「私は殺し合いに乗っています」
開口一番、出会い頭にそう告げる彼女の目は本気だった。
ケツイにみなぎる瞳から痛い程に伝わる。この子は深い葛藤の末、今の選択を取ったのだろう。だからわたしは彼女の目を見据えながら最終確認をする。
ケツイにみなぎる瞳から痛い程に伝わる。この子は深い葛藤の末、今の選択を取ったのだろう。だからわたしは彼女の目を見据えながら最終確認をする。
「本気なんだね」
「はい」
「はい」
ノータイムで返事をした彼女は腰に提げた剣を抜き戦闘態勢に入る。雰囲気が険しく、鋭いものに変わっていくのがわかる。
「戦いたくない、と言いたいけれど……そういうわけにもいかないね」
話し合いで解決できるものではない。そう理解したわたしは同じように槍を作り出し両手に構えた。
──悲しかった。
この子はその気になればわたしに声を掛ける事無く不意を突いて殺すことも出来ただろうに。彼女はきっと真っ直ぐな生き方しか出来ないんだろう。
そんな子が血の道を歩まなければならないという現実が、あまりにも悲しかった。
そんな子が血の道を歩まなければならないという現実が、あまりにも悲しかった。
「魂魄妖夢です」
と、彼女は突然固い唇を開いた。
それが彼女の名前なのだと気づいたわたしは倣うように名を名乗ることにした。
それが彼女の名前なのだと気づいたわたしは倣うように名を名乗ることにした。
「アズゴアだ」
それがきっと、礼儀というものなのだろう。
■
風が吹く。
土埃が舞う。
呪われしトロデーン城の庭園、その朽ちた噴水の前。妖夢とアズゴアは静かに見合う。
土埃が舞う。
呪われしトロデーン城の庭園、その朽ちた噴水の前。妖夢とアズゴアは静かに見合う。
「さらばだ」
「────ッ!?」
「────ッ!?」
先に仕掛けたのはアズゴアだった。
しかしそれを仕掛けたと呼んでいいのかはわからない。彼の手から投擲された槍は妖夢の横を過ぎ、城壁を破壊するだけに留まったからだ。
反応が遅れた。あれが自分を狙っていたのならば被弾は避けられなかっただろう。
今の投擲により、妖夢の中にあった『みのがす』という選択肢がすべからく破壊された。
しかしそれを仕掛けたと呼んでいいのかはわからない。彼の手から投擲された槍は妖夢の横を過ぎ、城壁を破壊するだけに留まったからだ。
反応が遅れた。あれが自分を狙っていたのならば被弾は避けられなかっただろう。
今の投擲により、妖夢の中にあった『みのがす』という選択肢がすべからく破壊された。
「今度はこちらから────」
静かな攻撃宣言。瞬間、妖夢の強い踏み込みと共に放たれた斬撃が空間を裂き、その軌道をなぞるように生まれた無数の白い弾幕がアズゴアを追う。
元より牽制を狙ったものだと判断したアズゴアはそれら全てを体に受けながら両手を目前に掲げる。と、彼の掌から夥しい数の火球が群れをなし妖夢を狙った。
元より牽制を狙ったものだと判断したアズゴアはそれら全てを体に受けながら両手を目前に掲げる。と、彼の掌から夥しい数の火球が群れをなし妖夢を狙った。
努めて冷静にそれらを回避し、避けきれない分は刀で切り伏せながらアズゴアの元へ肉薄。水さえ両断する横凪ぎをアズゴアは槍の柄で防ぎ返しの刺突を放つ。
妖夢はそれを屈んでかわし真下から昇鯉の如く斬り上げた。即座に後退するアズゴアの胸に一筋の裂傷が走りわずかに息を乱す。
離れた分の距離を補おうと走る妖夢の眼前、先程と同じように構えられるアズゴアの両手が映った。
妖夢はそれを屈んでかわし真下から昇鯉の如く斬り上げた。即座に後退するアズゴアの胸に一筋の裂傷が走りわずかに息を乱す。
離れた分の距離を補おうと走る妖夢の眼前、先程と同じように構えられるアズゴアの両手が映った。
「く……っ!」
大量に生み出される炎の弾幕、このまま肉薄すれば身を焦がすのは必至。
大きく横へ飛び離脱した彼女の周囲をいつの間にか炎の球が囲んでいた。放射状ではなく、環状に広がるそれは先程とは異なる技なのだろう。
高速で迫る炎の輪。しかしその輪の中に人一人分ほどの『欠け』があるのを見抜いた妖夢はそちらへ転がり込む。続く炎輪も同じように回避すれば、今度は空から炎の雨が降り注いだ。
大きく横へ飛び離脱した彼女の周囲をいつの間にか炎の球が囲んでいた。放射状ではなく、環状に広がるそれは先程とは異なる技なのだろう。
高速で迫る炎の輪。しかしその輪の中に人一人分ほどの『欠け』があるのを見抜いた妖夢はそちらへ転がり込む。続く炎輪も同じように回避すれば、今度は空から炎の雨が降り注いだ。
(数が多い、けれど────)
避けられないわけではない。
弾幕の密度で言えばこれよりひどいものを作り出せる存在は幻想郷にも沢山いる。それらをギリギリで躱しながらアズゴアへ距離を詰めていく。
弾幕の密度で言えばこれよりひどいものを作り出せる存在は幻想郷にも沢山いる。それらをギリギリで躱しながらアズゴアへ距離を詰めていく。
戦っていてわかった。アズゴアは近接の技に秀でていない。代わりに炎を使った魔法に長けており妨害が上手い。仮に自分が弾幕を放とうとも打ち消され、被弾しても大したダメージにはならないだろう。
ならばこの戦いは必然的に、妖夢が距離を詰められるかどうかにかかっている。
ならばこの戦いは必然的に、妖夢が距離を詰められるかどうかにかかっている。
呼吸を整える。
間合いまであと少し。
疾走する妖夢の目前に巨大な「!」の文字が生まれた。
間合いまであと少し。
疾走する妖夢の目前に巨大な「!」の文字が生まれた。
「な────」
まるで何かを警告するかのようなそれに従い反射的に飛び退くと同時、妖夢の数センチ手前の地面が爆発し炎の弾幕が天高く昇る。
その密度は最早炎の壁と言っても過言ではない。あの警告が無ければ間違いなく妖夢の体は丸焦げとなっていただろう。
冷や汗を頬に伝わせながら前方の壁を切り払う。瞬間、晴れた視界に映し出される光景に妖夢は瞠目した。
その密度は最早炎の壁と言っても過言ではない。あの警告が無ければ間違いなく妖夢の体は丸焦げとなっていただろう。
冷や汗を頬に伝わせながら前方の壁を切り払う。瞬間、晴れた視界に映し出される光景に妖夢は瞠目した。
「──っ!?」
アズゴアが接近していたのだ。
巨大なマントを翻し、片目をオレンジ色に輝かせ、槍を振り翳すアズゴアの姿に妖夢は初めて防御の姿勢に出る。
猛烈な衝撃が刀越しに妖夢の小柄な体を吹き飛ばした。肺から空気を漏らしながら空中で身を捻り、なんとか着地した妖夢は己の愚を恥じる。
巨大なマントを翻し、片目をオレンジ色に輝かせ、槍を振り翳すアズゴアの姿に妖夢は初めて防御の姿勢に出る。
猛烈な衝撃が刀越しに妖夢の小柄な体を吹き飛ばした。肺から空気を漏らしながら空中で身を捻り、なんとか着地した妖夢は己の愚を恥じる。
近接の技に秀でていない?
違う、アズゴアは自分の動きを観察していたのだ。あの炎の弾幕をどう捌くかを見通し、攻め方を変えたのだろう。
違う、アズゴアは自分の動きを観察していたのだ。あの炎の弾幕をどう捌くかを見通し、攻め方を変えたのだろう。
「お見事です」
「────……」
「────……」
賞賛の言葉を魔王へ投げつつ妖夢は改めて刀を構え直す。アズゴアは無言で、しかし僅かに手を震わせながら次の一手を繰り出した。
突如アズゴアの前方から二重らせんを繋ぐ炎球が伸びる。直線的なそれは幾分か避けやすい。右へ一歩分体をずらした瞬間、「!」を視界に捉え全力で後方へ飛び退いた。
突如アズゴアの前方から二重らせんを繋ぐ炎球が伸びる。直線的なそれは幾分か避けやすい。右へ一歩分体をずらした瞬間、「!」を視界に捉え全力で後方へ飛び退いた。
大地が爆ぜる。
城に根付く茨を飛び火が燃やし寒空の気温を上げる。
斬り払われた炎の壁の向こうには槍投げの構えを取るアズゴアの姿が映った。
城に根付く茨を飛び火が燃やし寒空の気温を上げる。
斬り払われた炎の壁の向こうには槍投げの構えを取るアズゴアの姿が映った。
あの投擲はかわせる攻撃だ。
だが妖夢はそれをしない。両足を地に着けたまま、刀を右斜めに傾けて目を閉じる。その眉尻はほんの少しだけ下げられていた。
だが妖夢はそれをしない。両足を地に着けたまま、刀を右斜めに傾けて目を閉じる。その眉尻はほんの少しだけ下げられていた。
──出来ればこの技は使いたくなかった。
霊力を消費するというのもあるが、それ以前にこの技はアズゴアとの真っ向勝負を避けるというあらわしになる。
この男とは剣技のみで決着をつけたかった。けれどそんな綺麗事の末に敗北してしまったのなら意味が無い。
この催しに乗ると決めた時点で汚れ役になる覚悟はしていたのだから。
この男とは剣技のみで決着をつけたかった。けれどそんな綺麗事の末に敗北してしまったのなら意味が無い。
この催しに乗ると決めた時点で汚れ役になる覚悟はしていたのだから。
「────反射下界斬」
迷いを断ち、妖夢の身体を覆うように生成された青い障壁。
アズゴアの槍がそれに触れた瞬間、甲高い音と共に迸る紅蓮の閃光がアズゴアの脇腹を抉る。その光の正体は他ならぬ彼自身の槍だった。
アズゴアの槍がそれに触れた瞬間、甲高い音と共に迸る紅蓮の閃光がアズゴアの脇腹を抉る。その光の正体は他ならぬ彼自身の槍だった。
「……え、…………?」
飛び散る血飛沫にアズゴアは戸惑いを隠せない。遅れてやってくる激痛に苦悶の声を上げるアズゴアは揺れる視界にて刀を納める妖夢の姿を見た。
妖夢が刀を納めたのは戦いを辞める為ではない。この勝負を決するためだ。アズゴアの動きが止まった今しか攻め時は無いのだから。
妖夢が刀を納めたのは戦いを辞める為ではない。この勝負を決するためだ。アズゴアの動きが止まった今しか攻め時は無いのだから。
「────人符、現世斬」
刹那、妖夢の姿が掻き消える。
幻想郷最速と謳われる射命丸でも目で追う事すら出来ない抜刀術。風を、音を置き去りにするそれはアズゴアに反応の余地すら与えず彼の胸を深々と切り裂いた。
幻想郷最速と謳われる射命丸でも目で追う事すら出来ない抜刀術。風を、音を置き去りにするそれはアズゴアに反応の余地すら与えず彼の胸を深々と切り裂いた。
アズゴアの背後で妖夢は刀を納め直す。今度こそ戦闘終了の合図だ。
遅れて血の花を咲かせたアズゴアはそのままゆっくりと倒れ込む。ずんと地響きを鳴らす巨体からどくどくと溢れる血液がレンガ道の溝を伝った。
遅れて血の花を咲かせたアズゴアはそのままゆっくりと倒れ込む。ずんと地響きを鳴らす巨体からどくどくと溢れる血液がレンガ道の溝を伝った。
アズゴアの最期を見届け、その場を離れようとした妖夢の耳にぶつぶつと微かな声が聞こえる。
まだ息があったのか──アズゴアの丈夫さに驚くと同時に、一撃で楽にしてやれなかったという心咎めが妖夢を襲った。
まだ息があったのか──アズゴアの丈夫さに驚くと同時に、一撃で楽にしてやれなかったという心咎めが妖夢を襲った。
「ト……リ、エ……、……ル……」
その言葉を最期にアズゴアの呼吸が停止し、体が塵と化す。
トリエル──それがきっとアズゴアが自分に立ち向かった理由なのだろう。命に代えても守りたいと思う存在がここにいたから、彼は戦ったのだ。
トリエル──それがきっとアズゴアが自分に立ち向かった理由なのだろう。命に代えても守りたいと思う存在がここにいたから、彼は戦ったのだ。
「……幽々子様」
そしてそれは妖夢も同じだ。
空を見上げ、主の名を呟く。名簿にある中で最も彼女に縁のある名前だ。それこそが妖夢の戦う理由。
空を見上げ、主の名を呟く。名簿にある中で最も彼女に縁のある名前だ。それこそが妖夢の戦う理由。
「貴方は私が必ずお守りします」
改めて口にすることでよりケツイがみなぎった。
そうして妖夢は亡骸から踵を返す。差し掛かる月の光が彼女の顔の右半分を照らし、左半分を闇に溶かした。
そうして妖夢は亡骸から踵を返す。差し掛かる月の光が彼女の顔の右半分を照らし、左半分を闇に溶かした。
【アズゴア@UNDERTALE 死亡確認】
【残り36名】
【残り36名】
※アズゴアの支給品は遺体の傍に放置されています。
※トロデーン城庭園の茨が焼き尽くされました。
※トロデーン城庭園の茨が焼き尽くされました。
【B-6/トロデーン城 庭園/1日目/深夜】
【魂魄妖夢@東方project】
[状態]:霊力、体力消耗(小)、服に焦げ跡、決意
[装備]:退魔の太刀@ドラゴンクエストVIII 空と大地と呪われし姫君
[道具]:基本支給品、ランダム支給品
[思考・状況]基本行動方針:幽々子様を優勝させる。
1:参加者達と戦い、殺害する。
2:幽々子様と出会った際はお守りする。
【備考】
※妖夢が城内を探索するか城を出るかは後の書き手さんにお任せします。
【魂魄妖夢@東方project】
[状態]:霊力、体力消耗(小)、服に焦げ跡、決意
[装備]:退魔の太刀@ドラゴンクエストVIII 空と大地と呪われし姫君
[道具]:基本支給品、ランダム支給品
[思考・状況]基本行動方針:幽々子様を優勝させる。
1:参加者達と戦い、殺害する。
2:幽々子様と出会った際はお守りする。
【備考】
※妖夢が城内を探索するか城を出るかは後の書き手さんにお任せします。
【支給品紹介】
【退魔の太刀@ドラゴンクエストVIII 空と大地と呪われし姫君】
妖夢に支給された刀。
悪魔系のモンスターに1.3倍のダメージを与える効果がある。
【退魔の太刀@ドラゴンクエストVIII 空と大地と呪われし姫君】
妖夢に支給された刀。
悪魔系のモンスターに1.3倍のダメージを与える効果がある。
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