森。
それは一般的には大小の樹木が多く密集している場所のことを指す。
地面の大半は芝生に覆われ、川が流れ、周りを海に囲まれ様々な木々が多く自生するこの島において
『森』は自然の息吹を最も深く感じ取ることの出来るポイントの一つだ。

まるで神が造り上げた箱庭のように素晴らしい構成美に満ちたこの空間は細部に渡って一切の妥協は存在しない。
当然この『森』という空間ならば葉の緑と幹の茶、枝葉の影から差し込んでくる光と影のコントラストに至るまで、
それ自体が色彩造形のシンフォニーを奏でているような完成度を誇っていた。

そう、数時間前に、色彩ぶち壊しの女性が紛れ込むまでは。



「おや、人影が見えますねぇ」
白のレースをあしらったサイハイソックスと白いヘッドドレスに、
オレンジ色のジャケットにスカート、そして極端に胸を強調した上着。
二の腕に輝くハートマーク。
さらに手に持ったバスケットから顔を出すギターのネック。

声を発したのはここがごく普通の街中だとしても明らかに場違いな女性、パッフェル

下手な歌が聞こえた方へと森を歩いていた。
木々が途切れ、今度は青々とした平原が見えてきたところで、
彼女は平原の青さの中に浮いた色彩を見つけた。

くすんだ金色と、艶かしい黒色。

職業柄、もしくは過去の訓練の賜物か。視力には自信がある。
眼を凝らせば、この程度の距離はワケもない。


片方は、金髪で、頬に大きな十字傷をもつ男性。剣を持っている。
もう1人は、先程の男性と並んで歩いている。長髪黒髪の女性だ。
「う~ん……あの女の人、見覚えがありますね…そう、随分前に…」
そう、もう随分前だ。
パッフェルが”パッフェルでなかった”頃の記憶と、参加者名簿の名前を合致させる。
「そう、確か……アズリアさん。先生と一緒にいた」
紫電の剣姫への記憶が明確になる。

戦場で何度か打ち合った相手だ。紫電絶華をまともに受け、
再起不能になった元同僚が何人もいた。敵にすると脅威の相手だ。


自分の生きていく場所を失ったと思い、無気力に―自暴自棄になっていたあの日、
先生は自分に仲間のことを語っていた。

聞き流していたし、もう随分――1年や5年なんて問題ではないほど昔のことだ。
ほとんど覚えてはいないが…………

『アズリアっていうんです。彼女は融通が利かないところもありますが、
 とても優しくていい人なんです。ヘイゼルさんも会って話をしてみませんか?』

確か、先生はそんなことを言っていた。
「とても優しくていい人………ですか」
確かにそれは素晴らしいことだ。心の底から優しい人には自然と人が集まってくる。

マグナ然り、アティ先生然りだ。

だが一方で、その目を欺いて敵が忍び寄ることもある。

メルギトス然り、イスラ然り、そして……………ヘイゼル然りだ。
そんな手を使って、殺めた人は…両手両足の指を使っても数え切れない。

「まぁ…アティ先生にかかれば、大抵の人はいい人なんでしょうけど。」
それでも、不安である。
自分にとってはお世辞にも親しいと言える間柄ではないが、先生の友人だ。

もし、一緒にいる男性が寝首を掻くような人なら?
そうだとして、彼女がそれを見抜けていないとすれば?
「まぁ、せっかく見つけた”優しい人”を無視する手はないですよね」
彼女に何かあれば先生は悲しむだろう。

どうせ適当に動き回ったところでネスティに会えるわけでもない。
おせっかいと思われるかもしれないが―――これも先生へのちょっとした恩返しだ。
彼女はギターのネックが顔を出すバスケットを両手で持ち軽快なステップで森を飛び出した。



森の色彩美は再びシンフォニーを奏で始めた。

代わりに、平原の清々しい青が補色の乱入により更にぶち壊されたが。


「ちょっと待ってくださいおふたりさ~~~んっ!」
今のテンションそのままで行くか、それとも真面目な顔をして行くか少し悩んだが、
このハイテンションは状況にそぐわない。
だからといって、真面目な顔をして呼びかけたところで服装が場違いすぎる。

どちらも場違いなら、とことん『パッフェル』で行ってやろうではないか。
パッフェルは大声で、右手を振りながらアズリア達に呼びかけた。

アズリア達も当然こちらに気付いたのだろう、
二人とも、一瞬、珍獣でも見たような表情をした。
まぁそりゃそうだろう。まだ珍獣のほうが珍しくないかもしれない。
だがそれはほんの一瞬で、男性のほうは剣をいつでも抜けるように構え、
アズリアのほうも男性から一歩下がり、身構える。

大体、二人の位置まで5メートルといったところか。
パッフェルはそこで立ち止まり、満面の笑みを浮かべて口を開いた。
「どうもどうもはじめまして~!私はパッフェルといいます~。」
いつもの調子で、自己紹介をする。

『はじめまして』。
アズリアとは一応は初対面ではない。本当なら久しぶりとでも言うべきなのかもしれない。
だからと言って、自分は何度も彼女を殺そうと刃を振るっていた人間だ。
正直に自分が”茨の君”であったことを話すべきか?
自分が殺し屋であったことを言うべきか?

それを知って、彼女が自分と共に行動をするか?

自信がない。
別に、今話すこともないだろう。せめて、”パッフェル”を知っているマグナ達か…
先生と合流したあとでも遅くはないはずだ。

まさか、自分が”茨の君”であるとはアズリアも思わないだろう。
雰囲気があまりにも違いすぎるのだから。
それだけ、パッフェルはヘイゼルとは別人だと言える自負がある。


「……俺の名はオグマだ」
「…アズリア・レヴィノス」
場数を踏んでそうな二人ですら
戦場真っ只中でウエイトレスに話しかけられたことはないのだろう。
返事からも少し間の抜けた感じがする。

「それで…パッフェル…だな?
 わざわざ話しかけてきたお前にこんなことを聞くのも少し間が抜けているが…
 お前は、この状況でどうしようと思う?
 もし、進んで人を殺めるようなことをするのならば、俺はなんとしてもお前を斬るが――」
まっすぐにこちらを見据えて、オグマが言う。
風貌・体格・雰囲気。どれをとっても強者といって遜色ない人物のようだ。
斬るというのは本気だろう。

オグマのその真摯な態度にに応えるように、にこやかな笑顔のまま、オグマの瞳を見つめ返す。
彼は決して汚れた眼はしていない。むしろ、澄んだ眼をしていると言ってもいい。
だからといって、それだけで無条件に心を許すことができるほど、
自分の人を見る目をを信頼しているわけでもない。
「私が進んで人を殺すようなことは、絶対にありえません。」
そう、それだけは絶対にありえない。心の底から言える。
緩んでいた顔が引き締まり、先程までとは全く違うトーンで言った。

「…そうか、俺達もそのつもりはない。
 ところでパッフェルはどうして俺たちに話しかけた?
 こちらは二人だ。もし俺たちが”その気”なら…どうなっていたか分からないぞ」
オグマが尋ねてきた。
パッフェルは知るはずもないことだが、オグマがアズリアに尋ねられたことである。

「いや~これでも逃げ足には自信があるんですよ~。
 あとは、乙女のカンってとこでしょうか?
 話し合えば分かる人のような気がしたんです♪」

足の速さに自信があるのは本当だ。メルギトスと戦ったメンバーで
自分と同じくらいの足を持っているのはイオスかユエルぐらいなものだ。
それに、バスケットの中にはスタングレネードもある。
だが、それ以上に……先生から聞いた”優しい人”が一緒ということは、
少なくともいきなり斬られたりすることはないだろう、と踏んだのだ。


「ふむ、そうか。」
お互いの顔を見合わせて、お互いに表情を緩める。
両者とも、なんとなくではあろうが…
相手の言ったことを鵜呑みにしていないというのを察したのだ。
同時に、敵意もないことも。

あくまで『今は』だが。

「見た目は奇抜だが、案外普通の感覚をしているようだな」
ようやく、剣の柄に触れていた手を離し、オグマが笑った。
理由はあったにせよ簡単に自分を信じたアズリアに対しての冗談だろうが――
「まてオグマ殿!?それではまるで私が普通ではないみたいではないか!?」
言葉のニュアンスを正確に察知したのだろう、
アズリアが聞き捨てならんと言わんばかりにオグマに食いつく。
「いや、アズリアは人を見る目には自信があるんだろう?
 俺はそこまで自信がないんだ」
「奇遇ですねぇ~私もあんまり人を見る目には自信がないんですよ。
 せいぜい、チップをくれるお客さんを見抜くのが精一杯ですねえ~」
パッフェルのその言葉に、オグマとパッフェルが控えめに笑い始めた。
アズリアだけは納得いかんといわんばかりの渋い表情をしていた。

「パッフェルはこれからどうするんだ?」
「いや~まだ考えてないんですけど…オグマさんとアズリアさんはどうするんですか?」
本当は下手な歌声が聞こえた西に行くつもりだったが――

同行を自分から申し出ると、断られるかもしれない。
なぜなら、オグマは自分のことは完全には信じていないだろうから。
だが、それは自分も同じことだ。
たとえアズリア自身が人を見る目に自信があると言っても、
先生の友人を安全かどうか分からない男性と一緒にしておくのは忍びない。

ここからは自分の、商人としての経験を総動員しての交渉だ。

押してでも、引いてでも。
どうにかして、アティと合流するまで――そうでなくても、
オグマが信用できる人物だと確信できるまでは、私が先生の友人を――――
「パッフェル殿も私達と一緒に来ないか?」
「アズリア?」「アズリアさん?」
少し、予想外だった。まさか、アズリア自身が声をかけてくれるとは。
「私は…オグマさんがよければ、喜んで同行したいですけど…。」
そういって、パッフェルはオグマの顔を見上げる。
オグマは少しだけ逡巡したあと、首を縦に振った。
「俺はアズリアの人の見る目を信じている。」
その言葉を聞き、演技でもなんでもなく自分の表情が晴れやかになるのをパッフェルは感じた。



(似ている………。)
アズリアはそう感じていた。
パッフェルにしてみれば十年オーダーで昔のことだが、
アズリアにしてみれば”ヘイゼル”と別れたのは少し前のことだ。
いくら雰囲気が正反対であるといっても、顔の造りや声が似ていれば
勘のいい人なら気付いても不思議ではない。

(もし、彼女があのヘイゼルであったとすれば…)
アティの話では、彼女は改心したと考えてもいいだろう。
だからといってこの状況でも暗殺者に戻らずにいるだろうか?


他の人間を皆殺しにするわけにも、皆殺しになるのを傍観するわけにもいかない。
私は、軍人だから。


もし彼女が本当にヘイゼルとして――何か不審な行動をすれば――
それは取り返しのつかないことに繋がるかもしれない。

自分の手の届くところでは誰も殺させない。

彼女が、本当に信用に値する人物だと確信できるまでは、野放しにはしないでおこう。



「ところで…その鞄から顔を出しているのはなんだ?」
「あー、弦楽器ですね。弦はもうはずしましたけど。いりますか?」
「いや…荷物にしかならないだろう」
「分かりませんよ~いらないと思っていたアイテムが超重要アイテムに変わるのは
 よくある話ですから。今ならあなたの支給されたアイテムと交換しますよ♪」
「……………」
「じゃあ、食料一日分!」
「…………………………」
「じゃ、じゃあ半日分でどうですか!?」
「………………………………………」
「ええ~では、水一本で!後生ですから、買ってくださいよ~。重いんですよぉ!!」
「超重要アイテムになるまで我慢するんだな」
「オグマ殿に同意だ」


【F-5・森の西の平原/昼】

【オグマ@紋章の謎】
[状態]:健康
[装備]:ライトセイバー@魔界戦記ディスガイア
[道具]:万能薬@FFT
[思考]
1:アズリアを守護しこの状況から脱出するための、手段・方法を探す
2:マルスシーダ、チキが心配。
3:パッフェルに対しては少しの警戒。だが普通の人はこんなものだろうとも思っている。
4:ナバールにはある種の心配とある種の信頼。ハーディンに対しては疑問
5:仲間たちと合流

【アズリア@サモンナイト3】
[状態]:健康
[装備]:ハマーンの杖@紋章の謎
[道具]:傷薬@紋章の謎
[思考]
1:オグマとパッフェルと協力しこの状況から脱出するための手段、方法を探す
2:パッフェルがヘイゼルかどうか、信頼に足る人物かどうかを見極める。
  もし不審な行動をした場合は、武力行使をしてでも止める。
3:イスラ、アティ、ベルフラウソノラと合流したい
4:ビジュがあのビジュなら短慮を起こさないか心配。しかし、あいつは死んだ筈…
5:仲間たちと合流

【パッフェル@サモンナイト2】
[状態]:健康
[装備]:弦除去済みエレキギター(フェンダー製ストラトキャスター)@?
[道具]:エレキギター弦x6@?、スタングレネードx5@?、支給品一式、バスケット@サモンナイト2?
[思考]
1:オグマが安全だと確信するまではアズリアを守る
2:首輪解析のためネスティを保護する
3:イスラ以外の知り合い、特にアティ・マグナを探す
4:見知らぬ人間と遭遇時、基本的には馴れ合うことは無い

030 美少年と野獣 投下順 032 そしてオレは駆け出した...
030 美少年と野獣 時系列順 032 そしてオレは駆け出した...
001 剣の闘士と剣の姫 オグマ 056 彼女らの邂逅
001 剣の闘士と剣の姫 アズリア 056 彼女らの邂逅
012 全力でぶち壊す女 パッフェル 056 彼女らの邂逅
最終更新:2009年04月17日 08:44