アインクラッド 75階層。ボスエリア。
そこは一見すると、何の細工も仕掛けも無い石造りのドームのようなエリアだった。
直径数十メートルはある石畳の周囲はつるつるとした壁面で覆われ、登ることも壊すことも不可能だ。
壁にある扉は1つだけだが、パラドが押しても引いてもびくともしない。鍵がかかっているというよりは、壁に書いてある絵のようだ。
そこは一見すると、何の細工も仕掛けも無い石造りのドームのようなエリアだった。
直径数十メートルはある石畳の周囲はつるつるとした壁面で覆われ、登ることも壊すことも不可能だ。
壁にある扉は1つだけだが、パラドが押しても引いてもびくともしない。鍵がかかっているというよりは、壁に書いてある絵のようだ。
「張りぼてか。
外観はデケえのに、随分殺風景な場所だ。なんでこんなところを?
奴のことだ、もっと過酷な環境やモンスターの蔓延る危険地帯だって、作ろうと思えば作れたはず。」
「……ここは、俺とアイツが戦った場所だ。
この城……アインクラッドは、俺の世界でヒースクリフが起こしたデスゲームの舞台だった。
そのゲームを終わらせる最後の戦いを起こしたのが、75階層――このフロアだ。」
外観はデケえのに、随分殺風景な場所だ。なんでこんなところを?
奴のことだ、もっと過酷な環境やモンスターの蔓延る危険地帯だって、作ろうと思えば作れたはず。」
「……ここは、俺とアイツが戦った場所だ。
この城……アインクラッドは、俺の世界でヒースクリフが起こしたデスゲームの舞台だった。
そのゲームを終わらせる最後の戦いを起こしたのが、75階層――このフロアだ。」
訝しむパラドに、眉間に皺を寄せながらキリトは答えた。
懐かしい思い出とは言い難い、過去のトラウマをほじくり返されたような表情を浮かべるキリトの頭上で、赤い空にノイズが走る。
懐かしい思い出とは言い難い、過去のトラウマをほじくり返されたような表情を浮かべるキリトの頭上で、赤い空にノイズが走る。
「こいつは……」
嫌がおうにも思い出す。その演出は鉄の城のデスゲームの開始を告げた『はじまりの日』の演出とそっくりだ。
そんな記憶をなぞるように、空に巨大なホログラムが浮かび傲慢な態度で皆を見下ろす。
唯一違いを挙げるなら、SAOではローブを纏った怪しいアバターだった姿が、バグスターに成り果てた茅場晶彦ということだけだ。
そんな記憶をなぞるように、空に巨大なホログラムが浮かび傲慢な態度で皆を見下ろす。
唯一違いを挙げるなら、SAOではローブを纏った怪しいアバターだった姿が、バグスターに成り果てた茅場晶彦ということだけだ。
実際はこの会場のアスナはSAOをクリア時どころかキリトのことさえ知らないのだが、彼がそのことを知る機会はもはやなかった。
「再生怪人になって運営から引きずりおろされるに飽き足らず、内輪ネタまで擦りだしたかよ。
まさかSAOの再演をしたいだとか、そんなことをほざくつもりじゃないよな。ヒースクリフ!」
「否定はしないがね。あくまで私はラスボス戦に適した会場に君たちを移しただけだ。
あの時とは違う。行われるのは1対1の決闘(デュエル)ではなく多対一の集団戦(レイドバトル)さ。
この城を選んだのは……まあ君に対する意趣返しもあるが、私個人のモチベーションと使った権能の都合だよ。」
まさかSAOの再演をしたいだとか、そんなことをほざくつもりじゃないよな。ヒースクリフ!」
「否定はしないがね。あくまで私はラスボス戦に適した会場に君たちを移しただけだ。
あの時とは違う。行われるのは1対1の決闘(デュエル)ではなく多対一の集団戦(レイドバトル)さ。
この城を選んだのは……まあ君に対する意趣返しもあるが、私個人のモチベーションと使った権能の都合だよ。」
悪びれもせずに言ってのけると、値踏みするように会場に集った面々を見下ろしながらヒースクリフは続ける。
「ラスボス戦の前にルールの説明だ。呪術的には『術式の開示』というのだったかな?
この城から君たちが出る方法は私を殺すしかない。無論、私を殺せば相応の報酬は約束しよう。」
「ならさっさと降りて来いよ。
まさかこの城に隠れたお前を探し出せとかいうんじゃねえだろうな?」
「この顔ぶれを揃えてかくれんぼに興じるほど君たちを舐めてはいないさ。
だが、私一人でこの数を相手にするというのも正直骨が折れる。
何より君たち側も急造の集団(パーティ)だ。味方を巻き込まないように気を遣い。使えない技もあれば精彩を欠くこともある。」
この城から君たちが出る方法は私を殺すしかない。無論、私を殺せば相応の報酬は約束しよう。」
「ならさっさと降りて来いよ。
まさかこの城に隠れたお前を探し出せとかいうんじゃねえだろうな?」
「この顔ぶれを揃えてかくれんぼに興じるほど君たちを舐めてはいないさ。
だが、私一人でこの数を相手にするというのも正直骨が折れる。
何より君たち側も急造の集団(パーティ)だ。味方を巻き込まないように気を遣い。使えない技もあれば精彩を欠くこともある。」
あくまで互いに益があることだという建前は崩さない。
そう言ってのけるヒースクリフの言葉には信ずるに足る重みは無く、ただ彼のルールに雁字搦めにされる様な不快な窮屈さだけが聞く者たちにもたらされる。
全員が訝し気に睨む中、ヒースクリフはクロノスからむしりとったバグヴァイザーツヴァイを取り出すと、銃口を地面に向けて引き金を引いた。
バグスターウイルスを思わせるオレンジ色の粒子が降り注ぎ、地面に吸い込まれ石畳を徐々に染め上げていく。
そう言ってのけるヒースクリフの言葉には信ずるに足る重みは無く、ただ彼のルールに雁字搦めにされる様な不快な窮屈さだけが聞く者たちにもたらされる。
全員が訝し気に睨む中、ヒースクリフはクロノスからむしりとったバグヴァイザーツヴァイを取り出すと、銃口を地面に向けて引き金を引いた。
バグスターウイルスを思わせるオレンジ色の粒子が降り注ぎ、地面に吸い込まれ石畳を徐々に染め上げていく。
「故に今から行われるのは、多対多の集団戦。
私に刃を届かせるには、私の生み出す『分身たち』を乗り越えてもらわねばならない。」
私に刃を届かせるには、私の生み出す『分身たち』を乗り越えてもらわねばならない。」
そう高笑いを上げるヒースクリフの足元で、石畳の変色が会場全体に広がっていく。
同時に起きた変化の全てを理解できたのは、上空から全てを見下ろすヒースクリフだけだった。
同時に起きた変化の全てを理解できたのは、上空から全てを見下ろすヒースクリフだけだった。
まず初めに、足元が裂けた。
クッキーを割るように、或いは開戦のゴングを鳴らすように、石畳に亀裂が走る。
後にして思えばその割れ方は、ヒースクリフの意思がこれでもかと割り込んだ恣意的なものだ。
クッキーを割るように、或いは開戦のゴングを鳴らすように、石畳に亀裂が走る。
後にして思えばその割れ方は、ヒースクリフの意思がこれでもかと割り込んだ恣意的なものだ。
キリト。シロコとまふゆ。パラドと右龍とユフィリア。
石畳を裂く亀裂が彼らをそのように分断し、裂け目から噴きあがった温泉のように橙色の粒子が勢いよく噴出していく。
まるでという表現さえ必要ない。それは壁であり、檻だった。
”ラスボス戦”を容易く攻略などさせる気の無い、ゲームマスターが造り上げた、参加者を狩るための檻。
そして檻があって獲物がいれば――狩人が解き放たれる。
石畳を裂く亀裂が彼らをそのように分断し、裂け目から噴きあがった温泉のように橙色の粒子が勢いよく噴出していく。
まるでという表現さえ必要ない。それは壁であり、檻だった。
”ラスボス戦”を容易く攻略などさせる気の無い、ゲームマスターが造り上げた、参加者を狩るための檻。
そして檻があって獲物がいれば――狩人が解き放たれる。
彼らが真に絶句したのは、その狩人たちを見た時だった。
裂け目から噴き出す粒子の壁。その一部がもぞもぞと動きを見せると、人間大の姿となった一部分が切り取られる。
バグスターウイルスのことを知らぬ人間が見れば、粒子の壁から人間が出てきたように見えるだろう光景。
だが何よりの問題は――姿を見せた人間の形だ。
バグスターウイルスのことを知らぬ人間が見れば、粒子の壁から人間が出てきたように見えるだろう光景。
だが何よりの問題は――姿を見せた人間の形だ。
「おいおい真実(マジ)かよ……お兄ちゃん!」
それは、氷の忍者の姿をしていた。
「なんでテメエが……ゼイン!!」
それは、歪んだ正義の姿をしていた。
「ぎらおにいちゃん……」
それは、邪悪の王の姿をしていた。
皆一様に生気のない虚ろな目を浮かべ、通常は白いはずの眼球の強膜がペンキで塗り潰したように橙色に染まっている。
わざとらしく偽物であることを強調するような色合いが、本物を知る者たちにとっては酷く不気味だ。生理的な忌避感さえ抱かせる。
1人だけ分けられたキリトにはその姿は見えないが、右龍やまふゆのどよめきに何が起きたのかは十分察せられた。
わざとらしく偽物であることを強調するような色合いが、本物を知る者たちにとっては酷く不気味だ。生理的な忌避感さえ抱かせる。
1人だけ分けられたキリトにはその姿は見えないが、右龍やまふゆのどよめきに何が起きたのかは十分察せられた。
「……お前、ここまで趣味の悪い奴だったか?
『死者の再現』。それがお前の能力だな。」
『死者の再現』。それがお前の能力だな。」
考える余地もない。
壁面を挟んだ向こうに姿を見せたのは、脱落した参加者ばかりである。
壁面を挟んだ向こうに姿を見せたのは、脱落した参加者ばかりである。
「殺すだけに飽き足らず死者の冒涜ときたか。
俺の知っているお前は、そこまで外道な真似をする奴じゃなかったはずだが。」
「見解の相違だね。
今しがた生み出した覇世川左虎やギラ・ハスティーは、私の『ラスボスとしての権能』をバグスターウイルスの力で実体化した『分裂体』だ。
本人の意思も魂もそこにはない、ただ同じ形をした人形のようなものだ。」
「テメェ……」
俺の知っているお前は、そこまで外道な真似をする奴じゃなかったはずだが。」
「見解の相違だね。
今しがた生み出した覇世川左虎やギラ・ハスティーは、私の『ラスボスとしての権能』をバグスターウイルスの力で実体化した『分裂体』だ。
本人の意思も魂もそこにはない、ただ同じ形をした人形のようなものだ。」
「テメェ……」
いけしゃあしゃあと言ってのけるヒースクリフを前に、マクアフィテルとシャドーセイバーを握りしめる手が熱くなる。
キリトは既に項垂れることを止めていた。
目の前の男は、どうにかして斬り滅ぼさねばならない悪鬼に成り果てた。
キリトは既に項垂れることを止めていた。
目の前の男は、どうにかして斬り滅ぼさねばならない悪鬼に成り果てた。
頭上のホログラムに刃を向ける、憎悪と殺意を押し固めた泥のような眼にヒースクリフの姿が映り込んだ。
ヒースクリフはその目に映る己を見て乾いた笑いを浮かべた。
ヒースクリフはその目に映る己を見て乾いた笑いを浮かべた。
「私の力である以上倒されれば倒されるほど私の体力も戦力も削られていくが、無尽蔵に生み出される彼らを打倒しなければ私に刃は届かない。
分裂体を倒し続けるもよし、一点突破し私だけに狙いを定めるもよし!
この殺し合いの元凶の1人たる私を倒したいのであれば、全霊を持って挑むことだ。」
分裂体を倒し続けるもよし、一点突破し私だけに狙いを定めるもよし!
この殺し合いの元凶の1人たる私を倒したいのであれば、全霊を持って挑むことだ。」
それが戦いを告げる合図だった。
ヒースクリフが言葉を締め、分断された戦場から音が響く。
駆ける音、ぶつかる音、変身する音、砕ける音。
壁越しの戦闘音を背景に、巨大なホログラムとして浮かんでいたヒースクリフは徐々に縮まり、等身大のサイズでキリトの前に立ちはだかると、失望したような顔で剣士を見た。
ヒースクリフが言葉を締め、分断された戦場から音が響く。
駆ける音、ぶつかる音、変身する音、砕ける音。
壁越しの戦闘音を背景に、巨大なホログラムとして浮かんでいたヒースクリフは徐々に縮まり、等身大のサイズでキリトの前に立ちはだかると、失望したような顔で剣士を見た。
「さて、これで私と君だけ……と言いたいがね。
キリト君。私は正直がっかりしている。
君にはルルーシュほどではないが便宜を図ったつもりだったし、もっとこの殺し合いの中核を為す英雄として活躍してくれることを期待していたが。」
キリト君。私は正直がっかりしている。
君にはルルーシュほどではないが便宜を図ったつもりだったし、もっとこの殺し合いの中核を為す英雄として活躍してくれることを期待していたが。」
同じ場所にデクがいたこと。ステインに襲われた時にギギストが姿を見せ逃げる隙が産まれたこと。シャドーセイバーという彼に最適な武装が支給されていたこと。
ルルーシュへの便宜を聞いたあとだと、公平性を歪めないギリギリにまでキリトにとって最善のスタートを切らされていたのだろう。
キリトだって鈍くはない、それでもキリトの胸中に浮かんだ答えは。
ルルーシュへの便宜を聞いたあとだと、公平性を歪めないギリギリにまでキリトにとって最善のスタートを切らされていたのだろう。
キリトだって鈍くはない、それでもキリトの胸中に浮かんだ答えは。
「だからなんだ?」
という一言に集約されていた。
「期待通りに動けなくてごめんなさいとでも言ってほしいのか?
こうしていけしゃあしゃあと俺の前に姿を見せたのも、ラスボス戦だの集団戦だの言ってるくせに俺だけ特別扱いするつもりか?」
「出来るものならそうしたいが、こちらもゲームマスターのというものが沽券がある。」
「はぁ?」
こうしていけしゃあしゃあと俺の前に姿を見せたのも、ラスボス戦だの集団戦だの言ってるくせに俺だけ特別扱いするつもりか?」
「出来るものならそうしたいが、こちらもゲームマスターのというものが沽券がある。」
「はぁ?」
ブチりと。アバターの頭で何かが切れた。
怒りに突き動かされた足が勢いよく大地を蹴りあげる。
怒りに突き動かされた足が勢いよく大地を蹴りあげる。
「お前はもう運営じゃねえだろうが。
沽券なんざギラを殺した時点で地に落ちてんだよそんなもん!!」
沽券なんざギラを殺した時点で地に落ちてんだよそんなもん!!」
加速していく肉体から振り下ろされる赤と黒の刃。
だがそれはヒースクリフに届くことなく、横から割り込んだ2つの細身の剣に防がれた。
ぎぃんと嫌な音が響き、刃の使い手にキリトはぎょっと眼を見開く。
だがそれはヒースクリフに届くことなく、横から割り込んだ2つの細身の剣に防がれた。
ぎぃんと嫌な音が響き、刃の使い手にキリトはぎょっと眼を見開く。
榛色の髪をした閃光のような少女と、蝶のような翼を生やした風精(シルフ)の少女。
いずれも虚ろな橙色の目でキリトを見上げると、力任せに刃を振るいキリトの体を弾き飛ばした。
いずれも虚ろな橙色の目でキリトを見上げると、力任せに刃を振るいキリトの体を弾き飛ばした。
「アスナ……リーファ……」
ヒースクリフが軍隊がするように右手を翳し、偽アスナと偽リーファが揃ってヒースクリフとキリトの間に立ちはだかる。
同時に、彼女たちとは逆方向から乾いた破裂音が響いた。
GGOで聞きなれた銃声だとキリトの脳が理解するより速く、彼の反射神経は音に向きあい放たれた銃弾を切り捨てる。
その事実に驚くそぶりさえ見せず、壁にもたれ掛かる水色の少女はアサルトライフルに次弾を装填しスコープ越しにキリトを狙う。
ALOの獣妖精(ケット・シー)のアバターなのに、装備しているのがGGOで使っている物によく似たライフルというのが酷くアンバランスに思えた。
同時に、彼女たちとは逆方向から乾いた破裂音が響いた。
GGOで聞きなれた銃声だとキリトの脳が理解するより速く、彼の反射神経は音に向きあい放たれた銃弾を切り捨てる。
その事実に驚くそぶりさえ見せず、壁にもたれ掛かる水色の少女はアサルトライフルに次弾を装填しスコープ越しにキリトを狙う。
ALOの獣妖精(ケット・シー)のアバターなのに、装備しているのがGGOで使っている物によく似たライフルというのが酷くアンバランスに思えた。
「シノンまで……」
「私を倒したくば、最低でも彼女らくらいは乗り越えてもらおうか。」
「私を倒したくば、最低でも彼女らくらいは乗り越えてもらおうか。」
背後で引き金が引かれ、眼前の少女たちが駆け出した。
仮想アインクラッドを舞台にした戦いは、いつかの伝説を嘲笑うかのような数の暴力から幕を開けた。
仮想アインクラッドを舞台にした戦いは、いつかの伝説を嘲笑うかのような数の暴力から幕を開けた。
◇
Q 肉親の姿をした怪物が目の前に立ちはだかっています。 忍者ならどうしますか?
「ブッ殺す。」
決意や覚悟を定めるようなものではない。
ただ確認するだけの言葉と共に、右龍は右足を大きく踏みしめ手刀を振り上げる。
一連の流れに一切の無駄は無く、バグスターウイルスの制約を差し引いても2秒未満で完結した武の極み。
忍者としては当たり前。むしろ惰弱(フヌケ)でさえある動きに、忍者の姿をした敵はまるで反応できていなかった。
ただ確認するだけの言葉と共に、右龍は右足を大きく踏みしめ手刀を振り上げる。
一連の流れに一切の無駄は無く、バグスターウイルスの制約を差し引いても2秒未満で完結した武の極み。
忍者としては当たり前。むしろ惰弱(フヌケ)でさえある動きに、忍者の姿をした敵はまるで反応できていなかった。
『贋剣技巧(ソードスキル):凍け』
「遅延(トロ)いんだよ。」
「遅延(トロ)いんだよ。」
バチンと空気が爆ぜ。瞬きほどの時間の後に覇世川左虎を象った頭がはるか上空に吹き飛ばされる。
傍から見ていたユフィリアにしては刹那の攻防も等しいが、当の右龍にしてみれば失笑ものだ。
本物の忍者であるならば、技の起こりも対応もこんなに遅いはずがない。
ああも無様に首を刎ねられ、歪んだ表情でくたばったりはしないだろうと。
本物の無惨な末路を知らぬ故にこそ抱ける確信ではあれど、それだけ目の前の存在は覇世川左虎という存在を侮辱したも同然の敵だった。
傍から見ていたユフィリアにしては刹那の攻防も等しいが、当の右龍にしてみれば失笑ものだ。
本物の忍者であるならば、技の起こりも対応もこんなに遅いはずがない。
ああも無様に首を刎ねられ、歪んだ表情でくたばったりはしないだろうと。
本物の無惨な末路を知らぬ故にこそ抱ける確信ではあれど、それだけ目の前の存在は覇世川左虎という存在を侮辱したも同然の敵だった。
「心底反吐(ムカ)つくぜ。ヒースクリフ。
……お兄ちゃんの容貌(ツラ)出してりゃ。俺が委縮(ビビ)るとでも思ってんのか?」
「……普通は、委縮してしまうのではないでしょうか?」
……お兄ちゃんの容貌(ツラ)出してりゃ。俺が委縮(ビビ)るとでも思ってんのか?」
「……普通は、委縮してしまうのではないでしょうか?」
鼻息荒く憤慨する右龍の横で、シンケンレッドに変身しているユフィリアが申し訳なさそうに呟いた。
例えばここにアニスフィアがいて、こうしてヒースクリフの先兵としてその偽者が立ちはだかったら。
自分は心の底から激昂するか、はたまた委縮して戦いの手が鈍ってしまうか。
自分ならそのどちらかには陥るだろうし、陥る者を咎められない。
例えばここにアニスフィアがいて、こうしてヒースクリフの先兵としてその偽者が立ちはだかったら。
自分は心の底から激昂するか、はたまた委縮して戦いの手が鈍ってしまうか。
自分ならそのどちらかには陥るだろうし、陥る者を咎められない。
「私がこのように戦えているのも、この会場に元々の知り合いがいないことと、私の知る参加者の大半が生存しているからです。
例えば、目の前に現れたのがギラ様やチェイスさんでしたら、きっと少し怯んでしまう。」
「それは仕方ねえんじゃねえのか。
キリトの奴は自嘲(ディス)ってたが、アイツの復帰が相当早いだけだ。
俺の方は、まあ修行(カテ―)の成果(ジジョ―)だな。」
例えば、目の前に現れたのがギラ様やチェイスさんでしたら、きっと少し怯んでしまう。」
「それは仕方ねえんじゃねえのか。
キリトの奴は自嘲(ディス)ってたが、アイツの復帰が相当早いだけだ。
俺の方は、まあ修行(カテ―)の成果(ジジョ―)だな。」
情に心揺れし忍者は、いとも容易く誤断(ミス)って死ぬ。
だからこそ右龍たち忍者は、体と共に心を鍛えることだって怠らない。
研鑽を積んだ右龍にしてみれば、何人もの仲間が死んだ上で立ち上がったキリトだって、ギラの思いを背負って戦うユフィリアたちだって、立派なものだ。
だからこそ右龍たち忍者は、体と共に心を鍛えることだって怠らない。
研鑽を積んだ右龍にしてみれば、何人もの仲間が死んだ上で立ち上がったキリトだって、ギラの思いを背負って戦うユフィリアたちだって、立派なものだ。
「ユフィリアだっけか。まずは、自分を誇んな。
ここまで死んだ知り合いが少ないってことは、それだけ嬢ちゃん達が守り切ったってことじゃねえか。」
ここまで死んだ知り合いが少ないってことは、それだけ嬢ちゃん達が守り切ったってことじゃねえか。」
ここまで生き残った参加者で危機的状況に一度も陥っていない者は、ほんの一握りだ。
運や出会いに差はあれど、殆どの者にとって半日を超えて残る命は『勝ち取った』ものだ。
運や出会いに差はあれど、殆どの者にとって半日を超えて残る命は『勝ち取った』ものだ。
「俺から見ても、嬢ちゃん達は十分強え。即興の集団(チーム)でも背中を預けられるくらいにはな。」
「右龍さん……。」
「だがその上で、どうしても戦えない奴がいたら俺を呼びな。
戦えねえ誰かの牙になる、それが帝都の野良犬――帝都八忍(おれたち)だ。」
「右龍さん……。」
「だがその上で、どうしても戦えない奴がいたら俺を呼びな。
戦えねえ誰かの牙になる、それが帝都の野良犬――帝都八忍(おれたち)だ。」
仮面に隠れた戦士達の中、珍しく素顔を晒す忍者が白い歯を向けて微笑んだ。
屈強で隆々とした体躯ながら、威圧感や恐ろしさなど微塵も感じさせない。
だがその実直な言葉と愛嬌のある甘い美貌(マスク)で自然と相手の警戒を解かせている。
六本木ナンバー1ホストであり、忍者でもあるその男は。ユフィリアが今まで出会ったどんな人とも種類の違う人間だが、あえて言えばアニスフィアに似ていた。
実直で、やりたいことをしたいというエネルギーに満ちている。
仮面の奥でクスリと微笑んだユフィリアを見届けて、右龍は振り向いた。
屈強で隆々とした体躯ながら、威圧感や恐ろしさなど微塵も感じさせない。
だがその実直な言葉と愛嬌のある甘い美貌(マスク)で自然と相手の警戒を解かせている。
六本木ナンバー1ホストであり、忍者でもあるその男は。ユフィリアが今まで出会ったどんな人とも種類の違う人間だが、あえて言えばアニスフィアに似ていた。
実直で、やりたいことをしたいというエネルギーに満ちている。
仮面の奥でクスリと微笑んだユフィリアを見届けて、右龍は振り向いた。
「お前もだぜパラド!手ぇ貸そうか?」
「……いや、大丈夫だ。」
「……いや、大丈夫だ。」
仮面ライダーパラドクス。ファイターゲーマーに姿を変えた赤い拳と打ち合うのは、歪んだ正義を体現するような凶悪な白。
一度はバラドの自我さえ奪い、拭いきれない絶望を与えた存在。――仮面ライダーゼイン。
そいつを前に、パラドの拳は、揺らがない、揺るがない。
一度はバラドの自我さえ奪い、拭いきれない絶望を与えた存在。――仮面ライダーゼイン。
そいつを前に、パラドの拳は、揺らがない、揺るがない。
「こんな雑魚は、”どうしても戦えない”奴なんかじゃねえよ!」
死の恐怖。命が終わる喪失。自分の思いが全て潰える絶望。
元の世界とこの世界。2度死の恐怖を突き付けられた男には、もはや迷いはない。
死を前に、それでも進んだ邪悪の王に比べれば。この程度――
元の世界とこの世界。2度死の恐怖を突き付けられた男には、もはや迷いはない。
死を前に、それでも進んだ邪悪の王に比べれば。この程度――
「まふゆも、ユフィリアも、こんな怖い思いを乗り越えて戦ってる。
他の奴らだってそうだ!だったら――」
他の奴らだってそうだ!だったら――」
カードを取り出そうとしたゼイン。
だが今のパラドにその動作は、致命的な隙でしかなかった。
だが今のパラドにその動作は、致命的な隙でしかなかった。
『キメワザ!』
『ノックアウトクリティカルスマッシュ!!』
「俺だけビクビクしてたら……死んでったチェイスやギラ、それにバグスターの誇りを失わずに戦い続けるグラファイトに、合わせる顔がねえだろうが!!」
『ノックアウトクリティカルスマッシュ!!』
「俺だけビクビクしてたら……死んでったチェイスやギラ、それにバグスターの誇りを失わずに戦い続けるグラファイトに、合わせる顔がねえだろうが!!」
拳が熱い。握りしめた握力が熱を帯び、痛みさえ感じさせる。
それでいいとパラドは思う。
その痛みが俺の生だ。俺の意思だ。俺の闘志だ。
それでいいとパラドは思う。
その痛みが俺の生だ。俺の意思だ。俺の闘志だ。
風を燃やすほどの勢いで撃ち込まれた拳が、カードを掴んだ右腕ごと偽ゼインの肩を抉り飛ばし、文字通り半壊したゼインの体は吹き飛ばされながらドロドロに溶けて消える。
だがそれは戦いの決着を意味しない。
壁面に一瞬だけ文字が浮かび上がると、その文字を突き破るように2つのノイズが人の形を成した。
だがそれは戦いの決着を意味しない。
壁面に一瞬だけ文字が浮かび上がると、その文字を突き破るように2つのノイズが人の形を成した。
右龍に勝るとも劣らない、屈強な肉体をした偉丈夫が2人。
壁面から生まれた者たちは、どちらも三人が知らぬ参加者だ。
だがヒースクリフが権能として選んだ以上、ゼインや左虎より大きく劣るとはだれも考えはしなかった。
壁面から生まれた者たちは、どちらも三人が知らぬ参加者だ。
だがヒースクリフが権能として選んだ以上、ゼインや左虎より大きく劣るとはだれも考えはしなかった。
「『無尽蔵』っつってたから増援は想定してたが。これ本当にヒースクリフのダメージになってるのか?」
「なってようがなってまいが、こんな場所でもぐら叩きを続けるわけにもいかねえだろ。
概算(ざっ)と本物の6~7割くらい性能(スペック)だが、10も20も延々と撃破(ボコ)る余力はなさそうだ。」
「なってようがなってまいが、こんな場所でもぐら叩きを続けるわけにもいかねえだろ。
概算(ざっ)と本物の6~7割くらい性能(スペック)だが、10も20も延々と撃破(ボコ)る余力はなさそうだ。」
仮にこの敵が外で戦った一般のNPCであれば、右龍やパラドはもとよりユフィリアであっても蹂躙するなど容易かった。
だが、参加者の権能の再現体。それも運営だった男の生み出した存在であれば話が変わる。
この場に集う参加者は、朝比奈まふゆや華鳥蘭子のような一般人もいるにせよ大体が戦闘に長けて居たり相応の経験を積んだ猛者たちだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
たかが7割とて、忍者や仮面ライダーに比肩しうる者たちの7割ともなれば、メラの神将ほどではないにせよ到底雑魚とは呼べないものだ。
だが、参加者の権能の再現体。それも運営だった男の生み出した存在であれば話が変わる。
この場に集う参加者は、朝比奈まふゆや華鳥蘭子のような一般人もいるにせよ大体が戦闘に長けて居たり相応の経験を積んだ猛者たちだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
たかが7割とて、忍者や仮面ライダーに比肩しうる者たちの7割ともなれば、メラの神将ほどではないにせよ到底雑魚とは呼べないものだ。
「それに2人とも、向こうの壁をチラチラ見てたろ。
まふゆって嬢ちゃんが気になってんじゃねえのか?」
「それは……はい。」
まふゆって嬢ちゃんが気になってんじゃねえのか?」
「それは……はい。」
ユフィリアは首肯し、パラドもユフィリアと同じ気持ちだった。
まふゆとシロコを分断した壁の向こうから響くのは、硬いものがぶつかり合う戦闘音だけだ。
まふゆとシロコを分断した壁の向こうから響くのは、硬いものがぶつかり合う戦闘音だけだ。
「彼女が弱いとは思っていませんし、シロコさんが敵でないことはもう分っています。」
「それでもな、あのシロコってNPCがどこまでまふゆを守ってくれるか分からねえ。
ユフィリアも言ったが信頼が置けねえって意味じゃねえよ。まふゆに戦いを強いるかもしれねえって意味だ。」
「それでもな、あのシロコってNPCがどこまでまふゆを守ってくれるか分からねえ。
ユフィリアも言ったが信頼が置けねえって意味じゃねえよ。まふゆに戦いを強いるかもしれねえって意味だ。」
ここまでの短い付き合いで、パラドとユフィリア。おそらくギラ・ハスティーを含めた彼らの中の共通の認識。
朝比奈まふゆは弱者ではない。
だがそれ以上に、朝比奈まふゆは戦うことに”向いていない”。
朝比奈まふゆは弱者ではない。
だがそれ以上に、朝比奈まふゆは戦うことに”向いていない”。
誰かを穢してでも我を押し通す強欲さ。人を傷つける己を認める矛盾。
戦うために必要な害意に等しい才能を、無垢な小夜啼鳥は持っていない。
それは”いいこ”には必要のない素養だからだ。
傷つくことを恐れ、それ以上に傷つけることを恐れる少女には、一生涯必要のない素養。そのはずだった。
そんな野蛮で残酷な能力を、この殺し合いは求めている。なにせ――
戦うために必要な害意に等しい才能を、無垢な小夜啼鳥は持っていない。
それは”いいこ”には必要のない素養だからだ。
傷つくことを恐れ、それ以上に傷つけることを恐れる少女には、一生涯必要のない素養。そのはずだった。
そんな野蛮で残酷な能力を、この殺し合いは求めている。なにせ――
「何より……多分向こう側にはギラの偽物が出てきてる。」
『ぎらおにいちゃん。』
左虎やゼインの偽物が出てくるのと同じタイミングで、壁面の向こうから聞こえた言葉。
既にギラ・ハスティーも宇蟲王ギラも死亡している今、まふゆが見た顔が本物である可能性は皆無に等しい。
左虎やゼインの偽物が出てくるのと同じタイミングで、壁面の向こうから聞こえた言葉。
既にギラ・ハスティーも宇蟲王ギラも死亡している今、まふゆが見た顔が本物である可能性は皆無に等しい。
そしてそうなれば――たとえ宇蟲王ギラの偽物だとしても、朝比奈まふゆは戦えない。
そもそも朝比奈まふゆには参加者との交戦経験が無い。唯一ともいえるアントライオン・ドーパントとの戦いも、何もできなかったと言っていい。
デーボ・キャワイーン。アラクネ。ドゴルド。鬼殺隊士。NPCライダー。
その中でも、人間でしかないNPCの鬼殺隊士を撃つ時に、まふゆが酷い忌避感を示したことをパラドはよく覚えている。
葛藤し、苦悩し、涙を流し、自分を穢し。パラドに呪いのような激を入れられてようやく引いた引き金が、彼女にとってどれだけ重い物だったか。
そもそも朝比奈まふゆには参加者との交戦経験が無い。唯一ともいえるアントライオン・ドーパントとの戦いも、何もできなかったと言っていい。
デーボ・キャワイーン。アラクネ。ドゴルド。鬼殺隊士。NPCライダー。
その中でも、人間でしかないNPCの鬼殺隊士を撃つ時に、まふゆが酷い忌避感を示したことをパラドはよく覚えている。
葛藤し、苦悩し、涙を流し、自分を穢し。パラドに呪いのような激を入れられてようやく引いた引き金が、彼女にとってどれだけ重い物だったか。
かつてのパラドなら、そんな葛藤を『弱さ』だと嗤ったに違いない。
たたかうのコマンドを押せないで、ゲームの敵キャラに感情移入して、ただただ無様に泣きじゃくるだけの子どもだと。
だが体以上に心をボロボロにしていたまふゆを見て、その様子に憤るギラを見て、我が事のように泣いたユフィリアを見て。今のパラドの出した結論はまるで違う。
たたかうのコマンドを押せないで、ゲームの敵キャラに感情移入して、ただただ無様に泣きじゃくるだけの子どもだと。
だが体以上に心をボロボロにしていたまふゆを見て、その様子に憤るギラを見て、我が事のように泣いたユフィリアを見て。今のパラドの出した結論はまるで違う。
だがその弱さは優しさなのだと。
命の重さを、『死』への恐怖を知った今のパラドには、その尊さが守らねばならないものだと思えてならなかったのだ。
命の重さを、『死』への恐怖を知った今のパラドには、その尊さが守らねばならないものだと思えてならなかったのだ。
「だから右龍のオッサン。俺たちはまふゆとの合流を優先したい。アンタは……」
「皆までいうな。」
「皆までいうな。」
邪樹右龍は実のところ、朝比奈まふゆという人物を知らない。
薫子や蘭子より幼い少女が殺し合いに巻き込まれ、幸運にもパラドやユフィリアという強力な参加者に出会ったことで生き延びている。
極端な評価をすればそれだけの人物で、戦力としての評価ははっきり言ってNPCと大差ない。
仮にここにいるのがルルーシュや、この領域の外にいる覇王や寄生生物ならば、迷うことなく見捨てる道を選ぶだろう。
薫子や蘭子より幼い少女が殺し合いに巻き込まれ、幸運にもパラドやユフィリアという強力な参加者に出会ったことで生き延びている。
極端な評価をすればそれだけの人物で、戦力としての評価ははっきり言ってNPCと大差ない。
仮にここにいるのがルルーシュや、この領域の外にいる覇王や寄生生物ならば、迷うことなく見捨てる道を選ぶだろう。
「ここは俺に任せて先に行け……ってやつだ!」
だが右龍は選ばない。
そんな悪辣(ダサ)い道を選び、弱き民を見捨てる選択はこの忍者にははじめからない。
溌剌とした叫びと共に、パラドとユフィリアの背中を鼓舞するように叩くと、右龍は偽バルバトスと偽家康の間合いまで一足飛びで駆けだした。
背中に僅かな痺れが伝わり、背後から刃と拳が打ち合う音が反響する。
その最中にも拘わらず、親指を向けてニヤリと爽やかな笑みを浮かべた右龍に、2人は小さく会釈をして、まふゆへと駆け出した。
そんな悪辣(ダサ)い道を選び、弱き民を見捨てる選択はこの忍者にははじめからない。
溌剌とした叫びと共に、パラドとユフィリアの背中を鼓舞するように叩くと、右龍は偽バルバトスと偽家康の間合いまで一足飛びで駆けだした。
背中に僅かな痺れが伝わり、背後から刃と拳が打ち合う音が反響する。
その最中にも拘わらず、親指を向けてニヤリと爽やかな笑みを浮かべた右龍に、2人は小さく会釈をして、まふゆへと駆け出した。
◇◆◇
領域に誘い込まれたキャル達がまず見た物は、橙色の石畳とその合間に走るオレンジの壁だ。
視界の端では筋骨隆々な男が不気味な目つきの戦士達と拳を交え、そこから距離を取るように2人の赤い戦士が急いで走り出している。
仮面ライダーとするにはコミカルな姿にキャルはちょっと笑いそうになってしまうが、鬼気迫る様子で走る2人を指さして笑うほどひねくれてもいなければ、状況が読めないわけではない。
視界の端では筋骨隆々な男が不気味な目つきの戦士達と拳を交え、そこから距離を取るように2人の赤い戦士が急いで走り出している。
仮面ライダーとするにはコミカルな姿にキャルはちょっと笑いそうになってしまうが、鬼気迫る様子で走る2人を指さして笑うほどひねくれてもいなければ、状況が読めないわけではない。
「これ、どういう状況よ?
私達ドームの中に入ったわよね?なんか空にでっかい塊が浮かんでそこに吸い込まれたんだけど?」
私達ドームの中に入ったわよね?なんか空にでっかい塊が浮かんでそこに吸い込まれたんだけど?」
確認も兼ねて口に出したが、改めて言ってて意味が分からない。
ヒースクリフの話が終えてから領域に足を踏み入れた彼女たちには、領域内の状況を把握するだけの情報が無いのだ。
困惑するキャルに、遅れて姿を見せたアスランが周囲を見渡して指さした。
ヒースクリフの話が終えてから領域に足を踏み入れた彼女たちには、領域内の状況を把握するだけの情報が無いのだ。
困惑するキャルに、遅れて姿を見せたアスランが周囲を見渡して指さした。
「とりあえず、あの走ってる2人組に聞くしかないんじゃないか?」
「あとは向こうのおじさんに手を貸したほうがいいと思う。
戦ってる相手が相当強いし……何よりあれは普通じゃない。」
「あとは向こうのおじさんに手を貸したほうがいいと思う。
戦ってる相手が相当強いし……何よりあれは普通じゃない。」
橙色の悍ましい目つきを浮かべる、偽家康と偽バルバトス。
彼らに対し糸見沙耶香は、かつて自分に打ち込まれそうになったノロとよく似た危険な気配を感じ取り、ひやりと汗を浮かべた。
衛藤可奈美の姿をした亡霊を前にした時の忌避や恐怖とは似て非なる嫌悪感。
それを感じていたのは沙耶香だけではなくこの場の全員だ。
参加者を襲う異質なNPCともなればなおのこと、正体不明の男に手を貸さない理由は彼らにはない。
彼らに対し糸見沙耶香は、かつて自分に打ち込まれそうになったノロとよく似た危険な気配を感じ取り、ひやりと汗を浮かべた。
衛藤可奈美の姿をした亡霊を前にした時の忌避や恐怖とは似て非なる嫌悪感。
それを感じていたのは沙耶香だけではなくこの場の全員だ。
参加者を襲う異質なNPCともなればなおのこと、正体不明の男に手を貸さない理由は彼らにはない。
「なら、デクと沙耶香はそっちに向かってくれ。
初対面の相手との共闘は、俺のジャスティスよりお前たちの方が向いている。」
「分かった。2人も気を付けて。」
初対面の相手との共闘は、俺のジャスティスよりお前たちの方が向いている。」
「分かった。2人も気を付けて。」
ヒーローも刀使も、即席の相手とのチームアップはよくある話だ。
正確に言えば沙耶香にはそうした経験はほとんどないのであるが、即席の相手との共闘はこの会場で幾度となく経験している。
迷わず頷き、ヒーローと刀使は忍者の元へと駆けだした。その背中を見送るキャルは、ほんのわずかに怪訝そうな顔を浮かべる。
正確に言えば沙耶香にはそうした経験はほとんどないのであるが、即席の相手との共闘はこの会場で幾度となく経験している。
迷わず頷き、ヒーローと刀使は忍者の元へと駆けだした。その背中を見送るキャルは、ほんのわずかに怪訝そうな顔を浮かべる。
「一応聞くけどさ、あのゴリラみたいなオッサンが敵だった場合はどうするの?」
「敵?」
「ほら、さっきのメラとかみたいにさ。本当はアタシたちを殺しに来るようなヤバい奴かも……」
「敵?」
「ほら、さっきのメラとかみたいにさ。本当はアタシたちを殺しに来るようなヤバい奴かも……」
言いながらキャルは首を傾げた。
自分で言っててその仮定は一致しないと気づいたからだ。
何せ屈強な男はNPCと戦い、逆方向に別の参加者が逃げている。
もしあの男が殺し合いに乗っているのならば優先すべきは参加者だろう。前提からして食い違っている。
自分で言っててその仮定は一致しないと気づいたからだ。
何せ屈強な男はNPCと戦い、逆方向に別の参加者が逃げている。
もしあの男が殺し合いに乗っているのならば優先すべきは参加者だろう。前提からして食い違っている。
「あの黒翼の女はこの結界を『試練』と呼んだ。参加者である俺たちが超えるべきものだと。
だとすればこの結界の主は、五道化か……ひょっとしたらNPCとなったヒースクリフとみるべきだろう。
そいつらと戦ってる時点で、少なくとも現時点では味方だろう。
そもそもメラのような明確に皆殺しを謳ってる参加者以外は、クルーゼ達を討つ仲間になりうるんじゃないのか?」
「それはそうかもしれないけど……。」
だとすればこの結界の主は、五道化か……ひょっとしたらNPCとなったヒースクリフとみるべきだろう。
そいつらと戦ってる時点で、少なくとも現時点では味方だろう。
そもそもメラのような明確に皆殺しを謳ってる参加者以外は、クルーゼ達を討つ仲間になりうるんじゃないのか?」
「それはそうかもしれないけど……。」
アスランの言葉が正しいと頭では理解できていた。
それでも何かが引っかかる様な感覚に言葉を詰まらせるキャルに、アスランは少し考えこんで答えた。
それでも何かが引っかかる様な感覚に言葉を詰まらせるキャルに、アスランは少し考えこんで答えた。
「……キャル。お前の言う敵が”ルルーシュの”敵ならば、当然話は違うだろうし、その場合俺には答えられない。」
「……なんで今アイツが出てくるわけ?」
「君は彼の側近のようなものじゃないのか?」
「ちが……う……とは言い難いわね。」
「……なんで今アイツが出てくるわけ?」
「君は彼の側近のようなものじゃないのか?」
「ちが……う……とは言い難いわね。」
否定しようとしても、言葉が出てこなかった。
放送にまで顔を晒したし、NPCからも散々様づけで呼ばれた身分だ。
ドラえもんが離反し綾小路清隆の行方も知れない今となっては、キャルは最古参の1人でもある。
対外的に見れば綾小路やイザークともども、ルルーシュの腹心の部下だろう。
放送にまで顔を晒したし、NPCからも散々様づけで呼ばれた身分だ。
ドラえもんが離反し綾小路清隆の行方も知れない今となっては、キャルは最古参の1人でもある。
対外的に見れば綾小路やイザークともども、ルルーシュの腹心の部下だろう。
「あらまししかしらないが、彼には参加者間でも敵が多いらしいな。
鉄華兵団はそうだが、記憶を操る眼鏡の女を敵視しているとか、トランクスとかいう強力な参加者との関係性も悪いんだろう?
もしデクや沙耶香と合流させた男や走っている赤い仮面ライダーたちが、鉄華兵団のメンバーであったり眼鏡の女に操られているというのなら、確かに敵かもしれないが……」
「後者はともかく前者はホントなら気兼ねなく協力できる参加者よね……。
あらためて考えたら、マジで何やってるのよアイツ……。」
鉄華兵団はそうだが、記憶を操る眼鏡の女を敵視しているとか、トランクスとかいう強力な参加者との関係性も悪いんだろう?
もしデクや沙耶香と合流させた男や走っている赤い仮面ライダーたちが、鉄華兵団のメンバーであったり眼鏡の女に操られているというのなら、確かに敵かもしれないが……」
「後者はともかく前者はホントなら気兼ねなく協力できる参加者よね……。
あらためて考えたら、マジで何やってるのよアイツ……。」
本来ならアスランの言うように、殺し合いに乗っている数名の参加者以外は協力して事に当たるのが最善だ。
だというのに敵ばかり増やした挙句、むざむざとテレビ局を奪われて戦力がバラバラになっているのだから、どうしたものかと頭を抱える。
ただ同時に――ルルーシュならここから何とかするだろうと考えている自分もいる。
それはルルーシュ・ランペルージという男が、ロロ・ランペルージの兄だからでも運営側に特別優遇されているからでもないのだろう。
だというのに敵ばかり増やした挙句、むざむざとテレビ局を奪われて戦力がバラバラになっているのだから、どうしたものかと頭を抱える。
ただ同時に――ルルーシュならここから何とかするだろうと考えている自分もいる。
それはルルーシュ・ランペルージという男が、ロロ・ランペルージの兄だからでも運営側に特別優遇されているからでもないのだろう。
「……だけどそうね、私の考えがルルーシュに寄りすぎていたのかもね。」
愛着でも信頼でもない。
言葉にするなら共同体として同じ方向を向こうという協調性。そんな言葉が近いのだろう。
ルルーシュもルルーシュで、味方以外には異常なほどに厳しいあの男も、キャルや他のメンバーには相応の敬意を持って接していた。
自分たちを味方に引き込む計算や、ロロ・ランペルージの存在ありきの対応とはいえ、そこに絆と呼べるものが無いと言い切ってしまうのは流石のキャルでも憚られる。
そんな風に思わせてしまう時点で、あの男の将としての資質は疑いようのない物なのかもしれないとちょっとだけ評価を上げたが。
そもそもルルーシュがキャルにドつかれる前に本心を話していれば、鉄華兵団だのトランクスだのと揉めることもなかったのだから結局アイツの身から出た錆だと落胆させられるのだ。
言葉にするなら共同体として同じ方向を向こうという協調性。そんな言葉が近いのだろう。
ルルーシュもルルーシュで、味方以外には異常なほどに厳しいあの男も、キャルや他のメンバーには相応の敬意を持って接していた。
自分たちを味方に引き込む計算や、ロロ・ランペルージの存在ありきの対応とはいえ、そこに絆と呼べるものが無いと言い切ってしまうのは流石のキャルでも憚られる。
そんな風に思わせてしまう時点で、あの男の将としての資質は疑いようのない物なのかもしれないとちょっとだけ評価を上げたが。
そもそもルルーシュがキャルにドつかれる前に本心を話していれば、鉄華兵団だのトランクスだのと揉めることもなかったのだから結局アイツの身から出た錆だと落胆させられるのだ。
「時間が無いのに余計なことに気を揉ませたわね。」
「何、文句はルルーシュの奴に言えばいい。」
「何、文句はルルーシュの奴に言えばいい。」
ジャスティスの中で軽口をたたくアスランに、ニヤリとキャルも笑みを向けた。
自分も次に会ったらブッ殺すぞの一言でも言ってやらねばと、そんなことを思い描く最中。
視界の端で動いていた赤い戦士と仮面ライダーに、明らかに異変が起きる。
自分も次に会ったらブッ殺すぞの一言でも言ってやらねばと、そんなことを思い描く最中。
視界の端で動いていた赤い戦士と仮面ライダーに、明らかに異変が起きる。
橙色の粒子が噴き出る壁面を攻撃しようとした最中、壁面に文字が浮かび上がるとそこから人間型のノイズが姿を見せ、やがてそれは完璧に人そのものを形作る。
反対側でデク達が戦っている存在同様、橙色の気色の悪い眼球を持つNPC。
その姿をキャルとアスランは知っている。
全く同時に、異なる名前を彼らは叫んだ。生み出された人間は二人いた。
反対側でデク達が戦っている存在同様、橙色の気色の悪い眼球を持つNPC。
その姿をキャルとアスランは知っている。
全く同時に、異なる名前を彼らは叫んだ。生み出された人間は二人いた。
『贋剣技巧(ソードスキル)装填:個体名『キラ・ヤマト』 実装完了』
『贋剣技巧(ソードスキル)装填:個体名『ロロ・ランペルージ』 実装完了』
『贋剣技巧(ソードスキル)装填:個体名『ロロ・ランペルージ』 実装完了』
「キラ!?」
「ロロ!?」
「ロロ!?」
かたやコズミック・イラの英雄。
かたや悪逆皇帝の弟。
虚ろな目を浮かべる彼らが手を翳し、その体に絡みつくように周囲の粒子が形を成し、徐々に装甲となって具現化していく。
かたや悪逆皇帝の弟。
虚ろな目を浮かべる彼らが手を翳し、その体に絡みつくように周囲の粒子が形を成し、徐々に装甲となって具現化していく。
ロロ・ランペルージが纏うのは、ヴィンセントの名を持つナイトメアフレーム。
キラ・ヤマトが纏うのは、ストライクガンダムと称されるモビルスーツ。
キラ・ヤマトが纏うのは、ストライクガンダムと称されるモビルスーツ。
「……ああ、そういうこと。
あの光、参加者のコピーを作り出すって訳ね。」
「おそらくは、その参加者が元々扱っていた装備も復元させている……というところだろうな。」
あの光、参加者のコピーを作り出すって訳ね。」
「おそらくは、その参加者が元々扱っていた装備も復元させている……というところだろうな。」
目の前で起きた光景で状況の大意を理解できたのは、2人の知る参加者がベースとなっているからか。
ともあれその光景を前に、2人は迷わず駆け出した。
誰だか知らないこの結界の主に、全く同じ思いを抱きながら。
ともあれその光景を前に、2人は迷わず駆け出した。
誰だか知らないこの結界の主に、全く同じ思いを抱きながら。
「「クソ野郎が!」」
◇
「ヒースクリフのクソ野郎が!!!」
朝比奈まふゆのいる境界を目前として生み出された存在。2機のロボットを前にパラドは苛立ちを隠せずにいた。
ノックアウトファイターもシンケンレッドも、近接戦でこそ真価を発揮する戦士だ。
だがその性能も、飛翔するロボット相手では極めて分が悪い。
ナイトメアフレームとガンダム。
彼らの手の届かない場所で対空する二機の戦術兵器を相手に、彼らは手をこまねいていた。
ノックアウトファイターもシンケンレッドも、近接戦でこそ真価を発揮する戦士だ。
だがその性能も、飛翔するロボット相手では極めて分が悪い。
ナイトメアフレームとガンダム。
彼らの手の届かない場所で対空する二機の戦術兵器を相手に、彼らは手をこまねいていた。
「どうしますか?私が変身を解除して魔法で攻めれば、落とすことはできるかもしれませんが……」
ユフィリアの提案を受けるパラドは、すぐにゴーサインを出すことはできなかった。
はっきり言えばユフィリア・マゼンタという少女は、変身しなくても充分強い。サタンサーベルを用いた剣技と多彩な魔法だけで仮面ライダー並の実力を誇る。
だがこと耐久面で言えば、ドンブラスターの力で変身している今の方が数段上。
そして魔法が使えなくなるデメリットを差し引いても、この耐久性を失うリスクは高い。なぜなら――
はっきり言えばユフィリア・マゼンタという少女は、変身しなくても充分強い。サタンサーベルを用いた剣技と多彩な魔法だけで仮面ライダー並の実力を誇る。
だがこと耐久面で言えば、ドンブラスターの力で変身している今の方が数段上。
そして魔法が使えなくなるデメリットを差し引いても、この耐久性を失うリスクは高い。なぜなら――
(――俺もユフィリアも”このロボットのことを知らねえ”!!)
人が動かす戦術兵器……すなわち人を『殺すための機構』。
二機のロボットに如何なる兵装が備わっているかさえ、ユフィリアもパラドも解していない。仮に放射線兵器のようなものがあれば肌を晒した時点で死が確定する。
変身ベルトや起動キーの配りようからしてみても、生身をさらしているだけで危機に陥る様な能力を持つ参加者や武器があったとしても不思議ではない。
二機のロボットに如何なる兵装が備わっているかさえ、ユフィリアもパラドも解していない。仮に放射線兵器のようなものがあれば肌を晒した時点で死が確定する。
変身ベルトや起動キーの配りようからしてみても、生身をさらしているだけで危機に陥る様な能力を持つ参加者や武器があったとしても不思議ではない。
思案する2人へと、ヴィンセントから何かが射出されていく。
牙をむいた蛇のように迫るワイヤー……スラッシュハーケンをパラドクスは拳で弾くが、ヴィンセントに装着されたスラッシュハーケンは2基あるのだ。
アッパーカットで伸ばした腕に巻きつけられたスラッシュハーケンが引っ張られ、パラドの体はバランスを崩し地面を引きずられていく。
牙をむいた蛇のように迫るワイヤー……スラッシュハーケンをパラドクスは拳で弾くが、ヴィンセントに装着されたスラッシュハーケンは2基あるのだ。
アッパーカットで伸ばした腕に巻きつけられたスラッシュハーケンが引っ張られ、パラドの体はバランスを崩し地面を引きずられていく。
「パラド!!」
「馬鹿!後ろだ!!」
「馬鹿!後ろだ!!」
スラッシュハーケンを斬ろうとパラドを追うユフィリアだが、その頭上ではストライクガンダムが不気味な駆動音と共に銃口を向けていた。
撃ちだされる朝日のような緑白色の光線は、文字通り光の速さでユフィリアを狙う。
パラドの声でその存在に気づいたユフィリアはかろうじて避けられたが、その威力は凄まじくユフィリアの足元に小さな穴をあけている。
これが胸や頭を射抜く可能性を考えると恐ろしい話だ。
変身を解除する選択をユフィリアは排して、両手でシンケンマルを構える。その姿にユフィリアの無事を見届けたパラドは、地面に引きずられたまま左手を石畳に突き刺した。
撃ちだされる朝日のような緑白色の光線は、文字通り光の速さでユフィリアを狙う。
パラドの声でその存在に気づいたユフィリアはかろうじて避けられたが、その威力は凄まじくユフィリアの足元に小さな穴をあけている。
これが胸や頭を射抜く可能性を考えると恐ろしい話だ。
変身を解除する選択をユフィリアは排して、両手でシンケンマルを構える。その姿にユフィリアの無事を見届けたパラドは、地面に引きずられたまま左手を石畳に突き刺した。
「とにかく、一機ずつぶっ壊さねえと始まらねえ……な!」
突き刺した左手を支えに、縛られた右手を思いっきり引きずり込む。
如何にヴィンセントが飛翔しているとはいえ、仮面ライダーの力で引き込まれるとひとたまりもない。本物のロロ・ランペルージには劣る複製体なら猶のこと。
体勢を崩したヴィンセントがパラドはへと引きずり込まれるのに合わせ、ユフィリアは駆け出す。
その手に握るシンケンマルが炎を纏い、ユフィリアの叫びと共に赤く染まる。
如何にヴィンセントが飛翔しているとはいえ、仮面ライダーの力で引き込まれるとひとたまりもない。本物のロロ・ランペルージには劣る複製体なら猶のこと。
体勢を崩したヴィンセントがパラドはへと引きずり込まれるのに合わせ、ユフィリアは駆け出す。
その手に握るシンケンマルが炎を纏い、ユフィリアの叫びと共に赤く染まる。
「烈火大斬刀!!」
シンケンレッドの専用武器であり、彼女の身長より巨大な必殺の刃。
浮遊する上にナイトメアフレームにより防御力もあるヴィンセントを破壊するための最適解をユフィリアははじき出していた。
浮遊する上にナイトメアフレームにより防御力もあるヴィンセントを破壊するための最適解をユフィリアははじき出していた。
スラッシュハーケンを受けてからのカウンターとしては、2人の動きは正解と言っても過言ではない。
だがここにルルーシュが居たならば、2人の対応を失笑と共に苦言を呈するに違いない。
なぜなら2人は――知らなかったのだ。
だがここにルルーシュが居たならば、2人の対応を失笑と共に苦言を呈するに違いない。
なぜなら2人は――知らなかったのだ。
『贋剣技巧(ソードスキル):絶対停止のギアス』
ロロ・ランペルージの能力の範囲に入ることの危険性を――この2人は知らなかった。
ヴィンセントから響く声が2人の耳に届くより速く、仮面ライダーパラドクスもシンケンレッドもその動きを止めた。
未知を警戒したパラドの考えは、全く持って正解であった。
『参加者の能力をバグスターの形で再現する力』。その真に恐るべきはラスボス戦という土壇場において事前情報の無い戦いを強いられることにある。
『参加者の能力をバグスターの形で再現する力』。その真に恐るべきはラスボス戦という土壇場において事前情報の無い戦いを強いられることにある。
殺し合いに知人や仲間が多い者は、血で血を洗う悲劇的な決闘を。
殺し合いでの交流が浅い者には、未知の戦力による初見殺しを。
ヒースクリフの能力がもたらす二種類の悪意を、彼らは予測し損ねた。
殺し合いでの交流が浅い者には、未知の戦力による初見殺しを。
ヒースクリフの能力がもたらす二種類の悪意を、彼らは予測し損ねた。
動作どころか意識さえ封じられた体に発射されたビームライフルが突き刺さり、ヴィンセントのハンドガンから放たれた銃弾の雨が両者の体を弾き飛ばす。
絶対停止のギアスは――生物だけを止める力だ。
ギアスによって止められた体が動く。とうに命中し終えていた弾丸の衝撃が彼らの装甲の上で弾け、赤い戦士達の体は勢いよく吹き飛ばされた。
絶対停止のギアスは――生物だけを止める力だ。
ギアスによって止められた体が動く。とうに命中し終えていた弾丸の衝撃が彼らの装甲の上で弾け、赤い戦士達の体は勢いよく吹き飛ばされた。
「がっ!!!!」
「きゃっ!!!」
「きゃっ!!!」
ハンドガンの銃弾で吹き飛ばされた2人の体に焼け焦げるような痛みが走り、ゴロゴロと地面を転がった彼らの変身は解けていた。
特にユフィリアのダメージが深刻だ。ビームライフルが直撃し、ぽっかりと空いた穴から鉄の焦げた匂いと共に線香のような煙が立ち上っていた。
シンケンレッドになっていなければ、炎を扱うに適した体でなかったら、ビームライフルの一撃は骨まで貫通していただろう。
特にユフィリアのダメージが深刻だ。ビームライフルが直撃し、ぽっかりと空いた穴から鉄の焦げた匂いと共に線香のような煙が立ち上っていた。
シンケンレッドになっていなければ、炎を扱うに適した体でなかったら、ビームライフルの一撃は骨まで貫通していただろう。
「あっ……ああっ……!!」
「ユフィ……ああ、くそっ!!!」
「ユフィ……ああ、くそっ!!!」
うずくまり足を抑えながら、反射のように己に回復魔法をかけるユフィリア。
その悲痛な姿に唇を噛み締め、再度変身しようとするパラド。
その間わずか数秒だが、生身を晒した負傷者など今の彼らにとって敵ではない。
加速と共に滑空した二機の兵器が近づきざまに武装するが、その手に近接兵器は握られていない。
引き金に指をかけ、再度ヴィンセントから言葉が漏れた。
今度はその音がはっきりと聞こえ――
その悲痛な姿に唇を噛み締め、再度変身しようとするパラド。
その間わずか数秒だが、生身を晒した負傷者など今の彼らにとって敵ではない。
加速と共に滑空した二機の兵器が近づきざまに武装するが、その手に近接兵器は握られていない。
引き金に指をかけ、再度ヴィンセントから言葉が漏れた。
今度はその音がはっきりと聞こえ――
『贋剣技巧(ソードスキル):絶対停止のギ―― 「使わせないっての!!!」
――るより速く、直撃した漆黒のエネルギーによりかき消された。
闇属性の魔法のようにもデフォルメされた列車のようにも見える一撃にヴィンセントはわずかに砕け煙を上げて、その隙間に新たなモビルスーツが飛び掛かって抑え込む。
闇属性の魔法のようにもデフォルメされた列車のようにも見える一撃にヴィンセントはわずかに砕け煙を上げて、その隙間に新たなモビルスーツが飛び掛かって抑え込む。
「ロロのパチモンなんて、認められるわけないでしょうが!!!」
「ストライクより優先するのは複雑だが――どう見てもお前の方が危険だ!」
「ストライクより優先するのは複雑だが――どう見てもお前の方が危険だ!」
インフィニットジャスティスの手に赤色のサーベルが握られ、キャルの魔法が砕いた隙間に突っ込まれる。
アスランはそのまま力任せにヴィンセントを捻じ切り、弾けとんだヴィンセントと中身のロロ・ランペルージが粒子となって消えていった。
弾けた粒子が降り注ぐ中、アスランは機体の首をぐるりとストライクに向け、両刃のライトサーベルを試すように軽く振った。
アスランはそのまま力任せにヴィンセントを捻じ切り、弾けとんだヴィンセントと中身のロロ・ランペルージが粒子となって消えていった。
弾けた粒子が降り注ぐ中、アスランは機体の首をぐるりとストライクに向け、両刃のライトサーベルを試すように軽く振った。
「キャル!俺はあのキラの偽物を倒す!
その2人を頼んだ!!」
「了解よ!!」
その2人を頼んだ!!」
「了解よ!!」
アスランがジャスティスのブースターを起動し、同じビームサーベルを構えたストライクと鍔競り合う。
そんな光景を茫然と見ていたパラドとユフィリアの元に、キャルと呼ばれた少女が近づいてくる。
何やら苛立ちを隠せない様子だったが、パラドやユフィリアに向けたものではなかったからか、ちょっとだけ表情を解いてから手を伸ばしてきた。
そんな光景を茫然と見ていたパラドとユフィリアの元に、キャルと呼ばれた少女が近づいてくる。
何やら苛立ちを隠せない様子だったが、パラドやユフィリアに向けたものではなかったからか、ちょっとだけ表情を解いてから手を伸ばしてきた。
「大丈夫?アンタたち。……って、そっちの人足大丈夫なの?」
「暫く回復していれば、歩けるくらいにはなりますが……時間がありません。
次の実体が出てくるまえに、まふゆさんと合流しなければ……」
「合流……って、壁の向こうに誰かいるの?」
「暫く回復していれば、歩けるくらいにはなりますが……時間がありません。
次の実体が出てくるまえに、まふゆさんと合流しなければ……」
「合流……って、壁の向こうに誰かいるの?」
裂けた石畳から勢いよく溢れ出す粒子の壁にキャルは手を伸ばしてみるが、ウォーターカッターを思わせる勢いで噴出する橙色の粒子を前に、思わず手を引っ込めた。
「これどう見ても無策で突っ込んだら死ぬ奴じゃないの?
しかもさっき、ロロの偽物が壁から出てくるところ見たわよ!!
ていうかそもそもここは何で、今どういう状況なのよ?」
しかもさっき、ロロの偽物が壁から出てくるところ見たわよ!!
ていうかそもそもここは何で、今どういう状況なのよ?」
流石にわからないことだらけでキャルは尋ねる。
聞かれたパラドとユフィリアも少し考えこんでから、言葉を選んで語り始めた。
聞かれたパラドとユフィリアも少し考えこんでから、言葉を選んで語り始めた。
「ここはヒースクリフの作り出した空間だ。
さっき戦った連中はヒースクリフの生み出した分裂体で、倒せば倒すほど奴自身も削れるがほぼ無尽蔵に湧いてくる。
今んとこの様子を見る限り、倒されれば補充されるって感じだな。」
「そして私達の仲間が、この壁の奥に分断されているのです。
あまり戦いに向いた人ではないので、どうにか合流を果たしたくて……」
「あー、そういうことね。」
さっき戦った連中はヒースクリフの生み出した分裂体で、倒せば倒すほど奴自身も削れるがほぼ無尽蔵に湧いてくる。
今んとこの様子を見る限り、倒されれば補充されるって感じだな。」
「そして私達の仲間が、この壁の奥に分断されているのです。
あまり戦いに向いた人ではないので、どうにか合流を果たしたくて……」
「あー、そういうことね。」
成程、成程と言い聞かせるように呟くキャルの頭には、様々な感情が浮かんでは巡っていく。
こんな場所に自分を叩きおとした黒翼の女――ザラサリキエルに対する憤りもあった。
ロロ・ランペルージの晩節を穢すような真似をしやがったヒースクリフに対する耐えがたい怒りもあった。
杖を失った現状、運営とのガチバトルをどうやって乗り切ろうかという考えもあった。
先ほどザラサリキエルが見せた、覇瞳皇帝(カイザーインサイト)の力についてもわずかに頭をよぎっていた。
こんな場所に自分を叩きおとした黒翼の女――ザラサリキエルに対する憤りもあった。
ロロ・ランペルージの晩節を穢すような真似をしやがったヒースクリフに対する耐えがたい怒りもあった。
杖を失った現状、運営とのガチバトルをどうやって乗り切ろうかという考えもあった。
先ほどザラサリキエルが見せた、覇瞳皇帝(カイザーインサイト)の力についてもわずかに頭をよぎっていた。
だがそれよりも、もっともこの場で優先すべき回答は何か。
キャルは考え、ケミーライザーを装着して、あっさりと答えて見せた。
キャルは考え、ケミーライザーを装着して、あっさりと答えて見せた。
「とりあえず、合流についてはなんとかできると思う。結構無茶することになるけど。」
そう言うとキャルが取り出したのは、テンライナーのケミーカードだ。
「話は聞いてたでしょ。
アンタ、この壁ぶち破って穴をあけるくらいできるんじゃない?」
『テンライナー!!!』
アンタ、この壁ぶち破って穴をあけるくらいできるんじゃない?」
『テンライナー!!!』
カードの中でぴょこぴょこと、機関車をデフォルメしたようなキャラクターが自信たっぷりに跳ねていた。
キャルだけでなくても出来るのだと伝わる、愛らしい動きだ。ユフィリアの顔が一気に明るくなる。
キャルだけでなくても出来るのだと伝わる、愛らしい動きだ。ユフィリアの顔が一気に明るくなる。
「ありがとうございます!ええと……」
「キャルよ。
ちなみにさっきあのロボット……なんていうのかしら、モビルスーツだっけ……で、すっ飛んでいったのはアスランよ。」
「私はユフィリア・マゼンタと申します。」
「俺はパラドだ。
悪いが時間がねえ。さっそくその……テンライナーでいいのか?そいつに頼めるか?」
「もうやってるわ。」
「キャルよ。
ちなみにさっきあのロボット……なんていうのかしら、モビルスーツだっけ……で、すっ飛んでいったのはアスランよ。」
「私はユフィリア・マゼンタと申します。」
「俺はパラドだ。
悪いが時間がねえ。さっそくその……テンライナーでいいのか?そいつに頼めるか?」
「もうやってるわ。」
既にテンライナーは、自分からケミーライザーに収まっていた。
キャルが引き金を引くと金色の機関車のような光がケミーライザーから射出され、橙色の粒子の壁に徐々に穴が空いていく。
テンライナーの力むような声に合わせてどんどん穴が大きくなり、人ひとりが通り抜けられるほどの穴が壁に空いた。
キャルが引き金を引くと金色の機関車のような光がケミーライザーから射出され、橙色の粒子の壁に徐々に穴が空いていく。
テンライナーの力むような声に合わせてどんどん穴が大きくなり、人ひとりが通り抜けられるほどの穴が壁に空いた。
「よし、これで……」
そう安堵したような声をキャルが上げると同時に、ちらりと彼女は壁面を見て、見る見るうちにその顔が青ざめる。
ユフィリアとパラドは立ち位置的に見えない位置に、文字が浮かび上がっていた。
キャルは知らないことだが、バルバトスや家康の偽物が出てくる時と同じ演出だが、その”名前”が問題だった。
ユフィリアとパラドは立ち位置的に見えない位置に、文字が浮かび上がっていた。
キャルは知らないことだが、バルバトスや家康の偽物が出てくる時と同じ演出だが、その”名前”が問題だった。
「アンタたち、さっさと行った方がいいわ。
ここにいるとヤバいから。」
「……どうした?一体何が……」
「いいから、早く行く!!」
ここにいるとヤバいから。」
「……どうした?一体何が……」
「いいから、早く行く!!」
血の気が引いたように震えた声にパラドは首を傾げるも、有無を言わさぬキャルの態度に不吉な予感を感じながらも穴を潜る。
パラドが完全に穴を超えたことを確認して、キャルはユフィリアに手を伸ばした。
回復魔法を受けた足はわずかに焦げてはいるが、歩ける程度には回復していた。
パラドが完全に穴を超えたことを確認して、キャルはユフィリアに手を伸ばした。
回復魔法を受けた足はわずかに焦げてはいるが、歩ける程度には回復していた。
「ユフィリア!アンタも!」
「キャルさん。何をそんなに急いで……」
「キャルさん。何をそんなに急いで……」
そう言って手を伸ばそうとしたユフィリアの目に、まず映ったのは赤い影。
さっきまでキャルがいた場所に落下するように降ってくるそれを前に、ユフィリアはキャルを掴むと逆に思いっきり引っ張った。
「うにゃ!!」と鳴き声のような声を上げ、キャルの体はユフィリアの胸に飛び込むような形になった。
さっきまでキャルがいた場所に落下するように降ってくるそれを前に、ユフィリアはキャルを掴むと逆に思いっきり引っ張った。
「うにゃ!!」と鳴き声のような声を上げ、キャルの体はユフィリアの胸に飛び込むような形になった。
「ちょっとユフィリア!何すんのよ!」
「すいませんキャルさん。ですが……」
「すいませんキャルさん。ですが……」
ユフィリアはが震えた指で刺す先で、赤い影が起き上がった。
それが偽キラと戦っていたはずのインフィニットジャスティス……アスラン・ザラだとキャルは気づくころには、同じように吹き飛ばされた者たちがキャルとユフィリアの視界を次々と横切ってくる。
まずは沙耶香。ついでデク。最後に右龍が片膝をついて着地をすると、ユフィリアに頭を下げた。
それが偽キラと戦っていたはずのインフィニットジャスティス……アスラン・ザラだとキャルは気づくころには、同じように吹き飛ばされた者たちがキャルとユフィリアの視界を次々と横切ってくる。
まずは沙耶香。ついでデク。最後に右龍が片膝をついて着地をすると、ユフィリアに頭を下げた。
「すまねえ!失敗(しく)った!
あんなに見得(イキ)ってこのざまだ。本当にすまねえ!」
「いえ、パラドだけでも合流できたので一先ずは大丈夫ですが。……何があったのですか?」
あんなに見得(イキ)ってこのざまだ。本当にすまねえ!」
「いえ、パラドだけでも合流できたので一先ずは大丈夫ですが。……何があったのですか?」
ここまで立て続けに人が吹き飛ばされたとなれば、流石のユフィリアも異常に気づく。
さっきまで彼らがいた場所に目を向けるも、そこには先ほどまでの敵の姿は1つも無い。
バルバトス・ゲーティアも、徳川家康も、キラ・ヤマトのストライクガンダムさえもいなかった。
さっきまで彼らがいた場所に目を向けるも、そこには先ほどまでの敵の姿は1つも無い。
バルバトス・ゲーティアも、徳川家康も、キラ・ヤマトのストライクガンダムさえもいなかった。
かたや黒いローブに身を包んだ、艶やかな笑みを浮かべる魔女。
かたや黒い肉体に神秘的な神具を纏う、浮世離れした風貌を持つ神。
いずれも偽物特有の橙色の目を浮かべ、他の者たち同様虚ろな目つきのはずなのに。放たれる威圧感のせいかどこか手の届かない神秘性さえ纏っている。
かたや黒い肉体に神秘的な神具を纏う、浮世離れした風貌を持つ神。
いずれも偽物特有の橙色の目を浮かべ、他の者たち同様虚ろな目つきのはずなのに。放たれる威圧感のせいかどこか手の届かない神秘性さえ纏っている。
「俺らが戦ってた奴らは全員ブッ殺せたが……その瞬間あいつらが出てきた。
はっきり言うがあの2体は……危機(ヤバ)すぎる。」
「……そうでしょうね。」
はっきり言うがあの2体は……危機(ヤバ)すぎる。」
「……そうでしょうね。」
右龍の言葉にその名前を見ていたキャルが、戒めるように口を開く。
そこにはこう書かれていた。
そこにはこう書かれていた。
「あれは……4凶よ。」
誰かが、怯えたように息を呑み。誰もそのことを咎めなかった。
その意味を解さぬ者など、ここに一人もいないのだから。
その意味を解さぬ者など、ここに一人もいないのだから。
| 185:死命Ⅴ:虚空朽鉄遊城 アインクラッド | 投下順 | 185:遊戯-第Ⅲ形態:朝比奈まふゆ:リスタート/桐ヶ谷和人:リスタート |
| 時系列 | ||
| キリト | ||
| 邪樹右龍 | ||
| ユフィリア・マゼンタ | ||
| 朝比奈まふゆ | ||
| パラド | ||
| 赤枝逆徒のヒースクリフ | ||
| 亡失鎮魂の??? | ||
| アスラン・ザラ | ||
| キャル | ||
| 糸見沙耶香 | ||
| 緑谷出久 | ||
| 覇王十代 | ||
| セレブロ | ||
| 奥空アヤネ |