戦闘宙域から離れた場所で、苛立ちながら戦いの炎を眺めていたデュークのもとに
突然ウィラード大将からの命令が届いた。

 前線に急行し、戦闘に参加せよ、という。

デュークは直ちに自らが率いる全艦に前進を指示しながら、戦場の情報を集めさせた。

副官からの報告では革命軍側は輸送艦で構成されているという。
その輸送艦で構成された敵に地球連合軍の大艦隊が圧されているとのことだった。

なぜ、強力な兵器を持つ連合軍側が輸送艦に圧されるのか?

疑問に思いながらデータを見ていたデュークは、奇妙な形状の機体の画像に目を留めた。


「これが会議に上がっていた新型のミサイル爆撃機か…」

さらに詳しくデータを見ながら、この爆撃機が放つミサイルの破壊力と命中率の高さに
デュークは息を呑んだ。



 革命軍のミサイル爆撃機から発射されるミサイルは、
範囲は限定的ながら、波動砲並みの破壊力を持った超長距離ミサイルであった。

このミサイル“バルムンク”は、従来のミサイルに比べ極めて大型のため、
爆撃機に1発しか積むことができない。
しかし、1発でもその威力は絶大であった。

その威力は水素爆弾による核融合がもたらしている。
目標物に接触すると波動砲ユニットを応用した起爆装置で起爆され、
凄まじいエネルギーを発生させるのだ。
またこれを実現する構造と推進装置によってバルムンクは従来のミサイルよりも
遥かに質量が大きく、スピードが速い。
この運動量の大きさが物理的にバルムンクを止めにくくしている要因となっている。

また強力な火器を持つ大艦隊とまともに戦っては勝機がないと踏んだハルバーは、
障害物の多い宙域での戦闘を前提に兵器開発を進めさせた。
そのためこのミサイルの敵追尾性能は地球連合軍のそれを上回る。
この強力なミサイルを艦船からではなく、機動力のある爆撃機から発射することで、
運用の柔軟性を持たせようとした。

このバルムンクの搭載機として、地球連合軍で開発されていた
航続距離延長型の戦闘機をベースに爆撃機“ストライダー”を開発し、大量に投入したのだ。



 連合軍は従来のミサイル性能に捉われるあまり、その脅威を見誤った。

また戦局に影響を与えるほどに投入することはないという判断をさせたのは、
ハルバーの先見性の勝利であった。



 「ミサイルというより、障害物が多い戦場で超長距離からピンポイントで
  波動砲を命中させるような兵器、ということか…」

 集められた情報を見ながらそう口にすると、デュークはそら恐ろしくなった。

そのとき、戦闘宙域に接近したことを副官が知らせてきたが、
デュークは考えることをやめなかった。



 …強力なミサイルを連発するということは、補給部隊が帯同しているに違いない。
ミサイル兵器が高軌道であっても、補給機までは高軌道ではあるまい。

それに、この機体が特殊なミサイルを発射することに特化しているのであれば、
他の兵装は軽微なのではないか…?
近接用の武器が省略されていることは考えられる。
もし近接用の武器があるのならば、そのまま接近する戦法も採れるだろう。

今のところ、敵軍にそういった動きはない。
また、地球連合軍の先行部隊は、このミサイルに対して距離をとることで対応しようとしたが、
その結果、苦戦を強いられている。



 「…ならば、接近するしかないな」

 そう分析したデュークは、フォースを合体させたアローヘッド部隊を
革命軍のミサイル爆撃機ストライダー隊に急襲させた。

アロー・ヘッド部隊はフォースの突撃能力と防御力を盾に、バルムンクを受け止めつつ
ストライダー隊に接近。
波動砲による一撃で帯同する補給部隊もろとも大打撃を与えた。



 デュークの攻撃によって革命軍のミサイル攻撃が中断され、
その間にウィラード大将は混乱を収束させ、艦隊を立て直した。
このときには連合軍の艦船は当初の4割を失っていたが、未だ数的優位を保っていた。

 息を吹き返した連合軍の艦隊からレーザーの閃光が放たれ、
その何本かは革命軍の艦船を貫き、数隻を撃沈させた。


 形成は連合軍優位に傾いているかに見えた。





 攻勢に転じた地球連合軍艦隊によって圧され始めた革命軍輸送艦の中で、
ハルバーは冷静に戦局を見ていた。

そのハルバーの冷静さをクルーは不思議な気持ちで見ていた。

 革命軍側は明らかに劣勢であった。


 その時、木星方面からの通信が届いた。
通信電文には、ただこう書かれていた。



         『シャンパンの蓋は開かれた』


 その通信内容を伝えられたハルバーは、全軍に号令した。


 「よし!作戦成功だ! 全軍退却!」


 クルー達は狐につままれたような表情で彼らの司令官を見ていた。




 革命軍が後退を始めたとの報告を受けたが、地球連合軍総司令官ウィラード大将は
先ほどまでのように猛進して追撃することは踏みとどまった。

小惑星帯の奥に潜んでいるかもしれない罠を思うと、進軍するのがためらわれた。


 しかし、この逡巡が革命軍にとっては助け舟となった。
革命軍の全ての艦隊がデコイを発生させ、それを盾にした。

すぐさま艦船を急速反転し、全速で戦闘宙域から離脱し始めた。


 それを見たウィラードは己の逡巡を後悔したが、
そのときにはデコイの艦隊に阻まれ、追撃することができなかった。




 敵の撤退を歯噛みする地球連合軍艦隊であったが、
それは木星方面からの通信で驚愕に変わった。

それは、機転をもって連合軍艦隊を危機から救ったデューク少将とて例外ではなかった。




         『宇宙要塞ゲイルロズ陥落せり!』



 要塞ゲイルロズとは、木星と土星の中間にある巨大軍事要塞である。

そのそばの宙域には、バイド兵器の製造工場であるギャルプ・ツーがあり、
地球連合軍宇宙艦隊にとっては、月のムーンベース、冥王星のグリトニルと並ぶ拠点であった。


 その難攻不落の要塞がグランゼーラ革命軍の手に堕ちたのだ。


 主力艦隊が不在の間に。


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最終更新:2012年08月26日 19:45