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第二回定時放送

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第二回定時放送 ◆Z9iNYeY9a2



カタカタカタカタ

明かりも最低限にしかつけられていない、薄暗い空間に。
高速でキーボードを叩く音が響き渡った。

カタカタカタカタ

その音を鳴らす主は、部屋の暗さにも殺風景な様子にも全く気を払うこともなく。
ただ一心不乱にコンピュータの前でキーボードを叩き続けていた。

薄暗い部屋の中で、コンピュータから漏れる光の反射する眼鏡と汚れのない真っ白な白衣が異様な存在感を放っている。
その眼鏡の反射による光のせいで、奥の瞳の様子を窺い知ることはできない。
が、もとより今この部屋にいるのは彼一人だけ。たとえそうであっても彼の顔を気にするものは一人として存在していなかった。

たった今、そこに一つの侵入者が現れるまでは。

真っ暗に近い空間に、ほんの少し濃い影が形成されたかと思うと、そこから真っ赤な瞳と白衣にも劣らぬ純白な体毛を持つ一匹の生物が、姿を現した。

インキュベーター。多くの者はキュゥべえと呼ぶ存在。
黒き猫に擬態していないということを除けば会場にいるそれと全く同一な存在の一端。

それが、その空間で作業を続けるその男に静かに話しかけた。

「さて、作業の調子はどうだい?ドクター・アクロマ」
「おや、インキュベーター、…いえ、キュゥべえ君ですか。何か御用ですか?」

問いかけるキュゥべえに、眼鏡と白衣の男、アクロマはキーボードから目を離すこともなく答えた。

「いや、そろそろ放送だからね。作業はどうかなと思って声をかけさせてもらったよ。ちょうど君に聞きたいこともあったし」
「ほう、聞きたいこと、ですか」
「うん。作業の調子はどうだい?」

ピョン、とアクロマのいじるキーボード近くの机の上に乗りながらキュゥべえは再度問いかける。
無感情な顔とピョコピョコ動く尻尾がかなりの鬱陶しさを感じさせるはずだがそんなことを気にも留めずアクロマは答えた。

「ええ、ポケモン強制制御装置、そして例のものも全て滞りなく動いています。
 この前のテッシードに続きこの放送までの間に幾匹かのポケモンが散ったようですが、それらに大きな影響を与えるものはありません」
「そうかい、それはよかった。じゃあ、君自身の目的のデータは集められたのかな?」
「それはもう!散っていったポケモン達の多くは特に大きな影響を与えるものがいません。
 しかし一匹、チャンピオン・シロナの持つガブリアス、彼は素晴らしい!まさしく奇跡としか呼び様のないデータを私にもたらしてくださいました!」
「なるほど、じゃあやっぱりあれを支給したのは君だったんだね」
「ええ、正直私自身あれの情報を収集しきれたわけではありませんでしたが、あれ、メガストーン自体はガブリアスのものに限らなければ他にも資料としては所持していますしね」

キュゥべえが問いたかったのはまさしくそれだった。
この殺し合いのために各世界の情報を集めた際、一つ一つの世界の大まかな情報は一様に把握したはずだった。
しかし、完全に進化しきったポケモンがあのように形態変化を引き起こす現象など、キュゥべえは知らなかった。

「あれはポケモンと人間の絆に反応し、絆を持った者が何かしらの信号をメガストーンに送ることでポケモンに対して一時的な進化を与えるものなのですよ。
 本来であればメガリングという道具が最も使われているものなのですが、まさかあの偽の聖剣を介してメガストーンを反応させるとは、いやはや」
「まあすごいものだったとは思うよ。そのせいであのバーサーカーが一度に3回も命を失ったんだからね」
「ええ!それですよ!
 ポケモンの主を守りたいという思いが、あの一瞬の命の素晴らしい輝きへと変換され、あのバーサーカーを打ち破るほどの戦闘能力を引き出したのです!
 惜しむらくは、その結果ガブリアス自身が消滅してしまい再度あのデータを得ることは不可能になってしまったことですかね。もう少しであの力の源に気づけそうだったのですが、残念です」

元々彼が協力者に選ばれたのは、ポケモンに対する各方面での様々な知識を買われてのものだった。
ポケモンに詳しい研究者の中で、彼ほどポケモンに対し純粋で、だからこそ狂気に満ちた扱いをすることができる者はいない。
自分の欲望に正直であり、そのためならばポケモンを慈しむことも傷つけることも同時に行う。
その内面はどこまでも度し難く、しかしそれ故に利害さえ一致するならば協力させるのも容易い、とはアカギの談だった。

「はぁ…、まあいいや。ポケモンに関しての扱いは完全に君に一任していたからね、仕方ない」
「それを言うなら、君のあの行動も問題ないと言えるのですか?」
「おや、気付いていたんだね」
「ええ。あの場所にはポッチャマがいましたからね。監視装置を通してあなたの存在を確認させてもらいました。何を話したか、まではこちらから聞き取ることはできませんでしたが」

それは失念だった、とキュゥべえは思った。ポケモン自身が認識することに関しては一応警戒しておいたが、ポケモン自体についていた監視装置までは盲点だった。
興味のあることに関しての探究はつくづく尽きない男だ、ある意味では油断ならない。

参加者自体の監視は自分が担っていることが救いになったというところだろうか。

「まあ私の仕事はあくまでもこの殺し合いを通じてポケモンの可能性を研究することです。あなた達の思惑には特に興味がありませんので。
 無論、アカギさんに伝えるつもりもないのでご安心を」
「そうかい。それは助かったよ。ところでアクロマ、君はこの殺し合いの中で気になる存在はいるかい?」
「気になる存在、ですか。そうですね…、やはり多くのポケモン達の存在が気になっていますが、今気になっているのはポッチャマでしょうかね?」
「どうしてだい?」
「彼は今、誰の支配下にもおかれていないからですよ。あのモンスターボールはユーフェミア・リ・ブリタニアの持っているものでした。
 しかし彼女はポッチャマに何を命じることもなく、その結果ポッチャマは彼女の元を離れ、今は暁美ほむら、アリスの両名と行動を共にしている。
 そしてその間にユーフェミアは死亡した。では今彼を縛っているものは、一体何なんでしょうかね?」
「僕に聞かれても困るよ」
「あとは参加者であるミュウツー、彼もまた興味深い状況にありますね。
 ポケモンの中でも上位に君臨するほどの潜在能力を備えていながら、今の彼の力は過去のものに遠く及ばない。
 もしその迷いを振り切ることができれば、彼もまた新たな段階へと進むことができるのではないかとも思うのですよ」

彼の研究に対する興味が大きすぎるというのも考え物だ、とキュゥべえは思っていた。
殺し合い当初はポケモンでありながら参加者でもあるニャース、ミュウツーに対して大きな興味を持っていた。
しかしニャースが人間とのコミュニケーション能力を得ることと引き換えに進化する力、ポケモンとして新たな技を得る学習能力を失ったと知って以降そうニャースに対して大きな興味を持つことはなくなったようだった。

好奇心というほどでもないが、キュゥべえが少し気になったのは、彼がNに対して如何なる思いを持っているかだった。
人間でありながらあまりにポケモンに偏った思考を持ち、ポケモンとコミュニケーションを取ることができる存在。
アクロマならば放っておく存在ではないはずだが、彼に対する思いがキュゥべえから見て表に出てこないというのが若干気にはなっていた。

「まあ何事もなく進行するなら君に一任するけどさ、何にしてもあまりイレギュラーなことは困るよ?」


そう告げて、キュゥべえはアクロマの作業する部屋から退出しようとして、一度振り返った。

「そういえば、あの時にポケモンに進化を引き起こしたあの石、他にも支給しているのかい?」
「フフフ、どうでしょうかね?それは教えられません。まあ、これからの進行でのお楽しみですね」


「全く、彼にも困ったものだよ。一応こっちでも手を打っておく必要があるかな。っと、そろそろ時間か」

こちらとも特に何か話をすることもなく一人静かに篭っているアカギが唯一表に現れる定時放送。
それが今、鳴り始めていた。




「12:00、定刻通り死亡者、並びに禁止領域の発表を始めよう」

その言葉はとても無感情に、そして事務的に始まった。
正午ぴったりの時間。アカギの声が、殺し合いの会場に平等に鳴り響く。


「死亡者は
 ナナリー・ランペルージ
 ロロ・ヴィ・ブリタニア
 ユーフェミア・リ・ブリタニア
 ニア
 藤村大河
 クロエ・フォン・アインツベルン
 ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルト
 バゼット・フラガ・マクレミッツ
 オーキド・ユキナリ
 佐倉杏子
  呉キリカ
 以上の11名」

人数は先より一人多い11人。しかしそのことに特に感慨をもらすこともなく、アカギは淡々と、事務的に放送を続ける。

「次に禁止エリアだ。
 13:00よりA-6、
 15:00よりF-2、
 17:00よりD-7が禁止領域となる。以上だ」

そう告げるのを最後に、短く、しかし参加者にとっては大切な放送が終了した。

死者に関しては特に思うところはない。

禁止エリアに関しては先はとある参加者にも一応気を配った配置にしたはいいが、にも関わらず彼は今その禁止エリアのすぐ近くにいる。
そのような小さな気遣いをしたところであの大英雄には無駄に働くと分かってしまった以上、配置に気を使うこともしなくなったのだ。
まあ2時間もあればさすがに移動はするだろうし、もしそれで死ぬようならばその時はその時だ。

「それで問題はないのだろう、キュゥべえ?」
「そうだね、先のことを想定しておいてもそれがその通りにいくとは限らないのははっきり分かったからね」
「お前としてはそのようなイレギュラーも起こってくれたほうが助かるのではないか?」
「確かに、エントロピーを回収する上である程度の刺激はあったほうがいいけど、今の僕は静観寄りさ。特に何か大きなことをしようとも思わないよ」
「そうか」

去っていくアカギ。
次に彼が出てくるときは6時間後の放送か、あるいは何かよほどのイレギュラーが起きたときだけだろう。

そう、彼は静かに時を過ごす。
無感情で静寂な時を好んでいる。

「人間でありながら、人間の感情を否定する。じゃあ、それを願う君自身の感情は、一体何なのかな、アカギ?」

ふと呟いたそんな問いかけを、答えるものも聞き届けるものもその場にはいなかった。


アクロマのいる部屋ともアカギの篭る空間ともまた違う場所に一人佇む男。
その背からは歳から想像することはできないほどの威厳を発し続けている。

そんな背に、声をかける者が一人。

「ねえ、シャルル」

桃色の髪をした14、5くらいの少女。
しかし彼女の彼、シャルル・ジ・ブリタニアの呼び方は、もし彼の世界であったならば不敬罪で殺されてもおかしくないだろうもの。

そんな言葉に顔色一つ変えることなくシャルルは応える。

「アーニャか。何用だ?」
「今は誰もいないわ。マリアンヌで大丈夫よ」

シャルルが振り返ると同時に、如何なる魔法か少女の外見は黒髪の美女へと変化する。
ドレスのような服に身を包んだその女の名をマリアンヌ・ヴィ・ブリタニア。
シャルルの妻であり同士でもあり、そして魂を加工するギアス、ザ・ソウルを備えたギアスユーザーでもあった。

しかし彼女は、瞳を悲しそうに伏せてシャルルに問いかけた。

「ねえ、これでよかったのかしら…?私達のやってること、本当にこれで…」

それは、この殺し合いに力を貸す自分たちに対するものだった。

「もうその質問には答えたはずだ。今の我々にできるのはこれくらいのことしかないのだと。それが我々の目的に繋がるものだというのは既に言ったはずだ」
「ええ、私も一度は納得したわ。だからこそ、今更こんなことを言う刺客はないのかもしれないわ。
 でも、あの子達の最期を見ていたら、本当に私達が今こんなところに存在してこんなことに協力しているのが正しいのか、分からなくなってしまったのよ」

一度の放送前に10人、その中には別世界の存在とはいえ己の息子であったルルーシュの名が呼ばれた。
そして今度。11人の名が呼ばれた放送の中には、本当の娘が、そして偽りの記憶を植えつけて利用した偽者の、しかし彼もまた大切な息子であった者の名が呼ばれることとなった。

本来ならば自分が看取るはずだった彼は全てを呪い、力に蝕まれながらもなお魔女の力を欲しながら死んでいった。
そして未来を望み生きるはずだった娘も、この世全ての悪に蝕まれ衰弱して死んでいった。

今更言うようなことではないのだろう。そもそもアカギ達に力を貸すと決めたときから覚悟しておくことだった。
しかし、実際に彼らの最後を目の当たりにして。
本当に彼らに協力するのが正しいことなのか、マリアンヌは己の心に迷いを感じてしまった。

「全ては覚悟していたことだ。エデンバイタルに消えた我らが、悲願を叶えるための希望を得たあの時から。
 今更戻ることなどできぬ」
「でも、本当はシャルルも――――」
「話はこれまでだ。もし嫌だというならばマリアンヌ、お前だけでもここから去るがよい。
 もはや我らにとっては余生のようなもの、引き留めはしない」

その言葉を最期に、シャルルは振り返ることなくマリアンヌの前から歩き去っていく。
まるでもう過去を振り返ることはしない、という意志を示しているかのように。

「シャルル、あなたは…」

シャルルの視界から離れたその姿はもうマリアンヌのものではなく、アーニャのものへと戻っている。
マリアンヌには、彼の心を窺い知ることはできない。
だからこそ、今この状況から離れることなど、選択することはできなかった。


様々な思惑を入り交えたまま、殺し合いというゲームは続いていく。
一つの節目を通ったこの殺し合いが新しい段階へと進んでいくのか、それともこれまで通り予定調和を歩んでいくのか。
それはインキュベーターにも、シャルル・ジ・ブリタニアにも、アクロマにも、そしてアカギにも分からない。


106:彼らの探し物 投下順に読む 108:I was the bone of my sword(前編)
時系列順に読む
068:第一回定時放送 アカギ 137:第三回定時放送
シャルル・ジ・ブリタニア 160:第四回定時放送
キュゥべえ 124:閃光の真実と深淵の影
初登場 マリアンヌ・ヴィ・ブリタニア 135:Guilty Girl
初登場 アクロマ 124:閃光の真実と深淵の影


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