Legion ◆imaTwclStk
夕暮れの中を連れ添う二つの影。
今にも日は沈みきり、いずれは闇が辺りを覆う。
だが、闇が訪れた所でこの二つの影は気にも留めはしないだろう。
互いの瞳の奥は既に闇よりも深く深遠へと沈むことを望んでいるのだから。
一人は、抑えきれぬ情欲へと抗い、深く沈み往く。
一人は、全てのしがらみを捨て、己が愛する者に捧げんが為。
その感情はお互いがお互いの肉体を欲していると言う点では重なるが、
決して交わることの無い感情。
求めれば失われ、離れれば戻らない。
だから二人は口を噤み、ただ支えあうように歩を進める。
目的の地に辿り着けば、いずれ理由は失われ、本能だけが其処に残る。
その先に在るものに堕落と絶望を感じながら。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
僕は恐怖を抱く。
何に?
自分自身に。
僕の望みは今にも霞と化して、新たな目的に掏りかえられてしまうかもしれない。
姉さんは多分、その望みを喜んで受け入れる。
今の僕と姉さんはここに連れて来られる前とは別のモノに変わろうとしているのだから。
消え入りそうになる自分の目的をしっかりと心に縫いとめる。
『ヴァレリアの再興』
その為だけに僕は在り、その先に僕は必要無い。
だけど、姉さんは違う。
国の為にその先も輝き続けなければならない。
そうでなければ犠牲になった兵士達、踏み躙られてきた民の想い、
夢の為に消えていった仲間の全てを裏切る事になる。
僕達が此処で関係してしまえば、例え、生きて戻れた所で姉さんは
『“英雄”と呼ばれた義弟と寝た王女』
と他国から蔑まれ、民も離れる。
そして全てが振り出しに戻ってしまう。
握り締めた拳から痛みと共に血が滲み出していく。
僕に寄り添うように支えられる姉さんがすぐに気づいて声を掛けてくる。
「大丈夫だよ、姉さん。 大した事じゃない、すぐに止まるよ」
拳を開き、軽く振る。
地面に数滴の血が墜ちていく。
「…そう。 それならいいの」
どこか沈んだ調子で姉さんは顔を伏せる。
「…ねぇ?」
僕に掴まる姉さんの腕に少しだけ力が篭る。
「何? 姉さん」
僕は前を見つめたまま視線は合わせない。
「私の事、避けてる?」
その瞬間、姉さんは僕の前に周り込み、僕の両肩を掴む。
「さっきからおかしいわよ、デニム!
私の方を見ようともしない!」
僕の身体を姉さんが揺さぶる。
「ち、違うんだ姉さん。 僕はただ…」
正面に捉えた姉さんの顔。
失血により白みを増した肌に不釣合いな赤い唇。
「僕は…」
艶やかに細い項、流れるような曲線を描く双丘。
「……」
僕は姉さんの両肩を押さえつけて、僕の元へと引き寄せる。
「デ、デニム?」
姉さんが驚いたかのように振舞っているが、違う。
自分の期待していたものが訪れる瞬間を待っているだけだ。
なら、与えてやればいい。
肉の悦びとやらを。
『――諸君、これから第一回目の放送を始める』
突発的に僕は姉さんの身体を離す。
偶然、いや、最初から定められていた『放送』というものが
僕の意識を引きずり戻す。
「何これ? これから聞こえるの?」
姉さんが首輪に手を掛けて、原理が分からずに困惑している。
姉さんの考えている通り、どうやらこの声は首輪から聞こえてくるようだ。
声は何の感情も表さずに淡々と事務的に要件だけを告げていく。
これよりの禁止区域に、それに今までの死亡者。
僕が持っている首輪の“元”所持者と先程の剣士、
それに姉さんが手に掛けた青年の3人の他に8人。
あの時の女性も助かりようが無かっただろうから呼ばれたのだろう。
あの人は僕に殺し合いを止めさせようと必死だったが、
死んだと考えても特に何の感慨も湧き上がらない。
あの時の一瞬の迷いも、最初から無かったかのように。
まるで僕の中から人の死というものに対しての認識が欠如し始めているかのようだ。
自分自身への困惑を深める僕を余所にして、
最後に声は優勝者に対しての褒美の可能性を示唆した。
死んだ者でも蘇らせられる。
そんな事は本当に可能なのか?
僕はそれを探求していた人物を2人知っている。
僕と同じくここにいる筈の屍術師
ニバス、それに覇王ドルガルア。
だが、この2名が行き着いた果ては人の身を捨てる事でしか人は蘇らせられないと実証している。
他の集められた者がその事までを理解しているのか、までは僕には関係の無い事だけれど。
だから、これはあくまで保険程度に考えていた方がいいだろう。
僕がすべき事は僕の身命を賭して姉さんを生還させる事。
その為に他の者は全て抹殺する。
僕の手は抵抗も出来ない無辜の民を殺戮したあの夜に既に洗い流せない程に血に染まっている。
今更、あと38人殺した所で大差は無い。
むしろ残り“たったの”38人だ、どこまで楽しんでいられるだろうか?
どうやら放送は終わったらしい。
姉さんは放送が終わった事で僕の先程の態度を思い出したようで、
どこかもじもじとしながらこちらの様子をしきりに覗っている。
最初は姉さんが何故そのような態度を取っているのか理解できなかったが
頭が冷めてくるに連れて自分がしようとした事を僕は思い出し、
自分自身への嫌悪感から、その場に思わず吐いた。
「デニム!? ちょっと、あなた大丈夫なの?」
さっきから姉さんに心配ばかりかけている。
頭の中は詫びたい気持ちで渦巻いているが口をついて出た言葉は、
「大丈夫だから、少し放っておいてくれ!」
近寄る姉さんを押し退ける様にして僕の身体は先へと行こうとする。
頭も、身体も、心さえもまるでバラバラで自分が制御できない。
僕に押し退けられ、よろめく姉さんの姿は僕からの拒絶を感じた事で
今にも消え入りそうな程に弱弱しく感じられる。
それでも姉さんは健気に僕の後をついて来る。
時間にしてみれば、ほんの一瞬。
だが、僕にしてみれば永劫に感じられた静寂が訪れた。
ただ黙って、すぐ其処まで見えてきた城へと僕は歩を進める。
あそこにさえ着いてしまえば何かこの空気を変える切欠が生まれるかもしれない。
俯いている姉さんの表情を明るくできればいいのだけれど。
そんな些細な願いを何で容易く叶えさせようとはしてくれないのか?
僕らが先程までいた方角から突然の轟音が鳴り響く。
距離から考えてもそう遠くは離れていないのではないだろうか、
少なくとも僕達がいた場所から少し離れた程度の距離。
そこまで轟音の主は近づいている。
あの轟音が何を意味するのかは分からないが警戒をしておいた方がいいだろう。
あの城に着けば暫しの安寧を得られるかもしれないと淡い期待も抱いていたが
一瞬にして泡沫と消えた。
だが、他に身を隠す場所も無い以上、一旦あそこに隠れるのが無難か。
あの轟音には城を崩す程の威力は無いと信じるしかない。
興味無さそうにというより無気力に音の方角を眺めていた姉さんの手を取り、僕は駆け出す。
近づく脅威への対抗の為、纏まりを欠いていた僕の心が初めて纏まっているのに僕は気づいた。
今のうちに言っておかないと。
「…ごめん、姉さん」
ぼそりと、小さく呟いた程度の僕の言葉だが、
力無く僕に手を引かれていた姉さんの手に微かに熱が戻る。
「…大丈夫、気にしてないわ」
これだけの事なのに、何故これ程に眩しく僕は感じてしまうのだろうか。
微笑む姉さんの顔を心に焼き付ける。
これが僕を繋ぎとめてくれるかもしれないと感じて。
“何”から僕を繋ぎとめておきたいのか、それも分からないと言うのに。
何者かの気配は今の所は感じられない。
僕らは急いで城門を潜り、バルコニーに飛び込む。
ただでさえ貧血を起こしている姉さんには短い疾走でも堪えたのか
明らかに辛そうにしている。
「姉さん…肩を貸すよ」
僕の提案をそれでも姉さんは僕に迷惑をかけまいと最初は断ろうとしたが、
倒れてしまえば逆に迷惑をかけると気づいて力無く頷く。
不思議と今は姉さんに煽情を抱く事も無く、
僕は姉さんを支えて寝室らしい場所へ入る事が出来た。
多分、使用人用の比較的小さな部屋だが衣装ダンス等も一通り揃っている。
これなら僕の血で汚れた服も姉さんの破けた服も取りあえずは換えられるだろう。
「姉さん、僕は外にいるから今のうちに服だけでも換えといてくれないかな?
その姿は僕でもちょっと目のやり場に困るから」
本当の所はそれ自体には大した影響は受けてはいない。
どちらかといえば目の前にいる女性に対して情欲を抱いていたといっていいと思う。
今は落ち着いているがそれでも取り合えずあまり煽る様な格好はされていたくない。
中で何かごそごそと物音が聞こえ、それが静まった頃に中から姉さんの呼ぶ声が聞こえた。
中に入った僕が見たベッドに座る姉さんの姿は正直な所あまり代わり映えは見られない黒衣。
あまり女性の衣装に詳しくはないがマントドレスと言うものだろうか?
「黒は姉さんのこだわり?」
僕の質問に姉さんも困った顔をする。
「そういう訳じゃないのよ、あなたも其処の箪笥を見てみれば分かるわ」
言われるがままに箪笥を開いてみて、納得がいく。
どれも異国の文化で作られたと思う衣服が収まっている。
そのうちの一つを手にとって見るが如何見ても下着にしか思えない
薄い良く伸び縮みする生地のそれは中央の部分に「ハサハ」と誰かの名前が書かれている。
ふと、疑問が頭を過ぎる。
それは明らかに異国の字だ。
それを僕は当たり前のように読んでいたが、字体は今始めてみた。
「姉さん、ちょっとこれに書いてある文字が読める」
僕はそれを姉さんの方に放る。
「何これ、下着? えっと、ハサハって書いてあるわね…エッ?」
姉さんも僕と同じ疑問に当たったらしい。
此処に連れて来られてから、
落ち着いて考えてみれば見たこともない衣装の人物を数人確認している。
それらの人物の言葉も僕は何の疑問も持たずに聞き分けていたが
それは本当に僕と同じ言葉だっただろうか?
可能性があるとするなら…
「これも、あの時の男が持っている力の一部かもしれない…」
僕らに殺し合いを強要し、先程も首輪を介して僕達に放送を行ったあの男。
正確にはあの男に後ろにいる何者かの力か?
円滑に殺し合いを進めさせる為だけに僕達にこのような大掛かりな術を仕込むとは。
もしくは自身の力を誇示し、抵抗の無意味さを示しているのかも知れない。
どちらにせよ、この首輪が無かったとしても一筋縄ではいかない相手では無い事だけは確かだ。
僕は血で汚れた上着を脱ぎ捨て、箪笥の中の比較的に僕でも分かる服を羽織る。
その間にも体力の限界が近づいているのか、姉さんは今にもベッドに倒れ込みそうになっている。
それを僕に迷惑をかけまいと気力で支えているのであろう姉さんを僕は抱きしめる。
「………えっ?」
僕の唐突な行動に姉さんは準備も出来ぬままに動揺している。
「姉さんは僕が守るから、だから…ごめん。
青き海に意識薄れ、沈み行く闇 深き静寂に意識閉ざす・・・ 夢邪睡符」
完全に油断していた姉さんはあっさりと僕の腕の中でゆっくりと眠りに堕ちた。
僕は姉さんをベッドに寝かせ、静かに部屋を出る。
そう、此処へは誰も近づけさせはしない。
先程の轟音の主もあの火事ではいずれ引き返してくるに違いない。
その時に今の姉さんではあの時の二の舞になる可能性が高い。
あの時?
それはいつの話だ?
頭がズキリと痛む。
そういえば僕は姉さんに何の術を使ったんだ?
“そんなことは如何でもいい事だ”
心の何処かでそんな声が聞こえた気がする。
そうだ、今はそんなことは如何でもいい事だ。
今、僕がすべき事は姉さんを守る為に此処に来るであろう者を
狩らなくては。
【C-6/城(寝室)/夜(
臨時放送前)】
【デニム=モウン@タクティクスオウガ】
[状態]:プロテス(セイブザクィーンの効果)、全身に打撲(軽症)
[装備]:セイブザクィーン@FFT 炎竜の剣@タクティクスオウガ、ゾディアックストーン・カプリコーン@FFT
[所持品]:支給品一式×3、壊れた槍、鋼の槍、
シノンの首輪、スカルマスク@タクティクスオウガ
[思考]:1:轟音の主(バッフェル)を迎撃する
2:C-6の城(
カチュア)に近づく者は誰であろうと殺害する
【カチュア@タクティクスオウガ】
[状態]:失血による貧血、睡眠。
[装備]:魔月の短剣@サモンナイト3
[道具]:支給品一式、ガラスのカボチャ@タクティクスオウガ
[思考]:睡眠状態につき、思考停止中。
[備考]:二人とも衣服を換えています。
カチュアはアズリアの私服(
イスラED参照)、
デニムは帝国軍軍服(サモンナイト3)に着替えています。
アドラメルクとの融合が人格に影響し始めています、
本人は気づいていませんが初級(ファイア程度)のFFTの魔法を行使し始めています。
最終更新:2011年01月28日 15:33