believe

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believe ◆Z9iNYeY9a2



背負い切れるものは全部一人で背負えばいい。

背負いきれなくなったら切り離せばいい。

それが自分であっても。

これまでずっと、そうやって生きてきた。

だけど、そんな重荷を背負ってくれる人ができて。

少し肩の力が楽になった気がする。

同時に、きっと少しだけ弱くなっていたのかもしれない。

なら、弱くなった自分は、それを背負ってくれる人を失った時どう生きればいいのか。




夜の闇の中、幾重もの光が空を駆け巡る。

白刃のごとく天を走る馬の放つ魔力の輝き。
その背に淡い桃色の光を放ちながら、魔力弾を幾つも放つ少女の光。

ツヴァイフォームへの変化を果たしたイリヤの攻撃は、それまでの戦況を一変させるほどの能力を発揮するものだった。

それまでは元々の魔力行使力の低さもあって夢幻召喚をしてようやく攻撃が通じていた。
しかし今は、放つ弾が命中すれば神代の時代から語り継がれる神獣がバランスを崩して進行の軌道を乱す。
英霊の力を取り込んだ間桐桜ですらも直撃を避けるほどだった。

―――ですが、イリヤさん。気を付けてください。
この力は、あなたの体全てを擬似的に魔力回路へと変換して魔力を行使しているのです。長期戦となれば、イリヤさんの体が持たないでしょう。

それは変身直後にルビーに告げられた警告。

実際、攻撃をするたびに腕に痛みが走る。空を駆けるたびに背中に痛みが走る。防壁を張るたびに体の中に鋭い痛みが走った。

(――大丈夫、そこまで時間はかけないから)

それでもそう返答したイリヤ。
時間がないのは間桐桜とて同じだ。
切り結ぶたびに手が震えている。隠された瞳からは血涙が流れているのが見える。
彼女も長く戦うことはできないはずだ。それでも桜は無理をして戦おうとする。
その先に何があるのか。考えるまでもない。

つまりイリヤ達の勝利条件は一つだ。

(一刻も早く、あの人の力を抑える―――!!)

巨大な魔力の刃を突き出すイリヤ。
片手の干将で受け止めようとするが、あまりの出力に投影された剣は耐えきれず砕け散った。

桜は苛立ちに歯を食いしばりながらペガサスの背から跳び上がり、イリヤに向けて残った莫耶を振り下ろす。
ステッキで受け止め、弾き飛ばすイリヤ。

大きく後ろに飛ばされた桜、その体に向けてペガサスが飛来し再度桜の足場となる。
間髪入れず一斉に宙に向けて魔力弾を放つ。

天を高速で舞う天馬を追尾する球体。
ライダーは手綱を繰り、そのことごとくを避け切る。

操作しきれず幾つかの弾がぶつかり合って消滅、残ったものも魔力を失って消えるか飛ぶ浮力を喪失して地に堕ちていく。

全ての魔力弾の消滅を確認したライダーは、桜の意志に従うようにイリヤへと向けて肉薄。
高速で迫る光に射撃は間に合わないと見たイリヤはステッキに刃状の魔力を込め固定する。

すれ違い様に振り抜かれた莫耶と魔力の刃。

ぶつかり合った刃は衝撃波を生み、イリヤの体を後ろに吹き飛ばす。
ペガサスの姿勢制御により態勢を崩さずに済んだ桜は笑みを浮かべながら追撃をかけようとして、その手の剣が崩れ落ちるのを見て口元を歪める。

「…っ!!」

苛立ちのまま、おもむろに手を宙に差し出す桜。




「何だ?」

それまで地上でシャドウサーヴァントの軍勢と戦っていた巧は、突如挙動の変わった影に思わず警戒心を高めて様子を伺う。

シャドウサーヴァント達、ランサー、アサシン、セイバーは宙を見上げその手にしていた影の武器を投擲した。
イリヤに向けての援護、にしては投げた武器の勢いが小さい。

砲撃で撃ち落とそうとした巧に、背後からバーサーカーの振り下ろした斧剣が向けられる。
回避に意識を割かれて対処しかねたところで、それらの武器は桜の手元へと収まっていた。


英霊の手から離れて魔力を霧散させていく武器を手に収めて己の武器として存在を固定する桜。
漆黒の槍と刀を背に担いで手には西洋剣を構える。

と、その時桜の体が不意にぐらついた。
すぐに態勢を立て直したしその隙をイリヤは攻め込んだりはしなかったため戦況には影響しなかった。
しかしそれはイリヤとは別ベクトルで体、脳への負担に限界が近付いている証拠だということはイリヤにもすぐに分かった。

「桜さんは、あなたは、どうしたいの!?」

それでも止まらずにこちらに攻め込む桜に対し、イリヤはおもむろにそんなことを問いかけていた。
単身で飛び出し宙を舞いながらイリヤに上段から斬りかかる桜は、質問に対して逆に問い返してくる。

「どうしたいって、――何がですか!」
「生きたいのか、死にたいのか、許してほしいのか怒ってほしいのか!!
桜さん自身が何をしたいのか、どうしても分からない!」

イリヤの言葉には若干の嘘が混じっていた。
桜がどうしたのか、どうして欲しいのか。それはイリヤにも察することができていた。
端的に言ってしまえば、悪いことを続けた末に裁かれて死にたいのだと。

だから、これはイリヤ自身が桜に対し問いかけるきっかけとして言った言葉なのだとルビーは察していた。

問いかけても桜は止まらない。
地上のシャドウサーヴァント達も相変わらず巧を排除せんと動き続けている。


「分かっている、でしょう。私は死んでしまいたいんですよ!
先輩のいない世界で生きてる理由もないし、何より生きてることを私自身が許せない!!」
「藤村先生、のことだよね。
だけど、それでも士郎さんはあなたが死ぬこと、絶対望んでない!!」

イリヤがそう言う根拠は、一人の少女の存在だった。

士郎が死んだあの戦いの中で、もし彼に何も託すもの、悔いるものがなければ彼女を呪いから救いはしなかったはずだ。
そしてそれは、少女、セイバー自身からも託されたものだと聞いている。

きっと、桜が困難な状況に陥っても、自分が居なくなって絶望してしまっても。
それでも生きていて欲しいという士郎の願いが、最期にセイバーを倒すことではなく救うことを選ばせたのだと。
そう確信している。

叫びながらイリヤは切り結んだ桜の体を押し返す。
後ろに飛ばされた桜の体は、再度ライダーの天馬が受け止める。

「…随分と簡単に言ってくれますね。
私にとっては、自分を生かしてくれるのも殺してくれるのも、先輩がいてこそだったんですよ」

しかしそんなイリヤに言葉に、桜は苛立ちを募らせる。

西洋剣を片手持ちに変え、もう一方の手で長刀を持つ。
そのまま今度はペガサスの背に立った状態でイリヤへと迫った。

片手持ちになった分一撃一撃は軽くなったものの、手数が増えたことで攻撃回数が増し旋風のごとく振りかざす刃が迫った。
基となった騎士の技量も相まって受け止めきれず体に傷を作っていくイリヤ。

「あなたに!!分かるんですか!!!
真っ暗な絶望しかない中で、あの人だけが私の光だった!!
こんな血に濡れた手になった私を裁いてくれる、唯一の人だった!!」

振るわれる刃をイリヤもまた魔力刃で受け止め受け流す。
今のイリヤには決して捌ききれぬものではなかったが、桜の激情のこもった攻撃の中に返し切る隙を見いだせなかった。

「それを、いきなり横から出てきた人に奪われて、何も無くなって!!
そんな私の気持ちが!!
「分っかんないよ!!!」

両手で×状に斬り付けた刃をステッキの刃で受け止めて力いっぱい振り上げるイリヤ。
巨大な光が三日月状に宙を舞い、桜の手にした両手の刃が砕け散る。

追撃を受け止めるために背に担いだ槍を手にしようとした桜、しかし迫った追撃は刃ではなくイリヤの掌だった。
兜に覆われていない頬を張られ鋭い痛みが走る。

一瞬の思考の停止の後、何をされたか理解した桜は武器ではなく振り上げた拳をイリヤの左頬に叩き込んだ。

口の中が切れて血の味が広がる。それを吐き出しながらステッキを持った手を握りしめて叩き込むイリヤ。

「何も言ってくれなきゃ分かんないよ!!
桜さんがどれだけ辛いのかも、何でこんなことになってるのかも!!
士郎さんにばっかり全部押し付けて、ずっといつまでも一緒にいてくれるか分からないって思わなかったの!?」

イリヤの拳が桜の頬を打つ。
殴り返そうとした桜の腕を、イリヤは掴み取る。

英霊の力と膨大な魔力に強化された腕力が拮抗する。

「もしあなたが自分のことをちゃんと話して、助けてほしいって言えば、きっと助けてくれる人はいた!
凛さんもルヴィアさんも美遊も、巧さんも私も、士郎さんじゃなくても色んな人が手を差し伸べてくれたはず!!」
「っ…!!」

その言葉を受けて、桜の脳裏にいくつもの光景がよぎった。

ある日、先輩、衛宮士郎と共に学校で昼食を取りたいと思った時。
その場所を人のいない弓道場と定めて彼の意識をそこに誘導して、それを実行しようとした。
ただ、その時姉の呼び出しを受けていたらしく、そのままそこで昼食を取ってしまったらしい。

自分が作った料理ということを聞いて察した姉は自分に謝罪し、さらにそれを受けて先輩自身も謝ったが。

姉に嫉妬する気持ちもあったが、それ以上に大きな後悔もあった。
もし朝共に弁当を作っていた時に、はっきりと『一緒に昼食を食べたい』と言っていれば、こんな拗れたことにはならなかったのだと。

更に、それを思い返してもっと昔の記憶まで呼び起こされた。

幼い頃、間桐の家に引き取られ、鍛錬とは呼べない拷問のような魔術の訓練を行ってきた。
姉はいつか自分を助けに来てくれると信じていたが、そうなることはなかった。
やがて希望は諦めへと変わり、そんな苦痛の日々も当然のように受け入れて過ごしてきた。

だがもし、一言だけ。
どんなこともこなしてしまう、優秀なあの姉に助けを求める言葉を発していれば。

何かが変わったのだろうか。

そんな想像が。


「ぐっ……!」


一瞬浮かんだ考えを気の迷いと切り捨てるも、その間が隙となってしまう。
掴んだ腕を押し返され、叩きつけられた拳が体を打つ。

天馬ごと後ろに押しやられた桜は、背に担いだ槍を手に取った。




「ち、そろそろきっついな…」

一方地でシャドウサーヴァント達と戦っていた巧は、あまりのキリのなさに舌打ちをした。
もう何体倒したか、数えるのも止めていた。
あまりに攻撃を捌きすぎて相手の動きはもう見切ることができるようになっている。
問題は、倒すのに時間がかかりすぎてブラスターフォームへの変身に体が負荷を感じつつあることだったが。

マークネモとその後ろを飛ぶキャスターをフォトンブレイカーで切り裂く。
その後ろから差し込まれた槍を身を横に反らし、脇に挟んで抑える。
すかさず槍を掴んで放り投げるとランサーの体は走り寄るアサシンと衝突。
そのままブラッディキャノンをアサシン向けて放ち、ランサーを巻き込んで消滅させた。

体はかなり熱を持っている。だが空の様子を伺っているとまだ終わりそうにもない。
だが、桜の相手を頑張っているのは小さな少女なのだ。自分が弱音を吐くわけにはいかない。

(持ってくれよ…、俺の体…!)

自分の内で気合を入れ直し、すかさず振りかざされたセイバーの剣を受け止めた。



素早く突き出される槍の刺突を障壁で受け止め、後ろに下がったイリヤは宙を回りながら魔力弾を放つ。

不意打ちに近いカウンターの一撃、避けきれないと見たライダーが身を呈して受け止めた。
左腕が消滅し、手綱を操るバランスが崩れ飛行が若干精細さを失う。

地上の魔力の泥から離れているライダーは体を治す術がない。
更に桜の頭には血が上っており撤退を選ばない。

ライダーは眼帯を外し魔眼を開放する。

イリヤの体に強い重圧がかかる。膨大な魔力が石化を抑えてはいるが、接近戦は無理だと自己判断するイリヤ。

高く飛び上がりながら周囲に魔法陣を展開、かつてキャスターに受けたもののように一斉に砲撃を放つ。
ライダーは砲撃を回避していくが、片手では旋回能力が落ちているためか幾つもその体に着弾していく。

「っぅぅ!!鬱陶しい!!」

その身にも砲撃を受け、このままではジリ貧になると見た桜は槍を放り投げる。
突如飛来する槍に驚きつつもピラミッド型に張った障壁で弾いたイリヤ。

再度桜へと目を向けるとその手には影ではない、魔力でできているとはいえ確かに実体を持った剣を手にしている。
同時に地上では巨大な影が顕現していくのが見える。

『イリヤさん!あの剣は先程の宝具です!』

接近戦を避けるために砲撃を放つが、剣で弾いていく。
全弾弾かれ次の手を撃つ前に一気にこちらに迫ってくる。

斬りつけられた剣を受け止めたイリヤだったが、宝具相手に魔力の刃で受けきれず刃が砕けて後ろに追いやられる。
もう一撃来れば、魔眼の重圧もあって受け止めることはできないだろう。

「ルビー!もっと高出力で刃を!!」
『ちょっと待ってください!少しだけあっちからの攻撃を避けてください!』

あの剣も受けきれるような一撃の魔力。それを込める時間を稼ぐために空へと舞い上がるイリヤ。

天馬も追って追撃をかける。
逃げる背を斬りつけんと剣を振るう桜だったが、イリヤの体が左に急旋回し桜から見て左後ろへと逃げていく。

ライダーも追って手綱を繰るが、左腕を喪失した状態では思うように動かせない。
ロスタイムをかけながらも右腕でペガサスの頭の方向を変えさせた頃にはイリヤは上空へと飛び上がっていた。

やがて急停止した頃には、カレイドステッキには鋭く巨大な刃が輝いている。

「あなたがそんな考え方続けるっていうなら――」
「…!縛鎖全断・過……っ!!」

その一撃を受け止めるために剣の真名を叫ぼうとして。
瞬きをした瞬間視界が真っ赤に染まる。
瞳から流れ続けていた血が、ここに来て視界を塗りつぶした。
さらに視界の不調により体がバランスを崩す。
元々狂戦士のクラスで使うには適さない、無毀なる湖光を強引に攻撃宝具として使う絶技。
それは桜の体にも大きな負担をかけていた。
魔力での回復力で強引に誤魔化してきたが、二発目を打とうとしたところで隠しきれなくなっていた。

宝具開放が遅れる。
一方で相手の光はまっすぐにこちらに向けられている。

(間に、合わない…!!)


「――私がこれで、引っ叩いてあげるから!!」

振り下ろされたステッキから放たれた光は、一直線に桜へと飛来。

閃光が視界を包み込む。
膨大な魔力の熱が桜へと迫り来る。


その直前だった。
不意に体が足場を失い浮遊感に包まれたのは。

ペガサスの背中から体を突き飛ばしたライダーが、その光から庇うように桜と光に間に入り込んでいた。

(…ライダー……)

何も言わず、ただこちらの言うこと、願うことを淡々とこなしてくれた、自分のサーヴァントを模したもの。
不思議とその存在には、少しばかり信頼と安心感を覚えていた自分がいた。
今にして思えば、どうしてこんなに自分の言うことを、望むことをしっかりと付き合ってくれたのか。
結局それは分からないままだった。

それが、光の槍を受けてその身を消していく。
膨大な魔力で構成された天馬も、そこに騎乗したサーヴァントも、瞬きをした瞬間には消し飛んでいた。

後に残ったのは、一枚のカードだけ。

飛ぶ力を失った体は地面へと落ちていく。

(…負けちゃう、のかぁ……)

打つ手はない。
自分はあの少女に負けたのだ。

ここから地面に落ちれば、死ぬことができるのだろうか。
なら、もうそれでいいかもしれない。

諦めの感情に包まれた桜がふと上を見上げると、こちらに飛来する光が見えた。

桃色の光を放つ少女が、脇目も振らずにこちらに迫る。
必死に、その片手を伸ばしてこちらの手を取ろうと。

こんな自分でも、まだ助けようとしているのだ。
感情に任せて殺そうとした自分に対して、助けようと、手を伸ばそうとしたあの子。

それで負けたのだ。
きっと勝負にすらなっていなかったのかもしれない。

(悔しいなぁ)

自分なりに全力を出して、使えるものは全部使ったつもりで、それでも負けた。

そんな現状に、ある欲が湧き上がっていた。

自分が死ぬのは構わない。
だけど、あの子には負けたくない。

ふと、自分と共に堕ちていくカードが目に入った。

(もうちょっとだけ、力を貸してくれないかな、ライダー)

そんな祈るような気持ちで、カードに手を伸ばし。


「―――夢幻召喚」

呟いたその一言は。


おそらくはその場の誰もが。
イリヤも、巧も、桜自身も、そしてきっと、力を貸していたカードの英霊すらも。
誰しもが望まないものをこの場に呼び寄せた。




クラスカードの特性。

イリヤ達も多くは把握しきれていないが、その中の一つにカードの上書きというものがある。
上書き前に夢幻召喚を行っていた力は、その上から夢幻召喚された際には解除・排出される。

この会場でも自然にイリヤはそうやって力を使いこなしていた。
バーサーカーとの戦いでキャスターからアーチャーへと切り替えていたように。

桜が行ったものもそれと同じこと。
ただ一つ違ったのは、この時に上書きしたカードがバーサーカーのものであったこと。

バーサーカーのカードには一つの例外的な特性があった。
このクラスに上書きした場合、クラスとスキルを継承したまま、上書き後の英霊の力を使うことができる。

無論それは本人の意志で選択することができるものだが、この時の桜はそのようなことは把握していない。
ただ目の前にあった力を使うことのみを考えてカードの力を手に取った。

結果、カードには狂戦士と狂化の特性を保持したまま、夢幻召喚された。

さらにもう一つの要因。桜とライダーのカード、メドゥーサの英霊と相性が良すぎた。
それは力を手にした際に高いレベルで力を引き出すことができることを意味する。

狂化によるクラス変質、そしてあまりに強く引き出された英霊の力。

ゴルゴン三姉妹の末妹、その狂気に堕ちた姿。
真性の魔とも呼ぶべきものへと変わり果てた怪物が、その場に顕現した。



「えっ」
『魔力反応増大!これは…』

ルビーの警戒の言葉と共に飛行にブレーキをかけるイリヤ。

何が起きたのか分からない。

桜がいたはずの場所からは、膨大な魔力が吹き上がっている。
さっきまでの黒騎士の魔力とは比べ物にならないほど強大で、ドス黒いエネルギーを感じる。

下で黒い巨人を吹き飛ばした巧も、見上げた時のその異様な気配に思わず身動きを止めていた。

やがてその光の中から、巨大な紫の蛇が幾つも姿を表す。
一匹ではない、何匹も現れて宙のイリヤへと牙をむく。

一匹目、二匹目を回避、三匹目を障壁で弾き、四匹目を魔力の斬撃で切り裂く。
首元を切り裂かれた蛇は、しかし地に落ちるより早く元あった場所へと戻り修復していく。

やがて魔力の奥からそれらの蛇以上の蛇尾が姿を見せ。
先まで自分を襲っていた蛇の大元、巨大な女の顔が姿を見せる。

顔こそ間桐桜の面影を残してはいるが、その両眼は蛇の鱗を模したかのような紋様の眼帯で覆われている。
その髪の先は蛇となって蠢き吠えている。

背には巨大な黄金の翼を広げ、その胸部や腹部を覆っているのは先まで桜が操っていた泥と同じ色をした影。
そして足は無く、先に見た巨大な蛇の尾があるのみ。

全長をゆうに10メートルは越しているだろう姿をしたそれは、もはや自分が知っている英霊・メドゥーサのものではなかった。

『ギリシャ神話においてメドゥーサは、最期は英雄ペルセウスに討伐されたと言われていますが。
その時には人には見えぬおぞましい化物の姿をしていた、とか』
「まさか、桜さんはその化物に…」

バーサク・ライダー、メドゥーサ。
いや、その名はもはやこう呼ぶべきだろう。

ゴルゴーンの怪物と。





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