HORIZONー彼らの求めたもの ◆Z9iNYeY9a2
巴マミを拾った直後から、放送までの間。
シロナさんと話をしていた記憶の中の出来事。
シロナさんと話をしていた記憶の中の出来事。
「その子、大丈夫そう?」
「傷の方は大丈夫そうね。さっきソウルジェムとかいうのはグリーフシードで魔力回復?させたんだし。
…心臓付近に銃創あるのをみたら、たぶん心臓かその近くを撃ち抜かれてるのに、それでも生きてるなんてさやかの言った通り丈夫なものね」
「傷の方は大丈夫そうね。さっきソウルジェムとかいうのはグリーフシードで魔力回復?させたんだし。
…心臓付近に銃創あるのをみたら、たぶん心臓かその近くを撃ち抜かれてるのに、それでも生きてるなんてさやかの言った通り丈夫なものね」
あのオルフェノクにやられた、というわけでもなさそうではあるが。
ドラゴンのオルフェノクと戦った身としてはオルフェノクの強さは身をもって知っている。
もし殺すのであれば、銃器なんて特に必要なものでもないだろう。
あれとは別に敵がいたのだろうか。
ドラゴンのオルフェノクと戦った身としてはオルフェノクの強さは身をもって知っている。
もし殺すのであれば、銃器なんて特に必要なものでもないだろう。
あれとは別に敵がいたのだろうか。
それにしても、意識を取り戻さぬマミの表情は辛そうなものだ。
胸を撃ち抜かれている以上、痛みを感じているのは当然だが、それだけじゃないように見える。
何かに怯えているのか、悪夢でも見ているのか。彼女ならぬ自分には測り知ることはできないが。
胸を撃ち抜かれている以上、痛みを感じているのは当然だが、それだけじゃないように見える。
何かに怯えているのか、悪夢でも見ているのか。彼女ならぬ自分には測り知ることはできないが。
「…、正直、さやかの言ってたかっこいい正義の味方には見えないわねぇ…」
「何かよっぽど怖い目にあってきたのか、それとも心の奥に何か闇のようなものを抱えているのか…、心配ね」
「何かよっぽど怖い目にあってきたのか、それとも心の奥に何か闇のようなものを抱えているのか…、心配ね」
ふと、前方に気をつけつつ考えを巡らせるシロナ。
参加者以外の人が排除されたこの空間、多少危険な運転をしたところで咎める人などいないが、それで参加者を撥ねでもしたらことだ。
むしろ殺し合いに乗っていないのであれば、積極的に接触を図りたいところ。まだ時間は残っている以上、急ぐメリットも薄い。
参加者以外の人が排除されたこの空間、多少危険な運転をしたところで咎める人などいないが、それで参加者を撥ねでもしたらことだ。
むしろ殺し合いに乗っていないのであれば、積極的に接触を図りたいところ。まだ時間は残っている以上、急ぐメリットも薄い。
「むしろ気になるのは、その子がさやかちゃんの言うようにずっと一人で戦ってきたんだとしたら、その孤独に耐えられたのかどうかってことよね」
「一人で、ね…」
「一人で、ね…」
一人で戦い、さやかの前では彼女の望むような正義の味方であり続ける、そんな生き方。
傍から見えばかっこいいものではあるが、それを演じてこなければならないとなると、彼女はどれだけの孤独に耐えてきたのか。
傍から見えばかっこいいものではあるが、それを演じてこなければならないとなると、彼女はどれだけの孤独に耐えてきたのか。
「分からないわね。本当の自分を隠して、そんな風に人によく見せたりなんてして」
「そうかしらね…?ちょっとしたことだけど、私にもその気持ち分からなくはないわ」
「そうかしらね…?ちょっとしたことだけど、私にもその気持ち分からなくはないわ」
ふと、クロの言葉を受けてシロナはそう呟いた。
「シロナさんは元からかっこいいじゃない」
「ありがとう。でも私も、案外人には見せられないところあるのよ?
例えば、私ってこう見えて片付けとか下手で自分の部屋なんて散らかりっぱなしなところとか」
「え、嘘でしょ流石に」
「本当よ。それにかっこいいなんて言っても、ガブリアスがいなかったらクロちゃんを助けることだってできなかったんだから。
私個人でできることなんてたかが知れてるもの」
「ありがとう。でも私も、案外人には見せられないところあるのよ?
例えば、私ってこう見えて片付けとか下手で自分の部屋なんて散らかりっぱなしなところとか」
「え、嘘でしょ流石に」
「本当よ。それにかっこいいなんて言っても、ガブリアスがいなかったらクロちゃんを助けることだってできなかったんだから。
私個人でできることなんてたかが知れてるもの」
強いといっても、それはガブリアス、そして今はいないが他のポケモン達もいてこそのものだった。
もし彼がいなければ、ここまで生き残ることができたかどうかも分からない。
もし彼がいなければ、ここまで生き残ることができたかどうかも分からない。
「そういえばあの時もあの子の力とか、あとあの子もシロナさんのこと信じてるのが分かったけど、シロナさんとガブリアスって付き合い長いの?」
「そうね、私の切り札でパートナーで、そして大切な存在よ。この子がいなかったら、ここじゃなくても今の私はいなかったかもしれない。
そう思うくらいには」
そう思うくらいには」
◇
「イリヤ!」
「お兄ちゃ、ん!」
「お兄ちゃ、ん!」
士郎が、巧に連れられたイリヤを見つけたのはクロと別れてしばらく経った辺りのこと。
息を切らせつつ走ってきた士郎の姿を見たイリヤは、安堵の声を上げる。
声を出しても体に響くことはない程度にはダメージは回復したものの、未だその体は自力で歩くのは難しい。
息を切らせつつ走ってきた士郎の姿を見たイリヤは、安堵の声を上げる。
声を出しても体に響くことはない程度にはダメージは回復したものの、未だその体は自力で歩くのは難しい。
『士郎さん、クロさんは?』
「今、青い髪の少女と戦っている。多分魔法少女って子だと思うけど…」
『おや、珍しいですね。士郎さんであれば無理を言ってでも残りそうな状況だと思いましたが』
「いや、俺だって残ろうとは思ったけど、イリヤがバーサーカーに襲われたって聞いて慌てて…」
『怪我の方は現在治癒促進により急ピッチで直しています。命に支障はないはずですね。
ですがしばらくは戦闘行為などもってのほかです、気をつけてください』
「ああ、大丈夫だ。イリヤには戦いはさせない」
「今、青い髪の少女と戦っている。多分魔法少女って子だと思うけど…」
『おや、珍しいですね。士郎さんであれば無理を言ってでも残りそうな状況だと思いましたが』
「いや、俺だって残ろうとは思ったけど、イリヤがバーサーカーに襲われたって聞いて慌てて…」
『怪我の方は現在治癒促進により急ピッチで直しています。命に支障はないはずですね。
ですがしばらくは戦闘行為などもってのほかです、気をつけてください』
「ああ、大丈夫だ。イリヤには戦いはさせない」
ここで言うことはなかったが。
ルビーの、何故早く戻ってきたのかという疑問について、それだけが理由ではないような気がした。
あの少女の褐色の肌、そして赤い外套を見た時。
関係ないはずなのにあの男を連想してしまった。
自分に腕を託して消滅していったあの弓兵を。
ルビーの、何故早く戻ってきたのかという疑問について、それだけが理由ではないような気がした。
あの少女の褐色の肌、そして赤い外套を見た時。
関係ないはずなのにあの男を連想してしまった。
自分に腕を託して消滅していったあの弓兵を。
この腕を使った影響だろうか。
何故かあの少女を見た時、あいつの存在を感じた気がしたのだ。
何故かあの少女を見た時、あいつの存在を感じた気がしたのだ。
「そういえば、バゼットはどうしたんだ」
『今バーサーカーとゼロを、クロさんの連れてきた仲間と思しき生物と共に押さえています。
相手が相手とはいえ彼女とて執行者です。頃合を見て撤退するでしょう』
「そうか、それなら…っ…!」
「お兄ちゃん?!」
「おい、どうした?!」
「な、何でもない。巧、悪いな、そんなボロボロなのにイリヤのことまで…」
「気にすんな。お前こそ大丈夫…なんだよな…?」
『今バーサーカーとゼロを、クロさんの連れてきた仲間と思しき生物と共に押さえています。
相手が相手とはいえ彼女とて執行者です。頃合を見て撤退するでしょう』
「そうか、それなら…っ…!」
「お兄ちゃん?!」
「おい、どうした?!」
「な、何でもない。巧、悪いな、そんなボロボロなのにイリヤのことまで…」
「気にすんな。お前こそ大丈夫…なんだよな…?」
そう言ってイリヤの体を巧の代わりに抱える士郎。
ふと、ホースオルフェノクに蹴られたときのダメージが体に残っているはずなのに、何故か気にならなかった。
痛みが引いている、いや、既に傷やダメージの中で大きなものは直っているかのような気がした。
ふと、ホースオルフェノクに蹴られたときのダメージが体に残っているはずなのに、何故か気にならなかった。
痛みが引いている、いや、既に傷やダメージの中で大きなものは直っているかのような気がした。
(クロ…、大丈夫だよね…?)
そして、士郎に背負われたイリヤは自身の分身である少女へと思いを馳せる。
ルビーがいて、お兄ちゃんがいて、バゼットさんがいて、巧さんがいて、そしてクロがいたからこそ戦うことができた。生きていることができた。
誰か一人でも欠けていたなら、きっと自分はここにはいなかっただろう。
誰か一人でも欠けていたなら、きっと自分はここにはいなかっただろう。
遠坂凛の名が呼ばれたあの時のような気持ちを、もう感じたくはない。
だから。
(クロ、絶対に帰ってきてよ…。もう誰かが死んだりいなくなるのは、嫌だよ…)
◇
市街地、バーサーカー達との戦場とは離れた、まだ比較的街としての形を保っている道の一角に響く、高速の剣撃音。
二振りの双剣、干将・莫耶を構えたクロは、さやかの隙を伺いつつ攻撃を受け止めていた。
しかし、さやかの攻撃はその理性を感じない攻撃に反して、あまりに素早かった。
まるで己の体の限界値を、いや、それ以上のものを引き出しているかのようにデタラメで、しかしそれゆえに読みづらい剣筋。
しかし、さやかの攻撃はその理性を感じない攻撃に反して、あまりに素早かった。
まるで己の体の限界値を、いや、それ以上のものを引き出しているかのようにデタラメで、しかしそれゆえに読みづらい剣筋。
それでもその技量自体は素人の域を出ない。
本来であれば、クロとて押さえ込むことはそう難しくはなかっただろう。
だが、イリヤの痛覚共有の呪いはクロの体を痛みで蝕んでいた。
ただの痛みでしかないそれも、戦いの間ずっと響いているのであれば、それは行動を阻害しかねないものだ。
本来であれば、クロとて押さえ込むことはそう難しくはなかっただろう。
だが、イリヤの痛覚共有の呪いはクロの体を痛みで蝕んでいた。
ただの痛みでしかないそれも、戦いの間ずっと響いているのであれば、それは行動を阻害しかねないものだ。
消そうと思えば消すことは容易い。だが、
(―――ここまできてこれを消せないのは、私の甘さかしら、ね!)
両側から迫る剣を受け止め受け流し、そのままさやかの顔面を蹴りつけ宙を舞うクロ。
距離が開く中、すかさず黒弓を構え、着地までの瞬間に矢を射ようとした、その時。
距離が開く中、すかさず黒弓を構え、着地までの瞬間に矢を射ようとした、その時。
「―――いっ?!」
構え直すわけでもなく、無造作にこちらに向けられたように見えた剣。
その刀身が、こちらに向かって飛んできたのだ。
その刀身が、こちらに向かって飛んできたのだ。
早急に構えを解き、黒弓でかろうじてその軌道を反らす。
左腕の皮に赤い線が走る。が、そこまで深くはない。
左腕の皮に赤い線が走る。が、そこまで深くはない。
さらに追撃で3本の剣がさやかの手に生成、刀身が飛んでくるのを視認したクロは、即座に空中に剣を投影。
迎撃してどうにか撃ち落とすと同時に地面に着地。
その距離を一気に詰めて剣を振りぬくさやか。
構えられない隙は投影の後地面に突き立てた剣の束で防ぎきる。
迎撃してどうにか撃ち落とすと同時に地面に着地。
その距離を一気に詰めて剣を振りぬくさやか。
構えられない隙は投影の後地面に突き立てた剣の束で防ぎきる。
(遠距離にもある程度対応は可能…、なら―――)
再度干将・莫耶を構え振りぬく。
狙うは人体で最も避けにくいとされる箇所、胴と脛。
受けることも叶わず体を斬り付けられるさやか。
しかしその傷はこれまでのように、すぐさま魔力による治癒がなされるだろう。
狙うは人体で最も避けにくいとされる箇所、胴と脛。
受けることも叶わず体を斬り付けられるさやか。
しかしその傷はこれまでのように、すぐさま魔力による治癒がなされるだろう。
だが、その一瞬は刹那の斬り結びにおいては大きな隙となる。
魔力を治癒へと回している間に、干将・莫耶を剣に叩きつけ打ち砕く。
武器をなくしたさやか、しかしさきほどの傷はほとんど治っている。
魔力を治癒へと回している間に、干将・莫耶を剣に叩きつけ打ち砕く。
武器をなくしたさやか、しかしさきほどの傷はほとんど治っている。
「悪いけど―――先に剣向けたのそっちだから恨みっこなしよ!」
ならば、先より大きなダメージを与え、その後拘束すればいい。
さやかが剣を作り出すより早く、その脚を思い切り斬りつける。
おそらくそれもすぐ治癒されるだろうが、脚を失った今だけはバランスを崩すはずだ。
地面に倒れたときを狙う――――
さやかが剣を作り出すより早く、その脚を思い切り斬りつける。
おそらくそれもすぐ治癒されるだろうが、脚を失った今だけはバランスを崩すはずだ。
地面に倒れたときを狙う――――
が。
美樹さやかは倒れていない。
まるで未だ二本の足で立っているかのように直立している。
まるで未だ二本の足で立っているかのように直立している。
「――――!」
クロが体を反らすのと、さやかが剣を突き出してくるのはほぼ同時だった。
前髪が一束分くらい宙を舞っていった。
前髪が一束分くらい宙を舞っていった。
体を反らした勢いのまま数メートルの距離を取ったクロは、さやかの足元を見た。
そこにあったのは地面に転がっている彼女の左足。そして脛から下を無くし、――――その損失元の部分に青い音符のようなものをつかえ体を支えた美樹さやか。
そこにあったのは地面に転がっている彼女の左足。そして脛から下を無くし、――――その損失元の部分に青い音符のようなものをつかえ体を支えた美樹さやか。
「…なるほどね、ただ力任せに剣を振り回すだけかと思ったら、随分と芸達者じゃない」
確かに技量自体は低いが。
少なくとも、ただの剣士と戦うものだという先入観で戦えば、痛い目を見る相手だろう。
目の前の存在は、確かに剣士だが人間ではない、魔法少女なのだから。
少なくとも、ただの剣士と戦うものだという先入観で戦えば、痛い目を見る相手だろう。
目の前の存在は、確かに剣士だが人間ではない、魔法少女なのだから。
「で、あんた、それだけのことができるのに何のつもりなのよ。
まあ巴マミから大まかな話は聞いてるけど」
「―――」
まあ巴マミから大まかな話は聞いてるけど」
「―――」
巴マミ。
その名にさやかの体が一瞬反応したのをクロは見逃さなかった。
すると、逆にその言葉が引き金になってしまったかのように、口を開く隙さえ与えずこちらへと突っ込んできた。
その名にさやかの体が一瞬反応したのをクロは見逃さなかった。
すると、逆にその言葉が引き金になってしまったかのように、口を開く隙さえ与えずこちらへと突っ込んできた。
「だから何やってんのよこのバカ…―――」
剣を受け止めつつ問いただすさやか。
しかし未だその瞳に光は戻っていない。
しかし未だその瞳に光は戻っていない。
(人為的な狂化…?あるいは精神に作用する薬品?それとも魔術?一体何されたっていうのよ)
意識を思考に回そうとするが、体の痛みと目の前の少女がそれを許さない。
一撃、二撃、と剣を受け止める。
一撃、二撃、と剣を受け止める。
あの再生能力を相手にしては、干将・莫耶だけでは攻め切ることはできない。
しかし矢を射る暇はない。
しかし矢を射る暇はない。
「―――投影(トレース)、オーバーエッジ!!」
ならば、今手にある干将・莫耶自体を強化して立ち回る。
オーバーエッジ。干将・莫耶自体の刀身を投影により強化、威力とリーチを上げる。
オーバーエッジ。干将・莫耶自体の刀身を投影により強化、威力とリーチを上げる。
巨大化した干将・莫耶の刀身は、それを受け止めたさやかの剣を粉砕。
一瞬その破壊力に動きを止めつつも再度剣を作り上げるさやか。
しかし一撃受け止めただけでも、それは砕け散る。
宙を破片が舞う中、振り上げた双剣はさやかの両肩を切り裂く。
剣を作り出す速さがクロの剣速に追いつかなくなっていたのだ。
しかし一撃受け止めただけでも、それは砕け散る。
宙を破片が舞う中、振り上げた双剣はさやかの両肩を切り裂く。
剣を作り出す速さがクロの剣速に追いつかなくなっていたのだ。
今なら、この体を切り裂きそのソウルジェムを穿つのも容易いだろう。
「―――……」
しかしクロは、ほんの刹那の思考の後、剣を地面に突き立てると同時、力いっぱいさやかの体を蹴り飛ばした。
さやかがその背を壁にぶつけたと同時、その手に投影した小型の指又を2本投げつけた。
手首より少し広い程度の幅であったその金具がその両腕を壁に縫い付ける。
さやかがその背を壁にぶつけたと同時、その手に投影した小型の指又を2本投げつけた。
手首より少し広い程度の幅であったその金具がその両腕を壁に縫い付ける。
拘束を解こうと身動ぎするも、それができるほどの筋力はなかった。
「………はぁ。私も日常に染まりすぎたかしらね?」
そう呟くと同時、近くで倒れているシロナのバッグを拾い上げる。
その中から何かを取り出したクロは、さやかに近づき。
その中から何かを取り出したクロは、さやかに近づき。
プスッ
さやかの首筋に何かを突きたてた。
まるで小さな針のようなものが突き立てられるという違和感に、体を暴れさせるさやか。
まるで小さな針のようなものが突き立てられるという違和感に、体を暴れさせるさやか。
「はーい、ちょっとじーっとしててねー」
と、その物体、注射器の針を引き抜く。
が依然さやかの意識は戻らない。
が依然さやかの意識は戻らない。
1本じゃ不足かと見たクロは、そのままさらに3本の注射器を、さっきと同じように、さやかの首に突き刺し。
一気にピストンを押し込み、薬をさやかに注入した。
一気にピストンを押し込み、薬をさやかに注入した。
「……!ぁ…!」
うめき声のようなものをあげて俯くさやか。
さやかを解放して離れたクロは、空になった注射器を投げ捨てて言った。
「さあ、お話をしましょうか」
◇
ミュウツーの手で練りこまれたサイコパワーの塊がゼロへと叩きつけられる。
しかしゼロもその手に紋様を光らせて迎え撃った。
しかしゼロもその手に紋様を光らせて迎え撃った。
サイコパワーは光と共に消滅、そして光の向こうからはゼロの拳が迫った。
咄嗟に目前にバリアーを展開しその勢いを落とし。
咄嗟に目前にバリアーを展開しその勢いを落とし。
その隙に十数歩分の間合いを取った。
「お前は何だ?」
「迷う己の存在意義を他者へと問うか、迷い人よ。
いや、人ではなかったな」
「迷う己の存在意義を他者へと問うか、迷い人よ。
いや、人ではなかったな」
シャドーボールがゼロへと飛びかかるも、ゼロはその軌道を読み回避。
外れたそれは地面を、コンクリートの壁に穴を開ける。
外れたそれは地面を、コンクリートの壁に穴を開ける。
「哀れなものだな。己の存在を他に問わねば、自身の居場所すらも認識できないというのは」
「何?」
「だが、それもまた世界の理から外れて生まれたものの業ということか」
「何?」
「だが、それもまた世界の理から外れて生まれたものの業ということか」
拳をテレポートで回避、サイコキネシスで浮かせた大量の瓦礫を一斉にゼロに向けて投げつけるミュウツー。
しかし、勢いよく飛ばされたはずのそれはゼロの目の前で停止。勢いを失って地面に墜落する。
しかし、勢いよく飛ばされたはずのそれはゼロの目の前で停止。勢いを失って地面に墜落する。
「くっ…」
サイコキネシスもシャドーボールも、あの光によって無効化されてしまう。
しかし己の攻撃には接近技がない。高い身体能力もサイコパワーで底上げしているものにすぎない。
あの光に触れてしまえばそれすらも失われてしまう可能性がある以上、迂闊に近づくことはできない。
しかし己の攻撃には接近技がない。高い身体能力もサイコパワーで底上げしているものにすぎない。
あの光に触れてしまえばそれすらも失われてしまう可能性がある以上、迂闊に近づくことはできない。
と、次の瞬間すぐ傍で轟音と共に壁が吹き飛んだ。
その奥から飛び出したのはバゼット、追ってバーサーカー。
その奥から飛び出したのはバゼット、追ってバーサーカー。
衝撃で吹き飛ぶその体を、ミュウツーは念力で受け止める。
「…ありがとうございます」
「気にするな。それよりあれの相手は厳しいのか?」
「ええ、あの存在には、私の攻撃のほとんどが通用しない。いかに拳を強化してもその概念武装を貫くことができません」
「ならばあれは私が引き受けよう。こっちの相手は引き受けてもらえるか?」
「いいでしょう。あのバーサーカーには生半可な攻撃は届かない。それだけは気をつけて」
「気にするな。それよりあれの相手は厳しいのか?」
「ええ、あの存在には、私の攻撃のほとんどが通用しない。いかに拳を強化してもその概念武装を貫くことができません」
「ならばあれは私が引き受けよう。こっちの相手は引き受けてもらえるか?」
「いいでしょう。あのバーサーカーには生半可な攻撃は届かない。それだけは気をつけて」
そう言って、こちらに向かい来るバーサーカーに対してミュウツーはサイコキネシスで動きを止め。
同時にゼロに対してバゼットが突撃をかける。
同時にゼロに対してバゼットが突撃をかける。
戦闘力のほとんどをサイコパワーで賄っているミュウツーと、ありとあらゆる運動やエネルギーを無に返すことができるゼロとは相性が悪い。
人間であるバゼットでは、概念武装を宝具としているバーサーカーの撃退は不可能、虎の子のフラガラックももう通用しない。
人間であるバゼットでは、概念武装を宝具としているバーサーカーの撃退は不可能、虎の子のフラガラックももう通用しない。
無論バゼットだけにはゼロを相手できないことは先の戦いで自覚している。
だからこそ。
ミュウツーがバーサーカーを撃退できれば、バゼットとミュウツーの2vs1で戦うことができる。
だからこそ。
ミュウツーがバーサーカーを撃退できれば、バゼットとミュウツーの2vs1で戦うことができる。
サイコキネシスを緩めると同時、体から膨大なサイコパワーをもってバーサーカーを吹き飛ばす。
それは膨大な威力の衝撃波となってバーサーカーの巨体を穿ち、その半身を抉り取った。
それは膨大な威力の衝撃波となってバーサーカーの巨体を穿ち、その半身を抉り取った。
しかし時をおかず再生を始めるその肉体を、ミュウツーはバゼットから引き離した。
「先は三人がかりで手こずった相手に一人で挑むか。それを勇気と呼ぶか、無謀と呼ぶか」
「あれが退くまでの時間稼ぎが私の仕事。それくらいのことは、私とて可能だ!」
「あれが退くまでの時間稼ぎが私の仕事。それくらいのことは、私とて可能だ!」
節々が痛む体に鞭打って、バゼットはゼロへ向けて拳を振りかざした。
◇
さやかに注入したのは、所謂精神安定剤というやつだ。
シロナさんが病院から持ってきたものの中に混じっていた。
シロナさんが病院から持ってきたものの中に混じっていた。
ぶっちゃけ効くかどうかなど分からないし、効能自体も不明だった。
そもそも狂った原因自体もはっきりしていない以上下手なことをするのも問題なのだろうが、まあ後の祭りだろう。
そのために、武器を砕いて体を拘束しておいたのだが。
そもそも狂った原因自体もはっきりしていない以上下手なことをするのも問題なのだろうが、まあ後の祭りだろう。
そのために、武器を砕いて体を拘束しておいたのだが。
とりあえず、いつまで持つのかなどは分からないが、こうして意識が戻った辺り大丈夫ということだろう。
そして、
「―――何の、つもりよ?」
それがさやかの発した第一声だった。
「勝手に人に襲い掛かった上に斬りかかっておいて、第一声がそれ?」
目を伏せたまま、そう呟くさやかに対してクロが軽口を叩く。
第一声が未だ錯乱が抜けていないせいなのか、それとも素なのかは話してみなければ分からないだろう。
第一声が未だ錯乱が抜けていないせいなのか、それとも素なのかは話してみなければ分からないだろう。
「――何でこんな余計なことするのよ。もう、私のことなんて放っておいてよ」
「私やお兄ちゃんに剣まで向けておいて、放っておけって方が無理なんじゃない?ってのはこの場合禁句かしらね」
「なら、殺せばいいじゃない。こんな風に体縛って正気戻して、何がしたいのよ」
「言ったじゃない。お話をしましょうって。理由も分からないのに人間を殺すのって案外寝覚めが悪いものなのよ」
「……人間?」
「私やお兄ちゃんに剣まで向けておいて、放っておけって方が無理なんじゃない?ってのはこの場合禁句かしらね」
「なら、殺せばいいじゃない。こんな風に体縛って正気戻して、何がしたいのよ」
「言ったじゃない。お話をしましょうって。理由も分からないのに人間を殺すのって案外寝覚めが悪いものなのよ」
「……人間?」
その言葉に、嘲笑するかのように笑うさやか。
「こんな体の私の、どこが人間なのよ?」
「うん?」
「うん?」
「私さ、マミさんって人みたいに正義の味方の魔法少女になりたくてさ。
人のために戦うマミさんがかっこよくて、それで佐倉杏子や暁美ほむらみたいなやつとは違う、マミさんみたいな魔法少女になろうって。
絶対に自分のために戦ったりなんてしないって、そう決めてたんだ」
人のために戦うマミさんがかっこよくて、それで佐倉杏子や暁美ほむらみたいなやつとは違う、マミさんみたいな魔法少女になろうって。
絶対に自分のために戦ったりなんてしないって、そう決めてたんだ」
暁美ほむらには会ったことはないが、佐倉杏子、巴マミとは顔を合わせたからクロは知っている。
だが、既に亡き佐倉杏子とは何があったのかは巴マミ目線でしか知らない。
だが、既に亡き佐倉杏子とは何があったのかは巴マミ目線でしか知らない。
静かに剣を収めるクロの前で、さやかは話す。
その瞳はクロを見ていない。理性は戻っているはずなのに、まるでどこか遠くを見ているかのように虚ろだった。
その瞳はクロを見ていない。理性は戻っているはずなのに、まるでどこか遠くを見ているかのように虚ろだった。
「もう、こんな体で人間じゃないって知ったときも、それだけあれば魔法少女として戦っていけそうな気がしたんだ。
それで、さっき佐倉杏子がマミさんを襲ってるのを見て、マミさんを助けて。そしたらマミさんに撃たれて。
もうどうしたらいいかも分かんなくなっちゃってさ。でもマミさんのあの目を見て、私は悪者なんだって、それだけは分かっちゃったんだ」
「………」
それで、さっき佐倉杏子がマミさんを襲ってるのを見て、マミさんを助けて。そしたらマミさんに撃たれて。
もうどうしたらいいかも分かんなくなっちゃってさ。でもマミさんのあの目を見て、私は悪者なんだって、それだけは分かっちゃったんだ」
「………」
「マミさんに憧れて正義の味方として戦う魔法少女になったのにさ、そのマミさんに悪者だって思われて。
あたしは最低な人間だから。いや、もう人じゃないんだっけ。
マミさんに、マミさんの多分大事だった人を殺した最低な人間だって思われることに耐えられない。
もういっそ、こんな私なんていなくなっちゃった方がいいんじゃないか、って」
「それで、殺して欲しくて破壊衝動に任せて暴れまわってたってわけ?くだらない話ね」
「そうね、くだらないわね。こんな願いをした私自身が
皆を守る、そのために力を使おうって思った私が、一番助けたかった人を助けて後悔しそうになってるなんて、笑えるでしょ?」
「………」
「正直さ、ゲーチスさんがあの変な薬くれたとき、むしろ安心しちゃったんだよね。
いっそ私を、正義の味方になりたいなんて思いも全部なくしちゃえば、もうこんな思いしなくても済むんじゃないかってさ」
あたしは最低な人間だから。いや、もう人じゃないんだっけ。
マミさんに、マミさんの多分大事だった人を殺した最低な人間だって思われることに耐えられない。
もういっそ、こんな私なんていなくなっちゃった方がいいんじゃないか、って」
「それで、殺して欲しくて破壊衝動に任せて暴れまわってたってわけ?くだらない話ね」
「そうね、くだらないわね。こんな願いをした私自身が
皆を守る、そのために力を使おうって思った私が、一番助けたかった人を助けて後悔しそうになってるなんて、笑えるでしょ?」
「………」
「正直さ、ゲーチスさんがあの変な薬くれたとき、むしろ安心しちゃったんだよね。
いっそ私を、正義の味方になりたいなんて思いも全部なくしちゃえば、もうこんな思いしなくても済むんじゃないかってさ」
それを油断、というにはクロには突然すぎた。
さやかは、その両手に剣を作り出したと同時、拘束されていた腕を切断し。
こちらの拘束を振り切って飛び出してきたのだ。
さやかは、その両手に剣を作り出したと同時、拘束されていた腕を切断し。
こちらの拘束を振り切って飛び出してきたのだ。
己の体を自分で切断するという行動に驚き呆気に取られている間に、さやかはこちらへ体当たりを繰り出す。
吹き飛び、倒れながらもさやかを見上げたところで、彼女の手は再生。元の通り五体満足の状態で剣を構えていた。
吹き飛び、倒れながらもさやかを見上げたところで、彼女の手は再生。元の通り五体満足の状態で剣を構えていた。
「ほらね、これぐらいの傷でも、すぐに治っちゃう。すぐに戦えるようになるんだ。
これってさ、私に死ぬまで戦えって言ってるようじゃない?
ちょうど頭の中でもさ、さっきみたいに何かが戦え、殺せ、って言ってくるんだ」
これってさ、私に死ぬまで戦えって言ってるようじゃない?
ちょうど頭の中でもさ、さっきみたいに何かが戦え、殺せ、って言ってくるんだ」
そのまま振り下ろされた剣を干将・莫耶で受け止める。
狂気は落ちたことで威力こそ下がっている剣技だが、一撃一撃の鋭さは変わっていない。いや、むしろ理性が戻った分増しているようにも見える。
狂気は落ちたことで威力こそ下がっている剣技だが、一撃一撃の鋭さは変わっていない。いや、むしろ理性が戻った分増しているようにも見える。
「だから、もう殺してよ。
もう私なんて生きてる価値がない。それならもう、人殺しの化物になる前に」
もう私なんて生きてる価値がない。それならもう、人殺しの化物になる前に」
自分を殺せ、と懇願し斬りかかってくるさやか。
幽鬼のような瞳をしていながら、その太刀筋は本物だった。
おそらくは思考と体が一致していないのだろう。
幽鬼のような瞳をしていながら、その太刀筋は本物だった。
おそらくは思考と体が一致していないのだろう。
「でないと、私――――」
そのまま一歩踏み込もうとしたさやかは、しかし動きを止めることとなる。
地面を蹴り上げようとした足が、まるで地面に縫い付けられたかのように動かない。
視線を下ろすと、その足にはクロの持っていた双剣が両足と地面を貫通し縫い付けていた。
地面を蹴り上げようとした足が、まるで地面に縫い付けられたかのように動かない。
視線を下ろすと、その足にはクロの持っていた双剣が両足と地面を貫通し縫い付けていた。
ハッと気がついて前を向いたとき、褐色の少女は目の前で鎌のような武器を振りかざしていた。
今更避ける必要などない。どうせそんな傷、すぐに治癒されているのだから、と。
今更避ける必要などない。どうせそんな傷、すぐに治癒されているのだから、と。
そう思って振りかぶられたそれは、さやかの顔を、左目を沿うように斜めに切り裂いた。
「――――?!」
顔から血が吹き出て左目の視界が真っ暗になると同時、感じたのは鋭い痛みだった。
痛覚遮断をしているさやかには、決して感じることのない感覚。
痛覚遮断をしているさやかには、決して感じることのない感覚。
それだけではない。
(え、治らない…?)
本来ならば数秒でもあれば完治するはずのその傷は、一向に塞がる様子を見せない。
「そんなに、償いのために死にたいっていうなら、殺してあげてもいいわ。
だけど、楽になんて殺さないわよ」
だけど、楽になんて殺さないわよ」
そう言って、クロはさやかの背後で不死殺しの剣、魔鎌ハルペーを回しながらそう告げた。
その声色はまるで押し殺したかのように冷たく、さやかに対して宣告していた。
その声色はまるで押し殺したかのように冷たく、さやかに対して宣告していた。
「ギリシャ神話でペルセウスがゴルゴン退治に使った武器。これで斬られた傷はどんな魔術も魔法も治してはくれないわ。
自然治癒に頼らない限りね。
次はどこを斬って欲しいかしら?鼻?耳?それとも指を一本ずつ落としてあげようかしら?」
「っ…!?」
自然治癒に頼らない限りね。
次はどこを斬って欲しいかしら?鼻?耳?それとも指を一本ずつ落としてあげようかしら?」
「っ…!?」
その殺気、言葉、そして顔の痛みに思わず後ずさるさやか。
貫かれた足を、強引に引っこ抜いたことで足が断面が見えるほどにスッパリと切断される。
骨が丸見えになるほどのその傷もしかし、再生するのにそう時間はかからなかった。
貫かれた足を、強引に引っこ抜いたことで足が断面が見えるほどにスッパリと切断される。
骨が丸見えになるほどのその傷もしかし、再生するのにそう時間はかからなかった。
だが、顔の傷は治らない。
「痛いでしょ、それ?
あんたが痛み無くして戦えるかどうかなんて知らないけどね、私にはその治癒能力の上から斬ることくらいどうってことないのよ」
あんたが痛み無くして戦えるかどうかなんて知らないけどね、私にはその治癒能力の上から斬ることくらいどうってことないのよ」
彎曲した鎌の刃をその肩に突きつける。
軽く突き立てられたそれは、さやかの肩から一滴の血を流す。
軽く突き立てられたそれは、さやかの肩から一滴の血を流す。
「でもね、死ぬってもっと痛くて苦しいものなのよ。
どこにもいなくて、誰にも会うことができず、後悔することもできない。
たかだか14年しか生きてない小娘がそんなところに行きたいって?寝惚けたこと抜かしてんじゃないわよ」
「…っ!あんたに何が分かるのよ!」
「何も分からないわよ。あんたのことなんて分かりたくもないし分かろうとも思わない。
でもね、そんなに一人で全部抱えこんだ挙句自己完結してるようなバカに襲われた人間の気持ちは、あんた分かるの?」
どこにもいなくて、誰にも会うことができず、後悔することもできない。
たかだか14年しか生きてない小娘がそんなところに行きたいって?寝惚けたこと抜かしてんじゃないわよ」
「…っ!あんたに何が分かるのよ!」
「何も分からないわよ。あんたのことなんて分かりたくもないし分かろうとも思わない。
でもね、そんなに一人で全部抱えこんだ挙句自己完結してるようなバカに襲われた人間の気持ちは、あんた分かるの?」
佐倉杏子は美樹さやかに殺され、そのまま動揺した巴マミは美樹さやかを殺したと思い込んでいる。
挙句、ゲーチスにいいように扱われ、シロナさんやお兄ちゃんを襲い。
挙句、ゲーチスにいいように扱われ、シロナさんやお兄ちゃんを襲い。
「あんた、結局何がしたかったのよ?そんな風に人を殺す化物にでもなりたかったの?」
「ち、違う、私は…、皆を守れる正義の味方になるために…、でも、もうなれるわけないじゃない!」
「それでもなりたいって願って、戦おうって思ったんでしょ。なら、それを貫きなさいよ。あんたは選んだんでしょ?誰に言われたわけでもなく、自分の意志で。
それとも失敗したことをグジグジ悩んで捨てちゃうような、そんな生半可な覚悟で夢持ったわけ?」
「私は、人を殺してマミさんを悲しませたんだよ!?それなのにそんなもの―――」
「だからちゃんと話しなさいよ。あんた達の間には結構な齟齬があるみたいだし、ちょっと話し合えば解決する…かは分からないけど。
それでも今より悪いことにはならないわよ」
「ち、違う、私は…、皆を守れる正義の味方になるために…、でも、もうなれるわけないじゃない!」
「それでもなりたいって願って、戦おうって思ったんでしょ。なら、それを貫きなさいよ。あんたは選んだんでしょ?誰に言われたわけでもなく、自分の意志で。
それとも失敗したことをグジグジ悩んで捨てちゃうような、そんな生半可な覚悟で夢持ったわけ?」
「私は、人を殺してマミさんを悲しませたんだよ!?それなのにそんなもの―――」
「だからちゃんと話しなさいよ。あんた達の間には結構な齟齬があるみたいだし、ちょっと話し合えば解決する…かは分からないけど。
それでも今より悪いことにはならないわよ」
ハルペーを引き上げるクロ。
しかしそれでも、まださやかは立ち上がらない。
しかしそれでも、まださやかは立ち上がらない。
「…無理だよ。私はもう杏子を殺してるんだよ?
マミさんに合わせる顔なんてないし、何より私自身が赦せない…」
「だーかーらー!そんなに変な面子気にして一人でウジウジしてるくらいならさっさと行動しろって言ってるのよ!
話して赦してもらえるかどうかとか自分を赦すのがどうとか、今のあんたが気にすることじゃないでしょ」
マミさんに合わせる顔なんてないし、何より私自身が赦せない…」
「だーかーらー!そんなに変な面子気にして一人でウジウジしてるくらいならさっさと行動しろって言ってるのよ!
話して赦してもらえるかどうかとか自分を赦すのがどうとか、今のあんたが気にすることじゃないでしょ」
ハルペーを投げ、干将・莫耶を投影するクロ。
次の瞬間、さやかの腹部に向かって×の字を書くようにそれを振りかざした。
次の瞬間、さやかの腹部に向かって×の字を書くようにそれを振りかざした。
「もういいわ。あんたここで死になさい」
向けられたのは強烈な殺気。
さやかはその覇気に思わず剣を前に構えその双剣を防いでしまった。
さやかはその覇気に思わず剣を前に構えその双剣を防いでしまった。
しかし返す手は執拗に腹部のソウルジェムを狙ってくる。
後ろに飛んで距離を取り、起き上がって再度剣を構えなおす。
体が勝手に構えてしまう。
その剣先は、まるで恐怖を感じているかのように小刻みに震えていた。
後ろに飛んで距離を取り、起き上がって再度剣を構えなおす。
体が勝手に構えてしまう。
その剣先は、まるで恐怖を感じているかのように小刻みに震えていた。
「へえ、やっぱり死ぬのが怖いのかしら、何だかんだ言って?」
「…っ」
「でも、まだよ。もし生きたいって言うなら死ぬ気で避けなさい」
「…っ」
「でも、まだよ。もし生きたいって言うなら死ぬ気で避けなさい」
腰が引いてしまっているさやかに対して、執拗にソウルジェムを狙った連撃を突き出すクロ。
その太刀筋には、さやか視点では一切の手加減容赦が見えない。
必死で手を動かしてそれを防ぐことだけに専念する。
その太刀筋には、さやか視点では一切の手加減容赦が見えない。
必死で手を動かしてそれを防ぐことだけに専念する。
さやか自身、何故こんなに剣を繰っているのか全然分からなかった。
あれを一撃受ければ、それで楽になれるはずなのに。
あれを一撃受ければ、それで楽になれるはずなのに。
気がつけばその両手に剣を持っていた。
白と黒の双剣を受け止めるために必死で受け止める。
その度に肩から、二の腕から血が吹き出るもすぐさま治癒される。
白と黒の双剣を受け止めるために必死で受け止める。
その度に肩から、二の腕から血が吹き出るもすぐさま治癒される。
自分の体なのに自分の体じゃないかのような感覚。
しかし鎌で切られた左目の傷はそんな間も痛み続けた。
しかし鎌で切られた左目の傷はそんな間も痛み続けた。
激しい突きに剣を弾き飛ばされそうになるも、その勢いを利用してどうにか背後に跳ぶ。
が、そこで襲い掛かったのは双剣の投擲。
回転しながら襲い掛かるそれを、肩を斬られつつも回避する。
が、そこで襲い掛かったのは双剣の投擲。
回転しながら襲い掛かるそれを、肩を斬られつつも回避する。
しかしクロはその手に作り出した、干将・莫耶とは違う一本の剣による突きを繰り出す。
それを、顔に傷を作りながらも回避。しかし返す刃が、それを受け止めたさやかの剣に罅を入れた。
それを、顔に傷を作りながらも回避。しかし返す刃が、それを受け止めたさやかの剣に罅を入れた。
少しずつ割れるその剣を目前に掲げたまま押され続けるさやか。
と、次の瞬間、さやかの目が何かを捕らえた。
と、次の瞬間、さやかの目が何かを捕らえた。
咄嗟にクロの体を蹴り飛ばし、己の体をその背の白いマントで包み込む。
さやかの体が完全に見えなくなったところで、彼女の背後から干将・莫耶が回転しながら急接近し。
白い布で覆われたさやかの体を切り裂いた――――
さやかの体が完全に見えなくなったところで、彼女の背後から干将・莫耶が回転しながら急接近し。
白い布で覆われたさやかの体を切り裂いた――――
「合格よ」
と、干将・莫耶を受け止め切り裂かれた布の元に近づくクロ。
しかし、そこにあったのはさやかの背負っていたマントだけ。美樹さやかの肉体はどこにもない。
しかし、そこにあったのはさやかの背負っていたマントだけ。美樹さやかの肉体はどこにもない。
「はぁ…はぁ……」
見回すと、剣の軌道から大きく外れた場所で、魔法少女の姿を解除した美樹さやかが膝をついて座り込んでいた。
「わざとあれが返ってくるのが見える剣と位置まで動いてあげたんだから、もし気付かないようだったらそのまま斬り殺してたわ」
「……私を、殺すんじゃなかったの?」
「あんたがあれに気付かない、もしくは気付いても避けようともしない死にたがりだったらね。
でも、あんたは避けたでしょ。つまり、生きようと思った。
正直大変だったんだからね、その左目が見えてない分に合わせて切り結ぶなんて」
「……私を、殺すんじゃなかったの?」
「あんたがあれに気付かない、もしくは気付いても避けようともしない死にたがりだったらね。
でも、あんたは避けたでしょ。つまり、生きようと思った。
正直大変だったんだからね、その左目が見えてない分に合わせて切り結ぶなんて」
ああ、とさやかは気付く。
自分は最初からこの少女に試されていたのだ。
自分は最初からこの少女に試されていたのだ。
「人間なんて死ぬ気になれば何でもできるけどさ、本当に死のうとするのはバカよ。
あんたがそんな体になってまでなりたいっていったものが本当の夢なんだったら、一度の失敗で命まで投げ出そうとかしないの。分かった?」
「でも、殺した杏子は帰ってこないんだよ…?」
「それはあんたが背負っていかなきゃいけないものね。
ほら、日本の警察とかだって、人を一人殺したけど償おうって思いがある人をいきなり死刑にしたりとかしないでしょ?
あとはあんたの気持ちの持ち様ってところでしょうね」
あんたがそんな体になってまでなりたいっていったものが本当の夢なんだったら、一度の失敗で命まで投げ出そうとかしないの。分かった?」
「でも、殺した杏子は帰ってこないんだよ…?」
「それはあんたが背負っていかなきゃいけないものね。
ほら、日本の警察とかだって、人を一人殺したけど償おうって思いがある人をいきなり死刑にしたりとかしないでしょ?
あとはあんたの気持ちの持ち様ってところでしょうね」
そう言ってさやかの顔を見る。
すると沈黙を続ける彼女の視線は足元に置かれた一つの宝石に注がれていた。
すると沈黙を続ける彼女の視線は足元に置かれた一つの宝石に注がれていた。
「…はは、そうかもね。でも今の私にはもう無理かな…。ほら、私のソウルジェムこんなに真っ黒になっちゃった…」
突き出されたさやかの命を示すらしい宝石は真っ黒に染まっている。
以前見た時にはもっと青く輝いていたその色はもう面影も感じられない。
あれだけの戦いをして、傷付くたびに回復を繰り返し続けたのだ。当然だろう。
以前見た時にはもっと青く輝いていたその色はもう面影も感じられない。
あれだけの戦いをして、傷付くたびに回復を繰り返し続けたのだ。当然だろう。
「もうこれじゃ魔法、使えないと思うんだ…。グリーフシードもどこか行っちゃったしさ。
どうせ魔法使えない私なんて足手まといにしかならない」
「世話のかかる魔法少女ね全く」
どうせ魔法使えない私なんて足手まといにしかならない」
「世話のかかる魔法少女ね全く」
と、しばらく何かを思案するかのように考え込み。
「はぁ、仕方ない」
そう言ってバッグから取り出したソウルジェム。
しかしそれは真っ黒に濁った魔力を発し続けており、素人目から見ても使えそうには見えなかった。
そうなると、残った手段は、
しかしそれは真っ黒に濁った魔力を発し続けており、素人目から見ても使えそうには見えなかった。
そうなると、残った手段は、
「……あれしかないか」
果たしてそのやり方がさやかの魔力回復に通用するのかどうかは分からない。
だが、まあ、うん。
だが、まあ、うん。
ガシッ
「えっ?」
両手を押さえ、両足の上に体重をかけて身動きを封じる。
さらにその体を壁に押しつけ、退路を断ち切る。
さらにその体を壁に押しつけ、退路を断ち切る。
間違いなく抵抗するだろうから、念には念を入れておくのだ。
「ちょ、何を―――」
「じっとしてなさい」
「じっとしてなさい」
しっかりと押さえつけた両腕を片手で押さえられる形に持ち替え、もう片方の手で顔を押さえる。
「顎の力は抜いておきなさい、そうすればすぐ終わるわ」
「ま…!うむっ――」
「ま…!うむっ――」
そのまま、クロはさやかの口に己の唇を重ねる。
体に力を入れて暴れるさやかの体を押さえつけながら、その口腔内に舌を入れる。
己の口を蹂躙するかのような異物感に呻くような声を上げようとするさやか。
しかし侵入したクロの舌が、さやかのその口を解放することを許さない。
己の口を蹂躙するかのような異物感に呻くような声を上げようとするさやか。
しかし侵入したクロの舌が、さやかのその口を解放することを許さない。
口の中で、クロの舌がさやかのものを絡め取り、生じた唾液が絡まりあって粘っこい音を立てる。
「んぁ…!ちょ…、タンマ…!」
ほんの一瞬口が離れたところでどうにか声を出すことができた。
しかしクロは止めてはくれない。
しかしクロは止めてはくれない。
「まだよ。ちゃんと唾液を飲み込んで…」
「だかrむぐっ…」
「だかrむぐっ…」
数秒の息継ぎの時間の後、クロはさらに舌を動かし、さやかの口内に刺激を与えて唾液を送り込む。
その容赦ない攻め立てに、最初は抵抗こそしていたものの。
不慣れな体に送り込まれた未知の感覚に少しずつ脱力してゆき。
その容赦ない攻め立てに、最初は抵抗こそしていたものの。
不慣れな体に送り込まれた未知の感覚に少しずつ脱力してゆき。
ピチャッ チュルッ
チュルルルル チュポッ
ピクッ ピクッ
「はぁ…、これくらいかしらね」
額から滲む汗を拭き取りながら、クロは起き上がる。
これまでは魔力を奪うことばかりで、相手に与えたことなどなかったこともあり勝手もよく分からなかった。
しかしそのソウルジェムの濁りの中には、微かに色が戻っているような気がする。
とりあえずはうまくいったと見てもいいだろう。
しかしそのソウルジェムの濁りの中には、微かに色が戻っているような気がする。
とりあえずはうまくいったと見てもいいだろう。
「……あれ?」
「――――――――」
「――――――――」
と、立ち上がりさやかを見たクロ。
真っ赤に蒸気しているように見える顔はトロンとして虚ろで。
半分ほど開いた口からはあふれ出た涎が糸を引いている。
真っ赤に蒸気しているように見える顔はトロンとして虚ろで。
半分ほど開いた口からはあふれ出た涎が糸を引いている。
「おーい、生きてるー?」
ポケーッと惚けた表情のさやかに声をかけるが全く反応がない。
指でツンツン突いてもピクリともしない。
指でツンツン突いてもピクリともしない。
「―――――――――――」
「おーい起きろー。死ぬには早いぞー」
「おーい起きろー。死ぬには早いぞー」
声をかけても体を揺らしても、全く反応を見せないさやか。
ダメ元で、その目と鼻の先といった位置に両手を翳し。
思いっきり手を鳴らした。
ダメ元で、その目と鼻の先といった位置に両手を翳し。
思いっきり手を鳴らした。
パンッ
「はっ?!」
「はっ?!」
聴覚、あるいは視覚への刺激かそれとも衝撃ゆえか。
それまで全く動かなかったさやかの顔に意識が戻る。
それまで全く動かなかったさやかの顔に意識が戻る。
「あ、起きた?」
「…あ…、う…う、うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
「…あ…、う…う、うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
後ろに下がろうとして壁に後頭部をぶつけ。
壁から跳ね返った衝撃で地面に転がり。
縺れる足で走ろうとして力が入らずさらに地面へと衝突し。
それでも腰を落としたままの体勢でこちらへ向いてズズズズと音を立てながら虫のような速さでクロから離れる。
壁から跳ね返った衝撃で地面に転がり。
縺れる足で走ろうとして力が入らずさらに地面へと衝突し。
それでも腰を落としたままの体勢でこちらへ向いてズズズズと音を立てながら虫のような速さでクロから離れる。
「あ、あん、あんた!!!」
「それくらい元気なら大丈夫ね」
「大丈夫なわけあるかああああああああああ!!!」
「それくらい元気なら大丈夫ね」
「大丈夫なわけあるかああああああああああ!!!」
そして顔を真っ赤にしたまま絶叫するさやか。
まるで魂の叫びだ。
まるで魂の叫びだ。
「わ、私のファーストキスが!初めては恭介にってずっと思ってたファーストキスがぁ!!」
「あー、そういえば初めてはまだだとか何か気になってる相手がいるとか言ってたわね」
「よ、よくもあんたは!」
「あー、そういえば初めてはまだだとか何か気になってる相手がいるとか言ってたわね」
「よ、よくもあんたは!」
目に涙を浮かべて指をさす。
真っ赤な顔は羞恥心のせいか怒りのせいか、それともその両方か。
真っ赤な顔は羞恥心のせいか怒りのせいか、それともその両方か。
「てゆうかあんた、さっきはあんなに殺せだの何だの言ってたじゃない。それなのにそんなこといちいち気にしてるとか、ちょっと現金すぎない?」
「う…」
「結局のところ、それがあんたの本音なのよ。やりたいことも沢山あるのに、それを全部押し込んで自分を押さえつけて。
もうちょっと自分に正直になってもいいんじゃない?」
「う…」
「結局のところ、それがあんたの本音なのよ。やりたいことも沢山あるのに、それを全部押し込んで自分を押さえつけて。
もうちょっと自分に正直になってもいいんじゃない?」
地面においたままのソウルジェムを拾い上げ、さやかへと投げ渡す。
穢れは未だ消えないが、その中にはまだかつての宝石の色の青が見えている。
穢れは未だ消えないが、その中にはまだかつての宝石の色の青が見えている。
「ちょっと行き過ぎた感はあるけど、これくらい医療行為って割り切れるようになりなさい。
ちゃんと生き残ってここから出れば、あんたはまたその好きな子と好きなだけやりたいようにできるでしょ?」
「………」
「だから、そのためにまずアンタがしないといけないこと、分かるかしら?」
ちゃんと生き残ってここから出れば、あんたはまたその好きな子と好きなだけやりたいようにできるでしょ?」
「………」
「だから、そのためにまずアンタがしないといけないこと、分かるかしら?」
と、クロは道の傍で倒れている一人の女性に目をやる。
依然地面に倒れるシロナは意識がなく、彼女に寄り添っている竜は袈裟懸けに斬られた傷から少しずつ血が滴り落ちており未だ止まる気配がない。
依然地面に倒れるシロナは意識がなく、彼女に寄り添っている竜は袈裟懸けに斬られた傷から少しずつ血が滴り落ちており未だ止まる気配がない。
「シロナさん、しっかり」
近寄ってシロナの体を揺さぶるクロ。
怪我自体は重いわけではない。気絶したのは少し打ち所が悪かっただけだろう。
怪我自体は重いわけではない。気絶したのは少し打ち所が悪かっただけだろう。
「う…クロちゃん…、士郎君は…?」
「お兄ちゃんなら大丈夫、もう行ったわ」
「そう、よかった…」
「お兄ちゃんなら大丈夫、もう行ったわ」
「そう、よかった…」
意識を取り戻し、士郎の安全を確認したシロナは安心したように息をつく。
そこでさやかが、クロの後ろからシロナの視界に入る位置へと動く。
そこでさやかが、クロの後ろからシロナの視界に入る位置へと動く。
「あ、の…、シロナさん…、私…」
「さやかちゃん…?あなた、その目は…」
「あ、こ、これは別に…。私の自業自得っていうかその…。
そんなことより、私、その…ごごめんなさい!」
「さやかちゃん…?あなた、その目は…」
「あ、こ、これは別に…。私の自業自得っていうかその…。
そんなことより、私、その…ごごめんなさい!」
震えながらも頭を下げるさやか。
そんな彼女の頭を、シロナは優しく撫でる。
そんな彼女の頭を、シロナは優しく撫でる。
「いいのよ…。あなたも私もこうやって無事だったんだから…」
「し、シロナさん…私…」
「さっきあんなこと言った後で言うのもあれだけど、今はゆっくりしてる暇はないっぽいわ。
この子の傷、ちょっとやばいわよ」
「し、シロナさん…私…」
「さっきあんなこと言った後で言うのもあれだけど、今はゆっくりしてる暇はないっぽいわ。
この子の傷、ちょっとやばいわよ」
と、クロが示したのはシロナの横に蹲っていたガブリアスの傷。
体中傷だらけで、特に片腕、肩から腹部にかけて袈裟懸けに斬られた傷が深い。
今ある薬では間に合わせ程度しかできないだろう。
体中傷だらけで、特に片腕、肩から腹部にかけて袈裟懸けに斬られた傷が深い。
今ある薬では間に合わせ程度しかできないだろう。
「ガブリアス!」
起き上がり傍に駆け寄るシロナ。
それにうっすら目を開いたガブリアスは、傷の痛みに顔を歪めている。
それにうっすら目を開いたガブリアスは、傷の痛みに顔を歪めている。
「シロナさん、この傷直す方法、ある?」
「ポケモンセンターまで連れて行ければ…!でもここからじゃ少し遠い…。
とにかく急ぎましょう!急いでモンスターボールに―――」
「ポケモンセンターまで連れて行ければ…!でもここからじゃ少し遠い…。
とにかく急ぎましょう!急いでモンスターボールに―――」
そう言って、ガブリアスを戻すためにボールを取り出し構えた、その瞬間だった。
轟音と共に、傍のコンクリート製の建築物が吹き飛んだのは。