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またあした

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またあした ◆Z9iNYeY9a2



アヴァロン艦内に、バイクの走行音が響き渡る。

オートバジンを走らせている草加雅人は、ゲーチスに与えられた指令を果たすために内部の生存者を探していた。
戦艦内でバイクを走らせる行為は本来であれば危険行為でしかなかったが、今それを咎めるほど内部に人はいない。
むしろ自身の戦力を運搬し、かつ素早く探索するということでオートバジンでの移動はこれ以上にない利点だ。

そんな草加の前で、何者かが曲がり角から飛び出してきた。
咄嗟にバイクにブレーキをかけると同時に、そのまま進んでいたら自分がいたであろう位置に剣が突き立った。

「行かせないよ!ここから先は!」

白いマントを翻して剣をこちらに向ける少女が一人。

抹殺対象を発見。

草加雅人は、静かにカイザフォンを取り出した。




『あれは…、ファイズと同じベルト…?』

それを見て驚くさやかの声が艦橋の皆に届く。

そして電子音と共にスーツ姿の何者かは、光と共にその身に鎧を纏った姿となる。
その姿はさやか、まどか、Lが知っているファイズに似通った形。

静かにバイクから降りた変身者、カイザは襟元を正すかのように首の下辺りに手をやり首を振った。

「…えっ」

その光景を見ていたまどかの脳裏に、一人の青年の姿がよぎる。
この殺し合いが始まったばかりの頃、自分を助けてくれた男。

変身している姿こそ違うが、彼もまた変身した時に同じ仕草をしていたのをまどかは見ていた。

気のせいかとも思ったが、一度そうなのではないかと思ってしまえばそこからの動きも彼のものにしか見えなくなっていた。
最初に襲われた、馬のオルフェノクに襲われた時に振り下ろされた剣を避ける姿。それが今振り下ろされたさやかの剣を避ける姿と被ってみえた。
ファイズのベルトに吹き飛ばされた杏子が怒りのままに突き出した槍を受け止める姿。それがたった今突き出された刃を止める姿と同じものに見えていた。

そして何より、草加自身が言っていたことだ。

『このベルトで変身できるのはオルフェノクか……、俺のように改造された人間のどちらかしかいないんだ』

あのベルトも同じものだとしたら。
多くの参加者が命を落とした今の段階で他に変身できる人はもう限られている。

(草加さん…、何で…?)

もうまどかの中では目の前の存在が草加雅人であることは疑いようがなかった。

「草加さん!!」

思わず、モニタに向けて呼びかけたまどかは、部屋を飛び出して走り出していた。


「まどかさん!!」

Lと月の静止の声にも構わずに、さやかとカイザが戦っている場所へと走っていくまどか。

(止めないと…!)

今の自分に戦いを止めることができるのかは分からない。行っても邪魔になるだけかもしれない。
でも、黙ってみているだけということも、まどかにはできなかった。

自分を助けてくれた命の恩人が、自分の親友と戦っているのだ。
理由も分からぬ以上受け入れられるものではなかった。

置いていかれた月とL。

二人はどうするべきか迷っていた。

まどかは彼を草加と言ったが、Lから今の彼の状態を見れば何かしらの正常ではない状態にあるのは明らかだった。
故に慎重にならざるを得ない。

向かう場所は分かっているし彼女も迷いはしないだろう。
ならばさやかを信じて待つのが現状の得策だ。
逆に下手に動けば見失う危険もある。

「追いかけよう」

そう言ったのは月だった。
Lは一瞬意外そうな目を向けた後で、その答えに反論した。

「いえ、ここは待つべきでしょう。
今下手に動けば見失いますし、この場所を空けてしまえば逆に占領される可能性だってあります。
それに、彼らの戦いの中で私達にできることはありません」

Lとしては今言った程度のことは月が認識していないとは思えなかった。
ただ、試したのだ。

これが彼が本心から言っていることなのか、それとも自分の前で信用を引き出すために敢えて言っているだけの言葉なのかを測るために。

月は少し沈黙した後、こう反論した。

「行っても役に立たないというのは、あの子も同じじゃないのか。
それにもし美樹さやかが負ければ条件は同じだ。ここを目指してくる以上袋小路になる。そうなれば皆殺しだ。
そうなる前に、一人でも多く生き残れるようにするべき、じゃないのか」
「一理ありますね」
「…L、今僕を試したな?」
「さて、何のことやら」

立ち上がった、とぼけるLを見ながら、とりあえず一言くらいは言うべきかと思ったが今はそれどころではないと思い直し前を向き直す。
Lにしては言うことが後ろ向きすぎた。自分の知るLは逃げる時も常に前を向いているような男だったと思っている。
少なくともまどかとそれなりに共に行動していたらしいLが、彼女を見捨てる側の選択肢を取ることはしない。待機するにしても一つくらいは策を打つはずだ。

「自動運転は利いています。あとはあの戦艦からの攻撃がないかだけが不安ですが」
「なら早めに連れて戻ってこよう」

そうして月とLはまどかの後を追って走り始めた。

もしかすると二人で行く必要はないのではないかという思いを持ちながらも、何が起こるか分からない現状からそうするべきとは言わなかった二人。

その選択は、結論から言えばある意味では不幸だったかもしれないが、ある意味では幸運だったのかもしれない。




戦い慣れている相手だ、とさやかは思った。

村上峡児のような圧倒的な強さはないが、一撃一撃の攻撃に隙が少なく、かつ的確にこちらを攻めてくる。
手にした剣で相手の黄色の刃を受け止めれば、両手が塞がり対処ができなくなった胴体に蹴りを叩き込んでくる。

どうにか態勢を立て直したところで、今度はその手の銃剣から放たれたエネルギー弾が襲いかかってきた。
着弾直前に大きく飛び退いて避けるが、回避した先に待っていたのは銀色の機人の拳だった。

吹き飛び壁に叩きつけられるさやかの体。
受け身にも失敗した衝撃で骨が砕けるような音が響くが、持ち前の回復力ですぐさま復帰する。

と、次の瞬間機人、オートバジンが構えた手の盾が回転し銃撃音が鳴り響く。
さやかが盾に仕込まれた機関銃の存在に気付き回避したのはその体に幾発か撃ち込まれてからだった。

「く…!」

歯噛みしながら通りの曲がり角に飛び込むさやか。
撃たれた場所は右の腕と足、胸の辺り。
痛覚をカットしていなければ痛みで動くこともできなかっただろう。

動くのに支障をきたす足の治癒を優先する。
幸いにして腹部のソウルジェムは狙われた気配はなかった。

戦うだけでかなり無理をしている現状、もし相手がソウルジェムを重点的に狙ってきていたら防戦が手一杯だっただろう。
ふと角から目だけを覗かせて相手の様子を探る。

ゆっくりとこちらに歩いてくるカイザと、その後ろで佇むオートバジンの姿が見える。
ふと、そんな中でオートバジンの体の中心にある黄色いスイッチのようなものが気になった。

(そういえばあれがバイクから変形した時…)

戦いが始まる直前、変身した相手がどこかを操作してバイクが変形していたのを思い出す。
もしかすると、あれを弄ることができればオートバジンの方は無力化できるかもしれない。

思うが早いか、さやかは剣を両手に構え飛び出す。
今はカイザが前。機関銃は巻き添えを食らう可能性が高いため控えるだろう。

カイザ自身の銃撃を避けながら剣が届く範囲まで迫る。
身体強化を生かして壁や天井を蹴りながらカイザに肉薄し。
引き抜かれた黄色い刃を両手の剣で受け止める。

こちらが上から攻め込んだはずが、技量は相手のほうが上だったためか気がついたらこちらが押し込まれている、
返すことができないと判断したさやかは逆に押し込まれることで体を低く屈め。
その勢いに任せて背後まで回り込んだ。

当然振り返りざまに切り込んでくるカイザ。
同時にカイザより後ろに来たことでオートバジンが手のタイヤ型の盾を突き出す。

一瞬カイザに向けて振り返ったさやかはその刃を受け流し、間髪入れずにもう片方の手の剣の引き金を引いた。
射出された刀身はオートバジンへと飛んでいき、その機械の体の中心へと命中した。

刀身は突き立つこともなく弾かれたものの、それが中心にあるスイッチを作動させた。
体が横になりその巨体は銀色のバイクへと変形していく。

相手の戦力を一つ無力化できたが、安堵する暇もなく残った剣を両手持ちに切り替えて再度刃を受け止める。
ただの接近戦であれば技量に劣るこちらが不利であることはこれまで斬り結んだことで見えている。
さやかはマントを翻しその刀身を受け、同時にその浮き上がった布がカイザの視界を封じた。
払ったカイザの目の前にはさやかの姿はなく。

直後に背中から強い衝撃を受けて前につんのめった。

(…やっぱ、硬い!)

全力で斬りつけたつもりだったが、その鎧はびくともしていなかった。

村上峡児と戦った時にも実感したものだが、やはり対オルフェノクとして作られたベルトの強さもそれなりになるものだろう。
あの時のクラスカードのような一発逆転アイテムのようなものは今はない。自分の力で対処法を考えるしかない。

武器は剣。しかしこれでマミさんのような高い火力を出せるものではない。
ならばティロ・フィナーレのような技を編み出すか、それともオートバジンの時のような弱点を探るか。

(乾さんならもっと上手くやるんだろうけどな…っと!)

逆手持ちの刃を身を反らして避け、射撃を剣で弾き飛ばす。

目に意識を集中させてカイザを見据えるさやか。

その時ふと、チラリと見落としてしまいそうな光を見た気がした。

それはベルトの端から発されたもの。
一気に接近し攻撃すると見せてカウンターとして振り払われた居抜きを回避。
その横を一気にすり抜けた。

すれ違う瞬間、視覚に魔力を込めて光が見えた付近を視認。
ベルトに小さな傷が見えた。

(あそこを狙えば―――?!?!)

カイザに向いて振り返ったさやか。
その後ろに、息を切らしてこちらに駆ける親友の姿を見て息を呑んだ。

「草加さんっ!!」

通路に声が響き渡り、その大きな音にカイザも振り返る。

「まどか!何でここに…って、草加さんって」

さやかの中で二重の困惑が生まれる。
何故まどかがこの場にいるのか。
そして草加雅人、乾巧の仲間でまどかを助けた恩人だった人のはず。目の前の人間がそれなのか。

混乱は解けないがまどかをこの場に置いておくことがまずいのだけは分かる。

「草加さん、止めて!こんなの、草加さんがやりたかったことじゃないでしょ!!」

まどかの脳裏に浮かぶ、真理を語る時の草加の表情。
そこには強い決意と意志を感じられ、マミさんのようなものを感じ取っていた。
真理の死が彼を混乱させたのか。
分からないが、それでも今やっている行動は決して彼のやりたかったことと繋がるものには見えなかった。

「しっかりして!目を覚まして草加さん!!」

まどかには呼びかけることしかできなかった。
せめて声が届き、元の優しかった時の彼が戻ってくれないかと。

だが、カイザ、操られた草加雅人は静かにカイザブレイガンの銃口をまどかに向けた。

「バカ…っ、避けてまどか!」

声に反応したのかまどかは体を反らす。
放たれたエネルギー弾はまどかのすぐ近くを過ぎ、壁に当たって火花を散らす。
まどかの体に跳ね返った火花が当たり、悲鳴を上げる。

Exceed charge

電子音が耳に届く。
あの音はまずい。走る足を更に早めて飛び出すさやか。

火花が跳ね返った場所を抑えて蹲るまどかに向けて放たれた金色の拘束帯。
その間に、まどかを庇うように割り込むさやか。

「…!!」
「さやかちゃん!?」
「早く、逃げろっての…、まどか!」

全身を網目のエネルギーに覆われたさやか。
その背後でカイザブレイガンの刃を構えて距離を詰めるカイザ。

そして刃が体を切り裂く衝撃を感じた瞬間だった。

大きな爆発音と衝撃が空間に響き渡った。

「きゃあっ!!」

爆発音に驚くまどかの声と共に、周囲に爆発の煙が三人の視界を封じた。

さやかの体が肩から切り裂かれる光景を最後に目にしたまどかは。
携えたバッグに手が突っ込まれるのを感じ、直後にその頭に何かが被され同時に突き飛ばされた。


煙が消え周囲の視界が晴れた頃には、カイザとさやかの戦っていた通路にはカイザしかいなかった。
ミサイルが着弾したのか、壁と床は破損し外の空の光景が見えていた。
二人は爆発の中で外に落ちたのだろうと判断し、カイザは変身を解いてバイクに跨った。

(…?!)

その光景を、通路の端で見ていたまどか。
さやかがいなくなる直前、バッグから引っ張り出されたハデスの隠れ兜を頭に押し付けられ透明になっていた。
目の前で変身を解除した時、一瞬だが顔を覆うヘルメットのレンズの奥で、眠っているかのように瞳を閉じ続ける男の顔を見た。

(やっぱり、草加さん…!)

口元を抑え、声を出したくなる衝動を抑える。
今声を出したらこうして隠されている意味もなくなる。

やがてバイクが離れていき、その走行音も聞こえなくなった辺りで、兜を外して立ち上がるまどか。

「さやかちゃーーん!!!」

破損した外壁の穴から下の空間に向けて声を荒げるまどか。しかし返事はない。
周囲を見回すも、さやかの姿はどこにも見当たらない。

(何で、これじゃ…、あの時と同じ…)

まどかの脳裏に浮かぶ、杏子が魔女となったさやかと向き合っていた時の光景。
さやかが元に戻せると信じて付き合い、しかし何もできず、成すこともできずにただ消えていく命を前に蚊帳の外でしかなかった。

(私、居ても邪魔でしかなかったの…?)

ズキリ、と背中の傷が疼く。
いてもいなくてもいいなら、むしろ居ないほうがいいのではないかと。
そう信じていたからこそ死を選ぼうとする自分がいた時に負った傷。

心の迷いが晴れぬまま、さやかの消えた宙を見ていたその時だった。
景色の中に薄く、光が走った。

(…あれは)

それを見て、まどかは一つの事実を確信する。
同時に、迷いの一つが晴れて心の中に小さな決意が徐々に湧き上がる。

例え追いかけたとしても何ができるか分からない。実際に何もできないかもしれない。
だけど、だからといって何もしなかったらきっと後悔する。

何ができるか、ではない。何かを成したい、と。

戦う人たちの力になるために。
草加雅人を助けるために。

まどかは立ち上がり、草加の去った方に向けて走り出した。




「月くん、一つ聞いてみたいことがあるのですが」
「何だ、こんな時に」
「死とは、どんな感覚なんでしょうか?」

早足で通路を進む月は、後ろについてくるLの質問の意図が分からず振り返った。

「何だ藪から棒に」
「いえ、月くんは最終的に死を経験したと言っていましたよね。キラとして敗れて。
聞いておきたいと思ったのですよ。私もこの先長くはありませんから」
「老人みたいなことを言うなお前は」

月は呆れつつも、こんな場所で死の気配を感じるのも仕方ないのかもしれないと質問に答える。

「何もないさ。言ってみれば夜に寝た時に夢も見ない深い眠りに入ることがあるだろう?
それがずっと続く。それだけさ」
「なるほど」
「まあ、これは死神が言ってたことだが、デスノートを使った人間はただ天国にも地獄にも行けずに無に還るだけだってな。
だったらLがそこに向かうとは限らないんじゃないか?」
「…………そうですね」

数秒の沈黙の意味を測りかねる月。
そんな雰囲気を感じ取ったのか、続けざまに口を開いたL。

「天国と地獄ですか。私が行くとしたら一体どちらになるんでしょうね」
「お前なら地獄に行く理由がないんじゃないか?」
「どうでしょうね。私、これでもけっこう色んなことをやってますよ?」
「まあ、人の家に監視カメラとか普通なら犯罪だしな」
「地獄に行って舌でも抜かれるんでしょうかね」
「はは、どうだろうな」

曲がり角で耳を澄ましながら目だけを覗かせて誰もいないことを確認して前進する。
二人が戦っていた場所まではもう少しのはずだ。

「そうだな、じゃあ僕からも一つ君から意見を聞いておきたいことがあるんだが」
「何でしょう」
「人が犯した罪ってのは、消せるものなのだろうか?」
「……」

少しの沈黙があった。

「いえ、罪は消せないでしょう。
例えその罪に釣り合うだけの善行をしたとしても、法に照らし合わせて償いをしたとしても。
それは一生、それこそその人が生きている限りは一生ついて回るものだと思っています」

ふと自身が犯した罪を自覚し苦しんでいた少女を思い出すL。

「ですから赦すことが必要なのでしょう。
自分の罪も、他人の罪も。無論時と場合というものはありますが」
「赦す、か」

この時の月が一体何を考えていたのか、どんな表情をしていたのか。
それを確かめようと月の方を見たLは。

視線の先、月の後ろに張られた小さな強化ガラス付きの窓の向こうから飛来する何かを見た。

行動は反射的なものだった。
月の手を引いて自分の後ろまで一気に引き寄せた。


次の瞬間、衝撃と熱、轟音が二人の響き渡った。


斑鳩から放たれたミサイルは、ブレイズルミナスによる障壁が展開されていない箇所へと着弾をしていた。
機関部のような致命的な場所には命中してはいないようで、隔壁の展開でどうにか対処できるようなダメージだ。
しかし艦橋から離れて戦艦内を移動していたL達には不運なものだった。

壁が破壊され夜の闇とうっすらと光る地が見える状態になった通路の隅。

地面にしがみついた月は、必死でその手を握りしめていた。
その先には、外に放り出されたLの姿。月が握る手を、こちらも掴んでいた。

「…っ…!大丈夫か、L?!」
「いえ、あまり大丈夫ではないみたいです」

宙にぶら下がりになったLには、どこか諦めを感じるような口調があった。

月は一応体力や運動神経にはそこそこの自信があり、筋力は標準的なものだとしても人一人を引き上げる程度の力はあるつもりだった。
ただ、現状は態勢と環境、足場が悪く逆に自身が滑り落ちかねなかった。

「月くん、手を離してください。
その態勢では私を引き上げることは難しい。あなたも巻き添えで落ちてしまいます」

そんな諦めたかのような言葉と同時にLの手から力が抜ける。
しかし月はその手を逆に強く握り、抜けようとする手を押し止める。

「バカヤロウ!!お前はまたそうやって人のこと試そうとしやがって!!」

手が限界に近づき震えるのも構わずに月はLを強く見据えて手を握り続ける。

「僕さ、もしかしたらお前と一緒に肩を並べて同じ事件を追ったりするようなことがしたかったのかもしれない」


月の記憶に蘇るのは、マオというギアス能力者によって見せられた夢。
他人の潜在的な願望から幸福な夢を見せるというものだった。
そこにはただキラなどには関わることもなく普通に頭脳を生かして過ごし。
その中でLと共に難解な事件を解決していく自分の姿を見ていた。

「周りの人間が自分の頭に付いてこなくて退屈だったから。
もしかしたらキラに関係なく君と会えてれば、って。そんなことを”キラ”じゃない夜神月は願ってたのかもしれない…!」

Lの瞳が心なしか大きく見開かれた気がした。

「もう、人を死なせてその罪に押しつぶされたくはない!
それに、せっかくこうやって肩を並べられたんだ!絶対に離さない!」

叫ぶ月。しかし現実問題、もうその手は限界を迎えつつある。
現実問題、自分が落ちれば月は助かる。

そんな算段をしていた時、上を見上げたLの視界に、一つの影が見えた。
月に向けて逆手に持った刃を構えたカイザの姿だった。

「月くん、危ない!!」

叫んだ瞬間、その刃は月の頭部に向けて突き出された。
声に反応した月が偶然振り返ろうと首を動かしたことでそれが頭を貫くことはなかった。

しかし。

「ぎ、があああああ!!」

叫び声を上げる月。
顔を反らした時に頬を掠めた刃が、月の右頬の肉を大きく抉り取っていた。
傷口から血が流れ、地面と月の顔を赤く染める。

だが、それだけの痛みに侵されながらも、月はLを握った手の力だけは決して緩めなかった。

濡れた血で目も開かなくなる月。
後ろの様子を探ることなどできず、再度振り下ろされようとする刃。

「…!!」

月は握った手を離さないように手先に神経を集中させたまま、仰向けに転がり。
振り下ろされた瞬間、その刃を横から蹴り飛ばした。
不意の衝撃で手から離れて地面を転がっていくカイザブレイガン。
同時に態勢を崩し重心がぶれ、月の体がふわりと宙に浮く。

浮いた体は、アヴァロンの通路の床を離れて重力に従い下に落ちていく。

もう掴める場所もない。このまま戦艦を放り出されて地面に叩きつけられるだけだ。
死を覚悟する月。



「うおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

そんな時だった。
暗闇の中で青い一迅の光が、こちらに向かって飛来するのを。

重力に従うだけだった体が掴まれ、宙を浮く。

「良かった!間に合った!!」

顔を上げると、そこにはさやかの横顔があった。
その足元には水色の楽譜のような模様が、まるで空に道をかけるかのように伸びている。

「美樹さやか、無事だったのか」
「正直危なかったけどね!美遊の飛び方見て自分なりの浮き方を編み出してなかったら落ちてたから!」

月とLの体を通路に戻し、再度カイザを見据えるさやか。

通路の向こうに転がったブレイガンを拾いに戻ろうとするその道の先に、剣の刀身を射出。
地面に突き立ちカイザの足を一瞬留める。

振り返りざまに、カイザフォンを引き抜き射撃しようとする。
それをさやかは身を屈めて避け、手に作り出した剣を振り抜く。
狙いはベルトにできた傷の部分。

ふと、一瞬だけ、さやかの中に迷いが生まれた。
まどかの恩人で、乾巧の仲間で。きっとこんなことになってしまったのにも何か理由があるのだろう。

だけど、もしここで手を止めれば他の皆に命の危険が及ぶ。

だから。

(――――ごめん)

迷いを呑み込み。心の中で一言、謝罪をして。

その剣をカイザギアの側面に叩きつけた。


本来であればオルフェノクとの戦闘に耐えるためにかなりの強度を持たされていたベルト。
そこに対消滅エネルギーを掠めたことで僅かにできていた綻びに与えられた衝撃は、ベルトそのものを崩壊へと導き。
同時にそれによるフォトンブラッドの制御に不良を起こした結果、ベルトはエネルギーを撒き散らしながら爆発を引き起こした。

吹き飛ばされるカイザの体。
その爆風からLと月を庇うように立ちふさがるさやか。

熱が収まり前を向いた時、通路の端にはベルトを装着していた辺りの腹部から、上半身と下半身が分かれた人体が転がっていた。

「…、魔力を使って回復をさせれば――」
「いえ、まだ息は残っているみたいですがあの様子ではもう助からないでしょう」

駆け寄ろうとするさやかを静止するL。

そんな時だった。
爆発音に引き寄せられたのか、もう一人分の足音がこちらに近寄ってくる音を耳が拾っていた。

「草加さん!!!」




からだじゅうがいたい。
なんだかとてもいやなゆめをみていたようなきがする。

おきあがろうとしたら、あしのかんかくがない。
てをみたら、ちでまっかにそまっている。

なにがあったのか、なにがおきたのかもわからない。

ただひとつだけ、かくしんがあった。

(死ぬ、のか…、俺は…?)

流星塾の同窓会の時に感じた恐怖が蘇る。
親を失ったあの事故を思い出す。

(嫌だ…、誰か…)

体が冷たくなっていくのを感じる。
このままでは自分が何者でもなくなってしまう。ただそれだけが恐怖だった。

そんな時、一つの声が耳に届いた。

「草加さん!!」

体が上に向けられる。
温かい感触があった。

目を開いた時、そこに一人の少女がいた。

「ま、り…?」

そこには、かつて自分が恋焦がれ愛した、懐かしい少女の頃の真理の姿があった。

『しっかりして、草加くん!』

呼びかけてくる真理。
その姿にとても安心していた。

ああそうか。真理は生きていたんだ。あの時の放送で死んだとばかり思っていたが、あれは嘘だったんだ。

「ま、り…、よかった、生きていたん、だな…」

声を絞り出す。上手くしゃべれない。
呼びかけたことに、一瞬驚いたような表情を浮かべた真理は、静かに顔を包み込んできた。

『…そうだよ、真理だよ』
「俺は、ずっと…、君のために…」
『いいの、いいんだよ。もう全部、分かってるから』

真理が生きていた。その事実を知った瞬間、心の中に活力が生まれてきた気がした。
死にそうだと思った体も、一眠りすれば元気になりそうな気がした。

「真理、少しだけ、眠いんだ…。起きるまで、ずっと、側にいてくれないか…?」
『うん、大丈夫。私がずっと、草加くんの近くにいてあげるから』

その言葉が嬉しくて、小さく笑った。
よく眠れそうな気がする。

「ありがとう、おやすみ、真理。また、あした」
『うん。またあした。草加くん』

また、目を覚ませば見られる。
生きて側にいる、愛する人の笑顔が。

そう信じて、草加雅人は静かに意識を闇に沈めていった。




「うん。またあした。草加さん」

そう言って顔を撫でたのを最後に、草加雅人の手から力が抜けていった。
静かに永遠の眠りについた男の顔は、その無残な状態とは反対にとても安らかだった。

もう彼に明日は来ない。
それを分かっていながら、ただ最期に彼の心だけは救いたいと思い、まどかは悲しみを抑えて無理に笑いかけた。

望まぬ戦いと愛する人の死と、多くの悲しみを背負ったのだろう男がせめて安らかに眠れるように。

最期に彼は自分のことを真理としか呼ばなかった。きっと死に近付く中で孤独な死を恐れた彼自身が、救いを求めて幻覚を見たのだと思う。
まどかとしては、それでも別に構わなかった。
ただ、草加の死が悲しかった。

もう二度と動かぬ体が少しずつ灰となって散っていくのを感じながら、一人の男を見送った少女はその体を抱いて静かに涙を流した。




月の傷に治癒魔法をかけながらその様子を見ていたさやかは、静かに踵を返した。

「私、あの艦まで行くわ」
「怪我は大丈夫なのか?」

頬が抉れて歯がむき出しになった状態で、痛みを堪えながら話しかける月。

「怪我の方は大丈夫。ただ、ちょっと怪我を治すのに使った魔法でそろそろやばくなってきたみたいで」

その手に出したソウルジェムの亀裂は、それまでと比べて更に広がっていた。
大きな一撃をもらった時のダメージが響いた結果と言う。

「あっちに行って直接止める必要があると思うからさ。
だから、まどかのことお願いします」
「帰ってこれるのか?」
「…たぶん無理だと思う。
まどかには何とか言って誤魔化しておいて。嘘は得意でしょ」
「はは、皮肉のつもりか」
「さあね」

あまりもたもたしていると、まどかの顔を見てしまう。そうしたらきっと命が惜しくなってしまう。
月との受け答えの後、再度作り出した音符の足場に足を乗せるさやか。

「Lさん」
「はい」
「今まで、ありがとうございました」
「いえ、こちらもさやかさんの力になれたなら良かったです」

最後にそれだけを言い残して、さやかは向かい側の戦艦に向けて宙を駆け抜けていった。




「よかったのか、L。
お前も怪我はしてたはずなのに治してもらわなくて」
「大した怪我じゃないですから」

壁に寄りかかって座るLは、月の顔を見る。
痛みと顔の汚れであまり視界が良好ではなさそうで、目を開けたり閉じたりしながらこちらを見ている。


「月くん、正直、さっきのところであなたのことを信じてない自分がいました」
「L?」
「もし私が死ねば、キラとしてのあなたの抑止力はなくなりますから。だけどそれでもあなたを巻き添えにしてまで止めたいとも思いませんでした。
だから、仕方ないかな、とも」
「全く、お前ってやつは…」

相変わらずにも聞こえるLの言動に、頭を抱える月。

「私、信じてみたいと思うんです。自分の命をかけて本気で私を助けようとしてくれた、月くんのことを」
「ははは、やっと信じてくれたんだな」

そして、疑いを解いて信じてくれたその事実が嬉しくて小さく笑っていた。

「月くん、もし私が死んだら、Lの名前を継承してくれませんか?
その後をどうするかは、あなたに任せますから。
世界最高の探偵として、まずはこの場にいる人たちを一人でも多く生かして帰って、この事件を解決して欲しいのです」
「いいのか?僕はキラだった男だぞ?」
「ええ。月くん自身が自身の罪を、赦し償おうとできるのであれば」

そう言うLの声が、月にはどこか小さくなりつつあるようにも聞こえていた。
視界が定まらなくてLの様子もはっきりとは見えないことももどかしい。

「そうだな、君が死んだら、考えてやるよ」

ただ今返答するのは縁起でもないように感じられて、そう答えた月。
Lが小さく息を吐くような声が聞こえた。


「じゃあ月くん、先に戻っていてください。私は少し休んでから戻ろうと思いますから」
「向こうで休めばいいだろう」
「それだと戻るのに時間がかかります。攻撃がある以上、早急に戻って対処しなければならないですし」

言っているうちにも閉じた非常隔壁の外で攻撃は続いている。
浮上が間に合い、現状は障壁で防げているが、いつまた艦に直撃してくるか分からない。

「はあ、分かったよ。
すぐに戻ってこいよ、L」
「ええ。よろしくお願いします。また、あとで」

きっと起きるまでは日を跨ぐとでも言いたいのだろう。

月はまどかに呼びかけ、艦橋に向けて通路を駆け抜けていった。

まどかがLを通り過ぎる時、一瞬立ち止まってまるで礼をするように頭を下げていたが。
その意味に、この時の月は気付かなかった。




正直外の風景が夜で助かったと思った。
この自分の背中が今どんな状態かを月に察せられずに済んだのだから。
今の彼がこの事実に気付いたら、きっと彼の行動に陰りが生まれる。せめてこの場を彼らが切り抜けるまでは、月にだけは隠し通したかった。

ミサイルが直撃した爆発の衝撃を受けた時。
月の体を庇って背に受けた熱は背を焼き、吹き飛んだ破片は背に突き刺さり内臓を傷つけていた。

背を預けた壁は、前からは見えないものの横からよく見れば真っ赤に染まっているはずだ。
さやかが来たときにはもう自己診断では手遅れ状態で、だからこそ治癒も止めさせた。

本来であればもう少し長生きできたはずの命は、ここで終わるらしい。
ノートに書いた安楽死とも程遠いものにも感じられる。

それでも、Lはその眠りがとても安らかなものになりそうな気がしていた。
Lの中で残った後悔の一つ。それは夜神月を救うことができなかったというもの。

例え自分が会ったあの夜神月とは別人であったとしても、同じ道を歩んだ夜神月を信じる確信を得ることができたのだから。


艦が小さく揺れ、Lの体に振動が走る。
壁に背を預けていた体は、ズルリと横に倒れた。

壁と背を真っ赤に濡らした状態で倒れたLのその表情は、まるで眠っているかのように穏やかだった。


【草加雅人@仮面ライダー555 死亡】
【L@デスノート(映画) 死亡】


【D-5/アヴァロン艦内/一日目 夜中】

【夜神月@DEATH NOTE(漫画)】
[状態]:疲労(特大)、右頬に大きな裂傷(応急処置済) 、顔面のダメージによる視界不良(徐々に回復します)
[装備]:スーツ
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本:キラではない、夜神月として生きてみたい
1:アヴァロンに乗って行動する
2:Lと力を合わせて会場の謎を解く
3:斑鳩に対処
4:メロから送られてきた(と思われる)文章の考察をする
[備考]
※死亡後からの参戦





【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(大)、手足に小さな切り傷、背中に大きな傷(処置済み)、悲しみ
[装備]:見滝原中学校指定制服
[道具]:基本支給品、不明ランダム支給品0~2(確認済み)、ハデスの隠れ兜@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、クナイ@コードギアス 反逆のルルーシュ、ブローニングハイパワー(13/13)@現実、 予備弾倉(9mmパラベラム×5)、トランシーバー(電池切れ)@現実 、薬品
[思考・状況]
1:月さん達と一緒に行動する
2:草加さん…、Lさん…
[備考]


【D-5/一日目 夜中】

【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(大)、音符の足場で飛行中
[装備]:ソウルジェム(濁り80%)(亀裂有り) 、トランシーバー(残り電力一回分)@現実、グリーフシード(濁り100%)
[道具]:基本支給品、グリーフシード(濁り70%)、コンビニ調達の食料(板チョコあり)、コンビニの売上金
[思考・状況]
基本:自分を信じて生き、戦う
1:斑鳩に向かい、攻撃を止める
2:ゲーチスさんとはもう一度ちゃんと話したい
[備考]
※第7話、杏子の過去を聞いた後からの参戦
※桜とマオとスザク以外の学園に居たメンバーの事を大体把握しました(あくまで本人目線)
※魔法少女と魔女の関連性を、巴マミの魔女化の際の状況から察しました
※まどかから自分の参戦時期~まどかの参戦時期までの出来事を聞きました
※ソウルジェムの亀裂の影響ですが、ルビー評だと戦闘は2度以上は危険とのことです。

※オートバジンは草加、Lの死体の付近にバイク形態で放置されています。


153:フレンズ? 投下順に読む 155:ReStart準備中
151:Another Heaven/霞んでく星を探しながら 時系列順に読む 156:believe
153:フレンズ? 夜神月 159:マギアレコード「答えは心の中に」
L GAME OVER
鹿目まどか 159:マギアレコード「答えは心の中に」
美樹さやか
152:Nとニャース・ポケモンと人間 N
148:変わりたい少女達の話 美国織莉子
アリス
144:届かない星だとしても ゲーチス
草加雅人 GAME OVER



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