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  • その涙、地に落ちる間もなく

テイルズオブバトルロワイアル@wiki

その涙、地に落ちる間もなく

最終更新:2019年10月13日 18:22

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その涙、地に落ちる間もなく


荒れ狂う闘気。
乱れる撃剣。
白刃が火花を散らし、洞窟にかすかな光をばら撒く。
吹き飛ばされ穿たれた瓦礫が、いまだ透明な壁としてそこに残っているかのごとくに、世界は隔絶されていた。
そろそろ冥界から死神が訪れようかとする、北側。
剣風吹きすさび命の渦が踊る、南側。
ぽたり。ぽたり。
その中で、ささやかに水音を立てる雫。
自らの血の池に身を沈めた1人の女性の前で、驚愕と悲哀と絶望と後悔と無力感とにもみくちゃにされる、1人の男。
彼は、地面に突いた膝を、痛ましくわななかせていた。
「プリムラ……!」
ヴェイグは、心中叫んだ。
ジューダスの幻影に、カイルを、グリッドを、仲間を、殺らせはしない。
ジューダスの幻影に、この手で引導を渡し、ユリスの腕(かいな)すら届かぬ冥界に叩き落す。
「プリムラ…………!!」
トーマは、わけも分からぬ心胆の苦味に耐えた。
このまま、昨夜の悲劇を繰り返すのを、静観するほか己に出来ることはないのか。
このまま、ただ事態を成り行きに任せるしか、手は無いのか。
「プリムラ………………!!!」
リオンは、激しい二律背反に煩悶した。
どうして、このままあっさりと死を選び、自らの命を以って彼らの助けとならないのか。
どうして、これほどの大罪を身に負いながら、それでも斃れられないのか。
「プリムラ……………………!!!!」
カイルは、混乱という名の大渦の中にいた。
オレは、今、ロニを殺したカタキの前に立っているのか。
オレは、今、振り抜いてしまったディムロスで、傍らの女の人を斬ってしまったのか。
だが。
4人の混乱を圧して。
4人の後悔を圧して。
4人の想いを圧して。
その声は、この地の底に響き渡った。
「プリムラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「「「「!!!!!」」」」
洞窟の空気が、たちまちにして灼熱の凍気に覆い尽くされた。
心から、魂から、己の存在そのものから、迸ったかのようなグリッドの悲痛な叫びが、一同を震わせた。
火山の溶岩よりも高温なのに、身じろぎ一つ許さぬとばかりに、一同の身を釘付けにする、刹那で永劫の叫喚。
至高の王竜の雄叫びすら、ささやき声にしか思えぬほどの慟哭は、一同の思考すら、行動すらも阻み止める。
ヴェイグとリオンが、その刃すら止めるほどに。
トーマとリオンが、その目をグリッドに縫い止められるほどに。
呼気を使い尽くしたグリッドは、けれども脳の芯が痺れるその感覚を捻じ伏せ、プリムラの体にすがった。
ごぷ、ごぷ、ごぷぷと。
プリムラの口元からは血の泉が吹き上がっていた。
「嫌だ!!! プリムラ!!! 死ぬな!!! 漆黒の翼のリーダーとしてお前に命令する!!!
死ぬなああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
グリッドは己の着衣が血に染まることも省みず、プリムラを強く抱く。
それで、出血が…致命の裂傷が塞がるわけでもないのに。
プリムラの口から血の泉が湧くなら、グリッドの目元からは涙の泉。
グリッドの目からは、たちまち津波のような涙が零れ落ちる。
湧き上がった哀しみの波濤を体内に留めきれず、溢れ出しているかのようにさえ、その光景は映る。
哀しみが心に渦巻こうとも、それでもグリッドの一部は冷えていたというのだろうか。
絶叫の尾がぷつりと切れたのと同時に、今や涙の滝つぼと化した己の顔を、彼に向けた。
氷のフォルス使い、ヴェイグ・リュングベルに。
「ヴェイグ! 頼む! お前の『氷』のフォルスでプリムラの裂傷を塞いでくれ!!」
呆けていたヴェイグは、グリッドのその声ではたと我に返った。


「分かった…だが……!!」
「そんな奴は捨て置け! 誰かを殺すくらいなら誰かを生かせ!! それが漆黒の翼のモットーだ!!!」
「…だが……」
ヴェイグは、限界ギリギリまで張り詰めた神経を以ってして、リオンの動向を観察する。むしろ、リオンを睨みつける。
リオンは、二刀の構えを解いていた。
その瞳に既に殺気は光ってはいない。むしろ、思慮の輝きすら灯って見える。
これならば、今度こそこちらが剣を向けねば、背後から刺される事はない。ないと信じたいが……
それでも、ヴェイグは己の希望的観測を迂闊に信じたりはしない。
ヴェイグは、一歩、二歩とじりじり後退する。チンクエディアの氷結状態は解除しない。
リオンが妙な動きをしたなら、即座に『絶・瞬影迅』からの神速の踏み込み…続く一閃で首を刎ね飛ばす。
その準備のためにも。
ヴェイグはそこまで己に言い聞かせてから、ようやくその場を動いた。
もうこれ以上、誰かが死ぬのを見るのは真っ平ごめんだ。
そのもう一つの自分の本音に、ようやく耳を傾けて。
両の手に氷のきらめきを宿しながらグリッドの…否、その傍らのプリムラの元に向かう。
「ヴェイグ」
そんな彼の元に、小さな粒が投げてよこされる。
ミラクルグミ。一同に残された、最後の治療薬。
「使え。傷を凍らせて塞いだ後、飲ませてやるといい。お前はプリムラの治療に専念しろ。リオンなら、俺が見張る」
「トーマ…」
振り返りながらトーマを見やるヴェイグ。トーマは、つまらなげに鼻を鳴らしながら、そっぽを向いた。
「さっさとやるならやれ。俺たちにはもうライフボトルのような蘇生薬もない。
R・エリキシルみてえな陣術の使い手もいない。だが、今ならまだそのヒューマを救えるはずだ」
「分かった!」
すかさずヴェイグはかがみこみ、その両手の光をプリムラに照射する。
ぱきぱきという音と共に、プリムラの傷口でたちまちの内に氷晶が成長を始める。
なまじ怪我が酷いがために、プリムラはもがくことさえ出来ないでいる。それが、不幸中の幸い。
この怪我は確実に内臓にまで達している。
だが、このまま傷口を凍らせて固定すれば、内臓の位置がずれて更に危険な状態になることはありえない。
己の傷口。ジェイの胸。ロイドの右手。三度も傷口を凍結させる処置をやれば、ヴェイグも既に手馴れたもの。
たちまちの内に、プリムラの傷口は完全に凍り付いた。細かな霜が、星のように降り注いでいる。
「いいぞ、GJってやつだ、ヴェイグ!」
グリッドは快哉の声を上げた。
その歓喜の声はたちまちヴェイグにも感染したのか、彼の口角にも薄い笑みが浮かぶ。
これで止血は完了した。後は彼女にグミさえ使えば、命に別状はなくなるはず。
ごは。
その声と共に、彼女の口内の血の泉が吹き上がった。
飛び散った吐血に、思わずヴェイグは顔をしかめた。顔面をかばった左手が、まだらに染まる。
大出血に伴うショックから、ようやくプリムラは目を覚ましたのだ。
「…はぁ……う………!」
「プリムラ! 意識が戻ったのか!」
グリッドは、慟哭の理由を悲哀から歓喜に変え、それでもまだはらはらと涙を流す。
思わず喜びのあまり、プリムラを抱きしめかけたグリッド。
だがその試みはヴェイグの裏拳にあっさり阻まれ、グリッドに「へぶえ」という声を上させただけに終わる。
「下手に彼女の体を動かすな。また凍らせた傷口が開いたら面倒だ」
「す…すまん……」
赤くなった鼻を涙目で押さえながら、グリッドは呻いた。
「お前もいい加減子供じゃない。少しは落ち着きを覚えろ」
吐き捨てるように、ヴェイグはグリッドに言った。
その言葉の中に、わずかばかりの戸惑いと、そしてそれ以上に僅かの憧憬を孕ませながら。
ヴェイグは、グリッドとの付き合いの中で、もう何度つかされたかも分からぬため息を上げた。
何故、自分はこうまであっさりこの女の救命に手を貸しているのか。
この女は、たとえ事情はどうであれ、一度は己を殺しかけた。
自身がこの女を殺す理由はあっても、命を救う理由などどこにあろうというものか。
そもそもが、この女が…
プリムラがカイルの手によって斬られたとき、ヴェイグはそのままプリムラに止めを刺すこともできた。
たった今、フォルスを放射した時も然り。
もう少しフォルスの出力を高めておけば、そのままプリムラの心臓を凍らせて、処置に失敗したふりをして殺せた。
それでも、殺さなかった。


『もうこれ以上、誰かが死ぬのを見るのは真っ平ごめんだ』。
確かに、これは本音だ。
だが、ヴェイグにはその本音と同時に、もう一つの本音を抱えてもいた。
それが、プリムラに対する猜疑心。
プリムラは、未だにステルスマーダーとして動いているのではないかという、疑惑。不安。
そしてその不安は、プリムラの命を断てば雲散霧消してくれるはずだったのに。
それでも、ヴェイグは殺さなかった。
決して己がお人よしだから殺そうと思わなかったわけでもない。
決して己が純真無垢だったから、隙を見て殺そうという考えが浮ばなかったわけではない。
カイルがプリムラを斬った…「斬ってくれた」瞬間に、心のどこかには快哉を上げるもう1人の自分がいた。
否定できない、事実。
けれども、己の心の中の、ユリスの領域に繋がる扉を、すかさず閉ざしてくれた仲間がいた。
グリッドが。グリッドの心の光が、闇への扉に錠を落としてくれたのだ。
だからこそ、こうして今自分は、プリムラの命を救おうと、ほとんど何の迷いも無く動けたのだ。
グリッドを一度、聖獣の試練に立ち向かわせてみたいと、ヴェイグはプリムラを診ながらかすかに思考する。
グリッドは、自分の知る限り、二番目に心が光に近い位置にいるヒト。
どの聖獣に会わせても、恐らく試練なしで力を与えることだろう。
光と闇の間で揺れ動く自分に比べれば、グリッドはきっと、聖獣の力を手にするにふさわしい。
凍結した傷口の様子を確認するヴェイグの瞳の奥には、そんな想いが揺らめいていた。
唇を必死に振るわせるプリムラを見つめる、その瞳は。
「あた…し……は……」
意識を再び取り戻したプリムラは、体から抜け出そうとする霊魂を必死に引きとめるかのように、か細く言葉を紡ぐ。
「…安心しろ。剣筋が少し反れて、それがお前の体に当たった。傷は深いが、処置は終えている」
「…そう……なの………」
「プリムラ! もういい! 喋るな! 静かに寝ていろ! 今ミラクルグミを飲ませてやる!
お前は助かるんだ!」
喜びと悲しみがグラデーションを作り、グリッドの舌の上で転がる。
残されたたった1人の、第一期漆黒の翼のメンバー…これ以上、仲間を失うわけには…!
「いい…わ……グリ…ッド………いえ…『団…長』………」
それでもプリムラは、頑なささえ感じるほどはっきりと首を横に振る。
それは、首を振るというよりは、本当にわずかな身じろぎにしか過ぎない、かすかな動きではあったけれども。
「いいものか! 漆黒の翼の規則を忘れたのか!! 『どんな時でも、仲間は見捨てるな』を!!」
「団長…本当に…もう……いい………わ…」
「いいものかと言っている! 団長としての命令だプリムラ! 生きろ!!」
「あたし……は…カト…リーヌ…を…殺した………同じ…漆黒の翼の…………仲間…を……」
はらり、プリムラの髪の毛が流れ落ち、ほぐれる。
「だか…ら……これ…は………その…罰……ね…………死刑の…執行だわ……
あたしは…人を…ひとり殺したの……ましてや…殺したのは……仲間………なのよ…………?」
「違う! カトリーヌを殺したのはミクトランだ!! たとえプリムラがその手を下したとしても、
下すように仕向けたのはミクトランだ!! いや……この島で殺された人達は、全員ミクトランに殺されたんだ!!!」
グリッドは、言い切った。
「おね…がい……あたしを…切り捨てて…………ミラクル…グミは……強力な…回復の…薬よ……?
あたし…みたいな……足手まとい…なんかより……戦える…人に……使う………べきよ…………」
「馬鹿を言え! このミラクルグミはお前が飲め!! たとえお前に戦う力が無くても…!
戦う力が無いなら……その熱い正義の心を刃に変えて、ミクトランに立ち向かえばいいだろう!!
正義の心は…世界最強の武器なんだ!!
正義の心がある限り…お前もミクトランを討つ正義の使徒…漆黒の翼の1人なんだ!!!」
そんな精神論でどうにかなるほど、この「バトル・ロワイアル」は甘くない。
そう言いかけて、けれどもヴェイグとトーマは、その言葉を大人しく呑み込んだ。
グリッドとて、そんなことは分かっているはず。
この島の中で誰よりも弱く、誰よりも無力感を味わった彼なら。
それでも、その言葉を発する彼の行為を、誰が止められようものか。
「だから…お前も生きろ……生きるんだよ! プリムラ!!」
ほとんど四つん這いの姿勢で、グリッドはプリムラに呼びかけた。
プリムラは、今度はただ一往復分だけ、その首を横に振った。
まぶたが重い。地面の奥、大地の底の底まで、体が引っ張られるような感覚が、プリムラを徐々に包んでいく。


「プリムラ! 駄目だ!! 生きろ!!!」
思わずプリムラの体を揺さぶりそうになるグリッドを、ヴェイグは再び制した。
「…限界だ。そろそろミラクルグミを飲ませないと、ミラクルグミそのものが間に合わなくなる」
「頼む、ヴェイグ! 早くグミを…!!」
ヴェイグは手の内に握り締めたミラクルグミの感覚を確かめてから、プリムラの口元に近づけた。
これを飲ませれば、彼女は助か――
フォルスの衝撃。
ヴェイグは突然のことに、危うくミラクルグミを手から取り落とすところだった。
「伏せろぉぉォォォォォ!!!」
野太い男の声。
たった今巻き起こったフォルスの衝撃の正体が、『リアルスマッシュ』の余波。
野太い男の声の持ち主が、トーマ。
一呼吸にも満たない短い時間の間でヴェイグが認識できたのは、それが限界だった。

===

答えが、見つからない。
(「僕」は、どうしたい?)
(「僕」は、どうすればいい?)
「フォルス」なる力で、プリムラを処置するヴェイグ。それを取り囲む一同。
彼らを見やる「リオン」の両手には、二振りの剣がわだかまっていた。
決めたはずだ。先ほど。
(「僕」は、「僕」自身の死で、あいつらの力になることを)
この島で殺めた命の数、5人。
5人が無辜の民であれば、たとえセインガルドの客員剣士という肩書きを以ってさえ、死刑台に送られるには十二分。
ましてや、己の余罪はそれだけではない。
ヒューゴの……ひいてはミクトランの姦計に不本意ながら協力し、天地戦争を再現した罪。
ヒューゴらに手を貸して以来、セインガルドには一度も足を踏み入れていないが、自身の扱いは予想できる。
国賊。売国奴。
セインガルド国民からは、そう罵られているに違いない。
殺人罪五件に国家反逆罪、それが罪状に書き連ねられた罪。
ヒューゴとの血縁関係のかどもある。
すべたが表沙汰になれば、自身が死刑になるどころか、下手を打たずとも確実に一族郎党皆殺しの判決が下るだろう。
それほどの罪をこの島の外で犯し、そしてこの島でその罪をまた増やし。
(それでも何故、「僕」は生きようとする?)
それでも「生きたい」と望むのは、なにゆえにか。
命惜しさも無くはないが、それ以上に自ら生け贄の羊となろうとするその手を止めるのは、一つの感情。
まだ、死ねない。まだ、死ぬべきではない。
適切な名詞にして表すことも困難な、この感情が…
リオンの自害の手を、ひたすらに阻んでいるのだ。
もう一つの、「手」が。
「リオン」のものではない、「彼」の「手」が。
「ジューダス」の手が。
「リオン」は、静かに右手にその視線を落とした。
アイスコフィンを握る、その右手に。
裾をまくれば今でも見えるはず。霊薬エリクシールの力により右手を接合した、その傷痕が。
(…この右手が、「僕」に生きろと叫んでいるのか?)
耳を澄ませば、本当に幻聴さえ聞こえてきそうな、物狂おしい気持ちで胸が一杯になりそうになる。
この竜骨の仮面のかつての持ち主であった、己の生き写しとでも言うべきあの少年の声が、聞こえてきそうな――。
ありえない。
死人に口無し。ジューダスは、死んだ。「僕」が、ジューダスでない確証は、どこにもないけれど。
「死ぬべき」という気持ちと、「生き延びるべき」という気持ち。
どちらも本当の気持ちなのだ。
二律背反を起こし、同時には持つことの出来ない気持ち。
この矛盾は、合一させ昇華させることなど出来ない。
どれほどの天才晶術師ですら、箱の中の猫を半死半生には出来ない。
ならば、手は一つしかない。
どちらかの気持ちに、嘘をつくしかないのだ。
「リオン」の二刀は、さながら蛞蝓(なめくじ)が地面を這うかのごとき速度で、後ろ手に回りつつあった。
今、自分にはトーマの視線が向けられている。下手な動きをすれば、トーマがすぐさま警告の声を上げるだろう。


(「僕」は、どうすればいい?)
答えが見つからない。
そのもどかしさでまた、1人で空回りし、仲間が違う誰かのところに行くのを、見守るほかないのか。
「リオン」の中には、片方の選択肢を選んだ後の筋書きなら、既にある。
彼らの持ちうる手札の内容は、おおよそならば見抜いている。
その手札の内容と、己のおかれた状況と。
それらをより合わせれば、彼らを利するに最適の策は、自ずと見えてくる。
その策は、吐き気がするほどに悪辣な筋書きであるけれども。
「…………」
ヒューゴの…実父譲りの狡猾さが、自分の中にも眠っていた。
その事実を認識して、リオンは腹立たしいような有り難いような、奇妙なもどかしさに軽い苛立ちすら覚える。
「リオン」はトーマやヴェイグらの今までの会話、そして漏れ聞いた情報を想起し、その「筋書き」を胸中で暗誦する。
間違いはない。ないはず。
それでも、下手をすればいつボロが出るかも分からない。
彼らの持つ手札の内容に、一つでも読み違えの鬼札(ジョーカー)があれば、その時点で終わり。
まさに、博打になる。
だが、その博打に負けるようならまたそれもよし。負けるというよりはむしろ、「ジューダス」が勝つのであれば。
自分の気持ちを自分で決められないなら、手は一つ。
弾いたコインの表裏に運命を託して、迷いを断ち切る。
「リオン」は、後ろ手に回した二刀に意識の焦点を絞り込んだ。
射手に引かれる弓の弦のごとく、「リオン」の腕の筋は力を蓄える。
この間合いならば、『魔神剣』を使えば必中を期することは出来るだろう。
だが、必中では博打にはならない。あえて試みるのは、やや不得手な投剣術。
投剣術なら、あいつの方が得意であっただろうに、とかすかに思考する「リオン」の脳裏には、彼の姿があった。
剣技『紅蓮剣』で、ディムロスを投げつける彼の姿が。
その姿は一瞬だけ「リオン」に去来し、そして砂嵐に吹かれた風紋のように、はかなく消えた。
代わってリオンの心に広がるは、波紋。
静けき水面(みなも)に一粒落ちた、水の雫が起こしたような、静謐な波紋。
明鏡止水。
雑念を、煩悩を、全ての心の揺らぎを払うように、リオンの内なる波紋もまた、水面に吸われ姿を消す。
もはや、どちらの腕が「リオン」で、どちらの腕が「ジューダス」か、それすらも意識から拭われる。
それもまた道理。
どちらが「リオン」で、どちらが「ジューダス」か。
それを意識しては、この「博打」は「博打」として成立しないから。
かすかに揺れる「リオン」の心。あるのはただ、剣客としての魂の揺らめき。
わずか齢16にして、リオンをセインガルド屈指の剣客たらしめた、剣士の才覚。
全ての波紋が、胸中に没した。
一閃。
もう一閃。
「リオン」の双手から、銀光が迸る。
「伏せろぉぉォォォォォ!!!」
野太い男の声。
それに続く、『リアルスマッシュ』の波動。
先行したのは、ジューダスから放たれたアイスコフィン。生への意志のきらめく氷刃。
アイスコフィンの刀身は、トーマの放った磁力の嵐に突っ込み、僅かにその軌道をずらす。
アイスコフィンの組成は、本来の剣のそれとは若干異なる。冷気を帯びた鉱石から成る。
そして、この洞窟の石灰岩質の岩肌は、トーマの「磁」のフォルスの十二分の発現を禁じていた。
「磁」のフォルスを不完全にしか受け付けない材質。そしてトーマを利さなかった洞窟の岩壁。
これらの要因ゆえに、トーマのフォルスでは、アイスコフィンの軌道を僅かに反らせるのが限界だったのだ。
風車のごとくに回る刀身は、トーマの頬を皮一枚切り、そして後方の岩壁に突き立った。
半呼吸遅れて、リオンの放った忍刀桔梗が迫る。死への意志をぎらつかせる白刃。
トーマは、愕然となった。


この間隔では、『リアルスマッシュ』は間に合わない。
『リアルスマッシュ』は、発動までにおよそ一呼吸の「溜め」が必要となる。
アイスコフィンを反らしてから半呼吸の間では、『リアルスマッシュ』は、よって発動が間に合わないのだ。
『マグネティックゲイザー』…論外。
この島では、導術もフォルスも、目標の選択が出来ないのは周知の事実。
ましてや、この密集状態。
ヴェイグやグリッドは吹き飛ばしても問題はあるまいが、足元にいるのは瀕死の重傷を負ったヒューマの女。
たとえ『マグネティックゲイザー』がとどめの一撃にならなくとも、まず確実にその衝撃が彼女を冥界の側に押しやる。
ミラクルグミでも魂を引き戻せないほどの彼方に。
キョグエン風の言い回しをするなら、三途の川に彼女を放り込むようなもの。
詰み。
トーマは、彼にしては珍しく、絶望の表情のまま表情を凍らせた。
彼に幾多の戦場を生き延びさせた、凄まじいまでの生への執着と諦めの悪さを以ってしても。
この状況は、トーマでさえも絶望せざるを得なかった。
死への意志をたっぷりと塗られた白刃は、トーマが張った磁力の防壁の残滓を、当然のように潜り抜けた。
この瞬間、「博打」の結果は確定した。
賽を仕込んだ壷は、開けられた。
「リオン」は、このときリオンとなった。

===

疾風。
ぼぞあ。
鋼の刃が、一陣の疾風と共に、肉を裂き骨を砕く凄惨な音を響かせた。
「…」
「……?」
「………??」
「…………???」
ヴェイグは当初、何が起きたのか、理解できなかった。
ミラクルグミをつまむ己の人差し指と親指。
そこからわずか指数本分の幅を隔てて、プリムラの口がある。
今や、血の泉と化した彼女の口が。
けれども、何かが先ほどと違う。
ヴェイグは、その違いを突如、理解した。
ミラクルグミと己の指が、鮮血に染まっている。
血が、飛び散った。
どこから? ……プリムラの口から。
では、何故プリムラの血が飛び散った? 彼女は既に、これ以上血反吐を吐き散らす力さえなくしているのに。
そして、その答えは簡単だった。
プリムラの口腔に別の物が、勢いよく飛び込んだからだ。川面に石を投げれば、飛沫が舞うのと同じ理由。
そして、川面に石が飛び込むようにして、プリムラの口内に飛び込んだ物はかすかに反った鉄の板だった。
その鉄の板は、縁が鋭く磨かれている。当たり前。それは、剣だから。
厳密には、「桔梗」と銘の入った曲刀。キョグエンの武器屋でよくありそうなタイプの。
ヴェイグは、おそるおそると、刀の飛んで来た先に視線を滑らせた。
忍刀桔梗を、プリムラに投げつけた左手が、虚空に佇んでいた。
その左手の持ち主は言わずもがな。
ジューダス……ジューダスの姿をした、リオン・マグナス。
忍刀桔梗の切っ先は、完全にプリムラの喉を貫き去っていた。
飛び込んだ忍刀桔梗の切っ先が、彼女の喉の反対側からのぞけていた。
プリムラは、いまだ自由な下半身を大きく振るわせた。
尿。大便。経血。三つあるありとあらゆる孔から、液体を、固体を、垂れ流し。
最後にびくん、と体を震わせたプリムラは、そのまま自身の作った赤茶色い尿の水溜りに、臀部を力なく落とした。
糸が切れた人形のように、だろんと四肢を地面に投げ出して。
当然のこと。
鋭い刃で、脳幹を貫かれたのだから。これで、生きていられる人間がいようものか。
一拍遅れて、冗談のように大量の血液が湧き上がる。そこにはたちまち新たな血の池が出来上がる。
体液という体液が、そこにはぶちまけられていた。
この冥府の底の、地獄の釜に。


グリッドは、死人でも見たかのように、顔面を蒼白にして言の葉を失っていた。
ヴェイグはミラクルグミを取り落とし、地面に両手を突いた。
カイルは、ひっ、ひっ、と喉を鳴らし、わなわなと全身を震わせていた。
トーマは悔悟に顔を歪めながらも、プリムラから目を反らす事はなかった。
「…………フン」
かつ、かつ、とリオンは一同の輪に歩み寄る。
リオンは、そして静かにプリムラだったものを見下ろしながら、ただ一言、こううそぶいた。
「使えないゴミが。やはり昨日、僕に命乞いしてきた時にさっさと始末しておけばよかったか」
『使えないゴミ』。『命乞い』。『始末』。
切り出された言葉のかけらが、一同の脳裏にふわふわと漂う。
まるで、形を成さないまま。
けれども、その言葉のかけらは、あくまでかけら。
かけらの端と端をつなぎ合わせれば、自ずとリオンの言葉の真意は浮かぶ。
そしてその真意に、最初に気付いたのはグリッドその人だった。
だん!!
グリッドはリオンの胸倉を突然掴み上げ、背後の壁に背を叩き付ける。
リオンの口から、苦しげな声が僅かに漏れた。
「テメエ……プリムラを脅迫していやがったのか!!!?」
その声は、ぎくりとヴェイグの肩を震わせた。
あれほど温厚で、憎悪を知らず、正義感に満ちた彼が、ヴェイグの知る限り初めて上げた怒号。
ヴェイグはそれに打ちひしがれ、腰のものに手をやることすら失念していた。
リオンは、そんなグリッドの視線を浴びながらも、それでも腹立たしいまでの落ち着きを失わない。
「昨日、その女が僕に向かって、剣を向けてきた。
もちろん、ズブの素人のそいつと僕じゃ、勝負にすらならなかったけれどな。
その女の体のあちこちの切り傷は、僕が付けてやったものだ」
「そこで命乞いしてきたプリムラを、テメエはステルスマーダーの手駒として
動くことを条件に、助けてやったわけか!!」
だんッ!!
グリッドは、もう一度リオンの胸倉を掴んだまま、壁に叩き付ける。
「…泣きながら僕に命乞いをしてきたザマは、随分と滑稽だったな。
靴の裏を舐めろと言えば、そのまま本当に舐めそうなほどだった」
「…ということは…まさか!」
ヴェイグは、感嘆符が視覚化されるのではないかというほどの語調で、確信と驚愕を舌に乗せる。
「ああ。プリムラが正気を戻ったのは、全て演技というわけだ。
厳密に言えば、正気に戻ったプリムラを僕が脅しつけて、今まで腹芸をやってもらっていた。
さすが情報戦のプロである、探偵を名乗るだけあったな。なかなかの迫真の演技だっただろう?」
「嘘だ!!!」
剃刀一枚差し込む隙間もないのではないか。それほどまでにグリッドはリオンに密着したまま、怒鳴りつける。
「俺がさっき見たあのプリムラの目は、心の底から自分の罪に苦しんでいる目だった!!
演技や腹芸で、あんな目が出来る人間がいるもんか!! デタラメをほざくのもいい加減にしろ!!!」
「どう考えるのもお前の勝手だがな、一つだけいいことを教えてやる」
「何だと…ぐぁっ!!」
密着状態から、リオンの肘が閃いた。
雁下を…右胸を強打されたグリッドは、咳と共に肺の空気を吐き出し、尻餅を突いた。
ヴェイグは、たまらず腰のチンクエディアに手をかける。抜き放つ。
放つは『絶・瞬影迅』そしてそこからの剣閃…!
「…『天国に行くのに最も有効な方法は、地獄へ行く道を熟知することである』」
リオンの言葉。ヴェイグは、いぶかしみながらもチンクエディアを止めた。
だが、リオンが…ジューダスの姿をしたこの男が妙な動きをすれば、即座に氷剣をお見舞いする。
ヴェイグはしゃがみ込んだまま、リオンの顔の竜骨を睨みつける。
リオンの口上は、その間にも続いている。
「世界各地で物見遊山気分で興行している、しがない旅芸人に過ぎないお前なんかに話しても分かるまいが、
本物の悪党はどんなに性根が捻じ曲がっていようと、善人の口にする理想論や綺麗事を、
一字一句間違わずに発することが出来る。
善人が何気なく他者に施す善意の行動を、完璧に真似する事が出来る。
腹の中に、とてつもない悪意を仕込んだままでもな。
本当の悪党は、善人の目を完全に欺くために、人間の善なる面をことごとく知り尽くしていなければならない」
「…………」
咳き込むグリッドは、それでもリオンに向ける視線に、怒りの炎を宿らせる。
「…俺は、旅芸人じゃねえ。正義の使徒、漆黒の翼のリーダー、グリッドだ」


「どちらでも構わないがな。
さて、僕の今言った本物の悪党……
つい先日の、ダイクロフト浮上の一件を起こした主犯格、ヒューゴ・ジルクリストがそのいい例だ。
世界に対しダイクロフトから宣戦布告を行ったあの男は、オベロン社の総帥として活躍していた間、
各地で慈善事業を行っていたし、公式の場の論壇でも世界平和だの人類愛だの、
善人の耳に心地よく響く演説を完璧にこなしてみせていた。
腹の底では、地上人を殲滅するという悪意を蠢かせたままな」
語りはするが、オベロン社の工場地下で瓦礫と海水に呑まれてからの記憶は曖昧。
ゆえにこれは、記憶の断片に推測という修飾を施しての語り口。
「…お前は、何が言いたい!!?」
絶叫するグリッドを軽くあしらいながら、それでもリオンは言葉を止めない。
「まだ分からないのか? つまり、プリムラも奴と同類ということだ。
心の底からの悔悟の光を目に宿したまま、人を姦計に陥れることのできる、な。
要は、完全な善人を装った食わせ物、というわけだ。
正直な話、僕もこの女にこれほどまでの迫真の演技を期待はしていなかった。
実に有り難い計算ミスだな」
「テメエは…テメエは俺達漆黒の翼の団員のプライドに、泥を塗るつもりか!!?
プリムラは…プリムラはそんなゲス野郎じゃねえ!!
嘘八百を並べ立てて、デタラメな当てこすりをするのは止めろ!!!」
全身を震わせるグリッド。リオンはそれに、さも皮肉げなニュアンスを込めて首を横に振り、切り返す。
「嘘八百…デタラメ……当てこすり………か。
さっきは人に『プリムラを脅迫したのか』と聞き、そして僕が『そうだ』と答えたら、
この返答。お前はプリムラを信じていたのか、それとも信じていなかったのか、どちらなんだ?」
「信じていた! 今でも信じている!! アタモニ神に誓って断言する!!!」
「口先だけなら、何とでも言えるがな」
「テメエぇぇぇぇぇッ!!!」
こめかみに青筋を浮かび上がらせ、グリッドはリオンに殴りかかった。
途中、ヴェイグに阻まれたが。背後から、羽交い絞めにされて。
「離せヴェイグ!! こいつはプリムラを…プリムラの命を侮辱したクソ野郎だ!!!」
「止せ!! だからと言って殴りかかっても、どうにもならない! 逆にお前がやられるぞ!!」
「相手が自分より強いからと言って、ビビッて引っ込むなんざ正義の味方のやる真似じゃねえ!!!」
「そういう問題じゃない!! 落ち着け!!」
「落ち着いてなんかいられるかァァァァァァァ!!!」
「落ち着けと言っている!!!」
ついに、ヴェイグはフォルスを解放した。
掌底を打ち込む要領で、グリッドの背中を突く。そこから、一気に雪花が綻び咲き乱れる。
雪花は一瞬で、グリッドの背中から爪先までを覆い、グリッドを縛(いまし)めた。
「…………!!」
その一撃は、グリッドの怒りすら凍結させたのだろうか。
グリッドは、唖然と自らの下半身を見やっていた。
そんな彼に、ヴェイグは疲れたように言う。
「足をしっかり凍らせて、地面の上に固定した。暴れても転ぶことはない。
奴にも言い分があるなら、問答無用で殴りかかるのは止めろ」
「だが…!!」
「言い分のある奴に問答無用で殴りかかる……それが、正義の味方のすることか?」
「!!」
ヴェイグはその一言で、とうとうグリッドを黙らしめた。
傍観するトーマは、一つため息をつく。
これでは、ヴェイグの方がフォルスを暴走させる暇もない、と。
喜ぶべきか呆れるべきか、トーマはまるで分からなかった。
そして、目の前のヒューマが殺された、その事実に対しても。怒りを感じるべきなのか。悲しみを感じるべきなのか。
洞窟はまたも静寂に包まれる。激したグリッドの残した、痛みすら覚えるほどの静寂に。
「とにかくジューダ…いや、リオン。お前は、今自分が何を言っているか分かっているのか?」
「十二分に分かっている。
そこの薬缶(やかん)か何かみたいに頭から湯気を上げて、1人で怒り狂っている正義馬鹿に比べればな」
「何を…!!」
「グリッド。お前は頭が冷えるまで黙っていろ。そしてリオン、グリッドを挑発するような発言はよせ。
進む話も、進まなくなる」
とうとうグリッドは、ぐうの音も出ないほどにまで、言葉を押し込められることになった。
ヴェイグはそれを確認してから、リオンに向き直った。


「どちらでも構わないがな。
さて、僕の今言った本物の悪党……
つい先日の、ダイクロフト浮上の一件を起こした主犯格、ヒューゴ・ジルクリストがそのいい例だ。
世界に対しダイクロフトから宣戦布告を行ったあの男は、オベロン社の総帥として活躍していた間、
各地で慈善事業を行っていたし、公式の場の論壇でも世界平和だの人類愛だの、
善人の耳に心地よく響く演説を完璧にこなしてみせていた。
腹の底では、地上人を殲滅するという悪意を蠢かせたままな」
語りはするが、オベロン社の工場地下で瓦礫と海水に呑まれてからの記憶は曖昧。
ゆえにこれは、記憶の断片に推測という修飾を施しての語り口。
「…お前は、何が言いたい!!?」
絶叫するグリッドを軽くあしらいながら、それでもリオンは言葉を止めない。
「まだ分からないのか? つまり、プリムラも奴と同類ということだ。
心の底からの悔悟の光を目に宿したまま、人を姦計に陥れることのできる、な。
要は、完全な善人を装った食わせ物、というわけだ。
正直な話、僕もこの女にこれほどまでの迫真の演技を期待はしていなかった。
実に有り難い計算ミスだな」
「テメエは…テメエは俺達漆黒の翼の団員のプライドに、泥を塗るつもりか!!?
プリムラは…プリムラはそんなゲス野郎じゃねえ!!
嘘八百を並べ立てて、デタラメな当てこすりをするのは止めろ!!!」
全身を震わせるグリッド。リオンはそれに、さも皮肉げなニュアンスを込めて首を横に振り、切り返す。
「嘘八百…デタラメ……当てこすり………か。
さっきは人に『プリムラを脅迫したのか』と聞き、そして僕が『そうだ』と答えたら、
この返答。お前はプリムラを信じていたのか、それとも信じていなかったのか、どちらなんだ?」
「信じていた! 今でも信じている!! アタモニ神に誓って断言する!!!」
「口先だけなら、何とでも言えるがな」
「テメエぇぇぇぇぇッ!!!」
こめかみに青筋を浮かび上がらせ、グリッドはリオンに殴りかかった。
途中、ヴェイグに阻まれたが。背後から、羽交い絞めにされて。
「離せヴェイグ!! こいつはプリムラを…プリムラの命を侮辱したクソ野郎だ!!!」
「止せ!! だからと言って殴りかかっても、どうにもならない! 逆にお前がやられるぞ!!」
「相手が自分より強いからと言って、ビビッて引っ込むなんざ正義の味方のやる真似じゃねえ!!!」
「そういう問題じゃない!! 落ち着け!!」
「落ち着いてなんかいられるかァァァァァァァ!!!」
「落ち着けと言っている!!!」
ついに、ヴェイグはフォルスを解放した。
掌底を打ち込む要領で、グリッドの背中を突く。そこから、一気に雪花が綻び咲き乱れる。
雪花は一瞬で、グリッドの背中から爪先までを覆い、グリッドを縛(いまし)めた。
「…………!!」
その一撃は、グリッドの怒りすら凍結させたのだろうか。
グリッドは、唖然と自らの下半身を見やっていた。
そんな彼に、ヴェイグは疲れたように言う。
「足をしっかり凍らせて、地面の上に固定した。暴れても転ぶことはない。
奴にも言い分があるなら、問答無用で殴りかかるのは止めろ」
「だが…!!」
「言い分のある奴に問答無用で殴りかかる……それが、正義の味方のすることか?」
「!!」
ヴェイグはその一言で、とうとうグリッドを黙らしめた。
傍観するトーマは、一つため息をつく。
これでは、ヴェイグの方がフォルスを暴走させる暇もない、と。
喜ぶべきか呆れるべきか、トーマはまるで分からなかった。
そして、目の前のヒューマが殺された、その事実に対しても。怒りを感じるべきなのか。悲しみを感じるべきなのか。
洞窟はまたも静寂に包まれる。激したグリッドの残した、痛みすら覚えるほどの静寂に。
「とにかくジューダ…いや、リオン。お前は、今自分が何を言っているか分かっているのか?」
「十二分に分かっている。
そこの薬缶(やかん)か何かみたいに頭から湯気を上げて、1人で怒り狂っている正義馬鹿に比べればな」
「何を…!!」
「グリッド。お前は頭が冷えるまで黙っていろ。そしてリオン、グリッドを挑発するような発言はよせ。
進む話も、進まなくなる」
とうとうグリッドは、ぐうの音も出ないほどにまで、言葉を押し込められることになった。
ヴェイグはそれを確認してから、リオンに向き直った。


「確認するぞリオン。お前はさっき、プリムラが正気を取り戻したのは全て演技だと言ったな?」
「ああ」
「そしてお前は、プリムラを脅迫してステルスマーダーとして振る舞わせていた、と言ったな?」
「ああ」
「つまり、リオン。
お前は今の発言で、限りなくお前自身の立場はマーダーか、マーダーに近いのだ、と白状したようなものだ。
そうだな?」
「そうなるな。それがどうかしたか?」
その発言を受けたグリッドは、リオンに灼熱する槍のような視線を向ける。
『こいつはクソ野郎だ。一片の疑いもない』。そんなメッセージを込めた視線を。
それでもヴェイグはグリッドの視線を知ってか知らずか。リオンに更なる追及を迫る。
「だが、その発言はトーマの証言と矛盾している。
『プリムラは兎も角リオンは既に五人殺していると告白した。
だからこそ、このタイミングで敵意を以て取り入るのは考えにくい』という証言とな」
「…ほう?」
「これがどういうことなのか、説明してもらおうか。
もしお前がステルスマーダーで、プリムラと共謀していたとするなら、何故突然それを明かした?
そして、何故疑われると知りながら、自身の罪を告白してまでトーマに取り入った?
この二つについて、答えてもらおうか」
ヴェイグはその言葉を紡ぐ間、一瞬たりとてリオンから目を離さなかった。
一挙手一投足、いかなる挙動も見逃すまいと。
きっかり二呼吸。リオンは顎に手を当て、回答の腹案を練る。
そして、リオンはおもむろに返答した。
「まずは、後者の疑問に答えるとしよう。自身の罪を告白してまで、トーマに取り入った理由。
これは簡単なことだ。
人間、普通は敵意を持たない相手、自ら弱点をさらけ出す相手に対し、ためらいもなく剣を向ける
ことはしない。戦場で白旗を上げた兵は、殺すよりはまず捕虜にするだろう?
また、自ら失態を責任者に報告した人間は、失態を隠そうとして余計事態を悪化させてしまった
人間に比べ、受ける叱責や懲罰は少ない」
「…つまり、どういうことだ?」
「『5人も人を殺したという極悪人は、普通罪を告白するようなことはしない。
告白すれば、どれほど手ひどい懲罰を受けるか考えれば、当然のこと。
それをあえて告白したということは、どれほど酷い罪悪感に苛まれているのだろう』…
普通の人間ならば、そう考えるだろうな」
「!!」
ヴェイグは、突然リオンの言葉の真意を理解した。
確かに、5人も人を殺すような大罪を犯しておきながら、それを告白するということは、勇気のいる決意。
それをあえて告白したなら、ヒトはその行為を美徳とみなし、少なくとも救いようのない悪人とは思いにくい。
だが、リオンはそこまでの計算をした上で、あえて罪を告白し一同の油断を誘った。
つまりは、そういうことになる。
命ですら平気で手放せるほどの胆力と、悪魔のような狡猾さがなければ成しえないような、狂気の沙汰も同然の策。
リオンは、それを成し遂げたと言うのだ。
「だが、もしトーマが昨晩の時点でこのミスリードに引っかからなかったら、お前はどうするつもりだったんだ!?」
まるで本物の悪魔の前に立たされたような薄ら寒さ。ヴェイグは、思わず声が上ずるのを感じた。
「簡単なことだ。その場でトーマを殺していた。トーマはあの時右手も動かず、満身創痍に近い状態。
かたや僕は、ジューダスから貰い受けた右手が若干不自由だったぐらいでほぼ全快。
…要は、この策には向こうから予め保険がかかっていたようなものだ」
「ジューダスの…腕……?」
「…フン、お前達には関係のない話だったな。
そして、前者の疑問に答えてやろう」
リオンは、俯いた。
俯き、影が彼の目元に落ちた。
沈黙。
誰も彼も、舌が麻痺してしまったかのような、重苦しい無音の世界。


そこに、ただ一つきり。
震えていた。
リオンの、肩。
ヴェイグは突然、世界の裂け目から音が漏れてきたのを感じた。
くつくつ、とでも表せばいいのだろうか、この音は。
違う。これは、「音」ではない。「声」。
リオンの、陰鬱な嗤(わら)い声。
彼の含み嗤いは、すでに誰もが聞き取れるほどにまで音量を上げていた。
「…簡単なことだ。何故ここで、僕がステルスマーダーであることを、明かしたか。
それは――」
リオンはおもむろに上げた左手の指を4本折り、親指だけを立てる。
「明かした手の内そのものが、相手の情報網を撹乱させるための偽情報か…
さもなくばお前達が既に、絶対に逃げられないほど完璧に術中に嵌まったと確信した状態で、
僕が三下の悪役よろしく、冥土の土産に策の内容を聞かせてやっているか……」
リオンは左手親指を、己の首筋に沿って鋭く撫でる。
「…もしくは、あえて策を明かすという、ステルスマーダーにはあるまじき奇策を打つ事により
お前達を混乱させ、その混乱で時間を稼ぐか…考えられることはそのくらいだろう?」
首をかき切る動作を終えたリオンは、にや、と口角を吊り上げてみせる。
ヴェイグの背は、既に脂汗でじっとりと湿っていた。
「まさか…お前は…!!」
震える声を上げるヴェイグ。それを尻目に、リオンは突如としてその首を跳ね上げた。
トーマの背後、洞窟の入り口に通じる、その通路向け。
「今だシャーリィ!! この中に全力で晶術を叩き込め!! こいつら全員、まとめて落盤で生き埋めにしろ!!」
リオンは、叫んだ。
「なっ…!?」
トーマは、弾かれたように後ろを向いた。
「馬鹿な!!?」
ヴェイグも、それに倣う。
「…………!!!」
グリッドは、ただリオンの姦計に息を呑むばかり。
「くそ…道理でこの洞窟内にテルクェスがいたわけか!!」
トーマは、そのまま駆け出した。
まさか、リオンとシャーリィが裏で共謀していたとは。
信じられない、その思いと同時に、トーマは自身の目の節穴ぶりにほぞを噛んだ。
もう、リオンの口上で時間はさんざんに稼がれた。
あれだけの時間…最上級の導術ですら、詠唱を完了させるには十分過ぎる。
だが、一縷の望みは捨てない。今なら、まだ詠唱を阻めるかも知れない!
トーマは口には一言も出さないながら、戦場で培ったありったけの悪態の語彙を己に向けた。
確かに、性根の腐りきった外道なら、「既に5人殺した」と罪を告白して油断を誘うくらいやるだろう。
ハロルドほどの策士さえ出し抜ける、リオンの極悪なまでのずる賢さをもってすれば、それくらい簡単だろう。
何故その可能性に、至れなかった!?
「どこにいやがる!? 叩き潰してや…!!」
「…なんてな」
リオンの声。再び、トーマは息を呑んだ。
振り向けば、リオンの構えた両の手の中に、闇色の晶力が渦巻く。
「…やられた!!」
「少々ハッタリで、時間を稼がせてもらった。僕の用意した本番は、こっちだ」
リオンの両手は、間違いなく洞窟の天井に向いている。
満面の、笑みを浮かべながら。
「ハッタリだと!?」
「くそぉっ…このドグサレ野郎ぉ!!!」
愕然と叫ぶしかないヴェイグ。悪態をつくしか出来ないグリッド。


『デ』
既に、詠唱は結びの句にまで達している。
『モ』
トーマの位置では、遠過ぎる。ここは鍾乳洞内。弱体化した『磁』のフォルスでは、これを阻むことは出来ない。
『ン』
ヴェイグは、ただ茫然と呆けることしか出来なかった。今からでは、チンクエディアの切っ先すら、リオンに届くまい。
『ズ』
グリッドなら、体当たりか何かで詠唱を防ぐことは出来ていたかも知れない。下半身が、凍り付いていなければ。
『ラ』
ヴェイグの施した処置が、ここに出て最悪の形で裏目に出た。グリッドがリオンに向けられたのは、ただ怒りのみ。
『ン』
リオンの繰り出す黒き槍がこの洞窟の天井に突き刺されば、間違いなく落盤が起こる。一同は、生き埋めになる。
『――――』
結びの句さえも、リオンの喉を、通り過ぎた。
ヴェイグの視界は、真っ赤に染まった。

===


「…………ッ!!!」
カイル・デュナミスは、夢中でソーディアン・ディムロスを拾い上げ、弾かれるようにそれを突き出していた。
ディムロスも、もはやあまりの事態に、ただ言葉を失っていた。
ディムロスの切っ先で、血の華が咲いていた。
肉を切り裂く、「ぶよ」とも「ぐちゅ」とも表現できそうな、鳥肌の立つような感覚。
「この………」
げぶしゃ。洞窟に、赤い花びらが舞い散った。
「この……!」
カイルは一筋、口元から赤い流れを覗かせていた。怒りの余り、歯をかみ締め過ぎて口内を切った。
「この…ジューダスの紛い者ッ!!!」
カイルの口元から、裂帛の気合の雄叫びが迸った。
ディムロスを、全身全霊の力を込めて、強引に横薙ぎ。
リオンの両手に集まっていた闇は、空しく雲散霧消するに留まった。
思わず目を背けたくなるような、凄惨な大輪の血華が空中に花開いた。
肉片やら、皮膚の切れ端やら、腸の一部やらが、盛大に舞い上がる。
当然のごとく。腹に突き刺さった剣を、強引に降り抜けば自明のこと。
背骨が露出するほどに、リオンはその右脇腹を抉り取られていた。
混じり合った体液という体液が、悪臭の交響曲を奏でる。普段は体内に封じられているべき異臭が、洞窟を満たす。
「ごぺあ」
リオンは、そのまま膝からくずおれた。腕で受け身を取ることすらままならず、そのまま顔面が地面に吸い込まれる。
破砕音を立てて、竜骨の仮面が砕け散った。
横薙ぎに振り抜かれたディムロス。血にまみれた切っ先が、刀身が、ぶるぶると震えていた。
「あんたが………」
カイルの発するその声もまた同じく。怖気にでも駆られているかのように、途切れ途切れに紡がれる。
「あんたが……あんたが…ロニを殺したんだな!!?」
「…その……通り………だ…………」
噛み切った血の筋に、透明な雫が混じりこむ。カイルの、顎の上で。
「ロニ…ゼロス…ポプラ……ソロン……ジューダス………そして、たった今殺したプリムラ…………
他にも何人殺したか…忘れたな……いちいち…覚えてなど……」
「そんなことは聞いていない!!」
リオンの口から漏れた「ポプラ」の名に、思わず眉を跳ね上げるヴェイグ。
だが、そのヴェイグの驚愕が怒りに発展する前に、カイルは強引に言葉を中断させる。
「…とにかく、今のであんたのハラは大体読めた。
あんたは…あんたは……もともとジューダスに似通っていた顔を使ってロニを油断させて、
それでロニの不意を討って殺した!! そんなところだろう!!!」
「…………」
次から次から、目じりに雫を浮かべて叫ぶカイル。
半ば当てこすりも同然のカイルの言質に、リオンは沈黙をもって答えていた。
「あんたが昨日の夜の内にジューダスを殺したのも…ジューダスの服を奪ってジューダスに成りすまして!
それで昨日の時点では生きていたリアラやハロルドや…!
そしてオレを騙して背後から殺す…! そういう腹づもりでやったんだな!!」
「…もしそれが本当だとしたら……どうするつもりだ……?」
がし。
カイルは竜骨を失ったリオンの頭に、己の左手をめり込ませた。
すでに自力で立つ力もなくしているリオンの首っ玉を鷲掴みにして、力ずくで体を起こす。
「決まっているさ…!」
カイルは右手に握り締めたソーディアン・ディムロスを、限界まで振りかぶった。
誰からも、カイルを制止する声は上がらなかった。
ディムロスですらも、沈黙を保っていた。いかなる意図を込めた沈黙であるかは、うかがい知れないにしても。
カイルは、一点でぴたりとディムロスを止める。
このままディムロスが薙ぎ払われればどうなるか。残酷なくらいその答えは明白。
「……あんたは、ロニを殺した。
あまつさえ、オレが先走って斬りつけてしまったこの女の人を、
みんなが介抱してくれているときに、剣を投げつけてたった今殺した!
挙句にはずる賢いハッタリまでかまして、オレ達を殺そうとした!!
ジューダスの姿で!!!
ジューダスの名を騙った上で!!!!」
カイルの怒りが、怒りのこもった拳の握力が、リオンの頭蓋を軋ませる。
リオンはただ、ごぽごぽと口元から血を吐くだけだった。


「お前はジューダスを騙ることで…
オレがあんたに一時とは言え寄せた信頼を…何よりジューダスの誇りを踏みにじった!
たとえリアラや…父さんや母さんが止めたって、許してやれと止めたって、あんただけは絶対に許さない!!
ジューダスのプライドを…オレの大切な仲間のプライドを血で汚したあんたは、絶対に許すもんか!!!」
刹那。
カイルの右手に込められた怒りが、爆炎の閃光となり炸裂する。
ディムロスの力とカイルの闘気とが混ざり合い火を噴く刀身は、さながらカイルの憤怒そのもののようにさえ思えた。
「ロニを殺した罪!
ジューダスの誇りを傷つけた罪!!
死んで……償えぇぇぇぇぇぇぇ――――――ッ!!!」
カイルの繰り出したディムロスが、リオンを強襲した。
とっさにリオンの頭を放し、即座にディムロスの柄に添えられた左手の力が、ディムロスの刀身を死の津波に変えた。
リオンの首は、高々と中を舞った。
その瞬間を、炎だけがただ無機質に映していた。

===

静かに。
ただ静かに。
その2人は、瞳に深い悲しみを抱えながら草原を歩いていた。
ソーディアン・ディムロスを握り締めたカイルと。
プリムラの遺髪を手にしたグリッドと。
カイルは、友の名と姿を、薄汚い殺人鬼に騙られた悲しみで。
グリッドは、とうとう最後の第一期団員を失った悲しみで。
瞳に深い色彩を宿したまま。
それをただ無言のまま見守っていたのは、ヴェイグと、そしてトーマ。
何だかんだで呉越同舟となってしまったヒューマとガジュマは、共に気まずげな沈黙に口を閉ざすしかなかった。
だが、トーマの沈黙の中にはまた、別の今が込められたいた事に、勘の良い者なら気付けていただろう。
沈思黙考。その言葉が意味するように、思慮のための沈黙を、トーマは漂わせていた。
「……さっきの…リオンの件だが……」
ぎろり。
その名を出すだけで、トーマを見るカイルとグリッドの目つきが、一気に険悪なものになる。
場の空気を変えようと発言したトーマは、しかしこれまた珍しく、気圧されたように口を閉ざす。
(リオンの件がどうしたというのだ、トーマとやら)
「ディムロス! もう止めてくれよ!! もうあんなクソ野郎、名前も聞きたくな…!」
(確かにそれは分かる。だが感情的になるのはよせ。
憶測で物事を判断すれば誤謬を起こすが、それでも今は憶測でも多くの情報が必要なのだ)
「けど……!」
(奴の…リオンの血をこの身に浴びて切り裂いたのは我だ。
我も決して気分は良くない。それでも、話を聞かねばならんのだ)
受け入れがたいが、その言葉は正論。カイルは口元をくしゃくしゃに曲げて、未だ腫れた目を地面に向けた。
「…すまねえな、ディムロスとやら」
(構わん。お前達は我に多くの情報を与えてくれた。この事態、勝負の鍵を最初に握るのは情報の多寡だ。
それが真実であろうと、真実に至るための誤謬や誤認であろうとな)
トーマの言葉に、ディムロスは答えた。
G3の洞窟にて、ハロルドの遺した資料を回収し、そしてカイルの晶術でリオンとプリムラを火葬して以来……
ここに来るまで、カイルとグリッドはただ沈黙を守っていただけだった。
ゆえに、この島の東部の情勢、西部の情勢の情報交換は、必然的にヴェイグとトーマを基軸に行われた。
そしてそれに聞き耳を立てていたのはディムロス、という構図になる。
この情報交換の間、キールの立てたいくつもの仮説や推測が、あるものは正しく、あるものは誤ったと証明された。
このやり取りの中で、ヴェイグは多くのパズルのピースがはまっていくことを、しかと実感した。
ハロルドの遺した暗号文。
カイルが不機嫌そうに証言し、また物証を実際に提出してくれた、ミトスの現在の居場所。
そしてキールが唯一知ることの出来なかった、リアラの死の顛末。
そして、今まさにトーマが放とうとしているその発言は――
「俺は、さっきからリオンの…ヤツの死に際の立ち居振る舞いが、どうにも引っかかってしょうがねえんだ」
(すなわち、何が言いたいのだ?)
「ヤツは死に際に、一芝居打ったんじゃねえか…って可能性だ」
そう、その可能性。
一同は、突然のトーマの発言に色めき立つ。


「今までお前は、そんな事を考えていたのか?」
「ああ。っつーか、死に際にヤツは一芝居打った、と考えると、俄然頭ん中がスッキリしやがるんでな」
ヴェイグに答えるトーマ。
トーマは見た目こそ巨漢であり、総身に知恵が回りかねているような印象もなきにしもあらず。
だがそれは、普段サレやワルトゥが、四星の頭脳ととなって動いているがゆえ。
あえて彼が頭を働かせる必要がなかったがゆえである。
何せトーマはヒルダに対し、十数年以上も嘘を突き通した前歴がある。それはまたヴェイグも知るところ。
(実を言うと、事態を静観していた我も、先ほどからその可能性を吟味していた)
ディムロスもそして、トーマの提示した仮説に同意を示す。
(全ての情報を知った今だからこそ言えるが、あの状況は実に危険な状況であった。
一触即発、下手をすれば全員が互いの剣をその身に受けて倒れていたかも分からぬ、な。
プリムラはヴェイグを刺したという前歴があり、ヴェイグはジューダスの姿をしたリオンに激しい疑心を抱いていた。
リオンはまた恐らく偶然に、カイルの知己であったロニを殺したことをほのめかせる発言を行い、
それによりカイルは混乱しその拍子に誤ってグリッドの仲間であったプリムラを斬っていた。
まったく、ミクトランが前もって膳立てたような、
ある種美しすぎるほどの疑心と混乱の錯綜する坩堝(るつぼ)だったわけだ)
「けど……」
カイルは、その手に収まった炎の大剣に、苛立ちの混ざったような疑問を提示した。
「けど、それが何でリオンが…ジューダスの名を騙ったあいつが、芝居を打っていたってことになるんだよ?」
「それはな、こういうことだぜ、小僧」
カイルを頭の上から、「小僧」と呼びかけたトーマ。カイルはその呼び方が不満なのか、若干口を尖らせた。
「あの状況をもういっぺん思い出してみろ。
その上で、洞窟での一件が全て、リオンが絵を描いた、プリムラごと俺達全員を洞窟に生き埋めにするための
策だったと仮定すれば……納得は出来ねえか?」
「…………。
……オレ、あんま頭は良くねえけど…言われてみれば、確かにそうだな、って気はするかも……」
カイルは豊かな金髪を掻きながら、首を傾げつつも、それでも一応トーマの物言いには同意する。
(ちなみに言っておくなら、リオンも持っていたソーディアンはシャルティエ。
地属性と闇属性を操ることが出来る。
我はクレメンテ老ほどには晶術に明るくはないから断言は出来んが、おそらく本当に洞窟を落盤させたとしても、
地属性の晶力で生き延びる策もあったかも分からないな)
「それを踏まえりゃ、奴は俺達全員を洞窟の最深部におびき寄せて、落盤で圧死させた上で自分は生き延びる…
そういう策を練っていた、と俺達をミスリードする土壌は整っていた。そういうことになるわ……」
「あーもう! 結局のところ何が正しくて何が間違ってんだよ!? いい加減オレ、頭がこんがらがりそうだ!!」
ディムロスとトーマの発言に、とうとうカイルは癇癪を起こす。
「策だのハッタリだの嘘だの! いい加減そんなのは勘弁してくれよ! オレにはディムロス達が
何言ってるのか、さっぱり分からねえよ!!」
このヒューマの少年の発言に、トーマは思わず嘆息しそうになる。
グリッドもまた、事態をちゃんと把握しているのかどうかも怪しいか。
ヴェイグは所在無さげに、口を噤んだままだであった。
ディムロスは、そこで大きく嘆息しながら、カイルに言い聞かせる。
(カイル。ならば、もう少し結論を…答えを詳細に述べ直そう。
リオンは、本来は『現役の』マーダーではなく、『元』マーダーであった。
リオンは白だった。ここまではいいな?)
「…オレはアイツが白だとは思えないけどな」


(カイル。リオンの行った行為がどうであれ、自らにとって不快な真実を受け入れなければ、迷妄に絡め取られるぞ。
…話を戻そう。若干長くなるが、我の推測したリオンの策の全容は、次の通りだ。
マーダーから足を洗ったリオンは、しかし先ほどの一触即発の事態を受け、自ら悪役を引き受けた。
リオンはあの短い時間のうちに計算したのだろう。
あそこでの一連の一触即発の事態は、自分がマーダーから足を洗ったと勘違いさせた上で、
更にプリムラをも抱き込んで一同を一網打尽にするための策でしたと言い放てば、
我らの疑心暗鬼を全て1人で背負える、とな。
無論それだと改心したはずのプリムラも巻き添えにして殺したことは、一見筋が通らないように思えるが、
説明ならいくらでも思いつく。
マーダーであるという前科を負ったプリムラを生かしておけば、
たとえ自分が死んだとしても疑心暗鬼の火種は残りかねないから、ついでに殺しておこうと考えたのかも知れん。
それに、プリムラ自身が言っていた通り、彼女は対マーダー戦に際して、ろくな戦力にならない。
あのまま事態を静観していれば、そのままヴェイグが彼女にミラクルグミを使っていた可能性が大きかった。
そんな『足手まとい』を、ミラクルグミを『無駄遣い』させてまで生き延びさせるなら、
いっそ殺して切り捨てた方が我らを利する。
だからヴェイグがミラクルグミを『無駄遣い』する前に止めを刺したのだとも考えられるな。
無論その後の口上で、我らに誤解を起こさせることも忘れない。
『くたばり損ないの手駒が余計なことを吐露する前に、口封じのために殺した』……我らをそう誤解させることも、な。
その後にやたらとグリッドを挑発するような罵言を吐いたのも、その場に渦巻いていた悪意を自分1人が背負い、
そしてグリッドを怒らせることで一同の冷静な判断力を奪い、グリッドをなだめるのに終始するよう仕向け、
自身の芝居のボロを出さないための、カモフラージュの布石だったのだろう。
更に、あたかもシャーリィと共謀していたかのような発言で、一同にブラフをかけ、
『ブラフをかけるという行為そのもの』で、芝居に更なる迫真性を持たせた。
とどめに、それで実際に晶術『デモンズランス』を詠唱し、疑いの余地なく一同から悪党だとみなされる条件を揃えた。
あとは、誰かが斬りかかり、己を殺しさえすれば万事解決。
こうしてリオンは我らの疑心暗鬼をその身に負い、カイルの手により屠られたというわけだ)
ディムロスがそれだけの発言を終えるまで、一同は一言も発言を差し挟まなかった。
(この推理の論拠は多々あるが、第一にリオンがヴェイグ・トーマ組到達前に、カイルに言っていたあの言葉…
『何ならお前に、殺されてもいいさ』という発言だ。
リオンはもとから、心の片隅では我らの生け贄となる覚悟を秘めていたのかも知れん。
そのために、あれほどの大芝居を演じて見せたのだ。
正直な話、リオンがここまでの計算をあの場で成し遂げたとは信じられん。
イクティノスやクレメンテ老に匹敵…否、それをも上回り兼ねないほどの知力…
そして並みの勇者など足元にも及ばぬ剛胆さだ。
闇組織お抱えの超一流の賭博師ですら、これほどの狡猾さと度胸を兼ね備えた者は滅多にいないだろう。
とにもかくにも、こうしてリオンはあの事態を可能な限り丸く収めるための人柱となったのだ)
「人…柱……か…」
突然に、その言葉が一同の輪の中に投げ出される。
びくりと肩を震わせた一同は、次の刹那その言葉を放った者を目と耳で探る。
一房切り取り、結ばれたプリムラの遺髪を手にした、グリッドがその発信者であった。
「…足手まといが生き残ってもしょうがないから、ミラクルグミを要らないと言ったプリムラに、
せっかく改心したのにそのプリムラを足手まといになるからって斬り捨て、自分も死んじまったリオンに……
みんな、どうして自分の命を道具みたく扱えるんだろうな…?」
ぽつり。その言葉は、一滴の雫のように零れ落ちる。
さくさくと、草原を踏む一同の足音。
草を踏む音と、風の音。
これらの二重奏に割り込んだのは、一つの心の声だった。
(…兵の損失は、かけがえのない人間の数え切れぬ死ではなく、兵力という数字の減少。
命とは、一度失えば二度と取り戻せぬ輝きではなく、大儀のために用いられる消耗品。
……残念ながら、それが戦争というものだ)
ディムロスは、慎重に言葉を選ぶように、とつとつとコアクリスタルを光らせる。


(この『バトル・ロワイアル』という忌まわしい催しもまた、立派な戦争だ。
国家対国家でなく、個人対個人に限定されたものとは言え、な。
それを鑑みれば、残念だがグリッド、お前のその問いかけは愚問だ)
「どうして、どうしてそれが愚問なんだよ!?
あんたはリオンが下した、足手まといのプリムラはここで死ぬべきって判断を手放しで賞賛するつもりかよ!?
そんなのどう考えたっておかしいじゃないか!!
人間誰だって、死にたくはないだろう!!? 人間誰だって、天寿を全うする権利があるだろう!!!
死にたくない、生きたいって気持ちが同じだから、俺達人間は互いを慈しみ合って、
愛し合って、大切にし合って仲良く生きていられるんじゃないか!
自分の畑で麦が取れたから隣の家に麦を分けて、お返しに隣の家が狩って来た獣の肉をもらって!
そんな身近な人間を慈しみ合う気持ちを…
お互いの持つ命を尊びあう気持ちを持つ方が、精神が異常だって言いたいのかよ…
人間の命なんざ所詮は使い捨てのチェスの駒だとでも言いたいのかよ…!!
あんたら軍人って人種は!!?」
(違う!)
「それは違うぜ、グリッド」
ディムロスとトーマ。2人の軍人は口を揃え、グリッドの悲嘆とわずかばかりの軽蔑を否定する。
「いいか、グリッド。俺達軍人っつーのは…その……なんだ…」
「何なんだよ、トーマ?」
「…済まねえ、ディムロス。お前に任せる」
恨めしげに詰め寄ったグリッドに気圧され、思わず言葉を失するトーマ。
もとより抽象論だの何だのと言ったものは、トーマの得意とするところではない。
ディムロスは、もう何度目かも分からぬ嘆息を漏らし、トーマに振られた話を引き取った。
(いいか、グリッド。確かにお前の言う論理は正論だ。
隣人を慈しみ、友や肉親を愛するその気持ちは、人に与えられた最も尊い徳の一つだ。
隣人を慈しむ気持ちこそが、世界を平和に至らせる第一歩と、アクアヴェイルのある思想家も説いている。
我もそれは否定しない)
「じゃあ、どうして……!?」
(しかしだ、グリッド)
ふわり。
草原の風が、静かに渦巻いた。
ディムロスは草原の風の止む頃合を見計らうようにして、言葉を続ける。
(お前の言うその論理は、人が人に対して覚える第一義の感情が、友愛心のみであるときにだけ成立する。
お前もこの島でまる2日以上を過ごせば嫌というほど分かるだろう。
人は、他者の気持ちを推すことはできても、知悉することは出来ない。
そして、人は他者の心の覚える喜びや痛みをじかに知ることは出来ない。
それゆえに直接感じることの出来る、自らの喜びや痛みの方をどうしても重視するきらいがある。
他者の心より、己の心を見つめてしまいがちなのだ。
これらゆえに人は労わりを失い、利己に走る。
それが猜疑心を生み、人はすれ違い、いがみ合い、友愛心はいつしか憎悪に変わり、
最終的に個対個の殺し合いや、国対国の戦争にまでもつれ込む)
風ですらも、その歌を止めた。
あたかもこの世界全てが、ディムロスの言葉を傾聴しているかのように。
(実は自分の隣で共に戦う友が、腹の内に殺意を潜ませたステルスマーダーかもしれない。
友情をちらつかせるその胸中では、
己をこの『バトル・ロワイアル』で生き残らせるための道具としかみなしていないかもしれない。
猜疑心が猜疑心の連鎖を生み、それが本来ならば友になりえた者同士の戦いを生む。
たとえ悪意のない嘘という火種からでも、疑心暗鬼という火は燃え上がる。
そして信頼と猜疑のはざまで我田引水を目論む、ステルスマーダーという下衆がいるからこそこの火種に油は注がれ、
この島に満ちる狂気という火を煽る風があるからこそ、
ひとかけらの『疑心』という火種は、
『憎悪』という名の炎に育ち、
『殺意』という名の猛火と化し、
そして人の命を焼き尽くす。
それが殺し合い、そして戦争なのだ)
その言葉は、一同に染み渡った。
ゲオルギアスの思念ゆえに、全面戦争一歩手前にまで育ったカレギアの争乱…
それをこの目で間近に見つめ続けてきたヴェイグと、トーマの腹に。
遥かなる時空の旅の中で、天地戦争を目撃したカイルの胸に。


「けれども…けれども!」
それでもなお、グリッドは反論の声を止めない。ディムロスに、必死に切り返す。
「それなら、お互いが話し合えば…そうすれば通じるはずだ!
何も剣を交える前に、言葉を交えればいい! 人間誰だって生きたいって気持ちを持っている!
その気持ちを言葉に乗せて話し合えば…お互いの心の内を全て吐露すれば、人を疑う気持ちなんて消える!!
どんな相手とだって理解しあえるはずだ!」
(消えなどしない。むしろ言葉を交わせば交わすほど、話し合いという光を互いの心に当てあうほどに、
相手の心の見えない部分…相手の心の闇が一層深く際立つ場合も多い。
相手の心の闇が恐ろしいなら…相手が秘めた思惑が恐ろしいなら…何らかの方法で相手の心の闇を消すしかあるまい。
相手の心を殺すか、相手を心ごと殺すか、その二択でな)
「…そんなの暴論だ! 相手の心が分からないから、相手の心を消してしまえなんて!」
(ではお前は、人は他人の心の全てが、全て理解出来るようにになっていた方がいいとでも言うのか?)
「当然だろう! お互いの心の全てが分かれば、相手の心の感じる喜びや痛みが分かれば、
あんたの言う無知からの利己なんてなくな…!」
(その発言こそ暴論だ、グリッド!)
ディムロスのコアクリスタルが、一層深く強くきらめいた。
ディムロスの声には、その痛みを身を以って感じた者でなければ、放ち得ない重みが宿っていた。
(…ならば、逆にお前に聞くぞ、グリッド。
今回この『バトル・ロワイアル』を企画したミクトランのことだ。
奴は千年前、この世界の蒼穹全てを天上人の手で独占せんとして、天地戦争を引き起こした。
それから千年後、奴はオベロン社の総帥ヒューゴ・ジルクリストを洗脳し、天地戦争を再現した。
そして今回、一度はスタンらの手により葬られたはずのミクトランは、いかなる手段を用いたか不明だが、
とにもかくにも再び蘇り、本来ならば交わるはずのない過去を、現代を、未来を繋ぎ、
異世界と異世界を結び、この島という異次元空間を創り、この『バトル・ロワイアル』を企てた。
奴にしてみれば、地上人である我らと、異世界の住人であったガジュマや水の民やハーフエルフや…
そういったものとの争いは、闘技場での剣闘士の戦い…否、虫けら同士の醜い椅子取りとしか思っていないだろう)
「それがどうしたって言うんだ!?」
(相手いかんを問わず、そのの心を理解するとは、
この『かけがえのない人間の数え切れぬ死』であるはずの『バトル・ロワイアル』を、
『虫けら同士の醜い椅子取り』と感じる、そのミクトランの精神すらも理解せねばならぬということだ。
お前は、そのミクトランの狂気じみた…狂気そのものの想念をも理解すべきだとでも言うつもりなのか?)
「!!」
グリッドは、思わず手にしたプリムラの遺髪を取り落としかけた。
取り落としかけた遺髪を、おそるおそる見る。
鋭い痛みが、グリッドを駆けた。
グリッドの視界が、再び歪んだ。潤った。
「そんな…そんな馬鹿なこと、出来るわけないだろう!」
(ようやく分かったか。お前の言っていた、『相手の心を全て理解できるようにになっていた方がいい』という論理は、
そんなふざけた、狂気の沙汰をも肯定するということなのだぞ。
たとえどんな理由があったとしても、地上人だけに留まらず多くの人々の苦しみを悦楽に感じる
ミクトランの心のありようなど、理解できぬし理解する必要もない。むしろ、理解する方が馬鹿者だ。
それによしんばミクトランが、我らの感じる苦痛や悲哀や恐怖を我が身のことと感じるようになったとしても、
むしろ奴は狂喜乱舞するに終わるだろうな。
この際だからもう一つだけ言っておく、グリッド。
お前の言っていた論理は、我の想起しうる限り、もう一つ成り立たぬ事態が存在する。
それは、『相手が狂人であった場合』だ)
プリムラの遺髪が、グリッドの涙を吸う。
もうこれしか残っていないプリムラの生きた証が、静かに濡れそぼる。
ディムロスは、それでもグリッドへの言葉を、ひたすらに紡ぐ。
(狂人にも様々な類がある。殺人狂、自殺志願者、サディスト…。
この手の人種はどれも、お前の言った友愛心や生きたいという気持ち、という大前提を完全に逸脱した、
『例外』とも言うべき存在だ。
殺人狂やサディストと言った連中は、相手の苦痛をたとえ理解したとしても、その苦痛を喜びにすら感じる。
自殺志願者は自ら死を望み、生の喜びを忘れている。
そして、ヴェイグ。お前が伝えてくれたマーダーの中に、狂人は少なくとも2人いるだろう?)


「…ああ」
ヴェイグは、反駁の声をぐっと抑え、ディムロスに是と返答する。
「デミテルの呪術により発狂したと思しきクレスという剣士…
そして……かつての優しさを失った俺の友……ティトレイだ」
「クレス…あいつか……!」
その言葉を聞いたカイルの手に力がこもると共に、昨晩のあの光景がフラッシュバックする。
下卑た歓喜に顔を歪めた、殺人鬼が。父をその手にかけた、あの男が。
(そして、残るマーダーもまた然り。
ヴェイグの伝えてくれたあの少年…ロイド・アーヴィングおよびカイルからの証言によれば、
ミトス・ユグドラシル…我も奴とはほんの僅かながら面識があるのだが…は、愛した実姉を蘇生させるために
リアラを殺し、ミント・アドネードとコレット・ブルーネルを人質に取り、現在C3の村に潜伏している公算が大きい)
「だがディムロス、その件については…」
(無論、心得ている。ロイドなる少年にミトス・ユグドラシルの件を伝えるときは、細心の注意を払え、だろう?)
ヴェイグは、己の言葉尻を引き取ってくれたディムロスを、無言で首肯した。
下手に現在のミトスの位置をロイドに告げては、キールの立てた作戦案が崩壊しかねない。
キールの立てた作戦の当面の課題…
食料及び水の不足は、トーマのもたらしたミミーの遺品、ウイングパックにより解消した。
あとはE2に残ったロイドらと合流し、負傷者を完治させるだけ。
そして最終的にはひたすらにマーダーから逃げ回り、クレス及びティトレイの弱体化やマーダーの同士討ちを狙う。
この計画が、崩れかねないのだ。
ミトスの位置が判明すれば、ロイドのことである。ミトスに捕らわれたコレットを救いに行こうとするはずだ。
最悪満身創痍の体を引きずって、単騎でのC3の村への特攻すら、本当にやりかねない。
ミクトランのこの計画を粉砕するための、一同の最後の切り札である時空剣士が、犬死にしかねないのだ。
(…そして、残るシャーリィ・フェンネス。
奴と昨晩交戦したトーマ及び戦いに巻き込まれたグリッドの聞いたという、錯乱気味ながらも放たれた奴自身の発言、
そして先ほどヴェイグが証言してくれた、ジェイという少年から経由したという彼女の情報…
それらを総合して考えると、奴はあろうことかミクトランの『優勝賞品』の甘言に踊らされ、
実兄を蘇生させるために、この『バトル・ロワイアル』の優勝を目指し、マーダーとして動いているという。
どう考えても奴の提示した『優勝賞品』は、参加者を殺し合いに駆り立てるための口から出任せとしか思えぬのに、だ。
ミトスやシャーリィは、つまり失われた誰かの命を蘇らせるためなら、
他の参加者の命全てを踏みにじることも辞さぬ構えだろう。
若干話が横道に逸れたが、グリッド、お前はミトスやシャーリィのような者の考えすら、
理解しろとでも言うつもりか?)
「…………いや…」
グリッドは、か細く、しかし、はっきりと。
ディムロスの言葉に、否定の意を示す。
ディムロスは、それに答えてグリッドを諭すように言う。
(グリッド。もう一度言おう。お前の掲げている論理は、確かに正論であり理想だ。
だが所詮、理想論は理想論に過ぎん。
その理想は、人の疑心が混じり込めばたやすく崩壊するし、そもそも世の中には最初からお前の論理の埒外に
立っている人間もいる。
そして悲しいかな、世の中で第一に悪事をなす連中は、大抵の場合その論理の埒外に立つ者達なのだ。
この島に残る4人のマーダー、そしてこの鬼畜の所業をやらかしたミクトラン。奴らがその最たる例。
残念ながら、本物の悪人どもは、道徳や誠意で捻じ伏せることは出来ん。
まずそいつらを捻じ伏せることが出来るのは、恐怖。
そして恐怖ですら捻じ伏せられない狂人を、唯一捻じ伏せることが出来る力は、死のみだ。
すなわち殺人行為。法の下に行われる死刑、暴力による殺害、過剰な心労を与えての精神の殺害……形はどうであれな)
「…………」
グリッドは、とうとうそれきり、口を噤んでしまった。
「だがな、グリッド」
「?」
そんなグリッドに、次に声をかけたのは、トーマ。
「お前のその理想論は、戦場でなきゃ、大いに信じるに値すると思うぜ」
「トーマ…お前…!?」
思わず、ヴェイグは己の耳を疑った。
あのトーマが、そんな事を大っぴらに口に出して言うなど、バイラスがヒトと和解したというくらい信じられない。
ヴェイグの驚嘆の視線に絡め取られたトーマは、しかしながら、実にばつが悪そうにそっぽを向いた。


「フン…そうとでも言わなきゃ、お前らも俺を信用しないだろうからな」
ヴェイグは思わず顔をほころばせる。そしてそのまま右手をトーマに差し出す。
「…ああ。だからこそ俺も、呉越同舟とは言えお前を信じようという気になれ…」
「だがお前との馴れ合いはごめん被るぜ、ヴェイグ」
結局、ヴェイグの右手は、空しく宙に差し出されたままに終わった。
さまようヴェイグの右手を尻目に、トーマはグリッドの方に顔を向ける。グリッドに、その言葉をかけるために。
「グリッド。お前の言っているその気持ちは、ヒトとして当たり前の気持ちだろうと思うぜ。
俺も『王の盾』としてカレギアをあちこち巡ってきた。当然、平和な地域も不穏な地域も、色々と見てきたぜ。
平和な地域ってのは、そこに住んでる連中がヒューマもガジュマも関係なく、互いが互いを大切にし合っていた。
ヴェイグの住んでたスールズなんて、その最たる例だ。
俺も昔は、そんな風に安穏と暮らしてる連中をおめでたい阿呆どもと思っていた。
だが世界中のヒトが、そんな風におめでたい阿呆として暮らせると考えりゃあ、それもまあ確かに悪くねえ。
そんな風に暮らせりゃ、ヒューマだのガジュマだのって言い争いなんざ、下らねえ問題だろうよ。
ヒューマはガジュマに『俺達には苦手な力仕事をやってくれてありがとう』、
ガジュマはヒューマに『俺達じゃあ手間取る考え事をさっさと済ましてくれてありがとう』、
こんな風にして世界が回っていきゃあ、これほどお互い気持ちよく生活できるこたぁねえ」
トーマの一言一言を聞くたびに、震える。
グリッドの唇が。
ヴェイグの拳が。
感極まったように、ヴェイグは言う。
「トーマ! お前、やっぱり…!」
「勘違いするなよ、ヴェイグ。
そうなってくれりゃあ、俺達『王の盾』の仕事が減るからだ。
ジルバのババアの顎でいいように使われて、
行きたくもねえスールズみたいなド田舎まで駆けずり回されることもなくなる。
俺達だってヒトなんだから、汗水垂らして必死こいて、時には命まで張って給料もらうくらいなら、
国からもらった豪勢な邸宅でゴロゴロして、うまいメシを食って女と寝て給料をもらう方が断然いいに決まっている。
カレギア中がおめでたい阿呆で溢れ返れば、俺もまた万々歳ってわけだ」
ヴェイグは、思わず脱力しかけた。
「…そういう意図で言ったのか?」
「当たり前だ。他人様が食ってる飯がいくら美味かろうが、俺自身が美味い思いを出来ねえなら関係ない。
愛だの慈しみだの、そんなクソみたいなご高説はてめえら聖人君子様達で勝手にやってな。
どの道世界が平和になるなら、カレギア国民はお互い気持ちよく生活できるんだろ?
そして俺は家で好きなだけ上玉の女を抱いて気持ちよく生活する、ってわけだ」
「ト…トーマ!?」
トーマが口にした卑猥な冗談で、ヴェイグは思わず声を上ずらせた。
カイルなど、顔を耳まで赤くして俯いている。
トーマは2人の動揺ぶりに、思わず吹き出した。
涙を乾かせたグリッドも、一見堅物風のヴェイグが慌てるのを見て、笑い声を唱和させる。
ディムロスは、ただ絶句した。
2人の笑いの発作が治まるまで、一同はその足を止めることとなった。
「…というわけで、だ。グリッド」
ようやくのことで笑いの発作を押さえ込んだトーマの、第一声。
「この『バトル・ロワイアル』が終わったら、お前は精々その阿呆さ加減を、
出来るだけ多くの奴らに伝染させてやれ」
「ああ、任せておけ!」
グリッドは、答える。
「出会う奴どいつもこいつも、お前の甘っちょろい理想論を吹聴して回ってやれ」
「もちろんだ!」
答える。
「で、世界中の人間を阿呆にしたら、平和やら理想やら、とことんまで教え込んでやれ」
「おう!」
まだ答える。
「その綺麗事で、世界を平和にしてみるこったな。それで、俺ら軍人にタダ飯を食わせろ。いいな?」
「たっぷり食わせてやるから安心しろ! もちろん、美人の女も忘れず付けるからな!」
それが、グリッド。


「間違えてもヒューマの女をよこすなよ。
牛のガジュマの上玉だ。特に茶色い体毛が艶めかしい、乳がパンパンに張った奴なら言うことねえ」
そういうトーマの口角には、いつしか下品な笑みが浮かんでいた。
「そうかトーマ! お前はおっぱいが好きか!」
「ああ、大好きだぜ!」
「おっぱい! おっぱい!! ってヤツだな!」
叫ぶグリッドは、胸の前で握り締めた拳を、勢いよく振り続けていた。
「…っと、そうだ。そろそろ俺たちはあそこに差し掛かるぞ! 魔杖ケイオスハートの落下地点近くだ!」
振りかざす拳を止め、グリッドははたと我に帰ったように言った。
トーマもそこで、下卑た笑みを消し去り、再びその目に戦士の炎を宿らせる。
「お前らの言っていた、強力な導術の増幅効果を持つ例の杖だな」
「ああ! あれをゲットすれば、俺達は百人力だ!
晶術……じゃなくて、晶霊術の達人のキールも、E2の城で待っている!
キールにケイオスハートを渡せば、どんなマーダーだって怖くないぜ!」
「よし、それじゃあさっさと回収するか」
「おう、飛ばして行くぜ!」
奇声を上げながら、グリッドは両手を地面と水平に、翼のように広げ、丘陵地帯を駆け出す。
巨躯を揺すって、トーマがそれに続いた。
丘を一つ。二つ。三つ。
次々と越えるグリッドとトーマは、たちどころにその姿を豆のように小さくしていった。
あとには、ただ寒々しい風が一陣、吹き残る。
ヴェイグは、偏頭痛を必死にこらえるように顔に手を当て、うなだれた。
カイルは、独り言をぶつぶつ呟きながら、時おりその中に
「リアラごめんオレ変な想像する気はなかったんだけど」的フレーズを挟み、顔の紅潮が収まるのをひたすらに耐えた。
ディムロスのコアクリスタルの輝きは、今にも消えそうなほどに弱かった。
(……グリッドのような手合いに、真剣に説教をした我が愚かだったか)
「済まないディムロス、もし頭痛に効く薬草がこの辺に生えていたら、教えてくれないか」
「いやだからオレが悪かったって正直ほんとゴメンリアラそんな鬼みたいな形相で迫るのは止めて」
3人は、マーダーとの戦いを前にして、力尽きかけていた。
心労で。
(と…とにかく! くだらん笑劇はここで終わりだ)
ディムロスは己のみならず、ヴェイグとカイルにもまた喝を入れるようにして、叫ぶ。
(トーマがグリッドに付いているなら、ひとまずマーダーの奇襲があっても問題はあるまい。
2人が魔杖とやらを回収しているうちに、我らは今まで手に入れた情報を、もう一度簡単に整理するとしよう)
「ああ。とりあえず、これを」
ディムロスに二つ返事で答えたヴェイグ。羊皮紙を懐から取り出し、一同に見せた。
リオンとプリムラの遺体を焼き、リアラを改めて丁重に葬り、その前後で手に入ったものもいくつかある。
リオンとプリムラから回収した、支給品。
念のためと、4人で洞窟内を捜索し手に入れた、いくつかの品物。
ハロルドが洞窟に残した研究成果。
そしてこれこそ、グリッドが昨晩ハロルド自身から回収を命じられていた品物。
見つかったのは、それだけではない。
瓦礫に埋もれた、少年の遺体。
そのそばに残されていた、不気味なオーラを放つ玩具。
真紅の髪を逆立てた、謎の青年をかたどった人形(ちなみに、ボタンを押せば妙に高飛車な声が出る)。
ロイドと多くの言葉を交わしたヴェイグは、その少年の正体も看破できていた。
ジーニアス・セイジ。ロイドの友人の1人。
ヴェイグは、グリッド共々そのことを口外はせぬよう、約束し合った。
ロイドはもう、十分にコレットのことで心労に苦しんでいる。
これ以上、彼の肩に重荷をかけるわけにはいかないと、そう判断したがゆえの決断であった。
そして何よりも、あの洞窟で手に入った品物の中で、奇怪さなら他に引けをとらぬ、この品物。
それが、ヴェイグの今手にした、一枚の羊皮紙である。
(リオンの右手の残した、ダイイングメッセージだな)
ディムロスは、ヴェイグにあわせてコメントを漏らす。
カイルがリオンの首を刎ね飛ばしてより、「それ」は起こった。
死んだはずのリオンの右手が、ひとりでに動き出した。
ディムロスは当初、まさかリオンが再び屍生人(ゾンビ)と化して蘇る前兆か、と大いにいぶかった。
だが、「生き返った」のはリオンの右手のみ。
その右手は、リオンの体から溢れ出た、己の血を使い、地面に血文字を描いたのだ。
軽妙洒脱な、セインガルドの公用語。


それだけを残し、右手もまた息絶えた。
グリッドやカイルは無論のこと、カレギア人のヴェイグやトーマにも、その文意は分かる。
知らない言語を理解できるというのは実に不可解ではあったが、
ヴェイグは、ミクトランが図ったと思しき原理不明の便宜に、このときばかりは感謝した。
そして、ヴェイグの手の中に残されたのは、その血文字を一字一句違わず書き写した、その写しである。
「…これも、ひとまずはキールに見せるとするか。あいつの死に際の考え…何かのヒントになるかもしれない」
「あいつが死に際に何を考えてこんなことやったのかなんて、知りたくもないけどな」
カイルは不快ここに極まれリとばかりに、盛大に鼻を鳴らす。
(よさないかカイル。これとて、どうやらミクトランと繋がっていた節の見られる、リオンのダイイングメッセージだ。
この文面に、この『バトル・ロワイアル』の真相を垣間見るための手がかりがあるのかも分からんのだぞ)
「オレ達をハメるために、あいつが死に際にデタラメを書いているかも知れないじゃないか」
(ならば、リオンの死に際のあの立ち回り…お前はどう説明するというのだ?)
「それは……そうだけどさ…」
もごもごと、カイルの語調は段々と自信なさげなものに変わってゆく。
そんなカイルを見て、ディムロスはいい加減数えるのも嫌になるほどのため息をついた…
もとい、ついていただろう。この身がソーディアンでなければ。
このメンツと出会ってから、つくづく己の元人間のときの感覚を刺激される…ディムロスは1人ごちる。
肉体を失い、1000余年。
それだけの時を経ても人間の感覚を覚えているということは、ディムロス・ティンバーがかつては人間であった…
人間の肉体という器に心を宿して生まれた存在であったことの証左か。
ディムロスが思索に耽りかけた、その時。
鼓膜を震わせるような、高音。
長時間聞いていると、耳が痛くなりそうな響鳴が、一同を捉える。
「何だ、この音は?」
ヴェイグは辺りを見回し、その音源を探そうとする。
「…ヴェイグさん、これだ!」
そして、カイルはそれを手にした。
ジーニアス・セイジと共に瓦礫に埋もれていた、あの禍々しい玩具。
魔玩ビシャスコア。
震えている。共鳴している。
ビシャスコアが、さながら鼓動するように明滅し、高音を響かせている。
(これは…一体どういうことだ?)
そして、長きに渡りソーディアンとしての生を生きたディムロスですら、困惑した。
「この道具に込められている晶力が、何かに反応してんのかな?」
カイルは、しかし自らの言葉をあまり信じていないような口調で、魔玩の異常を説明付けようと試みていた。
そして、幸か不幸か。
カイルの発想は、当たらずとも遠からず。真相の一端を、照らし合わせていた。
ここにもしアビシオンと剣を交えたロイドか、魔装備についてクルシスでも多少の研究報告を受けたミトスがいたなら…
この現象の原因を、即座に理解していたはずである。
魔装備の性質。すなわち、魔装備同士は互いに近付くと、共鳴を起こすという性質を思い出し。
この性質を利用し、かの魔将アビシオンは、フラノールにて魔剣ネビリムをロイドらに渡したのだ。
魔剣ネビリムを、他の魔装備を探し出す「眼」として、活用してもらうために。
ロイドらを利用し、全ての魔装備を現代に復活させるために。
そして、突然に魔装備の共鳴現象が起きたということは、いずれかの事態を必ず伴う。
魔装備が…厳密には、別の魔装備の持ち主が、ヴェイグらに接近しているか。
はたまた、遠方の魔装備が何らかの理由で、急激にその活性を高めたか。
そのいずれかの事態の勃発を意味しているのだ。
そして、このとき勃発していた事態は後者。
他の魔装備の活性化。
おそらくこのとき、この丘陵で進行していた事態全てを把握している人物は、ミクトランに他あるまい。
そして、ミクトランはその事実に、ほぼ間違いなく気付いている。
ヴェイグらの近くには一つしかない、魔装備の活性化。
何者かが、魔杖ケイオスハート手にし、その力を行使したという事実に。
………ーティン…ター…………
風の中に、ヴェイグらは何者かの声を聞いた気がする。
だがそれが幻聴か本当に放たれた声かを区別することは、ヴェイグらには不可能だった。
厳密に言えば、その声の正体を検証する余裕を、完膚なきまでに奪われた。


風が、止んだ。
空に、歪みが現れた。
絶冷の冥獄にそのまま通じているかのような、不気味なほどに白い魔力のゲート。
白霧を吹き出すその歪みは、刹那。
天空の星々を、この大地よりほんの少し離れた上空に、呼び出した。
賢者らの弁によれば、夜空の星は天に燃える炎とも言う。
だが、たった今この場に生み出された星々は違う。
一つ一つが、切り裂くような冷気をまとっている。絶対の静止、絶対の滅びをその身にまとう。
その数、本来ならば11。
しかし、既に凍て付く星の数は、10人が10人とも両手両足の指を折ってすら数え切れぬであろうほどに増えている。
星の海を、この地上に再現したと言えば、まだ聞こえはいいかも知れない。
だがこの光景をじかに見た者ならば、これを美しいと言うことは出来まい。
そんな発言は酔狂を通り越して、もはや愚劣の証明と断言しても過言ではあるまい。
全てを凍らせ、全てを静止させ、全てを沈黙という名の死に封じ込める、幾百もの冷気は、刹那。
青白い矢…冷たい霹靂と化して、地上を強襲する。
爪術による絨毯爆撃が、豪雨のように降り注ぐ。
ヴェイグは、恐怖した。
昨晩、ちょうどこの場で起きた、破滅の轟雷を呼ぶあの儀式を思い出し、既視感を覚えるよりも早く。
そして、己は自身の生存本能の上げた悲鳴に素直に答えたのだ、と認識するよりも早く。
恐怖と気合と焦燥感を一度に込めた絶叫を上げながら、両の手を天にかざした。
今まで生み出した、どの氷よりも冷たく。
今まで張った、どの氷よりも厚く。
今まで結び上げた、どの氷よりも固く。
「氷壁よ、俺達を守れ」。
その意志だけをただ乗せて。
ヴェイグは絶叫。氷の天蓋で、自身とカイルとディムロスを覆った。
氷の天蓋の外側は、ヴェイグのフォルスが発現したよりほんの僅かに遅れて、冷気に晒される。
いかなる生物も、生存を、存在を、禁じられるほどの極冷波に呑み込まれる。
カイルはその時、見ていた。
氷の天蓋越しに、外の光景を。
ヴェイグの放った冷気とは、また別種の凄絶な冷気が大地を覆うその瞬間を。
氷星が大地に突き刺さるたびに冷気が弾け、大地を蹂躙するように成長し、草原の草を、土を、封じ込める。
これを見た後なら、ファンダリアの万年氷を「温かい」とすら感じられるのではないか。
空気すらも凍りかねない冷気は、ヴェイグの張った氷すらも冒さんとばかりに、その白い魔手を伸ばし続けていた。

===

ばりばり。
ばぢばぢ。
絡みつき、干からびた右手を振りほどき、シャーリィ・フェンネスは「それ」を取っていた。
蠢動する、魔の力。
その余波で、シャーリィの立つ地面の周囲から、拳ほどの大きさに割れた大地のかけらが多数、宙に浮ぶ。
大地のかけらに、時おりさながら獲物に巻き付く蛇のように、電撃が走る。
大地のかけらは、その瞬間岩石の臭気のみを残して、蒸発した。
桁外れの…まさに神の…その中でも「邪神」か、「破壊神」と呼ばれるものが、降臨したかのごとき魔力。
目の前を見るシャーリィは地面の眩しさに思わず目を細めた。
目前に広がる氷原が太陽の光を照り返す、その眩しさに。
ここが先ほどまでただの草原であったなど、彼女の凶行を見ていなかった者ならば絶対に信じないだろう。
丘陵地帯は、一面極地のような雪原と化していた。
それに伴い、気温さえも急降下している。程よい気温が保たれた辺り一面、すでに肌寒ささえ覚えるほどに。
シャーリィの口から、引きつった声。
それは、少しだけ聞けば、泣きじゃくる子供の声に聞こえていたかも知れない。
ひっ、ひっ、というその声は、だが泣く子のように、哀れみと保護欲を掻き立てるような、淋しげな響きはない。
この声は、そんな幼子のような無垢で純粋な想いなど、かけらもこもっていない。
しかしただ一つ。もし、この声に純粋な想いがこもっているとしたなら。
その想いの名は、これ以外にはありえまい。


純粋な「悪」。
悪意。
害意。
殺意。
シャーリィの引きつった声は、やがて堰を切ったように一気に彼女の喉から、その全てを溢れさせた。
「見て……お兄ちゃん! 人が…人がゴミみたい!!」
叫び、紡ぐは、高らかな笑い声。
自らの所業の意味を、たった今行った行為の意味を、全て知りながらもなお、歓喜に打ち震える少女。
その歓喜が、彼女の口から際限なく笑い声を生み出す。
弱者を打ちのめす全能感と優越感が、シャーリィの心をくすぐる。
全身の神経一本一本まで、痺れそうなほどの快感。
いつしか引きつったような声は、けらけらという嘲笑に、そして最後にはげらげらという哄笑に変わっていく。
目の前に広がった白き大地は、全て己が作った。これほどの力を手にして、これが笑わずにいられようものか。
息が切れる寸前まで笑い続けたシャーリィ。最後の方は、口から唾液すらこぼしていた。
つい先刻。
このE3の丘陵地帯で…テルクェスが異常な挙動を見せたあたりに差し掛かったシャーリィは、それを見つけた。
テルクェスの軌道を狂わせた、原因。
すなわち、魔杖ケイオスハートを。
ケイオスハートには、何故かしわがれ、生気をなくした人の右手が絡み付いていた。
この右手が、僅かに残された生命力を杖に吸われたデミテルの右手で、しかもデミテルはセネルを殺害した張本人。
その事実を知らぬシャーリィは、こうして奇妙な巡り合わせの元、この杖と邂逅したのだ。
シャーリィが手にしたその杖は、奇しくも彼女の不倶戴天の仇敵に…
仇敵の鉄壁の謀略に致命のひびを一筋入れた、楔の一つ。
この構図を見る者によっては、こんな考えもまた、浮かぶかもしれない。
シャーリィはこうして兄の敵を、代わって討ってくれた恩人、もとい恩杖と出合ったのだ、と言う見立ても。
ぐしゃり。
しわがれて木乃伊(マミー)と化した、デミテルの右手を踏み潰し。
シャーリィは紡ぐ。ブレス系爪術『チアリング』を。
これにより、胸のエクスフィアによって強化された腕力を、更に強化。
そして、構える。
右手に、メガグランチャー。
左手に、魔杖ケイオスハート。
彼女の指に光るは、フェアリーリング。
彼女の胸に光るは、ネルフェス・エクスフィア。
決してシャーリィも今、万全という状態ではない。
それでも、ケイオスハートとエクスフィア、二つの魔導具により極限まで増強された『シューティングスター』で、
一面を氷原に変えても、疲労はそこまで深くない。
それはフェアリーリングで、己の爪術の力を還元しているからこそ。
メガグランチャー。ケイオスハート。フェアリーリング。ネルフェス・エクスフィア。
これら4つの道具による魔力の超々増幅が、シャーリィ・フェンネスという名の破壊の権化を生み出したのだ。
常人ならば絶対に不可能な、メガグランチャーの片手撃ち。そしてロックオン。
その砲口の真下に添えられる混沌の心臓、すなわちケイオスハートに嵌められた、血赤色の水晶球。
血の色の水晶から、光がこぼれた。
いくつもの星のようなきらめきは、たちまちの内に、砲口の前に輝く魔法陣を編み上げる。
ここにジーニアスのような魔術師がいたならば、その魔法陣のたちどころに理解していたはずである。
アビシオンとその血族のみが知りえていたはずの、禁呪の魔法陣。
すなわち、魔力の過剰なまでの増幅をもたらす、忌まわしい術式。
シャーリィは、メガグランチャー内部のクレーメルケイジに、滄我の力を充填する。
先ほど人影のあった辺りに狙いをつけ、ぴたりとポイント。滄我砲、発射の構え。
もっとも、滄我砲の威力を鑑みれば、もはや狙いをつける事さえ無意味と言えば無意味なことだが。
砲口から迸る滄我の力は、直撃すれば数百回即死してもなお余りある…余りあり過ぎるだろう。
滄我砲の火線からある程度離れていようと、無防備な相手ならその余波だけでも消し炭になりかねない。
それをケイオスハートで増幅して撃ち放つのだ、シャーリィは。
シャーリィが目撃した人影は、今頃この氷河の下敷きになって圧死しているはず。
よしんば生きていたとしても、冷気という魔手に体を蝕まれ、全身がかじかんでまともに動くことさえ出来まい。
ついでに言えば、氷河の内部は空気とも触れていない。時間が経てば、犠牲者は確実に息を詰まらせる。
凍死するのが先か、窒息死するのが先か。
だがこれで油断はしない。氷河の下敷きになったあの4人の人影に、更に駄目押し。
滄我砲で、今頃氷河の下で動けなくなっているであろうあの4人を、跡形もなく消し去る。


「今までお兄ちゃんより長く生きてきた罪……あの世でわたしとお兄ちゃんに詫び続けてね、ゴミ屑ども」
大気が、悲鳴を上げる。
白い。
純白の輝きが。
純白の死が。
純白の滅亡が。
純白の滅びの魔光が。
メガグランチャーの砲口に集結する。360度全方向へ、滄我とのつながりの糸を伸ばし、力を吸い上げる。
ミクトランの手によって生み出されたと思しき、仮初めの滄我とのつながりが、力を集結させる。
メルネスと呼ばれた少女に。滄我がことさらに愛した、一人の巫女の手に。
巫女の想いに応えるために。巫女の望む未来を引き寄せるために。
己以外の、全ての命の存在を許さぬ、虚ろなる未来を掴ませるために。
「それじゃあ、ね」
引き金は、引かれた。
世界の時が、一瞬凍りついた。
引き金が落ち切る、その短い間だけ。
クレーメルケイジが…フォッグの『エレメンタルマスター』にすら耐える大容量の晶霊炉が、
並みの容量のケイジでは確実に耐え切れぬ、超高密度の晶霊力を、一気に吐き出す。
放たれた滄我の波動は、さながら登竜門をくぐり竜と化す鯉のように、ケイオスハートの魔法陣を通過する。
命に飢えた魔杖の洗礼を受け、もとより致命的な威力の激光は、更に致命のものとなる。
『モット、我ニ、命ヲ喰ワセロ』。
魔杖に、己の心を語れる口がついていたならば、恐らくシャーリィにそう呼びかけていたであろう。
『我ヲ手ニシタ男達ハ、我ニ命ヲ喰ラワセテハ、クレナカッタ』。
魔法陣を通過した瞬間、辛うじて砲口に収まるほどの幅であった白い輝きは、たちまちに数百倍にその幅を広げる。
『セメテモノ、慰ミニ、アノ男ノ腕ヨリ、生気ヲ喰ラッタ』
無音。それでもその滅絶の光は、爆音をもたらさずシャーリィの前方の空間に広がる。
『ダガ、アノ程度ノ、欠片ホドノ命デハ、我ガ空腹ハ、満タサレヌ』
迸る絶対の死の空間は、爆発的とすら言えるほどに、その領域を拡張したというのに。
『喰ワセロ。我ニ、命トイウ名ノ、果実ヲ。蜜ノヨウニ甘美ナ、果実ヲ』
シャーリィの放った、滄我砲という名の滅亡の審判は、魔杖の力に触れ、既に滄我砲という枠すらもはみ出していた。
極大消滅波。その名こそ、ふさわしい。
この背筋が凍るような光景を、時空の六英雄の誰かが見ていたなら、あの術を思い出していただろう。
アーチェ・クラインの成し得る、最強の魔術。
世界の創世の光を再現し、全てを焼き払う大魔術『ビッグバン』と対を成す、あの魔術を。
『エクステンション』。目標を、物質を構成する最小単位の粒子にまで崩壊させ、
無音の爆裂で跡形もなく消去する魔術。
極大消滅波は、空気が音を伝える…
すなわち、空気が震えるという現象を起こすための、ほんの一瞬の間すら与えぬほどの超絶の暴力を、
火線上に存在するあらゆる存在に叩きつけ、にわかに現れた氷原を猛襲する。
それは、ミトスとダオスの撃ち放った、あの超爆光を髣髴とさせるものであった。
この光が晴れ渡った時には、おそらく後に残るのは地面に穿たれた半円形の広大な溝のみ。
破壊という概念がそのまま光になったような、この一者を前にしたなら、
犠牲者が空気そのものであろうと蛆虫であろうと人間であろうと、大して違いはない。
シャーリィの言葉を借りるなら、「ゴミのように」消えるだけ。
苦痛や、恐怖を覚える暇もなく。いわんや自らが死んだと認識するなど、論外の話。
『オ前ガ、我ニ、命ヲ喰ラワセテクレル限リ、我ハ、オ前ノ力トナロウ』。
命に飢えた死神、魔杖ケイオスハート。
命の消去に心血を注ぐ、シャーリィ・フェンネス。
魔杖は、シャーリィに全ての命を滅ぼす力を与える代わりに、彼女の滅ぼした命を喰らう。
「歪んだ」、などという言葉ですら生温い。
悪魔と悪魔が契約を結び合ったような、邪悪と背徳の二色に彩られた、共生関係の締結。


それは、本人達以外からしてみれば、悪夢の出会いに、他ならなかった。
極大消滅波の爆発的な反動に耐えながら、げひゃげひゃと狂い笑うシャーリィ。
彼女の耳の奥には、もはやお馴染みとなったあの音が響く。
ぴしぴし。ぴしぴし。
エクスフィアが、彼女の肉体を呑み込む音。シャーリィが契約を交わした、もう1人の悪魔との契約の証。
彼女のミニスカートから覗ける脚は、既に左膝までが無機なる結晶に覆われていた。
だがそれすらももう、彼女にとっては快感の一歩手前の、狂気と紙一重の高揚でしかない。
お兄ちゃんと会うために、ゴミどもを始末する。
これが、嬉しくないはずがあろうか。
(ゴミ屑を1匹捻り潰すたびに、お兄ちゃんに一歩近付くっていうことだもんね)
「お兄ちゃん」まで、あと14歩。
着実に歩み続ければ、必ず達することが出来る。必ず。
髪をなぶる風、目を焼く光。
その全てが、シャーリィには心地よかった。
それが他者の殺害という、人間が最も忌むべき邪悪な所業の一つを行った、言い逃れの出来ぬ罪の証拠と知りながらも。


【トーマ 生存確認?】
状態:TP75% 右腕使用不可能 軽い火傷 やや貧血気味 プリムラ・リオンのサック所持
所持品:イクストリーム マジカルポーチ ハロルドのサック(分解中のレーダーあり) パイングミ
    ジェットブーツ 実験サンプル(燃える草微量以外詳細不明) 首輪 スティレット ミラクルグミ
    ミスティブルーム、ロープ数本 ウィングパック(食料が色々入っている)  金のフライパン
    ハロルドメモ2(現状のレーダー解析結果+α)
    首輪  45ACP弾7発マガジン×3 ウグイスブエ(故障)
C・ケイジ@I ソーサラーリング ナイトメアブーツ
アイスコフィン 忍刀桔梗 レンズ片(晶術使用可能)
    ハロルドのレシピ(G3の洞窟で回収)
基本行動方針:ミミーのくれた優しさに従う
第一行動方針:現状に対処する
第二行動方針:漆黒を生かす
第三行動方針:キールを探し、ハロルドメモの解読を行う
現在位置:E3の丘陵地帯・ケイオスハートの落下点付近(カイル・ヴェイグ組とは分断された)

【ヴェイグ=リュングベル 生存確認?】
状態:HP40% TP55% 他人の死への拒絶 サック未所持
所持品:チンクエディア ミトスの手紙 「ジューダス」のダイイングメッセージ
基本行動方針:今まで犯した罪を償う(特にカイルへ)
第一行動方針:現状に対処する
第二行動方針:E3に残存していれば、魔杖ケイオスハートを回収する
第三行動方針:キールとのコンビネーションプレイの練習を行う
第四行動方針:もしティトレイと再接触したなら、聖獣の力でティトレイを正気に戻せるか試みる
現在位置:E3の丘陵地帯・ケイオスハートの落下点付近(グリッド・トーマ組とは分断された)

【グリッド 生存確認?】
状態:更に強まった正義感
所持品:マジックミスト 占いの本 ハロルドメモ ペルシャブーツ プリムラの遺髪
基本行動方針:生き延びる。 漆黒の翼のリーダーとして行動
第一行動方針:現状に対処する
第二行動方針:E3に残存していれば、魔杖ケイオスハートを回収する
第三行動方針:マーダー排除に協力する
現在位置:E3の丘陵地帯・ケイオスハートの落下点付近(カイル・ヴェイグ組とは分断された)

【カイル=デュナミス 生存確認】
状態:HP45% TP80% 悲しみ 静かな反発 過失に対するショック 状況に対する混乱
所持品:鍋の蓋 フォースリング ウィス 忍刀血桜 クラトスの輝石 料理大全 要の紋
    蝙蝠の首輪 レアガントレット(左手甲に穴)セレスティマント ロリポップ ミントの帽子
S・D 魔玩ビシャスコア アビシオン人形
基本行動方針:生きる
第一行動方針:現状に対処する
現在位置:E3の丘陵地帯・ケイオスハートの落下点付近(グリッド・トーマ組とは分断された)


【シャーリィ・フェンネス 生存確認】
所持品:メガグランチャー
    ネルフェス・エクスフィア(アーツ系爪術一部使用可)
    フェアリィリング
    UZI SMG(30連マガジン残り1つ、皮袋に収納しているが、素早く抜き出せる状態)
    ハロルドの首輪
    魔杖ケイオスハート
状態:HP50% TP30% 「力こそ正義」の信念 ケイオスハートの力に陶酔
   ハイエクスフィア強化 クライマックスモード使用不可
   永続天使性無機結晶症(肉体が徐々にエクスフィア化。現在左腕+胴体左半分+左大腿部がエクスフィア化。
   末期症状発症まではペナルティなし?)
基本行動方針:セネルと再会するべく、か弱い少女を装ったステルスマーダーとして活動し、優勝を目指す
第一行動方針:E3→E2→C3の順で島を巡り、参加者を殺しまくる
第ニ行動方針:目の前の人影を完膚なきまでに滅殺する
第三行動方針:索敵範囲内の参加者を殲滅したら、再び索敵を行う
第四行動方針:病気を回復させる方法・首輪を解除する方法を探す
現在位置:E3の丘陵地帯・ケイオスハートの落下点

【リオン・マグナス 死亡】
【プリムラ・ロッソ 死亡】
【残り 13名】

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