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マギアレコード「答えは心の中に」

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マギアレコード「答えは心の中に」 ◆Z9iNYeY9a2



利用価値を無くしたと見たNに対し、最後の猶予として自身の持つ道具を渡すように命じたゲーチス。
茫然自失として身動きを取れないNに変わってサザンドラの攻撃を捌く織莉子。

「渡さないというのであれば、仕方ありませんねぇ」

芝居がかったような口調で喋りながら、レバーとスイッチを操作する。
どちらにしても容赦するつもりはなかったのだろう。こちらの戦艦から放たれたミサイルが、モニターに映るアヴァロンに向けて飛んでいく。

向こうも対抗するために弾幕を張り光の障壁が直撃を止めている。
しかしどちらも動きが拙く、幾つかは艦体に命中し爆炎を上げていた。

攻撃が続くと今後の脱出に向けた行動に大きな支障が出かねない。

「N!しっかりしなさい!」

現状をどうにかするには彼に行動してもらう必要がある。
サザンドラがこちらに攻撃を集中しているのも彼が動かないとゲーチスが見越しているのだろう。

だが、すぐに動ける状況にあるとも思えなかった。

分かっている。今の彼は過去の、父や周囲の人間の信頼全てを失った時の自分のようなものだ。
細かい違いはあるだろうが、自分の信じていた理想を根底から裏切られたという点では似ている。

そして、だからこそ共感をしてしまっていた。戦闘中だということもあるがどう発破をかけるべきかが自分の経験からは浮かばなかった。

サザンドラの火が体を掠め衣装を焼く。
転じて水晶を放とうとしたところでゲーチスの手の銃がこちらに向けられていることに気付く。
こちらの威力が高いと判断し反撃から防御に転じて水晶をかざして防ぐ。
しかしサザンドラへの視線がそれ、体を竜の気が覆い尽くす。
全身に走った衝撃と痛みに膝をつく織莉子。

更に銃を織莉子に向けるゲーチス。

その時ゲーチスの腕に巻いている機器から不意に音が鳴り響いた。
何かの警告音のようなアラーム。


「どうしました、草加雅人。そちらの仕事は―――……。
まさか」

機器に口を近づけて何かを呟いたゲーチスの表情が変わった。

ドォォォン

更に追って、爆発音が鳴り戦艦内に大きな衝撃が走って足元を揺らした。


「チッ、サザンドラ!!大文字の後で炎に乗って波乗り!」

顔を顰めながらもゲーチスはサザンドラへと指示を投げる。
サザンドラの三つ首が炎を吹き大の字となって織莉子、Nの元へと迫る。
そこから少し遅れて、舞い上がった炎を煙幕のように巻き上げて押し付けてきた。

織莉子は手から放った光、マジカルシャインで大文字を抑える。
炎を止めきることはできなかったが、一瞬の隙をついて煙幕の向こうのサザンドラへと水晶を放った。

ギャッ、と悲鳴をあげて吹き飛ばされたサザンドラ。

炎と煙が収まり周囲を見回すと、そこにゲーチスはいなかった。

「逃げた…。追うわよ!しっかりしなさい!!」

Nの肩を叩いて発破をかけながらゲーチスが逃げたであろう方向へと駆け出す織莉子。
そこから一瞬遅れ、Nも織莉子を追って駆け出した。




「ポチャアアア!!」
「グルルルル」

艦橋を抜け出してきたゲーチスは、そことは別の大量の機材の置いてある部屋にたどり着き、怒りで壁を殴りつけた。

そこでは、ポッチャマが水を吐き出して周囲の機材を破壊していた。
勢いのある水に濡れた機械は内部をショートさせて爆発して動きを止めていった。

更に、そういった行動を止めるはずのゾロアークは、こちらへ向けて牙を剥いている。
周囲にある壁の傷や焦げた跡、それらを見るに少し前までは戦っていたのだろうということが分かる。
何がきっかけで戦闘を止めたのか。おそらくは腕の機器が鳴った時、イクスパンションスーツの通信機が電波の途絶を確認した瞬間だろう。
電波の途絶、それはスーツの機能が停止したことを示す。

草加雅人自身の生死は分からない。
だが向こうの艦内に送り込んだ草加雅人が敗れ、既に言うことを聞く状態ではないことは分かる。

そしてスーツの機能停止と同時に、ゾロアークのボールジャミング効果が切れ、このポッチャマの攻撃を許したのだろう。

水に濡れショートした機材は爆発し、この斑鳩の機能にも障害を与えている様子だ。
先まで大量に放っていたミサイルなどの弾幕も数を減らしているのが分かる。
鳴り響くブザーの音は航空制御にも支障をきたしているということだろう。

「グォォォォォォ!!」

だが呆けている時間はない。
正気に戻ったゾロアークがこちらへと牙を剥いて襲いかかる。

「サザンドラ、ゾロアークを抑えなさい!!」

飛びかかったゾロアークを、左右の頭で噛みつきその腕を押さえつけるサザンドラ。

その間にせめてもの苛立ちの発散も兼ねて、部屋の隅に倒れたアリスに銃を向ける。
見張りともしもの時にアリスを始末する役割を合わせてゾロアークの傍に置いていた人質。だがここにきてもうその存在は必要ない。こんな少女一人で戦局は変えられない。

引き金を引こうとした瞬間、室内に攻撃を続けていたポッチャマがその殺気に気付いたように振り返った。

「ポチャ!ポチャアアア!!!」

その口から放たれた光る泡の光線が銃を捉え、引き金の引かれた銃を弾き飛ばした。
アリスへの狙いは寸前で反れあらぬ方へと銃が発砲。浸水にも耐えていた機械の一つに被弾し、衝撃で限界を迎えたのか爆発を引き起こした。

部屋を転がる銃を拾いに行こうとしたゲーチス。しかし背後から迫る足音が近寄っていることに気付くと、銃を拾うのを諦めバッグに手を突っ込んだ。
アクロマからイクスパンションスーツを受け取った際に同時に渡された道具。
その手にした小さなシリンダーの中には紫色のガスが漂っている。

「ゲーチス!!」

追ってきた姿が廊下の角から見えた瞬間、そのシリンダーを部屋の奥へと投げつけた。
割れたガラスから漏れ出したガスは瞬く間に部屋の中を充満し、ゾロアークの姿を覆い、追って警戒して部屋の隅にアリスを守るように移動したポッチャマも包み込んだ。

奥へと逃げ出したゲーチスを追おうと走る二人。
その目の前に、二つの影が飛び出した。

「ゾロアーク、それにポッチャマ!?」

驚くNの前に立ちふさがったのは、眼光を光らせてこちらへ敵意を向ける2匹のポケモン。
混乱しているかのように正気を失っている。

だが、混乱と違いポケモン自身の声がNには聞こえなかった。
それでいてこちらへの敵意はあまりに鋭い。

「やめるんだ!!」

声を張り上げ制止するN。
だがその声が届かぬのかポッチャマは嘴での突きを、ゾロアークはその手の爪を振りかざす。

やむを得ずNはボールを取り出しリザードンを呼び出そうとしたところで、未来を見た織莉子が叫んだ。

「その煙から離れて!それを吸わせたら同じ状態になるわ!」

言葉に素早く反応し、大きく後退して煙の広がる範囲から離れるN。
そのままゾロアークの爪が目前まで迫ったところでリザードンをボールから呼び出した。

リザードンの手がゾロアークの体を押さえつける。
そのままリザードンが火炎放射を吐くと同時にゾロアークも口から炎を放射、ぶつかりあった炎の熱がガスを吹き飛ばす。

織莉子もポッチャマの嘴や放射される水を水晶で弾きながら捌く。
その水晶の一つがポッチャマの視覚外で鋭い光の刃を形成していた。

「?!」

リザードンとゾロアークの戦いに集中していたNは不意にその光景で意識を割かれる。
あれはポッチャマを止めるのみならず命を奪うための攻撃だ。

ゲーチスを追わねばならない現状であってもポケモンを可能な限り傷つけず助けようとするN。
対して織莉子はあくまでも効率を考え殺すことも視野に入れて動いている。

グレッグルのボールを取り出すが間に合わない。

せめて一瞬でも時間を稼ごうと叫ぼうとするNだが、意に介さないように織莉子は刃をポッチャマに向けて放ち。


ザクリ、と肉を切り裂く音が響き渡った。
吹き出した血が周囲の壁や床を塗らす。


「~~~~!!!~~~!!」

しかしポッチャマのうめき声は周囲に響いている。


「間に合った?」

そこには、青い髪の少女が右腕で織莉子の刃を、左手でポッチャマの回転しながら突っ込む嘴を押さえつけていた。

腕を払って水晶を飛ばし、空いた手でポッチャマの頭に作り出した剣の柄を叩きつけた。
意識を失って地に落ちるポッチャマの体を落ちる直前で抱きかかえる少女。

「君は、美樹さやかか?」
「ええ、向こうのアヴァロンから救援に来たの。あっちに来た刺客はこっちで対処したから」
「そうか…。だからゲーチスは」
「ゲーチスさんは、どっちに行ったの?」

ポッチャマを織莉子に渡しながら問うさやか。
右腕と左手に大きな傷を負っていたはずだが、完治したのか既に小さな跡一つ見当たらなくなっていた。


逃げた方を指し示すと、さやかは手に剣を作り揉み合って戦い続けるゾロアークに目をやる。

「分かった、私が対処しとくから、あんた達二人は早くアヴァロンに行って。外に魔力で道を作っといたから」
「待ってくれ。ボクも残る。ゲーチスにはまだ聞きたいこともあるし、ゾロアークはボクが助けたいんだ」

言葉の中に、ゾロアークにもさやかが対処するという意図を感じたNは、それでも自分の力で止めたいと言う。
非効率なのは分かっているが、ゾロアークの実力を一番把握しているのも自分だ。少なからず時間を取られてしまうだろう。
そして同時に、ゲーチスはNにとって父である存在。まだ確かめたいことは残っていた。

「なら織莉子だっけ。あんたは早くこの子を連れて向こうに行って」

アリスの体を抱えあげて織莉子に渡しながら言う。

「いいのかしら、私が向こうに行っても?あそこには、鹿目まどかもいるんでしょう?」

その体を背負いながらも問いかける。

美樹さやか。
その姿は知らないわけではない。織莉子が見た多くの光景の中で鹿目まどかの傍にあった。彼女も魔法少女だとは思わなかったが。
そして彼女の友人であった存在が今更自分のことを知らないとも思わなかった。

しかしここでするには少し意地の悪い問いかけでもあっただろう。

「そうね。正直あんたには色々言いたいこともあるし、ぶっちゃけもっと時間あったら殴りたい気持ちもあるわ。
だけどまどかが言うのよ。あんたは悪くない、だから恨んでいない、って。私やマミさん達と同じ、奇跡を信じた魔法少女だから、って。
だから今私にあんたをどうこうするなんてできないのよ」
「…私が向こうに戻って彼女を手にかけるかもしれないわよ?」
「もう、うるさい!!その辺は向こうにいるみんなに賭けて、もしそうなったらあんたを信じるって言ったまどかとそのまどかを信じた私を恨むわよ!!早く行け!!」

時間もないと、問いかけ続ける織莉子を急かすさやか。

数秒の沈黙の後、アリスとポッチャマを抱えた織莉子はさやかの示した方へと向けて早足で駆け出した。

振り返ってNの方を見るさやか。
未だにリザードンはゾロアークに手を焼いている。

「…こっちはボクの方で対処する。だから君は先にゲーチスの方に」
「なら私が」
「トモダチなんだ…、彼は」

絞り出した言葉には、さやかにゲーチスを託さねばならないことへの悔しさと、それでも見捨てられない存在であることへの葛藤。
何よりどうしても助けたいという感情が混じっていた。

Nとゾロアークの関係は分からないさやかにも、その言葉の中にある重さを感じ取らせた。

残るNに静かに背を向けて駆け出したさやか。


一人残ったNは、リザードンにゾロアークから距離を取るように指示する。
しかしゾロアークは一息もつかせないかのように迫りくる。

それを押さえつけているリザードン。
高い実力を持っている彼だが、いつまでも指示がない状態で持ちこたえることは厳しそうだ。だが無闇な攻撃指示を出せば状況を悪化させるかもしれない。
早く打開策を見つけなければならない。

呼びかけても通じない。声も聞こえない。
あるいはボールに戻せば、ダメだ、所在が不明。ゲーチスが持っていっているならばなおのこと不可能。
状態の解析、治癒。いや時間もかかるしそれだけゾロアークの負担が大きくなる。
時間経過による治癒。これも厳しいだろう。ゲーチスは抜け目がない。そうすぐに治癒できる状態のポケモンでは時間稼ぎにはならない。

「……ボールに回収…?」

ふとNの脳裏に一つの可能性が浮かんだ。
バッグに手を突っ込み一つのボールを取り出す。

スナッチボール。他者のポケモンを奪うことができるという改造モンスターボール。

その存在の危険性を危惧してこの手に収め決して外に出さないようにしていたボール。

(これを使えば…、ゾロアークを…)

ボールの所有権を奪うことができるならば、この手に彼を保護することも可能なはず。

「リザードン頼む!ゾロアークを可能な限り弱らせてくれ!」

保護という名目の上でも、友に攻撃を加えることに抵抗がないはずがなかった。
それでもこれしかないと締め付ける心に耐えて、リザードンに指示を出す。

受け取ったリザードンは首を縦に振り、掴みかかっていたゾロアークを投げ飛ばした。
さらに起き上がるよりも早くリザードンは翼を輝かせ倒れた体へと叩きつける。
床をバウンドして転んでいくゾロアーク。その痛々しい姿にNは唇を噛む。

起き上がったゾロアークはすかさずその手に気のような力を集めた気合玉を放出。
対するリザードンも口から龍の怒りを放ち迎え撃った。

宙で爆発、巻き上がった気が視界を塞ぐ。

次の攻撃を警戒し構えるリザードンの体が、不意に吹き飛ぶ。
壁に叩きつけられ膝をつくリザードン、その体には鋭い爪の跡。

イリュージョンによる幻影で周囲の景色から自分の姿を消したのだと悟り。
殺気を感じて身を屈めると頭上を風が駆け抜けていった。

(ゾロアーク…!イリュージョンをこんな使い方で…!)

厄介な状態に周囲を見張るN。
その時バッグの中のボールから光が飛び出す。

「グレッグル?!」

現れたグレッグルはNに振り向いて親指を立てる。

何もない空間に不意に腕を突き出したグレッグル。
その瞬間、鳴き声と共に景色が歪み、地面を転がるゾロアークの姿が映った。

「そうか、危険予知か!」
「グィッ」

グレッグルの意図を悟ったN。

間髪入れずゾロアークは周囲の景色を更に歪めた。

周囲を見回すNとリザードン。しかしグレッグルは冷静に静寂を保っている。
グレッグルは次の一撃で決めろと言っている。言葉を発さずともその背中が語っているようだった。

そう、言葉などなくとも、通じ合うことはできる。
だからこそ、今のゾロアークは通じ合うための意識すらも奪われていることが分かる。

(ゾロアーク、今助ける―――)

景色の中で空気が張り詰め。

グレッグルの体がビクリと動く。

「グレッグル、瓦割りだ!!」

その体をぐるりと回転させて、背後に腕を伸ばす。
勢いよく叩きつけられた拳は、後ろで爪を研ぎ襲いかかったゾロアークへと直撃。
その身をくの字に折り曲げながら飛ばされていく。

「グ、ギャア」

悲鳴を上げたゾロアーク。
受けたダメージが蓄積しているようで、起き上がるのも一苦労の様子だ。

「頼む、モンスターボール…!」

ゾロアークに向けて、スナッチボールを投げつける。

ボールが着弾すると同時に体が光に包まれて小さな球体の中へと収まっていく。
ゆらり、ゆらりと数度揺れた後、やがて沈むような音と共に静止し動かなくなった。

静かにボールを拾い上げるN。

スナッチボールという兵器にも近いものを使ってしまった事実への悔恨と、それ以上の友を助けられたことに対する安堵。
しかし休んでいる暇はない。

と、Nが気を取り直したところで戦艦内から激しい音が響き渡った。

衝撃に揺れる地面。
倒れそうになる体を支えながらもリザードンとグレッグルをボールに戻し、ゲーチスの去った方へと向けて走り出した。




さやかの作った音符の道を辿ってアヴァロンへと帰還した織莉子。
その道中で目にしたのは、二人の男の亡骸。

上半身と下半身を分けられた男と、背と壁を真っ赤に染めて地面に倒れ込んだ男。
後者は知っている。あの時自分に死人を出さない方向で手を貸したいと言っていた名探偵を名乗った者、Lだった。

一瞥した織莉子は、それ以上振り返ることもなく皆がいるであろう場所、艦橋へと向かい、たどり着いた。

「戻ったか!」

そこには、機械に張り付いて必死に手を動かしている男と、その近くで男の出す指示に従ってあくせくと動いている鹿目まどかの姿があった。

「あなたは――」
「悪い、自己紹介とかは後だ、今は手を貸してくれ!」

焦りながらも助けを求める男。
同時に警告のようなブザー音が鳴り始めた。

「まどか、そこの機関砲の制御を頼む!」
「はい!」

まどかは走って指示された箇所を操作する。
接近したミサイルが、戦艦の弾幕に防がれて爆散していく。

この広い場所で、二人で武装制御をして攻撃を防いでいる。
確かに手は必要だろう。

「くそ、Lはまだ戻らないのか…!!」

思わずぼやいたのだろう声が聞こえた。

「―――」

もしかして知らないのだろうか。

「あなた、Lは――」
「織莉子さんっ!!」

思わずびくりと肩を震わせてしまった。

見ると、まどかが小さく首を横に振った。
その瞳には、かすかにだが涙が滲んでいるのが見える。

今は黙っていろと、そういうことなのだろうと悟った。

アリスとポッチャマを寝かせ、まどかの動かしている場所の反対側の席につく。

指示に従い手を動かしながらも、頭の中ではずっと別のことを考えていた。

もし今ここで指示に反して攻撃を通してしまったらどうなるだろう?
艦は落ちてきっと自分は死ぬだろうが、鹿目まどかも命を落とす。
簡単、といっていいのかは分からないが、少なくともこれまで色々と策を練ってきたことに対したら易しいことだ。護り手である暁美ほむらもいない。

考えだけはいくつも浮かんでくる。なのに、実際に行動に移そうという気にはなれなかった。

小さな犠牲も許さないと立ち塞がってきた者がいて。
非情に徹して生きようとした自分を止めようとした者がいて。
大切なものを傷つけた人を赦しはしなくても信じることを迷いなく選んだ者がいて。

その中心にいるのが、この少女だった。

暁美ほむらのような異端者でなくとも、多くの人が彼女を守ろうとしている。
それは倫理とか道徳とか、そんな一般的なものだけではない。鹿目まどか自身の持つ人柄なのだろう。

ともすれば危険とも思えるものでもあるが、普通に生きていくだけならばそれは大きな魅力たりえるものだ。
そう、魔女にさえならないのであれば。

なんて。


(なぜ私はそんなことを考えているのかしら)

彼女の人柄についてはずっと考えないようにしていた。
気にしてしまえば、きっと覚悟が鈍るから。

だけど、彼女の友であった美樹さやかを見た時。彼女の鹿目まどかに対する信頼を見た時。
これが友達というものなのだろうななんて無意識に考えていた。

自分は、キリカにとって良き友でいられたのか。
あの斑鳩の中での思考を思い返して気付かされた。自分には必要とあればどんな人物でも切り捨てることができる非情な心を持っている。
それはキリカとて例外ではなかった。

きっとこれは、まどかに対する強い劣等感を感じているのだろう。
随分と人間らしい心が自分の中に残っていたものだと自嘲した。

意識を現実に戻した瞬間、防ぎきれなかったミサイルが艦に着弾した衝撃で空間が揺れるのを感じた。

振動でまどかが地面に倒れ込む。

「痛っ…」

足をぶつけたようで、膝を赤く腫らしている。
さっきの攻撃を防いでしばらく攻撃が収まっているのを見た織莉子は、席を立ってまどかの近くに歩み寄って手を差し出した。

「織莉子さん…、ありがとう…」
「ありがとう、ね。あなたは、自分を殺そうとした相手にもそんな言葉が言えるのね」

一瞬遠い目をして、織莉子は続けて問いかけた。

「私にとって、世界はずっと灰色だった。
そんな世界でも、救うことが私の使命だと思ったからどんな犠牲を積み上げても戦ってきた。
ねえ、鹿目まどか。あなたにとって、世界ってどんな色なの?」

唐突な質問に一瞬きょとんとするまどかは、少し考えて、口を開いた。

「色、ってのは分からないけど。 
私がいて、家族や友達や、色んな人がいて、いつだってみんなが楽しく笑っていられるような。
そんな場所であってほしいって思うし、そんな世界が素敵だって思います」
「……」

その言葉に、ほんの一瞬瞳を閉じて何かを考えて。

「そう、きっとそれは素敵なことでしょうね」

少しだけ微笑んだような気がした。


「…んっ、…ここは…」

そんな会話が終わったところで、さっきの衝撃が響いたのか眠っていたアリスが目を覚ます。

「アリスちゃん!」
「ここは…、あ、そっか、アヴァロンの中…」
「目を覚ましたんだったら話は早い。
寝起き早々で悪いが、さっき艦に着弾した場所の様子、ちょっと見てきてくれないか。
今は攻撃が収まっているから、今のうちに状況を把握しておきたいんだ」

と、艦の状態把握を依頼されたアリス。
混乱しつつも立ち上がろうとしたアリスの肩を、織莉子がポンと叩き。

静かに艦橋を出ていった。

首をかしげながらも、こっちでの作業を任されたのだろうと思ったアリスは立ち上がって織莉子がいた席へと座り作業を始めた。




静かに斑鳩の艦橋に戻りパネルに手を添えているゲーチス。
その後ろを、一つの足音が近づいてきた。

入り口に響いた足音に向けて振り返ったゲーチスは、目の前にいた人物に一瞬目を見開いて。

「なるほど、忌々しいものですね、本当に。
まさかあなたがここに来るとは」
「ゲーチスさん、もう終わりです」

追いついたさやかは剣を向ける。

「あっちに来た草加さんは私が倒しました。
もう残ってるのはゲーチスさん、あなただけです」
「ほう、あなたが彼を倒した、つまり殺したと!」

駒を削られた苛立ちを抑え、さやかの心を揺さぶり隙を作らんと叫ぶ。

「つまりあなたもめでたく殺人者の仲間入りを果たしたというわけですか!」
「そうよ」

しかし返ってきた肯定の言葉には一切の迷いがなかった。

「杏子も殺した。村上さんも殺した。草加さんも、私がこの手で。
その罪から逃げるのはもう止めたんです。
守りたいものを守るために、その責任からも罪からも絶対に逃げないって」
「チッ」

揺さぶりに一切の効果がないと知ったゲーチスは舌打ちをして苛立ちを更に募らせた。

「忌々しい、ああ、忌々しい!!
私の計画を邪魔した少年、私の体に傷をつけた小娘!
いつだって貴様達のような子供が私の前に立ちふさがる!」

喚き散らすその姿には、今まで自分が見せられていた冷静で紳士的な口調で話すゲーチスはどこにもなかった。
今までの姿が仮面だったのだろうとさやかは悟る。

「何で、そんな人を傷付けるようなことしかできないんですか!
それだけ頭が回るなら、もっといいこともたくさんできるでしょう!」「だからあなたは小娘なのですよ!
私自身の力だ、より強く、より高みへと昇って自分の望む世界を作り出したい、それは当然のことでしょう!
私に従わないものも、私より強い力を持っているものも、皆邪魔なのです!」

モンスターボールを取り出しサザンドラを呼び出そうとするゲーチス。
しかしさやかは向けた手の剣の刀身を射出。ボールに当てて弾き飛ばした。

「ぐぅっ…」

ゲーチスは呻きながら衝撃で痺れる手を抑える。
ボールは手に届く場所にない。手元に銃はあるが、別に慣れた武器というわけでもないしこの化け物には通じるとも思いづらい。

だが、と表示されたパネルの画面に目をやる。

「降伏してください。命までは取らないです」
「ふ、ふふ」

さやかの言葉に対して、不気味に笑うゲーチスは。

「そうですね、私の負けだ。
ですが、ただでは負けません。私に屈辱を味あわせてくれたお礼はしっかりとさせてもらいます」

パネルを操作して何かを起動させた。

戦艦から巨大な音が響く。
ふと眼前のモニターに目をやると、艦の前面が開いている。

モニターの横には文字が映っている。

Hadron Braster・Fire

文字の意味は分からないが、それが何かの攻撃を行おうとしていることは察せられた。
この局面で行おうとしている攻撃がどんなものか。

「ゲーチスさんっ!!」
「ははは、いいですね!!その顔だ!!
もっと絶望した顔を見せてくださいよ美樹さやか!!」
「ゲーチスっ!!!」

笑いながら拳銃を向けてきたゲーチスにさやかは一気に迫り。
銃に胸が撃たれることにも怯まず突撃をかけ、手にした剣で一気にその体を貫いた。

勢いは止まらずゲーチスの体を操作パネルの傍に縫い付けにし。
パネルに手をやったさやかだったが間に合わないと察する。

「みんな逃げて!!!まどか!!!!!」

思わず、眼前で放たれた赤き熱線の射線上にいる戦艦に向けて叫んでいた。




アヴァロン艦内。
目前の斑鳩の前面が機動し、艦内で警告のようなブザーが鳴り始めた。

「何だあれは?」

身構える月に対して、アリスの顔色が変わった。

「まずい、戦艦の主砲が来る!!
ブレイズルミナスのエネルギーを艦体前面に集中させて!!」

その声に、急ぎ月はアヴァロンの前に障壁を展開させる。
それでもこの中で一応最も艦内の単語の意味に詳しいアリスには、眼前に展開された障壁では防ぎきれないだろうということは見えていた。

(ザ・スピードで脱出――ダメ、人数が多い…!)

ギアスでの退艦を考えたアリスだが、高度があまりに高く、自分一人でも賭けだ。複数人を連れての脱出など自殺に近い。

打開の手段をそれ以上考える間もなく。
逃げ場のない一同のいる場所へと向けて、赤き2本の熱線が放出された。




そこまで、自分が見た未来と一致する。
そしてこの障壁でも耐えきれないだろう。

この先の未来の形は織莉子には二つ見えていた。

一つ。障壁を破られ熱線は艦橋を直撃。中の皆は命を落とし艦も墜落する。
一つ。障壁は破られるもかろうじて熱線が届くことなく艦はそのまま空を飛び続ける。

その分岐点にいるのが自分だ。

どちらを選んでも、自分は命を落とす。
自分だけ逃げるという選択肢は有り得ない。もし自分が多くの人を見捨てて自分の命に拘れるような人間なら、こんな難儀な人生は歩んでこなかっただろう。

ならば多くの人が助かる選択肢を選ぶのは自明の理。
どんなものでも切り捨てる覚悟は、時として自分の命も秤にかけさせるのだから。

ただ、そこにこれまでの自分としてではない、少しでも変わりたいと願う自分もいたことは事実だった。
鹿目まどかに対する僅かな問答。あれをもって自分の中で一つの答え――、とは言わなくてもきっかけが欲しかった。

守らねばならないもの、ではなく守りたいもの。
自身を縛る鎖ではなく、胸から出るような想いから来る願いで。

熱線が放出され障壁を破るより前に、多数生み出した水晶を展開、回転させその間にマジカルシャインの光を乱反射させる。
それで大きな光の盾ができる。

何故だろうか。
見える未来にはこのようなものでは守りきれないと出ている。そして自分も死ぬだろうということも。
なのに、この艦に乗る皆の無事が見える。

その未来は見間違いか、それとも起こり得る事象か。
おそらくは起こる未来でもあるし、起こらない未来でもある。
全ては自分にかかっているのだ。

こんな自分にできるのか。
違う、自分にしかできないのだ。


鹿目まどかは、果たして世界を滅ぼすのだろうか。
魔女にならない限りは有り得ないことだ。では、彼女は魔女になるのか。
もうその未来は見えない。色んな可能性が混じり合っておりどこにたどり着くのかも曖昧だ。
なら、悪い未来を潰すのではなく、良い未来の可能性を信じよう。
今の自分は、そうしたいと思っている。

光が視界を包む。
轟音が響き、赤い熱が障壁をぶち破った。

魔力を込めていた全身の負荷が一気に吹き出す。
意識が飛びそうな状況の中で、それでもと魔力を込めて壁を維持し続ける。

だけど2秒しか保たない。
その未来は変わらなかった。

―――ねえ、●●●

ソウルジェムが消耗に耐えきれず黒く濁り切り。

―――次は、もし次があったら、私もあなたと、彼女たちみたいな友人に、なれるかしら?

パキリ、と割れた。




逃げようとしたアリスは一瞬の遅れで逃げ損ね。
しかし不意に感じ取ったのは強い魔力の反応。

ブレイズルミナスを破ったハドロン砲を、巨大な光の壁が遮っている。
だがそれもほんの数秒で消し飛んでいく。

壁を作り出している者が誰なのかを察する暇もなく衝撃と共にせめて逃げ出せるようにと構えていたアリス。

その時だった。
モニタを大きな影が覆って、光を遮った。

そこに膨大な魔力が吹き上がっているのを感じた。

「えっ…」

まどかも月も、逃げることを忘れてその光景を見守っている。

やがて、巨大な爆発音と共に影は晴れ、外の光景が見えるようになった。

艦の正面の縁辺りに、白い何かがへばりついている。

巨大なドレスのスカートのようなもの。よく見ると、その下にはたくさんの人形の手のようなものがある。
スカート、つまり下半身だが、上半身にあたるような場所は見えない。
だがその中心部が大きくえぐれている。

これは何なのか。

やがて、力尽きたように動かなくなったその物体は、静かに光になって消えていく。

そこに残ったのは、小さな石。
グリーフシードだった。

「織莉子…さん…?」
「…っ!」

月が急ぎモニタを切り替える。
しかし艦付近に人影はない。

ふと、宙にヒラリと舞う何かが見えた。
それは織莉子の纏っていたドレスの欠片。端々は黒く焦げており、先の物体と同じようにふわりと消滅した。

場にいた一同、特にまどかとアリスは悟った。
先の影は、織莉子の魔女化したものであり。

彼女はその身を賭して、この艦にいる皆を守り抜いたのだと。

あれが魔女としては偶発的だったのか、それとも明確な意志を持って立ち塞がったのかは分からない。

だけど、"美国織莉子"は確かに、この艦を守ったのだと。


【美国織莉子@魔法少女おりこ☆マギカ 死亡】
【ゲーチス@ポケットモンスター(ゲーム) 死亡】



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