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  • 集え勇者よ、不屈の翼に

テイルズオブバトルロワイアル@wiki

集え勇者よ、不屈の翼に

最終更新:2019年10月13日 17:41

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集え勇者よ、不屈の翼に


黒々と広がる地面は、まるで焦げ跡のように見えた。
この夜に散った、10もの命。それらが燃え尽きた、焦げ跡のように。
青き髪の智将の振るった、悠久の紫電。形なき深淵の邪神の放った、闇の激号。
ここに刻まれた黒き平原は…かつて城を支えていた地面は、ただただ佇む。
かの城は、果たしていくつもの命を呑み込んだのか。もはや数えることすら忌まわしい。
黒の大地は、そして今や朝日を浴びながら5人の命をここに有らしめていた。
ロイド・アーヴィング。
キール・ツァイベル。
ヴェイグ・リュングベル。
メルディ。
グリッド。
智将が描き、邪神が彩り、そして完成した舞台で…死神との舞踊を舞い切り、そして命を掴み取った者達。
誰一人として、五体満足と呼べる者はいなかった。
「…………」
メルディは、焦点のなかなか定まらない目で、ただただ虚空を眺めるのみ。
「ククィ…! クキュクィッキー!」(ご主人様…目ぇ覚ましてくれよ…!)
その傍らの小さな獣、クィッキーの鳴き声は、心なしか悲哀に濡れていた。
「クィッキー! クキュ!」(ほら、冗談の一つも言ってくれよ! …調子……狂っちまうじゃねえか)
それを眺めるキールは、たまらずに目を伏せた。無言のまま、自らの座る地面を眺める。
地図。名簿。そして、多くの情報を記載した羊皮紙の束。
そして地面に埋め込んだリバヴィウス鉱。この車座の中心の地面に設置し、水と氷の晶霊術をフリンジさせ広域に放射。
晶霊術「ナース」の媒体に用いている。
「…大体今の放送の情報の整理は終わった」
ネレイドに心をすり潰されたメルディ。あまりに痛々し過ぎて、無理にでも目を反らそうとする。
けれども同時に、それを見据えろと叫ぶ自分もいる。もどかしいまでの二律背反。
「これで、終わったんだよな…」
地面に横たわるロイド。
彼の右手にはキールのホーリィリングがはまり、その上からヴェイグの氷が添え木となり右手前腕部を凍らせ固定している。
更に、エクスフィアより引き出されるEXスキル「ライフアップ」を起動。肉体の再生能力を高め、それを右手に集中。
晶霊術「ナース」、ホーリィリング、ヴェイグのフォルス、そしてEXスキル「ライフアップ」。
ロイドの砕かれた右手は、四重の治療により、急速な再生を起こしている。
その他、全身各所に急ごしらえの包帯や、気休め程度に作られた膏薬を着けるロイドは、まさに重傷患者の様相を呈していた。
「ロイド、お前は今は治癒に専念しろ。
それでなくともお前は、すでに診療所に担ぎこまれて絶対安静を必要とするほどの重傷なんだ」
キールはロイドの傷を検分した際、思わず肝が冷えた。胸の傷などは、あと一寸深ければ確実に心の臓を貫いていた。
全くもって、意識を失わずに生きていられたのは奇跡としか言いようがない。
「…………」
そして、ロイドをここまで追いやった原因の一翼をになうヴェイグの表情は、ただただ冷たい後悔の念に満ちていた。
地面に横たわるロイドの姿を見るごとに、忸怩たる思いに身を刺される。
「しかしまあ、とうとうミクトランも気が狂ったみたいだな。
この俺たちの活躍が予想外に凄まじかったから、当てが外れて錯乱でもしたんだろうな!」
「グリッド。お前のそこまでの楽観的思考は、とてもではないが僕には真似できないな」
そして折れようと地に堕ちようとどれほどの死地を潜り抜けようと…
不屈の闘志と正義感を宿す漆黒の翼の長、グリッドはしかし即座にキールに釘を刺された。
「とにかく、これまでに手に入った情報を、緊急性の高い順番に整理しよう。
とにかく昨日は多くの事が一度に起き過ぎた。まとめるべき情報は、あまりにも多過ぎる。
話の腰を折らないように、質問や意見は話の流れを読んでやってくれよ。
必要があれば、各人に適宜証言を求めるから、そのときに発言を頼む」
「…ああ」
小さく頷いたロイド。
「頼む」
ヴェイグの返答は、ただ簡潔だった。
「よーし、ミクトランの野郎を今度こそ完膚なきまでにブチのめそうぜ!」
息巻くグリッドの様子を形容するには、まさに気炎万丈の言葉がふさわしかろう。
「クィッキーッ!!」(ああ。やられてばっかのこの状況、オレ達でひっくり返すぜ!!)
そしてキールの言葉の意味を知ってか知らずか、クィッキーも呼応する。
「…………はいな」
佇むメルディは、ただ濁った光を目に宿していた。

「それじゃあ、まずは今回の放送についてだ」
(それから口には出せないような話は、今まで通り筆談で行う。
変にボロが出るといけないから、誤魔化しきる自信のない奴は質問や意見をせず適当に相槌を打ってくれよ)
切り出したキールの言葉と共に、一同にその言葉が書かれた羊皮紙が提出される。
一同は、今度は無言で小さく首を縦に振った。
「まず、今回の死者についてまとめよう。
今回の死者は、ユアン、カトリーヌ、ジューダス、リアラ、ダオス、デミテル、ジェイ、スタン、ハロルド…
それから…」
キールはそこで、目をつぶった。自らを守り、命を散らせた腐れ縁の親友。大切な仲間を偲び、しばしの黙祷にふける。
「…リッドだ」
ロイドの目にも、ヴェイグの目にも、グリッドの目にも、痛みが走った。
多くの仲間がこの夜に散った。この会場をさまよう死神の撒き散らす、理不尽なまでに無差別な死。
その事実を改めて認識する一同。その場に、重苦しい空気が漂う。
「この内、僕らが曲がりなりにも真相を知っている死者は…
ユアン、カトリーヌ、ダオス、デミテル、ジェイ、スタン、ハロルド、リッドの8人。
ジューダスとやらの死の顛末は、ヴェイグの証言から推測なら出来る。
リアラって参加者の生き死にの顛末は分からないが、これでもかなり多くの情報を得ることが出来た。
まずは、ユアン、カトリーヌ、ハロルドの死について、それなりの知識のあるグリッド。お前から頼む」
「ああ。任せておけ!」
言うが早いか、グリッドの舌は即座に高速回転を始めた。
彼らが事件に遭ったのは、D5の山岳地帯。
島の中央に向かい、島の各地点への移動の布石を打つとともに、水を補給するためという目的のもとでの移動であった。
そこで、水から上がったエクスフィギュアに…シャーリィに襲撃された。
「彼女が、現在のところ判明しているマーダーの一人目だな」
「ああ」
「グリッドがトーマという牛人間から聞かされた、ミミー・ブレッド経由の証言と、僕が直接ジェイから聞いた証言は一致する。
それから、ロイドのしてくれたエクスフィア及びエクスフィギュアの証言も複合させると、こういうことになるな。
彼女の持つ能力は、ブレス系爪術という滄我の力を借り受けた強力な術。僕らの使う晶霊術と、ある面では似通っている。
それをクルシスの輝石という強化版エクスフィアで更に強化し、メガグランチャーとマシンガンという武装を持つ。
エクスフィギュア化していた時の経験を考えると、肉弾戦の心得も警戒した方がいいだろう。
更にはエクスフィギュア形態と人間形態の間で、自在に肉体を変質させることが出来る可能性もあるし、
更にグリッドの証言によれば、僕らの仲間であったフォッグの銃技『エレメンタルマスター』によく似た技も使える。
おそらく火力と汎用性の点で言えば、現在生き残っているマーダーの中でも最強と考えていい。
遠距離からの砲撃や晶霊術、接近戦における格闘…どの間合いから繰り出される攻撃も脅威的だ。
更に、彼女には僕と同じく術の高速詠唱の心得もあるらしいし、多少の打撃を受けても術詠唱を続行できる特性、
『鋼体』や、エクスフィアから引き出される特殊能力、『EXスキル』を体得している可能性すらある」
以上がキールのまとめた、シャーリィ・フェンネスのプロファイリングとなる。
「…反則じみた戦闘力だな」
ヴェイグはほんの一瞬、北の空に飛んでいく所のみを見たあの少女の姿を思い出し、コメントした。
「あの子が、エクスフィギュアになってるなんて…」
ロイドは1日目の夜、見かけたあの少女の目を今でも覚えている。
「だが、根拠は薄弱ながら弱点はなくもないんだろう? ロイド」
「ああ」
ロイドは背を大地に預けたまま、キールらにその事実を告げる。
「みんな、俺が左手に着けてる、このエクスフィアを見てくれ。左手の甲に着いた、この丸い結晶だ」
ロイドは、力の入らぬ左手を、少しばかり動かす。一同の視線は、そこに注がれた。
「この丸い結晶は、台座にはめ込まれているだろう?
この台座は『要の紋』っていう、エクスフィアの毒素を抑える『壁』みたいなものなんだ。
グリッド、シャーリィ着けてたっていう青いクルシスの輝石は、こんなものにはまらないで肌に直接着いていたんだろ?」
「そうだ。少なくともそんな物はなかった」
ロイドは我が意を得たりとばかり、グリッドの確認の上に話を続ける。
「エクスフィアにせよクルシスの輝石にせよ、この『要の紋』がないと、流れ出す毒素を制御できない。
その結果、直接エクスフィアをはめた人間は毒素に冒され、エクスフィアを無理やり剥がされることでエクスフィギュアになる。
グリッドが見た、棘のないサボテンみたいな巨人になるんだ。
シャーリィがその戦いの最中、エクスフィギュア形態から人間形態に戻ったって事は――」
「戦いの最中か、もしくは戦いの以前にシャーリィはエクスフィアの毒素に対する免疫を、何らかの形で得ていたことになる」
今度はロイドの話を、キールが結論付けた。だが、その結論にロイドは得心がいかない。
「でも、要の紋なしで人間がエクスフィアの毒素に耐えるなんてあり得ない!
俺達の世界じゃ、ボルトマン術書って本に書かれた術以外じゃ、エクスフィギュアになった人間を戻すことは出来ないんだ。
俺の先生だったリフィルって人も、それからエンジェルス計画に携わってきた父さんも言っていた。
そもそも人間の体は、エクスフィアの毒素を自力で浄化できるようにはなっていないんだ、って…」
「でもそれは、ロイド達のいた世界での話だ」
ロイドの反論を、そこでキールは切り返した。
「これもジェイからもらった情報なんだが…
彼女の住んでいた世界では、彼女は『メルネス』という海の神に仕える巫女で、強大な力を秘めていたらしい。
信じられないんだが、それこそ世界の大陸を丸ごと海の下に没させるほどの、な。
その海の神とやらからの加護で、エクスフィアの毒素を抑えられるということも、想定しておいていい。
そもそも彼女の操る爪術は、その海の神…滄我の加護を力の源としている。
これはジェイの証言なんだが、理由は分からないがどうやらこの島にも、その滄我とやらの力は及んでいるらしいんだ」
「だとするなら…」
ロイドにとってはにわかには信じ難い話だが…
エクスフィアの毒素に要の紋なしで耐えうるならば。エクスフィアを用いて強化された敵への対策は一つ。
「エクスフィアを抉り出して、戦力の弱体化を狙うしかない」
ロイドは言う。
「けれども、それも成功するか分からないんだろ、グリッド?」
「ああ。あのシャーリィの着けたエクスフィアってのは…」
エネルギーを一点に凝縮させ、ユアンが命と引き換えに撃った『スパークウェブ』を直撃させてすら、破壊できなかった。
グリッドは、昨晩凄絶な最期を迎えたユアンの、決死の策の結果をその目で見届けたのだ。
「シャーリィはジーニアスや先生の『フォースフィールド』みたいな防御技も使えるのかもしれないのか…」
「…つまり、現状下では考えうる弱点は一つきりで、しかもその弱点も本当に弱点であるか確証はできない。
せめてもの救いは、ジェイによれば彼女は戦略・戦術には疎いことか。
だが彼女は、外交官という人間同士の駆け引きを必要とする仕事に就いていたことを考えると、
この島での戦いで、感覚的に戦略・戦術を学習した可能性もある。できれば頭脳戦も回避したいところだ。
つまり、シャーリィ・フェンネスに対しては、現状では有効な対策はない。可能な限り交戦を避けたい相手だな。
強いて言うなら、彼女がこちらに気付く前にこちらから大火力の術技をお見舞いして、反撃の隙を与えない内に瞬殺。
さもなくば他の参加者と潰し合ってもらって、消耗したところに波状攻撃。
この二択だな」
あれこれ理屈をこねくり回して、出た結論がこれか。キールは情けない結論に、思わずため息が出そうになる。
「ただ、いい知らせもある。
おそらく彼女は、昨晩の時点で最も危険な切り札である『クライマックスモード』を切ってくれたことだ」
昨晩、ネレイドとの交戦中に感じた、西からの強大な晶霊力の奔流。
それは、ジェイが一度限り試し打ちしてくれた、あの最大の切り札の放つそれに酷似していたのだ。
「『クライマックスモード』は、端的に言えば術者の周囲に絶対領域を形成し、その中に敵を封じ込める奥義だ。
これは晶霊術と違って詠唱は不要。使用者に意識があるうちなら、ほぼ発動の妨害は不可能。
使われたら、僕らはその時点で全滅が確定する…はずだった技だ」
(…ジェイが使った、あの技か)
ヴェイグは痛みと共に、その記憶を思い出した。
あの技がどれほど脅威的か…恐るべき技かは、実際にそれを受けた彼自身、よく分かっている。
ヴェイグの回想。その間にも、キールの言葉は紡がれる。

「これはヴェイグとグリッドの証言と、僕が感じたクライマックスモードの波動、そしてそれらの時間軸からの推理だ。
この推測に至った筋道や証言元の注記は割愛するが、とにかく昨日D5には、グリッド達と牛のガジュマであるトーマ…
それからヴェイグと、ヴェイグに付き従っていたという桃色の髪の女ハロルド。この順で参加者が訪れた」
「そしてその前後で…プリムラがあまりの恐怖に錯乱して…」
「…マーダーとなり、シャーリィがユアンと戦っているのと並行して、カトリーヌを殺した」
グリッドの合いの手を話に組み込んだキール。
プリムラの名を呼ばれ、痛ましげに目を細めた。
カトリーヌの名を呼ぶその声が、僅かに震えた。
彼女らとはそれこそ血より濃い絆を結んだ仲というわけではないが、全くの赤の他人ではない。
知人同士までもが、醜い殺し合いを強要されるとは。
確かに彼女らは戦慣れしていないとは言え…だからと言って、
殺人行為に手を染めたことを、あっさり受け入れることなどできようものか。
「…ここで一応プリムラにも触れておくべきか。
プリムラ・ロッソはグリッドの言う通り、シャーリィとユアンの戦いのあまりの凄惨さに、耐え切れずに発狂してしまった。
彼女が現状下でこの島に生き残る、2人目のマーダーだ。現在のところ、消息は不明。
彼女は不意打ちでヴェイグに重傷を負わせたことは事実だが、グリッドによればもともと彼女は戦い慣れしていない一般人。
不意打ちや罠にさえ注意していれば、シャーリィなんかに比べれば危険度は低い。
肉弾戦を挑まれても、僕でも何とか撃破はできるはずだ」
キールは本来、剣を取り戦う力は持ちえていないが、長い旅の間には、乱戦に持ち込まれて肉弾戦を強要されたこともある。
晶霊術なしでも、よって一般人相手ならそうそう遅れを取ることはないのだ。
戦慣れしていない一般人と、巨大な怪物と。格闘戦を挑まれてどちらがより恐ろしいか。説明には及ぶまい。
「それから、3人目のマーダー…リオン・マグナスについても触れておきたい。ヴェイグ、頼めるか?」
「分かった」
ヴェイグは、キールの言葉にそう返して続ける。
「これはソーディアン・ディムロスと…それからジューダスから聞いた話なんだが…
リオン・マグナスはソーディアンマスターという、意志を持つ剣の使い手らしい。
彼の手にする剣は、ソーディアン・シャルティエ。
地属性と闇属性の、晶術という術を操り、しかも本人はそれに負けない様々な剣技を習得している」
「…父さんやゼロスみたいな、魔剣士ってわけだな」
ロイドは言った。
「おまけに奴は、『空襲剣』のような厄介な技を体得している。敵陣に突撃しながら、前衛後衛をまとめて撫で切りにする技だ。
特にキールは、晶霊術の行使を妨害されないよう、リオンと大きく間合いを離して戦わねば危険だ。
ついでに言うなら、リオンはかなりの切れ者でちょっとしたハッタリや牽制は通用しないらしい。
…奴はジューダスと正面から戦って、時間軸を考慮すれば、おそらくはジューダスを倒した張本人だ。
総合的な戦闘力はかなりのものと言えるだろう」
ロイドもそのヴェイグの言葉で、リオンの脅威をはっきりと認識できる。
この島に来て始めて出会った参加者であるジューダス。
彼ほどの練達の剣士を葬るほどの腕前、決して侮ることは出来ない。
そして、キールはヴェイグの結論を待って、本筋を再開する。
「…話を戻そう。
グリッドはG3の洞窟に向かうためにこちらに来て、D5からは離脱したから推測するしかないんだが、
おそらく紆余曲折あって、そのハロルドという女は単騎でシャーリィを相手取ることにした。
そのときシャーリィも一度戦闘し、疲労していたと踏んで、単騎でも勝てると考えたんだろうな。
彼女はもともと軍人だったようだし、何らかの策もあったはずだ。そして――」
シャーリィのクライマックスモードを受け、あえなく斃れ去った。
「ハロルドが単騎でシャーリィに挑んだと推理した論拠は簡単だ。
D5の面々の中で、死者がハロルドしかいなかったから。もしD5の面々が総出でシャーリィを迎撃していたら…
おそらく全員まとめて、クライマックスモードで葬られていただろうから、今日の放送で呼ばれる人数が増えていたはずだ」
シャーリィ撃破のためには、彼女はもうクライマックスモードを撃てないことは不幸中の幸い。
ジェイにも聞いたが、この島でクライマックスモードを撃つには、約1日半…36時間の「溜め」が必要となるらしい。
よって、単純計算では次に彼女がクライマックスモードを撃てるようになるのは、明日の午前9時以降。
誤差や不確定要素を考慮すれば、第6回放送前までがクライマックスモードを再び発動しないというとりあえずの安全圏になる。
「…以上、シャーリィ・フェンネス、プリムラ・ロッソ、リオン・マグナスという3人のマーダーへの分析と併せた、
昨日の島の東側の戦いの顛末だ。
今度は、クレス・アルベイン、ティトレイ・クロウ、ミトス・ユグドラシルの3人のマーダー対策、
および島の西側の戦況…これについてまとめる」
キールは、グリッドがD5で補給してくれた水を、皮袋から一口飲み喉を潤す。
食料や水は、もうほとんど底をついている。それに関しても対策が必要だと、キールは水を飲みながら考えた。
「E2の戦況について触れる際は、まず何よりデミテルの存在を欠かすことは出来ない。
クレスとティトレイの2人はこのデミテルの配下でもあったわけだし…」
その時、ヴェイグからキールに飛ぶ、一筋の視線。
前言撤回を要請する目配せだとキールは悟った。しかしヴェイグはすぐさま自らにその権利がないことを思い出し目を伏せる。
「…E2のあの混戦の絵を描き、挙句の果てに僕らを纏めて抹殺しようとした、最悪の立役者だからな」
キールは一旦、話をそこで締めくくる。
「フォルスで栽培されたアブラナの茎やら何やらの様々な証拠で、すでに明白になっていることだが…
デミテルはC3の村の時点から、僕らを葬る策を縦横無尽に張り巡らせていたらしい。
僕らがあえて松明を灯しながらE2城に向かおうとした時点で、デミテルは僕らをE2城で葬るつもりだったらしいな。
昨晩デミテルがここで組み立てた策の全容は、こんなところだ。
僕らがE2城に到着した時点で、ここは僕ら対スタン・カイル組対ダオス対クレス…すなわちデミテル組…
その四つ巴になっていた。
おそらくデミテルは事前にこの城を、ハーフエルフの瞳で以って偵察し、そこでこの作戦を編み出したんだろう。
スタン・カイル組からすれば僕らは遭遇時点で敵味方不明の灰色の勢力。
それを見てデミテルは、スタン・カイル組からしてみればやはり未知の相手であってクレスをけしかけ、
乱入させることでスタン・カイル組の疑心暗鬼をかき立てた。
更にそこに乱入して来たのが後発のダオス。この時点でここは完全な乱戦状態に。
ここにネレイドまでが乱入してきて最終的にはここは五つ巴の戦場になったわけだ」
「聞いてて頭が痛くなるぜ…」
ロイドは顔を軽くしかめた。
シルヴァラントとテセアラを旅していた頃、自身らとクルシスとレネゲイドとの、三つ巴の戦いでもすでに降参。
今回は五つ巴と来れば、すでに理解の努力を放棄したい欲求に駆られる。
だが、ロイドの頭痛を尻目に、キールの話は淡々と続いていった。
「この混戦状況を生み出し、僕らをここに釘付けにしたデミテルは、それを絶好の機と見て、とある策を実行する。
それが…魔杖ケイオスハート…でよかったっけか、ロイド?」
「ああ。魔杖ケイオスハート。倒した敵の命を吸収して、無限にその魔力を高めるとんでもねえ杖だ。
アビシオンて奴を倒した後、リフィル先生がちょくちょく使っていた武器だぜ。
…あんな特大の花火をぶっ放したくらいなんだから、
多分もう多くの命を吸収した時点のケイオスハートが、ここに送られたんだろうな」
一同はその話を聞いて、思わず背筋に冷たいものが駆け上がるのを禁じえない。
「いくら秘奥義と秘奥義のユニゾン・アタックったって…」
「ああ。たった2人の人間が、並みの艦載用晶霊砲の破壊力を軽く凌駕する一撃を繰り出した…
それほどまでにあの魔杖の魔力の増幅力は桁外れってことだ」
「そもそも、秘奥義と秘奥義でユニゾン・アタックなんて考え自体、無茶苦茶だよな」
ロイドが切り出し、キールが繋げ、そして最後にはまたロイドが結ぶ。
「…確かに、あの一撃は『サウザンドブレイバー』にしても異常過ぎる破壊力だったな。
あれが直撃していたら、冗談抜きに城でも丸ごと吹き飛ばせていただろう」
ヴェイグは一言、そう付け加えた。
「本来なら僕らはそこで、全員が命を失っていた。デミテルの手駒のクレスもろともにな。
けれどもここで、僕らはギリギリのところで…複数の僥倖が重なって、命拾いできた。
正直、今なら僕は心の底からセイファートに感謝の祈りを捧げられそうだ」
キールは、広げた地図を両手で指す。右手人差し指はE3に。左手人差し指はD2に。
二本の指はつつと動き、E2でぶつかり合う。
「東のデミテルと、北のネレイドが結果的には互いに魔力の大半を削り合ってくれたことだ。
『サウザンドブレイバー』は『インデグネイション』すら軽く凌駕する威力の雷を発射する。
一度発射されたら、どんな剣士でさえ絶対に回避不可能はほどの超高速で。
だが、その射角を変えてくれたのが、たまたまデミテルと遭遇したヴェイグとグリッド。
2人がティトレイに心理的揺さぶりをかけてくれたお陰で、『サウザンドブレイバー』は直撃の軌道を外れてくれたんだ」
「そのくらい、この漆黒の翼の団長にかかればたやすいことだ!」
誇らしげに言うグリッドに、
「グリッド。お前がキール達の救世主であることは認めるが、いくらなんでもその言い方は不謹慎だ。
…その後のことを考えて言っているのか」
ヴェイグは一瞬、真剣な怒りを向ける。グリッドはあえなく、萎縮してしまった。
「…まあ…その、なんだ、キール、続けてくれよ」
「…ああ」
場に流れる気まずい空気。キールはつとめて淡々と、話を進める。
「そして僕達に起こった僥倖の二つ目。
それはネレイドの発現させた闇の極光の力を、その時半覚醒状態だったメルディが、力ずくで支配権を奪い返し放ったこと。
『サウザンドブレイバー』と闇の極光は互いにぶつかり合い、
結局僕らは無傷のままで2人のマーダーの戦闘力の大半を奪い去ったんだ。
すなわち、ジェイが言ってた最高のシナリオ…ネレイドとデミテルの…マーダー同士の潰し合いで、
僕らは漁夫の利を手にして生き延びた」
「…だが、その『漁夫の利』を得るために払わされた代償も、また大きいな…」
ヴェイグの吐く悲哀の吐息は、震えている。キールは長く伸ばした青髪をかき上げながら、ヴェイグに倣った。
「結果として、デミテルとネレイドいう危険なマーダー2人の排除には成功し、メルディも救出できた。
だがデミテルに辛勝したダオスはティトレイにより殺害され、もう1人の配下のクレスはスタン・エルロンを殺害。
そしてネレイドを撃破出来たとは言え、リッドはネレイドと刺し違えた形になり、メルディは心をすり潰され」
「そして俺は、心を鬼にしてティトレイの死を静観出来なかったがために、結果としてジェイを殺してしまった。
挙句の果てにはフォルスを暴走させ、グリッドとロイドをあわやというところで殺してしまうところだった…」
ヴェイグは、うなだれた。
「そして俺は、それ以前に1人…ルーティ・カトレットという女性を殺してしまった。
カレギア国法に照らし合わせれば、俺は間違いなく死刑囚だ。
…俺はロイドやグリッドや…それに何よりジェイやルーティに、何と詫びていいのか…」
ヴェイグは両手で、自身のアイスブルーの髪を握り潰した。傍目に見る者が痛々しいほど、良心の呵責に苛まれながら。
ロイドは天を仰ぐ。おもむろに、その目をつぶりながらヴェイグに言い放つ。
「…もういいぜ。ヴェイグ。お前はさっき…キールが来る直前に、あんなに辛そうな顔をして俺に謝ってくれただろ?
もしお前がジェイを殺して、反省の言葉を口にしなかったら、俺はヴェイグを許せなかったかも知れない。
けれど、お前は今そうして、自分がやったことを省みているだろ?
俺はジェイじゃないから何とも言えないけれど、ジェイはきっと許してくれると思うぜ。
それに、ジェイはヴェイグが診てくれた時点で、心臓の近くの血管が破れてたんだろ?
その状態でクライマックスモードを使ってティトレイに特攻したんだ。
ジェイは多分…その時死ぬ覚悟は出来ていたんじゃないか?」
ロイドはふと思い出す。
絶海牧場でロディルの罠にはめられた際、自らの命を捨て石にして自分達を逃がしてくれたボータのことを。
ユアンの忠実な部下であった、あの男のことを。
最後に見たボータの瞳の、壮絶な色合いのことを。
ティトレイに特攻したジェイも、あんな目をしていたのだろうか。ロイドは、ふと思う。
「それでも、俺がジェイに止めを刺してしまった事実は変わらない」
「それなら、ヴェイグがジェイを殺すところまで、デミテルって奴が仕組んだ策略だったって思っとけばいいさ。
あいつはC3の村で俺達を焼き殺しかけた上、二度目は配下にしたクレスまで巻き添えにして俺達を一網打尽にしようとした。
ジェイから又聞きしたダオスの話だと、あいつは最初(はな)っから良心なんてかけらも持ち合わせてなかった、
考えようによっちゃミトス以下のクソ野郎だったんだぜ?」
そして結局、ロイドはミトスの良心を目覚めさせることの出来ぬまま、ミトスを討つ事になった。記憶に新しい。
「…こんな状況じゃそのくらいの逆恨み、やったって誰も非難はしねえよ。
俺にだって、そんなことは出来な」
「うるさい!!」
ヴェイグはとうとう、激した。
「実際にジェイに手をかけていないお前なんかに、俺の何が分かる!!?」
「ふざけろ!!」
今度はロイドが、その鳶色の髪の毛を逆立てる。怒りの言葉が、吹き上がる。
「仲間に向かってそんな言葉、チャラチャラ口にすんじゃねえ!!
俺は1人で何でもかんでも溜め込んで、それで勝手に潰れる奴が一番嫌いなんだ!!!」
そう。それゆえに、一度ロイドは大切な仲間を失いかけた。繁栄世界の神子たる、赤髪の優男を。
怒りの声をぶつけるロイドの、あまりの剣幕にヴェイグは思わず言葉を失う。
「…ヴェイグは、確かに大切な友達だったティトレイが死ぬところを、みすみす見過ごすことは出来なかった。
だからと言って、誰もヴェイグのことをクズ呼ばわりはしねえよ。
俺だってその時ヴェイグの立場にいて、コレットが目の前で人殺しになってたら、ヴェイグと同じ事をしていたかも知れない。
それは、人間が持つ当たり前の気持ちからすれば、当然だろ?
どんなに相手の心が変わったって、自分まであっさり心を変えられないのは当然だろ?
だから、ヴェイグがジェイを殺したことは、誰にも責めらないさ。
法律はヴェイグの人殺しを罰することは出来るけど、
その時感じた、『ティトレイに死んでほしくない』って気持ちは、誰にも罰することは出来ない。
罰しなきゃならないとしたら、ティトレイをそこまでめちゃくちゃに壊して…
結果的にジェイを殺させるまでにヴェイグを追い詰めたデミテルだ」
「…………」
ヴェイグは、肩を震わせる。
あまりにも多くの感情がない交ぜになりすぎて、もはや在りようを推すことも出来ない心を持て余して。
「な? …ヴェイグにはデミテルを恨む権利がある。ジェイを死に追いやったデミテルを、憎む権利がある」
ロイドは、今度はヴェイグを諭すように、ヴェイグに一言一言を投げかける。
「確かにこれは屁理屈と言えばそれまでかもしれないが、今は屁理屈で心を支えるんだ。
もともと人間の心なんて、屁理屈だらけなものさ。その屁理屈だらけの心が、人間を人間にしている。
ミンツ大学の哲学の講義で、そんな事を言った先生がいる」
この手の話にしては珍しく、キールまでもが口を開く。
「…済まない」
ヴェイグは、たっぷりと間をとって答える。
「……済まない………」
か細く、聞くのもやっとな、その声。
ヴェイグの言葉は、静かな感情に濡れそぼっていた。
「…………」
ぽたり。ぽたり。
彼の顎から、静かに雫がほどけ落ちる。
命のやり取りをするからと。
誰かを踏みにじらねば、自分が踏みにじられると。
そう思い凍らせて来た、想い。
それが、一気に吹き出てきたように、ヴェイグの涙は止まらなかった。
感じる。清らかな力を。水の温もりを。
今の今まで忘れ去っていた、負の気持ちを払うその力。
水の聖獣・シャオルーンの力。
確かに、この会場では甘ちゃんは真っ先に死ぬかもしれない。
みんな揃って仲良しこよしなど、サレあたりなら真っ先に嘲笑されていたかもしれない。
だが、ヴェイグにはある。
「甘ちゃん」でなければ、使えない力が。
シャオルーンの力が。
邪念を滅する、その力が。
流れる涙が、凍り付く。
フォルスの暴走ではない。
再び目を出した、シャオルーンの力…シャオルーンの心が喜びに震えているように、ヴェイグは感じる。
今凍らせるべきは、人としてあるべき心ではない。
己の涙。
マーダー達。
「…済まない。取り乱した。話を、続けてくれ」
そして、現実から目を反らそうとする、心の弱さ。ヴェイグが凍らせるべきものは、ただその一点。
キールは、一つうなずいた。
「ああ。今度はクレス・アルベインとティトレイ・クロウ。この2人のマーダーの対策だな。
まずは、クレス・アルベイン。
こいつはC3の村でも現れ、マーテルを殺した張本人。
ダオスによると、本来は魔力でなければ傷付けられない相手をも傷付けるという剣技の使い手。
ロイドが戦った時の話だと、相当に系統だった太刀筋だったんだろ?」
「そうだな。…完璧に我流で鍛えた俺の剣技とは、まるで正反対の太刀筋だった。
おまけにあの太刀筋は、人を殺すことに躊躇を抱いていない人間のもの…。
あいつの正体は、ミズホの里かなんかで密かに鍛えられた、殺人剣士か何かかも知れねえ」
ロイドは評する。
あの時見たクレスの目。
まるで人間を殺すことを、家畜を屠殺するほどにも感じない…否。そんな生温いものではない。
人を殺すことに快感を覚える、さしずめ人間を見るときのマグニスの目。
下手をすれば、マグニス以上に残虐な目つきだった。
戦慣れしていない人間なら、睨まれるだけで恐怖にすくみ上がってしまうであろう、地獄の悪鬼の目。
「…それにしても、そのクレスって奴も全く冗談じみた戦闘力だな。
入れ替わり立ち代りとは言え、ロイド、スタン、カイルの3人がかりを相手にしても互角の戦いを見せた…
いや、小技による撹乱や、対多人数戦を想定した牽制攻撃のような小細工抜きの力押しだけで、
スタンを殺害しロイドをここまで追い詰めたんだから、圧勝というべきだろう。
そしてカイルが現在ソーディアン・ディムロスと共に行方不明になっていることを考えると、
僕らの情報源の遮断を狙った口封じ目的なら、まさにピンポイントだな」
そして、スタンをピンポイントで狙ったことすらも、クレスを遣わしたデミテルの計算の一環である可能性は高い。
全くもって、デミテルの蛇や狐のようなずる賢さに、キールは舌を巻く思いである。
「とにかく、人を殺すことに全く躊躇のないこともあいまって、クレスの戦闘力はとてつもないレベルだ。
おそらく真っ向から勝負を挑めば、まず勝ち目はない。接近戦能力だけ見れば、おそらくシャーリィすらも上回る」
「おまけに、あいつはもとの剣技に、更にオリジンの能力を織り交ぜたとんでもない技…時空剣技を使ってくる。
そんな奴に…俺はエターナルソードを奪われちまったんだ!」
そのことについては、もはや後悔などという生易しい念では片付けられないほどの大失策。
これ以降の戦いでも、確実に要となるエターナルソードを奪われ、しかも奪われた相手はよりにもよって時空剣士。
敵に塩どころか、フレアボトルとハードボトルとエリクシールを合わせて送ってしまったようなものである。
(とりあえず、今はエターナルソードの運用法は横において、単純なクレス対策の話のみを続ける。
エターナルソードの運用法もきわめて重要だが、緊急性は低いからな)
キールは羊皮紙に記し、一同に見せた。全員が、そのキールの言葉を沈黙のうちに承認する。
「とにかくクレスの使う時空剣技は、どれもこれも危険過ぎる。
ロイドが見た時空剣技は、以下の3つ。
刀身に時空の力を纏わせ、極めて長大なエネルギーの刃を振りかざし敵を両断する『次元斬』。
瞬間移動で敵の目をくらまし、頭上からの不意打ちで脳天から敵を串刺しにする『空間翔転移』。
自らの周囲に時空のエネルギーの渦を展開し、更に投網の用に広がるエネルギーを前方に投射する、攻防一体の『虚空蒼破斬』。
どれも大味ながら、一撃必殺の威力を秘めている。
特に『空間翔転移』は、原則は頭上からの攻撃とは言え、攻撃の軌道が読みにくい。
そして、時空剣技なしでも、彼の従来の剣技の冴えは凄まじい。
純粋な剣士としての技量で正面勝負したら…」
「…ああ。俺はおそらく、九分九厘…いや、確実に負ける。
あいつは俺と戦っている最中、途中からほとんど時空剣技のみで攻めて来た。
多分小技でかき乱さなくても、俺相手なら大味の時空剣技だけでゴリ押し、でも勝てると踏んだからだろうな。
つまりクレスは、あれだけ凄まじい戦いぶりを見せて、それでもまだ本気を出していなかった。
…俺は一太刀もあいつに浴びせる事が…出来なかった」
すなわち、クレスはロイドに本気でなくとも勝てると宣告を突きつけたようなものである。
ロイドは、己の慢心を悔いるようにして、結論を持ってきた。
世の中には、あれほどまでの剣技を体得している人間がいたとは。
トレントの森で父と勝負したとき、ロイドは己の剣の自信を実力で裏打ちした。
それまで越えるべき壁であったクラトスを…剣にかけて言えば4000年の長のある父を、打ち負かした。
だがクレスの剣の冴えは、その4000年の練磨を経た父のそれさえも凌駕する。
クレスは、今やロイドが知る中でも最強の剣士の名を冠するにふさわしかろう。
「クレスの剣術の引き出しの量がどれほどのものかは分からないが、とにかく警戒してし過ぎることはない。
そしておそらくは、クレスは相手の剣術を見切ることにかけても、腕前は一級品だろう。
クレスはその時戦っていたスタンの大技…『殺劇舞荒剣』を見るや、それを瞬時に見切って同じ技を返した。
しかも、もとの技に更なる改良を加えてな。
おそらく彼の習得していた剣技にも似た技があったから出来た荒業なんだろうが、その分を差し引いても、
クレスの剣の才能は異常過ぎるほど。まさに、剣士になるためだけに生まれてきたかのようだ」
「…俺達が今後相手にしなければならないのは、どいつもこいつも化け物ということか…」
諦めきったようにヴェイグは言ったが、すぐさまそれも道理と自ら得心する。
『生き残っている連中が化け物ばかり』、という言い方は正しくない。
『化け物じみた戦闘力を持っているからこそ』、彼らはこの島の生存競争を生き延びてきたのだ。
弱者をふるい落とせば、残るはただ強者のみ。当然の論理である。
「だが、クレスも全く攻略の手がないわけじゃないんだろう、ロイド?」
「ああ。みんな、これを見てくれ」
ロイドは、今度は左手にムメイブレードの片割れを握り締めた。今は亡き、リッドの形見。
その形見に、突如青白い光が宿った。一同の顔に、驚愕が走る。
「…こいつをどう思う?」
「…凄く…時空剣技です……」
「茶化した言い方は止めろ、グリッド」
ヴェイグは寸鉄人を刺すがごとくに、グリッドに叱責を浴びせる。
だが、とにもかくにも、その事実には変わりはない。ムメイブレードに宿った、その光は。
「しかしこれは…その時空…剣技とやら…なのか?」
ヴェイグは確かめるように、ロイドに聞く。
「ああ。あいつの時空剣技は、さんざん見せ付けられたからな。俺も、あいつの剣技を見切り返してやった、ってわけさ」
「これが、クレスを倒すための糸口だ」
キールは一同に言う。
「ロイドはクレスの時空剣技をすでに見切ってくれている。
ロイドがクレスと戦えば、時空剣技は何とか耐えられるだろう。更にありがたいことには、ロイドの剣は我流。
僕も以前ファラから聞いた事があるんだが…
剣術にせよ拳術にせよ、他流試合の際は他流派の動きを知っているかどうかで、その試合の勝敗はかなり左右されるらしい。
クレスの剣の実力からすれば、彼は一度戦った流派の動きならほとんど見切ってかかるだろうし、他流派の知識も豊富だろう。
だが、ロイドの剣は完全に我流」
「強いて言うなら、アーヴィング流かな」
ロイドは冗談めかして、コメントする。
「俺はまだクレス相手に、技の全ては見せていない。
俺は我流でやってきたから変な技だってあるけど…
だからクレスにどんなに他流派の知識があっても、見破られる危険は少ないはず。
俺だって、クレスの使う流派の動きは完全には見切れてないけど、それでもクレスの使う剣技は系統だった流派。
どんな動きにも、共通する独特の癖があるはずさ。
4000年前、ある騎士団に所属して、系統だった剣技を習得した父さん相手にだって、それを利用して勝ったんだ。
けれども俺の剣には、そんなどの技にも共通する癖がないみたいなんだ」
それこそが、ロイドの剣の強み。
筋道だっておらず混沌としているが、それゆえに変幻自在。それゆえに無形。
ロイドが「力」の剣技の極致である「猛虎豪破斬」と、「技」の剣技の極致である「斬光時雨」を同時に体得している理由…
それこそが、無形の剣法。
まともな流派なら同時には学ぶことのない技を、同時に学んでいるのだ。矛盾を、矛盾として存在させない。

「…つまり、こういうことだな。
出来ることならシャーリィを相手にするときと同じく、相手に見つかるより先にクレスを見つけて、
僕の晶霊術を用いた過剰殲滅で瞬殺するのが理想的だが、もし正面対決になったなら、クレスとはロイドに戦ってもらう。
クレスが時空剣技のゴリ押しで勝てると高をくくっている間に、ロイドは無形の剣法を利用してクレスを翻弄。
ロイドの技の引き出しが尽きてしまう前に…もしくはクレスが本気を出さない内に、短期決戦を期して倒す。
クレスの油断や慢心に、つけ込むわけだ。
広範囲を同時に攻撃できる時空剣技の特性を考慮すると、多人数でかかっても、時空剣技を見切っていない奴は危ない。
下手にロイドに加勢して、数で押し切る作戦は被害が大き過ぎるだろう」
「…なるほど」
ヴェイグは、相槌を打ち首を縦に振った。
「この作戦で行くなら、短期決戦が勝負になる。
クレスはおそらく、ロイドの剣技を一度見れば技の型を見切ってしまうだろう。
そして、クレスが本気を出して小技でじっくりと攻める技量勝負になったら、技を見切る速度で劣るロイドに勝ち目はない。
ロイドの技の引き出しが尽きるか、クレスが時空剣技でのゴリ押しを止めるまで。これが制限時間だ」
キールは言う。
「本当なら僕も晶霊術を撃ち込んで加勢したいところだが、その作戦は危険が大きい」
この島の異常な晶霊力場こそが、その原因。
本来晶霊術は…特に中級以上のものは広範囲に効果が及ぶ。範囲内の敵を全て巻き込む。
だがそれで味方を傷付けずにすむのは、術者の望む対象に、晶霊術が作用せぬよう選択が出来るため。
だから、キールはエターニアにいたころには、平気で晶霊術を乱戦の中に撃ち込めていたのだ。
この島では、その目標選択が出来ない。この異常な晶霊力場が、晶霊術の目標選択を禁じている。
乱戦に晶霊術を撃ち込んだら、味方までも巻き込んでしまう。
慎重に狙撃すれば、ピンポイントで目標を撃ち抜く事は不可能ではないが、残念ながらキールにその技術はない。
ここに晶霊砲使いのフォッグがいたなら、話は別だったかもしれないが。
とにかく、キールの技術では乱戦に晶霊術を撃てば、味方を巻き添えにしてしまうのだ。
「やれるとしたら、現在のフリンジの状態で放てる『ディストーション』あたりはピンポイント攻撃。
しかも決まれば相手は絶対に逃れられない…はずだが、相手は時空剣士だ。
『ディストーション』で構築される時の檻を、無理やり破壊して無効化するくらい、平気でやってのけるかもしれない。
そう思うと、晶霊術は牽制が精々と思っていた方がいいな」
「一つ質問だが…」
そこで、ヴェイグは軽く挙手をし、意見の陳述を求める。
「…なんだ、ヴェイグ?」
「ロイドが時空剣技を見切れているなら、防戦一方を装って、ひたすら時空剣技の防御に専念して、
相手が打ち疲れたところを逆襲という手はどうだろうか?
これなら相手も時空剣技一辺倒のまま戦いは進むし、相手を苛立たせて小細工を使う精神的余裕も奪えると思うんだが…」
しかし、それをキールとロイドはすぐさま否定する。
「残念ながら、その作戦は少し厳しいな。ロイドだって、さすがに時空剣技を全ていなすことは出来ないだろう。
エターナルソードを手にしたクレスの時空剣技は、どれほど威力を増幅されるか分からないが、
少々過小評価しても、一撃もらえばその時点でジ・エンドと考えていい。
ロイドならどうしてもかわせない一撃は『粋護陣』で緊急回避出来ることを計算に入れても、その作戦はリスクが大き過ぎる」
「それにクレスは、あれだけ時空剣技みたいな大技を連発して、撤退する直前までまだ余裕がありそうな感じだった。
おそらく、あいつはスタミナも俺より上だ。消耗戦に持ち込んだら、逆に俺の方が先にへばっちまう可能性が大きいぜ」
「…ならいいんだが」
ヴェイグは、おとなしく質問を収めた。
「それに、クレスはもう1人、別のマーダーと手を組んでいることを忘れるわけにはいかない。
さて、次は4人目。ティトレイ・クロウだな。
こいつはクレスやシャーリィとは毛色が違うが、十分に脅威的なマーダーだ。
格闘術にクロスボウ、更には『樹』のフォルスを操り、聖獣という存在から借り受けた闇の力まで使える。
…そんなところだったな、ヴェイグ?」
「ああ。ティトレイについては、俺からもいくらか話させてもらおう。
今キールが言った通り、ティトレイは格闘弓士。
あいつは『樹』のフォルスで自らの肉体を強化し、それでもって格闘戦に挑むのがもともとのスタイルなんだが…」
「…デミテルの呪術で操り人形にされた時、あいつから色々と余計な入れ知恵をされたみたいだな」
ティトレイの真相を知らぬキールは、ティトレイの変容をデミテルの呪術で説明し、付け加える。
ジェイ経由で手に入れた、デミテルは呪術やその手の類の技を得意とする、という情報から紡ぎだした仮説。
「…デミテルが呪術とやらを使ったのではなく、あるいは俺のように何らかの形でフォルスを暴走させ、
腑抜けになったところをデミテルにつけ込まれた可能性もあるがな」
「その可能性も否定は出来ないが…とにかく、ミトスの対策に触れる前に、デミテルの『呪術』についてはもう一度触れたい。
本来ならクレスの対策の際にも触れるべきだったかも知れないが、
ティトレイについても解説してからの方が、くどくならずに済むからな」
そして今回、真実をついていたのはヴェイグの方であった。本人らのあずかり知らぬところで。
ヴェイグは、ロイドの方を向きながら、確認するように話しかける。
「…ロイド。ここからティトレイが撤退する前に、ティトレイは植物の花粉や種子で追撃を妨害したっていう話に、
間違いはないんだな?」
「ああ。俺自身が花粉と種の嵐を食らった。間違いない」
ヴェイグは、悲しみとも呆れともつかぬため息の後、その事実を告げた。
「ティトレイは、カレギアにいた頃は『樹』のフォルスをそんな風に使ったことはなかった。
…残念だが、デミテルに入れ知恵されたというキールの推理は、かなり説得力があるな」
そして、この事実こそが、ティトレイはデミテルに入れ知恵されたとするキールの推理の論拠。
ヴェイグは、ゆっくりと話し始める。
「俺もカレギアを旅する中で、ユージーンという男の言葉を仲間とともに聞いていた。
もともと樹木の生命力を付与し肉体を強化する、ティトレイの『樹』のフォルスの使い方は外道なんだと。
本来なら『樹』のフォルスは、伸ばした植物の根で敵を縛り上げたり、植物に花粉を撒き散らさせたりといった、
側面攻撃にこそ真価を発揮するフォルスらしい。
ユージーンの話だと、フォルスの達人の集まるカレギア王国の特殊部隊、『王の盾』にはかつて、
森に展開した敵一個大隊を、たった1人で全滅させた伝説の『樹』のフォルス使いもいたらしいな」
『樹』のフォルス使いが真価を発揮するのは、野戦。特に、森林戦。
草木の声を聞き、敵の居場所を察知。
硬化した木の葉の嵐で敵を切り刻み、木から垂れる蔓で兵士を絞め殺し、
毒草のばら撒く瘴気で哀れな犠牲者に悲惨な死を送る。
自身は繁茂させた草の茂みに隠れ、木の幹を盾にし、花粉の煙幕で逃げ回りながら。
これぞ、『樹』のフォルスの真髄。
「ティトレイは『そんなセコい真似して戦うなんてカッコ悪ぃ!!』と言って、
そんな使い方は嫌がっていたみたいだけどな。ユージーンのその時の苦笑を、今でも俺は覚えている。
だが、ティトレイが『樹』のフォルスの真の使い方に目覚めた今、あいつは恐るべき暗殺者だ」
ティトレイの得意とする格闘術、弓。これに樹のフォルスが合わされば、自然と導出される結論。
その言葉を、キールは静かに首肯する。
「ティトレイは魔術の支持があったにしても、あの『サウザンドブレイバー』の砲撃手を務めた奴だしな。
『サウザンドブレイバー』が来る前に一度降った雷は、『サウザンドブレイバー』の射角調整のための試射だったんだろう。
約5~6カランゲ離れたところからでもあの精度の射撃が可能なら、ティトレイはスナイパーとしての腕前も一流だ」
ヴェイグがそれに続く。
「更にティトレイの格闘術は、『樹』のフォルスの強化を受けた拳や足から放たれる。
外道な使い方とは言え、この攻撃は強力だ。なまじ大仰な得物が要らない以上、あいつは音を立てずに動くことも難しくはない。
これで不意打ちを受けたら、手刀一発で首を刎ねられ即死、という危険性すらある」
「…ミズホの里に伝わる一子相伝の暗殺拳、『斬り術』みたいだよな」
しいなから聞いたミズホの里の伝説。ロイドはふと思い出す。
「…『斬り術』?」
それに疑問符を投げかけたのは、グリッド。ロイドは静かに、傍らのグリッドに言う。
「邪悪な魔導師を封印した大迷宮に挑んだ、ミズホの里の先祖の奥義さ。
何でも素手で、魔神の首すらスパッと斬り落とす、とんでもない技らしいぜ」
「ほほう、それでそれで…」
「そこ、雑談はそこまでだ。続けるぞ」
その声とともに首を持ち上げる、ロイドとグリッド。見れば、そこではキールとヴェイグが苦笑を浮かべている。
「…あ、悪い」
ロイドはばつが悪そうに、一言詫びる。キールは、一つため息をついた。
「とにかく、ティトレイはクロスボウによる狙撃、音を立てず身一つで動ける格闘術、
そして『樹』のフォルスの使い方の理解という3つの武器を手にしている。
これらを総合して考えると、ティトレイは今や非の打ち所のない暗殺者だってことだ」
「ユージーンもしょっちゅう冗談半分にティトレイへ言っていたな。
『お前は望みさえすれば、裏の世界で引く手あまたの暗殺者にいつでも転職できるぞ』、と。
そして、その恐怖はすでに現実のものというわけだ」
ヴェイグの目つきは、その恐怖を一同に無言で、間違いなく伝える。
「とにかく、森なんかでであいつに出会ったら最後だ。
はっきり言ってそれは、四方八方を…
それこそ足元から頭上まで、あらゆる方向から凶器を向けられた状態で戦うに等しい。
木の葉の刃に木の根の槍、蔓の絞殺具(ギャロット)に花粉の煙幕…そんなものが全方向から襲いかかってくる。
いや、それどころかティトレイの顔を見ることすらなく、殺されるかも知れない。
デミテルの入れ知恵で、ティトレイがどこまでずる賢くなったかは分からないが、
可能な限り森への移動は避けた方がいい。それは、自ら罠の中に足を踏み入れるようなものだ」
「つまり、これ以降食料や水を補給する以外の理由では、森を移動するのは止めるべき、ってことだな」
すでに、ミクトランから配られた食料は尽きたも同然。水はグリッドが持ち合わせてはいるが、残量は心もとない。
「東西分断が行われた現在、残された侵入可能エリアから逆算して、制限時間は最短で約3日。
最長で約6日。このくらいの期間なら最悪水だけ飲めれば延命は出来るだろうが、
現存するマーダーの戦力を考慮すれば、可能な限り万全の状態を維持していなければならない。
万全の状態で挑んですら、現存するマーダー達とは五分の勝負を挑めるかどうかすら危ういからな。
とてもではないが、絶食状態で戦いに挑むのは上策と言えない。
だから森への侵入は最小限に…食料を採取するときだけだ。
僕らが食料を補給することを見越して、ティトレイが待ち伏せしている可能性は十分ある。
食料の採取も、可能な限り迅速に済ませるべきだな」
「それなら、俺の分のメシはなくてもいいぜ」
ロイドは、おもむろに上半身を起こした。傷口から、血の雫が僅かに漏れる。
「俺は体を天使化すれば、水も食料も睡眠も呼吸も要らない。俺の1人の食事が要らないだけでも、だいぶ違ってくるだろ?」
「…問題はないのか?」
「ああ。俺は昨日の戦いで、覚悟を決めたんだ。この力を使う覚悟を、な」
ロイドは、左手手の甲を握り締め、瞳を閉じた。
周囲の空気が震える。マナを編み上げる。光の翼を織る。
次の瞬間、ロイドの背より蒼の光翼が広がる。人一人ぐらいなら軽く包み込んでしまえそうなほどの、大いなる翼を。
「…これが……」
「すごく…大天使です……」
ヴェイグとグリッドは、その姿を改めてみるや、開いた口が塞がらなくなる。
ロイドの背より生えた翼。震わせるたびにマナの粒子が零れ落ちる。
神々しいまでのその光景。事前に何も知らされていなければ、あるいは本当にロイドを天使と信じていたかも分からない。
「…本当のところは、俺はこの力を使うのは嫌なんだけどな。
俺はかつてミトスとの戦いの中で、無機生命体の…天使の存在を否定したのに、大いなる実りを発芽させる時、この力を使った。
止むを得なかったとは言え、俺は一度この力を否定したくせに、この力に頼ってしまった。
その時以来、この力は一度も使ったことはなかった。二度と使いたくはなかった。
…今の俺を、父さんが見たらなんて思うのかな。
所詮お前の決意はその程度のものだったのかって叱るだろうか。
それとも、自らの信念を曲げてでも仲間を助けようとするその態度は立派だ、て褒めてくれてたかな」
「少なくとも僕は、ロイドの父さんの立場にいたら、叱りはしないさ」
キールはゆるゆると、首を横に振る。
「僕だって、この島での戦いについては、見通しが甘かった。
きっとリッドがいれば、今回も何とかなるだろうって、甘えていたのかも知れない。
セイファートの力を貰い受け、エターニアを救ったほどの力を持つ、リッドに頼っていれば、と」
舌が苦い。キールは、まぶたを閉じながら、口中の苦味に耐える。

「だが、結果として僕はリッドを失い、メルディの心は砕かれ、それでネレイドに勝った。
…余りにも、犠牲の大きな勝利だった。
…僕がC3の村の村でメルディが寝ているうちに、リバヴィウス鉱を取り上げておけば…
メルディが寝ているうちに、リッドに極光術を用いてもらって、ネレイドのフィブリルを浄化しておけば…
ジョニー・シデンは死なずに済んだ。リッドだって、殺されずに済んだ。メルディは、心を砕かれずに済んだ。
ロイド達からメルディのことを聞かされた時点で、『今回も何とかなるだろう』で油断していなければ、
こんなにひどい被害を受けずに済んでいたのかもしれない。
やっと分かったんだ。この『バトル・ロワイアル』は、そんな油断をした人間から死んでいくって」
重いまぶたを持ち上げ、キールは見やる。メルディから渡してもらったBCロッドを。
BCロッドに吊るした、メルディのクレーメルケイジを。
「…僕はもともと甘ちゃん小僧だ。人間の悪意よりは、善意の方を先に信じてしまう。
インフェリア王城へオルバース爆動の警告をしに行った時だって、『話せば分かる』と思って、
あわやというところで仲間達もろとも、処刑されるところまで行ってしまったこともある。
冷静に考えれば、いきなりそんな事を話しても誰にも信じてもらえないことぐらい、分かるはずだったのにな。
特にこの『バトル・ロワイアル』は、人間の汚いところや弱いところを、これでもかとばかりに抉り出してくる。
人を見たら泥棒と思え、どころか、人殺しと思ってもまだ足りないくらい。
…僕ももう甘えを捨てる時が来た。僕は『鬼』になる。マーダー達を倒すためなら、どんな卑劣な手段でも使ってやる」
キールは、一つ確信を持った。
おそらく自分は今、凄絶な眼光を宿しているであろう。エターニアの旅の最中でも、かつてしたことがないくらいに。
「勝つためならば、なりふりは構っちゃいられない。
正義の味方面して、えらそうなご高説を垂れてお高くまとまっていられるほど、僕らは強くないんだ」
キールは、その言葉を最後に再び瞳を閉じた。凄絶な眼光を、また奥底に眠らせるために。
次に瞳を開いたなら、キールの目には再び理性の光が戻る。いつもの、彼の目に。
「…話を続行しよう。ティトレイ・クロウの弱点について。これもまた、ヴェイグに話を頼みたい」
「分かった」
ヴェイグはキールの依頼を承諾し、その言葉を紡ぎ出す。
「ティトレイ撃破の要は、やはり『樹』のフォルスによる側面攻撃をどう処理するかだ。
ロイドの話だと、あいつは撤退間際、同じくデミテルの手駒だったクレスと手を組んでいた。
直接攻撃を得意とするクレスと、側面攻撃を得意とするティトレイ…2人のコンビネーションの相性は最高と考えていい。
ティトレイの悪知恵がどれほどのものかは分からないが、
この場にいる全員がかりでも、正面から行ったら間違いなく返り討ちだ。
おまけにこちらは非戦闘要員を2人抱えている。…出来る限り、この2人は分断して各個撃破したいところだ。
これ以降の対策は、ティトレイ単体を相手にするときを想定したものとして、聞いてくれ」
ヴェイグは、小さく咳払い。そう言えば、少し喉が渇いた。
「大体想像はつくだろうが、『樹』のフォルスの弱点は炎だ。
フォルスで作り出されたものは、通常の攻撃では破壊出来ないが、闘気を用いた攻撃や導術などを用いれば、破壊出来る。
『樹』のフォルスによる蔓や草は通常の炎では焼けないが、炎属性を帯びた剣技や導術は効果覿面だ」
「なら、俺の『鳳凰天駆』あたりの出番だな」
ちょうどありがたいことに、スタンの遺したガーネットはロイドの手元にある。
これさえあれば、『飛天翔駆』により放たれる闘気は炎と化し、『鳳凰天駆』になる。
意気込むロイドの手の中で、真紅の宝石が静かにきらめいた。
「そして、奴は植物のあるところでは恐ろしいほどの戦力を発揮する。
だが逆に言えば植物のないところでは、その『樹』のフォルスの威力も半減する。
草木の生えない砂漠や、今俺達がいるこの荒れ地のような場所ならな。
植物を繁茂させるにしても、繁茂させる時間を食うし、森や草原にいるときに比べれば消費も隙も大きい。
ただ、海岸沿いでの戦いでの優位性は保証できかねる。
ティトレイも試したことはないが、『樹』のフォルスは、同じく植物である海草すら操れる可能性もあるからな。
…出来ることなら、あいつとは雪原で戦いたいところだが…」
だがそれは、詮無い望みに過ぎない。
雪原には植物はなく、ティトレイにとっては苦手な地形。そして、ヴェイグにとってはこれ以上ないほどの得意地形。
もとよりヴェイグは、北国であるスールズの出身。寒さは慣れている。
すなわち雪原は、ヴェイグが一方的にティトレイに対し地の利を得られる地形なのだ。
この島に、雪原は存在しないが。
「…僕が『ブリザード』を使うって手もあるけどな。ヴェイグ、雪原の上でならお前はどれくらい戦える?」
「俺達は北国を旅する最中、やむを得ず雪原でビバークしたこともあるが、
その時はよく見張り番をやっていた。相手が空でも飛ばない限り、雪を媒介にして敵の侵入を察知できる。
地面の雪を使っての小細工も出来るようになるし、今の俺はユリスを倒したあの時よりも実力は上がっている自信がある。
雪原の上でなら、練習すれば氷の導術さえ扱えるかもしれない。
さすがに『ブリジットコフィン』並みのものは無理かもしれないが…」
「なら、その作戦も採用すべきだ」
キールは即断した。
「この島の上では、『ブリザード』は乱戦の中に撃ち込む事は出来ないが、
戦場の上空で使えば即席の雪を降らせることぐらいは出来る。
雪原を形成すればティトレイの『樹』のフォルスを抑え込み、同時にヴェイグの『氷』のフォルスを強化する。一石二鳥だ。
問題は晶霊術とフォルスの相性だが、こればかりは試してみないと分からないな」
「頼む」
ヴェイグは言った。そして、ティトレイへの対策はこれだけではない。
「話を戻してティトレイの弱点だ。
あいつは今、一つの大きな弱点を抱えている。
あいつはおそらく、消耗戦に持ち込めれば自滅する。控えめに見ても、弱体化することは間違いない。
短期決戦を強要されたらキールの作戦で地の利を取ればいいが、理想的なのはあいつが自滅するまでひたすら逃げることだ」
「その論拠は?」
すかさず、鋭いキールの合いの手。ヴェイグはそれに応える。
「あいつは昨晩、『サウザンドブレイバー』を放った直後に闇の聖獣の…イーフォンの力を解放していた」
これこそが、ティトレイの抱えるアキレスの腱。ヴェイグは複雑な心境で、その知識を語った。
「聖獣の力とは、俺達フォルス使いのフォルスを限界まで引き出す力だ。
俺達は聖獣と呼ばれる、カレギアを守護する存在からこの力を貰い受けたわけだが、
その際俺達は、その信念を…フォルスの力の根源である、『心』を試された。
聖獣を認めさせるほどの強い決意と意志がなければ、聖獣からは力を受け取れない。
そして、聖獣の力は使い方を誤れば、たちまち使用者を呑み込む」
そこで、ヴェイグは言葉を区切った。
「…ティトレイも、かつて闇の聖獣イーフォンから闇の力を受け取った。
カレギアに渦巻く、ゲオルギアスの思念を浄化する決意を表して。
…そして、俺自身認められなかったが、今のティトレイの心の在り様は、イーフォンに認められた時の在り様とは…
完全に別のものになっている」
誰も、ヴェイグの話に割って入る者はいなかった。
「聖獣に認められた心の在り様が崩れた時、与えられた力のリバウンドが襲ってくると、事前に聖獣達から聞いた。
そのリバウンドの具体的な内容はあえて聞かなかったが、ティトレイにもそのリバウンドが来る可能性は高い。
リバウンドは即効性か遅効性かは分からないが…」
ヴェイグは、静かに己の胸に手を当てる。シャオルーンの力の波動を、もう一度咀嚼してみる。
「…俺の持つ聖獣の力の感覚からすると、まずティトレイは無事では済まないと思う。
エクスフィアとやらの副作用に生身で耐えるシャーリィのように、
自身の生命力や精神力で、強引にリバウンドを押さえ込む可能性もなくはないが、
長期戦に持ち込めば、俺達の側が優勢になる。それだけは確証が持てる」
そして、それこそが彼らに出来る最高の選択。幸か不幸か、その事実を一同は知らないが。
デミテルの麻薬に肉体を冒されたクレス。
イーフォンの力のリバウンドに晒されるティトレイ。
永続天使性無機結晶症を患うシャーリィ。
彼ら彼女らには、時間こそが最大の敵。長期戦に持ち込めば、現存するマーダー4人の内、3人は脱落する。
プリムラやリオンをもマーダーと目する一同には、「6人の内、3人」となるのだが。
だが、この選択に至る糸口は、こればかりではない。
「そう。そこまで話したところで、今度は僕と交代してくれ、ヴェイグ。
そろそろ、僕も『デミテルの呪術』に触れておきたい」
推した事実が真実でなくとも、そこから導き出される判断は賢明。
キールも、ヴェイグの論への援護射撃を始める。

「話は少し離れるんだが…
クレスがE2から撤退する前、ロイドが見たクレスの異常な挙動に関する証言が、僕には引っかかる。
ロイド。ロイドはクレスと戦っていた時、途中からは相当に形勢が不利になったんだろう?」
「悔しいけど、な」
ロイドは、忌々しげに顔をしかめた。
「クレスは俺とカイルとスタンのおっちゃんを3人纏めて相手にしても、圧倒的な戦いぶりを見せていた。
更に途中からはティトレイまで乱入して来たんだ。
あそこで2人が撤退してくれてなきゃ、俺もカイルも…間違いなくそのまま嬲り殺しにされていた」
「なら、何故伏兵の危険が極めて低く、圧倒的優勢の戦いの最中に2人は撤退したんだ?
圧倒的優勢な戦いの最中、相手に止めを刺さずに撤退した理由は何だ?
ティトレイは『サウザンドブレイバー』発射直後の疲労困憊状態であったことを考慮すれば、撤退したことはまあ納得できる。
ティトレイが昨日言っていたことは、ハッタリだったってわけだ。
だが、クレスは単騎でもロイドとカイルを容易に制圧できるだけの戦闘力を有していたんだぞ?
おまけにクレスは殺人に快楽を見出す、狂った人間の目をしていたんだろう?
そんな状況で撤退なんて、よほどの理由がなければ説明がつかない」
「…俺が見たのは、こんな感じのことだ」
ロイドは、キールの言葉が終わるや、クレスの撤退間際の異常な挙動について語り出す。
スタンの『殺劇舞荒剣』に、反撃の『殺劇舞荒剣』を見舞い、『空間翔転移』でスタンを貫いた直後。
クレスは突然体が震え出し、慌てて懐の小瓶を取り出したこと。
そこにティトレイが乱入し、クレスの鳩尾を突いてクレスを無理やりに気絶させ、彼もろともに撤退したこと。
「供述ありがとう、ロイド。この事実に関する説明は、いくらか考えられる。
このとき最初に考えられるのは、クレスは元々何らかの持病を患っていて、ロイドとの戦いの最中その発作が起きた可能性だ。
エクスフィギュアになるような奴もこの島にいることを考えると、病気持ちの人間がいることぐらいおかしくはない。
そして、デミテルは錬金術や博物学の知識を携えていたことを考えると、
医術についてもそれなりの見識があったと考えていいだろう。例の小瓶はその発作を抑える薬というわけだ。
だが、ここで引っかかるのが一点。デミテルのような手合いが、わざわざ病気持ちの手駒を好んで使うか?
おとぎ話や芝居には、病を患った剣の達人なんてのがよく出てくるが、実際そんなものを使うのはリスクが大きい。
僕がデミテルの立場にいたら、クレスみたいな出来損ないの手駒はさっさと処分するな。
クレスの病の発作を抑えるために薬を調合する手間ひま…
そして凶暴なクレスの性格を制御する労力を考えると、いくらクレスに化け物じみた剣才があるからと言って、
そうそう割に合う対価じゃない。
デミテルは事前にそう判断したからこそ、『サウザンドブレイバー』による殲滅を企てた際、
クレスを捨て駒にしたと推理すれば、持病説は一応筋が通るように思えるが…」
キールは、咳払いを挟んで反論を繰り出す。
「そもそも、クレスはダオスの証言する限り、もともとは健康体だったらしいし、殺人狂でもなかったようだ。
おまけにダオスを討つために戦っていたクレスには、やはりダオス軍に所属していたデミテルも敵。
もし仮にクレスは元来病気持ちで殺人狂だったとして、
ダオスと戦う際は人殺しの快楽に陶酔することを精神力で抑え込み、
更に幸運にもダオスと戦った際病気の発作が一度も起こらなかったとしよう。
その仮定の下でなら、デミテルはクレスの持病を抑える薬の提供の引き換えに、クレスに隷属を求めたと見当は付くが、
相手は殺人狂でしかも敵。そんないつ寝首をかかれるか分からないような相手を、手駒に据えたいか?
普通なら病気の発作が起きた隙を狙って、即座にデミテルはクレスを排除にかかったはずだ。
となると、クレスはこの島に来た時点では健康体で、殺人狂ではなかったという、
ダオスの証言から導き出される当然の結論が、一番無理なくクレスの人となりを説明できる。
で、話は更にここから一歩進むが…」
ここで用いるパズルのピースは、デミテルの習得していた魔術のこと。
すなわち、黒魔術や屍霊術、呪術や妖術と言った邪悪な魔術。
「僕がミンツ大学に在籍していた頃、図書館にはいつも貸し出し中になっている『ネクロノミコン』という本があったんだが…
僕は在籍中、偶然その本が図書館に戻っていたとき、一度だけ借りて読んだことがある。
そこにはネレイドなんかともまた違う、異界の邪神の力を借り受ける晶霊術について記載されていた。
はっきり言ってそこにあった術式は、現在の晶霊学に照らし合わせれば矛盾や誤謬が山のように出てくる、
出来損ないのものばかりだったんだが…。
そこにあった呪術は、人を病気にしたり白痴に追い込んだり、しまいにはには呪殺したりするような邪悪なものばかりだった。
そしてダオスやデミテルのいた世界では、これらの呪術は実在するらしい」
事実、アセリアの大地に在りしある国の王子は、その呪術によりあわやというところでダオス軍の魔手に堕ちかけた。
アルヴァニスタに残る記録をひも解けば、そのくだりについては詳しい。
だが、その窮地を救ったのが今や殺人鬼と化したあの剣士とその仲間であるとは、皮肉の極み。
その事実を知る者がこの場にいれば、その念を抑えることは出来なかったであろう。
「…それで、デミテルはクレスを見つけ出し、クレスに呪いをかけて、
病気持ちの殺人狂に仕立て上げられた、ってキールは考えたわけだな」
ロイドは、果たしてキールの考えを言い当てて見せた。キールは、ロイドの言葉を肯定する。
「ああ。ずばりそんなところだ。
呪術には人を狂わせたり病気にかからせたり、挙句には自我を破壊して術者の奴隷にしたり、その類の術は豊富に揃っている。
クレスは何らかの理由でデミテルの呪術を受けてしまい、その結果デミテルの人形と化してしまった。
心を狂わせることでクレスを殺人兵器に仕立て上げ、更にある種の病気に同時にかからせることで、
病気の発作の苦痛を盾に、殺人衝動をデミテル自身に向けないようコントロール。
クレスが何故薬…おそらくは事前にデミテルに持たされていたもの…を持っていたかは、
呪術説だと若干説明に苦しいが、おそらくデミテルが用いたのは、
病気の発作の来るタイミングを術者が自在に操れるものではなく、
何らかの周期や条件に基づいて病気の発作が起こるタイプの呪術だったんだろう。
この島のような限定された設備の中では、そこまで高等な魔術は撃てなかったんだろうな。
例の薬は、病気の発作を外的に抑えるために、デミテルが調合したものだと推測しておこう。
…そして前述の『ネクロノミコン』によれば、この手の呪術は大体術者が死ねば解けるようにはなっているらしいが、
デミテルの用いたものは術者の死後も解けない強力なものらしいな。
おそらく、例の魔杖で呪術を強化したと見るのが妥当だろう」
「…ということは…」
ヴェイグの目に、愕然たる光が浮かぶ。キールは、淡々とヴェイグに宣告した。
「ああ。デミテルはその呪術をティトレイにも用いた可能性がある。
呪術により狂わされた心で、聖獣の力とやらが使えるかどうかは正直疑わしいが、現にティトレイは聖獣の力を使ったんだろう?

そして、例の『ネクロノミコン』によれば、術者が死んでも解けない呪術を解くには、
『呪い返し』の術を用いるか、呪術ごとに定められた特殊な解呪の儀式を行うか…
さもなくばセイファートの加護の力で…極光術なんかで、強引に呪術を消去するかの3つだが…
少なくともエターニアには、デミテルの用いた呪術のような術は、まともな形では現存していない。
死人に口無しだから、デミテルに術式の内容を吐かせるわけにも行かない以上、前者二つはまず使えない手だし、
極光術を使えるリッドは、もういない。
メルディも、命を引き換えにすれば、おそらくあと一回だけならば闇の極光術を撃てるだろう。
だがそれは、メルディの命を代価にして、ようやく一か八かの賭けが出来る超ハイリスクの選択。
闇のフィブリルを用いるなんて、狂気の沙汰だ。
それに、どうしてもメルディの命を引き換えにしてまで、闇の極光術が必要になるとすれば、
その使いどころはティトレイの呪術の解呪とは、僕には思えないな」
「…そうか」
ヴェイグは、うなだれた。
「可能性があるとすれば、ヴェイグの持つ聖獣の力ぐらいだ。
ゲオルギアスの思念とやらを浄化したその力なら、デミテルの呪術を強引に破ることも出来るかもしれない。
人間の心に積もる負の感情を浄化する力なんて、にわかには信じがたいが…
だが、そんな蜘蛛の糸にすがるようなか細い希望は、捨てておいた方がいいだろう」
「…………」
ヴェイグは、静かに自分の手を眺めた。開かれた右手。握り締めてみる。
確かに、可能性があるとすればその一点か。
だが、聖獣の力にそこまでを期待することは出来るのだろうか。
カレギアを旅していた頃、ヴェイグはそんな風にして聖獣の力を使ったことはない。
心を病んだヒトに聖獣の力を用いて、心の病を治療するようなことなど、出来るのだろうか。
ましてや、今回相手にせねばならないのは異世界の呪術。聖獣の力で、どうにか出来る相手だろうか。
「…可能性は捨てたくはないが…」
ヴェイグの呟きは、すぐさまに消え去った。
ここは、「バトル・ロワイアル」の会場。
俗に「無理が通れば道理は引っ込む」というが、この会場では道理など、とうの昔に引っ込んでいる。
ならば、聖獣の力で呪術を解くという、「無理」だって通せるのではないか。
ヴェイグは夢想する。そのか細い希望に、すがるだけの価値はあるのではないかと。
そのためにも、この気持ちは忘れてはならない。カレギアの旅で得た…そして今ようやく思い出した気持ち。
シャオルーンに認められた、この気持ちを。ティトレイのように、リバウンドを受けるわけにも行くまい。
「…さて、話を続けるぞ」
キールはそう言い、夢想するヴェイグの気持ちをこちら側に引き戻す。ヴェイグは静かに、首を振った。
「…つまりクレスは今、デミテルによる呪術で病を受けている以上、それが枷になる。
出来ればクレスの病気の発作が起こる条件を調べ、病気の発作の起こるタイミングを見極めて、
その発作で苦しんでいる隙に仕留められれば最高なんだが、デミテルを尋問できない以上、それには期待出来ないだろう。
そこで、僕が提案したいのは、消耗戦に持ち込むことだ」
「…消耗戦に?」
そうだ、とキールはロイドの声を肯定する。
「クレスの病気の発作のタイミングは分からない。だが、よしんばあいつと再戦する事になっても、
時間さえ長く取っていれば、その時間の内に発作が起きて、その発作があいつの体力を削ってくれる可能性は大だ。
それに、ティトレイには医術の心得はないんだろう、ヴェイグ?」
「ああ。あいつに出来ることといったら、精々応急処置がいいところだ」
ヴェイグは、今でも覚えている。
旅の最中アニーのしてくれた医術の話を、ちんぷんかんぷんという様子で聞いていたティトレイの姿を。
そして、いよいよキールは結論の結論に入る。
「つまり、クレスはティトレイと組んでいたとしても、例の発作を抑える薬を手にする手段はない。
そしてクレスはデミテルから離反し殺さなかったことを考えれば、自力では薬を作れないことは容易に想像できる。
人殺しを楽しむためなら、薬を自力で補給できればデミテルに用はないだろうからな。
時間が経てば、遅かれ早かれクレスは再び発作にに襲われる可能性は大きい。
ティトレイ共々、時間経過で自滅してくれるか、少なくとも弱体化は狙えるだろう。
この島の中を逃げ回り、彼らと遭遇することさえ避ければ、
僕らは最も低リスクの作戦で6人のマーダーのうち、特に強大な中の2人を葬るか、弱らせることが出来る。
…あえてリスクを冒してマーダーを倒しに行くくらいなら、
逃げ回るという選択肢がどれほど有利か、これ以上説明の必要はあるか?」
一同から、反論の声は一言も上がらなかった。キールは満足げに、頷いた。
「つまり、僕から提案したい作戦は次の通りだ。
まず、僕らはこのE2城跡の荒れ地に『防空壕』を掘り、そこで可能ならば全員の負傷を全快させるまで休息。
それと並行して、もしティトレイに回収されていなければ、デミテルの持っていた魔杖ケイオスハートの回収作業を行う。
魔杖ケイオスハートがシャーリィやミトスなんかに渡ったら、それこそ取り返しのつかないことになる。
僕らの戦力の強化と、マーダー達の更なる増長の防止を兼ねて、な。
僕が知る限り、マーダーの中で偵察能力を持つのは、フォルスのレーダーを使えるティトレイと、
テルクェスを放てるシャーリィだが…
少なくともティトレイの探査は、ペンペン草一本残さず草木の消し飛んだこの荒れ地では、無効化されると考えていいだろう。
また、テルクェスは光り輝く蝶だと聞くが、それに近寄らねばシャーリィは僕らのことを察知できないらしい。
メルディの持つスカウトオーブを併用すれば、よほどの不運に見舞われなければ隠れ続けることが出来る。
僕らが全快したなら、ここの南や東の森で食料を、川で水分を可能な限り大量に採取する。
その上で、グリッドと話の通じるガジュマ…トーマとも接触し、同盟を結べれば最高だな」
「その時の交渉係は、俺に任せておけ! あいつらも俺達『漆黒の翼』の力になってくれ…」
「…いつから俺達は『漆黒の翼』になったんだ?」
もはや疲れ果てたかのように、ヴェイグはあきれ果てた口調でグリッドに言う。
「ま、面白そうじゃん! 俺らのチーム名にしようぜ、それ!」
「おお、同士よ! 天使の蒼い翼を掲げながらも、『漆黒の翼』とはこれいかに、だな!」
「…分かった。分かったからキールの話を聞け」
そしてグリッドとあっさり意気投合しているロイドを見るヴェイグは、偏頭痛に苦しんでいるかのように顔を歪め言った。
「んじゃ俺、右手が治ったらリハビリがてら、『漆黒の翼』のバッジ作ってやるよ!
俺の手元に残っている彫刻道具は、ウッドブレードを作るには小さすぎるけど、小さな細工物くらいならどうにかなる。
木か石がありゃ、バッジぐらいならちょちょいのちょいだぜ!」
「そうか! ならばお前は『漆黒の翼』の突撃隊長に任命だ! ちょっと待ってろ、漆黒の翼の紋章を今この羊皮紙に…」
「…いい加減にしろ、お前ら…!」
たまらずヴェイグは、氷の指弾を形成。迷わずグリッドの後頭部にぶち込んだ。
「くぁwせdrftgyふじこlp;@:」、という意味不明の叫び声を上げながら、悶絶するグリッド。
やっと静かになった、とばかりにキールとヴェイグは顔を見合わせ、そして嘆息した。
「…というわけで、これから僕は『ロックブレイク』でここに『防空壕』を掘る。
作戦会議の続きはそこでやろう。一旦小休止を挟まないと、ロイドとグリッドの集中力が保ちそうにないからな」
「…まったく、この緊急事態であんな泰然自若としていられるあいつらの頭、覗いてみたいな」
だが、自分のように1人で勝手に追い詰められるのに比べれば、まだ彼らの方がましか。
ヴェイグは自嘲的に、そう思った。
ロイドとて、コレットが心配でたまらないだろう。
グリッドとて、仲間のプリムラが気がかりで仕方がないだろう。
少しぐらい冗談でも言わねば、気が滅入りそうになる。
それを、少しでも和らげるための馬鹿騒ぎと思えば、まあ許容できる範囲か。
特に、ヴェイグがキールと出会う前、うっかりロイドにコレットがミトスと行動を共にしていることを話した時。
ロイドの取り乱しようは凄まじかった。
この作戦会議の直前まで、全員がかりでいさめねば、そのまま行ってしまいかねなかったほど。
最後には、ヴェイグが強引に氷のフォルスでロイドの足を凍らせ、大喝してようやくロイドは収まったのだ。
願わくば、コレットはまだしばらくは安全だと信じたい。
そのくだりは、『防空壕』の中で。
キールは、その内に晶霊術を完成させた。地面から、土煙が吹き上がる。
『サウザンドブレイバー』の爆風で、城の地下室も重大なダメージを受けている。
今にも崩れそうなほどに損傷した城の地下室跡では、おちおち作戦会議も続行できまい。
ついでに言うなら、周囲に適当に岩塊をばら撒いて、偽装もしてある。ひとまず、ここならば安全だろう。
この中で、作戦会議はまた続行される。かすかな希望の光への糸口を、見つけ出すための。
一同の想い。
一同の願い。
一同の思惑。
希望の朝は、救いの夕方に続くか。
それとも、再び絶望の夜に塗りつぶされるか。
ヴェイグは予断を抜きに言えば、後者であろうとも思う。
だが、願わくば前者であることを、祈らずにはいられなかった。
ヴェイグの閉じたまぶたの裏で、金髪の少女は柔らかに笑っていた。



【キール・ツァイベル 生存確認】
状態:TP65% 治療専念 「鬼」になる覚悟
所持品:ベレット セイファートキー リバヴィウス鉱 BCロッド C・ケイジ
キールのレポート(キールのメモを増補改訂。キールの知りうるあらゆる情報を記載済み)
基本行動方針:脱出法を探し出す。またマーダー排除のためならばどんな卑劣な手段も辞さない
第一行動方針:「防空壕」に篭城し、作戦会議と並行して仲間達を治療する
第二行動方針:E3に残存していれば、魔杖ケイオスハートを回収する
第三行動方針:仲間の治療後、マーダーとの戦闘を可能な限り回避し、食料と水を集める
第四行動方針:共にマーダーを倒してくれる仲間を募る
第五行動方針: 首輪の情報を更に解析し、解除を試みる
第六行動方針:暇を見てキールのレポートを増補改訂する
現在位置:E2城跡地の『防空壕』

【メルディ 生存確認】
状態:TP30% 火傷は完治 精神磨耗(TP最大値が半減。上級晶霊術の行使に匹敵する精神的負担で廃人化)
所持品:スカウトオーブ(起動して気配を消去中)  (サック破壊)
基本行動方針:キールに従う(自己判断力の低下)
現在位置:E2城跡地の『防空壕』

【ロイド=アーヴィング 生存確認】
状態:HP15% TP20%  治療専念(右肩に打撲、および裂傷 胸に裂傷)
右手甲複雑骨折(ロイドはこの部位を最優先で治療中。ヴェイグのフォルスで凍結させ固定)
天使化可能 信念を曲げる覚悟 時空剣技に対する見切り(完成度70%) 時空剣技をラーニング(不完全)
アルベイン流に対する見切り(完成度30%)
所持品:トレカ、カードキー エターナルリング ガーネット ムメイブレード ホーリィリング
基本行動方針:皆で生きて帰る、コレットに会う
第一行動方針:治療に専念する
第二行動方針:右手が治ったなら、「漆黒の翼」のバッジ作りで焦燥感を誤魔化す
第三行動方針:治療後はコレットの救出に向かう
現在位置:E2城跡地の『防空壕』

【ヴェイグ=リュングベル 生存確認】
状態:HP30% TP45% シャオルーンの力を解放可能
所持品:忍刀・紫電 ダーツセット クナイ(3枚)双眼鏡 チンクエディア
エルヴンマント ダオスの皮袋(ダオスの遺書在中)
ジェイのメモ(E3周りの真相、およびフォルスについての記述あり)
基本行動方針:今まで犯した罪を償う
第一行動方針:グリッド達と行動を共にする
第二行動方針:キールとのコンビネーションプレイの練習を行う
第三行動方針:もしティトレイと再接触したなら、聖獣の力でティトレイを正気に戻せるか試みる
現在位置:E2城跡地の『防空壕』

【グリッド 生存確認】
状態:不屈の正義感
所持品:マジックミスト、占いの本 、ハロルドメモ ペルシャブーツ
基本行動方針:生き延びる。 漆黒の翼のリーダーとして行動
第一行動方針:正義の御旗のもと、ヴェイグ達と共に行動する
第二行動方針:プリムラを説得する
第三行動方針:マーダー排除に協力する
第四行動方針:ロイドの作るバッジにwktk中
現在位置:E2城跡地の『防空壕』

※なおキールとロイドは休息により回復するTPを、それぞれ「ナース」と「ライフアップ」に全て注ぎ込んでいる。
よって治療を中止するか完治するまで、休息によるTPの回復は凍結される。
※ロイドの天使化について:
天使化の発動により、身体能力の強化、及び肉体の代謝活動の停止が可能。
このロワ中では発動させている間、飲食・呼吸・睡眠・排泄などを必要としなくなり、一部の毒などを無効化。
ただし天使化の代償として、発動時はTPの自然回復が起こらなくなる。
治療と並行しながらの天使化は不可。


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