時代背景 1994年(平成6年)

 1994年2月25日、メガCD版『真・女神転生』が発売される。そして3月18日には『真・女神転生2』、10月28日には『真・女神転生if...』が発売されるなど、メガテニストにとっては忙しい時期であった。同時に、94年はゲーム業界に新しい風が吹いた年でもあった。松下電器(現パナソニック)が3月に3DOを発売したのをはじめ、セガが11月にセガサターンを発売、そして12月にはソニーのプレイステーションとNECのPC-FXが発売され、まさに群雄割拠の次世代機戦争に突入した。それまで任天堂の牙城であったゲーム業界の地図が、徐々に塗り替えられていく時代の幕開けである。

国内の主な出来事

  • 4月26日、エアバス機事故、264人死亡。
  • 6月27日、長野松本市でサリン事件。
  • 10月29日、長嶋巨人軍日本一に。
  • 11月23日、貴乃花横綱昇進。
  • コメ不足で価格高騰。
  • 政局に波乱、首相が3人誕生。
  • 各地で記録的猛暑、水不足に。

 1994年は日本の政治にとって激動の年であった。社会党の首相が46年ぶりに誕生したほか、衆院の選挙制度が改正され、普通選挙法成立以来69年ぶりに中選挙区制が廃止された。また、所属議員が200人を越える新党が39年ぶりに結成される――など、歴史的にも激動を印象付ける展開をたどった。
 何よりも驚くべきことは、この年だけで首相が3人も登場したことである。4月に細川政権が8ヶ月足らずで幕を引き、これを引き継いだ羽田政権はわずか2ヶ月で倒れ、6月に村山政権が発足した。この間、連立与野党の組合せは政権ごとに変わり、衆議院では共産党を除く全党が一度は与党を経験している。中でも村山政権は、それまで長い間敵対してきた自民、社会両党が手を組んで政権を奪取するという、衝撃的な様相を見せた。

 記録的な冷夏が続いた93年とは一変、94年は“100年に一度”と言われるほどの猛暑・少雨となり、各地で水不足が起きた。気象庁の6~8月の気候統計によると、平均気温や日最高気温、熱帯夜の日数、降水量の少なさなど、さまざまな分野の記録を各地で更新、1875年の気象庁開設以来の数値を記録した。
 こうした異常気象による被害は全国各地に広がり、厚生省の調べでは40を越す都道府県で給水制限を実施、影響人口は延べ1500万人以上に達した。特に西日本での被害は深刻で、長野県佐世保市では43時間も断水時間が続く隔日5時間給水体制が実施されたほどである。また夏のかきいれどきを水不足が直撃した観光業界への影響も深刻で、旅館やホテルでは客用のグラスを紙コップへ変更するなど、節水に努めた。

 そしてこの年、謎の事件として世間を騒がせたのが“松本サリン事件”である。長野県松本市の住宅街で6月27日、突如有毒ガスが発生、住民多数が中毒症状を訴え7人が死亡、二百数十人が重軽傷に。捜査当局は死因をナチスドイツが開発した有機リン系神経ガス「サリン」によるものと断定、会社員宅を殺人容疑で家宅捜索した、というもの。自宅を捜索された会社員は7月30日、記者会見し、自分と事件は無関係であると強調した。
 このとき県警は事件の全貌を解明できず、結果、翌年の3月、オウム真理教が引き起こす日本転覆を狙った無差別殺人テロ“地下鉄サリン事件”へと発展してしまうのである。

社会、世相

  • 3月3日、米国でスーパー301条復活。
  • 5月1日、アイルトン・セナ死亡。
  • 5月6日、でっち上げ発言で法相辞表。
  • 6月10日、中国が40回目の地下核実験。
  • 6月27日、東京外国為替市場の円相場、戦後初の100円突破。
  • 7月8日、金日成急死。
  • 9月20日、イチローがシーズン200本安打達成。
  • 12月20日、日本テレビに届いた安達祐実宛の郵便物が爆発する。
  • 携帯電話の価格が下がり人気に、PHS実用化へ。
  • ヤンママ・コギャル急増。
  • 子供の名前に“悪魔”と命名。
  • 男性ストリップ「J.men's TOKYO」オープン。

 現在はメジャーリーガーとして大活躍中の、鈴木一郎ことイチローが、シーズン200本安打を達成したとしておおいに注目を浴びた年だ。69試合連続出塁のプロ野球記念樹立の相乗効果でぐんぐんと打率を上げ、安打数を増やしていった。最終的には打率は4割にとどかなかったものの、210安打と打率3割8分5厘でMVPに輝いた。

 政界では永野茂門法相の“でっち上げ発言”が問題となった。これは永野法相が毎日新聞のインタビューで「南京大虐殺はでっち上げだ」と発言したことで中国・韓国が激しく反発、それを受けて法相は発言を撤回して陳謝したが、しかし内外からの批判が止まらなかったため、羽田首相に辞表を提出する騒ぎにまで発展した、という事件。
 南京大虐殺は問題として浮き上がった当時からその信憑性について疑問視されており、現在では中国とその機関紙である朝日新聞が反日キャンペーンの一環として捏造・歪曲した真っ赤な嘘であることは周知の事実であり、世間の常識だが、本当のことを言って法相を辞さねばならないという事態を見るに、いかにこの当時、左翼議員・左翼マスコミの力が日本に大きな影響を与えていたのか、よく分かる事件である。

 世相・流行という面では、携帯電話の普及が拡大したことがあげられる。4月の端末売り切り制の導入で、各メーカーが独自の新機種を次々に投入、市場拡大につながった。携帯電話会社の激しい料金競争も普及を早めた原因だ。また同時に、簡易型携帯電話システム(PHS)が95年中に実用化される見通しとなり、携帯電話を凌ぐ普及が見込まれた。
 なおこの年には2010年までに光ファイバー網を全国の家庭に張り巡らすという「光ファイバー網整備構想」という目標を、郵政省(当時)が定めている。これは米クリントン政権の「情報スーパーハイウェイ構想」を強く意識したものだった。

 また世間を騒がしたといえば、“悪魔ちゃん”事件があげられる。これは東京都昭島市の30代の男性が、長男に「悪魔」と命名したことがあきらかになり、大きな国民的論議を呼んだ。この男性は長男を「悪魔」と名付けて市役所に提出、一度は受理されたものの、あとに「子供の将来に悪影響を及ぼす」などとして、別の名前を申請するよう指導したというもの。これに対し父親は「戸籍法に違反しておらず、問題ないはず」として、東京家裁八王子支部に不服を申し立てた。父親はテレビやラジオに出演し、「一度聞いたら忘れられない名前。出会いも多くなり、将来きっと役立つ」などと主張、「悪魔」命名の是非について全国的に議論を呼び、父親宅には賛否両論の手紙が殺到した。
 東京家裁八王子支部は94年2月、「名前は違法だが届け出を受理しているのだから、手続きは完了すべき」との審判を決定。昭島市側は不服とし即日抗告したが、父親が「子供の名無し状態が続く」として、不服申し立てを取り下げた。結局父親は「亜駆(あく)」という名前を新たに届け出て、市はこれを受理、「悪魔命名問題」に終止符が打たれた。

 また世の女性を表す言葉が“ヤンママ・コギャル”である。“ヤンママ”とは、元ヤンキーの若いママのことで、学生時代はヤンキー(不良)で、10代で結婚、若くして母親になった女性を指す。特徴は茶髪に派手なファッション、きつめの化粧と、総じて品性を欠いている。しかしヤンママ専門誌も誕生し、テレビや週刊誌で特集もされた。
 一方、遊びが派手な女子高生を“コギャル”という(やや適当だが)。やはり髪を茶色に染め、派手なアクセサリーとメイクで身を飾る。仲間や恋人と連絡を取り合うためのポケベルが必需品で、カラオケが大好き。こうした頭の軽い少女たちは、小遣い稼ぎのため軽い気持ちでテレクラやデートクラブに通ったり、援助交際やブルセラで下着を売ったりする子もいると言われていた。
 警視庁が9月に摘発した東京・新宿のデートクラブ3店では、登録していたデート嬢のうち、中・高校生が約8割の計400人以上にのぼり、そのうち約100人は売春をしていたことが明らかになっている。少女というよりは娼婦であり、モラルの低下が嘆かれた。

ゲーム

  • 3月4日、カブキロックス(SFC)発売。
  • 3月25日、スーパーロボット大戦EX(SFC)発売。
  • 4月2日、ファイナルファンタジー6(SFC)発売。
  • 5月27日、ときめきメモリアル(PCE)発売。
  • 8月27日、マザー2(SFC)発売。
  • 9月30日、女神天国(PCE)発売。
  • 11月22日、バーチャファイター(SS)発売。
  • 11月25日、かまいたちの夜(SFC)発売。
  • 12月3日、リッジレーサー(PS)発売。

 ゲーム業界にとっては節目の年である。スーパーファミコンでもっとも注目されたのが『ファイナルファンタジー6』だろう。前作を上回る圧倒的なグラフィックは、発表されると同時に話題となった。また家庭用ゲーム機に美少女ゲームというジャンルを開拓した先駆者的ソフトが、PCエンジンの『ときめきメモリアル』である。それまでのコナミのイメージとは180度違う、それでいてしっかり作り込んであるゲーム性にPCエンジンユーザーが熱中、コアな人気を獲得した。はじめこそゲーム誌で取り上げられることは少なかったものの、徐々に盛り上がってきた人気は次第に無視できないムーブメントとなり、当時次世代機として注目されていたプレイステーションに移植されることが早々とアナウンスされたこともあいまって、各誌で特集が組まれるようになっていった。一時期はときメモファンのことを“メモラー”などと呼んだ時期もあったほどゲームの知名度は浸透、のちのプレイステーション版の発売と共に爆発的人気となり、ギャルゲーブームのきっかけとなる。

 『ときめきメモリアル』がじわじわとヒットしていた影で、一部のマニアから注目を集めていたのが『女神天国(めがみパラダイス)』である。電撃PCエンジンの企画がゲーム化されたもので、主題歌を森口博子が歌うなど、ムダに豪華だった。キャラクターのコスチュームを変えて、それが特定の組合せになるとビジュアルシーンが見れるというシステムを搭載していたが、電撃以外では話題になることはなく終わってしまった。

 セガサターン本体と同時に発売されたのが『バーチャファイター』である。それまでゲームセンターででしか遊べなかったものが、家庭でも気軽に遊ぶことができるとして人気を呼んだ。このゲームはのちにアニメ化もされている。
 一方、「1・2・3!1・2・3!」とシャッターを叩きながら発売日を告知するという奇抜なCMで話題をさらったのがプレイステーションである。この本体と同時に発売されたゲームソフトのひとつが『リッジレーサー』だ。やはりゲームセンターでしか遊べなかったゲームが、ほぼそのままの形で家庭で遊べるということで注目を集めた。ゲーム開始前のロード時間を、シューティングゲームで潰させるというアイデアも斬新で、人気ゲームとなった。

漫画・アニメ

  • マクロス7放映開始。
  • 機動武闘伝Gガンダム放映開始。
  • 魔法戦士レイアース放映開始。
  • 平成狸合戦ぽんぽこ上映。
  • 幽遊白書、突然の連載終了。
  • るろうに剣心の連載始まる。

 秋からスタートしたのがマクロスシリーズ待望の新作『マクロス7』である。それまでのマクロスシリーズとはまったく違う主人公・熱気バサラのキャラクター性に話題が沸騰、アニメ誌で特集が組まれた。またマクロス7では熱気バサラとミレーヌ・ジーナスに関しては、普段の演技のときと歌のときとで声優が違うのだが、その違和感がまったくないということでも話題を呼んだ。ミレーヌ役の桜井智がリン・ミンメイのカバーアルバムを出すなど、マクロス7の関連CDは多く発売され、人気を博した。

 一方、ガンダムシリーズも負けてはいない。放送開始当初こそその作風に批判的な意見が相継いだ『Gガンダム』だが、東方不敗マスター・アジアが登場するあたりから演出が話題となり、徐々に好意的な意見が多くなっていった。そして、平成のガンダムとして今もなお根強い人気を誇る作品となる。

 週刊少年ジャンプではなんといっても『幽遊白書』の突然の連載終了だろう。ここに至るまで数々の予兆(作画崩壊、ストーリーの破綻)があったものの、それでも高い人気を保っていただけにジャンプは揺れた。作者の最終回のコメントが「しばらくの間放電したいと思います」であったことから、話が行き着いての終了というよりは、リタイアだったのだろう。90年代後半のジャンプの迷走ぶりは、このときから少しずつ始まっていたのかもしれない(なお翌年にはドラゴンボールが、翌々年にはスラムダンクが連載終了し、ジャンプの主力が消える)。

 とはいえ、この年はこれからのジャンプを支えていくことになる作品・作家も続々と出ている。まずは和月伸宏の『るろうに剣心』をはじめ、かずはじめの『マインド・アサシン』、のちに『密リターンズ!』を連載する八神健の読み切り『ふわふら』などがそうだ。
 またこの年もかつて人気連載を持っていたベテラン作家が打ち切りの目にあっている。『ニュートラルネットワーク・ミリンダファイト』の佐藤正、『ボンバーガール』のにわのまこと、『不思議堂奇譚』のえんどコイチ、『RASH!!』の北条司など。『幽遊白書』や『スラムダンク』で読者層にも変化があり、新しい読者にはベテラン勢の作風が通用しなくなっているような面もあったのではないかと思う。


最終更新:2018年12月22日 16:41