朦朧とした意識。濁った水の中を漂うようにはっきりしない。
何かが目の前を横切っていった。
きちんと視認することはできなかったがそれが何かはわかった。
朦朧とした意識のまま、呆然としている自分を自覚する。
彼らを殺したのは誰だ?
考えるまでもない、彼らが戦っているはずの敵は…
私を捕えている暗黒騎士団だ。
私は彼らを許さない。そう思った矢先に再び何かが目の前を横切っていった。
これがローディスのやり方か?
利用するだけ利用し、利用価値がなくなれば斬り捨てるというのか?
意識は未だに朦朧としている。
それでも身を焦がすような怒りがふつふつと湧き上がっていた。
そこへ、再三、何かが目の前を横切る。
隻眼の男、見知った敵の首。
それが暗黒騎士ランスロットの首だと理解するのに要した時間は
デニムやカチュア達のそれの倍はあっただろう。
暗黒騎士団の仕業ではないというのか!?では誰の仕業だというのか?
その答えは目の前にあった。
白馬に跨った男が、血塗れの槍を片手に高笑いをしていた。
すぐ近くには4つの首のない人間の身体が横たわっている。
高笑いがピタリとやんだ。
――暗黒皇帝自らの手で葬られることを誇りに思うがいい。
―――安心しろ。貴様の知り合い全てをすぐそちらへ送ってやる。
そう言って、暗黒皇帝は悪寒の走る笑みを浮かべ手に持った槍をこちらへと投擲し――――
「………気がついたようだな」
「きっ…貴公は……グッ…!!?」
「よかった、目が覚めたんですね!まだ起き上がってはだめです」
漆黒の鎧を纏った騎士とそれに寄り添う少女。
朦朧とした意識の中でそれを理解した
ハミルトンに
まるで背骨をかんなにかけられたような強烈な悪寒が襲った。
しかし気付けには丁度良かったのかもしれない。
反射的に間を取ろうとして動いたために右足とあばらに走った痛みも相まって
少しずつ思考がクリアになっていった。
暗黒騎士ランスロットとカチュアではない。
それを理解するのにそう時間はかからなかった。
空を見れば既に薄暗くなりつつある。
結構な時間気絶していたようだ。
彼らは私を殺そうとしていたのだろうか?
いや…右足に応急処置が施してある。
確か砂浜で気を失ったはずだが…今私が寝かされている場所も柔らかな草の上だ。
彼らの様子を見る限りでは私を見つけてからそれなりに時間が経っているのだろう。
周りの様子を伺っているハミルトンを見て
意識がはっきりしてきたのが傍にいる黒衣の騎士にもわかったのだろう、
仰向けのハミルトンの横で立っていた彼が口を開いた。
「さて、目が覚めて早々で悪いが…俺の質問に答えてもらうとしよう」
「…先に言っておくが、私は無闇に人を傷つけようとは思わない」
「お前がこのゲームに乗っているかどうかはその怪我ではあまり関係ない。
この
参加者名簿の中でお前が知っている人物がいれば詳細を教えろ。
危険人物かどうか、を特に知りたい。
それにそんな怪我を負うに至った経緯もだ」
この威圧感にこの佇まい。目の前の黒衣の騎士が手練であるのは明らかだ。
もしこの騎士がこの殺し合いに積極的な人物ならば
――情報を引き出せば自分は間違いなく殺されるだろう。
そうならば死んでも自身の知る情報を渡すわけにもいかない。
デニム達に余計な負担を強いることになるのだけは避けたい。
そう考えた結果、ハミルトンがした返事は簡潔なものだった。
「貴公らを信用することができない。だから話すことはできない」
「…そうか。参加者に友好的な人物がいるならばその判断は賢明だろうな。
ではどうすれば俺達を信用――」
順調に尋問していたこの黒衣の騎士の名なのだろう、ルヴァイドさん、
と弱々しいながらも話に割って入ったのは、赤い長髪が印象的なシスター風の少女だ。
雰囲気も柔らかく、この殺し合いの場にはいるべきではないような清楚な人だった。
「この人はかなりひどい怪我をしています。話を聞くのは後からでもいいでしょう?
騎士様。右足がひどく腫れ上がっています。程度は分かりませんがおそらく骨折でしょう。
当て木で応急処置はしましたがちゃんと治療しないと歩くこともままならないと思います。
他に傷む箇所はありませんか?
私ができる範囲なら手当てしますから遠慮なく言ってください」
そう、この少女は本当に心配そうに尋ねてくるのである。
「確かに、傷の治療を優先すべきだったな。済まなかった。
こんな状況だ、お互い初対面で信用しろというのは無理かもしれないが
俺達を信用して欲しい」
そう言ってこちらを見てくる実直とも誠実ともいえる瞳。
ハミルトンは黒衣の騎士とこの少女が危険人物ではないかと疑っていたことを恥じた。
先程、豹変した男に殺されかけたのだから初対面の人間を疑って当然といえば当然ではあったが
この少女は、この騎士は信用してもいいかもしれない。
情報を聞き出せばすぐ殺される可能性はないとは言えないが
こんな男のために当て木を用意したり心配をしてくれる人達を信用して殺されたならば
もうそれは仕方ないだろう。
「治療はこれで十分だ、ありがとう。
そのお礼だ…私の知っていることを話そう。
まず私の名前は…ランスロット=ハミルトンだ」
◆
簡単な自己紹介の後、ハミルトンは知っている情報を話した。
特に、危険と思われる人物についてだ。
「ああ。ただタルタロスに関して言えば、冷酷ではあるが殺人狂ではない。
死ぬつもりはないだろうしそう易々と優勝できるとも考えてないだろう。
この島からの脱出の道のりを模索している可能性もあると思う。
しかしハーディンは本当に危険だ。あの目は常人の目ではなかった。
馬を持っている以上逃げることもできない。出会えば交戦する他ない」
「デニムとヴァイスという二人については分からない、と?」
「彼らと別れてから時間が経っている。戦時中ということもあり情報が錯綜していたし
彼らが大虐殺をしたという噂もあれば英雄として戦っているという話もあった。
基本的に彼らは信用してもいいとは思うが…
私の知らないところで何か考えが変わった可能性もある」
「そして、カチュアという人物については……」
「…全く分からない。彼女はデニム君の姉でヴァイス君とも幼馴染だったはずなんだが…」
暗黒騎士団に捕らわれいたときに訪れたランスロット=タルタロス。
彼が明かしたカチュアに関する衝撃の事実。
ランスロットに付き従い、意味深…いや、危険なことを言っていたカチュア。
彼女がどう動くのかは全く予想ができなかった。
「お前の知り合いも一筋縄ではいかないようだな」
知り合いや遭遇者全員が安全と言い難いとは…改めて考えると恐ろしいことだ。
ルヴァイドが漏らしたため息が耳に届く。
ハミルトンはまだ知らないことだが
カトリとルヴァイドは知り合いに危険人物がいないことから
殺し合いに乗る人数については多少楽観視していた感があった。
「私の知っていることはこんなところだ。
もしよければ貴公らの知っていることも教えてもらいたいのだが…」
ハミルトンのその言葉に、カトリがルヴァイドの顔を覗き込んだ。
彼女は既にハミルトンを信用し、話してしまいたいようだが
一応はルヴァイドの顔色を伺っているようだ。
「そうだな、お前は悪人ではなさそうだ。俺達の知り合いのことは話しておこう。
だがそろそろ日が暮れてきて気温も下がりつつある。
そんな鎧を着込んでその怪我でここまで逃れてきたというのだから
消耗も相当激しいはずだ。身体も冷えているんじゃないのか?
どこか屋内…とまではいかなくともせめて風が防げる場所に移動しよう。
肩を貸せば歩けるな?」
「すまない、少し待ってくれ。………ヒーリング!」
ハミルトンは精神を集中させ、朗々とした声で回復魔法を唱えた。
手をかざした先の、青黒く腫れ上がった右足が淡い光に包まれる。
「ほぅ…道具を用いず傷の治療ができるのか」
「ああ。ヒーリングという魔法なのだが…知らないのか?」
「ふむ。お前が目覚めるまでの間、カトリの世界の話も聞いてみたのだが
彼女の世界では回復魔法を使うにはそれ専用の杖が必要らしい」
カトリのほうを見るとこくこくと首を上下に振っていた。
「俺の世界でも特定の"サモナイト石"という鉱物が必要だ。
……ごく一部に、そういったものを必要としない人物もいたが。
どうやらお前も異世界の人間のようだな」
"異世界"という馴染みない単語に、ハミルトンは眉をしかめる。
「異世界の人間…?」
「傷の治療一つをとっても、それぞれで形態が違う。間違いないだろう。
お前達にはピンとこないかもしれんが俺のいた世界は異世界と身近な世界だからな。
このゲームの参加者とやらは異世界の人間が多数いるようだ」
にわかには信じ難い話だが…どうやら彼は本気らしい。
「怪我は少し回復したようだがそれで動けるのか?」
彼の中では"異世界"の話は『推測』という内容ではなく『確定』のようだった。
何事もなかったかのように話を元に戻してきた。
しかし、そう尋ねられて初めて気付く。
「いや…どういうことだ。ヒーリングの効果が落ちている…?」
本来なら、自由に動ける…とまではいかなくとも完全に腫れがひく程度にまでは
回復しているはずの治療箇所は、少し腫れがひいただけ。
これではまだ独力で立ち上がることすらできない。
「少しでも円滑に殺し合いが進行するために、
回復術の効果を落としているのかもしれん。
憑依召喚術というわけでもなさそうだが……どういう原理なんだろうな」
「全員を一度にこの得体の知れない島に転送したり魔力に制限をかけたり――
人智を超えているな」
恐怖心。
暗黒騎士団の拷問で精神が弱っていたのだろうか。
そんな感情が自身の中から沸き上がるのが感じられた。
「ともかく、移動だ。治癒魔法が使えるのは結構だが、
そのヒーリングとやらで戦える程度には回復しそうか?」
「歩ける程度ならなんとかなるとは思うが…戦闘できるほどどころか
走れるまで回復するかすら分からない。やるだけやってみよう」
再びヒーリングをかけるために右足に手をかざしたとき。
忌々しき声が辺りに響いた。
―――時刻、18時。
【D-4/岸辺/1日目・夕方】
【ランスロット・ハミルトン@タクティクスオウガ】
[状態]:重傷(肋骨と右足を骨折、現在治療中)・体力消耗(大)・右足に当て木・歩行困難
[装備]:無し
[道具]:無し
[思考]0:ゲームの破壊、脱出
1:せめて移動できる程度まで身体を回復させたい
2:ルヴァイド達との情報交換
3:カチュアを警戒。できればデニムと合流したい。
しかしこの怪我では足手纏いにしかならないか…?
【備考】
参戦時期は地下牢でランスロットとカチュアに出会ってから
廃人化するまでの間です。
【カトリ@ティアリングサーガ】
[状態]:健康
[装備]:
ゾンビの杖@ティアリングサーガ
[道具]:火竜石@紋章の謎、支給品一式
[思考] 0:みんなで生還
1:
ホームズ達と合流する
2:ランスロットさんとお話をする
3:あまりゾンビの杖を振り過ぎないようにする
【ルヴァイド@サモンナイト2】
[状態]:ドンアク、レベル+1
[装備]:バルダーソード@タクティクスオウガ
[道具]:首輪探知機、支給品一式
[思考] 0:主催者の打倒
1:腕の重みが取れるまで休みつつハミルトンと情報交換
2:自分とカトリの知り合いと合流する
3:赤髪の女性(
アティ)、金髪の青年(
ラムザ)を探す
4:信用できる人物を探す
5:戦いを挑んでくる相手には容赦はしない
【備考】
ハミルトンのクリアランスでドンアクが解消するかもしれません。
時間経過のためそろそろドンアクが自然治癒してもおかしくない頃合です。
【共通備考】
回復魔法の効果が落ちていることを確認しました。
各々が異世界の住民の可能性が高いという話を聞きました。
どこに移動するかはまだ決めていません。
最終更新:2010年01月01日 23:07