「冗談じゃないぜ…」
翼を広げ空を翔ける黒き翼を持つ者、鴉達の王と呼ばれるその男
ネサラが
この地に来て真っ先に発した言葉がこれである。
彼は女神による裁きを他の仲間(本来、他の者と組むのは嫌だったが)と
乗り越え、自分が導くべき国に帰還する事が出来た。
自らの民達の為とはいえ数多くの裏切りを繰り返した自分への遺恨は深く
順風満帆とは行きがたいが、それでも結果として国は救えたのだから
ここからたち直してゆけば云い、そう思っていた矢先の突然の召集である。
「チッ!殺し合いがさせたいのならスクリミルかティバーンでも連れて来ればいいだろうが…
何でよりにもよって俺をこんな物に参加させるんだか、やりたい奴は勝手にやってればいいだろうが。」
と、ぶつくさと文句を言いながらも彼は手ごろな隠れ場所を探していた。
彼の独白通り、彼はこのゲームに乗る気は全くなかった。
とりあえず適当に隠れてやり過ごし、状況が危なくなってきたらそのときに動けばいい。
いつの世でも血の気の多い好戦的な馬鹿はいる、24時間以内に哀れな犠牲者が出ない事も無いだろう。
今の状況で他人に構ってられるほど自分はお人好しではないのだから帰る方法だけを探せばいいさ。
それに参加者の中には見知った顔もいた。
あいつらならひょっとしたらこの状況を打破してくれるかもしれない、
その時にでも合流すればいい。
そんな事を考えながら、彼は空を翔けていた。
そこで彼は視界に入ったものを認め、その羽ばたきを一旦止めた。
「森か…ここなら俺なら誰にも見つからずにやり過ごせそうだな。」
ただでさえ視界が限定される森の中で彼は他の者より優れた点を持っている、その翼である。
空を飛べるという事はそれだけで他の者より高いアドバンテージがあるが、この森の中である
唯の人間には到達できないような場所にも自分なら容易に到達できる。
だからこそ他の者をやり過ごすならここは打ってつけの場所である、遥か上方にでもある
木にでも止まって、そこでこれから如何するか決めればいい。
しかし、彼の思惑はその目に留まったものにより失敗する事になる。
「先客か!…それにしては様子がおかしいな?」
彼の目に留まったもの、それはある少女の姿だった。
だが、その場から全く微動だにする事のないその様子をいぶかしみ、距離は置いたまま
改めて確認したものは少女ではなく、少女の形をした石の彫像であった。
何の知識の無い者にとっては、置いてあった場所だけがおかしいだけで
それが生きているものだとは思わないだろう。
しかし、彼にとってそれは憶えのある光景だった。
「これは…石にされているのか?だがアスタルテは確かに倒した筈、何故?……
だが、このままにしておく事もできないか、もしかしたら戻せるかもしれないしな。
確か
ミカヤもここにいた筈だ、アスタルテがまだ生きているのだとしたらユンヌの力で戻せるか?
……全く、他の奴と関わるのはごめんだと思っていたが、この場合は仕方が無いか…」
そう思い、その石像に手を伸ばそうとしたとき、その行為は突然の怒声により遮られる事になる。
「そこまでだ!魔物め……この俺が貴様を滅してくれる!」
「全く冗談ではないぞ!」
力強く地を駆けるその男、獅子王という異名をもつ者
リチャードが
この地に来て始めに呟いたのがこの言葉である。
彼は己が欲した女性を守るために一度はその身を投げ打ったが、女神の奇跡により
(今でも信じられないことだが)生き返ることが出来た。
彼が蘇った時、全ては決着していた。
自分の力ではない事が少々癪に障ったが結果的には己の欲した者は
遂に自分の妻になることを決意してくれたのだ。
ならば自分にそれ以上とやかく言うことは無い、全て上手くいくのである。
そう思っていたらこのざまである。
油断していたのかもしれない、自分がいつ連れ出されたのかすら憶えていないのだから。
獅子王とまで呼ばれた男がたった一人の訳も分からない男に無様に踊らされている。
そう思っていたからこそ彼は今の状況と自分の不甲斐なさに腹が立ち、戒めと怒りの言葉を呟いたのである。
「先ずは
ティーエだ。俺の妻となるべき者に他の無粋な者の手垢一つでも付けられることは絶対に許さん!
その次にあの思い出すだけで腹の立つふざけた男を俺の手で倒してくれよう!
…
リュナン達には借りがあるが、あいつらの事だ放って置いても大丈夫だろう。」
彼は自分の大切な者を守る為に行動していた。
真っ先に考えた事が自分の妻(まだ決まってはいないが)はどこかに隠れ
(なんとも傲慢な考え方だが)自分の助けを待っているに違いないと考え、
人が隠れていそうな場所を優先して探していた。
そこで目に付いたのが目の前の森である。
「…森か、もしかしたらティーエはここに隠れているかも知れんな。」
そう思い、鬱蒼と茂る森の中に足を踏み入れたとき彼は妙な光景を目にすることになる。
明らかに人とは思えぬ翼の生えた魔物が一つの少女の姿をかたどった石像に何やら呟いているのである。
(あれは何だ、何やら儀式でも行っているのか?)
見れば少女の石像はまるで今までそこで息をしていたかのような躍動感があり、
まるでさっきまで普通に動いていたのではないかとさえ思えてくるが
その顔はまるで助けを求めるかのような悲壮な表情をしている。
とりあえず状況は理解できないがそばの木に身を潜めて様子を窺う事にする。
「これ…石にされて…アスタ…倒した…な…このままに…できない…戻せる…」
(クソッ!遠すぎてよく聞こえんが、何やらあの石像に関係があるようだな…)
「ミカ…居た…まだ生きて…ユンヌの力…関わる…思って…仕方が無い…」
一通り何やら呟いていた魔物は突然、石像に手を伸ばし始めた、
状況はさっぱり掴めないが、もしかしたら邪神の儀式なのかもしれない。
このまま放っておけば取り返しの付かない事になるやもしれないし、相手はどう見ても人間ではない。
ならば結論は唯一つ、あの魔物を倒してしまえばいいのである。
彼は身を乗り出し、石像に手を伸ばしている魔物に威嚇をこめた怒声を張り上げる。
「そこまでだ!魔物め……この俺が貴様を滅してくれる!」
(この状況は一体、何なんだ?俺はこの娘をらしくないが助けようと思っていただけだ。
だが、突然現れたあの男は俺のことをよりにもよって魔物扱いした上に殺そうとしてやがる。
クソッ!らしくない事なんて最初からするべきじゃなかった。
その所為で訳も分からないままに命まで取られるってのかよ!…兎に角、この場は如何する!?)
そんな事を考えながらネサラは今の状況を如何するべきか迷っていた。
目の前には石にされたと思しき少女、その向こうにはどこに隠れていたのか
突然現れてこちらに攻撃する気満々の怪しい男。
ハッキリ言ってさっさとこの場から離れたいのだが目の前の少女を
そのままにしておくのも気が引けるのである。
迷うネサラに更にリチャードは告げる。
「何やら分からんが、その石像は貴様らの儀式に使うものらしいな。
其のままにしておく訳にもいかんな、貴様を倒した後にその石像も破壊してくれる!」
(何をどう勘違いしたら、そういった発想が出来るんだろうな?
だが、この手の奴には何を言っても聞いちゃくれないだろうしな、弁明は出来ないか…
まぁ、今ので俺の覚悟は決まったがな。)
男の奇妙な言動にあきれながらもネサラは一歩、少女の石像から離れて構えを取る。
「ほう?どうやらこの俺に倒される覚悟は出来たようだな、無駄に抵抗しなければ
苦しまずに済むようにしてやろう!」
闘志をむき出しにリチャードは自分の武器を構える。
(槍か、まずいな…上手くいくか?)
「さっきから黙ったままだな魔物め!だが汚らわしい声を聞かない分だけましか。
さぁ、行くぞ!」
踏み出そうとした男の間合いを外すようにネサラはリチャードに皮肉を浴びせる。
「生憎、俺の美声はあんたに聞かせるには惜しいんでね。」
ぴくりと少しリチャードの体が震えた、その後から凄まじいまでの怒気が伝わってくる。
リチャードの体がぐらりと一瞬揺れたかと思うと、神速と呼ぶにふさわしい速さでこちらとの距離を
詰めて雷光のような突きを自分に放っていた。
距離が離れていたのが幸いし、皮一枚でその突きをかわす事に成功するがその後の連携して放たれた払いを
かわしきれずに顔面にまともに受け横なぎに吹き飛ばされる。
「どうした?減らず口を叩けるようなのでその口を塞いでやったが、もしやこれで終わりではないだろうな?」
「ゴフッ…いや、あんたを正直見くびってたよ、ここまで出来るやつだとは思ってなかった。」
血を拭い、受けた傷の度合いを確認する、幸いというか顔が腫れそうな事と口の中が切れた事
意外は案外無事で済んだようだ。少し頭がくらくらするが動く事にも支障はないだろう。
「ふん!今更、何を言っても遅いがな。貴様はここで俺に倒される、それは絶対に変わらん!」
そう告げて、男は再び構えを取り直す。
「そりゃ、どうだろうな?俺は悪運が強いんでね。」
「まだ減らず口を叩けるようだな…すぐにでも何も喋れん様にしてやろう!」
言うや否や、再びリチャードは神速の速さでネサラに詰め寄る。
だが、
「それは一度見せてもらったんでね。今度は俺からいかせて貰う!」
男の繰り出す突きを空に逃れ、その姿を巨大な鴉に変化させる。
「それが貴様の本当の姿か!だが、この俺がこの程度で臆すると思うな!」
普通なら少しはひるむだろうところを全く臆することなく、男は巨大な痩躯の鴉に詰め取る。
だが、鴉は飛び掛るのではなく、その場で羽ばたき始めたのである。
いくら強靭な肉体を持っているリチャードでもその旋風にたじろぐ。
しかも詰め寄る瞬間にやられた為、視界を塞がれていたのである。
「しまった…目晦ましか!姑息な手を使う!」
旋風が吹き止み、再び目を開けたリチャードが見たものは最早、何も存在しない空間であった。
「に、逃げただと…一体なんだというのだここは!俺を不快にさせる為だけにあるのか!
クソッ!もういい、あいつなどどうでもいい!ティーエさえ見つければこの怒りも紛れる!」
怒りに体を震わせ獅子王と呼ばれるにふさわしい技量を持った男はその場を離れていく。
さっきまで其処にあった筈の石像の事すら頭に入らないほどの怒りを抱えながら。
それを遥か上方の木の上から見下ろしネサラは一息つく。
「やれやれスクリミルみたいな奴だな、ああいうのには極力、関わらないに限るな。
……しかし、らしくない事はやはりするべきじゃなかったな。
どうしたもんかな、これは?」
そう呟き、自分の手に抱かれる石の少女を見てネサラは溜息をついた。
【G-6/森/初日・午前】
【ネサラ@暁の女神】
[状態]:打撲(顔面に殴打痕)
[装備]:あやしい触手@魔界戦記ディスガイア
[道具]:支給品一式 清酒・龍殺し@サモンナイト2
[思考]1:ゲームを脱出する
2:これ(
ソノラ)を如何したもんか?
3:極力、他の人とつるむ気は無い
【リチャード@TS】
[状態]:健康 怒りによる興奮状態
[装備]:ヴォルケイトス@TO
[道具]:支給品一式
光の結界@暁の女神
[思考]1:ティーエの発見
2:
ヴォルマルフの打倒
3:魔物(ネサラ)はいずれ倒す
【ソノラ@サモンナイト3】
[状態]:石化中
[装備]:
石化銃@FFT(弾数6/6)
[道具]:支給品一式、弾丸(残り24、他の銃に利用可能かどうかは不明)
[思考]:……
[備考]:石化しているため、一切の思考・行動を行えません。
石化銃は彼女の右手に収まっていますが、右手も石化しているので回収は不可能です。
[備考]:両者ともエンディング後からの参戦です。
ネサラはソノラ(石化状態)を抱えています。
リチャードは今のところソノラを邪神の像の類だと思っています。
ヒスイの腕輪はG-6の森の中に落としてあるままです。
最終更新:2009年04月17日 08:56