総人口約80万人の中核都市『月夜原市(つきよばらし)』。
『月夜原連続猟奇殺人事件』は未解決のまま、初期報道から2ヶ月が経過した今もなお、新たなる被害者を出し続けていた。
事件発生から程無くして、警視庁より公安調査庁に出向してきた女性調査官『響 千佳(ひびき
ちか)』。
響により、半ば強引な方法で事件調査に協力させられる暴力団幹部『柳 武(やなぎ たけし)』。
事件の背景に、ただならぬものを感じた柳は、予てより密かな繋がりのある探偵『南野
たける(みなみの たける)』に協力を依頼する。
果たして、調査官、ヤクザ、探偵は警察とは別に、各々の流儀で事件に対峙すべく独自調査を行っていく・・・・・・。
一方その頃、名門私立加茂灘学園(かもなだがくえん)に通う大学生『白沢 みちる(はくたく
みちる)』は、学園担当教官から寮への入居を勧められていた。
原則全寮制の小中高大一貫校である同校にあって彼は歴代トップクラスの成績を収めている。
実家から電車通学している白沢は以前から度々入寮を勧められたが、彼には少々複雑な家庭の事情があった・・・・・・。
月夜原市郊外。牧歌的な田園風景が地平線まで続く筧崎(かけさき)集落で菜園農家を営む『森永 のぶ(もりなが のぶ)』は、長年培ってきた有機栽培に誇りを持っている。
彼の作る野菜には県外から注文が付くほど人気があった。
妻子に恵まれ農業も順調な彼の人生はまさに順風満帆である。
さて、そんな森永の野菜を誰よりも愛する老人がいた。
筧崎(かけさき)集落の大地主にして、白沢(はくたく)家第十一代目当主『白沢 功(はくたく いさお)』その人である。
10年程前に、娘夫婦を事故で亡くしたこの老人にとって、孫のみちるはただ一人の肉親であった。
齢い80を超える老眼は、しかし猛禽の如く厳粛であり、老体から沸き立つ気概はまた古強者の様相を呈している。
それもその筈、白沢家は戦国の乱世より今日に至るまで、あらゆる権力者から、裏の世界のブランドとしてその名を知られている。
忍の技術を今に伝える年老いた暗殺者。それが功のもう一つの顔である。