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深紅の協奏曲 ―真実へ向かうための行進曲 1―

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匿名ユーザー

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 からら、と障子を引く音がすると、開かれた先から香る宴の匂い。
 座敷には、幾多の料理が並べられていた。とりどりの色が、視覚からも食欲を誘う。

「お待ちしておりました。準備はすでに出来上がっています!」

 客人を招くために待機していた妖夢は現れた二人を出迎える。床に指を着け丁寧に頭を下げ、満面の笑み。

「ありがとう妖夢。まあ、今日もおいしそうねー。みんなの作る料理はいつもおいしいけれど」
「お褒めいただきありがとうございます! 閻魔様もどうぞ召し上がってください。おかわりはたくさんありますよ」
「うん、見ればわかります。……相も変わらず面白い量ですね」

 それぞれの席の前に並んでいる料理の中、上座にはその何倍もの量が並べられている。
 いそいそと幽々子がその前に着くと、先の妖夢の様な満面の笑みを浮かべ、

「さあさ皆さん、召し上がりましょう。今宵の邂逅に感謝をこめて」

 その言葉と共に、映姫も小町も席に着く。……が、卓を囲むに歪な、空席。

「……あれ、あの子は?」

 ようやくドッピオがいないことに気付いた妖夢は、外を見てきょろきょろと見回す。
 周りには彼の姿はなく、幽々子たちが居た先ほどまでの部屋にはアンが立っているばかり。
 厠にでもいったのか、とも思える不自然な消失に、彼女は思わず声を出す。

「何でも、一人で考えたいことがあるそうです。おなかが減ったら来ると言っていましたよ。……むしろ小町はどこですか」
「小町さん? ああ、もう少し飲むものが欲しいってことで取りに行っています。お客様にそのようなことをさせられないって言ったんですが気にすんなの一点で」

 そう言うと、彼女らの入ってきた側とは反対の襖がががらと開く。

「うぇーい、妖夢、持ってきたよ、のものも……」

 多量の瓶を抱え込むように持った小町が襖を開いた。その手は使えず、かといってそれを下ろした形跡はなく。

「あ、あはは……お揃いでして? ならば妖夢も呼んどくれよ、そうすりゃちゃんとやったのに」
「……何をちゃんとやるのかは知りませんが、そんなに焦るようなことはないでしょう、小町。さ、魂魄が用意したのです。食べようじゃありませんか。ほら、閉めて」
「あっはい」

 言われるがまま、バツの悪そうにその両手の物を下ろそうとし、

「何をやってるんですか? 先ほどの様に閉めてみなさい。足で開いたように」
「いや、その、とっかかりとか無いし開きはまだしも閉めるのはちょっと、その、すいま」
「閉めなさい」
「あっはい」

 その様子に、幽々子は堪えられず吹き出し、妖夢は我慢しようと顔を伏せているが、肩の小刻みを隠しきれていない。
 楽しい時間は始まったところだった。
 その空席を、空けたままに。




 最初に感じた思いは驚愕だったが、次に感じた思いは淫靡さだった。
 背後から抱きつき、自らの胸と局部を押し付けるような動きを交えながら、自分の体の線をなでるその手つき。

「私はなぁ、お前が嫌いだよ。嫌いで嫌いでしょうがないよ。存在も疎ましく、思っているんだよ」

 顔の真横からかけられる言葉こそ呪詛だが、口調は情欲を掻きたてる様な熱く甘い囁き。

「だけど紫様はそんなお前を視ていろと言う。害悪の末を視ていろと命じる。お前の様な存在する価値もない屑を……なぁ、何でだと思う」

 興奮し、上気した体温が肩元を通して感じられる。蕩けきったような目線が自分を突き刺す。

「わからないよなぁ。あの御方の考えられることなど。私も同じだ、お前なんかと同じなのだよ。……主の考えを察せない従者など、存在する価値もない」

 それは、求愛行動。いや、その先の互いを高め合う行為そのものだった。

「そう思った時には、お前を求めていたんだよ。わかるよな、出来損ないの部下などいらない。お前なら、わかるよなぁ」

 唇の動きが耳の僅かな感覚から通して理解でき、そこから脳を溶かし虜にする様なその声の響きには、性を手玉に取ることに長けた手練れさを含む。
 だから、ディアボロは。

「あぁ……わかるッ!!」

 顔面のあるべき所へ、スタンドの拳を撃ち込む。これ以上彼女のペースに付き合う必要はないし、付き合えば堕とされてしまうだろう。
 実際、行動に至るまでは時間をかけさせられた。未だあの甘い余韻が頭に響く感覚が残る。身体をなでる感触が、無理やり引きはがすことに後悔を感じるほどに。
 撃ち込んだ拳は確かな手ごたえを感じ、そこにあったものが影や幻、もしくは幽霊の何かでないことを理解させる。
 だが、浅い。

「…………くっ、くっくっく」

 素早く後ろを振り向き、その撃ち込んだ顔に視線を向ける。
 倒れた音はしなかった。引きはがしたその女は、撃ち込んだ顔を手で隠し、薄く笑いを浮かべている。
 特異なのはその姿。頭部には動物の、狐の耳と背後に広がる九つの尾。

「そうだよなぁ、そうするしかないよなぁ。素直になるわけがない。お前が、お前ほどの者が……なぁあ?」

 正確には撃てなかったが、それでも声の質に変わりはない。……あの一瞬から、不意を読み切り最小限のダメージに留めたのだろう。
 すり足でわずかに下がり、一歩で拳の届くよう距離を調整しておく。その不気味な反応と、自らの得意とする距離として。

「あぁ、あぁ……ああ! 嬉しいよ、予想通りで。私の思いがお前をなぞっているようで。もっと見せてくれよ、私はお前を知らなくてはならないんだ。
 次はどうしてくれる? どう攻めれば、どう返す?」
「……」

 大仰な音はしなかったが、それでも自分と相手の声、部屋に響く打撃音で、部屋の異常は察知できるだろう。半霊も庭師も、そこまで愚鈍とは思えない。
 だが、この部屋に様子を見に来るものは誰もいない。女も奇妙であったが、その点も不思議であった。
 亡霊姫か閻魔に嵌められたか、その二人の裏をかけるほどの実力を持つ者と対峙しているのか。 
 後者の方が確実だろう。この者の妄言の様な口ぶりを信じるならば、彼女はユカリの従者であり、実力者には相応の右腕が付くもの。でなければ、従えられない。

「その瞳、その眼差し……ああ、本当にお前を軽蔑するよ。その相手を侮蔑する眼つき。……くくっ。けれど、なあ。不思議だよ。全く嫌な気分がしないんだよ。
 お前の鼻につくようなその態度を屈服させられたら。私がお前を服従させられたら。さぞ紫様はお怒りになるだろう。命じられたこととは違うことをやっているのだから。最高の従者と認めたはずの者が、自分勝手に物事を取り進めているのだから。
 切られるかもしれない。捨てられるかもしれない。二度と、あの御方に目をかけられることがなくなるかもしれない。……それでも、なぁ? 堕落とは常に蜜の味だもの、なぁ?」

 ひたすらに同意を求めてくるその眼は、自らの狂信を相手に強要するような狂った瞳。相手は自分の事を理解していて当然と思っている濁った眼。

「ふふ、ふふふふふ。うふふ、ふう。……汗をかいているな。手の中、首元、背中にかけて」

 その言葉を聞き、ディアボロは再び心臓を鷲掴みにされたような感触を味わう。明かりがついているとはいえ、相手の細かいところまで見えるほどの明りではない。
 その言葉は自分ではなく女自身に対しての言葉かもしれないが、自分も同じなのだ。相手に見えないところ、うっすらと汗ばんでいるのを感じている。
 自分の中に残っている常識が、目の前の非常識に対して未知の恐怖を味わわせている。自らの弱点を思わせるその点においても、驚きを隠せない。

「どうしてわかるっていう顔をしているな? また少し発汗が増えたな。どうしてそう思った? 何を感じた? 汗を舐めれば、それもわかるんだがなぁ。心に対して、体は正直だからな」

 まだ顔を隠し、指の隙間から垣間見える歪んだ瞳は、的確に言葉で自分を追い詰めようとする。空いた手でこちらを指すその手が嫌に大きく、圧倒してくるように感じる。

「何者だ、いや、何が目的だ? ……目的と行動が一致していない、矛盾しながらも、忠誠を裏切っていながらも承知で行動を起こす、理解ができない」

 声を張り、自らを奮い立たせる。決して相手を圧倒させる必要はない。自らの地盤を、足を震わせないように。虚勢を張るのは弱者。自分を下に見てしまっている証だ。

「私を服従させたいのか? 支配下に置きたいのか? 力での屈服を望んでいるのか」
「そうだよおおぉぉおお!!」

 突然、叫びだす。その方向は、辺りを震わせ、肉食獣の圧倒さを感じさせた。今そこにいるのはただの女ではなく、獣を元にした妖怪なのだと。
 人間を襲う、妖の者だと。

「この世界に不要な汚点! 理想郷に邪悪はいらん! そんなこと、分かりきっているはずなのに!! 何故!! 居るだけで腐敗を感染させるような貴様を!!!
 何かあってからでは遅いのだ! 管理者として、支配者として……取り除くべき存在だとわかっているだろうに!!
 ……けどなぁ、紫様は聡い方だ。私なんぞ到底及ばない。それを理解している自分もいる。けれど、そんな臓腑の煮える様な危険を放置できない。
 貴様に言われなくとも理解っているんだよ、矛盾で焼き切れたこの脳でも」

 頭をガリガリとひっかきながら、辺りに毛を散らしながら、自らに言い聞かせるように吐露し続ける。
 血に濡れた爪先を突き出しながらも、その思いは止まらない。

「主に従うことのできない従者など必要ない。主の手をいずれ煩わせることに繋がる、忠誠があるなら尚のことだ。私は自らを抑えきれなくなった。従者失格だ。御傍にいる資格はない。
 ならば消えてしまおう。それが最も主の為であるし、自分の為である。不要だとわかっていて縋る様な醜い真似などしない。自らの誇りを最後まで持って。
 …………くく、んくく。違うよな、八雲藍。そうじゃないだろう、藍」

 自虐するかのように、その行動は止まらない。彼女―八雲藍―の血は爪先から手へ、顔を濡らしていく。

「あぁ、そうだよ。頭で理解していても、その心が止められないのさ。お前という存在を知ってしまってから。経歴も過去も未来も、主も幻想郷も関係なく。たまらなく。どうしようもなく。
 この齢になって種の生存本能を掻きたてられるとは思わなかったのさ。式神として仕える様になってから、そんなもの捨てたと思っていたのに。
 何もされていなければそのまま抑えきれていたというのに、あの蛙が井の中で世界を収めていればよかったというのに」

 ぴた、と頭を掻き毟る手が止まる。一瞬、全てが切れたような虚脱の眼。
 それが逆に恐ろしかった。吐き出して、思いの丈が止まったわけではない。心情を言い聞かせて満足させたわけではない。
 こちらも注意していたからわかる、感情の転換の一瞬の隙間。
 そう、一瞬でも感じたディアボロは即座に、彼女から間合いを離した。

「ああああああ!!!! そうだよ、お前が欲しいんだよおおお!!!!!!」





「もぐもぐ、はふふ、もぐ、もぐ」
「いやあ、西行寺! 相変わらず見てて気持ちのいい食べっぷりだねぇ! なんだかあたいも負けじと飲まざるを得ない感じになるよ」
「小町、それはあなたが飲みたいだけでしょう。仕事中にも飲んではここでも飲んで。鬼ではないんだからそんなことばかりしていると」
「おかわりお持ちしましたよ! 閻魔様、どうぞ」
「……いただきます」
「ようむー。ごはんー」
「はいはいー」

 アンが宴の部屋に入ったころには、すでに盛り上がっている状態だった。
 幽々子の周りには大量の空き皿、小町の周りには酒瓶が転がっている。映姫は体格からか少しずつのようだ。
 妖夢は、大量の霊たちが運んでくる料理を個人に合わせて並べ、空いた皿を片付けてと、忙しそうに回っている。

(……どうにも、慣れん。この空気は)

 500年以上前に生まれ、スタンドとして今も残っている精神。かつては刀剣を作ることを生きがいとし、その生きがいは次第に優れた刀剣を証明することに走っていった。
 それはスタンドとなっても変わらず、倉庫の奥底から呼び出された時でも、時を渡って新たな主に就いても彼の本心は変わらない。
 故に、この皆で楽しむ、享楽を分かち合うという空気はどうにも馴染めなかった。
 妖夢も『次第にあなたも馴染めますよ。馴染めなさい、命令です』と師気取りで語っていた。そしてそれが今の世であるし、自分に必要な物。
 だが、戦闘兵器として変わっていった精神は、容易にその現実を受け入れられなかった。
 だから、今はこの場に存在はするが、少し離れた所にて皆を観察していよう。そう思っていた矢先。

「おー、来た来た。えーっと、アンだっけ? 半霊さん。珍しい存在だって聞いたから話してみたかったんだ。ほら、こっち来て座りなよ」

 顔を自分の毛髪と同じくらいに赤らめた死神が手招きをする。ばふばふと埃を立てながら座布団を叩き、来いと呼びかける。
 一瞬どうしたものか、断ろうかとも思ったが主の主が招いた客人。自分の意思で無碍にはしてはなるまい。
 そう思い妖夢の方に視線を送るが、当の妖夢は忙しそうで気づいていない。

「来ないのかい? なら私がそっちに行っちゃおうかなっと」

 まごついているとあちらの方からやってきた。関係を保ちたくはないと表情に出すが、酒飲み相手には全く効果が無いようだった。

「……へー。近くで見てみると確かに妖夢だ。妖夢の半霊なんだから当然だが……こう、漂う雰囲気は違っているのに気配として感じられるのは知人であるならば妖夢が強くなったようにしか見えないだろう。面白い」

 ぐにぐにと、小町はアンの顔をいじる。話を聞きに来たんではなかったのだろうか。
 不快そうな表情が表に出てくるが、小町はそれを笑い、

「そう嫌がるなって。おまえさんが可愛らしくてつい、な。触った感じは霊らしいが……中身、男なんだろう? 居づらくはないのかね」
「ぴぃやああぁぁっ!!?」
「んあ」

 そのいじる手つきは身体の下の方に降り、鎖骨あたりを触れたところで離れたところから叫ぶ声が聞こえる。
 共に、空気の割れる様な高い、多量の皿が壊れる音。
 その後すぐに、顔を赤く染めて妖夢が小町に詰め寄る。その赤みは酒ではなく、羞恥だろう。

「ど、ど、どこ触ってるんですか! 変な所触らないでくださいよ!!」
「え? あれ、そんなに繋がってるのかい?」
「私の身体です、当然じゃないですか!」
「えー、いつも丸っこい時に触ってもそんなにならなかったじゃん」
「この時は、ダメなんです! 似通っちゃうから、敏感な所は敏感なんですよ! そんなところ、まだ誰にも触らせたことないのに!」
「落ち着け、発言がヤバい」

 真っ赤になりながら小町に追い詰め畳み掛ける。もし武器を構えていたならば、そのまま使ってしまいそうな勢いで。

「あらあら、妖夢もまだまだねえ。……そういえば、……うふふ♪」
「……何ですか、その眼は」

 一方の幽々子と映姫。幽々子はゆっくりでありながらもペースを落とすことなく食事が続いていたが、配給役がいなくなり惜しむように少しずつ食べる様になっている。それでも、まだまだ残っているが。
 映姫はそれに惑わされることなく、少量ずつ飲んでいる。それほど強くないのだろうか、朱が刺した頬と少々とろんとした目が幽々子を睨む。

「身体を触ったとかでちょっと思い出しちゃって。彼、なかなか素敵だったわね。虜になる人が増えるのもわかるわ。映姫ちゃんはどうだった?」
「何ちゃん付けしてるんですか。というかさっき私が言ったこと忘れました? そもそもあなたは亡霊なんだから種が違っているんだからそれなりの趣に」
「今更に妖怪と人間の差もないわよ。半獣、半神、半霊……昔から間柄を持った者はいたわ。今のはそれを否定しているのではなくって?」
「それは拡大解釈しすぎです。あくまで一般的な趣について話しただけですから。そもそも、私は閻魔です。そのようなことに現を抜かしている暇など」

 眠たそうに頭を傾げながら説教とは違う多弁さで反論をする映姫。
 そんな姿を見て、小町が引っ付く妖夢を押さえて引きはがしながら、

「あっはっはー。違うでしょボス。相手が誰だかあたいは知らんけどあれでしょ、ショタじゃな  らでしゅえ」

 その言葉最後まで発されることはなかった。その場に小町はいなかった。
 その場に居たのは悔悟の棒を振りきっている映姫がいた。完璧なフォームだった。
 それを皆が認識した時、向かいの壁から肉がぶつかる様な音が宴の席に響く。

「速度×重さ=破壊力。なるほど、確かなようですね」
「……ぐぇ」

 振り切ったその先には、逆さまになって壁にもたれる小町の姿。アンや妖夢を弾き飛ばし、かなりの衝撃を喰らっているよう。

「小町、私は今罪を感じている。身の丈に合わぬ者に焦がれることを、その思いを周りに周知されたことではありません。それを抑え昇華させることは少なからず善行に繋がりますから。
 ではなぜ罪を感じているか? 答えは明白。問われるべきでない罪を、自らの勝手で裁こうとしている。いわば、私刑をしようとしているから」

 悔悟の棒で自らの手のひらを叩き、強く威圧するような見下ろした目で小町を見つめる。
 一つ、二つと手のひらを叩くごとに、その音が重く強くなっていく。その様、まさしく閻魔。

「悔悟の棒がどんどん重たくなっているのを感じます。ただ道を示すだけの説教ではない。これは勝手な司法だ。後に、私は罪を償いましょう。
 そう思えば何でも許される。それこそ最も嫌悪すべき思考。自らをそれに染めれば染めるほど重さを増す。……小町、次に私が何をやるかわかりますか」
「…………あ、あの、すいません」
「わ か り ま す か」

 重力に従い、ずるりと床に突っ伏すように倒れ。その後に顔を上げて謝罪の言葉を述べるがそれは閻魔に通じない。
 縋るように妖夢に目を向けるが、「当然です」と怒った顔をしてそっぽを向く。
 幽々子と言えば、再び肩を震わせて笑いを堪えているばかり。

「……み、右からですか」

 答えない。

「ひ、左からですか」

 答えない。

「りょ、両方ですか!?」

 それに対し、にっこりと笑みを浮かべる。小町は、こんなサディスティックに笑う映姫を見たことはなかった。

「た、たすけ」
「小町。あなたの罪を数えなさい!!!」

 顔面に棒が飛んでくる。様々な思いが走馬灯のように駆け巡った。
 悔悟の棒は相手の罪によって重さが変わるから自分の罪関係ないだろとか、そういえばあんな顔見たことあるけどその時もあたいは叩かれてたっけとか。
 右からの一撃を喰らい、破裂音と幽々子が我慢の限界で噴き出す音。一瞬見えた完全に恍惚の表情を浮かべている映姫の顔。
 全てがスローモーションに感じる。激しい痛みが一気に襲ってくる前に、左から棒が飛んでくる。あ、これ風見がたまに見せる顔だ。間抜けな想像が頭をよぎる。
 右の痛みをはっきりと脳が感じる間もなく、左の一撃で小町は昏倒した。

「……あれ?」

 ふと疑問に思うのは妖夢だけ。『自分はいつ跳ね飛ばされた?』
 結果的にはそうなっていたが……あまりの迫力で気づかなかっただけだろうか? 
 少し疑問に思えたが、いたずらをした小町がのされたことによって確かにスッとしたことと、散らばった皿の破片を考えるとその疑問はすぐに消えていった。





 能力は、気づかれなければそれでいい。知られれば、時間をかけるほどに対策されるから。
 能力が枝葉のように多岐に分かれるのであるならば、わずかなら知られてもいいかもしれない。そう思うのは素人だ。
 僅かな情報だけでも、得られることが多い。まして、戦闘であるならばなおの事。
 なるべくなら使いたくはなかった。一撃で仕留められなければ、情報を持たれてしまう。
 そう思っていたが、

「ぐうっ……!」
「ははは、はぁ。そっちに逃げるか。15%くらいだったな」

 肩口から血が噴き出す。藍自らが塗りたくった血ではなく真新しい、自分の身体の傷。
 恐るべき身体能力を以て、直に飛び込んできた彼女から逃げるために、0.7秒『吹っ飛ばした』。飛ばさざるを得なかった。
 が、それでも直前にはすでに彼女の爪は肉をえぐりこんでいて、完全な回避には至らなかった。

「知っているぞ。お前の能力は。どこで生まれて何処で育ち、どんな時を過ごしたのかを知っているように。些細なことでも私はなぁんでも、お前の事は知っている。
 飛ばしたな? 何秒だ? 正確には感知できなかったが……1秒にも満たない時間だよな?」

 そして、すでに知っている。なるほど、確かにここに来てからは天狗の時と山の神の時、2回だがキングクリムゾンの能力は使っている。
 先ほど確かにこいつは自分の事を『視ている』と言っていた。二人は空白地帯で誰も見ていないと言っていたが、その予想を超える実力。
 相手は傷つけたその指を、自分の血を舐め、興奮した様子で、

「あは、はははぁ! 舐め取れないよなぁ! あんなヒキガエルのなまっちょろいやり方じゃあ!! 私にはできるぞ、最も冴えたやり方で!
 ……所詮私は主の手足だ。意にそぐわぬ行動を取ればその力は半分も出すことはできない。それでも、どうだ。追いつけたか? 見切れたか? ……くくっ」

 上機嫌に、魅せつけるように語りかける。赤く濡れた指を愛おしい物を愛でる様に。興奮からか同じように赤みの強くなった唇に寄せ。
 狂ったようで、それでもどこか芸術品を思わせる様な蠱惑的な瞳。その瞳が、ディアボロを見つめる。
 その姿を見ただけで、世界の中心が彼女であるかのように。そこに惹きつけられてしまうような。そんな魅力さえも感じられる。

「……色狂い共め……揃いも揃って……」

 経験がないわけではない。それでも、その一線を優に超えた愛の表現には辟易する。なぜこうも、寄ってくるものはこんな者共ばかりなのか。
 知らなくてもいい事を知ろうとし、あまつさえ自らをも手中に収めようとしてくる。
 かつての自らの貪欲さを、そのまま味わわされているかのようにも思えるほどに。だからといって、それに流されるつもりは毛頭ない。
 相手が調子づいているその間に、自分も整える。闘いは、ここからだ。



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