1:帰りたい
不意によみがえる、昨夜の記憶。
泣きながらすがり付いてきて、震える志乃の小さな体。
舞人は、ぎりっと拳を握り締めた。
「俺は……俺は何も出来ないただのへっぽこだ」
自分を卑下するようなその言葉に、一瞬ルネの表情がこわばる。
「だけど、俺を頼ってくれる女の子に悲しい思いはさせたくない」
「ま、まいとぉ……」
「俺は帰りたい。いや……志乃と一緒に、元の世界へ帰る!」
もう迷いはなかった。
志乃を不安にさせたくなかった。
ルネに魔法をかけられようと、それがどれだけ強い魔法であろうと、自分の能力で打ち消してでも帰ってみせる。
舞人の瞳に、強い意志の炎が垣間見えた。
「……そうですか」
軽く息を吐き、ルネは目を閉じた。
「……」
舞人がいつでも魔法に耐えられるように軽く身構えた次の瞬間、
「……わかりました」
「え」
次にルネが目を開いたとき、そこには柔和な微笑が浮かんでいた。
「勇者様の強い決意、しっかりと伝わってきました……」
残念に思う気持ちもあるのだろうが、それでもルネは微笑みながら続けた。
「確かに、異世界の勇者の召喚は、召喚される側の気持ちはまったく考えられていませんでしたね……」
ルネは自分の術の無責任さに、軽くため息をこぼした。
「以前召喚した勇者の好意に甘えすぎた弊害ですね……例えどれほど強い勇者の素質があろうと、その気持ちをないがしろにするようでは、魔王と同じです」
「……ルネ」
「いいんです。実際に、有無を言わさず世界を任せようとした形になります。金銭で釣ったという捕らえ方だって出来ます」
ルネはひとしきり自嘲してから、吹っ切れたように再び快活な笑みを浮かべた。
「目が覚めた想いです、勇者マイト。召喚する側にも事情があるように、される側にも事情や気持ちもある……まったくもって、当たり前のことです」
それから立ち上がり、うんと伸びをした。
そして振り返ったその顔には、15歳の外見に似合わぬ、自分の過ちに気づき、それを正さんとする強い意志が仄見えていた。
「自分たちの世界は自分たちで何とかします。ですから、あなた方はあなた方の世界へお戻りください」
「ルネさん……ありがとうございます」
「そんな……」
「ルネ……やっぱお前、いい奴だったんだな」
「……勇者様は今まで私をどう見ていたんですか」
緊張の糸が途切れたのか、ジト目で舞人をにらむルネ。
「い、いや、別に……」
「そうそう、金銭で釣った云々の話で思い出しました。例の100万ワロスですが……」
「ぎくぅ!!」
まさか今更返せとか言い出すのではなかろうか。
元が大金だったためたくさん残っているが、魔法のメガネだなんだと細かい買い物をしているので、使っている金額も相応である。
「あれは迷惑金として受け取ってください」
「なぬ!? ホントか!」
思わず声を張り上げる舞人。
「ええ、私たちに出来ることといえば、その程度ですから」
「え?」
なにやら不穏な雲行きになってきた。
「あの……もしかしてルネさんの魔法で、元の世界へは……」
「残念ながら、ご期待に沿える魔法を私は知りません」
「な、なんだってー!? ど、どういうことなんだキバヤ……」
「どういうことなんですか、ルネさん?」
舞人の言葉を打ち消し、志乃が問いかけた。
「言葉どおりです。異世界からの召喚はいろいろと負担がかかる上、リスクも大きいのです」
「リスク……」
「そのひとつが、召喚は一方通行だということです」
「………そう、だったんですか」
嫌な予感が的中してしまった。
「ですが、出来る限りの協力は惜しまないつもりです。王家秘蔵の書庫に、何か手がかりがあるかもしれませんし、そちらの閲覧も許可します」
「いや、王家って……確かお前、建国王だったよな」
ぼそりと突っ込む舞人。
「別名、私専用の書庫ともいいます」
「最初からそういえよ……」
「ともかく、あの書庫には持ち主の私でさえ未読の蔵書も多くあります。もちろん、有能な助手もつけます」
「帰るにしても、まずは情報収集か……」
舞人はまたしても本との戦いかと思い、げんなりする。
「何事も情報収集は大事だよ。舞人がやってるゲームだってそうじゃない」
「そ、そりゃそうだけど……」
帰れる見込みはないものの、堂々と帰っていいとのお墨付きをもらえた志乃は、割と元気を取り戻していたようだ。
もうその表情に不安の色は無い。
それどころか、心なしかうれしそうな顔をしている。
「さ、舞人。お茶がすんだら、さっそく調べようね」
「お、おう……」
実際、そのとき見せた志乃の笑顔は、とても魅力的だった。
泣きながらすがり付いてきて、震える志乃の小さな体。
舞人は、ぎりっと拳を握り締めた。
「俺は……俺は何も出来ないただのへっぽこだ」
自分を卑下するようなその言葉に、一瞬ルネの表情がこわばる。
「だけど、俺を頼ってくれる女の子に悲しい思いはさせたくない」
「ま、まいとぉ……」
「俺は帰りたい。いや……志乃と一緒に、元の世界へ帰る!」
もう迷いはなかった。
志乃を不安にさせたくなかった。
ルネに魔法をかけられようと、それがどれだけ強い魔法であろうと、自分の能力で打ち消してでも帰ってみせる。
舞人の瞳に、強い意志の炎が垣間見えた。
「……そうですか」
軽く息を吐き、ルネは目を閉じた。
「……」
舞人がいつでも魔法に耐えられるように軽く身構えた次の瞬間、
「……わかりました」
「え」
次にルネが目を開いたとき、そこには柔和な微笑が浮かんでいた。
「勇者様の強い決意、しっかりと伝わってきました……」
残念に思う気持ちもあるのだろうが、それでもルネは微笑みながら続けた。
「確かに、異世界の勇者の召喚は、召喚される側の気持ちはまったく考えられていませんでしたね……」
ルネは自分の術の無責任さに、軽くため息をこぼした。
「以前召喚した勇者の好意に甘えすぎた弊害ですね……例えどれほど強い勇者の素質があろうと、その気持ちをないがしろにするようでは、魔王と同じです」
「……ルネ」
「いいんです。実際に、有無を言わさず世界を任せようとした形になります。金銭で釣ったという捕らえ方だって出来ます」
ルネはひとしきり自嘲してから、吹っ切れたように再び快活な笑みを浮かべた。
「目が覚めた想いです、勇者マイト。召喚する側にも事情があるように、される側にも事情や気持ちもある……まったくもって、当たり前のことです」
それから立ち上がり、うんと伸びをした。
そして振り返ったその顔には、15歳の外見に似合わぬ、自分の過ちに気づき、それを正さんとする強い意志が仄見えていた。
「自分たちの世界は自分たちで何とかします。ですから、あなた方はあなた方の世界へお戻りください」
「ルネさん……ありがとうございます」
「そんな……」
「ルネ……やっぱお前、いい奴だったんだな」
「……勇者様は今まで私をどう見ていたんですか」
緊張の糸が途切れたのか、ジト目で舞人をにらむルネ。
「い、いや、別に……」
「そうそう、金銭で釣った云々の話で思い出しました。例の100万ワロスですが……」
「ぎくぅ!!」
まさか今更返せとか言い出すのではなかろうか。
元が大金だったためたくさん残っているが、魔法のメガネだなんだと細かい買い物をしているので、使っている金額も相応である。
「あれは迷惑金として受け取ってください」
「なぬ!? ホントか!」
思わず声を張り上げる舞人。
「ええ、私たちに出来ることといえば、その程度ですから」
「え?」
なにやら不穏な雲行きになってきた。
「あの……もしかしてルネさんの魔法で、元の世界へは……」
「残念ながら、ご期待に沿える魔法を私は知りません」
「な、なんだってー!? ど、どういうことなんだキバヤ……」
「どういうことなんですか、ルネさん?」
舞人の言葉を打ち消し、志乃が問いかけた。
「言葉どおりです。異世界からの召喚はいろいろと負担がかかる上、リスクも大きいのです」
「リスク……」
「そのひとつが、召喚は一方通行だということです」
「………そう、だったんですか」
嫌な予感が的中してしまった。
「ですが、出来る限りの協力は惜しまないつもりです。王家秘蔵の書庫に、何か手がかりがあるかもしれませんし、そちらの閲覧も許可します」
「いや、王家って……確かお前、建国王だったよな」
ぼそりと突っ込む舞人。
「別名、私専用の書庫ともいいます」
「最初からそういえよ……」
「ともかく、あの書庫には持ち主の私でさえ未読の蔵書も多くあります。もちろん、有能な助手もつけます」
「帰るにしても、まずは情報収集か……」
舞人はまたしても本との戦いかと思い、げんなりする。
「何事も情報収集は大事だよ。舞人がやってるゲームだってそうじゃない」
「そ、そりゃそうだけど……」
帰れる見込みはないものの、堂々と帰っていいとのお墨付きをもらえた志乃は、割と元気を取り戻していたようだ。
もうその表情に不安の色は無い。
それどころか、心なしかうれしそうな顔をしている。
「さ、舞人。お茶がすんだら、さっそく調べようね」
「お、おう……」
実際、そのとき見せた志乃の笑顔は、とても魅力的だった。