夢 ◆7WJp/yel/Y
【題目:夢】
【一幕:ある女には夢がある、希望を運ぶ絶望の夢が】
その校舎はあまり見栄えの良いものではなかった。
木造建築はよく言えば年季を感じさせ、悪く言えば古臭い。
ペンキも剥がれ落ちており、余計にそれを感じさせる。
はっきり言ってしまえおう。もうこの校舎はボロボロ、建て替えの時期なのだ。
木造建築はよく言えば年季を感じさせ、悪く言えば古臭い。
ペンキも剥がれ落ちており、余計にそれを感じさせる。
はっきり言ってしまえおう。もうこの校舎はボロボロ、建て替えの時期なのだ。
そのボロボロの校舎の前に、三人の人間が居た。
一人は野球のユニフォームを着た体格の良い男、二朱公人。
もう一人は露出の多い薄着のメイド服を着た女性、夏目准。
最後の一人は色気のない軍服に痛んだ髪、そして冷たい目が特徴的な女性、ヘルガ。
その三人は一人の少女に会いに来ていた。
この殺し合いに乗ってしまったと思われる少女、芳槻さらを止めるつもりなのだ。
恐らく学校に芳槻さらは居るだろう。
彼女の体はひどく傷ついていたし、ヘルガが言うには精神的にも相当な疲労があったらしい。
ならば、最も近い施設であるこの学校に身を隠している可能性は非常に高い。
二朱と准は顔を見合わせて、何も言わずにうなづく。
彼女を止める最後の決意を決めたと言うことなのだろう。
下手をしなくても殺されてしまうのだ、引き返すならここだろう。
だが、最後の最後に引くようなことはしなかった。
それについてヘルガは問いただす、さながらその中にある恐怖を見透かすように。
一人は野球のユニフォームを着た体格の良い男、二朱公人。
もう一人は露出の多い薄着のメイド服を着た女性、夏目准。
最後の一人は色気のない軍服に痛んだ髪、そして冷たい目が特徴的な女性、ヘルガ。
その三人は一人の少女に会いに来ていた。
この殺し合いに乗ってしまったと思われる少女、芳槻さらを止めるつもりなのだ。
恐らく学校に芳槻さらは居るだろう。
彼女の体はひどく傷ついていたし、ヘルガが言うには精神的にも相当な疲労があったらしい。
ならば、最も近い施設であるこの学校に身を隠している可能性は非常に高い。
二朱と准は顔を見合わせて、何も言わずにうなづく。
彼女を止める最後の決意を決めたと言うことなのだろう。
下手をしなくても殺されてしまうのだ、引き返すならここだろう。
だが、最後の最後に引くようなことはしなかった。
それについてヘルガは問いただす、さながらその中にある恐怖を見透かすように。
「行くのか?」
「ええ、行きますよ。そのために来たんですから」
「ええ、行きますよ。そのために来たんですから」
半ば予想していたとはいえ簡単に言う二朱を見て、やはりこの男は奇妙だとヘルガは感じた。
どうも落ち着きすぎているような気がする。
見るからに普通の人間だ、剣呑とした雰囲気は一切として感じない。
なのに、この落ち着き具合は異様と言わざるを得ない。
どうも落ち着きすぎているような気がする。
見るからに普通の人間だ、剣呑とした雰囲気は一切として感じない。
なのに、この落ち着き具合は異様と言わざるを得ない。
「死ぬってのはすごい怖いですよ。銃を向けられただけで泣いちゃいそうなぐらい怖いですよ」
「それが普通だろうな」
「でもね、俺にはもっと怖いことがあるって最近ようやくわかったんですよ」
「それが普通だろうな」
「でもね、俺にはもっと怖いことがあるって最近ようやくわかったんですよ」
二朱は笑いながら言い放つ。死ぬよりも怖いことがあると、平然と言ったのだ。
それは違うのではないか、ヘルガはそう思う。
死は絶対であるが故に恐れられなければいけない。
でなくては、死を恐れなくては人は何を恨めば良い。
全ての恐怖の先には死がある。
食物が少なくなることも、住む場所が失くなることも、衣服を着れなくなることも、全て死が待っている。
銃を向け食物を奪い住居を破壊する。
そんな誰にでも分かる明確な死をもたらす存在。
ヘルガの目的はそんな存在を、憎しみの大本を作ることなのだ。
言っておくがヘルガは殺人狂でも人間をとことん毛嫌いしているわけでもない。
ただ、死と言う分かりやすい恐怖がより効果的だと思っているからこそ暴力と言う悪を選んだのだ。
それは違うのではないか、ヘルガはそう思う。
死は絶対であるが故に恐れられなければいけない。
でなくては、死を恐れなくては人は何を恨めば良い。
全ての恐怖の先には死がある。
食物が少なくなることも、住む場所が失くなることも、衣服を着れなくなることも、全て死が待っている。
銃を向け食物を奪い住居を破壊する。
そんな誰にでも分かる明確な死をもたらす存在。
ヘルガの目的はそんな存在を、憎しみの大本を作ることなのだ。
言っておくがヘルガは殺人狂でも人間をとことん毛嫌いしているわけでもない。
ただ、死と言う分かりやすい恐怖がより効果的だと思っているからこそ暴力と言う悪を選んだのだ。
「新婚なんですよ、俺。仕事の方も順調ですしね。あ、プロ野球選手なんです。
自分で言っちゃうのもなんですけど今が人生の絶頂ってやつですね」
「それが失くなるのが怖い、ということか?」
「ですね、あんまり良いことなかった人生で支えになってた野球と支えになってくる人が居るわけですから。
それが失くなるのが怖い、それをもう感じれないのが怖い。死にはしませんよ、また一人になるだけです。
でも、銃弾が頭上で飛び交う瞬間でも『もう終りだ!』って時にはそればっかり考えてました」
「……?」
自分で言っちゃうのもなんですけど今が人生の絶頂ってやつですね」
「それが失くなるのが怖い、ということか?」
「ですね、あんまり良いことなかった人生で支えになってた野球と支えになってくる人が居るわけですから。
それが失くなるのが怖い、それをもう感じれないのが怖い。死にはしませんよ、また一人になるだけです。
でも、銃弾が頭上で飛び交う瞬間でも『もう終りだ!』って時にはそればっかり考えてました」
「……?」
「俺は、生きて帰って野球をする。たとえこれが現実だろうと夢だろうと、生きて帰って野球をします」
【二幕:ある女には夢がある、未来へと羽ばたく夢が】
「俺は、生きて帰って野球をする。たとえこれが現実だろうと夢だろうと、生きて帰って野球をします」
その二朱の言葉を聞きながら、准は考えていた。
衣装関係のブランドを立ち上げると言う自分の夢のことを。
喫茶店でウェイトレスをしているのもそのためだ。
自分でデザインしたメイド服を着て、客やマスターの等の反応を見て改良していく。
単純にお金も手に入るし、雰囲気の良いお店だから若い客も多いためファッションの勉強にもなる。
大学は既に単位を取り終わっている、普段のお茶らけた准を見ると意外かもしれないが。
彼女は純粋に必死なのだ、夢ために必死に進んでいるのだ。
そして、二朱にもそんな夢があるらしい。
准の未来へと向かっていく夢とは違う、今を維持したいと言う夢が。
何となくではあるが、二朱への親しみと言うか仲間意識が少し強くなったような気がする。
衣装関係のブランドを立ち上げると言う自分の夢のことを。
喫茶店でウェイトレスをしているのもそのためだ。
自分でデザインしたメイド服を着て、客やマスターの等の反応を見て改良していく。
単純にお金も手に入るし、雰囲気の良いお店だから若い客も多いためファッションの勉強にもなる。
大学は既に単位を取り終わっている、普段のお茶らけた准を見ると意外かもしれないが。
彼女は純粋に必死なのだ、夢ために必死に進んでいるのだ。
そして、二朱にもそんな夢があるらしい。
准の未来へと向かっていく夢とは違う、今を維持したいと言う夢が。
何となくではあるが、二朱への親しみと言うか仲間意識が少し強くなったような気がする。
そんなことを考えていると、そろそろ行こうか、と言う二朱の声が聞こえる。
行くと言うのは芳槻さらの元にと言うことだ。
芳槻さらには夢はあるだろうか、人生をかけるに値する夢は。
あるのなら説得もできるかもしれない、なければ作っていけば良い。
行くと言うのは芳槻さらの元にと言うことだ。
芳槻さらには夢はあるだろうか、人生をかけるに値する夢は。
あるのなら説得もできるかもしれない、なければ作っていけば良い。
准は腹を決めて脚を一歩踏み出す。
ザリザリと砂をふむ感触を覚えながらグラウンドへと歩いていく。
一歩一歩進むごとに死ぬかもしれないという恐怖を感じる。
両端に同じように進む二人がいるからなんとか耐えられる状態だ。
ザリザリと砂をふむ感触を覚えながらグラウンドへと歩いていく。
一歩一歩進むごとに死ぬかもしれないという恐怖を感じる。
両端に同じように進む二人がいるからなんとか耐えられる状態だ。
ちょうどグラウンドの奥にある部室棟の隣までついた、その時だった。
「……伏せろ!」
ヘルガが大声で叫び、准の頭を無理やり抑えつける。
躊躇いなく抑えつけられた為か、顔面が思い切り地面と接触してしまう。
怒りを覚えるよりも顔に傷ができたのではないかと心配してしまう。
だが、そんな考えも直ぐに聞こえてきた、パン、というタイヤがパンクした時に鳴る音とよく似たものにかき消される。
躊躇いなく抑えつけられた為か、顔面が思い切り地面と接触してしまう。
怒りを覚えるよりも顔に傷ができたのではないかと心配してしまう。
だが、そんな考えも直ぐに聞こえてきた、パン、というタイヤがパンクした時に鳴る音とよく似たものにかき消される。
「あ、ぁぁ……!」
その瞬間、隣で呻き声を出して二朱が崩れ落ちる。
准はそこでようやく理解した、襲われているということを。
素早く身を低くして部室棟の方へと目をやると、そこには黒く疾走する影があった。
こちらへ向かってきている、そう認識した瞬間には既に二朱の身体を蹴り上げていた。
取り付く島もない、積極的に殺し合いに乗った人物だ。
二朱の身体が二メートル以上吹っ飛ぶ、まるでサッカーボールのようだ。
准はそこでようやく理解した、襲われているということを。
素早く身を低くして部室棟の方へと目をやると、そこには黒く疾走する影があった。
こちらへ向かってきている、そう認識した瞬間には既に二朱の身体を蹴り上げていた。
取り付く島もない、積極的に殺し合いに乗った人物だ。
二朱の身体が二メートル以上吹っ飛ぶ、まるでサッカーボールのようだ。
「動くな!」
そして、ヘルガが銃を取り出して黒い影へと向ける。
影も素早く銃をヘルガへと向ける、躊躇いのない素早い動きだ。
しかも、准の姿を射竦めるように睨みつけて牽制を入れることも忘れていない。
准はようやくそこで影の正体が金髪の女だと気づいた、かなり整った容姿をしている。
一つの無駄もない、明らかに暴力に慣れた人間の動きだ。
影も素早く銃をヘルガへと向ける、躊躇いのない素早い動きだ。
しかも、准の姿を射竦めるように睨みつけて牽制を入れることも忘れていない。
准はようやくそこで影の正体が金髪の女だと気づいた、かなり整った容姿をしている。
一つの無駄もない、明らかに暴力に慣れた人間の動きだ。
「……」
「……」
「……」
ヘルガと女のにらみ合いが続く。
だが、十秒ほど経った時に女が容赦なく引き金を引いた。
相手の殺気のようなものが伝わったのか、ヘルガが撃つよりも早く横へと転げるが右肩に銃弾が直撃する。
これでヘルガはその銃を撃てない、それどころか移動のスピードも落ちる。
二朱は銃で撃たれた、呻き声を上げながら身じろいているのを見る限り死んではいないようだが。
ヘルガは肩を撃たれ拳銃を取り落とした、痛みのあるあの身体では満足な狙いをつけられないだろう。
ならば、次の標的は唯一五体満足な准のはずだ。
これでヘルガはその銃を撃てない、それどころか移動のスピードも落ちる。
二朱は銃で撃たれた、呻き声を上げながら身じろいているのを見る限り死んではいないようだが。
ヘルガは肩を撃たれ拳銃を取り落とした、痛みのあるあの身体では満足な狙いをつけられないだろう。
ならば、次の標的は唯一五体満足な准のはずだ。
勇気を奮えと先程から煩いほどに頭が訴えかけてくるが、憎いことに心が怯えきっている。
所詮、准はただの一大学生なのだから無理もないだろう。
目の前の女は躊躇いなど欠片もなく人へと引き金を絞った。
所詮、准はただの一大学生なのだから無理もないだろう。
目の前の女は躊躇いなど欠片もなく人へと引き金を絞った。
「……」
女は銃を仕舞い、ツカツカと准へと向かってくる。
准の心が折れかかっていると判断し、銃弾を節約する腹づもりなのだろう。
動かなければいけない、そう思いながらも身体が動かない。
その時に、突然後方からスパナが飛んできた。
それを女は顔を動かすだけの動きでよけるが、僅かに驚きの表情が混じっている。
准の心が折れかかっていると判断し、銃弾を節約する腹づもりなのだろう。
動かなければいけない、そう思いながらも身体が動かない。
その時に、突然後方からスパナが飛んできた。
それを女は顔を動かすだけの動きでよけるが、僅かに驚きの表情が混じっている。
「……!」
「くそ、避けられたか」
「くそ、避けられたか」
最初に撃たれた二朱が立ち上がっている。
どうやら当たった場所は腕だったようで、致命傷は免れているようだ。
スパナはたしか二朱の支給品だった。
女は准とヘルガと二朱の三人を見比べ、僅かに位置を変えて全員を見晴らせる場所へと移った。
その動き一つとっても手馴れているように見える。
どうやら当たった場所は腕だったようで、致命傷は免れているようだ。
スパナはたしか二朱の支給品だった。
女は准とヘルガと二朱の三人を見比べ、僅かに位置を変えて全員を見晴らせる場所へと移った。
その動き一つとっても手馴れているように見える。
「……そっちからね」
ポツリと女は呟いて、二朱の方へと向き直る。
三人の様子を見て二朱が一番動けると判断したのだろう。
そして、その二朱から潰すことにした。
それをヘルガも理解したのか、素早く准の方へと詰め寄る。
三人の様子を見て二朱が一番動けると判断したのだろう。
そして、その二朱から潰すことにした。
それをヘルガも理解したのか、素早く准の方へと詰め寄る。
「銃はあるか?」
「え? い、いえ、ありませんけど……」
「ちっ……他に武器になりそうなものは?」
「スコップぐらい……」
「え? い、いえ、ありませんけど……」
「ちっ……他に武器になりそうなものは?」
「スコップぐらい……」
その返答にもう一度ヘルガは舌打ちする。
銃ならばどうして自分のを使わないのだろう、と准は思った。
准の視線を感じたのか、ヘルガは銃を取り出して引き金を絞ってみせた。
銃弾は、出ない。そして准にだけ聞こえるような小声で「モデルガンだ」とつぶやく。
「だからあの女を撃てなかった、しかもあの女はそのことに気づいた」とも付け加える。
銃ならばどうして自分のを使わないのだろう、と准は思った。
准の視線を感じたのか、ヘルガは銃を取り出して引き金を絞ってみせた。
銃弾は、出ない。そして准にだけ聞こえるような小声で「モデルガンだ」とつぶやく。
「だからあの女を撃てなかった、しかもあの女はそのことに気づいた」とも付け加える。
「くっ……かぁ!」
【三幕:ある男には夢がある、安穏な日常と言う夢が】
「くっ……かぁ!」
鳩尾に信じられない衝撃が走る。
だが、こんなもの野球ボールと比べたら、と思いなんとか耐える。
そして手に持ったナイフで腕を斬りつけようとするが、スルリと避けられる。
まるで親に遊ばれている子供のようだ。
だが、こんなもの野球ボールと比べたら、と思いなんとか耐える。
そして手に持ったナイフで腕を斬りつけようとするが、スルリと避けられる。
まるで親に遊ばれている子供のようだ。
「……」
女性は冷たい目のまま握りこんだ拳を振るってくる。
フェイントもなにもない、ただのストレートを避けることもできずにまともに食らう。
肩から感じる痛みと高山の山頂ではないかと思うほどの息苦しさが原因だ。
このままでは素手で嬲り殺される。
冗談でも誇張でもなく二朱はそう思った。
フェイントもなにもない、ただのストレートを避けることもできずにまともに食らう。
肩から感じる痛みと高山の山頂ではないかと思うほどの息苦しさが原因だ。
このままでは素手で嬲り殺される。
冗談でも誇張でもなく二朱はそう思った。
だが、その瞬間に女は直ぐに後ろへと飛び下がる。
スコップを構えたヘルガとナイフを持った准が居たからだ。
その光景に僅かに目を見開いたが、次の瞬間に直ぐに銃を構え直す。
三対一ならば銃を使う必要があるという考えだろう。
確かに三人が一斉にかかってこられた場合には紛れがあるかもしれない。
女はどこまでも冷静だった。
スコップを構えたヘルガとナイフを持った准が居たからだ。
その光景に僅かに目を見開いたが、次の瞬間に直ぐに銃を構え直す。
三対一ならば銃を使う必要があるという考えだろう。
確かに三人が一斉にかかってこられた場合には紛れがあるかもしれない。
女はどこまでも冷静だった。
膠着状態が続き、最初に脚を踏み出したのは二朱だった。
右手に持ったナイフを前に突き出しながら突進する。
女はそれを落ち着いてよけて、腹に膝を叩き込む。
崩れ落ちる二朱を眺めずに、追撃を狙っていたヘルガのスコップをさらに避ける。
准はそれを呆然と眺めていた。
まるでボクサーとチンピラの喧嘩。
チンピラの攻撃は当たりもせずにダンスのように軽やかにボクサーに避けられる。
右手に持ったナイフを前に突き出しながら突進する。
女はそれを落ち着いてよけて、腹に膝を叩き込む。
崩れ落ちる二朱を眺めずに、追撃を狙っていたヘルガのスコップをさらに避ける。
准はそれを呆然と眺めていた。
まるでボクサーとチンピラの喧嘩。
チンピラの攻撃は当たりもせずにダンスのように軽やかにボクサーに避けられる。
「准ちゃん! 逃げて!」
倒れ込んでいた二朱がそう叫ぶが、准は動けない。
恐怖と義務感の板ばさみになり、勇敢に前へと進むことも惨めに後ろへ退くこともできない。
准の動かない様子を見て、何度も二朱は叫び続ける。
それを女はうざったく思ったのか、ヘルガのスコップを蹴りで弾き飛ばすと。
恐怖と義務感の板ばさみになり、勇敢に前へと進むことも惨めに後ろへ退くこともできない。
准の動かない様子を見て、何度も二朱は叫び続ける。
それを女はうざったく思ったのか、ヘルガのスコップを蹴りで弾き飛ばすと。
――――パン
再び二朱へと向かった引き金を絞った。
今度は肩ではなく、心臓へと向けて。
今度は肩ではなく、心臓へと向けて。
「あ……ああ……!」
その様子に声をあげる准、女は相変わらず冷静に二人を眺めている。
人を殺したというのに全く動揺していない。
次はどちらを殺すべきか、どれが最善か。そんなことを考えている顔だ。
だが、直ぐにその顔が驚愕と痛みに歪んだ。
人を殺したというのに全く動揺していない。
次はどちらを殺すべきか、どれが最善か。そんなことを考えている顔だ。
だが、直ぐにその顔が驚愕と痛みに歪んだ。
「つ!……なっ!?」
そこには女の右腕にナイフを突き立てた二朱の姿が会った。
荒い息をつきながら、しがみつくようにして女にナイフを立てている。
荒い息をつきながら、しがみつくようにして女にナイフを立てている。
「二朱さん!」
心臓に打ち抜かれても、人間は直ぐに死なない。
夢の中とはいえ二朱は死にそうな目に何度も遭い、生きてきた。
人よりも痛みや死の恐怖に強いが故の行動だった。
しかし、女は痛みに耐えながらも冷静な行動を崩さなかった。
女は素早くナイフを抜き取り、代わりに二朱の目へと突き刺す。
二朱は声にならない声を上げて苦しむ。
そこから女はさらに固めに人差し指を突っ込んで、眼球をナイフで切り取った。
夢の中とはいえ二朱は死にそうな目に何度も遭い、生きてきた。
人よりも痛みや死の恐怖に強いが故の行動だった。
しかし、女は痛みに耐えながらも冷静な行動を崩さなかった。
女は素早くナイフを抜き取り、代わりに二朱の目へと突き刺す。
二朱は声にならない声を上げて苦しむ。
そこから女はさらに固めに人差し指を突っ込んで、眼球をナイフで切り取った。
ひどい、と准が思うよりも早くにそれを持って女は去っていた。
ヘルガも肩を抑えながらそれを見つめる。
准もぼうっと眺めながら、はっ、として二朱の側へと駆け寄る。
ヘルガも肩を抑えながらそれを見つめる。
准もぼうっと眺めながら、はっ、として二朱の側へと駆け寄る。
「二朱さん!二朱さん!」
必死に准は二朱へと呼びかける。
だが、瀕死の際である二朱はそれが聞こえていない。
だが、瀕死の際である二朱はそれが聞こえていない。
「……婆ちゃん」
何も見えない目で、何かを見ながら二朱は空へと手を突き出した。
「にい、ちゃん……」
血の涙を流しながら、その名前をつぶやいた。
「……」
最後に、声にはならなかったものの口を動かした。
そして、悲しんでいるような笑っているような顔をしながら。
二朱公人は、死んだのだ。
そして、悲しんでいるような笑っているような顔をしながら。
二朱公人は、死んだのだ。
【二朱公人@パワプロクンポケット2 死亡】
【残り35名】
【残り35名】
【四幕:ある女には夢がある、泥溜りの横で輝く夢が】
リンは自分の右腕に生じた傷を眺めていた。
骨折はしていないだろう、精々が打撲程度だ。
拳を開け閉めしたり手首を動かしたりして、銃を撃つ際に支障がないかをチェックする。
……痛みがある。耐えることはもちろん可能だが、銃を撃つ際に身体が嫌がるぐらいの痛みだ。
ここであの学校に居る少女も含めた三人を襲うのは悪手だ。
銃の照準が定まらない今、しかも限り有る銃弾が余分に減ってしまうかもしれない。
第五回放送までは先が長い。ここで焦って万が一が起こってしまうのが一番最悪のケースだ。
ならば、休憩。その間にこの探知機の充電もしておこう。
そうと決めれば行動は早い、リンは短い間で荒く切り取った眼球を眺める。
これで二人目、残りは一人。
三人ならば直ぐに終わるだろう、気を抜けばこちらが返り討ちにあってしまうが。
骨折はしていないだろう、精々が打撲程度だ。
拳を開け閉めしたり手首を動かしたりして、銃を撃つ際に支障がないかをチェックする。
……痛みがある。耐えることはもちろん可能だが、銃を撃つ際に身体が嫌がるぐらいの痛みだ。
ここであの学校に居る少女も含めた三人を襲うのは悪手だ。
銃の照準が定まらない今、しかも限り有る銃弾が余分に減ってしまうかもしれない。
第五回放送までは先が長い。ここで焦って万が一が起こってしまうのが一番最悪のケースだ。
ならば、休憩。その間にこの探知機の充電もしておこう。
そうと決めれば行動は早い、リンは短い間で荒く切り取った眼球を眺める。
これで二人目、残りは一人。
三人ならば直ぐに終わるだろう、気を抜けばこちらが返り討ちにあってしまうが。
「とにかく、焦らずに、スピーディーに……」
黒羽根あやかと共にいるからと言って茜の安全が100%保証されたわけではない。
むしろ、強者と出会った場合に見捨てられる可能性の方が高い。
だからこそリンは安全確実に素早く残りの一人を殺さなければいけない。
確実に自分が守れるように茜の側で守ってやらねばならない。
その際に茜がリンのことをどう思うか、それは想像に難くない。
否定されるか、されなくても元の関係には戻れないだろう。
それでいい、元々リンが一方的に打ち切った関係なのだ。
むしろ、強者と出会った場合に見捨てられる可能性の方が高い。
だからこそリンは安全確実に素早く残りの一人を殺さなければいけない。
確実に自分が守れるように茜の側で守ってやらねばならない。
その際に茜がリンのことをどう思うか、それは想像に難くない。
否定されるか、されなくても元の関係には戻れないだろう。
それでいい、元々リンが一方的に打ち切った関係なのだ。
リンはかちゃりと銃を叩いて、一先ず役場へと向かうことにした。
そこで身体を休めてから、最後の一人を殺しに行く。
金色の髪を流しながら、彼女はさっそうと立ち去っていた。
そこで身体を休めてから、最後の一人を殺しに行く。
金色の髪を流しながら、彼女はさっそうと立ち去っていた。
【F-3/一日目/午前】
【リン@パワプロクンポケット8】
[状態]右腕裂傷
[装備]グロッグ19(5/15)、ナイフ
[道具]支給品一式×3、劣化版探知機、充電器、ヒヨリンセット(化粧品中消費)、支給品一覧表、島岡・二朱の両眼
[思考]
基本:一先ずノルマの三人殺しはクリアしておく。
1:八神と茜は何としてでも生き残らせる。
2:劣化版でない探知機が存在するのなら入手してしておきたい。
3:第五回放送の前に役場へと向かう。
【リン@パワプロクンポケット8】
[状態]右腕裂傷
[装備]グロッグ19(5/15)、ナイフ
[道具]支給品一式×3、劣化版探知機、充電器、ヒヨリンセット(化粧品中消費)、支給品一覧表、島岡・二朱の両眼
[思考]
基本:一先ずノルマの三人殺しはクリアしておく。
1:八神と茜は何としてでも生き残らせる。
2:劣化版でない探知機が存在するのなら入手してしておきたい。
3:第五回放送の前に役場へと向かう。
【終幕:ある男には夢がある、愛しい少女を救う夢が】
「二朱、さん……」
「……」
「……」
准は泣き崩れるように二朱の遺体にしがみつく。
ヘルガはそれを痛ましい表情で眺める。
女はどこかに行ってしまった。
突風のように現れて、とんでもない被害を残してあっという間に去っていく。
見事な手際だ、人殺しに慣れているのではないかと勘ぐりたくなるほどに。
ヘルガはそれを痛ましい表情で眺める。
女はどこかに行ってしまった。
突風のように現れて、とんでもない被害を残してあっという間に去っていく。
見事な手際だ、人殺しに慣れているのではないかと勘ぐりたくなるほどに。
「夏目……私たちは芳槻さらを」
「……」
「二朱もそう思っていたんだろう? 芳槻さらを止めようと、そう思っていた」
「…………わかってます。わかってる、けど」
「……」
「二朱もそう思っていたんだろう? 芳槻さらを止めようと、そう思っていた」
「…………わかってます。わかってる、けど」
二朱は准の所為で死んだようなものだ。
准がもっとしっかりとした、不気味なまでに冷静な女だったら二朱は死ななかった。
ヘルガのように動けていれば、二朱は死ななかった。
准がもっとしっかりとした、不気味なまでに冷静な女だったら二朱は死ななかった。
ヘルガのように動けていれば、二朱は死ななかった。
「やめろ、簡単に動けるわけがないんだ」
「でも……」
「死は恐ろしいんだ、絶対なんだ。簡単に怯えを失ってはいけない。死は、恐れるものなんだ」
「でも……」
「死は恐ろしいんだ、絶対なんだ。簡単に怯えを失ってはいけない。死は、恐れるものなんだ」
准はその言葉に何も返せない。
確かに死を恐れない人間なんて居ない。准の行動はある意味ではとても人間らしいものだった。
だけど、その怯えが他人に死を与えてしまったのだ。
確かに死を恐れない人間なんて居ない。准の行動はある意味ではとても人間らしいものだった。
だけど、その怯えが他人に死を与えてしまったのだ。
「……」
「今は動くしかない。強くなるのはこれからでいい、と言っているんじゃない。
もう准はこれから強くなるしかないんだ、芳槻さらを止めると決めたのならな」
「今は動くしかない。強くなるのはこれからでいい、と言っているんじゃない。
もう准はこれから強くなるしかないんだ、芳槻さらを止めると決めたのならな」
ヘルガの言葉にうなづくだけで准は返す。
その言葉は全てに正しいのだ。
死は恐れるもの、動けるわけがない、これから強くならなくてはならない。
そのどれもが、正しい。
その言葉は全てに正しいのだ。
死は恐れるもの、動けるわけがない、これから強くならなくてはならない。
そのどれもが、正しい。
「わかりました……けど、お墓だけでも……」
そう返そうとした瞬間、それを超える大声が響いた。
「スミマセン! 芳槻さらって子を知りませんか!」
声の方向に立っていたのは、二朱公人を思わせる体格の良い野球着姿の男だった。
【F-3/学校/グラウンド/一日目/昼】
【十波典明@パワプロクンポケット10】
[状態]:「人を信じる」という感情の欠落、野球に対しての情熱
[装備]:バタフライナイフ、青酸カリ
[道具]:支給品一式
[思考・状況]基本:さらを探す、とにかく今はそれだけ。
1:目の前の二人にさらの居所を尋ねる。
[備考]
1:信頼できる人間とは「何故自分と手を組むのか、その理由を自分が理解できる人物」を指します。
2:逆に「自分の理解できない理由で手を組もうとする人間には裏がある」と考えてます。
3:さらルート攻略中に他の彼女ルートにも手を出していた可能性があります。
4:たかゆきをタケミの作ったロボットだと思っています。
5:タケミを触手を出す事の出来る生き物で、殺し合いに乗っていると思っています。
6:高坂茜とメカ亀田の名前を知りません。
7:さらが過去から連れてこられた、と思いました。
【十波典明@パワプロクンポケット10】
[状態]:「人を信じる」という感情の欠落、野球に対しての情熱
[装備]:バタフライナイフ、青酸カリ
[道具]:支給品一式
[思考・状況]基本:さらを探す、とにかく今はそれだけ。
1:目の前の二人にさらの居所を尋ねる。
[備考]
1:信頼できる人間とは「何故自分と手を組むのか、その理由を自分が理解できる人物」を指します。
2:逆に「自分の理解できない理由で手を組もうとする人間には裏がある」と考えてます。
3:さらルート攻略中に他の彼女ルートにも手を出していた可能性があります。
4:たかゆきをタケミの作ったロボットだと思っています。
5:タケミを触手を出す事の出来る生き物で、殺し合いに乗っていると思っています。
6:高坂茜とメカ亀田の名前を知りません。
7:さらが過去から連れてこられた、と思いました。
【夏目准@パワプロクンポケット9】
[状態]:腹部に刺傷(立ち上がれる程度には回復)、深い悲しみ
[装備]:スコップ
[道具]:支給品一式×2、スパナ、拡声器、不明支給品0~4個
[思考]
1:二朱さん……
2:九条さんに会いたい。
3:さらを助けてあげたい。
[状態]:腹部に刺傷(立ち上がれる程度には回復)、深い悲しみ
[装備]:スコップ
[道具]:支給品一式×2、スパナ、拡声器、不明支給品0~4個
[思考]
1:二朱さん……
2:九条さんに会いたい。
3:さらを助けてあげたい。
【ヘルガ@パワプロクンポケット6裏】
[状態]:右肩に怪我
[装備]:モデルガン、ナイフ、軍服
[道具]:ラッキョウ一瓶、支給品一式
[思考・状況]
基本:亀田という悪を育てるために亀田に立ち向かう。
1:あまりにも亀田に対抗する戦力が大きくなってきた場合はそれを削る。
2:謎の男に対する驚き。
[状態]:右肩に怪我
[装備]:モデルガン、ナイフ、軍服
[道具]:ラッキョウ一瓶、支給品一式
[思考・状況]
基本:亀田という悪を育てるために亀田に立ち向かう。
1:あまりにも亀田に対抗する戦力が大きくなってきた場合はそれを削る。
2:謎の男に対する驚き。
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078:RUN! RUN!! RUN!!! | 十波典明 | 090:CHERRY BLOSSOM~桜色の空~ |
085:揺れる想いは万華鏡 | 夏目准 | 090:CHERRY BLOSSOM~桜色の空~ |
085:揺れる想いは万華鏡 | 二朱公人 | GAME OVER |
083:揺れる想いは万華鏡 | ヘルガ | 090:CHERRY BLOSSOM~桜色の空~ |
082:姉妹 | リン | 104:一歩手前“she loses” |