71-491『台風の目』

台風の目。台風には中心があり、中心は非常に穏やかなものだ。
しかし。目を出るとそこは暴風域。台風の目に入った時、買い出しに行き、たまたまコンビニにいた少女。
その少女は、暴風域に突入した道を踊るように歩く。

「佐々木さん、台風よ、台風!」
「うん、わかってるわよ涼宮さん。」

『台風の目』

何が楽しくて、こんな日和に女同士で散歩か。自分の置かれた現状を考えると泣きたくもなるが、涼宮さんは楽しそうだ。
これも、彼女のいう『不思議探索』なのだろう。
「台風って、風向きもあるのよね。」
「メカニズムとしては、つむじ風みたいなものだしね。」
「メカニズムや証明があって、実証されたものでも、まだ新しい発見の余地はないのかしら?」
「確かにね。それには技術の進歩や方式の変化が必要になるかも知れないけど。」
かの細菌学者、野口英世も技術の進歩により功績を否定された。まぁだからといって、野口英世の実績全てが無に帰すわけでないが。
「私は最近、そういったものを証明しようと思ってるのよ。」
「そうなの?」
涼宮さんは、私に人差し指を向けた。

「身近にある人間同士の関係を、私自身で実証してみようかと。」

彼女の目が、真っ直ぐ私を射抜く。その目を真っ直ぐ見ながら私は笑った。
「くっくっ。奇遇だね。私もよ。」
メカニズムも実証もされ尽くされたもの。それが意味するものは、ひとつしかない。
「『やれやれ。宣戦布告だとしたら嬉しいものだが、俺は生憎とそう器用でなくてな。』」
「『宣戦布告とはな、相手がいて成り立つもんだぜ。一方的な宣戦布告は、そりゃ宣言ってもんだ。』」
二人で顔を見合わせ、笑う。やれやれ。罪作りな人間もいたものだね。
私達の心を乱す台風の目ような少年を思いながら、私達は結局、話し込んで時間を過ごし……

「何を考えているんだ、お前らは……」

超能力少年から連絡があった、その少年に保護されたのはまた別の話だ。

END

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最終更新:2013年08月04日 17:21
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