晩餐は終わった。
ソリディアはアウルスとスルフスを連れて別室へと去った。
残されたのはマリエス達と、港でアウルスを迎えに来たヴァレリウス一門の者達。
宴の前に互いの紹介を終えていた彼らは、ソリディアの計らいで別室に移動し、事前に用意されていた飲み物を肴に会話する事となった。
「お疲れ様。ソリディア様の印象は悪くなかったはずよ。」
エリュトリアがマリエス達をねぎらった。
「有難うございます。」
マリエスは小さく礼をした。
「しかしあの坊主がなあ。」
ドゥーポスがじっと4人を見詰める。
「そうね。およそ色事には興味のない人種だったはずなんだけど、どこで手管を覚えたのかしら。」
「気になるのか?」
ドゥーポスはニヤリとエリュトリアを見つめる。
「筆下ろしをした身としては、それなりに。」
器の酒を飲み干しながら、彼女はマリエス達にとってはちょっとした驚きの事実をさらりと告げた。
「あの時教えたのはほんの基礎。その後は内戦で色事に励む暇もなかったはずなんだけど……。」
「1対4で押し倒し返した、か。あいつの体力は保障できるけどよ。」
2人の視線に、マリエス達は若干の居心地の悪さを感じていた。
「この際だから聞いておきたいんだけど、アウルスはどうやって貴方達に勝ったのかしら。手練の南方古人4人同時なんて、よほどの遊び人でも苦労すると思うんだけど。」
これは答えて良い事なのだろうか?マリエス達は思わず顔を見合わせ。
「ああ、これ、私なりの貴方達への試験だから。」
ある意味残酷な言葉に、また顔を見合わせた。
「……私達も、成算はあって望んだのですが。」
マリエスが内心でアウルスへ詫びながら事の成り行きを話した。
「呆れた。」
話が終わるとエリュトリアはどうしてやろうか、という表情で言った。
「魔導で全部終わらせるとか、どういう解決法よ。」
頭が痛い、という表情でため息をつく。
「勿体ねえなあ、おい。」
ドゥーポスはむしろ物惜しげな表情をした。
「そこはむしろ、押し倒されるままに一晩過ごすのもいい肥やしになったと思うんだがよ。」
「それはちょっと。宗家嫡子が骨抜きは困ります。」
眉をひそめるエリュトリアに、ドゥーポスは安心させるように答えた。
「そん時は俺達で性根を叩き直せばいいさ。それにあいつはそこまで柔じゃねえよ。」
「そうかもしれません。それに・・・・・・」
エリュトリアは若干の呆れを込めて呟いた。
「婚前交渉はしない、ですって?まだ言っていたのねそれ。」
彼女は決意を秘めた表情になると、すっくと立ち上がった。
「アウルスがソリディア様の所から戻ったら部屋に来るように伝えてください。」
「どうするんだ?」
面白そうな表情のドゥーポスにエリュトリアは華のような笑みを見せた。
「『弟』にちょっと、教育しようかと。」
「それはまた過激な内容になりそうな教育ですな?」
ヴァルタスがニヤリと笑った。
「美しい顔をなさっておられる。失礼ながら閣下がうらやましく思いますよ。この状況でなかったらお誘いしたいほどです。」
「ふふ、お世辞と知ってもうれしいわ。そしてマリエス達。」
「はい。」
マリエスは静かに頷いた。
「悪いようにはしないから安心しなさい。アウルスは躾けてからちゃんと君達のところに返すから。」
「躾け・・・はい。わかりました。」
マリエスはエリュトリアの瞳の奥の光に、若干の背筋の悪寒を覚えながら返事をした。
「さて、どうしてやろうかしら。」
そんなマリエスを他所に、エリュトリアは目を細めながら白魚の様な細い指で唇をなぞった。
最終更新:2012年07月25日 23:17