ゲームサイド 伊藤龍太郎インタビュー

【伊藤龍太郎】
…アトラス在籍時に『女神転生2』『真・女神転生』『真・女神転生2』『真・女神転生if...』『真・女神転生デビルサマナー』の各作品の開発に参加、主にシナリオ制作を担当した。2007年現在はスマートシステム株式会社シニアプロデューサー。



――まずは『女神転生』シリーズの開発に携わるようになった経緯を教えていただけますでしょうか。

伊藤:アトラスに入ったのは本当に偶然なんですよ。入社する前は今で言うところのフリーターで、『SIMULATOR』というシミュレーションゲーム専門誌で記事を書いたりしてました。当時編集長を務めていた鈴木銀一郎さんが、あるとき「アルバイト先を紹介してあげようか」と言って連絡先を教えてもらったのが、息子の一也さんが働いていたアトラスだったというわけです。私が入社したときにはすでに『女神転生2』の開発が始まっていて、やがて自分もそこにスタッフのひとりとして参加するようになったという次第です。

――では、『女神転生』が作りたくて会社に入ったというわけではないと?

伊藤:ええ、『女神転生』どころかアトラスがファミコンソフトを作っているメーカーだということすら全然知りませんでした。『女神転生』を入社するまで一度もプレイしたことがなかったどころか、当時ファミコンすら持っていませんでしたよ。最初の給料でファミコンを買って、『女神転生』のソフトは確か新宿のゲームショップでワゴンセールで980円で売られてた新品を買った記憶がありますね(笑)。

――『女神転生』シリーズには世界中の宗教や神話などに登場した神や悪魔が登場しますが、あれだけの数のキャラクターの特徴をひとつひとつ理解するには相当の知識がないとできないことですよね。

伊藤:私の場合は元から宗教や神話とかが詳しかったわけではなくて、『女神転生』シリーズにかかわるようになってからいろいろと後付けで覚えたんですよ。もっとも鈴木さんや金子さんは、オカルト的なものまで含めて詳しいので、それについていく必要上、むしろその辺の知識は“メガテン信者”のみなさんの方がお詳しいのではないのですか?いろいろと覚えなくてはいけないことがたくさんあったのは確かですが、もともと自分が歴史が好きだったこともあって歴史上の宗教知識に付随する形で吸収していきました。関連する知識を吸収することは楽しかったので、それ自体で苦しんだりとか、勉強をさせられていると感じたことは一度もなかったですね。

『女神転生2』にまつわるさまざまなエピソード

――では、『女神転生2』で実際に制作を担当したのはどの辺りですか。

伊藤:シナリオと3Dマップのデザイン、それから街の人の会話の作成ですね。自分で描いたマップの部分は全部暗記するほど繰り返しテストプレイをやりましたよ。

――ジャンク屋さんに入ったときに、店員が「なんだ、客か……」とまるで客を突き放すかのようなひねったセリフをしゃべるのが今も印象に残っています。

伊藤:ゲームに出てくる店員の会話は必ずと言っていいほど丁寧なしゃべり方になっていますよね。でも、別にぶっきらぼうな接客をするお店があってもいいんじゃないか、と考えているうちにあのセリフを思いつきました。これも『女神転生』シリーズ独特の怪しい世界観だから許されたのかもしれませんけどね。

――『女神転生2』は前作に比べるとマップがやや小さくなった印象がありますが、なぜコンパクトにしたのでしょうか。

伊藤:いえ、別に小さくしたわけではないんです。実は初代『女神転生』と『女神転生2』のマップはほとんど同じ広さなんですよ。実際にプレイしてみると『2』の方がコンパクトに感じるのは、途中で2Dのフィールドを挟むようにして、3Dのマップを小出しにしているからなんですね。初代は『2』みたいに途中で2Dのマップが出てこないですし、ずっとフロアが最初から最後まで(3Dマップで)続いていますからどうしても広く感じるのは確かでしょうね。
 マップの構成については、もともと私が開発に参加する前から、企画会議で「(前作にあったような)ダラダラとマップが続く構成はよそう」という反省が他のスタッフからすでに出ていまして、プレイヤーになるべくプレッシャーを与えないように配慮しようという意見でまとまったからあのようなマップ構成に決まったと聞いています。

――主人公が片腕を食いちぎられるというイベントは衝撃的でした。初めて見たときは、自身が何か途中で致命的なミスをしたのではないかと思って動揺しまくったのが今も忘れられません。

伊藤:ホント、こんなトンデモないイベントが登場するゲームなんて他にはちょっとないですよね。まったくもってひどいことを考えついたなあと(笑)。ビジュアルの表現力がよりリアルに進化した今となっては、まず採用されないアイデアでしょうね。

――クライマックスで唯一神を倒したあと、シェルターに戻ってデビルバスターを起動させると「PROGRAMMED by A.NAKAJIMA」と出るのは前作のオマージュ的な演出でしょうか。

伊藤:西谷史さん原作の小説を知っている人が見て、ニンマリしてもらえればいいや、と思って入れてみました。

東京が舞台となった意外な理由とは?

――『女神転生2』からの作品は東京が舞台となりますが、日本の首都というありきたりな場所をあえてゲームの舞台にしようと思ったのはなぜですか。

伊藤:これも私が企画に参加した段階で、すでに東京を舞台にすると決まっていました。だから考案者は鈴木さんや金子さんということになりますね。ただ、『バイオレンスジャック』とか『デビルマン』、あとは『北斗の拳』みたいなマンガの影響は少なからず受けていたのは明らかですね。

――『真・女神転生』だと吉祥寺がスタート地点になりますけど、これには何か特別な理由があるのですか?

伊藤:『2』ではいきなり地上が核の炎に包まれるというストーリーでしたから、今度はミサイルが落とされる前の時代からやりたいな、という考えが企画段階からありました。ただ、コンピューター上で東京全土のマップなんて、とてもじゃないけど全部は描き切れないわけです。そこで、マップ上で実際に描く範囲や地形を極限まで絞ろうと考えた結果、吉祥寺がスタート地点となるあのような形のマップ構成になりました。
 吉祥寺をスタート地点にする必然性というのは特になかったんです。東京近郊の街という条件を満たせば。当時金子さんが吉祥寺に、私がすぐ近くの西荻窪に住んでいて、鈴木さんも昔出入りしていた街で、なじみのある土地だったというわけです。
 で、その頃の吉祥寺駅前には廃墟みたいなビルがありまして、中に入るとなぜか2フロアだけゲーセンになっていて、あとは真っ暗で汚いゴーストタウンみたいな建物だったんです。「こんな駅前の超一等地にあるのにどうしてテナントが全然入らないんだろう、じゃあ面白いからここをネタにしてなんかやっちゃおうぜ!」ということで、ダンジョンになってしまいました。

――そして主人公たちが金剛神界へといったん冒険の舞台を変え、地上に再び戻ってくるとすでに大破壊のあとだった、というストーリーにもシビれました。そう言えば地上に戻ったときに所持金(円)がいきなり使えなくなり、無一文状態にされてしまうという設定にもショックを受けた覚えがあります。

伊藤:確か『北斗の拳』の第1話で、世紀末でもはや市場価値のないお札を見た輩が「こんなの紙クズにもならねぇよ!」と叫ぶシーンがあったのですが、それと同じことをゲームでもやってみようと思いついちゃったんです(笑)。だから道端でいきなり乞食のオッサンが出てきて「円はもう使えない」と教えてくれるようにしてあったでしょう?

――そう言えば、西谷史さんがゲーム発売のあとに書いた『真・女神転生エル・セイラム』という小説でも吉祥寺が舞台になっていました。ゲームの方が逆に原作の方に影響を与えるというのもなんだか面白いですね。

伊藤:確かにそれは言えますね。

伊藤氏独特のセンスが冴える!登場人物の意外なモデルとは

――『女神転生』シリーズに出てくる登場人物には、いろいろとモデルが存在すると聞いています。例えば、『女神転生2』のスズキカンパニーの社長さんにもモデルとなった人がいるのでしょうか?

伊藤:今までのお話ですでに察しがついているかもしれませんが、鈴木社長のモデルは鈴木銀一郎さん、そのものズバリですね。

――『真・女神転生』のアメリカ大使館にいるトールマンは、やはりアメリカ元大統領のトルーマンがモデルですか?

伊藤:いや、これは北欧神話のトールからとったもので、日本に原爆を落とした当時の大統領の名前がトルーマンだったということはあとになって気が付いたんです。ホント、単なる偶然にしてはちょっと出来過ぎた感がありますよね。あの頃は私たちスタッフの中に何か降りて来ていたのかなあ……。

――『真・女神転生』のいじめられっ子のカオスヒーローの顔は伊藤さんご自身であるというのは本当ですか?

伊藤:はい。あとで金子さんから「伊藤ちゃんの顔を見ながらキャラを描いてたらこんな風になっちゃった」って言われました(苦笑)。

――そしてかの有名な悪魔召喚プログラムを作った車椅子のスティーブン博士は、やはり天才物理学者のホーキング博士が元ネタということでしょうか?

伊藤:そうです。ホーキング博士は宇宙は神が創造したものという思想が今も深く根付いている欧米社会において、それを物理学者の理論で否定した著書を出して衝撃を与えたってスタンスの人なんですよ。だからゲームの中で博士はニュートラル属性の使者という設定になっているんですね。
 それから、『真・女神転生if...』に登場するコンピューター部の佐藤君は物理学者の佐藤勝彦教授から名前を取ったんですよ。これは佐藤教授がホーキング博士の著書の翻訳者であり、ホーキング理論の日本への紹介者という立ち位置だからという理由です。それで、ゲーム中でも佐藤君が悪魔召喚プログラムを紹介する役割になっているわけです。

――では、同じく『if...』に出てくる宮本明もそのようなパターンで『デビルマン』を元ネタにしたのでしょうか。

伊藤:ハイ、そういうことです。苗字の宮本というのは、マンガではアキラがアモンと合体しますから、アモンと言えば宮本、じゃあ苗字は“宮本”だな、という実に単純な連想から決定しました(笑)。
 また、学校にいる赤根沢玲子、黒井真二、白川由美の3人は、実は昔あったセネタースというプロ野球チームにいた選手の名前が元ネタなんです。赤根谷、黒尾、白木という赤、黒、白で通称“三原色投手”と呼ばれた先発ピッチャーがおりましたので、そこから名前を取りました。

――なんとマニアックな!

伊藤:あ、それで今思い出しましたけど、『真・女神転生2』のレッド・ベアという敵は『愛國戰隊大日本』に出てきた悪の組織の名前を拝借しています。当時これにはさしものマニアたちもほとんど気付かなかったみたいですね。このネタをメディア向けにお話ししたのは今回が初めてかな?いやあ、ホント自分はこんな小ネタばっかり考えてますね。くだらない話ですいません(苦笑)。

――『if...』のクライマックスに流れる軽子坂高校校歌の作詞をしたのも確か伊藤さんでしたよね。

伊藤:そうです。ゲーム中では一番の歌詞しか出てこないのですが、本当は三番まであります。校歌に曲をつけてと増子さんに頼んだときは、はじめメチャクチャいや~な顔をされましたね(笑)。ちなみに歌詞は私の母校の校歌を一部参考にしました。バックの校舎のグラフィックも、高校の校舎の資料写真に適当なものがなくて、母校の卒業アルバムの写真を参考にして描いてもらってます。

――せっかくゲーム史上に残る名曲ですから、あとでモモーイにCDのプロデュースを頼んでみましょうか。当たればあこがれの印税生活になるかもしれませんよ(爆笑)。

自分の運命は自分でつかむのが『女神転生』

――伊藤さんが『女神転生』シリーズを通じて、プレイヤーに伝えたかったメッセージとは一体何でしょうか。

伊藤:「自分の運命は自分でつかめ!」の一言につきます。プレイヤーがゲーム中に取った行動によって属性が変化し、どのエンディングを迎えるのかはすべて自分自身の責任による結果なんだよ、ということですね。そして現実の世界でも、ゲームのやり過ぎで次の日に学校で居眠りをして先生に怒られたりするのも、すべては自分のせいだよと(笑)。
 でもそうは言っても、当時あれだけの多士済々なメンバーが集まって『女神転生』というひとつのシリーズができあがったこと自体が、偶然というか奇跡的なことだったのかなあと今となっては思うことがありますね。もっとも、自分もスタッフの一人として参加することができたのも、これもある意味何かの運命だったのかもしれませんけどね……。

――本日はありがとうございました!


最終更新:2018年12月22日 16:46