アイクが鴉王こと
ネサラを困惑と苛立ちを込めた視線で
見送り終える前に、既に事は始まっていた。
「貴様っ!!」
空に飛び去るネサラ向かって顔を上げているとすぐ近くから声がした。
視界を水平にまで落とすと先程まで話をしていた
リチャードが
こちらに寄ってきていた。
「アンタか。さっきのがアンタが言っていた魔物だろう?
アンタは鴉王を魔物だと思ったらしいがああ見えて――」
言い終える前にアイクは横っ飛びに跳躍していた。
先程までアイクがいた空間にはリチャードの繰り出した槍が存在している。
ネサラの不審すぎる言動ですっかりペースが乱され不意打ちを許してしまった
アイクだったが、着地した先で前転しそのまま起き上がり
いつの間にかエタルドを鞘から抜き去っていた。
「何の真似だ、危ないだろう」
どう見ても殺すつもりで攻撃を仕掛けてきた相手に言うには滑稽な台詞ではあったが
落ち着いた様子で剣を構えリチャードを見据えるアイクからは
動揺も何も感じられない。
感じられるのはただただ、剣気のみ。
「邪神なんてものはロクなやつがおらん。
邪神の使徒なんぞは俺様が始末しておいてやろう!!」
言い終わるや否や、リチャードの左足が力強く地を蹴った。
二つの銀光が閃き、高い金属音が辺りに響く。
音が減衰する頃には二人の立ち位置は入れ替わっていた。
二人の衣服を風が揺らす。
風が、槍により切り離されたバンダナの一部を運んでいった。
風が、剣により散らされたウェーブのかかった緑の髪を舞わせていった。
「首を狙ったんだが…よく反応できたな。おまけに反撃つきか。
思ったよりやるようだ」
振り返りながら、ヴォルケイトスの柄を握り直す。
「アンタは話を聞く気はないらしいな。
それなら俺もそれ相応の対応はさせてもらうぞ」
振り返りながら、柄を掴んでいる右手に力を込める。
「手応えがなくてはつまらんからな。
やれるなら後悔しないように全力を出すんだな」
「そのつもりだ」
かたや剣を握るアイク。
かたや槍を構えるリチャード。
これが軍を率いる状態、彼らが将軍だったならばお互い、
もう少し対話の必要性に気付いたかもしれない。
鴉の罠にはめられていることにも気付いたかもしれないが――――
不幸なことに、そこにいるのは二人の戦士だった。
槍の利点はリーチの長さに尽きる。
自分のレンジを制することは戦いでの勝敗を決するのだから、
槍よりもリーチの短い剣を持つ相手は、自分のレンジに敵を取り込む前に
自分が敵のレンジに取り込まれてしまうため、圧倒的に不利。
騎乗での戦いが専門といえど、リチャードは白兵戦でもかなりの強者だ。
アイクといえど、この"すくみ"を破ることができる相手であろうか?
二つの刃が奏でるリズムが鳴り響く。
リチャードが薙ぎ払うように槍を振るった。
エタルドで受け止め、後方に流しつつアイクは敵との間合いを詰める。
しかしリチャードは後方に跳びながら槍を引き戻し返しの刃で首を狙う。
アイクは横にステップし回避。肩当てを刃がかすめた。
追うように槍の先端が軌道を変えアイクへと向かってくる。
後方へ跳び槍のレンジの外へ出ることにより回避。
アイクが後方に跳ぶと同時にリチャードも間合いを詰め
先程の攻撃の威力を殺さないように槍を半回転させ薙ぎ払うが
さらにアイクが後方に跳躍したため空振った。
既に数分の時間が経過した。
リチャードは未だ無傷。
アイクはところどころ服が裂け、鎧にも深い傷がついていたが
致命傷に至るような傷はなくかすり傷のみ。
最初の撃ち合いでアイクの力量を認めたリチャードは自分の間合いを制することに
重点を置き、アイクの間合いには決して踏み込まない戦法をとっている。
結果として相手を間合いの中に完全に引き込む前に攻撃を仕掛けるため一撃の威力は低く
リチャードはもちろんアイクも深い傷を負ってないが
アイクの消耗のほうが確実に大きく、このままでは勝敗は火を見るよりも明らかだ。
戦術的に退くのも一つの手だ。
一騎打ちならまだしも、不意打ちしてくるような相手に背を向ける分には
それほど抵抗はない。――――全くないかと聞かれると別ではあるが。
だが、本心は…退く気はない。
槍が得物だとはいえ滅多に戦うことができないような猛者だ。
既にアイクの闘争心には火がついていた。
この点に関してはネサラの読み通りだったということだ。
しかしこのままいたずらに体力を消耗するわけにもいかない。
大技を出しても今のままではかわされる。天空でも同じことだろう。
さて、どう切り崩すか………?
(邪神の下僕の分際でやるものだ)
戦いは有利に進めつつも、リチャードはアイクの実力に内心で舌を巻いていた。
並の相手なら、これだけの時間で10人は仕留めれただろう。
だが、未だに致命傷1つとして負わせられない。
目の前の剣士は傭兵王テムジンと互角以上の強さと認めざるを得なかった。
再び、剣士がこちらへと切り込んできた。
リチャードは後方へ跳躍。牽制として反撃の突きを繰り出す。
相手はその突きを紙一重で避け――――なかった。
アイクの左肩にヴォルケイトスが突き刺ささる。
しかし、アイクの顔に苦痛の表情はない。
むしろ『予定通りだ』といわんばかりだ。
すぐさまエタルドを持つアイクの右腕が振り上げられた。
だが回避するまでもない。アイクの身体に槍が刺さっている以上、
その槍を手に持っているリチャードは剣の間合いの外なのだ。
このまま左肩に刺さっている槍を抜くことなく薙ぎ払えばいい。
心臓、大動脈、……標的はよりどりみどりだ。
リチャードはそう考え、槍を持つ両手に力を込める。
アイクがエタルドを渾身の力で振り下ろす。
リチャードに当たるはずのない、その一撃を。
――――二人の間に位置する、ソレに。
「っ!!?しまっ―――」
リチャードがアイクの意図に気付いたときにはもう遅かった。
エタルドによる一撃がヴォルケイトスの柄を打ち砕いたのはその一瞬後だった。
リチャードは未だ無傷ながらも、武器を失った。
勝敗は決したのだ。
「俺の勝ちだ」
どこか満足げに、アイクが言った。
「……真性の馬鹿か、貴様は」
神剣エタルドの耐久性に賭け勝利したアイクであったが代償は小さくなかった。
リチャードは目の前の光景に呆然を通り越え呆れ返るしかない。
アイクは自分の左肩に突き刺さっている槍に渾身の剣戟を叩き込んだのだ。
どうなるかは想像に難くない。
突き刺さった槍はその衝撃でアイクの肉をえぐり、左肩は鮮血に塗れていた。
肉を斬らせて骨を断つ――――そういえば聞こえはいい。
リチャードも大切なものの命運を賭けた戦いの勝利のためなら怪我どころか
自分の命を捨てるような男であるので、馬鹿呼ばわりできる立場でもないが。
「しかし、負けは負けだ…邪神の手先に一度ならず二度までも…殺せ!」
そういうと、ドカっと地面にあぐらを掻き腕を組みアイクを睨みつけた。
「別にアンタを殺すつもりはない。利点もないしな」
睨まれたアイクのほうは、その眼光にひるむことなくリチャードを見つつも
エタルドを鞘の中へと納めた。
「利点がないだと?貴様が邪神の使徒というならば
俺は女神ミラドナに借りがあるから、貴様の敵だ。
敵を生かすことにこそ利点がないだろう」
「邪神の使徒というのは誤解だ。確かに俺はユンヌの加護の下戦ったし
ユンヌは邪神と伝えられていたがユンヌが邪神というのは迷信だ」
「じゃあ、さっきの魔物はどう説明する!?
あんな魔物と親しそうに話していたが、あの魔物も邪神の使徒ではないというのか!?」
「ああ。世界の人全てを石化させようとした神と戦ったときの仲間だ。
聞いたところだと、アンタから鴉王に攻撃を仕掛けたらしいな。
鴉王は面倒事は好きじゃない。
手を出さなければ攻撃してくるようなことはなかったはずだ」
「……クソッ。全て俺の早とちりだったということか…!」
アイクの言葉を聞き、リチャードはあぐらを掻いたまま忌々しげに呟いた。
「そのようだな。アンタはこんなゲームに乗る気はないんだろう?
なら、俺もアンタをこんなところで殺すよりも一緒に行動したほうが都合がいい」
リチャードはアイクの瞳を見た。
何を考えているかはよく分からなかったが哀れみなどの感情は一切ない。
この男は、自分を同情で生かそうとしてるのではないことだけは分かった。
「………。貴様が正しい。今回の件については貸しにしておいてやる」
ぞんざいな口調ながらもばつの悪そうな顔でリチャードはそう言った。
そして、リチャードが立ち上がった瞬間――――
二つの乾いた音が森に響いた。
「アイク、貴様は…無事か?」
「右腕をかすめた…!だが、まだ剣は振れる。
リチャード、アンタは……。っ!?」
左肩の怪我も右腕の怪我も無視してエタルドを構えたアイクが
立ち上がろうとして倒れたリチャードに目を遣ると、
彼の右太股を中心として、衣服がじわじわと赤黒く変色しているところだった。
命に別状はないだろうが立ち上がるのすら困難なのは予想のつく怪我だ。
「この程度はかすり傷だ」
近くに転がっていた折れたヴォルケイトスを杖代わりに立ち上がるも
虚勢なのは目に見えていた。
距離にして50mほどか。
木々の間を生気ない足取りで歩んでくる襲撃者。
くすんだ金髪を後ろで束ね、手に金属製の何かを持っている。
服は血塗れ。あの血がその襲撃者の血なのだとすれば、
確実に失血死しているような量だ。
では、あれは他人の血ということなら――既に誰かを殺しているということだ。
この男が危険な相手だということは理解できた。
彼の手の中の金属製の何かが火を吹き、再び乾いた音がした。
身の危険を察知しアイクは横に跳んだ。
目にも留まらぬ超高速でアイクがいた場所を何かが通過し、
後方の木に着弾。木の皮が弾け飛び、小さな穴ができていた。
(ボウガンのようなものか)
タネさえ分かれば、距離が離れている間なら避けるには問題ないだろう。
が、足を怪我しているリチャードは別だ。
距離を詰められる前に先に打って出て無力化するのが得策と判断し
アイクは襲撃者向かって駆け出したが。
「アイク、落ち着け。罠だ」
リチャードのその言葉で足を止めた。
「お前も感じるだろう、この殺気。出てきたらどうだ?」
襲撃者の足も止まり、森を静寂が包んだ。
「よく、気付きましたねぇ。あまり私自身では
表立って戦闘をしたくなかったのですが致し方ないようです。
あなた方もよい素体になりそうですしねぇ」
木々の隙間から出てきたのは初老の男だった。
薄気味悪い。そんな禍々しい雰囲気。
佇まいから只者でないことは分かるが実力は未知数だ。
「…退くべきだな」
「俺も同感だ」
実力未知の相手二人に対し、こちらは手負いの二人。
ここで戦うのは無謀すぎる。
足を怪我したリチャードをどう庇いながら撤退するかをアイクが考えていると、
「アイク、貴様は一人で逃げろ。俺がしんがりを務めてやる」
リチャードがとんでもないことを言い出した。
「俺はこのザマだ、走ることすらかなわん」
「それぐらい分かっている。だがここは森の中だ。
走ることができなくとも撒くことぐらいは―――」
「できそうな相手に見えるか?」
襲い掛かってきたときとは打って変わって、クールなリチャード。
その様子を見て、アイクは理解した。
現状に諦めたわけでもなく悲観したわけでもなく、
単純に受け入れた結果、足を怪我した彼は逃げることができないと結論したのだと。
「アンタが残るなら俺も残ろう。勝てない相手ではないだろう」
勝てない相手なら、情に流されることなく一人での撤退を受け入れただろうが
戦って勝てば二人とも生き延びることができる。
なら、それに賭けるのは悪くはないだろう―――
「それもいいかもしれんな。………腕の感覚がまともにあるなら、だが」
「……」
リチャードの攻撃とその後の無茶で出血が未だ止まらない左肩。
いくら痛みには慣れてるとはいえ、左腕の感覚がまともかといわれれば…否だ。
先程攻撃を受けた右腕も、左よりは軽傷だが同じく。
どちらも処置すればまだ十分動くだろうが、処置する時間は与えられないだろう。
では、十分に動かないであろう腕をもってこの戦いに挑めば?
―――待つのは全滅だろう。
「癇に障るが、貴様は俺に勝った。勝者は得をすべきだ」
「…分かった。ここは頼む」
ようやく、アイクが折れた。
それに対し、不敵な笑み。勝ち誇った表情。
そういう形容が相応しいであろう表情のリチャードが言った言葉は。
「また会おう」
それを聞き終えると同時に、アイクは剣を握ったまま駆け出した。
「逃がしませんよ」
初老の男がそう言い、付き従う生気のない男に目配せした。
男――
ムスタディオが撃鉄を上げ引き金を引きリムファイアーが火を吹く。
はずれた。
リムファイアーは小型の銃であるので有効射程はそれほど広くない。
「グラナダの小僧の手弓のほうがよほどマシだな」
アイクのほうに注意がいっていたので、
ニバスは気付かなかったが
リチャードはまともに動かない片足を引きずり、
ムスタディオとの間合いを詰めていた。
その距離、約30m。
「右足の礼だ。遠距離攻撃というものの見本を見せてやろう!」
ほとんど動かないはずの右足で地を蹴る。
太股から苦痛と血が吹き出すがリチャードは意に介さない。
左足を力強く踏み込み折れたヴォルケイトスを超速で投擲した。
水平40度の角度で飛び出したそれは木々の隙間をくぐりぬけ―――
正確無比にムスタディオの心臓を打ち抜いた。
貫かれた衝撃そのままに、ドミノが倒れるようにゆっくりと、後方にのけぞり。
仰向けになってムスタディオは倒れた。
「おやおや…失敗作とはいえ作るのには
それなりの手間がかかったんですけどねぇ…。
仕方がありません、あなたを使わせて頂くとしましょう」
リチャードの右足は既に真紅に染まり、それは地面へと広がっていっている。
太股から未だ血は吹き出ているのだ。消耗しているのは目に見えていた。
もはや彼の手には武器もない。
魔法を使うだけ魔力の損と考えたのだろう。
ニバスはビーストキラーを構え悠然とリチャードへと歩いてきた。
リチャードも逃げるつもりは毛頭ないようだった。
あれだけの出血をしているのだ。立っているだけで精一杯だったのかもしれない。
「あなたの死体は我が研究の礎となるのです。
"有効活用"して差し上げますので安心してください」
既に、二人の間は手を伸ばせば届くほどに近づいていた。
「では、お別れです。死んでください」
一歩踏み出し、ニバスはリチャードの胸へとビーストキラーを突き立てようとして――
キィンッ!!
赤い、閃光のような障壁に弾かれた。
「ッ!!?」
「知らないのならいい機会だ、教えておいてやろう」
予想外の出来事に、ニバスの動きが一瞬だが硬直した。
そしてそれを見逃すリチャードではない。
ニバスが突き出したままの手に素早く手刀を落とす。
「――がはっ…!」
ニバスの手が握っていたビーストキラーが地へと落ちる頃には
背負い投げによって彼の老体は木の幹に叩きつけられていた。
肺の空気が無意識に押し出され、苦痛の呻きが森にこだまする。
「王たる騎士、キングスナイトは貴様のような下衆が触れられぬよう
障壁を張る術『大盾』を習得しているのだ」
地面に落ちたビーストキラーを拾いつつ、悠然とリチャードが言った。
立っているだけで精一杯?とんでもなかった。
獅子の目は、死んでいない。
片足を射抜かれた程度では、獅子は猫にはならない。
ニバスは、手負いの獅子を完全に甘く見ていたのだ。
だが、相手が失血により消耗しているのは間違いない。
ニバスもこのままやられるほど諦めはよくない。
「大いなるゾショネルの加護により炎の精霊に命ず…ごッ!!?」
ファイアストームの詠唱は強制的に中断させられた。
リチャードが思い切りニバスの腹を蹴り上げたのだ。
「まだ悪あがきをするか。炎の精霊…森に火を放ちドサクサで逃げるつもりだったのか?
それとも俺に放つつもりだったのか?どちらにせよ……」
ベキッ!!
獅子王がもう一度、屍術師の横っ腹を強烈に蹴り上げた。
骨の折れる音が響いた。
「俺の死体を"有効活用"だと?俺の死体は豪奢な墓に入れる以外の活用は認めん。
ふざけたことをほざいた落とし前はつけさせてもらう」
手の中でビーストキラーを鮮やかに回しつつ、獅子は死刑宣告をする。
「私は…まだやらねばならぬことがあるというのに……」
「知るか。くたばれ」
獅子の判決が下り、ビーストキラーが横たわる老人へと振り下ろされた。
「な…んだと…!?」
わき腹が、背中が熱い。
そこに攻撃を受けたとリチャードが理解するのにそれほど時間は必要なかった。
乾いた銃声が三発、聞こえたのだから。
苦労して斜め後方を見遣ると、心臓を貫かれたはずの男が胸にヴォルケイトスを刺し
横たわったまま、こちらに金属製の武器を構えていた。
その先端から立ち上る煙が何か恐ろしいもののように見えた。
三点射。一発ははずれたようだがダメージとしては十分だった。
「……化け物め」
そう吐き捨てるのが限界だった。
元々右足の感覚は消えかかっていた。そこに更なるダメージ。
痛みと失血に耐えかね、ついに獅子王は地面に倒れこんだ。
「やれやれ、今回は本当にダメかと思いましたねぇ」
立ち上がりながら、衣服についた埃を払う老人。
完全に形勢は逆転してしまった。
「あの失敗作には感謝すべきですかねぇ。それに、銃という武器についても
認識を改めたほうがよいかもしれません」
「……あの男は…なんなんだ…」
「私が作り出したデスナイト――俗に言うゾンビです。まぁ出来損ないですがね。
あなたも今からああなるのですよ」
「……死んで…も…ごめんだ」
リチャードの声が弱々しくなっていく。背中に受けた銃弾がどこか重要な器官に
被害を与えたようだった。
「死んでからこうなるのですよ。さて、もう反撃できるとは思えませんが
今度は魔法を使わせていただくとしましょうか」
視界が暗くなってきた。
痛みももう感じなくなってきた。
一度死を経験したからこそ分かる。自分は死ぬのだと。
目の前の男の行動によってそれが10秒後になろうともはや関係なかった。
「心冷たき王妃の吐息よ…」
残念だが、獅子王リチャードもこれまでだな…
許せ、レダの民よ。まだ復興も中途だというのに間抜けにも王は力尽きる。
目の前に浮かんできたのは俺が惚れた女、
ティーエの顔。
届くかどうかは分からないが、もう一度言おう。
―――戦え、最後まで。
「氷の刃となりて大地を切り刻め…」
アイクは無事離脱しただろうか。
できればこのじじいを打ち滅ぼして欲しいところだが。
とにもかくにもこれであいつへの借りは返せただろう。
―――貸し借りなしだ。
「アイスブラスト!」
最後に浮かんできたのは…グラナダの小僧。
そういえばこいつへの借りもまだ返していなかったが…まぁ構わんか。
そんなことより死ぬ直前に見るのが貴様の生意気な顔だとは死んでも死に切れん。
失せろ。二度と顔も見たくない。だから……
魂も凍て凝る冷気が辺りを包み込み、一人の獅子が散った。
「新たな素体が手に入ったのはいいのですが随分と痛めつけられてしまいました。
治療と研究、並行してやったほうがよさそうですねぇ」
近くに落ちていた支給品の入った袋と自らの短剣を回収しつつ屍術師ニバスはぼやいた。
そして目の前で氷漬けにした男を触り、術を施そうとした瞬間に
違和感がニバスの身体を走った。
「……最初に魔法を使った時点で感じてはいましたが…なるほど、力の制限ですか。
この首輪に呪いでもこめられているのか……それとも別の要因か。
しかし、私の研究にまで制限がかかるとなると
この空間は思った以上に不便ですねぇ」
そして、目の前の男と離れた場所で倒れている従者を交互に見る。
「どちらにせよ、これで材料不足も少しは解消されるでしょう。
さて、どちらをベースにしましょうかねぇ?」
【G-6/森/一日目/午後】
【ニバス@タクティクスオウガ】
[状態]:肋骨骨折・背中を強打
[装備]:ビーストキラー@暁の女神
[道具]:支給品一式×3、拡声機、不明アイテム、
光の結界@暁の女神
[思考]1:保身を優先、隙あらば殺人
2:実験材料(死体)の確保
3:手に入れた材料を用いて実験再開
4:傷の治療
【ムスタディオ@FFT】
[状態]:アンデッド
[装備]:リムファイアー@タクティクスオウガ(7発消費・残弾不明)
[道具]:空のザック
[思考]:ニバスを守り、他の参加者を殺す
【備考】
折れたヴォルケイトスの柄・折れたヴォルケイトスの先端が転がっています。
【リチャード@ティアリングサーガ 死亡】
【残り40人】
「…あ」
アイクが素っ頓狂な声をあげた。
近くの森に逃げ込み、マントやバンダナを用いて止血を施したところで
ふと、あることを思い出したのだった。
「鴉王に言われたあの石化した少女、置いてきてしまったな…」
右腕の怪我はやはり軽傷だった。すでに血も止まっている。
だが、左肩の怪我はあまり思わしくなかった。かろうじて血は止まったが
傷の付き方が悪く放っておくと化膿するかもしれない。
利き手である右が無事な以上、戦うことに関しては当面問題はないが
シスターに治療を受けるなりちゃんと消毒するなりする必要がありそうだ。
「放っておくのも気が引けるが……正式に依頼を引き受けたわけではない。
暗くなる前に肩の治療をしてしまったほうが都合がいいな」
リチャードは無事だろうか?
………十中八九、無事では済んでないだろう。
応急処置は施したし今からでも向かうべきかもしれないが……
彼の意志を無碍にする結果にだけはしたくなかった。
「まずは、傷の手当ができる人物ないし薬を探そう。あと肉だ」
【F-7/森/一日目/午後】
【アイク@暁の女神】
[状態]:全身にかすり傷・左肩にえぐれた刺し傷・右腕に切り傷(全て応急処置済み)
貧血(軽度)・疲労(小)
[装備]:エタルド@暁の女神
[道具]:支給品一式(アイテム不明)
[思考] 1:こちらからは仕掛けないが、向かってくる相手には容赦しない
2:左肩の傷をちゃんと手当したい、あと肉
3:リチャードの安否が気になる
4:ラグネルを探す
5:4が出来次第、
漆黒の騎士を探す
6:仲間達との合流
7:ゲームの破壊
8:あの石化した少女……まぁいいか
幸か不幸かはさておき、ニバスは石化した少女に気付いていないのか
それとも全く興味がないのか目に入っていないのか。
ニバスならば石化の解除もできるだろうが…解除されたとしても
その後、紳士的に扱ってもらえるような展開にはならないだろう。
そう考えれば、
ソノラにとってはやはり幸運だったのだろうか。
ソノラが石化してからもうすぐ10時間が経過しようとしているが
未だに彼女の思考は停止したまま――。
【G-6/森/一日目/午後】
【ソノラ@サモンナイト3】
[状態]:石化中
[装備]:
石化銃@FFT(弾数6/6)
[道具]:弾丸(24/24、他の銃に利用可能かどうかは不明)
[思考]:……
[備考]:石化しているため、一切の思考・行動を行えません。
最終更新:2009年04月17日 23:17