66-905「解らないからこそさ」

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「なあ佐々木」 「なんだい親友」 「お前さ、正直、国木田みたいな奴の方が付き合いやすいんじゃないのか?」  すると佐々木は「わかってないなあ」という顔で言った。 「なんでそう思うのだい?」 「いやな」  俺からみれば正直お前の言葉は難解だ。  ああ別に面白くないとかそういう事じゃないぞ、文字通り難解なんだよ。  お前が判じ物、そう、言葉のパズルが好きなのは解ってるし、普段からそうやってるのもなんとなく解る。  けどな、俺はあくまで「なんとなく」なんだ。  ほれ前にも言ったろ? 『判じ物なら間に合ってるぜ』ってな。  そうやってお前に本音を聞こうとしたろ。   「僕の喋りは嫌いかい?」 「嫌いなら一年も一緒にいねえし、親友だなんて呼ばねえよ」  当たり前の事を聞くな。 「泣かせる事をいうね。けれど、なら何であの時はああ言ったのかな?」 「俺は頭が悪い上に鈍重な感性だそうだからな」  他の時はいい、けどあの時、お前が何か大事な事を言ってくれてる事くらいは理解してたんだよ。  お前が俺に何かを想像させたがってる事くらいは解ったんだよ。  けどな、俺は頭が悪いんだ。 「間違った形で受け止めたくなかったんだよ」  間違った形で受け止めたくないんだよ。 「だから国木田くんって訳かい?」 「まあそうだ」  視線は外さない。 「国木田のお前評は正直的確だと思う。いつか一年ぶりに会った時も当意即妙の受け答えをしてたろ?」  俺たちが九曜を連れて、国木田があの谷口のアホと連れ立っていたアレだ。  ああいう会話こそが佐々木のツレには相応しいんじゃないのか? 「くく、そうかもしれないね」  佐々木は否定しない。 「彼のやり取りは知的だと思う。彼は僕が表現しようとするところも、時にはその奥にある本意すら看破しているように思えるからね。  その一切には無駄がない。或いは意図的に無駄を生み出す事で僕を傷つけまいとしている節もある」  後から思えば国木田の佐々木評はいつも正しかったし、あの再会であっさり佐々木の長文を翻訳してのけたように  独特で難解な言葉に対する分析能力も俺より遥かに高い。  そうとも、こいつらのシンクロニティは高い。 「だからこそ僕と彼は合わないし、僕はキミが好ましいのさ」 「前者も後者も結論としておかしくないか?」 「くく、そうでもないのさ」  いつものように笑い出した。  振動が伝わる。 「キミも磁石くらいは知っているだろ? 人間もそう、似たような感性を持っている程むしろ反発しやすいものさ」  どっかで聞いた話だな。つうかお前ら別に仲が悪かったようには見えんぞ?  むしろCD貸し借りしたり仲良くなかったか? 「それは僕らが人間だからさ。付かず離れず、どちらにも都合のよい距離感、それを為せるのは人間の理性ってものだよ」 「ますますおかしいな。理性ある関係、相手に対する理解力、どちらもお前らしい関係じゃないか?」  するとますます可笑しそうに笑い出した。 「都合がよいからこそ面倒なのさ」  まあぶっちゃけようか、と前置きして 「要するにね、僕らじゃ化かしあいになっちゃうんだよ」 「僕らのタイプじゃままある事さ。  婉曲的に語るタイプ同士、意図はよく通じる。しかし婉曲的に語る者同士、ホントは本音を濁したいこともよく解るのさ。  だから近付きすぎてしまうと、意図を「隠せない」と感じ始める、隠そうとする、そうして化かしあいになる。  最初から直截な者同士ならまた違うのだろうけれどね?」  どうしてそこで俺を見る。 「都合のよい距離感を保ったままならともかく、近付こうとすると面倒になるタイプなんだよ」 「そんなもんかね」  ホントお前のいう事は解らん。 「そうだね。けど僕だってキミの考える事が全部解るわけじゃないよ?」 「そりゃ初耳だな。俺の考えなんて全部筒抜けだと思ったぜ」  だからいっつも煙にまかれるんだろってな。 「まあ僕はキミの事を割と見てるからね。観察の心を以ってキミを見ている事もある。  少なくとも中学三年時代に限定するならば誰よりもキミを見ていたし、誰よりもキミを知っていたと思うよ」  なんだその犯罪臭をどことなく感じさせる発言は。 「くくく、ストーカーだとでも言うつもりかい?」 「冗談だ」 「何、ただの興味だよ。キミが解らないからこそ見ている。それだけの話さ」 「また煙に巻かれた気がするんだが」 「そう、キミの考えが解らないからこそ、難のない『僕にとって都合のよい考え方』へ、そう僕の考えに誘導しようとする。  それがキミからすれば『煙にまかれた』と感じるんだろうね」 「おいコラ誘導してたのは認めるのか?」 「黙秘権を発動しよう」  弁護人はどこだ。 「それにね。そうして『自分の考えに誘導する』という事は、明確に自分の考えを持ってなきゃ出来ない訳だろ?  つまりキミと話すと僕は自分の考えを、思考を、僕というものを再確認できるのさ。  くっくっく、そうだね、これほどの喜びはないよ」 「俺の立場的にはコメントしがたいな」  まあ俺がお前の役に立ってるなら結構なことだ。 「む。いや別にキミに負担をかけたいって訳じゃないんだよ」 「解ってる。というより実際そう思ってないんだからどうってことないだろ? それにお前には俺だって迷惑かけっぱなしだからな」  お前には勉強といい妙な雑学といい受験知識といい色々と教えて貰ってばかりだからな。  俺に出来ることならしてやるさ。むしろさせろ。 「させろ、とは穏やかじゃないなあ」 「いやそういうのは勘弁しろ」 「くく、どういうのだい?」  ええいこいつは。健全な男子高校生ナメとらんか。 「くく、こうやって触れ合う感覚が、そう、好きなんだよ」  好きなんだよ、そう繰り返す。 「解らないから理解したい。解らないから煙に巻く。  そうだね、そうやってキミを知って、そして僕自身を知ることが出来るのさ」 「キミと触れ合っていると僕はどこまでも僕を再発見できる。  どこまでも僕であれる気がするし、どこまでも新しい僕を再構成できていく気がするんだよ。  僕はキミが解らない、だからキミの中にキミを探したい、そうやって探す内に僕はまた新しい僕自身を見つけてゆくのさ」 「なんとも解るような解らんような」  すると例によってくつくつと喉奥で笑い返した。 「大事なのは変化、例えば視点、アングルを変えて見る事だ。  一旦落ち着いて辺りを見回してみる、すると存外に自分が視野狭窄である事や、世界にも優しさと単純さがあると気付くものだよ。  例えば、そうだね。今まさにしているように、視点を縦から横に変えてみるだけでもいいのさ。  そしてその変化を与えてくれるのがキミとの接触なのさ」 「まあ確かに視点くらいは変わるかもしれんが」  そんな大層なもんか? 「そうだね、少なくとも僕は国木田くんよりもキミが好ましい。それは解ってくれたかい?」 「なんか国木田に失礼な気もせんではないが理解はした」 「そうかい」  だからその顔は止めろ佐々木。 「ああそうとも。俺は国木田でなけりゃ古泉や橘みたいな超能力者でもない、お前の考えてる事なんてそれこそホントに解らんのだ」  けどな佐々木、だからってお前を解りたくない訳じゃないんだ。  お前の事だからちゃんと理解したいんだよ。  だからな。 「まあたまにはな、素直になって話してみろよ?」 「くっくっく、善処しよう」  俺の固い膝なんぞで嬉しそうに膝枕をしながら、佐々木はくつくつと微笑むのだった。 )終わり
「なあ佐々木」 「なんだい親友」 「お前さ、正直、国木田みたいな奴の方が付き合いやすいんじゃないのか?」  すると佐々木は「わかってないなあ」という顔で言った。 「なんでそう思うのだい?」 「いやな」  俺からみれば正直お前の言葉は難解だ。  ああ別に面白くないとかそういう事じゃないぞ、文字通り難解なんだよ。  お前が判じ物、そう、言葉のパズルが好きなのは解ってるし、普段からそうやってるのもなんとなく解る。  けどな、俺はあくまで「なんとなく」なんだ。  ほれ前にも言ったろ? 『判じ物なら間に合ってるぜ』ってな。  そうやってお前に本音を聞こうとしたろ。   「僕の喋りは嫌いかい?」 「嫌いなら一年も一緒にいねえし、親友だなんて呼ばねえよ」  当たり前の事を聞くな。 「泣かせる事をいうね。けれど、なら何であの時はああ言ったのかな?」 「俺は頭が悪い上に鈍重な感性だそうだからな」  他の時はいい、けどあの時、お前が何か大事な事を言ってくれてる事くらいは理解してたんだよ。  お前が俺に何かを想像させたがってる事くらいは解ったんだよ。  けどな、俺は頭が悪いんだ。 「間違った形で受け止めたくなかったんだよ」  間違った形で受け止めたくないんだよ。 「だから国木田くんって訳かい?」 「まあそうだ」  視線は外さない。 「国木田のお前評は正直的確だと思う。いつか一年ぶりに会った時も当意即妙の受け答えをしてたろ?」  俺たちが九曜を連れて、国木田があの谷口のアホと連れ立っていたアレだ。  ああいう会話こそが佐々木のツレには相応しいんじゃないのか? 「くく、そうかもしれないね」  佐々木は否定しない。 「彼のやり取りは知的だと思う。彼は僕が表現しようとするところも、時にはその奥にある本意すら看破しているように思えるからね。  その一切には無駄がない。或いは意図的に無駄を生み出す事で僕を傷つけまいとしている節もある」  後から思えば国木田の佐々木評はいつも正しかったし、あの再会であっさり佐々木の長文を翻訳してのけたように  独特で難解な言葉に対する分析能力も俺より遥かに高い。  そうとも、こいつらのシンクロニティは高い。 「だからこそ僕と彼は合わないし、僕はキミが好ましいのさ」 「前者も後者も結論としておかしくないか?」 「くく、そうでもないのさ」  いつものように笑い出した。  振動が伝わる。 「キミも磁石くらいは知っているだろ? 人間もそう、似たような感性を持っている程むしろ反発しやすいものさ」  どっかで聞いた話だな。つうかお前ら別に仲が悪かったようには見えんぞ?  むしろCD貸し借りしたり仲良くなかったか? 「それは僕らが人間だからさ。付かず離れず、どちらにも都合のよい距離感、それを為せるのが人間の理性ってものだよ」 「ますますおかしいな。理性ある関係、相手に対する理解力、どちらもお前らしい関係じゃないか?」  するとますます可笑しそうに笑い出した。 「都合がよいからこそ面倒なのさ」  まあぶっちゃけようか、と前置きして 「要するにね、僕らじゃ化かしあいになっちゃうんだよ」 「僕らのタイプじゃままある事さ。  婉曲的に語るタイプ同士、意図はよく通じる。しかし婉曲的に語る者同士、ホントは本音を濁したいこともよく解るのさ。  だから近付きすぎてしまうと、意図を「隠せない」と感じ始める、隠そうとする、そうして化かしあいになる。  最初から直截な者同士ならまた違うのだろうけれどね?」  どうしてそこで俺を見る。 「都合のよい距離感を保ったままならともかく、近付こうとすると面倒になるタイプなんだよ」 「そんなもんかね」  ホントお前のいう事は解らん。 「そうだね。けど僕だってキミの考える事が全部解るわけじゃないよ?」 「そりゃ初耳だな。俺の考えなんて全部筒抜けだと思ったぜ」  だからいっつも煙にまかれるんだろってな。 「まあ僕はキミの事を割と見てるからね。観察の心を以ってキミを見ている事もある。  少なくとも中学三年時代に限定するならば誰よりもキミを見ていたし、誰よりもキミを知っていたと思うよ」  なんだその犯罪臭をどことなく感じさせる発言は。 「くくく、ストーカーだとでも言うつもりかい?」 「冗談だ」 「何、ただの興味だよ。キミが解らないからこそ見ている。それだけの話さ」 「また煙に巻かれた気がするんだが」 「そう、キミの考えが解らないからこそ、難のない『僕にとって都合のよい考え方』へ、そう僕の考えに誘導しようとする。  それがキミからすれば『煙にまかれた』と感じるんだろうね」 「おいコラ誘導してたのは認めるのか?」 「黙秘権を発動しよう」  弁護人はどこだ。 「それにね。そうして『自分の考えに誘導する』という事は、明確に自分の考えを持ってなきゃ出来ない訳だろ?  つまりキミと話すと僕は自分の考えを、思考を、僕というものを再確認できるのさ。  くっくっく、そうだね、これほどの喜びはないよ」 「俺の立場的にはコメントしがたいな」  まあ俺がお前の役に立ってるなら結構なことだ。 「む。いや別にキミに負担をかけたいって訳じゃないんだよ」 「解ってる。というより実際負担と思ってねえんだ、ならどうってことないだろ? それにお前には俺だって迷惑かけっぱなしだからな」  お前には勉強といい妙な雑学といい受験知識といい色々と教えて貰ってばかりだからな。  俺に出来ることならしてやるさ。むしろさせろ。 「させろ、とは穏やかじゃないなあ」 「いやそういうのは勘弁しろ」 「くく、どういうのだい?」  ええいこいつは。健全な男子高校生ナメとらんか。 「くく、こうやって触れ合う感覚が、そう、好きなんだよ」  好きなんだよ、そう繰り返す。 「解らないから理解したい。解らないから煙に巻く。  そうだね、そうやってキミを知って、そして僕自身を知ることが出来るのさ」  それこそ考えをまとめようとするかのように言葉を繋げる。 「キミと触れ合っていると僕はどこまでも僕を再発見できる。  どこまでも僕であれる気がするし、どこまでも新しい僕を再構成できていく気がするんだよ。  僕はキミが解らない、だからキミの中にキミを探したい、そうやって探す内に僕はまた新しい僕自身を見つけてゆくのさ」 「なんとも解るような解らんような」  すると例によってくつくつと喉奥で笑い返した。 「大事なのは変化、例えば視点、アングルを変えてみる事だ。  一旦落ち着いて辺りを見回してみる、すると存外に自分が視野狭窄である事や、世界にも優しさと単純さがあると気付くものだよ。  例えば、そうだね。今まさにしているように、視点を縦から横に変えてみるだけでもいいのさ。  そしてその変化を与えてくれるのがキミとの接触なのさ」 「まあ確かに視点くらいは変わるかもしれんが」  そんな大層なもんか? 「そうだね、少なくとも僕は国木田くんよりもキミが好ましい。それは解ってくれたかい?」 「なんか国木田に失礼な気もせんではないが理解はした」 「そうかい」  だからその顔は止めろ佐々木。 「ああそうとも。俺は国木田でなけりゃ古泉や橘みたいな超能力者でもない、お前の考えてる事なんてそれこそホントに解らんのだ」  けどな佐々木、だからってお前を解りたくない訳じゃないんだ。  お前の事だからちゃんと理解したいんだよ。  だからな。 「まあたまにはな、素直になって話してみろよ?」 「くっくっく、善処しよう」  俺の固い膝なんぞで嬉しそうに膝枕をしながら、佐々木はくつくつと微笑むのだった。 )終わり

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