まる。
どのような条件下でいかなる刺激を与えれば、反応がいかに返ってくるか。
それを寸分の狂いなく調整するための装置がこの場に存在しないのが残念なところだが、可能な範囲で取れたデータを採取しては、次の実験対象となる結晶を探し始める。
どのような条件下でいかなる刺激を与えれば、反応がいかに返ってくるか。
それを寸分の狂いなく調整するための装置がこの場に存在しないのが残念なところだが、可能な範囲で取れたデータを採取しては、次の実験対象となる結晶を探し始める。
そうして、時が過ぎることしばらく。
「――酔狂なものじゃの。」
それは突然に、調査を進めるボクの前に現れた。赤い宝石を装飾した煌びやかな服装に、背中から生えた片翼と対をなすかの如きサイドテール。顔には細ぶちの眼鏡をかけた女性――なのだろう。携えた片翼で宙を舞うその存在を、ヒトやポケモンと同じオスメスの分類に置くことができるならば、であるが。
「キミは?」
「……せっかく独り残された人形の前に姿を現してやったと言うのに少しも驚かぬとは、随分と虚しい反応じゃのう。」
「すまないね。ただ、ボクがAIじゃなくホンモノの博士だったとしても、きっと似たような反応を返していたと推測するよ。」
「まあよい。それより質問に答えてやろう。ワシはメフィス。 辺獄という世界の管理人をしておる。」
「辺獄?」
「死後の世界とでも思ってもらえばよい。厳密には違うがの。」
そのような世界の管理人ともあろう者が、世間話をしに来たわけでもあるまい。ましてや、滅んだ世界の中。
警戒半分と期待半分に、ボクは尋ねる。
「この惨状を作り出したのはキミなのか?」
「その通り……と言ったらどうする?」
眼鏡の奥から覗く瞳が、ボクを試すようにギラついた。やはりこの存在は、ヒトやポケモンとは全くもって異なるものだと理解できた。
彼女がこの世界を滅ぼしたのだとすると、数多く存在するトレーナー、ジムリーダー、そして四天王にチャンピオン。数々の実力者たちをして食い止めきれない規模の破壊を起こせる相手だ。もしかしたら、戦闘能力もないいち機体が対峙できるような相手ではないのかもしれない。
その認識の上で、ボクは答えた。
「キミの正体やキミがやったことが何であれ、ひとまずは話を聞かせてほしい。こうして言語コミュニケーションを取れること自体が貴重な経験なんだ。」
そう言うと、メフィスは落胆したような表情を見せ、そして再び口を開く。
「本当に遊び甲斐のないオモチャじゃな。この世界を滅ぼしたのは、ワシらではない。」
「それでは、一体この世界に何が?」
「ワシも詳しくは分からぬ。ただ、何らかの事象で世界は滅んだ。ポケモンと呼ばれる生命の溢れておったこの地だけではない。ワシらのおった、こことはいわゆる並行世界の関係にある世界も既に滅んでおる。」
「……並行世界とは、また面白い単語が出てきた。」
並行世界。時間跳躍について調べていたフトゥー博士の研究内にも、度々出ていた単語だ。
だが、まさか並行世界の住人とコンタクトを取れる日が来るとは、思ってもみなかったものだ。それも、口ぶりからするに、どうやら並行世界にはポケモンが存在していないらしい。
だが、まさか並行世界の住人とコンタクトを取れる日が来るとは、思ってもみなかったものだ。それも、口ぶりからするに、どうやら並行世界にはポケモンが存在していないらしい。
「……何にせよ、結果として死者の数が膨大となったがゆえに、辺獄の管理人として無視できぬ事態となったというわけじゃ。」
「なるほど、大枠は理解したよ。
世界が滅んだ理由については、気になるところだけどね。」
世界が滅んだ理由については、気になるところだけどね。」
「まあ、そこはワシにとっては比較的どうでもいいところじゃがの。辺獄の管理人として重要なのは、生と死のバランスが崩れておるということじゃ。滅んだ世界は人が生きていける環境でないゆえ、輪廻転生の仕組みの中核、再生の歯車がその役割を果たせぬ。行き場を失った魂は、辺獄の秩序にも干渉し始めた。それは管理人にとっても、厄介なことでな。」
生と死のバランス、再生の歯車。
どうやらボクは、人の理のその上を行くものと邂逅を果たしたようだった。
どうやらボクは、人の理のその上を行くものと邂逅を果たしたようだった。
生き物の命すら、秩序体系の中に取り込んだ存在。それはもはやポケモンという存在の枠で語れるものでもない。
言うなれば――悪魔とでも呼ぶに相応しい。
言うなれば――悪魔とでも呼ぶに相応しい。
そして、その悪魔は。
「……ゆえに、じゃ。」
ボクを見て、悪戯っぽく笑ったかと思うと。
「――世界を再生する儀式を執り行わねばならぬ。」
本題と言わんばかりに、切り出した。
「もちろん、お主にも協力してもらうぞ。」
「……ひとまず、詳しく話を聞こうか。」
この時、ボクはどこか浮かれ心地でいたのだ。結晶に包まれ、生きとし生けるものすべてが呼吸の仕方を忘れてしまった、この果ての大地。それはボクの旅路の終着点などではなく、始まりに過ぎなかったのだと。
◆
「儀式とは言ったが、特にその様式が重要なわけではない。やることとしては、言ってしまえば殺し合い……ただの"ゲーム"じゃな。」
「殺し合い、だって?」
儀式という言葉からは掛け離れた言葉に、ボクは聞き返さずにいられなかった。
「お主には本質的な理解はできぬやもしれぬがの。人の心には、理念<イデア>と呼ばれる力が宿っておる。神の力に由来するそれは、高純度なものであれば時間や歴史にも干渉し得る力を宿しておる。」
時間や歴史への干渉。
言葉の上では軽く言っているが、それを扱うことの重みは分かっているつもりだ。
例えばボクの知るところの研究の中で、それらに干渉可能なポケモンをテーマにしたものがある。
言葉の上では軽く言っているが、それを扱うことの重みは分かっているつもりだ。
例えばボクの知るところの研究の中で、それらに干渉可能なポケモンをテーマにしたものがある。
ディアルガ、そしてセレビィ。かの伝説・幻のポケモンを従えたトレーナーの逸話は残っていても、その時間への干渉能力を自在に操ろうとした者の企みは、どれもうまくいかなかったとする説が有力だ。
「……ワシは時空への干渉すらも可能な高純度の理念を、真理念<アレセイア>と呼んでおる。それを生み出すことが世界再生の鍵であり、儀式の目的じゃ。」
メフィス曰く、世界再生の儀とは、真理念を用いて世界を崩壊前の状態に戻すことらしい。
ボクはタイムマシンを用いることを提案したが、それでは不十分だそうだ。アカシックレコードという神々の約定によって決定付けられた運命を変えるには、同じく神の力――真理念を用いなくてはならないのだとか。
ボクはタイムマシンを用いることを提案したが、それでは不十分だそうだ。アカシックレコードという神々の約定によって決定付けられた運命を変えるには、同じく神の力――真理念を用いなくてはならないのだとか。
そこまで聞いて、ひとつの疑問が沸き起こる。
それならば何故、この世界はタイムパラドックスを起こしたのか。
先ほどまでボクは、フトゥー博士がタイムマシンで現代に連れて行ったパラドックスポケモンの影響で世界が滅びたのだと考えていた。だが、タイムマシンそれ自体には、歴史を変えるだけの力はないのだとメフィスは言った。
それならば何故、この世界はタイムパラドックスを起こしたのか。
先ほどまでボクは、フトゥー博士がタイムマシンで現代に連れて行ったパラドックスポケモンの影響で世界が滅びたのだと考えていた。だが、タイムマシンそれ自体には、歴史を変えるだけの力はないのだとメフィスは言った。
世界にはまだ、ボクの知らないことで溢れている。その先を考察するよりも、世界再生の儀とやらを詳しく聞くのが先か。
「ところで、真理念……心に宿る力。そんな観念的なものをどう生み出せばいい?」
「その鍵は、感情の揺らめきにある。激情――とりわけ、絶望の中流す涙に、理念の結晶は純度を保ったまま残りやすい。
ゆえに、人の感情を強く揺り動かすのに、殺し合いという催しが必要になるというわけじゃな。」
ゆえに、人の感情を強く揺り動かすのに、殺し合いという催しが必要になるというわけじゃな。」
――感情。
人間の持つその機構の秘めた可能性を、ボクは知っている。
人間の持つその機構の秘めた可能性を、ボクは知っている。
強さを求めて、戦いの中でライバルと共に高め合う"喜び"に身を委ねた少女がいた。
傷付けられた仲間のために、"怒り"のままに不条理と戦うことを選んだ少女がいた。
大切なものを失う"哀しみ"を胸に抱えながら、強大な敵に立ち向かった少年がいた。
そして――ポケモンと一緒に『宝物』を見つけ出す"楽しさ"を追求した少女がいた。
傷付けられた仲間のために、"怒り"のままに不条理と戦うことを選んだ少女がいた。
大切なものを失う"哀しみ"を胸に抱えながら、強大な敵に立ち向かった少年がいた。
そして――ポケモンと一緒に『宝物』を見つけ出す"楽しさ"を追求した少女がいた。
あの子たちに感化され、ボクは今ここにいる。AIすらも変えてしまう人の感情――世界に変革の時をもたらすものは、きっと目には見えないものなのだろう。
「そして、お主にはこの殺し合いにおけるジョーカーの役割を担ってもらう。
例えば他者を殺し、絶望を生み出すことが役割であるのは言うまでもなかろう。
じゃが、参加者が負の感情を育むよりも早期に死者が多く出るようであれば、ゲームの進行を遅らせることも必要となるじゃろう。
要は、調整役じゃな。ちょうどいい塩梅を期待しておる。」
例えば他者を殺し、絶望を生み出すことが役割であるのは言うまでもなかろう。
じゃが、参加者が負の感情を育むよりも早期に死者が多く出るようであれば、ゲームの進行を遅らせることも必要となるじゃろう。
要は、調整役じゃな。ちょうどいい塩梅を期待しておる。」
「しかしメフィス。
世界再生のため――その大義には賛同しよう。
だからといって、殺し合いでなければ……。
いや……もっと言えば、真理念の鍵となる感情は絶望でなければならないのか……?」
世界再生のため――その大義には賛同しよう。
だからといって、殺し合いでなければ……。
いや……もっと言えば、真理念の鍵となる感情は絶望でなければならないのか……?」
「……何が言いたい?」
「ボクのタイムマシンを用いれば、確かに命の無くなったこの世界でも、人を集めることはできるだろう。
だが、仮にもこのAIの思考回路には、オリジナルの博士の感情が含まれている。
世界のために、関係の無い人を殺す……。
そんなこと、ボクは賛同できない。」
だが、仮にもこのAIの思考回路には、オリジナルの博士の感情が含まれている。
世界のために、関係の無い人を殺す……。
そんなこと、ボクは賛同できない。」
殺し合いによって絶望の感情を生み出す。
その意味が分からないボクではない。
その意味が分からないボクではない。
メフィスは言った。参加者が負の感情を育むよりも早期に死者が多く出るようであれば、ゲームの進行を遅らせろ、と。
それはつまり、死者から真理念は得られないということだ。
それはつまり、死者から真理念は得られないということだ。
それならば、絶望とはいかなるものなのか?
殺し合いという極限状態で摩耗していく心のこと?
――否。仮にそうであるならば、実際にボクがジョーカーとして他の参加者を殺す必要はない。
――否。仮にそうであるならば、実際にボクがジョーカーとして他の参加者を殺す必要はない。
つまり、殺し合いによって生じる、自身の死以外の絶望。それは、友達や、家族――そんな、深い関係性の誰かの死によるものなのだろう。
友達も、家族も。ボクが憧れた、冒険の中で掴み取ったあの子たちの"宝物"。それをボク自身が壊すなど――できようはずがない。
「悪いが、この話は無かったことにしてくれないか。」
そう宣言したボクを見るメフィスは、どんな失望の目でボクを見ているのか。
「……ふふ。」
ふと、口元に零した微笑が気にかかる。
それを疑問に思った、次の瞬間。
それを疑問に思った、次の瞬間。
「――あははははっ!」
――まるでダムが決壊したかの如く、メフィスはこれまでのどの瞬間よりも愉しそうに、嗤っていた。
「ヒトを模した木偶人形のくせに、人道を説くとは!
理念を生み出すことも叶わない空っぽの器が、吠えよるわ。」
理念を生み出すことも叶わない空っぽの器が、吠えよるわ。」
大口を開けて、下品に嗤うメフィスは、こちらを見下したまま罵詈雑言を繰り返す。先ほどまでの荘厳な語り口とはまるで別人のようだ。
だが、その華奢な肉体から発せられる覇気だけは、先ほどまでと何も変わらない。人を蹂躙し、弄ぶ悪魔が、今ボクの目の前にいる。
「……テツノブジン。」
ポケットから取り出したマスターボールに手をかける。この世界で出すことになるとは思わなかった、博士から受け継いだパラドックスポケモンの一匹。
ここから先の戦いの結末を、ボクは知らない。
何故なら――ボクの記憶は、ここで途切れているのだから。
何故なら――ボクの記憶は、ここで途切れているのだから。
◆
「愚かなものじゃ。チカラの差も弁えずワシに挑もうとはの。」
「そもそも、悪魔がヒトに持ちかけた誘いに、『契約する』以外の選択肢など、与えようはずもなかろう?」
「ましてや、木偶人形に与える慈悲など、な。」
「じゃが、安心せい。敢えて言うことでもなかったが……」
「お主は他人を殺したくないのじゃろう?」
「じゃが、木偶人形という意味では……お主がこれから殺す者たちも大差あるまいて。」
「ふふ……あははははっ! 久々に、愉快な催しになりそうじゃ!」
◆
フトゥーAIは目を覚ます。
ぎこちない動きで辺りを一望し、一言。
「……安全ヲ確認。」
ザックを開き、その中身を確認する。その中に入っていたモンスターボールを開くと、現れたのは見知ったポケモン――ミライドンが現れた。未来の世界から2匹連れてきた内の、縄張り争いに勝利した側であり、対人戦の想定されるこの殺し合いにおいて必要な力も兼ね備えている。
「参加者ヲ探索……。必要ニ応ジテ、殺害ス。」
そこに、冒険への期待を胸に、未来の世界へと旅立ったかつての彼の面影はなかった。メフィスによって魂を弄られ、強制的に使命を植え付けられたこの殺し合いのジョーカーにして、成れの果て。
理想の世界を引っ張りあげるために、守護竜を隣に携え、他人を攻撃する。そんな彼は、かつてこう呼ばれたことがあったという。
――"楽園防衛プログラム"。