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平行線上のマギカ

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匿名ユーザー

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平行線上のマギカ ◆Z9iNYeY9a2



女の話をしよう。

相反する2つの道と、膨大な可能性を持たされた少女。

彼女の力が希望に向くならば、世界は救済されるかもしれない。
彼女の力が絶望に向くならば、世界は終焉を迎えるだろう。

どちらへ向かうか、その心を導くのは少女の優しさ。
しかし、因果を背負わされた少女の優しさは、己を守る鎧には成り得ない。



頭も取り立てていいわけじゃないし、運動とかも苦手だし。
かと言って何かこれといった誇れるような何か特技とか能力を持ってるわけでもないし。

お母さんには、「あんたはいい子に育ちすぎた」とか言われましたが、私の取り柄といったらそれくらいしかないのかもしれません。

このまま何か大きなことをすることもなく、ただ普通の女の子として過ごしていくんだろうなって、魔法少女の存在を知るまでの私はそう思ってました。

いい子が長所なのかは分かりません。でも、いい子にしていればいいこともあります。

人に嫌われさえしなければ、普通に生きていけるし。
悪いことをすれば人に嫌われるし皆にも迷惑がかかるし。

目立たなければ、人に注目されることもなく一般人の中でごく普通に過ごしていけます。


そりゃ、不慮の事故や災害みたいなものに巻き込まれることもあるかもしれません。
魔法少女の戦う魔女、草加さんの戦う人間を襲う怪物――オルフェノクのような。

でも、そういったものがあっても私個人に悪意を、害意を向けてくるような人はいないようにしたいなって。

悪意は嫌いです。
嫌われるのは嫌だし、人に嫌われるようなことをしてしまう自分も嫌になります。
それにそんなドロドロした感情を受け止められるほど、私は強くないから。

だから、この殺し合いでもこれまで通り、と言っては何もしないってことになるかもしれないから訂正するけど。
せめて心意気自体はこれまで通りにしていれば、私―――鹿目まどかという存在に悪意を、憎しみを、殺意を向けてくるような人はいないんじゃないかって。

そう思ってました。


あの、白い魔法少女に会うまでは。


まどかが美遊を発見してからの話。
本来であれば姉、ルヴィアの元へ急ぐか海堂を追って共に行くかという選択肢を迫られていた美遊。
しかし、何の力も持たないまどかに対して一抹の不安を覚えなくもなかったため、せめて鹿目邸までは送ろうと思い、それまで移動してきた道のりを、今度は地を踏んで戻っていた。

『美遊様、ルヴィア様の元へ行くか、それとも海堂様と共に結花様を探されるのかは決められているのですか?』
「とりあえず、彼女を家まで送ったくらいで放送が始まるだろうから、それから考える」
『そうですか。ルヴィア様は大丈夫だと思いますが、結花様が心配ですね』
「草加さん…、大丈夫かな?」

まどかを先に送って戦いに出たという男の存在。
実はその彼が戦っていたオルフェノクこそが美遊の探す長田結花なのだが、互いが僅かに説明足らずだったこともあってその事実に考えが至らない。

もしそれを聞いていれば、美遊はまどかを置いてでも結花の元へと急いだだろうか。
あるいは、まどかは美遊に対してオルフェノクに対する注意を促しただろうか。

実際のところ、結花の件がなくてもまどか自身美遊に対してそう好印象を持っているわけではなかった。むしろ苦手意識の方が強いだろう。
先ほどの美遊の言葉に、己の魔法少女に対する想いを否定されたような気持ちも痼のように残っていたのだ。
それでも美遊を追ってきたのは、まどかの己はこうあるべき、とでもいうような想いからだった。

もしここで彼女を放置してそのまま死んでしまうようなことがあれば、きっと自分は嫌な子になってしまうのではないか、小さな女の子を苦手意識で放っておいたことにならないか。
その結果、死んでしまいでもしたら。

そんな想いがまどかの中にずっと残り続けていたのだから。

「さっきは少し言い過ぎたかも。ごめんなさい」
「えっ?」
「自分の中で、色々なものを一人で背負いすぎてて焦ってたのかもしれない。海堂さんと会ってそれが分かった。
 もしかしたら、あなたに羨ましいものを感じてたのかもしれない。それで、ついあんなことを言ったのかも」
「羨ましいこと…?……う、ううん、そんなのいいの、気にしてないよ!」

何に羨ましさを感じたのか、それを聞くほど踏み込むことは、まどかにはできなかった。


その後はあまり言葉を交わすこともなく気まずさのような空気を感じながら、まどかは美遊と共に元いた鹿目邸へと戻り。

そして、時計の針が12時を示し、放送が鳴り始めた。


「杏子ちゃん…?嘘…」

鹿目邸の玄関へとたどり着いたところで鳴り響いた放送。
そしてそこで告げられた死者の数、11人。
一回目の放送よりも増した名前の中に含まれていたのは、この場で再会した、かつて目の前で散っていったはずの少女の名前。
かつて目の前で死んでいった彼女が、この場においてなお命を散らせたという事実にショックを隠し切れないまどか。

「どうして…?こんなのって……!」

10時間ほど前に会った時はあんなに元気で、おそらくはあの向かっていった崩壊現場でも生き残ったと思われた矢先の佐倉杏子の死。

だが、この場において告げられた死者に衝撃を受けているのはまどかだけではなかった。

ガタンッ
『み、美遊様!』

何かが地面に打ち付けられるような音が鳴り、追ってサファイアの声が響く。
振り返ったまどかの目に映ったのは、地面に膝をついて体を小刻みに震わせる美遊の姿。

「クロ…、ルヴィアさん……藤村、先生…、そんな……」
『美遊様!お気を確かに!』

呼ばれた名は友、姉、そして教師の名前。
無情に告げた死者の名を呼ぶ放送。その中で己を形成していた多くの大切な者が、一瞬で崩れ去った。
そのショックに、心を乱し体を震わせる美遊。

まどかが声をかけることすらためらわせるその雰囲気の中で、やがて美遊は勢いよく立ち上がった。
しかしその様子は明らかに平常ではない。

「み、美遊ちゃん!?」
『美遊様、何処へ行かれるのですか?!』
「私が、モタモタしてたから皆が死んだんだ…!早くイリヤを、長田さんを、ロロさんを探さないと……!」

動揺が収まっていないのが分かるほどに声を震わせた美遊は、玄関を飛び出そうとし。

足をもつれさせて扉に向けて倒れこんだ。

『落ち着き下さい美遊様!そのような様子で外に出られては―――』
「そんな暇はない!!」

放送の影響がその心を大きく揺さぶった様子はまどかの素人目にも分かるほど激しい。

何もないところで躓くほどに冷静でない状態で送り出そうと思えるほど、まどかとて呑気ではなかった。
その様子に、かつてすれ違いからきた怒りで最後まで和解することなく誤解したまま死んでいった友の姿を思い出し。


「ちょっと待って!」

思わず美遊を引き止めていた。


「悲しいのは分かるけど、そんな状態で出て行ったらいいことにならないよ!少し落ち着いてから、ね!」
「っ!あなたに何が…!」

腕を掴んで引き止めたまどかを、振り返って鋭い瞳で睨みつける美遊。
なのに、その目はまるで涙を堪えるかのように揺れ動いている。

そんな美遊の表情を見て、まどかは察する。
今美遊の心を埋め尽くしている感情を。

かつてその瞳を持った友の嘆きを見たことがあるからこそ、この少女をどうするべきなのかをまどかなりに考えることができた。

「っ……」

静かに体を包み込む柔らかい感触。
後ろから抱きしめられたのだと気付いた時、美遊の進もうとしていたはずの足は止まっていた。

「大切な人が死んだんだよね…。悲しいんだよね…。
 無理しなくていいんだよ…、溜め込まなくていいの…。
 美遊ちゃんは、泣いていいんだよ」

妹をあやすかのように、静かにその体を、頭を撫でる。

まどかには、この少女の悲しみを知ることはできないし、それを共有することもできない。
だけど、それでも彼女の悲しみを少しくらい紛らわせることならできると。

美遊は動きを止め、抵抗することもなく。

ただ、そのままの体勢で、振り返ることもなく静かに体を震わせていた。
まどかの腕を、静かに握りしめたまま。


『ルヴィア様は美遊様の姉で、クロ様は友人、藤村先生は担任の教師でした』
「そんなにたくさんの人を、一度に…」
『前の放送でも、凛様の名前が呼ばれ、その時もかなりのショックを、美遊様は受けておいでのようでした。
 そして、仲間、というわけではありませんが、バゼット・フラガ・マクレミッツという執行者の名も、また。あの放送が真であるなら、今美遊様のお知り合いはイリヤ様と士郎様だけということに…』

美遊はしばらく一人にしてほしいと言って廊下に静かに座っている。
その間まどかとサファイアは台所で美遊が落ち着くのを待っていた。

あるいは一人で飛び出してしまうのではないか、という懸念はなくもなかったが、サファイアは自分を置いて出て行くことはないと信じていたし、まどかも(直接見ることはなかったものの)あの場で美遊の流した涙を信じることにしたのだ。


サファイアの話を聞き、まどかの思っていた以上に美遊は多くのものを失っていることに言葉を失う。
前の放送で友達の名前が呼ばれなかったことに安堵していた自分に罪悪感を感じるほどに多くの人が死んでいるのだということを、改めて実感する。

『まどか様は随分と落ち着いておられて、強いです』
「そ、そんなことはないよ」

サファイアの口から発された褒め言葉を慌てて否定するまどか。
ブンブンと手を振りながらのその様子は謙遜というにはちょっと大げさに見える。

『まどか様も友人の名前が呼ばれたと認識しております。それでもここまで動じずに要られるというのはまどか様の強さを表していると思うのですが』
「…そんなんじゃないよ」

今度はまどかは顔を伏せる。
まるで強いといわれたことに罪悪感を感じているようにも見える。

「私さ…、ここに来る前、友達とか先輩が死んでいく姿、見てきたんだ…。
 強かったのに、ほんの少し気を抜いただけで死んじゃったマミさん。
 自分の守りたかったものと本当の願いに挟まれて、絶望して死んでいったさやかちゃん。
 そんなさやかちゃんを助けようとして、助けられずにさやかちゃんと一緒に死んだ杏子ちゃん…」
『その方達というのは、もしや…』
「うん、皆ここに連れて来られてる友達。
 ほむらちゃん以外、皆が死んでいくところを見てきたんだ。
 だからなのかな。なんていうか、慣れちゃったみたいな感じで、美遊ちゃんみたいに悲しめないの」

まどかが見てきた死。
魔女に頭を噛み砕かれて死んだ巴マミ。
喧嘩したまま和解することもできずに、次に会った時には物言わぬ躯となっていた美樹さやか。
そして魔女となったさやかを救うことに一抹の希望を託し、共に彼女の元へと向かい、結果魔女と共に散っていった佐倉杏子。

この場で再会した杏子は、紛れも無くその時死んだはずの彼女だった。
そしてその彼女が死んだ、と言われた時、当然悲しいという感情は沸き上がってきた。
しかし美遊の反応を見て、それが本当に悲しみなのか、という疑問を己に持ってしまった。

「私って、ひどい子なのかな…。友達が死んだっていうのに、全然悲しんでないなんて…」

顔を伏せて罪を告白するかのような声でそう言うまどか。

『…まどか様はご友人の死を悲しみたいという気持ちを持っています。それはまどか様がそのご友人を心から大事にしている証ではないでしょうか?
 まどか様は、決して冷酷な方ではないと、私は思います』
「そう、なのかな…?それでいいのかな…」
『まどか様には自己評価を低く見てしまうきらいがあるように思います。そのように自分を卑下せずとも、もっと己に自信を持たれてもいいのではないでしょうか?』

サファイアはそんなまどかの懺悔にも思えるような言葉を聞いて、励ますように受け答える。

しかしまどかの顔は晴れなかった。
この殺し合いにきて、多くの人と出会って。
そのいずれもが何かしらの戦いに身を投じている中で自分はずっと守られてばかりで。
そんな有り様で自信を持つことなど、彼女にはできなかった。

ガチャッ

廊下と台所を繋ぐ扉が音を立てて開く。

「…サファイア、待たせた。ごめん」

美遊は言葉少なにそれだけ告げる。
その姿は一見落ち着いているようだが、表情には僅かに曇りが見える。

とはいえ、先に比べれば安定はしているだろう。
これならば後は自分が支えればそう無茶をすることもないだろう、とサファイアは判断する。

「もう、大丈夫なの?」
「うん。色々迷惑をかけた。
 私はそろそろ出発するけど、あなたはどうするの?」
「私は…、草加さんを待ってみないと。草加さんが行こうと思ってた場所、禁止エリアになるって言ってたし、あんまり動くとはぐれちゃうから…」

まどかはここへ来てから最も長い期間共にいた男との合流を待つという。
だが、彼女は知らない。
その草加雅人は、己の守るべき存在を優先し、まどかとの合流を放棄して鹿目邸とは逆の方角へと進んでいったことも。
そして、彼をそうなるように導いた者―――美国織莉子が、まどかの命を狙ってここへと迫ってきていることも。


女の話をしよう。

人は光を見る。しかし光の中までを知ろうとする者はそうはいない。

栄光、輝き、希望に満ちた人生。
しかし誰も女のことを見てはいなかった。
見ていたのは女の放つ光のみ。輝きを失えば、女を見るものはいなくなる。

だからこそ、女は己が生きる理由を、己の道を照らす光を求めた。

悪魔との契約に全てを捧げて見た光の先。
しかし女もまた、光の中を見ることはない。





草加との情報交換を終えた織莉子とサカキは、一直線に鹿目邸へと向かっていた。

サカキの数歩前を、先導するように進む織莉子。
その歩みは、サカキには若干の焦燥を抱えているようにも見えた。

そう感じるようになったのは、確かエリアを跨ぎ鹿目邸の存在するD-6へと侵入して以降。
より正確に言うなら、そのエリア内にいる参加者を探知した辺りからだったように思う。

おそらくは無意識の行動ではあるだろうし、サカキとしてもついていけないほどではない。
別に指摘するほどのことではない。

それより気になったのは、そこまで彼女の焦る理由。
これから向かう先に何があるのかを確信しているかのように迷いなく歩むその姿は、まるで己の人生をかけるほどの何かを成し遂げようとしているようにも見える。

ここまで来れば、サカキには織莉子の狙う者が誰であるのか、推測は立っていた。

(鹿目邸、そういえば名簿には鹿目まどかという名前があったな)

ポケモン城やポケモンセンターのように何かしら役に立つであろう施設でなさそうな、まるで参加者との関わりを持っているということで載せられたのではないかと思えるような。
名前からは民家としてしか推測できない施設。
先に立ち寄った衛宮邸も特に何かあるわけではなかった。鹿目邸とて同じである可能性は高い。

ではそこへ行く確率の高い参加者といえば誰か。
件の鹿目まどか、あるいはその関係者だろう。

無論、それを敢えて問うような真似はしない。
彼女が狙っている者が何であるかについて、そこまで踏み込もうとは思わない。元より彼女のその目的とこの殺し合いからの脱出は別の問題だ。

やがて、一つの家が目に入る。
表札を確かめるとそこにあるのは鹿目という文字。彼女の探しものはここにあるようだ。

「…私の探す人物と、もう一人の何者かがこの中にいるようですね」
「それは、君の見た未来か?」
「それもあります。先に見た未来はこの家に一人の参加者の存在を見せました。
 ただ、それとは別に私のソウルジェムが僅かに反応を示しています。私達のような魔法少女か、あるいはそれに近しい存在がもう一人、ということになります」
「まるでその見たという人物にはそういった力が何もないと確信しているかのようだな」

そう言うと、織莉子の顔に僅かな動揺が走った。

探りを入れたかったわけではない。
だが、ここまでくれば隠しきれるようなものでもない。気付いていないようなら、一応指摘しておくべきかという小さな親切心だ。

「何も言わないでください。これは可能な限り内密に行わなければならないことなのです」
「ああ、私も何も聞きはしないさ。それで、私はどうすればいいのかな?」
「………」

どうするべきか、と織莉子は考えるように無言になる。
おそらくは彼女にとってイレギュラーとなるのは、今この中にいる、その彼女の抹殺対象の同行者。
抹殺対象だけならば手を煩わせることもなく終わらせられたのかもしれない。
そしてそれは、彼女にとっては失敗を許されないことなのだろう。

こうなってくると、彼女としてはあのバイクを手放したことを後悔しているのかもしれない。

「何、私にそう負担のかかるものでないのならば、少しくらいの手助け程度なら構わん」

織莉子の瞳に、迷いのようなものが見える。
おそらくは葛藤しているのだろう。己の手で成し遂げねばならないという使命感に近い何かと、決して失敗することができないという責任感か何か。

しかし、迷っている時間も惜しいと思ったのだろう。数秒の沈黙の後、織莉子は口を開く。

「…これは私の問題です。この私の手で成し遂げなければならないこと。
 ですから、サカキさん。この家から離れた場所で待機していてください。そう時間は取らせません」
「手助けはいらない、と?」
「ただ、それにあたって、一つだけお願いしたいことがあります」
「ほう」
「あのわざマシンという道具の力を、この家の周囲に巡らせていただきたいのです」



失敗は許されない。
決して逃がすわけにはいかない。

挑むならば、後顧の憂いは可能な限り断っておかねばならない。




扉を開いた美遊の目に広がっていた光景。
家の周囲を取り囲むかのように覆った、大量の尖った岩。

その異常な光景に、一瞬目を疑うも即座に咄嗟に身構えた美遊。

「え、何これ…」

とその後ろで、開かれた扉の光景に思わずそう呟いたまどか。
扉を閉め、まどかに警戒を促そうとしたその瞬間、その後ろの窓から丸い球体が迫ってくる様子が美遊の目に届く。

「危ないっ!!」

咄嗟に床にまどかを押し倒したその瞬間、窓から飛び入った球体がまどかめがけて跳びかかり。
のみならず、玄関を、周囲の壁を打ち破り、大量の球体が降り注いだ。

「きゃっ…!?」

思わぬ事態に悲鳴を上げるまどか。
しかし美遊が床に押し倒したおかげでそれが彼女に直撃することはなかった。
まどかを庇った美遊には、いくつかの球が接触し、その小さな肉体に痣を作っていたが。

「み、美遊ちゃん?!大丈夫!?」
「…、平気、これくらいなんてことは――――」

心配するまどかにそう告げながらも顔を上げた美遊。

その目に映ったのは。
たった今襲いかかった浮遊する球体が、周囲を回りながら小さく光を発している様子。

『魔力反応――!!』
「っ――――」

サファイアが叫び、美遊が息を飲むとほぼ同時。
球体の放つ光は、鋭い刃へと形を変え、一斉に降り注いだ。






2階建ての鹿目邸の屋上。
白いスカートを静かにたなびかせながら、瞑想するように目を閉じ立つ少女が一人。

「手応えは無し…、どうやら防がれたようね」

鹿目邸の岩に大量の岩を配置した以上、正面から入るわけにはいかない。

この岩はステルスロックというらしい。
あの支給品のわざマシンの中に入っていたものの一つであり、サカキに頼み込んでニドキングに使わせてもらったものだ。
本来ならば空中に一定の間隔をおいて配置するものらしいが、それを今は目の前にあるように大量に浮遊させている。

こうして鋭い岩を家の周りに配置しておけば、鹿目まどかはこの家から出ることは叶わないだろう。
出ようとすれば、この岩が体を切り裂く。
まあ命がかかればそれでもこの中を通り抜けようとするだろうが、もしそうしたとしてもこちらでトドメを刺す隙くらいは作れる。

問題は、家の中に残ったもう一人の少女だったが。
もし鹿目まどか一人であるならば、この家ごと押しつぶすという手段を取ることもできたが、魔法少女、あるいはそれに近しい存在が近くにいるとなれば話は別だ。
力量が分からない以上、下手をうてば取り逃がす恐れもある。ここは慎重に行かなければいけない。

意識を集中させ、遠隔操作で内部に送り込んだ水晶に指示を送る。
家の中のどこにいるのかは大雑把には把握できているが、そこに精密な動作で水晶を繰ることまではできていない。
彼女の持つ能力はあくまで未来予知。千里眼ではないのだ。

刃へと変形させた水晶が射出されたのを感じ取ると同時、数秒遅れて爆発するよう指示を送る。

ドン!と派手な爆発音を立てる鹿目邸。
それと同時に、家の中から一つの水晶が、織莉子の元へと飛び出した。

勢い良く飛び出したそれは、織莉子のいた屋上の地面に、人一人通ることができるほどの大きさの穴を作る。
織莉子はその中へと飛び降りる。
ストン、と音を立て着地した場所は2階の廊下。

1階に向けて行った攻撃の影響は見られず、おそらくはそれまであっただろう綺麗な状態のまま。
階段に目を向けると、先の爆撃の影響か煙が立ち上っている。

カツ、カツ、カツ

まるでわざと存在をアピールするかのように、足音を立てながら階段を降る織莉子。

(この先に、鹿目まどかが―――)

もし先の爆撃で死んでいるのならそれで良し。
もし生きているのならトドメを刺す。

そして、もし彼女の同行者がそれを邪魔するというのならば、排除するだけ。


「っ…くっ…」
『美遊様、来ます!』

織莉子の想定としては比較的悪い結果がそこにはあった。

不思議な光をピラミッド状に張っていた、薄手の衣装に身を包んだ一人の少女の姿。
年は小学生くらいだろう。だがその子がただの小学生ではないことは、ソウルジェムの反応を見れば分かる。

「今、ここにいるのはあなた一人かしら?」

そして、鹿目まどかの姿がどこにもない。
水晶で攻撃を行う直前、たった一度だけこの家の中を視た織莉子はこの場に鹿目まどかがいたことを知っている。違う場所で死んだということは考えられない。

つまりはあの奇襲を防ぎ、鹿目まどかを逃した、ということだろう。

「はぁ…はぁ…、あなたは、何?」
「そこを退きなさい。そうすれば命までは取りません」

少女の問いかけにも答えず、1階に降り立った織莉子は足を進めながら警告する。
目の前の廊下で、織莉子の行く手を遮る少女に向かって。

しかし少女は退かない。
正義感か、それとも鹿目まどかに対する義理のようなものか。
おそらくは殺し合いに乗っていることはない様子だ。

織莉子は静かに、少女を観察する。
小柄な肉体を包んだ衣装は、よく見れば織莉子の攻撃の影響か若干煤けている。
しかしその目からは警戒心が、そしてその奥からは強い意志を見ることができる。

この少女も、おそらくはこの殺し合いを打倒しようと動いているのだろう。
きっと我欲にまみれた魔法少女ではなく、むしろ巴マミ達のような正しさを持っている。

ああ、だからこそ。

「―――悲しいものですね」

この少女は、きっと鹿目まどかがどういった存在なのか一切知ることなく、ただの少女と、一介の弱者と認識した上で守ろうとしているのだろう。

「何も知らずに、守ろうとするものが何なのか知ることなく」

それが、如何なる絶望をもたらすのかを知ることもなく。

「本当に、道化のような、哀れなお話」
「何を言ってるの…?!」
「知らないのであれば無理に知る必要はありません。
 あなたのすべきことは一つです。そこを退いて、静かにここを立ち去りなさい」
「断る…っ!」

言うや否や、少女はこちらへ向けてその手に持った小さな杖を振りぬく。
水色の魔法陣が輝き、先端に魔力の球を形成、こちらへと射出される。

なかなかの威力を持っているようで、直撃すれば無事で済むものではないだろう。
それも、当たればの話だが

浮遊する水晶を3つ繰り、魔力弾を迎撃するように配置する。
織莉子と少女の中間地点でぶつかり合ったそれらは爆発を起こし、周囲に魔力と煙をまき散らす。

視界が晴れない空間の中で周囲を警戒する少女。
しかし攻撃を警戒していたところで煙の中から突如目の前に現れた織莉子に驚き、攻撃を警戒するあまり咄嗟に飛び退いてしまう。

だが織莉子は少女を素通りして家の中へと進んでいこうとし。

「待て―――」

振り返って織莉子を呼び止めようとした少女。
しかしその手が織莉子に触れることはなかった。

『美遊様、危ない!』
「……!ガッ―――!」

気付いた時には遅い。
こちらへと振り向いた背後から3つの水晶が飛びかかり、彼女の首に、背中に打ち付けられた。

襲い来るそれに対処することもできず、3つの水晶の強打を受け、少女はこちらへと吹き飛ばされて倒れこむ。
威力としては魔法少女ならば死ぬほどではないが、しばらくは動けなくなるだろうと想定した威力で放ったもの。
少女は意識を失っただけであろうが、今はそれだけで十分だ。しばらくは動けないだろう。


これで、邪魔者はいなくなった。

「さて、どこへ行ったのやら…」

外はあの有り様。ここから逃げることは容易ではなく、もし抜けようとしたならさすがに気付くはず。
そして、少なくともここを通った形跡はない。
生きているならば、この奥にいるはずだ。

地に伏した少女を振り返ることもなく、織莉子はまどかを探して家の中へと入っていった。




誰もいないはずの居間。
ただそこにあるのは誰もいない、静寂に包まれた空間。

だが、もしここに超人的な感覚を持った、例えばオルフェノクのような存在がいれば気付いたかもしれない。
その中に、あるはずのない激しい息遣いが、小さく響いていることに。


(ハ、…ハ………、何で…、どうして…)

可能な限り音を立てることのないよう、呼吸音を控え口は手で抑えている。

今のまどかは、視覚による認識が困難である状態にあった。俗にいう透明人間のようなもの。

その頭に被った、布製の尖った帽子。
それは巨人キュクロプスによって作り出されたとされる、ギリシャ神話の神の一人ハデスの持つ武具。
名をハデスの隠れ兜という。

これを身につけた者は、視覚、魔術によってその姿を捉えることができない。
無論、これをずっと身に着けていれば誰にも発見されずに生き残ることが可能にもなる道具。
しかし制限により一度での使用時間は10分と定められておりその時間を過ぎれば一時間の感覚を空ける必要があるらしい。

だからまどかはこうして潜んでいる間にも、ここから逃げるべきかそれともじっとしてやり過ごすか迷っていた。
もし時間が経って使用時間が切れてしまえば逃げるのは難しくなる。しかし逃げるのにも音を立てずに移動する自信はない。
何より、今は美遊が戦っている。
なのに自分だけ逃げていいのかという思いも、まどかへの決断を遅れさせていた。

そうして息を殺すようにじっと潜むまどかの視界に、襲撃者であろう存在の姿が映る。

真っ白な衣装で体を包み、帽子を被った少女。年はまどかとそう違わないくらいだろうか。
周囲には幾つかの球体が浮遊しており、その胸にはパールのごとく光沢を放つ真っ白な宝石。

(…えっ?あれってもしかしてソウルジェム…?)

そしてその存在に気付いた時まどかの脳裏に一つの可能性が浮かぶ。
あの子はもしかしてキュウべえと契約した魔法少女なのではないか?
そう気付いた時思わず声をかけそうになってしまったが、かろうじて飲み込む。

その白い魔法少女が、敵意を隠すこともなく鋭い瞳で何かを探すように部屋を見回し始めたのだから。
ほんの一瞬、もしかすると話し合えるのではないかとも考えた思考を頭の奥に引っ込める。

魔法少女は静かに周囲を見回した後、諦めるようにため息をつく。
そしてまるで意識を集中させ黙祷するかのように目を閉じた。

何をしているのだろう、と思いながらもまどかはその場から動くことができない。
魔法少女は様々な能力を持っている。
まどかの知っている限りではリボンやマスケット銃、槍の生成、回復能力くらいしか知らないが、他にも多くの力があることくらいは分かる。

もし今何かしらの能力を使っているのだとすれば、下手に動くのはまずい、とまどかなりに考えていた。
そうして2分ほどの時間が経っただろうか。
白い魔砲少女は静かに部屋の中を見回し。

その中でほんの一瞬だが、目が合ったような気がした。

(…大丈夫、音は立ててない。バレてないはず…)

そして一通り部屋を見回した後、静かに入ってきた扉へと手をかけ、退出。
カツ、カツ、と靴音を立てながら、玄関の扉を開く音が届き。

追ってバタン、と扉を閉じる音が響いた。

出て行ったのだという事実に安心しつつ、それでも念を入れて静かに歩みを進めるまどか。
そして部屋を出ようとしたところで、隠れ兜の効力が消えた。
驚きはない。そろそろ使ってから10分は経つ頃だろうとは思っていた。あの魔法少女が出て行った以上役割は果たしたのだ。

美遊がどうなったのかも心配だ。もしものことがあったら……。
と、廊下に向かって顔を覗かせた。
その瞬間だった。

玄関のドアをぶち破る勢いで、何かが家の中に飛び込んできたのは。
見えたそれが何なのかを認識するより早く、まどかは思わず体を逸らしていた。

そのまま後ろに倒れこみながらも、部屋に飛び込んできた何かへ目を向ける。
それは白い魔法少女が操っていたと思われる、宝石のような球体。

「…わわ……!」

後ろに倒れた状態から体を起こしたまどか。
その目の前に。

「………………」

冷たい瞳をした白い魔法少女が、静かに殺気を放ちながら立っていた。





そう広い家でもない。隠れる場所は少なからず存在するとはいっても潜むには限度があるだろう。
だが家の中を片っ端から探すという手間をかけるより、織莉子はより確実な手段を選んだ。

家の中、それも1階に絞った範囲内でも未来予知だ。
己の中で、この結果に関わらず部屋の探索が終われば部屋を出ていこうということは決定していた。。
ならば、自分がここから出て行った後鹿目まどかはどう動くのか。
それを読んだのだ。

そして見えたのは、尖った布の帽子を被った鹿目まどかの姿が室内に唐突に現れる未来。
ここで無差別な攻撃を繰り返して引きずり出すよりは、自分が去って油断した、予知した未来通りに動くまどかを撃つ方が効率がよい。
そう考えた織莉子は敢えてまどかに背を向け、油断を誘ったのだ。


あの一撃を外すところまでは予知していなかったが、問題はない。
今の鹿目まどかを殺すことはそう難くはない。

恐怖を隠し切ることもなく、まどかは腰が引けたまま後ろに下がる。
その姿からは、世界を滅ぼす魔女を生み出し得るようには微塵も見えない。
何の力もない、ただ平穏を享受するだけの存在の動きだ。
一体どうしてそんな者に世界を滅ぼすほどの力が宿ったのか―――

(――いえ、関係ありませんね。そんなことは)

そう、今すべきなのはその力が花開く前に、その種を滅すること。
そのために、これまで多くのものを犠牲にし、切り捨ててきたのだから。

(キリカ、これで私達の戦いは終わる、世界を守れるのよ――――)

浮遊する球体に刃を生成。鹿目まどかを一息に貫く。それで全て終わる。
世界は救われる。

今度は、外さない。

そのまま、織莉子は静かに水晶を繰り、まどかへと投射した。
ほんの一瞬のはずが数秒にも凝縮されたように感じる時間の中で、水晶はまどかの体へと打ち付けられる。


はずだった。

「――――――斬撃(シュナイデン)!!!」

叫び声と共に斬撃が飛来。
まどかの目の前で、その体へと打ち付けられようとした水晶を切り裂いた。
編んでいた魔力の刃をその大本から切断されたそれは、刃を消滅させながら静かにまどかの膝の前に落ちた。

織莉子はそのまま振り返ることもせず、追って放たれた魔力弾を一歩退くことで回避。
その一瞬で、美遊は織莉子の前へと、まどかを庇うように立ち塞がった。


その瞬間、織莉子の前を横切った小さな影。
小さな子どもほどの大きさのそれに抱きかかえられ部屋の奥へと移動するまどか。


「…もう少し念入りに気絶させておくべきでしたね」
「み、美遊ちゃん?!」

そこにいたのは、先に織莉子が気絶させたはずの少女、美遊。
体の痛みに顔を歪めてはいるが、行動そのものには支障をきたすほどのダメージではなかった様子。

織莉子の放った攻撃は魔法少女の意識を奪うほどの威力は持った一撃だった。少なくとも数十分は意識を取り戻さないだろうと織莉子は見積もっていたし、だからこそ未来視に魔法を費やしもしなかった。
しかしそれを受けたのはAランクの魔術障壁、物理保護を持ったカレイドサファイア・美遊。
人間に与える耐久力にしては破格のものを持った彼女を同じ条件で長時間意識を奪うことはできなかったのだ。

「何故彼女を狙うの?」
「あら、どうしてそう思うのかしら?私が彼女を狙っていると」
「私にトドメを刺す隙はいくらでもあった。それでも殺さなかったのは、鹿目まどかを殺すことを優先していたから。違う?」
「どうかしらね。どちらにしても答える義理はありません」

静かに己の後ろを浮遊する水晶を飛ばす織莉子。

今度は不意打ちではないが、避ければまどかへと直撃する軌道、受け止めるしかないはずのもの。
威力も人ひとりを殺すには十分だろう。

しかし目の前の少女は手にした杖を前にかざすと、その前面にバリアのような透明な壁が出現。
織莉子の宝石を弾き飛ばした。

その結果自体はそう予想外だったわけではない。最初の攻撃も捌かれたのだ、想定内の数字になる。
今の一撃は、ただ目の前の少女の力量を少し測っただけだ。この少女を相手にすることにどれほどの魔力を割くべきかを推し量るために。

(少し手こずる存在かもしれませんね)

どうやらこの少女の能力は一つの力に特化したものではなく、様々な局面で形を変えられる、汎用性に富んだものである様子。
加えて魔力も低くはない。

「あなたもその力を得るために、キュウべえ―――白き獣と契約を交わしたのですか?」
「……違う、私はサファイアの力を借りて戦う術を得ているだけ」
『キュウべえとは…、あなたがもしかしてその魔法少女なる存在なのですか?』

問いかけに答えた美遊に続いて、その手の星形のステッキが声を発する。それが彼女の言うサファイアなる存在なのだろうか、と織莉子は推察する。

「ならばあなたには関わりはありません。しかしどうしても邪魔をするというのならば、あなたの命にも危険が及ぶことになります」
「だったら、どうして彼女の命を狙うの?その質問に答えて」

目標を前にしての障害。
若干の苛立ちを己の中に抑えこみつつも思考する。

目の前の少女から、如何にして隙を作り出すか。

「――――あなた、名前は?」
「…美遊。美遊・エーデルフェルト」

「美遊・エーデルフェルト。
 あなたには守りたい者は、愛する者はいますか?」

その質問の意図が分からなかったのか、僅かに美遊の瞳は疑問の色を映す。

「もしも、あなたの愛する世界が、絶対的な悪意と暴力に晒されようとしたとき、あなたはその力をもって戦うことができますか?」
「何を言ってる―――?」

危険は伴う行動だ。しかしあいつの気配はない。
やつがここを探し当てるより先に抹殺できればいい。

「もし一人の人間を犠牲にすることで世界を終末から救えるとすれば、あなたはどうしますか?」
「………」

沈黙。
意味が分からなかったのだろうと推測。
おそらく意味がなおのこと分からないのは鹿目まどかだろう。

本来ならば話すことでもないが、どうせその意味を知ることなどないだろう、と織莉子は口を開く。

「あなたが魔法少女のことを知っている、ということは巴マミ、あるいは暁美ほむら等との接触があったのでしょう」
「…えっ?」

おそらくは3人の魔法少女の名前を出したことが故だろう。まどかは怪訝そうな顔をした。
そういえばこの少女は暁美ほむらの友人だったな、などと思い出しつつ話を進める。

その時、美遊もまたまどかと同じように疑問を浮かべた表情をしていたことに、織莉子は気づかなかった。

「魔法少女、希望を対価に戦う定めを背負わされる者達。その魂は体より切り離され、輝く石となる。
 しかし、希望は魂が輝く間のみ色を成します。ならば魂が絶望に濁った時、一体何になると思いますか?」
「……魔女…」
「そこまで聞いていたということは、あなたの会った魔法少女というのは暁美ほむらかしら?
 そう、そして私は知っている。いずれ世界を最悪の魔女が滅ぼすという、絶望の未来を」
「……まさか、その魔女というのは」
「察しがいいわね、あなたの想像通りよ。鹿目まどか、彼女は世界を滅ぼす災厄なのよ」


白い魔法少女の言うことは、耳に入っては来ていたけど全然頭に入ってきませんでした。
いや、むしろ理解したくなかったのかもしれません。

どうして気付かなかったのだろう。

あの時キュウべえに言われた言葉が頭の中をよぎります。

――――まどか。いつか君は、最高の魔法少女になり、そして最悪の魔女になるだろう
――――その時僕らは、かつて無い程大量のエネルギーを手に入れるはずだ

最高の魔法少女になり、そして最悪の魔女になる。

それがどれほどのものなのか、全然理解していなかった。いや、理解したくなかったのかもしれません。
だって、知ってしまえば私の存在がどれほど世界を危ない目に合わせるのかを考えてしまう。
そうなれば、生きることなんてできないから。









美遊は驚きの顔で織莉子を見つめている。
当然だろう。今まで守ってきた少女が、世界を滅ぼす可能性を持った危険な存在だということなど想像もしていなかったに違いない。

「あなたにこの滅びを防ぐ道を邪魔させはしません。
 行く手を遮るもの全てを打ち砕いてでも、世界に光をもたらします――――!」

言うが早いか、織莉子は話していた最中に溜め込んでいた魔力を持って一気に水晶を形成。

それまでのものとは比べ物にならない大きさの巨大な宝石を、一斉に射出した。

「―――――グローリーコメット」

さながら流星群のごとく美遊へ、そしてまどかへと降り注ぐ。
四方から襲い来るその連撃を全て受け止めきることはできず、水晶は美遊の体を打ち据えていく。

「っ……!」


かなりの魔力を込めたはずだったがそれでもまどかの後ろまで吹き飛ぶ程度だったのは耐久力か、それとも彼女自身の力か。
しかしそこで逃がすべきまどかはというと、美遊が捌ききれなかった水晶を足に受けたようで、動きを大きく制限されているようだった。
その足では逃げることは叶うまい。

「世界を覆う絶望は、私が照らします」

そのまま織莉子は浮遊させた水晶を向けつつ、ゆっくりとまどかに近づいていく。

まどかはというと、顔を伏せたまま動こうとはしない。
美遊の反応より早く、その身を砕かんと水晶を射出しようとしたその時だった。

「もし私が死んだら……」

鹿目まどかは小さく、まるで問いかけるかのように口を開いた。

「世界は、救われるんですか…?その最悪の魔女とか、生まれることはなくなるんですか…?」
「………。ええ、その通りよ。絶望の闇が世界を覆うことは無くなります」
「そうなんだね…。じゃあ、いいよ……」

まどかはそう言ったきり、抵抗することもなく己の運命を、死の定めを受け入れた。
その聞き分けの良さに一瞬違和感を感じるも、抵抗しないのであればそれに越したことはない、と深く考えることもなく狙いを定める。

「美遊ちゃん、ごめんね。変な手間かけさせちゃって」

これで終わる。
キリカの死も無駄になることはない。
世界は、救済されるのだ。

「―――オラクルレイ」

織莉子は静かに呟き、宙に刃の生えた宝石を作り出す。

刃の降ろされるだろう射線上に、まどかは一歩踏みだそうとした。
その時だった。

――――ザッ

まどかの体が、何かに引っ張られるように後ろに下がる。
彼女にとっても思わぬ衝撃だったそれに抗うことなどできずに後ろに引き倒され尻もちをつくまどか。

結果、振り下ろされた刃は床に強く突き立っただけに終わる。

誰がまどかを引き倒したのか。
見るまでもない。この場でそれが可能な者は一人しかいないだろう。


「…………」

織莉子を見据えたまま、まどかの前に一歩進む美遊。

「…話は聞いていたでしょう?鹿目まどかの存在は世界に危険を及ぼす。
 義心や正義感、倫理観の問題ではないのですよ?」

織莉子の言葉にも怯むことなく、美遊は強い瞳で織莉子を睨みつける。
それはまどかを殺させるつもりはない、という意思表示だろう、と織莉子は感じ取った。

そして、次に織莉子の中に生まれた感情は、激しい怒りだった。

「あなたは私達の世界とは違う世界に生きている。だから分からないのです!
 最後の警告です。そこを退きなさい!
 元よりあなたとは大きな関わりのない存在、そうまでして守る理由なんてないでしょう!」
「―――断る」

怒りと苛立ちを美遊へとぶつけながらも最後の警告を行う織莉子。
しかし、美遊の返答はにべもなかった。

「確かに、彼女の生死もあなたの世界の危機というものも私には関わりのないこと。
 そんな私が、この人を守ろうとするのは無責任なのかもしれない」
「だったら――――」
「それでも!私はあなたのやり方は認めない!
 世界を守るために一人の人間を殺すなんて、そんなやり方は、絶対!」
『美遊…様?』

織莉子のあり方を認めないと断言する美遊の顔。
それは、契約後ずっと共にいたサファイアですらも見たことのない、美遊の一面だった。




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