瞳を開ければ、そこは真っ暗闇だった。
………………………うん、まだ夜だ、寝よう。
そうして再度瞳を閉じて二度寝に臨もうと頭を下ろして―――ガツンと頭を打ち付けた。
「いったあああぁいっ!?」
激しい鈍痛が脳に響く。
頭蓋骨は硬い床と無防備に接触し、ボーリングの球を落としたような音がする。
おかげで微睡みはすっかり消し飛んでしまい、わたしは飛び起きた。
頭蓋骨は硬い床と無防備に接触し、ボーリングの球を落としたような音がする。
おかげで微睡みはすっかり消し飛んでしまい、わたしは飛び起きた。
うちのフローリングってこんなに硬かったっけ。キンキンと痛む頭をさする。
いつの間に床で転げ落ちるなんて自分はこんなに寝相が悪かっただろうか。
明日も早いしさっさとベッドに戻らないと寝坊して―――
いつの間に床で転げ落ちるなんて自分はこんなに寝相が悪かっただろうか。
明日も早いしさっさとベッドに戻らないと寝坊して―――
「――――――あれ?」
そこで、ようやく異変に気づいた。
そこはわたし―――イリヤスフィール・フォン・アインツベルンの部屋ではないことに。
そこはわたし―――イリヤスフィール・フォン・アインツベルンの部屋ではないことに。
そこには何もなかった。
ふかふかのベッドも、お気に入りのぬいぐるみも、大好きな家の自分の部屋の痕跡は何一つ存在しない。
それどころかただの部屋ですらなかった。
いや、そもそも何処という概念すら感じられない。
天も地も等しく闇の原。空間も時間もない影の世界。
わたしが知る反転した鏡の世界とも違う場所。
世界が一枚の地図だとしたら、ここは図面に空いた虫穴、引き裂かれた境目の隙間。
意味もなく理由もなく、そう感じた。
ふかふかのベッドも、お気に入りのぬいぐるみも、大好きな家の自分の部屋の痕跡は何一つ存在しない。
それどころかただの部屋ですらなかった。
いや、そもそも何処という概念すら感じられない。
天も地も等しく闇の原。空間も時間もない影の世界。
わたしが知る反転した鏡の世界とも違う場所。
世界が一枚の地図だとしたら、ここは図面に空いた虫穴、引き裂かれた境目の隙間。
意味もなく理由もなく、そう感じた。
目を凝らしてみれば、まわりで何かが動いているのがわかる。
影は、人らしい姿をしていることだけは分かるが顔までは見ることができない。
せいぜい、体格や髪型がわかるくらいの―――。
影は、人らしい姿をしていることだけは分かるが顔までは見ることができない。
せいぜい、体格や髪型がわかるくらいの―――。
「―――ミユッ!?」
見えた姿が、私のよく知る友達と似ている、否、そのものなのをようやく理解した。
向こうも私に気づいたらしく近づこうとするが、その足はすぐに止まってしまった。
それを疑問に思いはしない。私もここから動くことができない。
何故なら、お互い足場がない。丁度体育座りができるかギリギリの大きさの石版にわたし達は乗っかっているのだ。
私たち以外にも、上下左右斜め、あらゆる座標に無数の石版が浮かび、その上に人が乗っている。
目に見える限り、その人達も今の状況に困惑してるようだ。
向こうも私に気づいたらしく近づこうとするが、その足はすぐに止まってしまった。
それを疑問に思いはしない。私もここから動くことができない。
何故なら、お互い足場がない。丁度体育座りができるかギリギリの大きさの石版にわたし達は乗っかっているのだ。
私たち以外にも、上下左右斜め、あらゆる座標に無数の石版が浮かび、その上に人が乗っている。
目に見える限り、その人達も今の状況に困惑してるようだ。
「っ!ルビー!」
もう夢だとは言ってられない。夢のような出来事が現実に起こり得ることをわたしは知っている。
ならばすべきことは、事態の究明と解決。そのためにもまず美遊と合流しなければ。
美遊との距離はざっと20メートル。プロのアスリートでも届かない程の開きがある。
ましてやただの小学生に飛び越えられるわけもない。
ならばすべきことは、事態の究明と解決。そのためにもまず美遊と合流しなければ。
美遊との距離はざっと20メートル。プロのアスリートでも届かない程の開きがある。
ましてやただの小学生に飛び越えられるわけもない。
しかし、それはただの小学生の話。
必然と偶然と奇跡によって不本意ながらも、わたしはただの小学生ではない。これでも現役続行中の魔法少女だ。
飛行魔法を使えばこのくらいの断崖絶壁わけはない。いつも髪の毛にくるまってる愛杖の名を叫ぶ。
けど。
必然と偶然と奇跡によって不本意ながらも、わたしはただの小学生ではない。これでも現役続行中の魔法少女だ。
飛行魔法を使えばこのくらいの断崖絶壁わけはない。いつも髪の毛にくるまってる愛杖の名を叫ぶ。
けど。
「……?ルビー?」
呼べばいつでも現れる、呼ばなくても勝手に現れる魔法の杖は声も形もない。
わたし個人じゃ大した力は使えない。ステッキがない魔法少女など刀を奪われた侍と同じ。即ち無力。
美遊の表情が凍っているのが見える。彼女にもサファイアがいないのか。
いよいよ、状況は切迫してきた。
わたし個人じゃ大した力は使えない。ステッキがない魔法少女など刀を奪われた侍と同じ。即ち無力。
美遊の表情が凍っているのが見える。彼女にもサファイアがいないのか。
いよいよ、状況は切迫してきた。
まるで盤上の駒だ。
チェスや将棋と同じ。駒は指し手が動かさなければ決められた場を動くことを許されない。
それならば、わたし達がゲームの駒であるのなら、
いったい、それはなんの遊戯なのだろう―――?
チェスや将棋と同じ。駒は指し手が動かさなければ決められた場を動くことを許されない。
それならば、わたし達がゲームの駒であるのなら、
いったい、それはなんの遊戯なのだろう―――?
「お目覚めかな諸君」
虚空から、重く冷たい声が伝わった。
上を見上げると、そこには周りの足場より何倍も大きな地盤が浮いている。
石の柱が立てられているその場所は、神を奉る古の祠を思わせる。
そこに、髪を逆立てた中年ぐらいの男が我が物顔で立っていた。
己こそが、その神であると。
上を見上げると、そこには周りの足場より何倍も大きな地盤が浮いている。
石の柱が立てられているその場所は、神を奉る古の祠を思わせる。
そこに、髪を逆立てた中年ぐらいの男が我が物顔で立っていた。
己こそが、その神であると。
「私の名はアカギ。ギンガ団という組織のボスを務めてる―――といっても、それを知るものは多くはないだろうがな。
故にもう少しわかりやすく言おう。
故にもう少しわかりやすく言おう。
私は―――新世界の神となる男だ」
男の声は脳に直接入り込んだように鮮明に届いた。
底冷えしたその声は人でなく、機械が鳴らした音に近い。
最後の言葉に対して誰かが激しく歯ぎしりをしたのは、錯覚だろうか。
周りの人達がざわめき立つ中、構わずにアカギという男は言葉を続ける。
底冷えしたその声は人でなく、機械が鳴らした音に近い。
最後の言葉に対して誰かが激しく歯ぎしりをしたのは、錯覚だろうか。
周りの人達がざわめき立つ中、構わずにアカギという男は言葉を続ける。
「君たちをこの場に集めたのは私によるものだ。少々手荒に扱わせてもらったがね。
無論茶飲み話のために呼び寄せたのではない。ある催しに参加してもらうためだ」
無論茶飲み話のために呼び寄せたのではない。ある催しに参加してもらうためだ」
一度言葉を切り、そして口を開く。
その後のわたし達の反応を確かめるように。
その後のわたし達の反応を確かめるように。
「君たちの役目はたったひとつ―――最後の一人になるまで、殺し合うことだ」
夢から醒めた、というのはどうやら誤りだったらしい。
そう、悪夢はまだ続いている―――。
そう、悪夢はまだ続いている―――。
■■■ ■■■ ■■■
ざわ…ざわ…。
空間に困惑のどよめきが立つ。
アカギが話した内容はどれもが突飛で、特に最後の言葉は一番衝撃的だった。
殺し合い。それに対しここに集う人物の表情は千差万別。
空間に困惑のどよめきが立つ。
アカギが話した内容はどれもが突飛で、特に最後の言葉は一番衝撃的だった。
殺し合い。それに対しここに集う人物の表情は千差万別。
義憤を露に睨みつける者。
恐怖に竦み震える者。
状況が理解できず呆然とする者。
面白そうに頬を吊り上げる者。
興味なさげに無表情のままの者。
恐怖に竦み震える者。
状況が理解できず呆然とする者。
面白そうに頬を吊り上げる者。
興味なさげに無表情のままの者。
誰もがアカギの顔を見ていた。しかし、アカギは誰の顔も見てはいなかった。
「ルールは簡単だ。今言ったとおり君たち全員が最後の一人になるまで戦い続ければいい。
見事生き残った者には、勝利者の栄光と、生命の保証、そしてそれに見合った褒賞を与えよう」
見事生き残った者には、勝利者の栄光と、生命の保証、そしてそれに見合った褒賞を与えよう」
自分に向けられた視線その全てを無視して、アカギは冷徹に説明をする。
「それと殺し合いといっても今すぐここでやれと言うわけじゃない。これから君たちが戦う会場へ案内することになっている。
その足場にいれば自動で辿り着く。もう暫く待って―――」
その足場にいれば自動で辿り着く。もう暫く待って―――」
「No need for that.(その必要はないよ)」
そこに、割り込む声があった。
直後、耳を劈く空気音が当たりに充満する。
それは、アカギのさらに上方。闇の空を飛行する白い影。
スマートブレインの力の象徴。人類の進化系オルフェノクの帝王にして、旧人類の殺戮者。
その名は天の帝王、仮面ライダーサイガ。
直後、耳を劈く空気音が当たりに充満する。
それは、アカギのさらに上方。闇の空を飛行する白い影。
スマートブレインの力の象徴。人類の進化系オルフェノクの帝王にして、旧人類の殺戮者。
その名は天の帝王、仮面ライダーサイガ。
「defeat will end with it if you here now?(ここで君を倒せばそれで済む話だろう?)」
顔こそ見せないが、その表情は不敵に笑っている。
そう思わせる自信に満ちた声だった。
神を名乗る男に怯みもしない佇まいは、ここにいる力なき者にとってはまさしく救世主に写るだろう。
そう思わせる自信に満ちた声だった。
神を名乗る男に怯みもしない佇まいは、ここにいる力なき者にとってはまさしく救世主に写るだろう。
「Well then......goodbye.(それじゃあ……サヨナラだ)」
バックパックから伸びる銃身より、白光のエネルギー弾が発射される。
並みのオルフェノクでは数発受けただけで消滅する光子バルカン。ただの人間が受けてただで済む筈がない。
逃げようのない死。それを。
並みのオルフェノクでは数発受けただけで消滅する光子バルカン。ただの人間が受けてただで済む筈がない。
逃げようのない死。それを。
「"あくうせつだん"」
ただの一声が、跡形もなくかき消した。
「What!?(何!?)」
サイガの声に驚愕の色が宿る。
アカギの前方、丁度光弾があった空間が歪み、弾ごと引き裂かれたのだ。
アカギの前方、丁度光弾があった空間が歪み、弾ごと引き裂かれたのだ。
「"ときのほうこう"」
続けざまに紡がれた言葉。その意味を理解できる者は片指ほどもいない。
効果は、ほどなく訪れた。
効果は、ほどなく訪れた。
「Ohhhッ!!!」
虚空から雷が伸び、瞬く間にサイガの全身を飲み込んだ。
白い装甲がひび割れ、背中の飛行装置が砕け散る。
成す術もなく地に堕ち、サイガの変身が解ける。
白い装甲がひび割れ、背中の飛行装置が砕け散る。
成す術もなく地に堕ち、サイガの変身が解ける。
「W...What happened......!?(な…何が起きた……!?)」
何が起きたかをサイガの変身者、レオは理解出来ていない。
絶対の自信を持っていたサイガの力が一方的に破られたのだ。その衝撃は計り知れない。
信じられないといった顔持ちで立ち上がろうとするが、肉体はオルフェノクの体でも深刻なダメージを受けており上手く立ち上がれない。
絶対の自信を持っていたサイガの力が一方的に破られたのだ。その衝撃は計り知れない。
信じられないといった顔持ちで立ち上がろうとするが、肉体はオルフェノクの体でも深刻なダメージを受けており上手く立ち上がれない。
生まれたての馬のような仕草を見て、アカギがひとつ溜め息を漏らす。
その背後には、ふたつの巨大な影があった。
怪獣、と呼ぶに相応しい威容をしていた。
影が深くその詳細までは見て取れないが、それでも十分なほどの威圧感が放たれている。
故に、気づかない。それ以外にも影が潜んでいるのを。
その背後には、ふたつの巨大な影があった。
怪獣、と呼ぶに相応しい威容をしていた。
影が深くその詳細までは見て取れないが、それでも十分なほどの威圧感が放たれている。
故に、気づかない。それ以外にも影が潜んでいるのを。
「説明の途中だというのに血気盛んなことだな。その熱意を開催後にほかの参加者に向けていればよかったものを。
しかし、君は既に戦闘不能な状態になっている。残念なことだが、しかし都合もいい。
敗者の末路を諸君にお見せしよう」
しかし、君は既に戦闘不能な状態になっている。残念なことだが、しかし都合もいい。
敗者の末路を諸君にお見せしよう」
アカギが何らかの指示を下す。
レオが周囲を見回す。しかし、特に変化は起きていない。
変化は、自身の肉体に起きていた。
レオが周囲を見回す。しかし、特に変化は起きていない。
変化は、自身の肉体に起きていた。
「G―――Ahhhhhhhhhhhhhh!!!!」
突如として、レオの全身から激しく青白い炎が燃え上がった。
火は全身へ行き渡り、人型の火柱となり周りの人間を照らす。
目敏い人物の中では、熱以外の要素で体が灰になっていくのを確認していた。
また本人しか認知していないが―――レオの肉体は耐え難い激痛を伴っていた。
火は全身へ行き渡り、人型の火柱となり周りの人間を照らす。
目敏い人物の中では、熱以外の要素で体が灰になっていくのを確認していた。
また本人しか認知していないが―――レオの肉体は耐え難い激痛を伴っていた。
「Ah――――――」
断末魔のように炎が一端勢いを増し、そのまま急速に鎮火していく。
人の痕跡を微塵も残さずに消滅し、灰の粉が虚空に消えていった。
人の痕跡を微塵も残さずに消滅し、灰の粉が虚空に消えていった。
「―――とまあ、今見せたように君達には特殊な首輪を嵌めさせてもらっている。一定の条件で肉体が燃え上がり灰になる仕様だ」
言われて、初めて首にある感触に気づいた。
手で触れれば、確かに硬質な金属らしき肌触りがする。
手で触れれば、確かに硬質な金属らしき肌触りがする。
「首に違和感を感じなかったろう?それほどに軽量で障りない素材だ。戦いの邪魔にならないことは保証しよう。
忠告しておくが下手に弄らないことだ。何故なら君達の魂が砕けてしまうからだ」
忠告しておくが下手に弄らないことだ。何故なら君達の魂が砕けてしまうからだ」
抽象的な言い回しに意味を今一掴めない。
何かの比喩だろうか。まさか爆弾でも仕掛けられているのか。
しかしアカギは言う。比喩ではない、現実として魂に繋がっていると。
何かの比喩だろうか。まさか爆弾でも仕掛けられているのか。
しかしアカギは言う。比喩ではない、現実として魂に繋がっていると。
「その首輪は君達の魂に干渉し接続されている。ソウルジェムといったかな?分かるものには分かるだろう。
無理に外そうととした場合、魂を攻撃し肉体が崩壊するというわけだ。
…わかるかな、この意味が?そう、首輪は枷だけでなく弱点としての役目も持つ。魂が剥き出しも同然の状態だからな。
不死身の怪物も、天下無双の英雄も、等しく死に至らしめる!容易く壊れない造りにはしてあるが、明確な弱点であることに変わりはない。
これは余りにも力の差がある者同士の差を縮めるための救済措置、腕に自信がある者ほど覚えておくといい」
無理に外そうととした場合、魂を攻撃し肉体が崩壊するというわけだ。
…わかるかな、この意味が?そう、首輪は枷だけでなく弱点としての役目も持つ。魂が剥き出しも同然の状態だからな。
不死身の怪物も、天下無双の英雄も、等しく死に至らしめる!容易く壊れない造りにはしてあるが、明確な弱点であることに変わりはない。
これは余りにも力の差がある者同士の差を縮めるための救済措置、腕に自信がある者ほど覚えておくといい」
…心臓が、萎縮する。
それが真実なら、心臓に針が突き刺さっているようなものだ。
文字通り命を握られているではないか。
それが真実なら、心臓に針が突き刺さっているようなものだ。
文字通り命を握られているではないか。
「しかし安心したまえ。さっきも言ったが首輪が機能するのにはいくつか条件がある。
ひとつ、会場の外へ出た場合。
戦いを放棄し脱出しようとしてると見なしこちらからペナルティを加える。具体的には『全身の激痛』だ。
エリア外にいる限り痛みは継続し、30秒経っても外にいるようならば魂が砕ける。痛みだけで発狂するかもしれんがな。
ひとつ、会場の外へ出た場合。
戦いを放棄し脱出しようとしてると見なしこちらからペナルティを加える。具体的には『全身の激痛』だ。
エリア外にいる限り痛みは継続し、30秒経っても外にいるようならば魂が砕ける。痛みだけで発狂するかもしれんがな。
ふたつ、12時間経っても敗者が出ない場合。
一人として死者が出ない時は全員の首輪が作動し全滅する。
そうなった時点でノーゲーム、勝者はなしだ。
一人として死者が出ない時は全員の首輪が作動し全滅する。
そうなった時点でノーゲーム、勝者はなしだ。
そしてみっつ、こちらが指定した禁止エリアに侵入した場合だ。
禁止エリアとは6時間ごとに行う定期放送の際に伝える場所のことだ。地図を見ればすぐに分かるだろう。
放送より1時間後、3時間後、5時間後に3つ適用される。指定した場所はエリア外と同じ扱いになる。ペナルティも同様だ。」
禁止エリアとは6時間ごとに行う定期放送の際に伝える場所のことだ。地図を見ればすぐに分かるだろう。
放送より1時間後、3時間後、5時間後に3つ適用される。指定した場所はエリア外と同じ扱いになる。ペナルティも同様だ。」
空間は、神父の宣教を聞く教会のように静まり返っている。
少なくとも、この場で動いてひと悶着を起こす気は全員から失せていた。
誰も立っていない、僅かな灰だけが残る石版を誰かが眺めていた。
少なくとも、この場で動いてひと悶着を起こす気は全員から失せていた。
誰も立っていない、僅かな灰だけが残る石版を誰かが眺めていた。
「さて、ルール説明を続けよう。
君達の手元にはひとつのデバイスが渡されているはずだ。それには戦いを続けるために必要なものが支給されている。
今言ったルールの一覧に、水に食料に会場の地図といった基本支給品、さらにランダムに様々な道具を入れておいた。
強力な武器、特殊なアイテム、役に立たない小道具、何があるかは運次第だ」
君達の手元にはひとつのデバイスが渡されているはずだ。それには戦いを続けるために必要なものが支給されている。
今言ったルールの一覧に、水に食料に会場の地図といった基本支給品、さらにランダムに様々な道具を入れておいた。
強力な武器、特殊なアイテム、役に立たない小道具、何があるかは運次第だ」
ポケットに隠されてた、あるいは足元に置かれていた機械を手に取る。
現代的なスマートフォンの形をしており、高い技術力が窺える。
現代的なスマートフォンの形をしており、高い技術力が窺える。
「道具の引き出し方は簡単だ。パネルを操作し目的の品をクリックすればいい。それで手元に転送され、もう一度押せば元に戻る。
ただし、制約としてデバイスには予め登録してあるものしか送れない。会場にある道具を送ることはできないわけだ。
そしてデバイスには『容量』がある。複数の品、巨大な荷物を持ち運ぶことはできない。ある程度の取捨選択が必要になるだろう。
機械の扱いに明るくない者は苦労するかもしれんが、そこは努力してほしい。
まあそもそも知能があるのか疑わしい者もいるが―――それには直接渡しておくとしよう」
ただし、制約としてデバイスには予め登録してあるものしか送れない。会場にある道具を送ることはできないわけだ。
そしてデバイスには『容量』がある。複数の品、巨大な荷物を持ち運ぶことはできない。ある程度の取捨選択が必要になるだろう。
機械の扱いに明るくない者は苦労するかもしれんが、そこは努力してほしい。
まあそもそも知能があるのか疑わしい者もいるが―――それには直接渡しておくとしよう」
「そう、言い忘れていた。先ほど言った褒賞についてだが、金や権力といったチンケなものじゃない。
正確には、それもまた選択肢のひとつと言っておこうか。
ありきたりなものだが―――勝利者にはあらゆる願いをひとつだけ叶えてやることができる。
金は勿論のこと、死者の復活、世界の支配、より限定的な範囲での願い。それを願う心が強いほどより大きな望みを叶えることができる。
それが夢物語でないことは、聡明な君達ならば察しがついてるのではないか?」
正確には、それもまた選択肢のひとつと言っておこうか。
ありきたりなものだが―――勝利者にはあらゆる願いをひとつだけ叶えてやることができる。
金は勿論のこと、死者の復活、世界の支配、より限定的な範囲での願い。それを願う心が強いほどより大きな望みを叶えることができる。
それが夢物語でないことは、聡明な君達ならば察しがついてるのではないか?」
正体不明の空間。
空の戦士を撃ち落とした怪獣。
魂に繋がれたという首輪。
そして、それぞれの世界にある願望器の力。
付け入る隙はある。しかし、反論できるだけの情報もなかった。
空の戦士を撃ち落とした怪獣。
魂に繋がれたという首輪。
そして、それぞれの世界にある願望器の力。
付け入る隙はある。しかし、反論できるだけの情報もなかった。
「これで説明は終わりだ。分からないことがあればデバイスのにあるルールを確認するといい。
それでもなお棄権するというなら―――止めはしない、そのまま飛び降りるといい。
何処に繋がっているかは、私にもわからんがね」
それでもなお棄権するというなら―――止めはしない、そのまま飛び降りるといい。
何処に繋がっているかは、私にもわからんがね」
…恐る恐る、下を見る。
虚空は深海のように底がなく、どこまでも果てなく続いている。
深淵の先に潜む闇が、こちらを覗いてる気がした。
虚空は深海のように底がなく、どこまでも果てなく続いている。
深淵の先に潜む闇が、こちらを覗いてる気がした。
「…………棄権者はいないようだな。安心した。
ではこれより戦いを始める。勝ちたくば、生きたくば―――ひたすらに戦い続けろ!
その果てに、『神』は残った者の前に現れるだろう」
ではこれより戦いを始める。勝ちたくば、生きたくば―――ひたすらに戦い続けろ!
その果てに、『神』は残った者の前に現れるだろう」
開会式が終わる。
石版が動きだし、それぞれ異なる方向へと移動を始める。
ある者は引き離される友に手を伸ばそうとし、
ある者は因果の宿敵に視線を届け、
ある者はこれから始まる戦いに笑みをこぼす。
進む先には『外』に繋がると思われる渦の穴が空き、乗る人物ごと石版を飲み込む。
一人、また一人と空間を抜けて姿を消していき、やがて誰もがいなくなる。
石版が動きだし、それぞれ異なる方向へと移動を始める。
ある者は引き離される友に手を伸ばそうとし、
ある者は因果の宿敵に視線を届け、
ある者はこれから始まる戦いに笑みをこぼす。
進む先には『外』に繋がると思われる渦の穴が空き、乗る人物ごと石版を飲み込む。
一人、また一人と空間を抜けて姿を消していき、やがて誰もがいなくなる。
時も空間もない沈黙と共に、運命の戦いは幕を上げた。
□□□ □□□ □□□
「こんな試みが本当に成功するのかい?」
全ての参加者が消え去った空間に、今までなかった声が響いた。
声の主はアカギの背後、石柱の上に鎮座している。
白い体、赤い瞳、ぬいぐるみのように可愛らしい造形には、文字通り人形の如く感情というものが入ってない。
声の主はアカギの背後、石柱の上に鎮座している。
白い体、赤い瞳、ぬいぐるみのように可愛らしい造形には、文字通り人形の如く感情というものが入ってない。
「太古から共にいた割には人間のことを分かってないのだな。
成功するさ。必ずな。人に感情がある限り殺し合いは終わることはない」
成功するさ。必ずな。人に感情がある限り殺し合いは終わることはない」
「成る程、その意見には賛成だ。確かに人類史の中で僕らが戦争を見なかった時代はない。
数多の世界から人間を集め因果を集中させた状態でそれを行えば、今までにないほどの莫大なエネルギーが発生する。
それこそ新しい宇宙を創成するのも不可能ではないだろう」
数多の世界から人間を集め因果を集中させた状態でそれを行えば、今までにないほどの莫大なエネルギーが発生する。
それこそ新しい宇宙を創成するのも不可能ではないだろう」
得心がいったように頷くインキュベーター―――通称キュゥべえ。
その考えは常に利益だけを追い求め、巻き込まれた者の心情など微塵も気にしてはいない。
だからこそ、アカギも彼らがパートナーに相応しいと判断していた。
その考えは常に利益だけを追い求め、巻き込まれた者の心情など微塵も気にしてはいない。
だからこそ、アカギも彼らがパートナーに相応しいと判断していた。
「ところで……先程の仮面ライダー、だったか。何故彼にベルトを渡したままだった?」
先ほどの一連の出来事の中にあったサイガの襲撃、あれは予定にないイレギュラーだった。
もっとも、どんな事態が起ころうとも即座に対処できる準備を整えてはいたが。
もっとも、どんな事態が起ころうとも即座に対処できる準備を整えてはいたが。
「すいませ~ん。ついうっかりして没収し忘れちゃいました、てへっ☆」
全く悪びれた様子もなく謝罪するのはキュゥべえ、ではない。いつの間にか割り込んでいる青い服を着た妙齢の女性だ。
近未来的な服装は、異次元然とした神殿においてはあまりに不釣合いだった。
近未来的な服装は、異次元然とした神殿においてはあまりに不釣合いだった。
「アレはお前たちにとって重要なものではなかったのか?」
「そうなんですよ~せっかく造った天のベルトがなくなちゃいました~。え~んえ~ん」
わざとらしいほどに泣き真似をしてみせる。嘘八百なのは明白だ。
態度こそふざけているが仕事の手際は完璧なものだ。こんな凡ミスを犯すはずがない。
態度こそふざけているが仕事の手際は完璧なものだ。こんな凡ミスを犯すはずがない。
「まあいいじゃないか。おかげで余計な時間を短縮できた。どの道何人かは実験体にする気だったんだろう?
むしろ実力のある者を始末することで彼らに恐怖感を与えて抑止力とすることもできただろう」
むしろ実力のある者を始末することで彼らに恐怖感を与えて抑止力とすることもできただろう」
「きゃーキュゥべえちゃん優しいー!お姉さん抱きしめちゃう!」
「僕は単に効率的な面を指摘しただけなんだけど…むぎゅ」
「……まあ、いい。だが今後は予め伝えておくことだ」
実際、他意はないのだろう。
そうした方が効率や演出面でよく、かう自分なら楽に対処できると踏んで細工をしたに過ぎない。
自分に教えなかったのもリアリティを演出させるためと、このまま儀式を任せられるかのテストをしたのだろう。
そのぐらいには彼女のことを理解しているつもりだ。
そうした方が効率や演出面でよく、かう自分なら楽に対処できると踏んで細工をしたに過ぎない。
自分に教えなかったのもリアリティを演出させるためと、このまま儀式を任せられるかのテストをしたのだろう。
そのぐらいには彼女のことを理解しているつもりだ。
「さて、そろそろ僕も行こうかな」
女―――スマートレディの腕からするりとキュゥべえが抜け出す。
「あれ、キュゥべえちゃんお出かけ?」
「うん、会場までね。君達のことを信用してないわけじゃないけど、参加者達の反応を見てみたいんだ。
監視としても機能するし一石二鳥だろう?」
監視としても機能するし一石二鳥だろう?」
「あまり参加者には接触するなよ。わざわざ情報を与えてやる必要もない」
「僕としてはそうやって参加者の戦意を煽りたいんだけど……まあいいよ。元より積極的に触れ回る気はないさ」
「あーしっぽスリスリしたかったのにな~。
キュゥべえちゃんってスペアいっぱいあるんでしょ?一匹もらってもいい?」
キュゥべえちゃんってスペアいっぱいあるんでしょ?一匹もらってもいい?」
「考えとくよ」
その言葉を最後に、白い異生物は姿を消した。
青の女性もまた己の持ち場へと戻っていく。
そして今度こそ一人になったアカギは。
青の女性もまた己の持ち場へと戻っていく。
そして今度こそ一人になったアカギは。
「さあ、新世界誕生の幕開けだ」
厳かに、邪に、顔を歪ませた。
【レオ@仮面ライダー555 パラダイス・ロスト 死亡】
【残り57名】
【残り57名】