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シンセカイ

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シンセカイ ◆Z9iNYeY9a2


小さな頃の記憶。

幼い私は、ただ親の期待に答えることに必死だった。
学業を進め、喜ぶ親の姿を見る。いや、本当に親は喜んでくれていたか。優秀な子供が当然と思っていなかったか。

今となっては思い出せない。
覚えているのは、そうやって努力を続け、どこか疲れてしまった自分がいたということ。

やがて機械を弄ることに楽しさを見出した。
機械はよかった。0か1か、有か無か。そこにあるのは明確な2択だけ。
ただ自分の知識さえあれば動いてくれる、自分が疲弊していた親の期待などのような曖昧なものも挟まれていない美しい存在。

そんなある時、彼と出会った。
機械の中に入り込むポケモン。
機械と戯れてばかりで人間はおろかポケモンともあまり付き合うことのなかった自分にとって、初めての出会いだったと思う。

色んな機械に入り込むポケモンに心を奪われ、そんな彼も私を見るたびに嬉しそうだった。
心と心が通じ合っていたと思う。

だが、ある時を境に彼と会うことは叶わなくなった。

出会いが初めてであれば、別れも初めてだった。


「…、どういうつもりだ?殺し合いの主催者が気まぐれで助けようっていうのか?」
「何だ、元に戻してやった方がよかったか?ただし戻るのであれば元いた場所の、地面に叩きつけられるまでの空中に戻すことになるが」

熱を受けた体が発する痛みを堪えながらも、弱みを見せぬように強がるように言う月。
そんな言葉にもただ淡々と受け答えるアカギ。

「助けるつもりなどない。話が終われば元の場所に戻すだけだ。
 だがここに来たのがお前であることも何かの因果かと思った、それだけだ」
「………いいだろう」

月としても既に死ぬはずだったところで命を掬われた形だ。
せめて短い時間でも足掻いてみよう。叶うならば、スザク達他の皆の助けになる何かができるならば。

そう考え、アカギの言葉に応じる。

「私の願いはもう知っているのだろう。天才と謳われたお前の頭脳のことだ。
 新世界の神。私の目指すものだ」
「…そうか」
「お前が目指したものも新世界の神なのだろう」

アカギとしてはいち参加者に逐一興味があるわけではない。しかしエデンバイタルを通じて得た知識程度はある。
各々の世界のこと、参加者についての基本的な情報。その程度は網羅している。

そして、目の前にいる男が己の知恵と神の道具ともいえるもので世界を変えようとした者であることも。

「世界を変えた者として、神として世界に君臨したお前なら私の考えも理解できるはずだと」
「お前の…、考えが?」
「ああ。世界には無駄なものが多すぎる。その中でも感情というものは世界の美しさを失わせる最も不要なものだ」

手を宙にかざしながら話すアカギ。

「お前の世界とてそうだっただろう?
 人間の愚かな欲、それを御すこともできぬ法、そういった不完全なものに絶望した。だからお前は世界の在り方を変え神となろうとした。違うか?」
「………」

そんな大層なものじゃない。
今ならそう言えるがかつての自分がどうだったか、それを否定しきれたか。
月には分からなかった。

「ある意味ではお前の望む世界でもあるのではないか?
 静寂で完璧な世界。不完全なものは存在しない美しい世界。
 お前の望む人々の罪の存在しない世界でもある」

意図したものなのかそうでないのか。
どこか見透かされたようにも感じた言葉だった。

「…それを言ってどうするんだ?」
「今のお前に対してどうしようということもない。
 だが共感できるのではないかと思っただけだ。お前なら理解できるのではないかとな」

今の自分にできることは何だろうか。
会話を聞きながらも月はひたすら頭を回転させていた。

自分の武器は頭脳であり、それを出力した言葉だ。
せめてアカギの心を探ることができれば―――

――何故アカギがこの殺し合いを行ったのか

ふと月の脳内にLとの会話が浮かび上がってきた。

アカギが殺し合いをした理由を少しの間推理したあの時間。
あの時は殺し合いという儀式を選んだ理由を話し合っていた。あの場にあった材料で考えることができたのがそれだったからだ。

だが、今なら。
アカギの心からその動機を読み解くこともできるのではないか?

「どうした?お前の意見を聞かせてみろ」
「…あんたは、俺とあんたが似ているって言ってたな」

どこを似ていると思ったのかは分からない。
新世界の神になろうとしたことか。世界の理を越えた力をもって世界を都合よく変えようとしたことか。

「だったら、聞かせてくれ。あんたは何故、世界を変えようと思ったんだ?」
「言っただろう、世界が不完全だと」
「違う、もっと根本的な、何故そんなに不完全な心を憎むようになったのかだ」

ただ世界を変えて自分の罪を打ち消してしまおうとした自分のように。
そう思うようになった何かがあるはず。

正直この問いかけはカマかけに近かった。
確信はなく、推測の中から証拠を手繰り寄せるためのもの。

アカギの表情は変わらなかった。
ただ、ずっとその顔を注視していた月はその視線が一瞬だけ逸れたのを見逃さなかった。

アカギの回答はない。
だからこそ更に踏み込むべきだと感じた月は畳み掛ける。

「俺は自分の罪を消し去りたくて世界を作り変えようとした。
 だけどそれはただ自分の過ちを認める強さがなかった、だからこそあんなにも間違いを続けてしまったんだ」
「己の不完全さを認めるというのだな」
「ああ、不完全だ。だけどそれはあんたも同じはずだ」
「そう、不完全だ。だからこそ世界を作り変える必要があると言っている」
「違う。あなたはその自分の弱さと向き合っていない。逃げようとしているだけだ
 かつての俺と同じ、逃げるために世界を変えようとしている」

アカギの目に嫌悪の色が宿る。
それはかつて夜神総一郎から逃げ出した時に鏡で見えた自分のそれと同じものに見えた。
だからこそ確信する。アカギは何かあった自身の過去の記憶を克服できないからこそ、こんなことを行っているのだと。

同時に、月は死の気配を明確に感じ取った。
似ているからこそ分かる。きっと自分の言葉はアカギの逆鱗に触れている。

だけど、それでも止めることはない。

もし自分の考えが正しく、そしてアカギの心に少しでも楔が打ち込めるなら。
あとはきっと、いずれこの場に辿り着くだろう誰かがその先を成し遂げてくれるかもしれない。

今戦っているだろう者たちの中には、咎人である自分や間桐桜も救おうとした者がいたのだから。


「だから神なんかじゃない。俺もあなたも。
 ただの小さなエゴイストってだけの、一人の人間だ」
「黙れ」

アカギと自分は、確かに似ているのかもしれない。
一人で全てを背負い込み、神のごとき力を得ることで世界を思いの儘にしようとした者として。

そう感じた時、目の前の男が理解不能な怪物ではなく、ただ小さな一人の人間に見えるようになってきた。

だからこそ、今の自分になら分かる。

「もし、あなたが一人で全てを背負いどうにかしようとするなら。
 きっと同じく多くのものを背負って手を取り力をあわせた人に負けるだろう」

例えどんな天才でも、一人は目的のため力を合わせた多くに勝つことは難しい。
自分が信じられる者がいない状況の中で、ニアとメロ、対策本部の人間達に負けた自分のように。
多くの犠牲を払いながらもゲーチスの悪辣な殺戮を皆で食い止めたあの時のように。

全く、頭のいい考え方ではない。かつての自分ならこんな考え方はしなかったはずだ。
きっとLやスザク、皆のせいだ。だが悪い気はしなかった。

だから。
振り返ったアカギの、憎悪の込められた視線が体を貫いて。
自分の存在が不安定になるような、得体のしれない感覚に身を包まれていても。

月は決して絶望も恐怖も感じなかった。

皆なら、きっとアカギに勝てるとどこかで確信していたから。

(あとは任せた、みんな)

それが、最後に月の中に浮かんできた言葉だった。



「やはり醜いものだな、心は」

心の中に湧き上がった嫌悪感が、月に対して亜空切断を使用するまでに至ってしまった。
本来なら会場のどこかにでも送ってやろうと思っていたはずが、感情的になりすぎてもうどこに飛ばしたのかも補足できない。

次元の狭間をさまようことになるかもしれない。
どこか得体のしれない場所に送られ野垂れ死ぬかもしれない。

どうなったとしても、曲がりなりにもここまで生き残った貴重な資源を一つ無駄にしたということになる。

そんな自分への怒りで眉に皺を寄せる。
何かの縁かと思い気まぐれを起こしてしまった自分への戒めが必要だろう。

資源を失った事実は反省点として考慮する必要がある。
だが夜神月個人のことはもうどうでもいいだろう。
体の傷、そしてどこに行ったかも分からぬ状況。
もしも運が良ければ、どこかの世界にでも流れ着くかもしれないが。もう興味もない。

興味は、ない。
彼の言葉に思うところがあったなどということもない。
ないのだと。
そう自分に言い聞かせながら。

アカギは静かに、ただ状況を監視するように。
空間に映し出される、会場内で行われている戦いを見続けた。


【夜神月@DEATH NOTE(漫画) 死亡………?】




ある少年の記憶。
ある日の出来事。

そのポケモンを驚かせてしまい、不意の放電を受けて意識を失ってしまった。
目が覚めたら彼はどこにもいない。

ようやく見つけた場所はゴミ捨て場のおもちゃの中だった。
安心した。もう会えないんじゃないかと思ったから。

その時彼はとてもうれしそうに目を光らせた。
もっと彼のことが分かる気がした、通じ合える気がした。

次の日、そのおもちゃがなくなると共に、彼はどこにもいなくなって。
二度と会うことは叶わなかった。

あの時驚かせて気絶してしまったから。
僕を傷付けたことを強く悔いたのかもしれない。

だけど、彼と別れることの方がずっと辛かった。

その後数日は食事もろくに喉を通らず、ずっとふさぎ込んでいた。
それでも時間は傷付いた心を癒やしてはくれなかった。

初めての別れで。だけど彼が唯一の友で。
楽しかった機械弄りもそれ以降はどこか空虚に感じるようになってしまった。

やがて、一つの考えに至っていた。
心があるから苦しいんだ。
こんなもの捨ててしまえばいい。

癒えることがなかった傷は、苦しみは。
やがて嫌悪、憎悪へと転じていた。

世界の形そのものを忌み嫌い、憎むほどに。

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アカギ 177:EndGame_close



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