私はいざというとき、アナタを殺します ◆qbc1IKAIXA
どれぐらい長く戦っていただろう。
意識は朦朧とする。息が上がる。体の力が抜けていく。
それでも乾巧は真正面を向き、両足に力を入れて踏ん張った。
「これでおしまいか? その程度の力で魔王たる私を相手にしようなど、笑止千万!」
「ちっ、ふざけんなぁ!」
赤いドレスの少女が雄叫びを上げて、槍を振りかぶった。
彼女は全身に細かい傷をつけながらも、最初に自分を助けたように強い気持ちを捨てていない。
しかし、相手は魔王。気持ちだけでどうにかなる存在ではなかった。
あっさりと片腕に槍を止められ、赤い少女の攻撃が止まる。
嗅ぎ慣れた死の臭いが巧の鼻に広がった。そんな臭い、存在しないはずなのに。
黒い仮面の男が自由な腕を伸ばす。目指すは少女の後頭部だ。彼女も認識しているのか、歯噛みしている。
動けるのは自分しかいない。巧は灰色の足を駆使して間を詰める。
全身の力を駆使して魔王の鉄槌を受け止めた。
ミシリ。
手のひらの中から嫌な音がする。痛みを無視しながら敵の脇腹に蹴りを入れ、少女を連れて距離をおいた。
「だから……言っただろ。お前じゃ……無理……だって」
「息切れしているくせにうるせえ」
答える少女の声に力はなかった。こちらも限界だ。
廃墟には終末を意味するかのように、瓦礫があちこち散乱している。
夜は深く、煌々と輝く月を背に魔王は悠然と目の前に立つ。
啓太郎が逃げたのなら、彼女を離れさせて終わりにしてもいい。
呪われた体だ。その昔、事故に遭ったときから自分のことを諦めていた。
乾巧は人を裏切るのを恐れ、理解してくれる誰かを諦めた。
安住の地を諦めた。
心やすらぐ日々を諦めた。
そのすべてをくれた友人はこの姿を恐れ、逃げていった。
また一人だ。だけど昔に戻っただけ。たとえ心が痛くても、あいつが無事なら俺はまた立つことができる。
目の前の少女が死ねば、あいつが悲しむ。だから戦おう。
巧はその想いを再確認し、力が少しだけ湧き上がるのを自覚した。
沈みつつある月に向かって、狼が吠えた。
下半身が狼の足を模した逆関節のそれに変わる。
後頭部から尻尾にかけて生えている白い毛が逆立ち、瞳に光が宿った。
「まだ抗うつもりか、死せる狼よ。いいだろう、我に歯向かうことがいかに愚かなことか死体(からだ)に、そして魂に刻もう」
構えを取る黒い魔人に対し、ウルフオルフェノクは突進する。
関係ない。いつもの様に戦うだけだ。真理がくれた、ファイズの仮面をつけたときのように。
意識は朦朧とする。息が上がる。体の力が抜けていく。
それでも乾巧は真正面を向き、両足に力を入れて踏ん張った。
「これでおしまいか? その程度の力で魔王たる私を相手にしようなど、笑止千万!」
「ちっ、ふざけんなぁ!」
赤いドレスの少女が雄叫びを上げて、槍を振りかぶった。
彼女は全身に細かい傷をつけながらも、最初に自分を助けたように強い気持ちを捨てていない。
しかし、相手は魔王。気持ちだけでどうにかなる存在ではなかった。
あっさりと片腕に槍を止められ、赤い少女の攻撃が止まる。
嗅ぎ慣れた死の臭いが巧の鼻に広がった。そんな臭い、存在しないはずなのに。
黒い仮面の男が自由な腕を伸ばす。目指すは少女の後頭部だ。彼女も認識しているのか、歯噛みしている。
動けるのは自分しかいない。巧は灰色の足を駆使して間を詰める。
全身の力を駆使して魔王の鉄槌を受け止めた。
ミシリ。
手のひらの中から嫌な音がする。痛みを無視しながら敵の脇腹に蹴りを入れ、少女を連れて距離をおいた。
「だから……言っただろ。お前じゃ……無理……だって」
「息切れしているくせにうるせえ」
答える少女の声に力はなかった。こちらも限界だ。
廃墟には終末を意味するかのように、瓦礫があちこち散乱している。
夜は深く、煌々と輝く月を背に魔王は悠然と目の前に立つ。
啓太郎が逃げたのなら、彼女を離れさせて終わりにしてもいい。
呪われた体だ。その昔、事故に遭ったときから自分のことを諦めていた。
乾巧は人を裏切るのを恐れ、理解してくれる誰かを諦めた。
安住の地を諦めた。
心やすらぐ日々を諦めた。
そのすべてをくれた友人はこの姿を恐れ、逃げていった。
また一人だ。だけど昔に戻っただけ。たとえ心が痛くても、あいつが無事なら俺はまた立つことができる。
目の前の少女が死ねば、あいつが悲しむ。だから戦おう。
巧はその想いを再確認し、力が少しだけ湧き上がるのを自覚した。
沈みつつある月に向かって、狼が吠えた。
下半身が狼の足を模した逆関節のそれに変わる。
後頭部から尻尾にかけて生えている白い毛が逆立ち、瞳に光が宿った。
「まだ抗うつもりか、死せる狼よ。いいだろう、我に歯向かうことがいかに愚かなことか死体(からだ)に、そして魂に刻もう」
構えを取る黒い魔人に対し、ウルフオルフェノクは突進する。
関係ない。いつもの様に戦うだけだ。真理がくれた、ファイズの仮面をつけたときのように。
□
オーガは無言で少女の逃げた方向に首を向けた。
もちろん、マミと呼ばれた少女を追いかけるのだ。
人は殺さねばならない。オルフェノクだけの世界を作らねばならない。
半ば強迫観念に突き動かされ、木場は一歩進めた。
もちろん、マミと呼ばれた少女を追いかけるのだ。
人は殺さねばならない。オルフェノクだけの世界を作らねばならない。
半ば強迫観念に突き動かされ、木場は一歩進めた。
戦闘音が聞こえなければ、そのまま走っただろう。
振り返ると、ウルフオルフェノクの姿が目に入る。
間違いない。あれは乾巧だ。
ギッと歯が鳴り、心臓は不規則に暴れる。
目が血走ったまま、その戦いに向かおうとした。
だが、足はすぐ止まる。行ってどうしようというのだろうか。
乾巧を助けるのか。それとも殺すのか。
いや、決まっている。乾巧とは決着を付けるのだ。
木場はおのれを落ち着かせる。
しばらくは隠れて様子を見るべきだと判断した。
間違いない。あれは乾巧だ。
ギッと歯が鳴り、心臓は不規則に暴れる。
目が血走ったまま、その戦いに向かおうとした。
だが、足はすぐ止まる。行ってどうしようというのだろうか。
乾巧を助けるのか。それとも殺すのか。
いや、決まっている。乾巧とは決着を付けるのだ。
木場はおのれを落ち着かせる。
しばらくは隠れて様子を見るべきだと判断した。
□
「どうして私は……ゆまちゃんを……」
巴マミは戸惑っていた。
ビルの倒壊跡と思わせる瓦礫が見える。時間はそれほど経っていない。引き返してきたかいがあったものだ。
ようやくマミがゆまと共に戦っていた現場に戻ってこれた。そこで、ゆまの死体を見つける。
「ゆま……ちゃ……」
言葉は最後まで発することができない。必死に戦闘時の記憶を掘り起こそうとする。
覚えているのは、閃光に包まれた青年の姿と逃げた自分の行動だ。
体に悪寒が走り、それからどうしたか覚えていない。
いや、予想はつく。おそらく自分は、ゆまを見捨て――。
「違うっ!」
思わず声に出し、ロールした二つの房を揺らしてマミは最悪の予想を打ち消した。
だが嫌な結論はじわじわと心を蝕む。綺麗であった少女は薄汚れた全身をのままに、しばらく呆然としていた。
もっとも、長くそのままでいるわけにはいかない。
戦闘音が近くで聞こえてきた。ゆっくりとその方向を向くと、黒い魔人と灰色の狼が交戦している。
二人とも見覚えがある。片方は自分を殺そうとした魔王。片方は自分を助けた心優しき怪物。
ただ、戦っているとは言っても力量差ははっきりしていた。
一見お互いに一撃を入れ合い、互角のようにも見える。
しかし、魔王は全力の攻撃を流し、かわし、受け止めていた。
一方、狼の怪人の方は紙一重で避け続けて、相打ち覚悟の一撃を繰り返していた。
それは命を削るようなものだ。長くは持たない。
不意に自分を助けてくれた青年の言葉が蘇る。
巴マミは戸惑っていた。
ビルの倒壊跡と思わせる瓦礫が見える。時間はそれほど経っていない。引き返してきたかいがあったものだ。
ようやくマミがゆまと共に戦っていた現場に戻ってこれた。そこで、ゆまの死体を見つける。
「ゆま……ちゃ……」
言葉は最後まで発することができない。必死に戦闘時の記憶を掘り起こそうとする。
覚えているのは、閃光に包まれた青年の姿と逃げた自分の行動だ。
体に悪寒が走り、それからどうしたか覚えていない。
いや、予想はつく。おそらく自分は、ゆまを見捨て――。
「違うっ!」
思わず声に出し、ロールした二つの房を揺らしてマミは最悪の予想を打ち消した。
だが嫌な結論はじわじわと心を蝕む。綺麗であった少女は薄汚れた全身をのままに、しばらく呆然としていた。
もっとも、長くそのままでいるわけにはいかない。
戦闘音が近くで聞こえてきた。ゆっくりとその方向を向くと、黒い魔人と灰色の狼が交戦している。
二人とも見覚えがある。片方は自分を殺そうとした魔王。片方は自分を助けた心優しき怪物。
ただ、戦っているとは言っても力量差ははっきりしていた。
一見お互いに一撃を入れ合い、互角のようにも見える。
しかし、魔王は全力の攻撃を流し、かわし、受け止めていた。
一方、狼の怪人の方は紙一重で避け続けて、相打ち覚悟の一撃を繰り返していた。
それは命を削るようなものだ。長くは持たない。
不意に自分を助けてくれた青年の言葉が蘇る。
『オルフェノクとか人間とか関係ないよ!
たっくんも真理ちゃんも長田さんも海堂さんも、木場さんだって大事な仲間なんだよ!』
たっくんも真理ちゃんも長田さんも海堂さんも、木場さんだって大事な仲間なんだよ!』
殺気を受けながらも、あの馬の怪物へと身を堕とした青年を心配していた彼。
彼の仲間が死にそうだ。辛そうだ。
ギュッとマスケット銃を握り締める。マミはまだ、絶望するわけにはいかない。
ゆまに対する罪悪感から逃げるように、戦場へ参戦した。
彼の仲間が死にそうだ。辛そうだ。
ギュッとマスケット銃を握り締める。マミはまだ、絶望するわけにはいかない。
ゆまに対する罪悪感から逃げるように、戦場へ参戦した。
□
「なにやってんだよ、バカ!」
まだ名前の知らない少女が叫び、巧を庇うためか魔王との間に割って入った。
丸太のように太い腕から繰り出された拳は槍を大きくたわませ、彼女を大きく後方へ吹き飛ばす。
合間を縫って仮面に覆われた顔を蹴り上げたあと、大きく間合いをとった。
さらに相手の死角から多節棍へと変形した槍が襲いかかるが、見えているのかあっさり対処されていた。
休む暇はないらしい。巧は再び地面を蹴ろうとしたとき、ガクッと膝が崩れ落ちた。
限界なのか。
「おい、おまえッ!」
バカ、こちらを心配している場合じゃない。巧は言葉にすることすら出来ず、すべてを見届けてしまう。
魔王の光り輝く掌底がこちらを向いた少女に迫っている。
本当に僅かな隙なのに、相手は見逃してくれない。
くそ、動いてくれ。この瞬間だけ、今だけでいいんだ。
巧は心の中で叫び続けているのに、両膝は応えてくれない。
ここまでなのか。絶望が心を塗りつぶしそうになる。
銃声が響き渡り、魔王の手は止まった。ホッとするのもつかの間、逃げたはずの金髪の少女が乱入してくる。
駄目だ、犠牲者が一人増えるだけだ。
巧の予想通り、鉛弾は一発も通らない。
埒があかず突進した赤ドレスの少女は豪腕に吹き飛ばされた。
かすめただけなのに、恐ろしい威力だ。
「佐倉さん!」
「ああ、くそ! もう一度行くぞ、マミ!」
知り合いらしくお互い呼び合う。
ようやく巧は彼女たちの名前を知った時、嫌な予感がよぎった。
魔王が全身を縮め、力を溜めているような体勢をとった。
マントがざわざわ動く。考えるより先に体が動いた。
「あぶねえっ!」
魔王のマントが四方に伸びた。
杏子と呼ばれた方は避けているように祈る。マミとかいったか。
射撃で距離をとっているためか、回避行動の遅れた彼女をかばった。
重い衝撃が両腕に伝わる。方向を逸らすので精一杯だ。
マントが落ちた場所には轟音が響き、土砂を大量に巻き上げる。
巧が浮遊感に包まれ、力が抜けていくのを自覚した。
オルフェノク態が解けていく。早く変身しなおさないと、みな死んでしまう。
なのに、体は応えてくれなかった。
「大丈夫?」
マミが自分を受け止めた。そんなことをしている場合ではない。
自分に構うな。早く逃げろ。
「我を前によく持った、というべきか。だが、死人どもよ。これで楽にしてやろう」
魔王の手のひらが光り輝く。あれを受ければ自分たちは消滅するだろう。
マミを逃がすのに力が入らない。
黒い魔王はもはや目前だ。最後の一滴、絞り出す。
まだ名前の知らない少女が叫び、巧を庇うためか魔王との間に割って入った。
丸太のように太い腕から繰り出された拳は槍を大きくたわませ、彼女を大きく後方へ吹き飛ばす。
合間を縫って仮面に覆われた顔を蹴り上げたあと、大きく間合いをとった。
さらに相手の死角から多節棍へと変形した槍が襲いかかるが、見えているのかあっさり対処されていた。
休む暇はないらしい。巧は再び地面を蹴ろうとしたとき、ガクッと膝が崩れ落ちた。
限界なのか。
「おい、おまえッ!」
バカ、こちらを心配している場合じゃない。巧は言葉にすることすら出来ず、すべてを見届けてしまう。
魔王の光り輝く掌底がこちらを向いた少女に迫っている。
本当に僅かな隙なのに、相手は見逃してくれない。
くそ、動いてくれ。この瞬間だけ、今だけでいいんだ。
巧は心の中で叫び続けているのに、両膝は応えてくれない。
ここまでなのか。絶望が心を塗りつぶしそうになる。
銃声が響き渡り、魔王の手は止まった。ホッとするのもつかの間、逃げたはずの金髪の少女が乱入してくる。
駄目だ、犠牲者が一人増えるだけだ。
巧の予想通り、鉛弾は一発も通らない。
埒があかず突進した赤ドレスの少女は豪腕に吹き飛ばされた。
かすめただけなのに、恐ろしい威力だ。
「佐倉さん!」
「ああ、くそ! もう一度行くぞ、マミ!」
知り合いらしくお互い呼び合う。
ようやく巧は彼女たちの名前を知った時、嫌な予感がよぎった。
魔王が全身を縮め、力を溜めているような体勢をとった。
マントがざわざわ動く。考えるより先に体が動いた。
「あぶねえっ!」
魔王のマントが四方に伸びた。
杏子と呼ばれた方は避けているように祈る。マミとかいったか。
射撃で距離をとっているためか、回避行動の遅れた彼女をかばった。
重い衝撃が両腕に伝わる。方向を逸らすので精一杯だ。
マントが落ちた場所には轟音が響き、土砂を大量に巻き上げる。
巧が浮遊感に包まれ、力が抜けていくのを自覚した。
オルフェノク態が解けていく。早く変身しなおさないと、みな死んでしまう。
なのに、体は応えてくれなかった。
「大丈夫?」
マミが自分を受け止めた。そんなことをしている場合ではない。
自分に構うな。早く逃げろ。
「我を前によく持った、というべきか。だが、死人どもよ。これで楽にしてやろう」
魔王の手のひらが光り輝く。あれを受ければ自分たちは消滅するだろう。
マミを逃がすのに力が入らない。
黒い魔王はもはや目前だ。最後の一滴、絞り出す。
「うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」
体を白い光が包み、狼を模した怪人へと姿を変える。
マミを後方に突き飛ばし、魔王の一撃を迎え撃つ。
迫り来る死滅の光を右手を振るって空振りさせた。
がら空きの胴に膝蹴りをねじ込む。
「悪あがきを……」
そうだ、その通りだ。もう巧に動く力はない。
それでもまっすぐ、相手を睨み続けた。
「安らかに眠…………」
「そうはさせませんよ」
魔王の一言を、聞き覚える声が遮った。
花びらが黒い魔人の全身を爆ぜさせ、巧との距離を開かせた。
敵と自分の間に、白い人影が降り立つ。
「薔薇の……香り……?」
マミの声が聞こえる。見覚えのないオルフェノクが目の前に立っていた。
白に近い灰色のスリムな全身は高貴さをにじませる。
頭部の透けたフードの内部に、一輪の薔薇が咲く。
『綺麗なバラには刺がある』というように、そのオルフェノクにも六本の棘が伸びていた。
さきほどの声は間違いない。このオルフェノクは……
マミを後方に突き飛ばし、魔王の一撃を迎え撃つ。
迫り来る死滅の光を右手を振るって空振りさせた。
がら空きの胴に膝蹴りをねじ込む。
「悪あがきを……」
そうだ、その通りだ。もう巧に動く力はない。
それでもまっすぐ、相手を睨み続けた。
「安らかに眠…………」
「そうはさせませんよ」
魔王の一言を、聞き覚える声が遮った。
花びらが黒い魔人の全身を爆ぜさせ、巧との距離を開かせた。
敵と自分の間に、白い人影が降り立つ。
「薔薇の……香り……?」
マミの声が聞こえる。見覚えのないオルフェノクが目の前に立っていた。
白に近い灰色のスリムな全身は高貴さをにじませる。
頭部の透けたフードの内部に、一輪の薔薇が咲く。
『綺麗なバラには刺がある』というように、そのオルフェノクにも六本の棘が伸びていた。
さきほどの声は間違いない。このオルフェノクは……
「乾さん、休んでいなさい。このつまらない場面で、四つ葉の一葉が欠けるのは許しません」
村上峡児。スマートブレイン社の社長であり、オルフェノクの長だ。
「おい、お前……」
杏子は警戒心たっぷりに、突如現れたオルフェノクに声をかけた。
巧も疑念に満ちた視線を送る。
だが、村上は意に介さずに黒い魔王へと問いかけた。
「我が社を壊滅させたのは、あなたですか?」
「ほほう、貴様の会社だったか。もろかったぞ」
答えを開始の合図に、村上の姿がバラの花びらを残して一瞬で消えた。
魔王はその現象に対しても対応し、後方から繰り出された拳を受け止める。
ほほう、と感心するようなつぶやきと共に、さらに数発繰り出された。
速さで勝るローズオルフェノクは魔王の反撃を許さない。
胸板を蹴り上げ、互いに離れた。
「少しはやるようだな」
「それはこちらのセリフですよ。なるほど、私の会社を潰すわけです」
村上は人差し指を天に向け、静かに問いかける。
「ですが、三人を相手にしてどこまで持つのでしょうね?」
瞬間、魔王をリボンが拘束する。抜けだそうとする敵に対し、杏子が槍の追撃で動きを止めた。
村上はマミに視線を送り、大きく叫ぶ。
「そこの少女、合わせなさい」
村上の頭上に巨大な気弾が浮かび上がる。そんな芸当もできたのか。
マミもその様子を確認して、慌てて巨大な銃を取り出した。
杏子の方は反応が早く、魔王の肩を踏み台にマミの方向へと跳躍する。
「ハァッ!」
「ティロ・フィナーレ!」
光線と光弾が黒の魔王を白に染め上げる。
小さな太陽が生まれたように、光がたった一人に集中した。
だが、混沌より生まれし者はこの程度で終わらない。
なんと魔王は左手で銃の光線を、右手で村上の気弾を受け止めていた。
「これでもまだ無理だというのッ?!」
「笑止! 私を屠るには力が足りん! しょせんは死人の力よ!!」
「ですが、両腕は塞がりました。あとはお願いします」
村上はどこかに向けて告げると、バラに紛れて姿を消した。
いったい誰に頼んだのだろうか。巧が疑問を持っていると、聞き覚えのある電子音が聞こえる。
そう、『EXCEED CHARGE』と。
「おい、お前ら逃げろ!」
叫ぶとほぼ同時に巧は杏子とマミの体を掴んでいた。
そのまま地面を必死に駆け抜ける。まだ状況を把握していない二人をよそに、光刃が天より落ちてきた。
「ぬぅ、伏兵だと。小賢しい!!」
魔王はただその言葉を残し、光の中へと消えていった。
杏子は警戒心たっぷりに、突如現れたオルフェノクに声をかけた。
巧も疑念に満ちた視線を送る。
だが、村上は意に介さずに黒い魔王へと問いかけた。
「我が社を壊滅させたのは、あなたですか?」
「ほほう、貴様の会社だったか。もろかったぞ」
答えを開始の合図に、村上の姿がバラの花びらを残して一瞬で消えた。
魔王はその現象に対しても対応し、後方から繰り出された拳を受け止める。
ほほう、と感心するようなつぶやきと共に、さらに数発繰り出された。
速さで勝るローズオルフェノクは魔王の反撃を許さない。
胸板を蹴り上げ、互いに離れた。
「少しはやるようだな」
「それはこちらのセリフですよ。なるほど、私の会社を潰すわけです」
村上は人差し指を天に向け、静かに問いかける。
「ですが、三人を相手にしてどこまで持つのでしょうね?」
瞬間、魔王をリボンが拘束する。抜けだそうとする敵に対し、杏子が槍の追撃で動きを止めた。
村上はマミに視線を送り、大きく叫ぶ。
「そこの少女、合わせなさい」
村上の頭上に巨大な気弾が浮かび上がる。そんな芸当もできたのか。
マミもその様子を確認して、慌てて巨大な銃を取り出した。
杏子の方は反応が早く、魔王の肩を踏み台にマミの方向へと跳躍する。
「ハァッ!」
「ティロ・フィナーレ!」
光線と光弾が黒の魔王を白に染め上げる。
小さな太陽が生まれたように、光がたった一人に集中した。
だが、混沌より生まれし者はこの程度で終わらない。
なんと魔王は左手で銃の光線を、右手で村上の気弾を受け止めていた。
「これでもまだ無理だというのッ?!」
「笑止! 私を屠るには力が足りん! しょせんは死人の力よ!!」
「ですが、両腕は塞がりました。あとはお願いします」
村上はどこかに向けて告げると、バラに紛れて姿を消した。
いったい誰に頼んだのだろうか。巧が疑問を持っていると、聞き覚えのある電子音が聞こえる。
そう、『EXCEED CHARGE』と。
「おい、お前ら逃げろ!」
叫ぶとほぼ同時に巧は杏子とマミの体を掴んでいた。
そのまま地面を必死に駆け抜ける。まだ状況を把握していない二人をよそに、光刃が天より落ちてきた。
「ぬぅ、伏兵だと。小賢しい!!」
魔王はただその言葉を残し、光の中へと消えていった。
「おい、なにが起こった?」
「さあな、俺が知りてえよ」
杏子に対し、巧はぶっきらぼうに返した。二人を連れるのに全力を出したせいか、変身は解けている。
一方、体力の方は少し休めたせいか、余裕が出てきた。
巧が視線を移すと、マミの顔は真っ青だ。さっきのベルトからの攻撃に心当たりがあるのだろうか。
聞き出そうとすると、変身を解いた村上がゆっくりと歩いてくる。
敵意を向けるが、相手はこちらを無視した。
「油断するのは早いですね。あの黒い仮面の男、まだ死んでいませんよ」
村上の忠告に従い、巧は魔王の存在した地点を見た。
するとちょうど、黒ずんだ地面から右腕が生える。
バケモノか、と戦慄したとき、全身が地面から飛び出てきた。
「さあな、俺が知りてえよ」
杏子に対し、巧はぶっきらぼうに返した。二人を連れるのに全力を出したせいか、変身は解けている。
一方、体力の方は少し休めたせいか、余裕が出てきた。
巧が視線を移すと、マミの顔は真っ青だ。さっきのベルトからの攻撃に心当たりがあるのだろうか。
聞き出そうとすると、変身を解いた村上がゆっくりと歩いてくる。
敵意を向けるが、相手はこちらを無視した。
「油断するのは早いですね。あの黒い仮面の男、まだ死んでいませんよ」
村上の忠告に従い、巧は魔王の存在した地点を見た。
するとちょうど、黒ずんだ地面から右腕が生える。
バケモノか、と戦慄したとき、全身が地面から飛び出てきた。
「おのれ、只人どもめっ! 魔王たる私を殺せると思ったか!」
装甲服の下からでもわかるほど、相手の筋肉が盛り上がる。
マントは破け、全身にも傷がついているが、まだ戦えそうだ。
その威圧感たっぷりの姿は周囲に絶望を与える。
マントは破け、全身にも傷がついているが、まだ戦えそうだ。
その威圧感たっぷりの姿は周囲に絶望を与える。
「聞き捨てなりませんね」
だが、ただひとり余裕を崩さないものがいた。
村上はネクタイの位置を調整しながら、自信満々に前に出る。
「我々オルフェノクは人間というカラを破り、新たな姿へ進化した超越者です。
只人などと呼び捨てられるような、脆弱な存在ではありません。むしろ……」
間を一瞬起き、目を見開く。怒りに満ちたまなざしが、魔王を射た。
村上はネクタイの位置を調整しながら、自信満々に前に出る。
「我々オルフェノクは人間というカラを破り、新たな姿へ進化した超越者です。
只人などと呼び捨てられるような、脆弱な存在ではありません。むしろ……」
間を一瞬起き、目を見開く。怒りに満ちたまなざしが、魔王を射た。
「たかが魔王ごときが我々を滅ぼせるなど、思い上がりも甚だしい! 恥を知りなさい!!」
それぞれ頂点に立つ二人の視線が交錯する。
緊張感が高まり、再度戦闘を予感させた。だが、意外にも魔王から退く形となる。
「……状況が変わった。貴様の相手はいずれしよう」
「ええ、その時はあなたを殺して差し上げます。私の名は村上峡児。オルフェノクを束ねる立場です」
「ほほう、我を前に名乗るか。ならば答えよう。我が名はゼロ! 混沌をもたらすエデンバイタルの魔王!!」
魔王ゼロが名乗った瞬間、マントが球状に体を包んで消える。
村上は特に感慨を抱かず、その様子を見送った。
さて、次はこちらの番か。巧はいつでも戦えるように構えながら、村上を見上げる。
「乾さん、傷ついた体を休めてから行動をするよう心がけてください。あなたは貴重な上の上たるオルフェノクだ。
くれぐれも琢磨さんのような軽率な真似はしなように」
これで話は終わりだと言わんばかりに、相手は踵を返した。不自然すぎる。
「……それだけか」
「ええ。積もる話もありますが、待たせているご老人がおりましてね。
それとあなたに話があるのは私だけではありませんので、失礼させてもらいます。またお会いしましょう」
村上はフフッ、と含み笑いを残した。
そう、彼の目的は巧の後押しだ。オルフェノクとして生きる以外、道がないことを教える。
しかし、何事にも適任というものがある。
その役目にふさわしいのは自分でない、と彼は悟ったのだ。
何も知らない巧は村上の背中を見逃し、視界に消えたのを確認して膝をついた。
話が終わるはずはないのに。
緊張感が高まり、再度戦闘を予感させた。だが、意外にも魔王から退く形となる。
「……状況が変わった。貴様の相手はいずれしよう」
「ええ、その時はあなたを殺して差し上げます。私の名は村上峡児。オルフェノクを束ねる立場です」
「ほほう、我を前に名乗るか。ならば答えよう。我が名はゼロ! 混沌をもたらすエデンバイタルの魔王!!」
魔王ゼロが名乗った瞬間、マントが球状に体を包んで消える。
村上は特に感慨を抱かず、その様子を見送った。
さて、次はこちらの番か。巧はいつでも戦えるように構えながら、村上を見上げる。
「乾さん、傷ついた体を休めてから行動をするよう心がけてください。あなたは貴重な上の上たるオルフェノクだ。
くれぐれも琢磨さんのような軽率な真似はしなように」
これで話は終わりだと言わんばかりに、相手は踵を返した。不自然すぎる。
「……それだけか」
「ええ。積もる話もありますが、待たせているご老人がおりましてね。
それとあなたに話があるのは私だけではありませんので、失礼させてもらいます。またお会いしましょう」
村上はフフッ、と含み笑いを残した。
そう、彼の目的は巧の後押しだ。オルフェノクとして生きる以外、道がないことを教える。
しかし、何事にも適任というものがある。
その役目にふさわしいのは自分でない、と彼は悟ったのだ。
何も知らない巧は村上の背中を見逃し、視界に消えたのを確認して膝をついた。
話が終わるはずはないのに。
「乾巧」
聞き覚えのある声だった。
悲しみに満ちた声だった。
敵対し、だけどもう一度信じた声だった。
巧は振り返る。魔王とは別の、黒い戦士だ。Ωを意匠として取り込んだ頭部。
金のブラッドラインに、足の裾まで伸びたマント。
腰にあるベルトは、巧がファイズとして戦っていたドライバーとほぼ同一だった。
おそらくあいつだ。なぜあいつがファイズを捨て、別のベルトを使っているのだろうか。
どうでもいい。
夢を託したあいつが、人のために戦っているあいつが、助けてくれた。
巧の暗い気持ちが少しだけ、吹き飛ぶ。
思わず笑顔が浮かんで、駆け寄ろうとした。
「ダメよ!」
その巧をマミが止める。彼女は銃を木場に向け、恐怖を押し殺した表情でこちらを見た。
「その男はあなたたちを裏切ったわ! あなたの友だちを殺したのよ!」
「バカ言うな。木場が啓太郎を殺すなんて……」
「いや、その娘の言うとおりだ。菊池啓太郎は俺が殺した」
自分の耳を疑う。今、あいつはなんて言ったのだろうか。
「乾巧、選べ。人間として人を守るか……」
帯刀していた剣を引き抜き、刃先をこちらに向ける。
仮面に隠れた顔は見ることができない。
悲しみに満ちた声だった。
敵対し、だけどもう一度信じた声だった。
巧は振り返る。魔王とは別の、黒い戦士だ。Ωを意匠として取り込んだ頭部。
金のブラッドラインに、足の裾まで伸びたマント。
腰にあるベルトは、巧がファイズとして戦っていたドライバーとほぼ同一だった。
おそらくあいつだ。なぜあいつがファイズを捨て、別のベルトを使っているのだろうか。
どうでもいい。
夢を託したあいつが、人のために戦っているあいつが、助けてくれた。
巧の暗い気持ちが少しだけ、吹き飛ぶ。
思わず笑顔が浮かんで、駆け寄ろうとした。
「ダメよ!」
その巧をマミが止める。彼女は銃を木場に向け、恐怖を押し殺した表情でこちらを見た。
「その男はあなたたちを裏切ったわ! あなたの友だちを殺したのよ!」
「バカ言うな。木場が啓太郎を殺すなんて……」
「いや、その娘の言うとおりだ。菊池啓太郎は俺が殺した」
自分の耳を疑う。今、あいつはなんて言ったのだろうか。
「乾巧、選べ。人間として人を守るか……」
帯刀していた剣を引き抜き、刃先をこちらに向ける。
仮面に隠れた顔は見ることができない。
「オルフェノクとして生きるか!!」
なのに、とても悲しそうだと巧は思った。
木場は変身を解いて、見覚えのある顔を巧に向けた。
「どういうことだ、木場……。啓太郎をお前が……?」
「そうだ。俺はオルフェノクとして生きると覚悟した。
だから人間を殺す。まずはこの島の人間からだ。その邪魔をするというのなら……同じオルフェノクでも容赦はしない!」
「おい、まてよ……」
木場は誤解を乗り越えて、自分を理解してくれた。
ファイズギアを受け取って、人を守ると決意をしてくれた。
真理を、草加を殺したかもしれない、巧の代わりに戦ってくれるはずだった。
「木場ぁっ!!」
「ダメよ! あなたの友だちも説得しようとして殺されたわ」
「知るか、どけ!!」
止めるマミを押しのけようとする。だが、巧を止めるのは彼女だけではない。
別方向から伸びた細い腕が巧をつかんで、後ろに投げ飛ばす。
「つぅ……、お前……」
「お前が出る幕じゃねえよ。ボロボロじゃねえか」
「人のことを言えるか!」
「バァカ」
杏子は槍を構え、木場の動きを見逃さないよう警戒する。
「どういうことだ、木場……。啓太郎をお前が……?」
「そうだ。俺はオルフェノクとして生きると覚悟した。
だから人間を殺す。まずはこの島の人間からだ。その邪魔をするというのなら……同じオルフェノクでも容赦はしない!」
「おい、まてよ……」
木場は誤解を乗り越えて、自分を理解してくれた。
ファイズギアを受け取って、人を守ると決意をしてくれた。
真理を、草加を殺したかもしれない、巧の代わりに戦ってくれるはずだった。
「木場ぁっ!!」
「ダメよ! あなたの友だちも説得しようとして殺されたわ」
「知るか、どけ!!」
止めるマミを押しのけようとする。だが、巧を止めるのは彼女だけではない。
別方向から伸びた細い腕が巧をつかんで、後ろに投げ飛ばす。
「つぅ……、お前……」
「お前が出る幕じゃねえよ。ボロボロじゃねえか」
「人のことを言えるか!」
「バァカ」
杏子は槍を構え、木場の動きを見逃さないよう警戒する。
「体のことじゃねえよ。たく、ホント世話の焼ける奴」
油断なく相手を見据える杏子に、マミが並んだ。
どこか申し訳なさそうな様子だ。
「佐倉さん、言いにくいんだけど……ゆまちゃんをあいつに殺されているわ。油断しないで」
「……? ゆまってだ……まあいい。あとで聞く」
二人の魔法少女が巧を守るように前に出た。
なのに、木場は変身すら始めない。あくまで巧を見据えている。
「乾巧。誰が使っているかわからないが、ファイズのベルトは北で見かけた」
「どういう……つもりだ。木場」
「ベルトのない君と決着をつけるつもりはない。早くベルトを手にいれて、オルフェノクとして生きる道を決めろ。
そうでないなら、俺が殺す。この帝王のベルトで!」
木場は言い捨てて、踵を返した。巧はただ混乱するだけだ。
ただひとり、この状況に納得できないものがいる。
杏子が身を沈め、怒りに燃える瞳を向けた。
「おい、アタシらは無視か! いい度胸だ!!」
いら立ちも頂点に達し、足に力を込めるが、突進は成功しなかった。
マミが全力で杏子を止めたのである。
「おい、マミ!」
「佐倉さん、ダメよ。今の私たちではあいつに対抗できないわ。せめて傷を癒さないと……」
杏子は舌打ちをしながらも、忠告に従う。
巧はマミの瞳に冷静以外のものがあったのを偶然見つけた。
あれは後悔だろうか。しかし、彼女以上に気になることがある。
すぐに頭の隅から追い出し、木場の背中を見上げた。
「おい、木場! 木場ぁぁぁぁぁッ!」
何度も呼び止めるが、木場は迷わず進み続ける。
やがて姿が消えたとき、一気に絶望感が襲ってきた。
どこか申し訳なさそうな様子だ。
「佐倉さん、言いにくいんだけど……ゆまちゃんをあいつに殺されているわ。油断しないで」
「……? ゆまってだ……まあいい。あとで聞く」
二人の魔法少女が巧を守るように前に出た。
なのに、木場は変身すら始めない。あくまで巧を見据えている。
「乾巧。誰が使っているかわからないが、ファイズのベルトは北で見かけた」
「どういう……つもりだ。木場」
「ベルトのない君と決着をつけるつもりはない。早くベルトを手にいれて、オルフェノクとして生きる道を決めろ。
そうでないなら、俺が殺す。この帝王のベルトで!」
木場は言い捨てて、踵を返した。巧はただ混乱するだけだ。
ただひとり、この状況に納得できないものがいる。
杏子が身を沈め、怒りに燃える瞳を向けた。
「おい、アタシらは無視か! いい度胸だ!!」
いら立ちも頂点に達し、足に力を込めるが、突進は成功しなかった。
マミが全力で杏子を止めたのである。
「おい、マミ!」
「佐倉さん、ダメよ。今の私たちではあいつに対抗できないわ。せめて傷を癒さないと……」
杏子は舌打ちをしながらも、忠告に従う。
巧はマミの瞳に冷静以外のものがあったのを偶然見つけた。
あれは後悔だろうか。しかし、彼女以上に気になることがある。
すぐに頭の隅から追い出し、木場の背中を見上げた。
「おい、木場! 木場ぁぁぁぁぁッ!」
何度も呼び止めるが、木場は迷わず進み続ける。
やがて姿が消えたとき、一気に絶望感が襲ってきた。
まだ啓太郎の死を信じられず、巧はマミに現場へ案内してもらった。
木場がオルフェノクとして覚悟したことを、啓太郎の死を嘘だと思いたかったのだ。
もっとも、どれだけ願っても現実は変わらない。
巧の眼下には、見覚えのある灰の山があった。
「啓太郎……おい! 啓太郎……ッ!」
「馬の……オルフェノクだったかしら? 剣で刺したと思ったら灰に……」
「…………木場しかいねえ。啓……太郎」
語尾に力が入らない。握りしめた拳の隙間から灰が零れ落ちる。
「ごめんなさい。私が守れず……」
「ちがう……俺のせいだ……」
え、とマミは驚いた顔を見せた。巧は震える手で啓太郎だった灰をすくいあげる。
「俺がずっとついていれば……オルフェノクにさえならなければ……」
胸が張り裂けそうで、悲しくてしかたなかった。
誰かがパラレルワールドだとかなんだとか言っていたが、巧にそんなものを理解するつもりはない。
啓太郎が死んだ。重い何かが背中にのしかかる。
なのに、涙が出なかった。
木場がオルフェノクとして覚悟したことを、啓太郎の死を嘘だと思いたかったのだ。
もっとも、どれだけ願っても現実は変わらない。
巧の眼下には、見覚えのある灰の山があった。
「啓太郎……おい! 啓太郎……ッ!」
「馬の……オルフェノクだったかしら? 剣で刺したと思ったら灰に……」
「…………木場しかいねえ。啓……太郎」
語尾に力が入らない。握りしめた拳の隙間から灰が零れ落ちる。
「ごめんなさい。私が守れず……」
「ちがう……俺のせいだ……」
え、とマミは驚いた顔を見せた。巧は震える手で啓太郎だった灰をすくいあげる。
「俺がずっとついていれば……オルフェノクにさえならなければ……」
胸が張り裂けそうで、悲しくてしかたなかった。
誰かがパラレルワールドだとかなんだとか言っていたが、巧にそんなものを理解するつもりはない。
啓太郎が死んだ。重い何かが背中にのしかかる。
なのに、涙が出なかった。
「あのとき俺が死んでさえいれば、啓太郎は生きていたんだ!」
無論、そんなわけがない。
だけど巧にとって全ての元凶はオルフェノクである体。
バケモノへと落ちて行くかもしれない、おのれの心の弱さにあるように思えた。
「違います! 啓太郎さんが死んだのは、ゆまちゃんを殺したのは……」
「啓太郎は死ぬべきじゃなかった。死んでいい奴じゃなかった。
死ぬべきなのは……草加を……真理を殺したかもしれない俺だったんだ。俺が……」
「どうでもいいよ」
ひどく冷たい声が、巧の慟哭を遮った。発言の主、杏子は醒めた目をこちらに向けている。
「お前が死ねばそいつが生き返るのか? あのまま魔王とか抜かす痛い奴に殺されていればよかったってか。
ハッ、くだらねえ。お前はバカじゃねえの?」
「佐倉さんッ!」
マミが遮ろうとするが杏子は止まらない。
巧のうつろな目を確認し、イラつくままに罵倒が続いた。
「現実を見やがれ。お前は力と運があって生き残った。殺されたそいつは運が悪かっただけさ。
お前が死のうが生きようが関係ねえ。誰かが殺しあう現実と、殺された現実が転がっている。よくある話しだ」
「いい加減にしなさいッ!」
マミがたまらず実力行使に出ようとしたが、巧が止めた。
意外な反応に彼女は戸惑っている。
巧はポツリと一言、ひとりごとのようにつぶやいてしまう。
「なあ、なんでお前は辛そうなんだ?」
杏子は一瞬だけ表情を崩す。それで巧は悟った。
きっとあいつも誰かのために戦って、今もそのために戦える人間なのだろう、と。
だったら離れねばならない。マミという奴も、杏子という奴もきっといい奴だ。
こんな誰を殺すかわからない、バケモノといてはいけない。
「辛くねえ! アタシは自分のためにしか戦わない! って、どこにいく! 話は終わってねえぞ!!」
「ついてくんな」
端的に告げ、巧は離れだす。どこに向かえばいいなんて考えていない。
どこが北なのか今は確認できないが、できれば避けたい。
きっと自分にはファイズのベルトは似合わないから。
「てめっ……」
杏子がなにか叫んでいるが、無視して走る。
まだそれだけの力があったのか。倒れるかもしれないが、どうでもよかった。
ただ巧は逃げ出した。自分が誰かを裏切る前に。
だけど巧にとって全ての元凶はオルフェノクである体。
バケモノへと落ちて行くかもしれない、おのれの心の弱さにあるように思えた。
「違います! 啓太郎さんが死んだのは、ゆまちゃんを殺したのは……」
「啓太郎は死ぬべきじゃなかった。死んでいい奴じゃなかった。
死ぬべきなのは……草加を……真理を殺したかもしれない俺だったんだ。俺が……」
「どうでもいいよ」
ひどく冷たい声が、巧の慟哭を遮った。発言の主、杏子は醒めた目をこちらに向けている。
「お前が死ねばそいつが生き返るのか? あのまま魔王とか抜かす痛い奴に殺されていればよかったってか。
ハッ、くだらねえ。お前はバカじゃねえの?」
「佐倉さんッ!」
マミが遮ろうとするが杏子は止まらない。
巧のうつろな目を確認し、イラつくままに罵倒が続いた。
「現実を見やがれ。お前は力と運があって生き残った。殺されたそいつは運が悪かっただけさ。
お前が死のうが生きようが関係ねえ。誰かが殺しあう現実と、殺された現実が転がっている。よくある話しだ」
「いい加減にしなさいッ!」
マミがたまらず実力行使に出ようとしたが、巧が止めた。
意外な反応に彼女は戸惑っている。
巧はポツリと一言、ひとりごとのようにつぶやいてしまう。
「なあ、なんでお前は辛そうなんだ?」
杏子は一瞬だけ表情を崩す。それで巧は悟った。
きっとあいつも誰かのために戦って、今もそのために戦える人間なのだろう、と。
だったら離れねばならない。マミという奴も、杏子という奴もきっといい奴だ。
こんな誰を殺すかわからない、バケモノといてはいけない。
「辛くねえ! アタシは自分のためにしか戦わない! って、どこにいく! 話は終わってねえぞ!!」
「ついてくんな」
端的に告げ、巧は離れだす。どこに向かえばいいなんて考えていない。
どこが北なのか今は確認できないが、できれば避けたい。
きっと自分にはファイズのベルトは似合わないから。
「てめっ……」
杏子がなにか叫んでいるが、無視して走る。
まだそれだけの力があったのか。倒れるかもしれないが、どうでもよかった。
ただ巧は逃げ出した。自分が誰かを裏切る前に。
「あの野郎、話はまだ終わってねえ!」
杏子が怒りながら追いかけようとするのを、マミは止めた。
首を左右に振り、訝しげな彼女に説明する。
「乾さんは私が追うわ。アナタは……ゆまちゃんが殺されたことを、彼女の同行者……金髪の男の人に伝えて。
ここから北の方に逃げたから、そう遠くには行っていないはずよ」
「なんでだよ。お前が伝えれば……」
「今の佐倉さんが行ってもこじれるだけよ。アナタも頭を冷やす時間が必要だわ」
マミは杏子の激昂がゆまを喪ったものによると勘違いしていた。
本当は巧の発言で忘れたい過去を思い出し、腹立っているだけなのだが。
「それに私も、私が許せない。啓太郎さんをむざむざ見殺しにしたもの。
ゆまちゃんだって……せめて乾さんだけでも、助けに行かないと」
チッ、と杏子は舌打ちして、無言で離れた。
彼女の納得したときの行動だ。マミは急いで乾を追いかけようとする。
「おい、あいつには借りがあるんだ。殺さず連れてこいよ」
くすり、と前を向いたまま微笑み、マミは頷いた。ゆまとの出会いが杏子を変えたのだろう。
そう結論つけて、巧が消えた方向を睨みつける。
見たところ、彼の体力は限界だ。自分も似たようなものだが、何とか追いつけるはず。
景色が移り変わる。月の頼りない明かりでも魔法少女の視力なら安全だ。
マミは金の髪をなびかせ、フラフラと足元のおぼつかない男の背中を見つける。
「乾さん、待って!」
呼び止めると、広い背中がビクッと震えた。
まるで何か怖がるように、青白い顔が振り返る。
「なんできやがった」
「その状態のアナタを放っておくわけにはいきません。合流する気がないというなら、私がついていきます」
何かをこらえるような表情だった。
彼はいったい、何を我慢していたのだろうか。
「うるせえ、さっさと戻りやがれ!」
「アナタが一緒に戻るというのなら」
苦渋の表情が浮かんでいる。
彼は一度うつむき、決意したように顔を持ち上げた。
そこに変身後の顔の影が浮かびあがる。ジェル状の何かが崩れたような音が鳴り響き、人とオルフェノクの境が曖昧になった。
なぜ変身したのかマミにはわからない。ただ、殺気がないことだけは理解した。
「うおぉぉぉぉぉぉぉっ!」
「乾さんっ!」
狼のオルフェノクは腕を振り抜いた。やる気がなく、避けるのはたやすい。
マミは拘束するかどうか迷いながら、巧の答えを待った。
「殺せよ、相手はバケモノだ。すでに死んでいるんだ」
月明かりから伸びる影が、巧の上半身となりマミに語りかける。
杏子が怒りながら追いかけようとするのを、マミは止めた。
首を左右に振り、訝しげな彼女に説明する。
「乾さんは私が追うわ。アナタは……ゆまちゃんが殺されたことを、彼女の同行者……金髪の男の人に伝えて。
ここから北の方に逃げたから、そう遠くには行っていないはずよ」
「なんでだよ。お前が伝えれば……」
「今の佐倉さんが行ってもこじれるだけよ。アナタも頭を冷やす時間が必要だわ」
マミは杏子の激昂がゆまを喪ったものによると勘違いしていた。
本当は巧の発言で忘れたい過去を思い出し、腹立っているだけなのだが。
「それに私も、私が許せない。啓太郎さんをむざむざ見殺しにしたもの。
ゆまちゃんだって……せめて乾さんだけでも、助けに行かないと」
チッ、と杏子は舌打ちして、無言で離れた。
彼女の納得したときの行動だ。マミは急いで乾を追いかけようとする。
「おい、あいつには借りがあるんだ。殺さず連れてこいよ」
くすり、と前を向いたまま微笑み、マミは頷いた。ゆまとの出会いが杏子を変えたのだろう。
そう結論つけて、巧が消えた方向を睨みつける。
見たところ、彼の体力は限界だ。自分も似たようなものだが、何とか追いつけるはず。
景色が移り変わる。月の頼りない明かりでも魔法少女の視力なら安全だ。
マミは金の髪をなびかせ、フラフラと足元のおぼつかない男の背中を見つける。
「乾さん、待って!」
呼び止めると、広い背中がビクッと震えた。
まるで何か怖がるように、青白い顔が振り返る。
「なんできやがった」
「その状態のアナタを放っておくわけにはいきません。合流する気がないというなら、私がついていきます」
何かをこらえるような表情だった。
彼はいったい、何を我慢していたのだろうか。
「うるせえ、さっさと戻りやがれ!」
「アナタが一緒に戻るというのなら」
苦渋の表情が浮かんでいる。
彼は一度うつむき、決意したように顔を持ち上げた。
そこに変身後の顔の影が浮かびあがる。ジェル状の何かが崩れたような音が鳴り響き、人とオルフェノクの境が曖昧になった。
なぜ変身したのかマミにはわからない。ただ、殺気がないことだけは理解した。
「うおぉぉぉぉぉぉぉっ!」
「乾さんっ!」
狼のオルフェノクは腕を振り抜いた。やる気がなく、避けるのはたやすい。
マミは拘束するかどうか迷いながら、巧の答えを待った。
「殺せよ、相手はバケモノだ。すでに死んでいるんだ」
月明かりから伸びる影が、巧の上半身となりマミに語りかける。
「頼むから、俺を殺してくれ……」
ああ、なるほど。マミは合点がいった。彼が何を恐れ、何を遠ざけようとしたのか。
それは先ほど浮かんだ、マミ自身の疑念と似ている。今のマミだからこそ理解してしまった。
狼のオルフェノクが爪を立てて迫ってくる。
そんな状況で、マミは変身を解いた。
「おまえっ!」
巧は攻撃を全力で外し、地面を転がっていく。
「おい、死ぬ気か!?」
「…………ゆまちゃんを見捨ててしまったの」
ギュッと下唇を噛み締める。切れて血が流れ、全身が震えるがもう止まらない。
それは先ほど浮かんだ、マミ自身の疑念と似ている。今のマミだからこそ理解してしまった。
狼のオルフェノクが爪を立てて迫ってくる。
そんな状況で、マミは変身を解いた。
「おまえっ!」
巧は攻撃を全力で外し、地面を転がっていく。
「おい、死ぬ気か!?」
「…………ゆまちゃんを見捨ててしまったの」
ギュッと下唇を噛み締める。切れて血が流れ、全身が震えるがもう止まらない。
「啓太郎さんを守れなかった。せめてゆまちゃんが逃げれるよう、私が頑張るべきだったの。
なのに、あの黒い騎士に変身されたとき、私は逃げたわ。……ずっと覚悟していたのに、誰かを守るためなら傷ついても構わないと思っていたのに!
私が……私がゆまちゃんを殺したも同然よ。本当はあの場は、ゆまちゃんでも啓太郎さんでもない。私が死ぬべきだったの……!」
なのに、あの黒い騎士に変身されたとき、私は逃げたわ。……ずっと覚悟していたのに、誰かを守るためなら傷ついても構わないと思っていたのに!
私が……私がゆまちゃんを殺したも同然よ。本当はあの場は、ゆまちゃんでも啓太郎さんでもない。私が死ぬべきだったの……!」
自分の体を抱きしめ、マミは崩れ落ちた。
そうだ、そうなのだ。忘れようとした。逃げようとした。
けど、罪はついてまわる。巧を追いかけたのも、けっきょく杏子に対する罪悪感から逃げただけだ。
どうしようもなく、自分が汚く思えた。
ああ、だからだろう。この罪の意識が彼にとってオルフェノクであれば、人とはいられないはずだ。
そうだ、そうなのだ。忘れようとした。逃げようとした。
けど、罪はついてまわる。巧を追いかけたのも、けっきょく杏子に対する罪悪感から逃げただけだ。
どうしようもなく、自分が汚く思えた。
ああ、だからだろう。この罪の意識が彼にとってオルフェノクであれば、人とはいられないはずだ。
「私は……怖い」
どうしようもなく心細く、胸が苦しい。同じ罪を背負う彼に聞いて欲しかった。
「誰かを裏切るのが、怖いのよ!!」
ポロポロと涙がこぼれ落ちて止まらない。
なぜだろうか。同じ傷を持つ人がいて、自分より傷が深くて安心したからだろうか。
彼女自身にもわからなかった。
ただ、その場には泣いている少女と、途方にくれる男だけしかいなかった。
なぜだろうか。同じ傷を持つ人がいて、自分より傷が深くて安心したからだろうか。
彼女自身にもわからなかった。
ただ、その場には泣いている少女と、途方にくれる男だけしかいなかった。