ポケットの中の戦争(前)

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ポケットの中の戦争(前) ◆Z9iNYeY9a2


周囲を海で囲まれた孤島の中に、夜闇の中巨大な影を映し出す城。
その側に、空から巨大な影が降り立った。

戦艦アヴァロン。
N達が乗るポケモン城攻略のための移動拠点。
浜辺に降り立った艦の昇降口から、数匹のポケモン達が飛び出す。

ピカチュウ、リザードン、ゾロアーク、そしてドサイドン。

殺し合いの参加者として数えられているN、ニャースにはこの場は禁止エリアであり、その成約を緩められる艦の中から出ることができない。
故にこのポケモンたちが城攻略の鍵でもあった。

しかし彼らの状態は決して万全とも言い難いものだった。
片腕を失ったゾロアーク。
体力は回復しているとはいえ体に細かな傷を多く作っているリザードン。

そして、ピカチュウも体に多くの傷を作っていたがそれ以上に顔色が優れなかった。


その彼らの様子を、アヴァロン艦内の通信室から見ていたNとニャース。

「ピカチュウ、大丈夫かニャ…」
「……」

ピカチュウの心境は分かっている。
艦内にある遺体が収められた一室に、少し前に並べられることとなった一匹のポケモン。
その死はNの心にも激情を波立たせている。

グレッグルが最後に言い残した言葉。
突如現れた謎の少女がまどかを攫い、それを追ってアリスとポッチャマも消えていったと。

ポッチャマがどうなっているのかということにも不安があるが、少なくとも独りでいなくなったわけではない。
彼についてはアリスを信じるしかない。

仲間の死に対し、心を落ち着ける時間もない。
つくづく、時間が押しているという現状に苛立ちを覚えてしまう。

「ピカチュウ、大丈夫か?
 もしも辛いようなら休んでいてほしいと思うんだが」
『ピカ…』

ピカチュウの心境を察したNは彼に今は休むことを提案する。
しかし通信機の向こうでピカチュウは戻らない、行くと行った。


「ピカチュウがこう言うなら、これ以上突っ込むのは野暮ニャ。
 色々辛い目にも合ってるけど、折れずに頑張ってるあいつはそんな弱いやつじゃないニャ」
「………」

息を吐き出して心を落ち着けながら、Nは通信機器の前の席に腰掛けた。

N達がいる場所は、アヴァロン艦内の通信室。
艦橋にあったそれとは異なる、多くの映像装置や音響施設が備えられた空間だ。
カメラなどの映像機材、無線といった遠隔通信用の機器が充実した場所であり、ニャースの手を借りることで艦内にいてもポケモン達の状況が分かるようにすることができた。
送り出したポケモンにはそれぞれリアルタイムで画面を移すカメラと無線をもたせている。

これでポケモン達への指示を送ることはできる。
Nとしてはピカチュウたちに任せてもいいのではないかとも思っていたが、

「ポケモンだけだと状況の判断力には限りがあるのニャ。ニャーは人間の言葉が喋ることができるのもあってある程度はその辺大丈夫ニャが。
 だからあいつらが十全に動けるようためにはおみゃーの力も必要なのニャ」

とのニャースの言葉を受けて、ここから彼らに向けて司令塔として指示を出すことになった。

目標は2つ。
まずポケモン城にいるという、クローンのポケモン達の解放。
おそらくは城に侵入してきた者に対する防衛として置いているのだろう。Nとしては放っておくことはできない。

そしてその奥にある、会場の制御を行っているという装置の破壊。
これがこの場からの帰還に繋がる。

優先順位は難しいが、Nとしては流れとしてまずクローンのポケモン達の救助を行いたかった。

救助後は城の最深部に向かい、ポケモン達に装置の破壊ないし奪取してもらう。
本来はアリスの手を借りてアヴァロン艦内からでも支援を行いたかったが不慮の事故により難しくなってしまった。

「難しいことだと思う。だけどボク達や君たち、そして未だ囚われているポケモン達の未来のために、どうか力を貸してほしい。
 みんなで、生きて帰るために」

それが、ポケモン達が出立する前に言った言葉だった。

死ぬな、という命令を出すことはできなかった。
この戦いの中に待ち受ける困難をNは直感していたから。
そして、ポケモンだけではない。多くの友達、仲間を守れず失ってきたNからその命令を出すことのエゴをどこかで感じ取っていたから。



カメラの端に、影が映った。
薄暗い空間に、それはいくつも蠢いていた。

ピカチュウが光源を向ける。

鼠色の体が見えた。
巨大な翼が見えた。
鋭利な鰭が見えた。
三つの首が見えた。

別のカメラも数々の姿を映している。

ピカチュウ。
ポッチャマ。
グレッグル。
テッシード。

ピカチュウのカメラが映し切れなかった小型のポケモン達の姿を映す。

目に入ったポケモン。数にして12匹。
ポケモン達の法則性にはすぐに気付くことができた。

ピカチュウやリザードン、ゾロアークなど会場に支給されたポケモン達。
会場内では見覚えも聞いた覚えのない者たちもいる。それはおそらく、彼らを知っている者と会うことがなかったポケモンだろう。
そしてそんな彼らも、今はもう生きていないだろうことも直感する。


吠えながら、ポケモン達は火炎を、電撃を、波動を放つ。
ピカチュウ達は散開し、彼らを追ってまた各々へと迫ってくるポケモン達。

美国織莉子から聞いたというサカキからの評価としては。
ばらつきこそあれクローン元となったポケモンの能力が反映されているためか野生のポケモンと比べれば練度はまずまず。
チャンピオンや四天王ほどの腕前がある者ならば一対一であれば倒せない相手ではない。だがおそらくは集団で襲撃をかけてくるだろうとのことで油断は禁物。
一方でどこか動きが無機質なようにも思えたと。

確かに目の前のポケモン達は支持者がいないにも関わらずどこか動きが統率されているように感じられた。
それも不自然なほど綺麗に。
ポケモン達がばらけて乱戦になりつつあっても、味方に攻撃を当てるなどを起こす気配もない。

何より、Nにとって不自然だったのは。

(ポケモン達の、声が聞こえない…?)

ポケモン達の鳴く声はいくつも響いている。にも関わらずそこにポケモン達の言葉がない。
ただの鳴き声として、Nの耳に届いている。Nにしてみれば初めてのことだ。

「ニャース、気付いているかい?」
「…分かっているニャ。これは、おかしいニャ」

それは隣のニャースにとっても同じで、不自然なことのようだった。
ニャースにとっても言葉が分からないポケモンはいたが、そもそも言葉が聞こえないということがなかった。

「一応聞いておくけど、クローンだから、なんてことはないんだよね?」
「いや、クローンだからってことは関係ないはずニャ。そういったポケモンには会ったことあるけど、その時はちゃんと話せたニャ」
「ということは…」

ポケモン達をモンスターボールに付与した装置で制御しているという事実。
Nの脳裏に浮かぶのは、そこから更に発展したもの。すなわちポケモン達から自我を奪い、操り人形のようにしているのではないか。

「ピカピ!」

困惑しながらも声をあげるピカチュウ。戦いを止めてくれと叫んでいる。
しかしそんな声に耳を貸すこともなく、彼らは攻撃を続ける。

ピカチュウとリザードンは攻撃できない。Nの願いを分かっているから。
ゾロアークもまた攻撃の手が鈍っている。Nの願いもあるが、何よりそのポケモン達の在り方がかつての自分と被ったから。

しかしそんな中で、ドサイドンは猛攻を捌き、反撃を続けている。その手に迷いはない。
多くのポケモンの波状攻撃もどうにか対応しつづけている辺りはさすがは曲がりなりにもジムリーダーだった男のポケモンというところだろう。
だがためらいがなさすぎることが逆に災いし、クローンのポケモン達の体の傷も無視できない状況になっている。

「くっ…!ゾロアーク、一瞬でいい、クローンポケモン達に幻影を見せてくれ!
 リザードンとピカチュウはそこの柱を破壊するんだ!ドサイドンは岩雪崩を!!」

瞬間、ゾロアークは周囲の景色を塗り替え、木々の生い茂る森へと変える。
唐突に視界を奪われ、攻撃の手が止まるポケモン達。
その隙にピカチュウとリザードンはアイアンテールと鋼の翼を渾身の力で柱に叩きつけ、破壊。

さらにドサイドンの岩雪崩が降り注ぐ。
崩れた柱と岩が、自分たちとクローンポケモン達の居場所を分断する。

一息つくピカチュウ達だが安心するのは早い。
抜けようと思えば抜け道は多い。迂回すれば、空から来ればすぐに抜けられる。それをゾロアークの幻影で誤魔化しているにすぎない。

「どうする、どうする…!」

想定していなかった、いや、想定することを恐れていた事態だった。

ピカチュウ達に負担を強いるか、あるいはクローン達の救出を諦めるか。
どちらも選べるはずのない選択肢に頭を悩ませるN。

そんな時、ふとピカチュウのしっぽが小さく揺れ動いた。
何らかの電気信号を感じ取った様子で、部屋の隅に駆けていく。

そこに小さなガジェットが落ちていた。
それを拾い上げると同時に、道を塞いでいた岩が砕かれ、ゾロアークの幻影が解けた。

『…ロト、君たちは誰ロト?』

ピカチュウの知るポケモン図鑑ほどのサイズをしたそれは、目と口があってポケモン独特の言語とは違う、人間と同じ言葉を口にしていた。

襲いかかってきたガブリアスとサイドンを、リザードンが押し止める。
上から来るサザンドラやリザードンを避けるようにピカチュウは物陰へと走った。

『ああ、君たちがアクロマの言っていたポケモン達ロトね。
 僕はロトム。今はポケモン図鑑の中に入らせてもらっているロト』
「君も、人間の言葉を喋るのか…。いや、今はいい」

一瞬その存在に虚をつかれるN。しかしすぐに気持ちを切り替える。
アクロマ。ニャースの言っていたアカギの協力者でありこちらに情報を渡した男の名だ。

『今はあまり時間がなさそうロトね。アクロマから預かってきてる伝言を伝えるロト』

言っていると、物陰の中にグレッグルやポッチャマ、ピカチュウたち小型のポケモンたちが入ってこようとしている。
ピカチュウは電気をまとわせた尻尾で追い払いながら、ロトムの支持に従って画面を操作した。


おそらくこの映像を見ているということは、私は少なくともアカギたちの元にはいないでしょうね。
なのでこのポケモン城の中の情報をあなた達にお伝えします。

まずクローンポケモン達ですが、彼らは遺伝子操作によりある電波を受けると自意識を失ってただ一定の指示をこなすだけの存在となります。
殺してしまえば楽でしょうが、そうできないというのであれば、ポケモン達が控えていた部屋の天井のシャンデリアと、その奥に隠されている電波発生装置を破壊してください。

シャンデリアは電波の拡散を行っていて、さらにこれが破壊された時には超音波を無差別にばら撒き続けるようになっています。城内のポケモン達は正気ではいられないでしょう。
そうなるまでの猶予は、おそらく10秒もないはずです。しかしシャンデリアに触れずに破壊することはなおのこと困難でしょう。

もしこの言葉を信じることができないというのであれば、私の動機をお話ししておきましょう。

私はアカギたちにはポケモンの可能性の研究という目的のために協力していました。
しかし他の協力者、特にインキュベーターなどはポケモンのことを人間と比べて下等な、儀式においては駒のようなものとしか認識されていませんでした。
その彼らが運営を主導した結果、私は生体兵器としか扱われないポケモンを生み出すという罪を犯してしまいました。

ここまで生き残った君たちに手を貸すことで、わずかでもその罪を濯ぐことができるのであればというのがこの情報を残した理由です。

まだいくつかお伝えしないといけないことはありますが、急ぎのようであれば後で構いません。



『この続きは、今は無理そうロトね』

そう呟いたロトム。彼を抱えたピカチュウは既に物陰を飛び出して広間を駆け回っていた。

「ニャース、彼の言葉は信じても大丈夫か?」
「信じられるかはわからないニャが、今は判断材料も時間も足りないし信じるしかなさそうニャ」
「分かった。
 ピカチュウ、リザードン!聞いての通りだ!天井のシャンデリア付近に向かってくれ!
 ドサイドンとゾロアークはその援護だ!」

言うが早いか、ピカチュウは飛び上がったリザードンの背に飛び乗る。
同時にサザンドラ、リザードン、ガブリアスの飛行可能なポケモン達が追うように地を蹴る。

そこにゾロアークの気合玉がガブリアスを、ドサイドンの岩雪崩がサザンドラを捉えた。
意識を取られ対応を強いられた二匹の飛行速度が減速、置いていかれる。

唯一残ったリザードンは、ピカチュウ達に向けて炎を吐きながら迫る。
蛇行に動きながら避けるリザードンは一瞬速度を落とし、すぐ背後にまで距離を詰められたところでその尻尾を思い切り顔面に叩きつけた。

一瞬怯むも、しかし下がることなく食いつき逆にその尻尾を掴み上げる。
思わず振り向いたリザードン。目線があった時に見えた瞳が、何も映していない闇のような状態だったことで一瞬気が遅れる。

「ピカ!」

そのリザードンの様子に気付いたピカチュウは、即座にリザードンに指示。
気を取り直し、すぐさまピカチュウを上に投げた。

「ピィカァ、チュウウウウウ!!」

そこから10万ボルトを下のリザードンに向けて放出。
電撃を受けたリザードンは、掴んでいた尻尾を手放す。
掴まれていた尻尾からいくばくかのダメージを受けてしまったリザードンだったが、それでも翼を広げてピカチュウを拾い上げて上に力いっぱい投擲。
その勢いに任せたまま、ピカチュウの体を電撃が覆う。

宙を走っているかのように放たれたピカチュウの電気を纏った体当たり、ボルテッカーは天井を撃ち抜き、その奥にあった何かを破壊。
爆発と共にシャンデリアが落下する。

その巨大な明かりを、リザードンはその体を叩きつけて弾き飛ばし。
さらに爆発の中から落ちてきたピカチュウを拾い上げた。


ゾロアークに背を噛みつかれグレッグルに組み付かれながらもガブリアスの体を抑えていたゾロアーク。
ニドキングとサザンドラを押し付けながらもキリキザンとテッシードの攻撃を受けていたドサイドン。

他にも様々なポケモン達が入り混じり混沌を擁していた場に、静寂が訪れる。
クローンポケモン達の力が緩み、敵意が静かに引いていった。

やがて正気を取り戻していったポケモン達。
その中央にリザードンとピカチュウは降り立った。

ボルテッカーの反動と電撃のダメージが残っている二匹は少しふらついている。

「…なんとか落ち着いたか」
「でもここからニャ」

一息つくNに対し、ニャースは周囲のポケモン達の様子がおかしいことに気付いていた。

体をふらつかせながらもピカチュウが歩み寄り声をかける。
もう争う必要はないのだと。君たちは解放されたのだと。

そう言ってクローンのガブリアスに向けて手を伸ばし。

その体に向けて腕のヒレが振り下ろされた。

とっさの判断でそれを回避したピカチュウ。
同じタイミングで、各所にいるポケモンたちが一斉にこちらに襲いかかり始めた。

「どうして戦う?!君たちはもう戦う必要はないんだ!!」
「そうじゃないニャ、これは、このポケモンたちは…」

スピーカーの奥から聞こえてくるポケモンたちの声。
そこにはこれまでとは違う、クローンポケモンの感情が混じっていた。
悲しみ、苦悩、迷い。

「ロトム、こいつらについてのデータは何か入っていないのかニャ!?」

感情が分かっても何を思っているのかが分からない。
混乱したニャースはピカチュウに抱えられたロトムに助けを求める。

「ロ、ロト!?
 ちょ、ちょっと待ってロト…、確かこの辺にアクロマの研究レポートが…」

そう言って自身のメモリを漁るロトム。そこにクローンリザードンが襲いかかる。
横からの不意打ちに反応が遅れ対処ができないピカチュウ。
そこに上から降ってきた岩がリザードンの体を直撃。先程のピカチュウの電撃と合わせて大ダメージを受けたリザードンは倒れる。

岩を降らせたドサイドンには、その横からサイドンとニドキングが遅いかかるもそれを抑え込む。

リザードンはガブリアスやサザンドラを、ゾロアークも各所のポケモン達の対処に追われている。
ピカチュウの元にもテッシードやポッチャマ、キリキザンが迫っていた。

「あ、あったロト!今再生するロト!」

そう言ってファイルを開いたロトムのスピーカーから、アクロマの音声が流れ始めた。


クローンポケモン研究。

元は別世界のミュウツーが研究していた技術。
これをキュゥべえ達は利用することでこの会場における番兵とすることを目論んでいました。
生み出す際には、こちらの言うことを聞きやすくなるように一定の遺伝子調整も加えています。
そこで私はそこで生まれたポケモン達の生体研究を並行して行いました。

クローンによって生まれたポケモンにどれだけの可能性があるのかを調べるために。

結果、彼らは自然に生まれたポケモン達とは異なる特性となることが明らかになりました。
タマゴを生み繁殖することもできず。
生まれた時から覚えている技はそのまま、新しい技を覚えることも叶わず。
無論、道具や戦闘経験から進化することもありませんでした。

おそらくクローンとして作られた元のポケモンから、在り方が固定されているというところでしょう。

これがクローンであるからなのか遺伝子調整の結果なのかは分かりませんが。
そのどちらかを確かめることまではできませんでした。増やしたポケモンを私兵にすることをキュゥべえは警戒していたのでしょう。

結論として、彼らは研究対象としては不適切であり、キュゥべえの思惑通り会場の番兵として置くしかないということです。


「……」

ニャース、Nはそのレポートに言葉を失う。

ピカチュウも攻撃を避けていながらも絶句していた。

「…つまり、彼らは自分の生まれてきた意味も役割も、ここの番人をするということしかないと、そういうことなのか」
「アクロマは言ってたニャ。あくまでも自分の目的のためにアカギに協力している、ニャー達に手を貸したのもその一貫だってニャ。
 だから、こういうことをしてたとしても、矛盾してるわけじゃないニャ」
「………」

Nの中に思い起こされる、かつての自分の記憶。
ただゲーチスの役目を果たすために、世界の情報を与えられずただ閉じた世界で理想のみを肥大化させられ続けた日々。

その記憶が、彼らの今の在り方と重なって見えた。いや、あれから多くの知見を得られた自分と比べればポケモンとしての多くを否定されている彼はなお酷いだろう。

3匹の攻撃を避けたピカチュウの横から、黄色い影が飛びかかった。

「ピカ…!」

地面に押し倒され、抱えていたロトムは地面を転がる。
その首に、小さな黄色い手が押し付けられ息を封じる。

ピカチュウに馬乗りになったクローンピカチュウが、その首を締め付けていた。

呼吸を押さえつけられた状態で、それでもピカチュウは必死に口を開く。
こんなことをする必要はないのだと。君たちのいるべき世界はあるのだと。
こんな役割に従うことはない、君たちは自由なのだと。

クローンピカチュウの力が緩む。
同時にその瞳から流れた雫が、ピカチュウの胸におちた。

クローンピカチュウは言う。
外の世界は知らない。だけど進化することも技を覚えることもできない、こんな出来損ないのポケモンに他にどんな居場所があるのだと。

そのピカチュウの言葉に呼応するかのように、周囲で戦っていたポケモン達の手も止まった。
座り込んで意気消沈するもの、ピカチュウと同じように涙を流すもの。
反応は様々だったが、皆からは一様に深い悲しみを感じ取られた。

「泣くんじゃないニャ!!!」

悲痛な空気が漂う中、響き渡ったのはニャースの叫ぶ声だった。

「進化できないから、技を覚えられないから何ニャ!!
 ニャーだって、こうやって喋れてる代わりに進化もできないし新しい技も身につかない、おみゃーらの言う出来損ないのポケモンニャ!!
 だけどこうやって生きてる、自分の目的のために一生懸命頑張ってるのニャ!!おみゃーらにだってできないことじゃないニャ!!」

叫ぶ声は震えている。その瞳からは涙がこぼれている。

クローンポケモン達は言う。
それはお前自身が選んだ生き方だろうと。自分たちにはそれを選ぶ権利も与えられなかったのだと。

「だったら選ぼうニャ!!
 自由に野生の中で生きていくもよし、友達や仲間を作って生きていくもよし!!
 何ならニャーと一緒にくればロケット団に入って悪いことをいっぱいしまくれるしそういうのだって有りニャ!」
「…それはさすがに待ったをかけたいが。だけどニャースの言う通りだ。
 たとえどんな生まれだったとしても、それが君たちの生き方を縛る理由にはならない。
 もし居場所がないと思うなら、僕たちも手を貸す。君たちの生きられる場所を作ってあげられる。
 だから、君たち自身として生きることを諦めてはいけないんだ」

クローンポケモン達がその言葉に顔を上げる。

ふと部屋の片隅にいたサイドンの背をドサイドンが叩く。
その腕っぷしが気に入ったらしい。まあかつてのドサイドンのクローンなのだから当然ではあるのだろうが。
自分の弟のようなものにならないかと誘っている。ある意味で自分自身同士であるからかどこか放っておけない部分があったらしい。

この辺りは殺し合いの環境下で進化しその姿を変えた彼ならではの感覚なのだろう、リザードンやピカチュウにはよく分からない様子だ。

ピカチュウもリザードンも、ポケモン達に手を差し伸べる。
ゾロアークは自分のクローンに歩み寄ろうとしてどこか迷っている様子だ。いざ目の当たりにすると困惑しているのだろう。

「……良かった。これで一段落か」
「いや、まだニャ。ここに来た目的は」
「ああ、そうだった。すまない、少し気が抜けてしまっていた」

今の戦いの中で傷ついたポケモン達に回復の支持を出す。
持たせていたバッグに入っている回復薬を使って傷を癒やしていく。

その中でポケモン達に何を守らせていたのかを問いかけた。
それによると、本来ポケモン達は命令として城を彷徨かれることを防ぐために各所に配置され、戦いが始まったらそこになるべく集まるよう支持を受けていたらしい。
今回はおそらく一点突破を狙ってくるだろうと城のロビーに集められたということだが。洗脳装置の存在も影響しているのだろう。

詳しくは知らないが、どのポケモンも入ったことがない場所として、城のそばにあるバトル場が怪しいということになった。

それは城の上空を飛んでいるアヴァロンからも確認できる。ポケモンバトルが行えそうなコロシアムがぽっかりと見えている。
だが、そこには何も見えない。何かある様子はない。

「いや、もしかしたら城から入ることに意味があるのかもしれないニャ」
「なるほど。そこまでの道のりを教えてほしい。だがもし正解だとしたら相当の危険が伴う場所だ。
 説明を君たちはこっちに戻ってくれないか?」

クローンのポケモン達にそう提案する。
しかし戻りたいというポケモンは一匹もいなかった。
自分たちの居場所をくれたみんなの力になりたいと。

ピカチュウは小型のポケモン達と。
リザードンは比較的大きいポケモン達と。
それぞれ馴染んでいた。
ゾロアークは構われることに慣れていないのか少し困惑しており。
ドサイドンは仲良くなった様子のサイドンと楽しそうだった。

実験動物、駒としてしか扱われていなかったクローンポケモン達。
もしかしたら、今こんな時間が彼らが初めて安息を得た時なのかもしれない。

Nはそう思った。




ロトムはこちらで調べたい情報があるためアヴァロンまで来るように頼み。
短い休息を取った一同は城の深部へと足を進めていた。

クローンポケモン達の案内でやってきたのは、城から通じるコロシアムへの扉の前。

おそらくだが、この向こうにアカギ達の元に行くための何かがあるのだろう。
そして、その道を阻む何者かもいるはずだ。

どうしてもNには、その最初の一歩を踏み出させることを躊躇われた。

そんな迷いを感じ取った様子で、その一歩を踏み出したのはドサイドンだった。
自分が先に様子を見てくる、他のポケモン達は後からついてこいと。
共に行きたいと言ったサイドンのみを伴って、扉を開けた。

門のように巨大な扉が開かれ、そこをくぐった。
次の瞬間、その扉が大きな音をたてて勢いよく閉じた。誰も手を触れていないにも関わらず、まるでここから逃さないとでもいうかのように。

思わず気後れしたポケモン達。

次の瞬間、扉の向こうから轟音が響き渡った。
まるで何かと戦っているかのような、地鳴りと破壊音。

ドサイドンのカメラは電波妨害を受けているのか映らず様子が見えない。

困惑するニャースの声でただ事ではないと感じたポケモン達が、扉を開けて一斉に中に飛び込む。

全員が入った辺りで、再び扉が閉まる。
同時に、乱れていたカメラの映像が元に戻る。

ニャースがアヴァロンの窓に駆け寄り下を見ると、バリアのような何かが張られていたコロシアムの空間が歪み、中の様子が艦内からでも目視できるようになる。

6機のロボットが直立していた。
剣を携えた騎士のような機体が4。
それより巨大な、馬のような下半身と巨大な鎚を手にした異形の機体が1。
銀色の体に翼のような腕を携えて宙に直立している機体が1。

そして、それらが囲んでいる中心で。

倒れ伏したサイドンと、彼を庇おうとする位置で上からくる巨大な何かを抑え込んでいるドサイドン。


海堂や巧達のようなオルフェノクを思わせる灰色の体をしていた。
しかしその体は彼らと比べてあまりにも巨体で異形だった。
ホエルオーを思わせるその体の大きさと、サイホーンを思わせる巨大な四肢と角を持った怪物。

エラスモテリウムオルフェノク。
人の心を完全に消し去り、ただ本能にまかせて暴れるだけの存在となった、オルフェノクの成れの果て。
それが、この場に置かれた番人だった。

その姿は、そして放つ覇気は、一般的な生き物とはかけ離れた容姿を持つものも多いポケモン達から見ても化け物としか形容できないものだった。

思わず身が竦んでしまい動けないポケモン達。
そんな中でドサイドンはサイドンを踏みつけようとする足を必死で抑えていた。

体格差もあり少しずつ後ろに下がっていくドサイドンの体。
傷ついた体の苦痛に呻くサイドンの鳴き声を耳にしたドサイドンは、大きく吠えて渾身の力でその足を横に反らし。

「ピカ!!!!」

その疲労から思わず一息入れるように顔を下げて。
ピカチュウの声が届いたところで顔を上げたところでドサイドンの視界に映ったのは。
ずらりと並んだ巨大な牙とその奥に通じる漆黒の闇。

それが、ドサイドンの見た最後の景色となった。




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