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デッドマンズQ  ~幻想郷~

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 朝日が昇ると同時にわたしは目を覚ます。布団を片付け、外に出る。空はすてきな青空だった。
こんな日は縁側に座って庭にある花の香りを楽しむ。今の季節は桜だった。
3分ばかり楽しむと、庭で剣の修行をしている妖夢の邪魔をしないように、少し離れた位置で軽くストレッチをする。
幽霊だから健康に気をつかう必要はないのだが、こういう晴れた日にはなんとなく体を動かしたくなる。
30分ほどしてある程度満足したときに私は呼ばれた。
「吉影~、ちょっといいかしら~」
その声の主は"今の"雇い主である幽々子だった。わたしがその声に呼ばれるのは大きかれ小さかれ、
なんらかの仕事があるときである。わたしは声のする方へ向かった。次の仕事をするために………。






―数週間前―

 その日の空は素敵な青空だった。こんな日はきっと素敵なことがあるんだろうなあ、と
意味もなく思ってしまう。庭の手入れをしながら桜の木々の方を見る。桜は芽がふくらみだしたようである。
この分ならもう少ししたら桜が咲き始め、鮮やかな桜と共にまたお花見でも始まるだろうな、
と少し先の宴会のことを思い始めた。しかしながら、そのようなもの思いは背後の気配によって打ち切られてしまった。
最初は紫様がまたスキマを使ってここに来て、厄介ごとを持ってきたか、もしくはただ遊びに来たのか、と考えていた。
だが所感は違っていた。私の背後に一人の人間の男が寝転がっていた。いやそれは人間ではなく幽霊であったが。
黒い洋服とズボン(確かスーツとかいう外の世界の服だった)を身にまとい、四角い模様の入った黒い帽子をかぶっている。
左腕は食い千切られたのように無かった。その見かけから外の世界の人物だろうなとは思ったが、
どちらにせよ彼はこの白玉楼の侵入者である。
彼には出て行ってもらうか、さもなくば楼観剣で成仏してもらうか、である。

 わたしは気がつくと地面に横たわっていた。ここは先ほどの寺とは景色が違っていた。
どうやらあの女坊主(あま)にどこかに飛ばされたようだ。
「あの女坊主……、わたしをどこにやったんだ?
 畜生…あいつのせいで左腕はなくなったし、宮澤賢治や江戸川乱歩も読めず、
 シューベルトとモーツァルトのレコードも聞きそびれた……。」
あいつの腕をかわりにくっつけようと考えていたがそれもできなかった……。ふと周りを見ると桜の木が見えた。
その桜の芽はふくらみだしており、咲けば見事な桜の花が見れそうであった。
「…チッ!こんな状態でなければこの桜も楽しめたというのに……。」
「そこのあなた!」
少女の声がした。わたしはその声の主を見るために振り向いた。
「どうしてここにいるのです!?そしてどうやってここに侵入したのですか!?」
……どうやらわたしの災難はまだ続きそうである。

 彼女を見ると長刀をわたしに向けており、確実に警戒していることがわかった。
彼女の警戒を解かなければ、桜を楽しむどころか安心して生活することもできない。
あの刀でわたしを切ることは多分できないだろうが、騒ぎはあまり起こしたくない。
桜を楽しみたいこともあって、わたしは彼女の問に答えることにした。
「信じてもらえないだろうけど、わたしはある人間に飛ばされてここに来た。
 どうやってかはわからないけどな。ところでここはどこだい?」
「……あなたは質問には質問で答えなさい、と教えられたのですか?」
どこかで聞いたことあるような気がする台詞を返された。どこで聞いたかはおぼえていないが。
「……でも、わかりました。」
どうやらわたしの話は聞いてもらえたようだ。しかし
「しかしどういう事情があろうとも、あなたが侵入者であることは変わりありません!」
現状は変わらないらしい。頭の固い人間だ。しかも
「ですから今すぐここを出て行って、まずは三途の川にでも行ってください。」
どういうことだ…?わたしが幽霊であることを知っているのか?それならばなぜ刀をわたしに向けているのだろうか?
幽霊が刀で切れるとでも思っているのだろうか。しかも三途の川へ行け、などと言っている。それはつまりわたしに成仏しろと
言っているようなものだ。わたしに「あの世」へ行けと?冗談じゃあないッ!!
自分は決して天国へは行けないだろうという実感がある。それでどうしてそんな所へ行かなきゃいけないんだ?
「わたしは成仏するつもりはないのでね、その提案はお断りさせてもらうよ。」
「……わかりました。それならば今ここで成仏してもらいましょう。この楼観剣でッ!」
彼女はそう言ってその刀を構え直し、わたしに向けた。つまりあの刀は幽霊も切れるようである。
これは厄介なことになってきた。このままだとわたしの生活も終わってしまう。天国へ行けないなら
わたしはどこに行くのだろうか?もし地獄へ行くというのなら、"そんなのはまっぴらごめんだ!!"
そこにはわたしの望む幸福はあるのだろうか。少なくとも『心の平和』は存在していなさそうだ。
「どうやら…交渉不成立のようだな……。」
わたしは少女の長刀が届かない十分な距離をとり、銃を構えた。それは屋敷幽霊から唯一持ってくることのできた、
わたしだけの"銃の幽霊"である。

 "銃は剣よりも強し"という言葉がある。たとえそれがどんな名刀でも十分近くないと切ることができない。
だが彼女が近づこうとするならその瞬間わたしの銃が火を噴き、彼女はわたしを成仏させることなどできなくなるだろう。
この状況は圧倒的にわたしに有利なのである。だが彼女は慌てる様子もなくこう言い放った。
「あなたはこう考えているはず…。間合いをこれだけ取れば私はあなたを切ることができず、
 切るために近づこうとすればその銃で対応する……。」
冷静にも、現在の状況とわたしの心境を分析していた。そこまでわかっているならどうしてそんなにも冷静なんだろうか?
「だけどもッ!それは不可能よッ!!」
という言葉と同時に彼女は光弾を大量にそして高速に放ってきた。
「なッ!?なんだとッ!?」
わたしは虚をつかれ、声を上げてしまった。その間にも光弾の"弾幕"は牙を剥こうとしていた。
「うおおおおおぉぉぉおああああぁぁぁ―――ッ」
わたしは光弾の波をどうにか直撃しないようにできる限り通り抜けようとした。
光弾は容赦なくわたしを襲う。腕や脚に当たっていくが、威力はそこまでなかったので、なんとか耐えられた。
そうやってわたしは光弾に"かすり"ながら避けていった。
「――ッ!ハァハァハァ……―」
わたしはなんとかその"弾幕"を避けきった。しかしながら光弾をかすっていったためにスーツはボロボロになり、
精神的にも肉体的(幽霊には肉体はないが)にもダメージを受けた。だが、おかげでその光弾の"弾幕"について理解できたことがある。
「さて、あなたが圧倒的に不利であることはわかってもらえましたか?
 だからここを出て行って三途の川を渡るか、もしくは今ここで切られて成仏するか―。」
「ああ。だが断る。成仏するつもりはない。」
「―ッ!強がりを――」
そして彼女はまた光弾の"弾幕"を放ってきた。そしてそれは、―先ほどとは違う弾幕であったが― わたしの考えの正しさを証明していた。
その光弾は決して『わたし』を狙ってはいない。せいぜい『わたし』のいる方向を狙っているに過ぎない。
だからそれらを避けるのはそんなに難しくは無い。先ほどより余裕を持って光弾を避けることができた。
避けながら、"弾幕"の中でわたしは銃を構え、彼女を狙い、撃った。
 だが次の瞬間金属と金属がぶつかった時の独特の高音が鳴り、彼女が刀でわたしの弾丸を弾いたことがわかった。
「…どうやら弾幕を避けるのは上手なようですね。そんな中で私を攻撃したら私は油断をして倒せる、とでも思っていたのでしょう。」
「だけどもッ!妖怪が鍛えたこの楼観剣に斬れぬものなど、あんまり無い!」
残念ながら、そんなことは予想していた。もっとも今ので倒せてたらラッキーぐらいには思っていた。
だが今の銃弾はそんなことのために放ったのではない。
「今度こそ、諦めなさい!」
彼女は三度"弾幕"を放ってきた。今度も先ほどの"弾幕"とは別の物を撃ってきたが、わたしを直接狙っているものはなく、
避けるのはさほど難しくなかった。そして避けつつもわたしは銃口を彼女に向け、再び放った。



 私はこの剣と弾幕さえあれば目の前の男なんて簡単に始末できると思っていた。
最初は弾幕に驚いていたが、次の弾幕にはすぐに順応していた。
甘かった。相手が銃、私が剣だから油断しており、弾幕さえ放てば何とかなると思っていた。
だけども油断したのは彼でなく、私。だから彼が銃口を向けたとき、心底驚いた。
もう少し判断が遅れていたらきっと銃弾に倒れていただろう。―だけれどもッ!同じ目には2度とあわない!
彼が銃を再び向けたとき私は構えた。
―――くそ……
二度と!
二度と……
負けるものか……

そして再び金属の衝突音が聞こえた――。



 "弾幕"が終わったとき、先ほどと同じような光景がそこにあった――。
だがそこにいた二人の表情はまったく違っていた。
吉良吉影の表情は先ほどと同じように緊迫した表情であった。
しかし魂魄妖夢は驚嘆の顔であった。
そして、そして彼女の右頬には鋭い赤い線がひかれており、そこからは紅い血が流れていた。
「う…そ………。」
妖夢は呟いた。そして同時に理解していた。どうして吉影の放った弾丸が彼女に当たったか。
――彼女の楼観剣は長刀である。そのため、長刀を振るにはどうしてもナイフや短刀と比べて
時間がかかる。振るのに時間が掛かるということは構えるにも時間が掛かるのである。
つまり――吉影の弾丸は『2発』あったッ!
そう、だから吉影は2回目の"弾幕"のときに『1発』弾丸を放ったのだ。
どの程度刀を振るのに時間が掛かるのかを計っていたである。
そして3回目の"弾幕"のときに妖夢が構えなおしたことも原因としてあげておこう。
構えなおすということは気合を入れなおすことと同じである。
そのとき剣を振るということは知らず知らずの内に力が込められてしまう。
力を入れて剣を振ればその分振るスピードは速くなるだろうが、
しかしそれ以上に振り終わった後の硬直とでも言おうか、その時間が長くなってしまう。
その結果彼女は吉影の『2発目』の弾丸に対応できずにいたのだ!
無論、彼女が剣士として成熟していたら対応できていたかもしれない。
だが彼女は剣士としてはまだ未熟、半人前なのである。
「……さて、まだやるかい?」
吉影が妖夢に尋ねる。妖夢の精神は既に負けを認めていた。しかし彼女の『立場』は負けを許されない。
再び楼観剣を構える。―例え勝てなくとも……―
そこに、その緊迫した空気とはまるで場違いな声がその戦いの終焉を示唆した。
「二人とも、そこまでよ。」
「ゆ、幽々子様!」
幽々子と呼ばれた女の声を聞くと、わたしを襲った少女は構えを解いた。
「初めまして。私は冥界にあるこの白玉楼の主、西行寺幽々子よ。」
どうやら主人の方は聞き分けがいいらしい。自己紹介されたので、こちらも自己紹介しておくのがスジってものだろう。
「…こちらこそ初めまして。わたしの名前は吉良吉影という。」
「さて、あなたも自己紹介しなさい、妖夢。この流れでやらないのは駄目よぉ。」
と先ほどの戦いも無視するかのように彼女に自己紹介を求める。そういえば彼女の名前も知らなかったな。まあ無理もないか。
「えっ?あっ!ハイ!!」
と急に話を振られて動転していた。こうしてみると意外と普通である。
だが彼女をよく観ると彼女は常人とは違うところがあることに気づいた。
それは彼女のそばに何か白い人魂のような物体が漂っていることである。いったいあれは何だろうか?
「えっと…。白玉楼で庭師兼警護役をやっています、魂魄妖夢です。」
「んー、ちょっと硬いけど、まあ妖夢らしくていいんじゃないかしら?
 あっ、そうそうこの娘はね、半人半霊なのよ。だから周りに半分の魂が浮かんでいるのよ。」
なるほど。納得……できるのか?いまいちよくわからない。そもそもここは冥界らしい。
つまり『あの世』があったということか?あの女坊主が喜びそうだ。そんなことよりまだわからないことがたくさんある。
「うふふ、あなた色々聞きたそうな顔してるわね。いいわ教えてあげる。そこの妖夢に勝ったわけだしねぇ。」
とこちらの考えを見透かしたようなことを言った。そして妖夢と呼ばれた少女は顔を赤らめていた。
仮にも警護役らしいので負けはみっともないとでも思っているのだろう。
「それじゃあ、妖夢、庭の片付けと部屋の準備、お願いするわね。」
「え?あ!ハイ!」
そういえば先ほど戦った影響で(といってもほとんど妖夢のせいだが)庭はボロボロになっていた。
そういえば彼女は庭師でもあったとか言ってたな。まあ自分でやったんだし、別にいいだろう。
「それじゃあ、ついてきて。"ここがどこなのか""これからどうすべきか"できる範囲で教えてあげるわ。
 あっ!そうそう、今日はここに泊まっていくといいわ。」
そういって幽々子は家の中へ私を案内した。よく観るとこの家は立派な日本家屋であった。この庭もそうだが
今のわたしにとって、とても美しく見えた。
それにしても素敵な青空だ……
今夜はこんなに素晴らしい場所で休めるのか……………



「『幻想郷』?」
「そう、幻想郷。あなたのいた世界とは別の場所。非常識や幻、忘れられたものが流れてくる場所。」
「それは、つまり、どういうことだ?」
わたしは白玉楼の奥に通され、西行寺幽々子のここがどこなのか、という説明を受けていた。
「そうね、すごく簡単に噛み砕いて言ってしまえば」
彼女は静かに微笑みながら言う。
「たくさんの妖怪と妖精と、少しばかりの人間のいる世界。と言えばいいのかしら。」
なるほど、つまりここはファンタジーやメルヘンだというのだろうか。
別にそこに対して今更信じられない、等とのたまうつもりはない。
今自分は幽霊であり、何が起ころうとも別に問題は無い。まあ屋敷幽霊にあった『物の幽霊』を
あまり手に入れられなかったのは残念だったが。だが妖怪や妖精が実際にいたとは思わなかった。
「なるほど、な」
「そしてね、ここは冥界。転生や成仏を待つ幽霊の住まう場所なの。」
日本茶を啜りながら彼女はわたしが今いる場所の説明をしてくれた。
どうでもいいが幽霊なのにお茶を飲めるのか。
「それでね、吉影、この建物が私や妖夢、あとたくさんの幽霊が住む屋敷がここ、白玉楼なのよ。」
「そうなのか。」
なんとも羨ましいものである。わたしはわたしだけの部屋を欲していたというのに、
あの女坊主が行きたがっていた『あの世』には幽霊が住む屋敷が存在していたのだ。
「ところでひとつ、聞きたいのだが、ここ白玉楼は『屋敷幽霊』なのか?」
「ん~?幽霊屋敷?まあたしかにここに住んでいるのはほとんどが幽霊、そういう意味では幽霊屋敷かもしれないわ。」
クスクスと笑いながら彼女は答えた。
「いや『屋敷幽霊』だ。なんと言っていいか…。まあ簡単に言えば家の幽霊だろう。」
「?」
首を傾けながら疑問符を浮かべている。
「だから物じたいの幽霊なんだ。家の魂だけの存在というか。そこには『物の幽霊』もあった。」
「まあまあまあ。」
彼女は感嘆をあげている。どうやら冥界にある屋敷の主人でもこのことは知らなかったらしい。
「まだ外の世界にはそういうものがあったのね。長生きしてみるものだわ。」
あんたは幽霊だろう。
「そうだ。この拳銃も、そこにあった『物の幽霊』だ。」
そう言って拳銃を取り出し見せた。
「へえ~、これがそうなの。ふ~ん。」
そう言うと銃をまじまじと見る。
「確かにそうね。これは"物"ではないわ。私たちと同じ"魂だけの存在"。」
どうやら彼女も納得してくれたようだ。
「物には魂が宿るっていうけれど、本当に物の魂があるとは思わなかったわ。」
「ありがとう吉影。いいものを見せてくれて。
 うふふ、まだ外の世界にも幻想郷にも私の知らないことがたくさんあるのね…。」
彼女はそう言って微笑みかけてきた。
「ところでね、お礼、というわけでは無いけれど、あなたここで働いてみない?」
突然の提案である。その提案は正直言って嬉しい。しかし
「しかしいいのか、こんな素性もわからないようなもんを雇って。」
「いいのよ、別に。あなたは妖夢に勝ったし、面白いものを見せてくれた。それで十分よ。」
そんなもんで大丈夫なのか、ここは。そして彼女は聞いてきた。
「ところであなた…、ここに来る前はどんな仕事をしてきたの?」
……どう答えようか悩んだ。正直に言うべきなのか?だが嘘をついてもこの女にはすぐにばれてしまうだろう。
確証はないが実感でわかる。それに先ほどの戦いも見ていたようだ。
「……そうだな。オレの主な仕事は"依頼"された"標的"に対し、任務を"執行"することだった。」
私は正直に答えることにした。ぼやかしてはいるが。
「……そう。」
彼女はそれだけ言った。その表情は哀しみでも、怒りでも、もしくは納得のどれでもなかった。
「それなら、あなたにはちょっと危険な仕事もしてもらうかもしれないわ。」
少しだけ考えたあとそう答えた。
「あっ、もちろんそういう仕事は滅多にないから安心してね。年に数回あれば多い方。
 普段はここの警備をするふりをしてのんびりしていていいから。」
雇い主がそんなこと言っていいのか?
「あとはちょっとしたお使いにでも行ってもらうかも。」
まあ前の仕事よりは楽ではありそうだ。
「それでね、あなたを雇うからにはなんらかの報酬が必要でしょ?」
「まあ、そうだな。」
どうやら報酬の話になった。
「とりあえず、あなたには何が欲しいものはあるの?」
わたしは今後の生活について考える。今のわたしには部屋が必要だった。
人間が持っているような大家や所有者に"許可"をとった
風に吹かれず
おちついて本が読めて花の絵を描いたりできる
………わたしだけの"結界"のある部屋が…。
その前に食い千切られたこの左腕を何とかしたかったが。
「…とりあえずこの左腕を何とかしたい。腕がない生活なんてまっぴらなんでね。」
「んー、そうね…、私の知り合いに腕のいい医者がいるからそこに相談してみるわね。」
幽霊に医者の治療が受けられるのだろうか。まあしかし、ここは幻想の世界らしいし幽霊の治療もきっとできるのだろう。
「あとは部屋が欲しい。自分だけの、自分のための部屋が欲しい。」
わたしは正直に答えた。少々厚かましいが、この屋敷の庭が見れるならどこでも良かった。
あの庭には桜だけでなく、四季折々の植物があった。おそらく季節ごとに
色とりどりの美しい光景を見れるのだろう。それはわたしにとって至福の場所である。
「正直なのね。いいわ。あなたにはとてもいい仕事をしてもらえそうだし。
 一部屋貸してあげる。そこを自由に使っていいわ。よほど荒らさなければね。」
どうやら交渉成立のようだ。先ほどの従者とは違って話のわかる人間でよかった。お互いに幽霊だが。
「それにね、いくらここが幻想郷で、あなたが幽霊だとしても
 ここで生活していくならお金が必要ね。だからお小遣い程度かもしれないけれど賃金も保証するわ。」
「わかった。ここで働こう。これからアンタはオレの雇い主だ。」
「うふふ。これからよろしくね、吉影。」
「失礼します。幽々子様。お部屋の準備が整いました。」
丁度そのとき妖夢が入ってきた。どうやら庭の片付けと部屋の準備が整ったようだ。
「そうそう妖夢、今日から彼、ここで働くことになったから、屋敷の案内とかよろしくね。」
「え…、ハイわかりました。」
「よろしく頼むよ、えっと…魂魄妖夢とか言ったっけ?」
そう言ってわたしは右腕を差し出した。
「ハイ。よろしくお願いします。…吉良吉影さん。」
彼女は差し出された右腕と握手した。

 その後、わたしは妖夢の案内でこれからわたしの部屋になる部屋と、屋敷の主要な部屋を
見て周った。その途中で幻想郷についてや、彼女のこと、幽々子についての詳しい話も聞いた。
そしてわたしの部屋に戻り、久々のくつろぎを確かめることにした。
…こんなにもくつろげるのは久々だ。いつ以来だろうか?思い出せない。
でもそんなことはどうでも良かった。"これからはこの部屋がある。"
どういう仕事がこれからあるのかはわからない。しかし、しかしながら
わたしは部屋を手に入れた。自分だけの、きっちりと『許可』をとった部屋だ。
わたしが休むとき邪魔するものは、いない。
仕事に必要なものをいつでも置いておける部屋。これほど素晴らしいものはあるのだろうか。
外を見る。そこにあったのは写真でも、絵画でも表せないような確かな庭が広がっていた。



―その夜―
 月光で照らされる部屋がそこにあった。そこで二人の少女が向かい合って座っていた。
一人は正座で、神妙な顔つきでもう一人の顔を見つめていた。
もう一人は適度に崩しながら座り、妖艶な微笑で目の前の少女を見ていた。
「なぜ彼を雇ったのですか。」
一人が聞いた。その声は怒りとかそういう感情は込められずにただ疑問に思ったことを正直に聞いていた。
「あなたが負けたから。それに面白いものを見せてくれたしねぇ。」
そう回答を求められた者は答えた。質問者はすこしムッとした表情になった。
「本当にそれが理由ですか?」
彼女はさらに質問を重ねた。
「そうね…、それもあるけど本当の理由はね、妖夢」
さらに答える。
「彼は強いからよ。」
「強い…ですか……。」
彼女はまた表情を変える。悔しいような寂しいようなそんな表情に。
「……もう。そんなんだからあなたはまだまだ半人前なのよ。」
彼女は言う。
「今日は確かに彼が勝ったわ。でもね、」
「剣の腕ならあなたの方が全然上だし、弾幕だって彼は打てないわ。」
「あなたと彼が何かの試合したらきっと貴女が勝つでしょう。」
「…でもね、妖夢」
濃艶な表情で目の前の少女に向かって告げる。
「彼は戦いに強いのよ。」
「……はい、わかりました。」
彼女は理解した。納得は、まだしていないが。
「…それともう一ついいですか?」
そして彼女は再び問う。
「彼はどこから、どうやって来たのでしょうか。いくらなんでもいきなり白玉楼には来ませんよ。」
それは最もな質問だった。彼はどこから来たのかは知っているようだったが、どうやって来たのかは、理解していないようだった。
「そうね、ところで妖夢、彼は成仏できると思う?」
質問を質問で返した。妖夢は答える。
「できるんじゃあないのですか。」
「なんで、そう思うの?」
幽々子は問う。
「えっ!?なんで、と聞かれましても…」
彼女は答えられなかった。魂は成仏するものだと思っていたからだ。
「彼はきっとできないわ。」
「え…!?」
それを聞いてさらに混乱する。
「とても簡単なことよ」
「死んだ者は魂だけとなって、三途の川を渡る。」
「そして閻魔様に判決をもらう。」
「その判決はその魂の人生のあり方によって決まる。」
「ここまで言えばわかるかしら?」
「えっ…と、つまり……」
「んもう!鈍いわねぇ!そんなんだから半人前なのよ。」
「……ごめんなさい。」
「いいわ。教えてあげる。閻魔様に裁いてもらうにはね、その魂の"生きている間の記録"が必要なの。」
「?そんなの当たり前じゃないで…えっ!?じゃ、じゃあ、まさか…」
「ようやくわかったわね、そう、彼には"生きている間の記録"が無いのよ。」
「え、でもどうして生きているときの記録が…、!!もしかして記憶喪し…」
「いいえ、魂に記憶喪失はあっても"記録喪失"はないわ。
 そうなったら記憶を失えば地獄に行かなくてすむことになっちゃう。」
「へ?でもそれじゃあ…」
「そう、めったに無いことなの。魂の"記録"が無くなるなんてことは。」
「でもそれと彼がここに来た理由に関係があるのですか?」
「大有りよ!大アリクイよ!」
「意味がわかりません。」
「んもう!本当に鈍いわねぇ。そんなんだといつまで経っても半人前のままよ。」
「うっ!…精進します……。」
「きっと外の世界の誰かが彼を成仏させようとしたのでしょうね。理由はわからないけど。」
幽々子は自分の仮説を聞かせ始めた。
「そして彼は外の世界からは成仏したかのように見えた…。まあ実際いなくなったら成仏だろうとなんだろうと一緒でしょうね。」
「しかし、彼は"成仏できない魂"だった。だからここに落ちてきた。」
「な、なるほど…。」
妖夢は納得しかけた。
「で、でも幽々子様、三途の川を渡るくらいはできるんじゃないでしょうか?」
妖夢は疑問を投げかけた。
「…」
幽々子は少し考え
「もしくはその成仏させようとした誰かの力が足りなかったとか。」
「………」
適当に答え、あきれ果てさせていた。
「でも、きっと私の考えはどこか当たっているはずよ。彼は『生きている間』の記憶がないはず。」



 わたしが白玉楼に来てから数週間がたった。その間わたしは
幽々子が読んだ永琳とかいう医者に腕を治してもらい(あの左腕はどこから調達したのだろう。
とてもよく馴染む)、そしてその後仕事に入った。仕事といっても簡単なお使いや
庭の掃除程度のことだった。それはあくまで幻想郷に慣れるための研修みたいなもんで、
その間ゆっくりと幻想郷の空と景色を見て周った。そんな日々を続けながら、今日もわたしは幽々子に呼ばれた。
さて、今日は一体何をすればいいのだろうか?
すてきな青空だった。こんな日は歩いて行きたいところだ。



 さて、ここいらでちょっと場所を変えてみようじゃあないか。ここは彼岸の裁判所、閻魔のいる所である。
ここで四季映姫・ヤマザナドゥはいつものようにその死者を裁こうとしていた。
しかし目の前の死者は何もしようとはしなかった。
自分の人生を語るでもなく、必死に嘘をついて自分を善良な人間だったと主張するわけでもなく、
ただそこにいた。こういう死者は珍しくなかった。
ただの恥ずかしがりやなのか、もしくは自分の罪の重さに自ら耐えられなくなったのか、
ただ寡黙なだけなのか、どうしたらいいかわからないのか、
様々な理由があるが、珍しいことでもなかった。
だから彼女はさっさと映った者の生き様全てを映すという『浄玻璃の鏡』を使うことにした。
これであの死者に判決を下すことができる、彼女はそう思っていた。
しかし何も映らない。ただの手鏡の様に四季映姫の姿を映すだけであった。
「!?」
そんなことは初めてであった。彼女の歴史においてそれがうまく機能しないことなど一度も無かった。
ずっとこの鏡は生前の行いを全て映すものだと考えていた。いったいこの魂に何があったのだろうか?
どのような魂であっても――それは生まれたての赤子や生まれる前であっても――
かならず魂の持ち主の生き方を映すはずである。だからこそ彼女の能力で、死者の判決を白黒はっきりつけることができるのである。
何も無ければ白も黒も何もあったもんじゃあない。無に対して何を判断しろというのか。

 しかしここで鏡に変化が現れる。何かを映し出したのだ。どうやら鏡がちょっと不調だったのか。
これで問題なくこの死者に裁くことができる。そう思っていた。しかし映っていたのは幻想郷の霧の湖だった。
「??」
そこには何もいなかった。いるのは騒がしい妖精ぐらいだった。そしてそこから場面は移動していく。
次に止まったのは紅魔館だった。鏡が映すものはその館に入っていき、何かを探すように移動する。
彼の視点だろうか?それにしては湖の妖精や館の門番、メイドが何も反応しないことが
おかしい。そういう生き物だったのだろうか?そして場面は地下の大図書館の扉の前になる。そこで鏡は映すことを止めた。
しかしながら現状は何も変わっていなかった。目の前の死者の人生は何一つわからなかったのだ。


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