Desert Rose @ Wiki

メモ1

最終更新:

Bot(ページ名リンク)

- view
メンバー限定 登録/ログイン

長い悪夢の終わり【封印の神子と導き手

導師リリタルレンゼと気鬱


「ねぇ、お母様。私は父上に愛されている。それは分かっています。けれど私じゃあ、お国のためにもなれないのでしょうか?」
「いいえ、そんなことはありません。貴方は神子としての適正はないけれど、人を思いやる優しい心がある。どうか民のために貴方の能力を使ってあげてくださいね」

幼き頃に母はそう言い諭す。その後、王位も継げないはずだった自分は
後継者に名を連ねることになり、15歳の立君式に向かうはずだった。

 ---------

「何のつもりだ、リリタルレンゼ。私はこれから立君式に…」
「恐れながら王女殿下、父王様からの早馬で今から【塔】に向かえと」
「塔に? どうして?! 私には【神子】の適正はありません。そんなことは貴方だって」
「それがつい先日、測定した結果が…今までにないほど適正に優れていると出たのです。5人の測定士がそれを認めた以上、陛下もそれを覆すことは出来ません」
「馬鹿な! 私の結果なら私自身が測定しても適正には満たなかった。それくらいに適正はないのに、どうして!!」

 -------

「仕方がないのです、殿下」
「兄らの動向を、見張っておけば良かった。親類だといって、殺すまでは考えたことがなかったが…今日で初めて思ったぞ、リリタルレンゼ。兄姉だからといって、殺さないという考えがいけなかったのだな?」
「そんなことはございません、殿下。いつかわたくしめが、殿下を塔からお連れいたします故…」
「期待はしない。だが、私が戻ったときは…父王の玉座は私のものだ。誰にも座らせたりなどしない、絶対に」

絶対に

 ------

錬士カリステイル、王座は魔性と知る


「それで、シトリーはどうなった?」

報告に上がった錬士カリステイルは、第一王子の言葉に深く頭を下げているしかなかった。

「殿下どうかお止めになってください。シトリー王女殿下に適正はありません。そのまま続ければ気がふれるか、お亡くなりになってしまいます。あの方は別に殿下を軽んじるわけでもなければ、侵害することもなかった。なのにあんまりです」
「カリステイル。お前は私の命令だというのに異を唱えるのか?」
「いいえ、そうではありません。ですがどうか、実験をやめさせてください。塔に軟禁しておけばいいではありませんか! このままでは本当に…」
「いいのだ、カリステイル。あやつはいずれ私を脅かす。ならば死んで貰った方がよい。せめて、封印の神子としての栄誉を与えてな」

あぁ、彼は王座に狂ってしまったのだ。
慈愛深いと言われていた第一王子は、妹の王才に嫉妬して、その魔性に狂わされた。
錬士カリステイルは頭を下げたまま、王子の姿を見ることは出来なかった。

 ---------------

鉄の扉を叩く、鈍い音が響く。声はもう枯れ果てて出ない。
体がまるで自分のものではないように、深く何かが根付いているような気さえしてきた。
適正のない体に封印の神子としての術式を刻めばどうなるのか、そんなことは馬鹿でも分かっている。
この耐え難いほどの痛みと精神の苦痛で、人間ではなくなる。
既に自分が人間であるのかさえも分からなくなるほどに、痛み苦しい。

「人の子よ。いいや、魔法王国の姫君か」
「もうどちらでも良い。なんだ、化け物、口がきけたか」
「痛みはもう大丈夫か? 声は随分と掠れてしまったようだが」
「……痛みで必然的に声が出るからな。仕方のないことだ。そうでなくとも、この両手は血まみれで、細かった指もほら、この通り。裂けて腫れて、見るも無惨なほどに醜い。きっと私の姿もまた醜く変わっているのだろう」

話し相手など居ないと思っていた。だからかもしれない。
姿の見えぬ、化け物の声に耳を傾け、会話を選んでいる。

「いいや、美しいとも。姫、いいや、王よ。貴女は王だ。太古に姿を消した女神イスエラが降臨したのだと思った」
「太古の神を出して、私の機嫌取りなど大変だな? 研究者達に言われたのなら良い。私はそういうの好きじゃない」
「……機嫌など取っていない。ただ、もしもここから出たいのならば。時を待て。声を上げるな、金色の竜が大地に降りるとき、必ず貴女が天を拝める日がくる。絶対だ」
「面白いことを言うじゃないか、化け物。私はシトリー、お前は?」
「小生の名はフェスティマ。どうか天を見るときは一緒に連れて行ってくれ」

面白い化け物。
手を伸ばした先、その存在の温度を知って微笑んだ。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
記事メニュー
ウィキ募集バナー