伽藍の堂 ◆Ok1sMSayUQ
切り裂くような絶叫の後、そこには不気味なほどの静けさしか残らなかった。
躊躇無く自分を攻撃してきた古明地こいしは既に何処かへと去っていったらしい。
恐らくは、また新たな獲物を求めて。
民家の影、桶と桶の間に身を隠していた
四季映姫・ヤマザナドゥはそんなことを考え、ぼんやりと立ち上がる。
――無様だな。
いつか聞いた、
レミリア・スカーレットの声が蘇る。
こうして情けなく隠れていただけの自分は無様で、殺されることを必死で避けようとしているのもまた無様ということなのだろう。
死ぬのが怖いということか。いやそうではない。仕事を遂行するためには、生きていなければならない。
だから逃げたのではない。仕事を為すために最善の行動を取ったまでだ。
「……そう、私は仕事をこなさなくてはなりませんね」
殺し合いは、正しい。
殺し合いは、正しい。
殺し合いは、正しい。
ここにはあまりにも自分勝手な者が多すぎる。それゆえ自分に法を説くという役目が伝えられた。
幻想郷が、そう望むのなら。映姫は痛み続ける脇腹を押さえながらゆらゆらと歩き出す。
……怖いと錯覚したのは、自分のことを考えていたからだ。
ならば、考えなければいい。
役割だけを認識して、どのように法を説くかだけを考えていれさえすればいい。
閻魔に必要なのは、仕事を推敲する能力。ただそれだけだ。
まずは西行寺幽々子を探す。映姫は目標を定め、幽々子が逃げていった方向を目指した。
幽々子は自分を苦手としていて、映姫自身も幽々子は好ましく思っていなかった。
最初幽々子を追う気になれなかったのはそのためだった。
映姫が幽々子を好ましく思っていなかったのは、彼女が死に誘うということについてさほどの感慨を抱いていないためだ。
長年亡霊としていること、冥界を管理する立場であることがそうさせたのは当然のことなのかもしれない。
それでも、生者の立場から物を見る立場の映姫からしてみれば好ましいことではなかった。
立場の違いゆえの反発心。それほど関わることもなかった今までは、それほど気にしてくることもなかったが……
もう現在は違う。個人の思想などもはや関係のないこと。誰であろうと、四季映姫は為すべきことだけを為せばいい。
幽々子の顔ではなく、名前だけを思い出しながら映姫は歩き続けた。
四季映姫・ヤマザナドゥは気付かなかった。
レミリア・スカーレットの言う「ただの思考放棄」、その道を歩き続けている事実を。
* * *
西行寺幽々子の足取りは重かった。
亡霊なのに足取りが重いというのも変な話だと笑う気にもなれない。
なぜ、自分達は殺し合いをしているのだろうか。
両手に抱えた64式小銃を強く掴みながら、幽々子は古明地こいしのことを思い出していた。
地霊殿の主の妹、ということくらいしか幽々子は知らないが、あそこまで好戦的な妖怪ではなかったはずだ。
アリス・マーガトロイドとの間に何があり、どんな死別をしたのかは分かるはずもないし、知ることも出来ない。
それでもアリスの死がこいしをここまで凶変させ、憎しみの情念を敷衍させている。
ここには死が溢れ、疫病のように怨念が広まっている。幻想郷における死とは、全くその性質が異なっていた。
幽霊が当たり前のように存在する冥界で、死というものはただの事象に過ぎなかった。
生者から死者へと移り変わるためのプロセスであり、そこには何も紛れ込まない。
それどころか場合によっては死後にこそより善いものを見出したものさえいる。死とは、決して終わりを指し示すものではないのだ。
冥界の管理者としてその大前提を知っていたからこそ、幽々子は死を畏れることはなかった。
けれども、しかし。ここでの死は、行き止まりだ。
そこから先に何も繋がることのない奈落への穴。落ちてしまえば二度と戻ることは出来ない、魂そのものを砕く死だ。
でなければ、幽々子の耳に死者の声が届かないはずはなかった。いくら神経を研ぎ澄ませても聞こえない。
――魂魄妖夢の声でさえも。
街並みの外れ。木造家屋も既に遠く、辺り一帯に広がる畑沿いの道で幽々子は足を止めた。
荒涼とした茶色の風景の中で、幽々子の姿はぽつんと浮いていた。
私は、どうなのだろう。
ここでひとり歩き続けている自分も死によって変容しかけているのだろうか。
妖夢を奪った誰かに対して贖罪を与えるために。そう、
フランドール・スカーレットに裁きを与えるために。
あの悪魔さえいなければ、たった一人の大切な従者を失うこともなかった。
復讐のためだけに歩き続けているのではないと理性が反論しても、妖夢を失った幽々子の心は常に敵を求めるようになっていた。
そうしなければ、自分を保っていられない気がして。
元々敵を求めて行動していたのではなかったはずなのに。こんな殺し合いに関わり合いになりたくないだけだったのに。
今の幽々子は何かを否定しなければいけない、その一心だけがあった。どうしてこんな心持ちになっているのかさえ分からない。
妖夢が死んだ直後から……いや、記憶を失った後から、幽々子は衝き動かされるように戦場へと足を運んだ。
まるで体が殺し合いを求めるように。
復讐を願っているのか、それとも殺し合いを止めたいのか、もっと別の何かがあるのか。
思考を凝らしてみてもまるで判然としない。自分は一体何がしたいのか。
普段から流れのままに身を任せてきた幽々子に、この唐突に過ぎる自身の変化はあまりに困惑するものだった。
尋ねようにも、ここには誰もいない。藍も、魔理沙も、フランドールも。
真面目で普段は物静かだと思っていたはずの妖夢も、実は自分にとっては賑やかで心を楽にさせてくれる存在だった。
妖夢一人欠けただけで身の回りはこんなにも静かになってしまうものだということに、幽々子は今さら気付かされた。
こんなとき、妖夢なら何を言ってくれるのだろう。
しっかりしてください。
ぼーっとしてないで……
もう彼女はいない。少し背伸びした、真面目くさった声も、からかい甲斐のある一途な思いも、もうそこにはない。
もはや亡霊にすらならない。
幽々子の胸が痛んだ。ただの悲しみよりも更に深い、自分を苛む痛みだった。
「やっと、追いつけました」
そこに割って入ったのは、妖夢よりも更に真面目な、いや堅物とさえとれる人物の声だった。
振り返るとそこには無表情にこちらを見る、四季映姫・ヤマザナドゥの姿があった。
自分の姿を見ていながら、その実誰も見ようとしていない瞳に、幽々子は忌避感を覚えた。
彼女の姿に、何かしらの嫌な気分を感じたのだった。自分を壊してしまう、なにかがそこにあるような気がして……
「あなたは……閻魔様?」
「ええ、はい。帽子は失くしてしまいましたが」
淡々とした調子で言い、映姫は続けて「先程のことには感謝します」と頭を下げた。
「え?」
「偶然とはいえ、窮地を救っていただいたのは確かな事実です」
ああ、と幽々子は思い出して頷き、そのために自分を追ってきたということに驚きを覚えていた。
普段なら自分は映姫から逃げるようにしてきただけに、まさかこのようにされるとは思ってもみなかった。
「その上でお尋ねしますが……どうして私を助けようと? いつもの貴女ならそんなことはなさらない、と思ったのですが」
映姫からの質問に、幽々子はどう答えていいのか分からなかった。
そう、苦手としていたはずなのに、なぜ映姫に味方しようと思ったのか。
見殺しにするという発想はなくても、即座に躊躇無くこいしに攻撃を仕掛けたのはどうしてだったのか。
思い返してみれば理由が思い当たらず、不自然ともいえる行動の一連にどう答えたものかと迷った挙句、
幽々子は当たり障りのない言葉で応じた。
「そこまで冷酷ではありませんわ、私も」
「そうですか。……ですが、私には善意だけで行動を起こしたようには思えませんでしたが」
「打算で助けた、と?」
映姫の疑うような言葉に、幽々子は少しムッとなって棘のついた言葉で返した。
礼を言ったかと思えば次には神経を逆撫でするような言葉だ。
過敏な反応だったかもしれないと言った後で思ったが、映姫は「そういう意味ではありません」と首を振った。
「そうしなければならない。そのように思っただけです。そう、貴女にしては行動が早すぎる。掴みどころがあるのですよ」
「……亡霊に掴みどころがあるとは、おかしな話ですね?」
映姫の発言の意図が読めず、幽々子はわざと煙に巻くような言い方をした。
しかし映姫は顔色ひとつ変えず、「ええ、全くおかしな話です」と冗談ともつかぬ態度で応じた。
「以前の貴女ならまずは様子見に徹していたことでしょう。どんな状況であれ、まず貴女は『見』を選ぶ」
「言ったはずですわ。私だって冷酷ではない、と」
「なのにそうはしなかった。私にさして恩義があるわけでもなく、救済を信条としているわけでもない」
一方的にまくし立てる調子で映姫は喋る。嫌味や意地悪でこのようなことを言っているのではないことは分かった。
けれども、そこに嫌な予感を覚えた。映姫が喋った先の、分析した先を知ってしまえば、不快になってしまうような気がしたのだった。
「それでも私をすぐに助けた。いいえ、古明地こいしを『攻撃』したのは……
うしろめたいことがあったからなのでしょう。そのように感じましたが」
まるでそうだと確信する口調だった。違うと即座に言えず、幽々子は戸惑いの振幅が大きくなってゆくのを感じた。
「……閻魔様は、探偵業でも始められたのですか」
「いえ、ただ憶測を申し上げただけです。私は幻想郷の法を説いて回っている身です」
「幻想郷の、法?」
出し抜けに紡がれた言葉に、幽々子は思わず聞き返してしまっていた。
映姫はそう、といつもの説教のように重ねる。
「殺し合いを行うことは恥ずべきことでも何でもない。この世界の正しい規律であり、それに従うことこそが我々の善行なのです」
閻魔自らが発した、殺し合いを肯定する言葉だった。
一番ありえるはずのない人物から、一番ありえない句を告げられ、幽々子は絶句していた。
「殺すことはうしろめたいことでも何でもありません。寧ろ称賛されて然るべきものです。西行寺幽々子、貴女も思い悩むことはありません。
善行を積みなさい。そうすれば、いずれ貴女も安らかな成仏を……」
「私は殺してなんかいない!」
映姫を遮って幽々子は叫んだ。
どうしてそうしたのかは分からない。
分からなかったのは、叫んでしまったことだった。
言い訳しているような気分に駆られ、幽々子は映姫の色のない瞳から目を反らした。
この目を見続けていれば自分までもがおかしくなってしまうと直感したからだった。
同時に、こんな目をどこかで見た事があることも思い出していた。
どこだったかは思い出せない。しかし、それはひどく自分に近しいところにあったことだけは覚えていたのだ。
「貴女は」
「やめて」
「理由なく命を救おうなどとは思わない」
「やめて、聞きたくもない」
「何故ならば、貴女は冥界の管理者だからです。死を常態としてきた貴女に、死は特別なものでも何でもない」
「お願い……」
「死が特別になるのは、自らが死を特別とするようにしたためです」
これ以上。
「貴女は、恐らく、自らが原因で亡くしたのでしょう。殺したといっても過言ではないくらいに」
言わないで。
「とても大切な、生ある者を」
「やめてよっ!」
64式小銃の筒先を映姫に向ける。鼻先に突き出された銃口を前にしても映姫は動じなかった。
映姫の言うところの『法を説く』、それにしか頓着していないように。
彼女には何も見えていないのだ。
「そうして私に銃口を向けられるのも、貴女が既に誰かを殺したことの証左かもしれませんね?」
「っ!?」
本気で引き金に手をかけていた自分に気付き、幽々子は慌てて指を離した。
そんな覚えはない。ないはずなのに、なぜこうも心が軋む。なぜ、責め立てられている気分になるのか。
殺したというのだろうか? 自分が、誰かを、ここで? そんな覚えは、ない、はずなのに。
「古明地こいしを躊躇無く撃てたのも既に殺した経験があるからとも言える」
「違う、私は誰も……!」
「私はそれをなじるつもりも、裁くつもりもない。私は法を説いて回るだけです。……私は殺せない。
ですが、我が身に課せられた役目を遂行しなければならないのです。ですから、私は殺すことは善行とだけ告げておきます」
「わたし、は……」
映姫の言葉は半分も聞こえていなかった。脳裏でチリチリと蠢く、微かな映像の断片が過ぎっていたからだった。
殺したのだとすれば、誰を? 小町とは別れた。こいしは傷つけはしたものの殺すには至ってない。
残りは魔理沙、藍、フランドール。そして――魂魄、妖夢。
空白の時間の後、妖夢は遺骸となって横たわっていた。傷一つない、そしてどこか微笑にも似た表情で。
フランドールもこんな殺し方は可能と言えば可能だ。半霊を破壊するという手段を用いれば。
けれども、しかし。微笑みを浮かべたまま死ぬだろうか。フランドールに望まれて殺された?
そんな関係があるはずがない。こんな殺し方ができるのは、この幻想郷で知る限りではひとつしかない。
安らかに、眠るような、緩やかな死を与える……自分の、反魂蝶――
「違う、違う、違うっ! なんで私が妖夢を、あの可愛い妖夢を殺さなきゃいけないの!? あの子を殺したのは悪魔の……!」
フランドールのせいにしようとしている? 自分が、殺したと認めたくないから?
己の言葉尻からそのように判断してしまい、幽々子は必死に否定しようとした。
殺していない。殺せるはずがない。だが妖夢は死んでいた。ならば、殺したのは誰だ?
決まっている、悪魔の妹だ。そうに違いない。そうでなければ……自分が殺したということになってしまうのだから。
「貴女が魂魄妖夢を殺したのだとしても、私は咎めない。私はただ、善行を積みなさいと言うだけです」
「殺してないって言っているでしょう!?」
金切り声に近い調子で幽々子は否定した。大切な妖夢を殺したのは、自分ではない。
あんなに愛しく思っていた従者を殺したはずがない。殺したのは、他者だ。
「ならば、貴女の大切な者を殺した者を、殺せばよいのです。それが善行なのですから」
「それは……!」
違う、と言いたかった。だが頭を掠める妖夢の死に顔に言葉が詰まる。
そうしてしまう自分を否定するために、今度は悪魔の妹を、フランドールを殺せという声が持ち上がる。
それは、既に自分が、殺人者だから……?
何をどう判断していいのか分からず、幽々子は再び64式小銃を持ち上げた。
まず映姫を黙らせなければ、自分がどこまでも貶められてしまうような、そんな気がしたからだった。
「何の証拠もなしにそんなこと言わないでっ! それ以上言うなら私だって……!」
映姫は無言で見返してきた。やるならやれ、どうにでもなれと投げやりであるようにも、
所詮はその程度と納得ずくの視線であるようにも思えた。
感情的になっている自分とは対照的な映姫に、余計に胸が軋み、小銃を持つ手が震えた。
こんなのはおかしい。実力行使に出ようとしている自分が自分と思えず、まるで他人のようにも感じる。
映姫の言うように、うしろめたいことがあるから?
耐え切れずに、自分の心に鍵をかけてしまったから?
何も覚えていないのは……全てを『なかったこと』にしようとしているということなのか?
あらゆる歯車が狂っていた。
殺戮を許した幻想郷。
寄る辺を失くし、消滅するしかなくなっていった魂。
想いに縛られ、凶行に走るしかなくなってゆく自分達。
映姫の言う通りの『幻想郷の法』が支配し、
それに従うしかなくなっている自分達がどうやって対抗すればいいのかも分からない。
飽和し続ける頭で思ったのは、やはり妖夢への、懇願にも似た気持ちだった。
助けてよ、妖夢……私は一体何をしたらいいの……?
従者に答えを求めてしまうのは、罪を犯してしまったから?
それとも自分自身に絶望してしまったから?
ならば自分は、既に法に囚われ、殺すことを義務付けられているのか。
頭が痛い。以前にも、こんな気持ちを、こんな絶望を知っていた気がする。
遠い昔のことか、近しい過去だったのか。ただ、思い出してはいけないとだけ感じていた。
なぜ、と幽々子は己に問うた。思い出したくないのは……やはり……
「誰かが、来たようですね」
いつの間にか顔を俯けていた幽々子の意識を引き戻したのは、平然とした様子の映姫の声だった。
既に視線は自分の方を向いてはおらず、肩越しに他の誰かを見ているようだった。
「私は法を説きに行かねばなりませんので、失礼します」
一礼すると、映姫は幽々子の横を抜けすたすたと歩き始める。
言うだけ言っておいて、凝りもせずに法を説くと言って恥じない映姫に「待ちなさいよ」と幽々子は映姫の背に呼びかけた。
いや、それは懇願だったのかもしれなかった。誰でも良かった。妖夢を殺してなんかいない。その一言が欲しかった。
ちらりと幽々子を一瞥した映姫は、しかし期待通りの言葉を寄越すことはなかった。
「迷うことはありません。殺せばよいのです。それこそが、我々の救われる唯一の道です」
代わりに示されたのは、妖夢を殺していないと証明したければ殺せという囁きだった。
自分はやっていない。やったのは他の誰かだ。だから自分は他の誰かを探している。
そう――信じてもいいじゃないか。
何も分からないのなら。
こうしても、いい。
幽々子には一つの選択が追加された。
その存在感は、無視できるほど小さなものではなく……あまりに魅力的だった。
* * *
ルールを破ってしまった。
食べてはいけない人類を食べてしまった。食べてはいけない人類を殺してしまった。
だから東風谷早苗は怒り、火焔猫燐はもっと怒った。
燐はケーキもくれたいい人で、仲良くなれるかもしれないと思っていたのに。
あれほど苦手だった日光すらも気にせずにとぼとぼと歩く
ルーミアの表情は暗く、これからどうしようという思考だけがあった。
いや正確には、今のルールを続行できる自信がなくなってしまったというべきだった。
次に出会った人類は、食べてもいい人類なのか。その判断を見誤ってしまったことが原因だった。
博麗の巫女を殺してはいけない。それくらいのことは知っている。
でも他は分からない。故に銃と地雷に判断を託した。
それが、片方には引っかからず、片方には引っかかってしまうなど想定の外だった。
本当に正しいのか、と思ってしまった。
今まで正しいと思っていたことが信じられなくなる感覚は、ルーミアからたちまちやる気を喪失させてしまった。
だからといって、他に食べてもいい人類を判断する方法は分からなかった。
自分でルールも設定できず、教えてくれる人もいない今、ルーミアは逃げ続けることしか出来なかった。
そうして森の中を突っ切り、滅茶苦茶に進んできて、
森を抜けはしたがどこにいるかも分からないというのが今のルーミアだった。
一人になると、今度は寂しいという気持ちが浮かんできた。
信じていた規律を崩され、それまで一緒にいた人とも会えない状況になって加速した不安がそう思わせた。
今まではそうではなかった。一人でいても、妖怪は人間を襲うもの、ということを絶対だと信じることができたから、
ルーミアはそれを楽しんで生きてきた。しかしもう信用に足るものはない。
まさしく「どうしよう」と思っているしかなかったのだ。
信じるものひとつないだけで、こんなに不安になるとは思わなかった。
おろおろしているだけの自分は、また別の誰かに怒られはしないだろうか。
それだけならまだしも、駄目な妖怪だと烙印を押され退治されてしまうのではないか。
お気楽なルーミアでも怖いものはあった。
妖怪が、妖怪でなくなってしまうこと。自分が自分でなくなってしまうこと。
それは自己の破滅を意味する。妖怪は妖怪らしくしなければいけないということを遥か昔に教わって以来、
ルーミアにとってそれは絶対服従の項目だった。
あの時教えてくれたのは、誰だっただろう。時間が経ちすぎてどんな状況だったかさえ覚えていない。
それくらい古い事柄で、骨の髄にまで染み込まされたルールだった。
妖怪らしく。口にしてしまえば簡単な、しかし実践することが難しくなってしまったルール。
どうやって妖怪らしくしよう。当てもないまま歩き続けていたルーミアは、
その真正面から誰かが歩いてきたことに気付かなかった。
「どうされましたか、そんなに落ち込んで」
誰かがいると気付けたのは、声をかけられてやっとだった。
上を向くと、そこには腕組みをしてじっとルーミアを見ている、石のような顔があった。
「……おねーさん、誰?」
銃を取り出す気にはなれなかった。それが何の意味もないと分かっていたからだ。
ぺこりと一礼をした女は、その表情を全く崩さないまま「初めまして」と言った。
「四季映姫・ヤマザナドゥです」
【E-3 一日目 午後】
【四季映姫・ヤマザナドゥ】
[状態]脇腹に銃創(出血)
[装備]携帯電話
[道具]支給品一式
[思考・状況]基本方針:参加者に幻想郷の法を説いて回る
1.自分が死ぬこともまた否定しない。
2.自分の心は全て黙殺する
※帽子を紛失しました。帽子はD-3に放置してあります。
【西行寺幽々子】
[状態]健康、親指に切り傷、妖夢殺害による精神的ショックにより記憶喪失状態
[装備]64式小銃狙撃仕様(13/20)、香霖堂店主の衣服
[道具]支給品一式×2(水一本使用)、藍のメモ(内容はお任せします)、八雲紫の傘、牛刀、中華包丁、魂魄妖夢の衣服(破損)、博麗霊夢の衣服一着、霧雨魔理沙の衣服一着、不明支給品(0~4)
[思考・状況]妖夢の死による怒りと悲しみ。妖夢殺害はフランによるものだと考えている。
1.私は……
2.フランを探す
[備考]小町の嘘情報(首輪の盗聴機能)を信じきっています
※幽々子の能力制限について
1.心身ともに健やかな者には通用しない。ある程度、身体や心が傷ついて初めて効果が現れる。
2.狙った箇所へ正確に放てない。蝶は本能によって、常に死に近い者から手招きを始める。
制御不能。
3.普通では自分の意思で出すことができない。感情が高ぶっていると出せる可能性はある。
それ以外の詳細は、次の書き手にお任せします。
【ルーミア】
[状態]:懐中電灯に若干のトラウマあり、裂傷多数、肩に切り傷(応急手当て済み)
[装備]:リボルバー式拳銃【S&W コンバットマグナム】4/6(装弾された弾は実弾2発ダミー2発)
[道具]:基本支給品(懐中電灯を紛失)、.357マグナム弾残り6発、フランドール・スカーレットの誕生日ケーキ(咲夜製)
不明アイテム0~1
[思考・状況]食べられる人類(場合によっては妖怪)を探す。
1.食べてはいけない人類がいる……?
2.日傘など、日よけになる道具を探す
[備考]
※古明地さとりの名前を火焔猫燐だと勘違い
最終更新:2010年03月12日 23:01