HORIZON-金色の奇跡

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HORIZON-金色の奇跡 ◆Z9iNYeY9a2



シャドーボールが宙を舞いバーサーカーへと炸裂する。
しかし地面を、建物をいくら穿とうとも、バーサーカーの肉体へは届かない。

先のサイコブレイクをもってその体を吹き飛ばしたはいいが、それ以降同じ攻撃が通用しない。
かといってサイコキネシスやサイコウェーブ、バリアでの体当たりをもっても決定打を与えられていない。
一方でバーサーカーの攻撃はバリアーが数秒も持たないほどのパワーを誇っている。

決定打が与えられないほどの防御にこちらを一撃で吹き飛ばす攻撃力。
だが、それもある程度は想定内。

ミュウツーとバゼットが完全に想定していなかったこと、それはこの戦士の不屈の精神だった。
攻撃が効かないのであれば、足場を失わせ、あるいは進行方向の道を塞ぎ、あらゆる手をもってバーサーカーを撤退させようとしてきた。
バゼットにできないことでも、ミュウツーならばサイコパワーをもってすれば可能だったから。

しかし、足場を失おうとそれを飛び越え。道が塞がれたなら障害を打ち壊して進み。
如何なる手を使っても、バーサーカーは撤退することはなかった。

細かなダメージを積み重ねていこうとも、行動を封じ進行を止めようとも。
狂戦士は決して退くことをせずに戦いを続ける。

やがてバーサーカーとミュウツーの戦いは持久戦へと形を変えた。
だが、その負担は、

「辛そうだな、魔術師(メイガス)よ」
「くっ…」

傷口が開いた左腕を押さえながらもゼロを睨むバゼット。
もう戦いの時間はかなり経過していたが、万全な状態ならいざ知らず、セイバー、呉キリカとの戦いの傷、そして先のゼロとの戦いのダメージの残った体では限界があった。
すでに左腕は痛みすら感じない。指を少し動かすのも動作が非情に緩慢だ。
内臓もいくつかやられているかもしれない。だがこちらはまだ無理は利かなくはない。

「狂戦士を先に撃退することで2対1に持ち込む算段だったようだが、アテが外れたようだな」
「確かに片腕は封じられましたが、私にはまだ切り札があります」

腕や体の治癒は後回しでいい。
ミュウツーからの支援が期待できなくなった今、自分一人の力でゼロを落とす必要がある。
だが、傷付いたこの体でそれが可能かと問われた場合。

それを可能にする道具が、今バゼットの手にあった。

バッグの中に眠る1本の短剣。
元々3本あったはずのそれも、今や残り1本。
最初の1本は呉キリカに使い。次の1本はバーサーカーの命を奪ったが共に倒しきることはできなかった。

こんな数時間で全て使い切ってしまうというのも予想外ではあった。
しかし目の前にいる魔人にはそれだけの必要に迫られる相手だ。

こんな短期間でこれほどまでに強力な相手に出会い続けるというのもそうないことだ。
帰ったら逆光剣の補充が優先だろう。

バゼットの背後、地面に置かれたバッグが光を放つ。

「!」

仮面のせいで表情は見えないながらも強い警戒をしているのが分かった。


「いいだろう、ならば次の一手で決着をつけてやろう」

そんなゼロもまた、その手に光を集める。
それを地面へと押し当てると、地に鳥のような紋様が出現し輝く。

同時にバゼットも、己の切り札の名を叫ぶ。

「――――後より出でて先に断つもの(アンサラー)」

その真名を叫ぶと同時、ゼロの姿が掻き消える。

しかしそれも一瞬。
次の瞬間、掻き消えたその姿は、バゼットの目の前に出現。

ここだ――――――

「斬り抉る戦神の剣(フラガ・ラック)!!!」





熟れた果実を潰したかのような、生々しく嫌な音が響いた。

「なるほどな、賭けは私の勝ちのようだ」
「ガハッ…!」

体をその腕で貫かれ、血を吐くバゼット。

「先にあの狂戦士に使用した光景を見ていて助かったな。それがなければ私が負けていたかもしれないな」
「…ッ、何故、フラガラックが」
「お前の切り札の特性は分からんが、それを使用するのにはまず前段階としてあの剣を準備状態にする必要があるのだろう?
 ならば簡単だ。その準備段階での発動を止めればいい」
「…!?」

思い当たったのはあの光。
魔方陣のごとく地を輝かせたあれは、切り札発動の準備ではなかったのだ。
一定空間にあの全てを無に返す力を打ち込んだのだ。

本来ならば意識を奪うほどのそれも、元々のダメージにより大きく疲労していたバゼットには認識することができなかった。
さらには発動を焦ったことが逆光剣の起動の確認を怠らせた。
そして、発動したと確信したその隙を付かれてしまったのだ。


一つ一つのうちどれかを認識していればゼロとて分からなかった危ない橋。
それに、ゼロは打ち勝った。

拳のそれは心臓を避けた、とはいえ確実に致命傷のそれだった。
蘇生のルーンの発動も確認できない。腕を引き抜かれればそれで命は終わる。


「では、さようなら」

と、ゼロは腕を引き抜いた。
穿たれた胸から大量に噴出する血液。
それを己自身の体に浴びながら。

「…強、化!」

心臓が止まるまでの数鼓動、その刹那の時間に己の最後の魔術を拳にかけ。
最後の自身の拳を、ゼロに向かって叩き付けた。


「!」

ゼロが受け止める間もなく、その拳は黒い仮面を捉え。
鋭い音と共に、ゼロの頭部を強い衝撃が襲った。

そして、捉えると同時にバゼットの体は前のめりに倒れ。
もう二度と、動くことはなかった。

彼女の倒れた場所に、赤い色が広がっていく。
ゼロは、そんなバゼットを静かに見据え。

「いい拳だ」

そう言うと同時、その殴られた箇所に罅が入る。
それはやがて仮面全体を覆っていき、ゼロのマスクを粉々に砕き。
中からは端正な少年のような素顔が露になり、そのこめかみ辺りからは一滴の血が流れた。


【バゼット・フラガ・マクレミッツ@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ 死亡】



ゼロが空間に向けて発動したザ・ゼロはバゼットのみに影響してはいなかった。
バーサーカーを見据え、己のサイコキネシスをもって今まさに迎え撃とうとしていたミュウツー。
相手の巨大な岩剣の一撃を避けつつ大量の瓦礫を持ち上げ、バーサーカーへと打ち込もうとした、まさにその時だった。

ガラガラガラ

「?!」

一斉にその瓦礫が地面へと落ちる。サイコキネシスがキャンセルされたのだ。
再度サイコキネシスを発動させようと念じたが、一向に発動する様子はなく。

「■■■■■■■■■■■■■■■――――――!!!」

そのまま走り来るバーサーカー。
それに対し、咄嗟にバリアを張ろうと念じ。

しかしバリアが生成されることはなく。
迫った剣はそのままミュウツーの体を直撃。
打ち上げられた白いその体は、一軒の民家へと叩き込まれ、瓦礫の山をまた一つ増やした。




そのままバーサーカーは残ったゼロへとターゲットを定め、その剣による大斬りを放つ。
向かい来る狂戦士に対しゼロは両腕に顕現させたギアス、その片方を持って受け止め、同時に狂戦士の息の根を止めるべくギアスを押し当てた。


が、それがバーサーカーの体を止めることはなく、空いたもう片方の手でその体を掴まれ地面へとその膨大な腕力で投げつけられた。
地面にクレーターを作るほどの勢いで叩きつけられたゼロは、再度振りかぶられた岩剣に対して、マントを全方位にまるでバリアのように展開。
バーサーカーの剣をも推し返す衝撃を発生させ。

その場にクレーターのみを残して戦場から姿を消した。


そうして残されたのは、バーサーカー、そして。

「ぐっ…」

瓦礫の山からどうにか這い出た、傷付いたミュウツー。
だがその頭から血は流れ、左腕の骨が変な向きに曲がっている。
自己再生での回復を図るも、回復量は微々たるものだった。出血が止まっただけマシだろうか。

そんなミュウツーに対して、残った敵を倒すべく向かってくるバーサーカー。
サイコキネシスで動きを止めようとするも、ダメージの影響かあの狂戦士の前進を止めることはできない。

ゼロの姿も見えなくなった今、これの相手は自分しかいないだろう。

「撤退するべき、か…」

戦略的撤退。
それは最強のポケモンであると謳われたミュウツーが選ぶ、初めての選択であった。




遠くのビルの上、撤退するミュウツーとそれを追うバーサーカーを、ゼロは遠く眺める。

不死身の魔女も、エデンバイタルの神々の門すらも殺しうるギアス、ザ・ゼロ。
しかしあの狂戦士には一度その命を奪ったに止まり、耐性でもつけられてしまったのか二度目以降は一向に効果がなかった。
これがアカギの手による力の弱体化の影響なのかどうかまでは分からない。

だとすると今の自分にはあれを倒す手段はないだろう。
それ以前にあれが現れる前ですらも、あの少女の砲撃に対処することができなかった。
数に押されたとも言えるし、もしガウェインのハドロン砲があれば相殺できた可能性はある。

「…全く、不便なものだな」

どれほどの蘇生が可能なのか、どれほどまでの攻撃に耐えられるのか。
ともかく、この制限下である以上は倒すことはできない。
あの狂戦士は他の者に任せるしかないだろう。放置して何者かに倒させるか。
木場勇治ならば倒し得るだろうか。

「フン、木場勇治、か。結局他人頼みとなるのか」

やはり一人で全ての参加者を、というのは無理があったのだろうか。
木場勇治の時のように、もう少し同じ殺し合いに乗った者と手を組むべきだろう。

「そういえば、政庁の方で何かあったようだな。それもギアスユーザーが関わった何かが」

戦っている最中、ほんの微かに感じた気配。
ナナリーか、アリスか、マオか、それとも呪われし弟か。
誰なのかまでは分からないし、もしかしたらギアスに類似した何か別の力による戦いだったのかもしれない。

木場勇治との待ち合わせに伝えた時刻まではまだ時間がある。
寄るか否か。


少し思考した後、ゼロはむき出しになった素顔に、新たに仮面を被って歩き出した。
微かに残った頭の傷はそのままに。



【E-3/南部市街地/一日目 昼】

【ゼロ@コードギアス ナイトメア・オブ・ナナリー】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(大)、全身に切り傷、軽度の火傷、頭部に殴傷、回復中
[装備]:なし
[道具]:共通支給品一式、ランダム支給品0~3(本人確認済み、木場勇治も把握)
[思考・状況]
基本:参加者を全て殺害する(世界を混沌で活性化させる、魔王の役割を担う)
1:政庁には立ち寄るべきか否か…
2:木場と手を組むが、いずれ殺しあう
3:ナナリー……
4:可能であるなら、今だけは木場のように同盟を組むに値する存在を探す
[備考]
※参加時期はLAST CODE「ゼロの魔王」終了時
※第一回放送を聞き逃しましたが、木場勇治から情報を得ました



瓦礫の中から飛び出してきた白い影。
白い体のところどころを赤く染め、折れた片腕を押さえている。

「ミュウツー!」
「っ…」

突如現れた存在、ミュウツーに嫌な記憶を掘り起こされたさやかは一瞬顔を強張らせる。

「バゼットは?」
「やられた…。私達の負けだ」
「嘘…、バゼットが…」

あの怪物のような女が敗れたという事実に驚きを隠せないクロ。
しかし驚いている暇はなかった。

「そしてすまん…、アレを振り切れなかった」

と、ミュウツーの飛び出した場所から飛び出す巨大な影。
全身から魔力の蒸気を立ち上らせたそれは、小さく唸るような音と地響きをを立てながら近づいてきた。

「な、何なのよあれ…」

その存在と、それから発せられる異常なまでの魔力に驚愕するさやか。

次の瞬間、バーサーカーが驚くような速度でその手の斧剣を振りかざして突っ込んできた。
ミュウツー、さやかは咄嗟に退避、クロは素早い動きができないシロナとガブリアスを庇って地面に伏せる。

勢いのままに建物に突っ込むバーサーカー。
その一撃はさらに建物を打ち崩し、クロ達の留まる場所に瓦礫の山を降り注がせた。

「くっ、熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)!!」

降り注ぐ瓦礫を前に、クロはその手に花弁の盾を展開。
4枚の光の魔力の壁が降り注ぐ瓦礫を受け止める。

「シロナさん早く逃げて!」

そう叫ぶと同時、シロナが駆け出そうとして。

前を向いたクロの目に、こちらへとさらに斧剣を振りかぶるバーサーカーが映る。
向かってくる攻撃はシロナの退避より早く、あれを受け止める体勢を取ることができない。
皆で瓦礫に押しつぶされるか、自分があれを受け他の皆が瓦礫の下敷きになるかの2択。

(間に合わない…!)
「Graaaaaaaaaaa!!!」

そのこちらへと走り来るバーサーカーを、何かが殴りつけるかのような衝撃で押し返した。
青い気のような何かを纏ってバーサーカーへと突撃をかけ、巨体を後ろへと押しのけた存在。

「ガブリアス!?」

バーサーカーをドラゴンダイブで押し返したガブリアスは、フラフラになりながらも地面へと降り立つ。
しかしその状態で放った攻撃で体を痛めたのか、咳込むように血を吐き出す。

「もういいわ!戻って!」

シロナの撤退を確認し戻ろうとするガブリアス。
しかしその前で、すさまじい速さで体勢を立て直したバーサーカーが地面を殴りつけた。
それによって生まれた衝撃波がロー・アイアスを閉じ瓦礫を避けて戻ろうとするクロ、そしてバーサーカーの前に立つガブリアスと他の皆との間にあった道を塞いだ。

これを避けて向こう側へ行くのは難しくはないだろう。しかしそれをした場合、こちらを追ってあれはこの障害をものともせずにこの道を突っ切るだろう。
それは向こう側にいる皆を蹂躙し尽くすだろう。

合流は厳しい。

「やるしかない、か」

覚悟を決めたかのように、バーサーカーを見据えるクロ。

「ガブリアス、少しくらい時間稼いであげるからあんたは逃げなさい」

今の自分でも、このガブリアスが逃げるくらいの時間を稼ぐことはできるはずだ。
その短い時間をひきつけることくらいは。

しかし。

「グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

大きな声で吠えたと同時、ガブリアスはバーサーカーの方へと飛び込んだ。


「ちょっ…!あんた!!」

静止しようとするクロを尻目に、ガブリアスはバーサーカーにドラゴンダイブを放つ。
しかし先とは違ってその一撃はバーサーカーの目前で、受け止められ弾き返されてしまった。
瓦礫の山に放り込まれるガブリアス。

バーサーカーは勢いをそのままにこちらへと走り出す。
どうしたことか、バーサーカーは明らかにクロを狙っている。

それに対し、クロは剣を投影し構える。
作り出すのは己が投影し得る中で最強の、黄金に輝く宝剣。
人々の願いが作り上げた究極の幻想。聖剣の頂点。

約束された勝利の剣(エクスカリバー)。
しかし劣化複製されたこの聖剣の輝きは、本当のエクスカリバーに比べれば微々たるもの。

だがほとんどの武器が劣化品しか作れない以上、バーサーカーに通用するのはこれしかない。
真名解放が今の自分の魔力量では不可能という点だが、それでも殺せないわけではないはずだ。

戦車すらも吹き飛ばすであろう威力で放たれた一撃を回避。
地面に斧剣がめり込み持ち上げるまでの間に聖剣での突きを放つ。

ガキン

しかし、その一撃はまるで強固な鋼に突き刺した鈍な剣のように弾き返された。
そのまま横殴りの拳によって体を吹き飛ばされるクロ。

吹き飛ばされたクロのバッグから、何かが零れ落ちた。

エクスカリバーを杖にして立ち上がるクロ。

(やっぱり劣化品の劣化品じゃ届かない…、…それとも元からこの剣に耐性を持っている……?どっちなの…?)

零れ落ちたそれには目もくれずに、バーサーカーを見据えて思考する。
元よりそれはクロにも使えない、用途も全く分からなかったただの石だ。気にする必要もない。

だから、その石が僅かに光を放っていることを、クロは見逃していた。



「どうして助けないのよ!この向こうじゃまだ戦ってる人がいるんだよ!?」
「お前では無理だ。あそこに行ったところでまともに戦えはしない。
 それより今はここから離れることが先決だ」
「そ、そんなの、やってみないと…。シロナさんの子も戦ってるんだよ、アンタの仲間じゃないの?!」
「同属だからこそ分かることもある」

ミュウツーのサイコキネシスを使えば、この障害を取り除くことも可能だろう。
しかしそれをした場合、ミュウツーやさやかはともかく、体にダメージの残るシロナは逃げ切れないだろう。
それを一番分かっているのがシロナだからこそ、彼女は決断を下すことができないでいた。

そしてさやかも、そのダメージを負わせたのが自分自身であった事実、その罪悪感がなおのこと戦いに駆り立てていた。


しかし、そんな彼らの葛藤も長く続けられはしない。
破砕音と共に道を塞いだ瓦礫の山が崩れ、その奥から現れたバーサーカーがクロの体を持ち上げていた。


「クロちゃん!?
 ガブリアス!戻って!その傷じゃ―――」
「待て」

ガブリアスに戻るよう伝えようとしたシロナを、ミュウツーが止める。
体はボロボロの状態だったが、ミュウツーにはそのガブリアスの目が未だ屈していないように見えた。
守ろうとしているもののために命をかけるかのように。

「『こいつは私が引き受ける。あなた達は早く逃げろ』そう言っている」
「そんなこと…!できるわけないでしょ?!」
「『おそらくポケモンセンターにたどり着くまでこの体はもたないだろう。
 ならばせめて、あなた達が生きるためにこの命をかけよう』」

バーサーカーの腕にストーンエッジを放ちクロを掴んだその手を解放させるガブリアス。
地面に降り立ったクロは咄嗟に作り出した偽・偽・螺旋剣(カラドボルグⅢ)を至近距離からその体に射出。
しかし空間を捻じ切るそれもまた、バーサーカーの肉体に阻まれ弾き飛ぶ。

「そんなこと、できるわけが…!」
「『私は、チャンピオンのポケモン。自身の命惜しさのために他者を見捨ててまで生き延びようとは思わない。
 大丈夫だ、あなたは強い。私がいなくても戦っていける、生きていけると、私はそう信じている』」
「…!」
「『私はだれよりもあなたのことを見てきた。その私が保証する』」

ガブリアスがバーサーカーの背に食らいつくも、それを気に留める気配すら見せない。
クロは後ろに下がり地面に刺さったエクスカリバーを引き抜き、構える。
しかしそれは微かに閃光を放ったのみ。
バーサーカーの背にしがみついたガブリアスはそのままジェット機のごとく空気圧を噴射。その巨体を強引に押し上げ、壁に叩きつける。

だが、それでもロクにダメージを与えられてはいないだろう。

クロの傍まで離脱するガブリアス。その足元には、僅かながらもさっきよりも輝きを増した石。

「トレーナー、決断しろ」

まるで死刑宣告を迫る裁判官のように、冷酷にも聞こえる口調でそう問いかけるミュウツー。
迷っている時間は無いということだろう。そしてミュウツーも、その決断を見届けようというのだろう。
さやかには入り込む隙間などなく、ただ見ているしかできなかった。

「ガブリアス」

その呼びかけに、前を向いたままシロナに意識を向けるガブリアス。

「私はシンオウリーグ・チャンピオン、シロナよ。それはこれからも、私以上のトレーナーが現れるときまで変わらないでしょうね。
 だから、どんな時も正しく、強くなければならない。私も、私のポケモンも」

その言葉を言うシロナの声は小さく震え、握り締められた拳には血が滲んでいた。

「だから!何があっても勝ちなさい!それが私の、貴方に命じる最後の指示よ!!」

それでも、シロナはそれを最後まで言い切った。
己のポケモンに対して「死ね」というに等しい言葉を、ガブリアスの意志を信じて命じたのだ。


「グアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」


その想いに応じるかのように竜は吠え。
次の瞬間、その咆哮に反応したかのように転がった、輝く石がガブリアスに接触し。


ガブリアスの肉体を光が包み込んだ。



己の命を賭してでも主を守ろうとする想い。
シロナとガブリアスの間にあった、確固たる絆。
それは強大な相手を前にしても決して屈しない強い意志となった。

だが、それでも届かない。
かの大英雄、ヘラクレスを打倒するには力が足りなかった。

だから、ここで起こったそれはそんな彼らのために神様の叶えた奇跡だったのかもしれない。

クロの支給品に混じっていた、謎の石。
彼女がこの殺し合いの最初期にシロナから魔力を奪っていたこと。
そして、そのシロナの魔力が僅かにでも混じった中で作られただろう聖剣の輝き。

その輝きに反応して、謎の石が光を放ち。

彼らの、共に勝利を願う想いに答えるかのように、その石がガブリアスに接触したとき。
その輝きはガブリアス自身を包み込んだのだ。



彼らの生きる場所より遠い、とある地方において発見された、ポケモンの一つの大きな可能性。
本来もう進化することがないと思われたポケモン達が、既存の形態を超えて大きな力を得るという全く未知で新しい進化形態。

クロに支給されたその石――メガストーンは。
ガブリアスの、シロナへの強い想い、そして、その聖剣から放たれる黄金の輝きによって。
正確にいうなら、僅かとはいえその黄金の輝きの中にあった、シロナが持っていたであろう魔力の残滓に反応して。
ガブリアスに更なる力を、姿を与えた。


その姿を、その地方、カロス地方に生きるトレーナーたちはこう呼んでいた。
メガシンカ、と。



包み込んだ光が、まるでタマゴの内部から殻を割るかのように消滅し。
そこに姿を現したガブリアスの体は、先までとは異なるものへと変化していた。

全身の筋肉が膨張し先より更に巨大な体となり。
両腕のヒレは腕と一体化してまるで鎌のように巨大な刃へと変化し。
体に生えていた棘はさらに鋭く変化、その数を増やしてより攻撃的で凶暴な外見へと変化していた。

ミュウツーも、クロも、さやかも、シロナですらも驚愕したそのガブリアスの新たなる姿。
その中でただ一人こちらへと向かってくるバーサーカー。

しかし、更なる進化を果たしたガブリアス―――メガガブリアスは迫るバーサーカーに向けてその手の巨鎌を振りぬく。
すると振り払われたその腕に1本の線が走り、斧剣を持っていた右腕が地面へと落ちた。
それにより己が武器を失い攻撃の体勢を崩したバーサーカーに対し、メガガブリアスはストーンエッジを放ちその巨体を押し返す。

「グォォォォォォォォォォォ!」

それでも前に進み、残った左腕で斧剣を拾い上げるバーサーカー。
それに対しメガガブリアスは地に鎌を突き立てて咆哮。
地を揺らす衝撃が周囲に広がり、特にバーサーカーの足元を崩し足場を奪った。
片腕の損失と揺れる地面に、バーサーカーはバランスを崩して倒れこんだ。





「―――ガブリアス…?」

驚きと共にその変化した肉体を見据えるシロナ。
しかし、ガブリアスは前の巨人だけを見据えている。

バーサーカーの体からは未だに魔力の蒸気が上っている。
おそらくはそう時間を経たずして再生し、こちらへとの戦いを続けることだろう。
その命が尽きるまで。

「これは…奇跡……、いや、人とポケモンの、絆のカタチなのか…?」

呟いたミュウツーを、一瞬チラリと見たガブリアス。

「…分かった」

それだけのやり取りで彼の言わんとしたことを察した様子のミュウツーは、振り返ってシロナとさやかを見る。

「分かっているわ。行きましょう」
「一言でも何か言わなくてもいいのか?」
「もう、言うことはありません。ただあの子の勝利を信じて、ここを去るだけです」
「そんな…、それでいいの?大事な友達だったんじゃ―――」
「寄せ」

もう何もいうことはないというシロナに異議を発しようとしたさやかを、ミュウツーは制止する。
振り返る一瞬、ミュウツーには見えていた。シロナの顔に流れる一滴の涙が。

「クロ、お前も来い」
「ああ、ゴメン。私も残るわ」
「何?」
「あの子だけじゃあのバーサーカーの特性は分からないでしょ。なら知ってる私が舵とってあげないと」

肘から先の右腕を失くしつつも、立ち上がったバーサーカー。
それを、ガブリアスは急接近し両鎌で足を切り落とす。
支えを失い倒れたバーサーカーを抱え、宙へと飛び上がるガブリアス。

おそらくはここから離れた場所で戦うつもりだろう。

「待ちなさいよ…!今なら逃げられるでしょ!あんたまで残って、死ぬ気なの?!」
「それがさ、どうもあのバーサーカー、私を狙ってるみたいなのよね。この存在自体が問題なのか、その辺は全然分からないけど。
 だから私が行くとまた追っかけられると思うの」
「そうじゃないわよ!人には何だかんだ言っておいて、自分はヒーローみたいに一人残って死のうっていうの?!」

その言葉に、少し考えこむような仕草をした後、クロはこう告げた。

「ヒーローなんて気の利いたものじゃないわよ。必要だからそうするだけ。
 でもそうね、これだけは覚えておきなさい。さっきも言ったけど命ってのは大事なものなのよ。
 ガブリアス達ポケモンだって、あんたみたいな魔法少女だって、私みたいな出来損ないの存在でもね」

そう言ってクロは、金色の聖剣を構え直し、ガブリアスが飛んでいった方へと体を向ける。

「あんたの悩みがくだらないとは言わないわ。
 でも、自分の命をそんな風に無駄にしようなんてことは止めなさい」
「ちょっと…、待って――!」

さやかの制止も聞かず、駆け出し、首だけを後ろが見える向きに動かし、クロは最後に言った。


「もし乾巧って人に会うことがあったら謝ってたって言っておいて!
 あと、イリヤに会ったら―――何か言ってたって適当なこと言っといて!」

駆け出したクロが見えなくなるまで数秒もかからず。
さやかの目前には、何も残ってはいなかった。

「………私は…」

自分の命を、守るもののために賭けて去っていった彼らの前では。
さやか自身には己の覚悟や悩みがとても小さなもののようにも思えてきて。

クロに浄化された宝石に見える光を見て。
ミュウツー達の去っていった方へと向かおうと走り出した。

「っ…、まだ大丈夫よね」

未だ体の奥で疼く破壊衝動を、治癒しない左目の痛みで塗り消し誤魔化しながら。



「少し魔力を消費しすぎた、かな…」

自分の手を見て、静かに、名残惜しそうにクロはそう呟く。
さっきまではそれなりに残っていたはずの魔力、しかし投影に告ぐ投影、そして魔術使用によってかなりの消耗をしてしまった。

特にエクスカリバー、そしてさやかのために行った魔力供給。この2つが大きい。
さらにバーサーカーから受けたダメージも合わせれば、ちょっとやそっとの魔力供給では追いつかないだろう。

「まあ、結構楽しめた方かしらね。短い間だったけど」

もう少しこれまでの短い人生についての回想にでも浸りたかったが、そんな状況でもない。
けど、こんなのでもまた自分らしいといえばらしいものではないだろうか。

追いついたときには、バーサーカーの左腕で押さえつけられた斧剣を両腕にクロスさせた鎌で受け止めているメガガブリアスの姿があった。
メガシンカによって強化された肉体であっても、体力までは戻らない。傷やそれまでのダメージが響き劣勢になっていたのだ。

しかし、クロが現れたことでバーサーカーの意識がこちらへと向かう。

膝をつくメガガブリアスを無視して走り来るバーサーカー。
クロはジャンプして避けるが、その突撃は重機が高速で突っ込むかのように民家を打ち砕いていく。

それに対してクロは干将・莫耶=オーバーエッジをバーサーカーの両側から斬りかかるように投げつける。

(もし推測が正しいなら、今こいつは五感ではなく魔力反応によって相手の存在を認識してる…。
 私を優先して狙うのもそのせいかもしれない…)

ならば、まず相手の感覚を惑わせ一瞬でも隙を作る。
建物の瓦礫より抜け出したバーサーカーはその魔力に気をとられている。

そして襲い来る巨剣が、バーサーカーに接触した瞬間それを壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)で爆発させる。
しかしそれでもバーサーカーに効果的なダメージは届かないだろう。

だから、この一瞬で。

「ガブリアス!」
「ガァァァァァァァァァァァァ!」

ガブリアスが攻撃する隙を作る。

無理を押して立ち上がったガブリアスは、宙に飛び上がり青い竜の気を纏ってバーサーカーへと突撃をかける。
それはかつて北崎に対しても披露した攻撃、ドラゴンダイブ。しかしメガシンカを果たしたガブリアスのそれは、あの時以上の覇気を放っている。

バーサーカーを覆う煙の奥、ガブリアスの放ったドラゴンダイブはその概念武装に覆われた肉体に強烈な衝撃を与えた。
ガブリアスの攻撃が、バーサーカーに届いたのだ。

強烈な一撃、しかしバーサーカーの命を奪うには至らない。
むしろ、その一撃で倒れそうになった体を倒れないように支えているほどだ。

しかしそれがバーサーカーの宝具を貫いてダメージを与えたのは事実。
そのまま押し倒すことができないと感じたメガガブリアスは宙を舞い旋回。

今度は真上から、重力を加えた状態でバーサーカーの巨体へと降下。
頭からその体を押しつぶさんと突撃をかけた。

その一撃に顔から血を噴出すバーサーカー。
しかし、まだ倒れない。

それを見たメガガブリアスは、更に衝突にかかった反作用で再度宙へと舞い戻る。
そこから休むことなく、その体へと三度目の突撃。

今度はその胸部に加えられたその一撃は、バーサーカーの体からまるで太い樹の枝が粉砕したかのような音を響かせ。
その胸部を真っ赤に染めたバーサーカーはそのまま壁に押し付けられた体勢で、活動を停止した。

ようやく打ち倒した、という安心感がガブリアスの中に生まれる。
ポケモンバトル用ではない、リミッターを外したドラゴンダイブの連続からくる負荷でその場に膝をつき。

「まだよ!そこを離れて!」
「!」

死んだと思ったバーサーカーの巨大な手がガブリアスを掴んだ。
その体の傷は胸部の粉砕跡から右腕の切断傷まで、全てが治りつつある。


握り締められたその手による握力は、ガブリアスの頭から嫌な音を鳴らしている。
悲鳴のような鳴き声を上げるガブリアス。

クロはその光景に急いでエクスカリバーを構えてバーサーカーへと駆ける。
腕を切り落とそうと振りかぶったそれはしかし、肉体に刃を通すことなく弾く。
しかしクロが接近したことで注意がそちらに向かったバーサーカーは、ガブリアスを放り投げクロへと拳を振りかぶった。

その攻撃を読んでいたクロは、転移魔術を発動。
拳が当たろうかというその瞬間に離れたビルの上に移動する。

「はぁ…はぁ…、やっぱり、効かないか…」

そろそろ魔力がレッドゾーンに入りつつあったクロは呼吸を荒げる。
隣に降り立ったメガガブリアスも各々の傷口が開き、肉体が限界へと近づいているようだ。

最強の聖剣も通用しない。おそらくはガブリアスのドラゴンダイブももう効果はないだろう。
しかしここで撤退すれば二人とも犬死にとなる。

バーサーカーが斧剣を拾い上げこちらへと向かってくるのが見える。

もし手があるとすれば、この聖剣の真名を解放するくらいしかない。
だが、今の自分にはそれほどの魔力は―――

「足りなきゃ、持ってくればいいのよ」

不可能ではない。
今ここにいる自分は、聖杯の奇跡を使っているのだ。その全てをこの奇跡に回せば。
かつてイリヤが黒き騎士王を相手に放ったあのインチキな一撃のように。

「人が空想できること全ては起こり得る魔法事象、まさかこんなときにあのバカステッキの言葉を思い出すなんてね」

バッグに残った宝石を全て魔力に還元。
エクスカリバーに、微かに光が灯る。
当然、まだ足りない。

自身にかかった、生存のリミッターを外す。
生きたいという願いを、破棄する。

その瞬間、膨大な魔力の噴出がクロの周囲で発生、
さながら嵐のごとく吹き荒れる膨大な魔力。
その全てを、この手にある聖剣に込める。

刻一刻と時が過ぎるたびに、己の存在が薄くなっていくのを感じる。
視界が薄れ、存在が曖昧になってくる。

ほんの数分分の魔力を残し、全てをエクスカリバーに込める。
だが、それでもまだ、もう少し足りない。
聖剣の輝きは先とは比べ物にならないほどに増している。
しかし。まだ、もう少し足りない。

と、横にいるガブリアスに目をやる。
すると、その体からはエクスカリバーの輝きにも似た、まばゆいばかりの光を放っていた。

(そうか、この子はこの輝きを通してこの姿になったから―――)

エクスカリバーの刀身を、カブリアスの体に触れさせる。
光の一部を聖剣は吸収。その輝きが最高潮までになった。

―――いける。
―――だけど、もう少し。もう一要素。
―――この一撃で、あの宝具を打ち破るために。

「ガブリアス。悪いけど最後の派手な一撃、付き合ってもらうわ」

そのクロの要望に。
ガブリアスは迷うことなく頷いた。

と、次の瞬間、破砕音と共にクロ達のいる屋上の入り口が吹き飛んだ。
障害をものともしない無茶苦茶な走りで、バーサーカーは一人と一匹のいる場所まで辿り着いたのだ。


それと同時に、数少ない原型を保っていたこの建物も、彼の移動による粉砕で傾きつつあった。
輝く聖剣を前にしてもまだ怯む様子も見せずに己が武器を振りかざす。

ガブリアスに乗ったクロは、バーサーカーの攻撃が届くと同時に宙へと飛び立つ。
同時にその衝撃で傾く建物。

崩壊を始めるそれの前、クロは宙でガブリアスの背を蹴り。
同時にガブリアスはバーサーカーへ向かって、幾度目かのドラゴンダイブを放つ。
それは、さっきのものとはまた違う、ガブリアス自身の体から放たれる光をも纏ったもの。

そして、宙を舞うクロは、そんなガブリアスへと向けて。

「――――――――――約束された勝利の剣 (エクスカリバー)!!!」

その聖剣の真名を叫び。
振り下ろした。


約束された勝利の剣。
              ラスト・ファンタズム
それは人々の想いを糧に星が編んだ、最強の幻想。
人の手にも神の手にもよらず、ただ思いだけで作り上げられた聖剣。

確かにここにあるそれは、あくまでクロの作り出した贋作に過ぎない。
故に本来ならば真名開放も、光の奔流による斬撃も起こし得ないもの。


だが、ここに一つの要素が混じる。
トレーナーとの絆、そしてメガストーンによる進化を果たした一匹の竜。

メガストーン、それは古代の王が発動した最終兵器の光から生まれたと言われる石。
その光は、生き物の生命を司りし伝説のポケモンの力を利用して発せられたもの。
そう言われているものだ。

そこにポケモンと人の強い絆、すなわち想いが加えられることで、ポケモンに新たな力を与える。
それがメガシンカとも呼ばれていた。


星が人の想いで編んだ幻想の光。
人とポケモンの間に生まれた強い絆という想いに反応する石。
二つの異なる、しかし人の内にある想いの結晶が合わさった。

そして今。
ドラゴンダイブに向かって放たれたその閃光を、ガブリアスの所持したメガストーンが吸収していた。

もしもの話である。
これが、本物の約束された勝利の剣であったなら、ガブリアスの肉体はあるいは耐えることができなかったかもしれない。
しかし、クロの作った贋作であるそれの光は、ガブリアスの内から発する竜の気と同調することで、ガブリアスへの負担を最小限に抑えていた。

そして、吸収したその輝きを、ドラゴンダイブのための気として、共に放出。
ガブリアスの体を、黄金の光が包み込む。

そうしてガブリアスの覇気と聖剣の光が合わさったそれは。



黄金に輝きし、光の巨竜へと、姿を変える。

ある世界では幻想種の象徴として君臨する万獣の頂点として。
ある世界でもまた、聖なる伝説の生き物として多くの象徴として。

頂点に立つ、究極の生物。

巨大な翼を広げ、その口に並んだ牙は鋭く。
バーサーカーを一飲みにしてしまうほどの、巨大な顎を開けて。


ギリシャの誇る大英雄へと、一気に突っ込んだ。

それはもはや、約束された勝利の剣でも、メガガブリアスのドラゴンダイブとも異なる。
それら二つの合わさった、勝利すべき巨竜の咆哮。
クロはその光の竜の名を、叫んだ。







―――――――ガブリアスナイト・エクスカリバー!!!!




その光の名を叫ぶと同時、巨竜の顎がバーサーカーを飲み込まんと開く。

しかし。
その黄金の竜の発する魔力を前にしても。
バーサーカーは一歩も退くことはない。

バーサーカーには願いが、望みがあるのだから。
その身に宿りしは、数々の試練を打ち破った証の命。
ネメアの大獅子を、レルナのヒュドラを、地獄の番犬であるケルベロスさえも打ち負かしてきたのだ。

今更その巨竜の何を恐れることがあるのか。

崩れゆく建物の上。
巨竜の咆哮に対抗するかのようにバーサーカーも咆哮を上げ。
その巨体を噛み砕かんと閉じる顎を、事もあろうに受け止めた。

両足を下顎に、両腕を上顎に。
その口が閉じることがないように、四肢を魔力に焼かれながらも受け止める。


言語にすらすることができない叫び声を共に上げ続ける一人と一匹。
バーサーカーの体が限界を迎え、その光の中に飲み込まれるのが先か。
それとも光の中、核として黄金の光を放つガブリアスに限界がくるのが先か。

たった数秒の均衡が、まるで数十秒にも数分にも感じられる。


そんな中。
光の中心で自身の体を焼く光に耐えるガブリアスが。


「グォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!」

最後の力を振り絞るかのように、巨大な鳴き声を上げ。

次の瞬間、バーサーカーの、顎を支えるその体が、大きく傾いた。
顎を支える腕の力が、じょじょに弱まりつつある。

四肢は既に手首、足首から先は焼き切れている。
だがそれでも決して屈することはなく。

「■■■■■■■■■■■■■■■――――――!!!」

声ならぬ叫び声を轟かせると同時。
巨竜の顎が、バーサーカーの腕を押しきり。
光に飲まれたバーサーカーの体を、竜の中の鮫竜の突撃が貫き。

その瞬間、光の飽和により限界を迎えたメガストーンが、ガブリアスの中で音を立てて砕け散った。


もう、起き上がる力もない。
というか視界すらもはっきり見えない。

まるで自分の生きる意味をなくして絶望したあの時のようだ。
だが、今はイリヤはいない。
自分を看取ってくれる誰かも、いない。

瓦礫の山に背を預け腰を落としたクロの脳裏に、走馬灯のように短い間にあった出来事が映る。
それらの一つ一つが大切で、かけがえのないものだった。

イリヤがいて、お兄ちゃんがいて、ママがいて、パパがいて、リズが、セラが、美遊が、学校の皆がいて。
この場で出会ったシロナさんやミュウツー、C.C.やバカなさやかがいた、そんな時間。

そういえば、やっぱりさっきのあの時に乾巧に謝っておけばよかったかな、などと、その罪悪感が心残りだった。



ガラガラガラ

そんな、皆への想いを考えていたクロの耳に、瓦礫の崩れる音が届く。
うっすらとしか見えない視界で、前を見据えたクロの目に入ったのは、黒い巨体。

それは、シュウシュウと蒸気を上げながらこちらへと近づいてくる。
この肉体が消滅するより早く、こちらへとたどり着くだろう。


「ハハ…」

ああ、結局あれだけの力をもっても、こいつの宝具を打ち破るには届かなかったのか。
死に瀕したせいか、もう賞賛の言葉すら出てきそうだった。

バーサーカーが、目の前でその斧剣を振り上げる。
それから目を逸らさずじっと見て。


「―――強いわね、バーサーカー」

そんな言葉を最後に、消滅しつつあるクロの体にその岩が叩きつけられた。




【クロエ・フォン・アインツベルン @Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ 死亡】




『士郎さん、本当に大丈夫なんですか?
 その傷、人間だったらきっと全治何週間はかかりそうな傷ですよ?』
「大丈夫だって言ってるだろ。何度も言わせるなよ」

ルビーのしつこい追求に若干うっとおしさを感じつつあった士郎。
彼ら三人はあの戦場を離れ歩きでこそあるが早足で移動をしていた。

「ちょっといいか?」

口を開いたのは巧だった。

「何だよ?」
「さっきから何か気になってんだけど、どこかから剣、みたいな何かをこすり付けてるみたいな。
 そんな音、聞こえねえか?」
『え?』
「…!い、いや、俺には聞こえないぞ」


巧のその問いかけに、若干動揺するかのような反応を示す士郎。
ルビーはその様子がふと気になってしまった。

(士郎さん、まさかあなたは―――)

ある意味最悪の想像。
ルビーは、それを問いかけようとして。

「おい、どうした?」

士郎に背負われたイリヤに巧が問いかけていた。
どうしたのか、とルビーもそちらに意識を向ける。
すると、先ほどまで眠っていたイリヤが、その目から涙を流していた。

「イリヤ?!どこか痛むのか?!」
「ううん、違うの…。自分でも分からない。
 ただ、なんだかとても悲しくて、涙が…止まらなくて…」

理由も分からないのに涙を流すイリヤ。
その様子に、ルビーは士郎へ己の想像についての正誤を問うことを忘れてしまっていた。



その剣には血すらも残らなかった。
その存在の消滅と共に、存在したという痕跡全てが消え去ったのだ。

しかし、五感を奪われた彼にそれを確認する術などない。
狂戦士は何にも屈することなく、彼女のために戦いを続ける。それだけが己の存在理由なのだから。

あの魔力の竜には、一度に3つの命を食い破られた。
だが、まだこの肉体は健在だ。残った命のストックは一つであるが、まだ戦いは続けられる。

だから、狂戦士はその想いに体を乗せ、走り出そうとして。

ガタン

大きく膝をついた。
倒れこむことだけはないように、と咄嗟に斧剣を杖代わりに地につくも、その剣は先の巨竜の顎によって損傷していたのか、刀身の真ん中辺りから真っ二つに折れた。


バーサーカーには、何にも屈しない不屈の精神と、一つの願いがあった。

―――――バーサーカーは強いね。

あの雪景色の中、守り抜くと誓った小さな少女への想い。
幾重にも精神を冒されようとも決して忘れることの誓い。

だったはずなのに。


―――――バー※サ※※はつ※いね。

その小さな記憶の中に、謎のノイズが走った。

まるで、己の手でその大切なものを奪ってしまったかのような、謎の喪失感。
それが狂戦士の願いに、小さなノイズを走らせていた。

いかに不屈の精神があろうと、戦う意志があろうと。
戦う理由を見失えば、立ち上がることはできない。


きっとこのノイズも一時的なものにすぎない。
いずれ、それが消えたとき、狂戦士は再度戦いを続けるのだろう。

だが。
今この幾許かの時間は。ノイズが想いに走り続けるその間だけは。
バーサーカーには、立ち上がることができなかった。





そんなバーサーカーからしばらく離れた場所。
クロエ・フォン・アインツベルンが最後に存在したその地点。

彼女のいた証は、布の一切れ、血の一滴すらも残っていない。

そこにあったのは、一枚のカードだけ。
弓を構えた一人の人間の絵と、Archerという文字の書かれたカード。

静かに佇むそのカードは。
やがてどこからともなく吹いた風に乗って、どこへともなく飛んでいった。


【E-3/市街地/一日目 昼】


【ミュウツー@ポケットモンスター(アニメ)】
[状態]:ダメージ(大) 、疲労(大)、頭部打撲、片腕骨折
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品0~1(確認済み)
[思考・状況]
基本:人間とは、ポケモンとは何なのかを考えたい
1:バーサーカーの戦う戦場から離れる
2:プラズマ団の言葉と、Nという少年のことが少し引っかかってる。
3:できれば海堂、ルヴィア、アリスとほむらとはもう一度会いたいが……
4:プラズマ団はどこか引っかかる。
5:サカキには要注意
[備考]
※映画『ミュウツーの逆襲』以降、『ミュウツー! 我ハココニ在リ』より前の時期に参加
※藤村大河から士郎、桜、セイバー、凛の名を聞きました。 出会えば隠し事についても聞くつもり
※桜とマオとスザク以外の学園に居たメンバーの事を大体把握しました(あくまで本人目線)


【シロナ@ポケットモンスター(ゲーム)】
[状態]:ダメージ(中)、精神的に疲弊、大きな悲しみ
[装備]:ガブリアスのモンスターボール(空)@ポケットモンスター(ゲーム)
[道具]:基本支給品、ピーピーリカバー×1@ポケットモンスター(ゲーム)、病院で集めた道具、クロの矢(血塗れ)
[思考・状況]
基本:殺し合いを止め、アカギを倒す
0:ガブリアス……っ!
1:この場から離れる
2:ゲームを止めるための仲間を集める
3:N、サカキを警戒 ゲーチスはいずれ必ず倒す
4:乾巧を探して謝りたい
[備考]
※ブラックホワイト版の時期からの参戦です
※ニャースの事はロケット団の手持ちで自分のことをどこかで見たと理解しています

【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(大)、左目に傷(治癒不可)、破壊の遺伝子投与、精神安定剤作用中
[装備]:ソウルジェム(濁り65%)、西洋剣
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本:私は…
1:ミュウツー達と共に、この場から離れる
※第7話、杏子の過去を聞いた後からの参戦
※「DEATH NOTE」からの参加者に関する偏向された情報を月から聞きました
※桜とマオとスザク以外の学園に居たメンバーの事を大体把握しました(あくまで本人目線)
※破壊の遺伝子による破壊衝動は精神安定剤によって押さえられています。
  薬の効果が切れたとき、破壊衝動に飲まれるかどうかは不明です


【F-4/一日目 昼】

【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:疲労(大)、肋骨骨折、両腕両足の骨にヒビ、内臓にダメージ(小、優先的に治癒中)、正体不明の悲しみ
[装備]:カレイドステッキ(ルビー)@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[道具]:クラスカード(キャスター)@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ(使用制限中)
[思考・状況]
基本:この殺し合いを止める
1:何で…こんなに悲しいの…?
2:お兄ちゃん…
3:ミユたちを探す
4:お兄ちゃんを守れるよう、強くなりたい。
5:乾巧の子供っぽさに呆れている
6:バーサーカー、呉キリカに恐怖
[ルビー・思考]
基本:イリヤさんを手助けして、殺し合いを打破する
1:士郎さんを助けるために、クロさんに協力を仰ぐ
2:士郎さんの話したことはイリヤさんには黙っておく
3:呉キリカの使用した魔術の術式と言語が気になる
[備考]
※2wei!三巻終了後より参戦
※カレイドステッキはマスター登録orゲスト登録した相手と10m以上離れられません
※ルビーは、衛宮士郎とアーチャーの英霊は同一存在である可能性があると推測しています。
[情報]
※衛宮士郎が平行世界の人物である
※黄色い魔法少女(マミ)は殺し合いに乗っている?
※マントの男が金色のロボットの操縦者、かつルルーシュという男と同じ顔?



【乾巧@仮面ライダー555】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(大)、治療済み、肩から背中に掛けて切り傷
[装備]:なし
[道具]:共通支給品、ファイズブラスター@仮面ライダー555
[思考・状況]
基本:木場を元の優しい奴に戻したい
0:マミの事が少し心配
1:士郎が非常に気がかり
2:二人の元から離れたいが、仕方がないので協力する
3:衛宮士郎が少し気になる(啓太郎と重ねている)
4:暁美ほむらを探して、魔法少女について訊く
5:マミは探さない
[備考]
※参戦時期は36話~38話の時期です
[情報]
※ロロ・ヴィ・ブリタニアをルルーシュ・ランペルージと認識?
※マントの男が金色のロボットの操縦者


【衛宮士郎@Fate/stay night】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(中)、胸部と背中に打撲
[装備]:干将莫邪@Fate/stay night、アーチャーの腕
[道具]:基本支給品2人分(デイバッグ一つ解体)、カリバーン@Fate/stay night
[思考・状況]
基本:この殺し合いを止める
1:イリヤ達に腕を解放したことは気付かれたくない
2:バゼット、巧と協力して、イリヤを守る。
3:桜、遠坂、藤ねえ、イリヤの知り合いを探す(桜優先)
4:巧の無茶を止める
5:“呪術式の核”を探しだして、解呪または破壊する
6:桜……セイバー……
[備考]
※十三日目『春になったら』から『決断の時』までの間より参戦
※アーチャーの腕を開放しました。投影回数、残り四回
※腕解放の副作用により、腕解放後~さやか襲撃までの記憶が飛んでいます。
[情報]
※イリヤが平行世界の人物である
※マントの男が金色のロボットの操縦者


【F-3/市街地/一日目 昼】

【バーサーカー@Fate/stay night】
[状態]:黒化、十二の試練(ゴッド・ハンド)残り1、謎の喪失感
[装備]:バーサーカーの岩剣
[道具]:なし
[思考・状況]
0:■■■■■■
[備考]
※バーサーカーの五感は機能していません。直感および気配のみで他者を認識しています
※灰化、逆光剣フラガラック、ザ・ゼロ、サイコブレイク、ドラゴンダイブへの耐性を得ました



※シロナのガブリアス、及びメガストーン・ガブリアスナイトは消滅しました
※F-3からクラスカード(アーチャー)@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤが風に乗ってどこかへ飛んでいきました
※E~F-3にかけて、市街地がほぼ廃墟と化しました

102:始まりはZERO、終わりなら―――? 投下順に読む 104:無邪気な悪意
時系列順に読む
100:Juggernaut-ジ・アルゴノウタイ 乾巧 108:I was the bone of my sword(前編)
衛宮士郎
イリヤスフィール・フォン・アインツベルン
バゼット・フラガ・マクレミッツ GAME OVER
バーサーカー 121:X-evolution~戦いの中で
ゼロ 111:ConneCt
クロエ・フォン・アインツベルン GAME OVER
ミュウツー 113:我ハココニ在リ
シロナ
美樹さやか



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