気絶したわけではないが、とても気分がいい。
「拳くーん、だいじょぶ?」
「勿論だ……」
拳が我にかえると、右にはキャップを脱いだ二丁拳銃の少女、左にはリボルバー姉さん、正面には怪訝な顔の雫がいる。
三人から視線を浴びた。三者三様しかし全員女、これが秋の境地なのだろうか。これだから水瀬は。
「すいませんね。私の銃弾、どうでしたか?」
拳はにこりと笑って、
「最高ですね。それはもう、まるで貴女g――」
「おい先輩」
がちっ。
「静音さんを口説こうなんて、ぶっぱなされる覚悟はいいか?」
拳の拳らしからぬ行動のせいか、なんと今度は右の頬とこめかみに拳銃を突きつけられている。
「ちょっと待ってひばなちゃん! ストップ!」
雫が「ひばなちゃん」の肩をぺたぺたと叩いた。しかしながら「ひばなちゃん」は引かない。
「こーら、ひばな。やめなさい」
やんわりとした声で、拳の視界が白い物体で遮られる。
「いいんですか?」
リボルバーである。銃は少女の肩に向いて、少女の銃は拳の顔面に向けられていた。
B級スパイ映画のワンシーンのような光景だが、店主はやはり表情を変えていない。
「とりあえず、ちゃんと自己紹介をしよう! ね!」
わたわたと動く雫が珍しくまともに見えた。そうね、と姉崎静音が応えて、ひばなちゃんも唸りながら銃を降ろした。
「まず、わたしは高等部三年の霞沢雫ね。いいよね、わかってるよね?」
きょろきょろと雫は三人を見まわし、姉崎の顔の上で視線を止める。
「あら。では改めて、ね。私は高等部三年、姉崎静音。一応だけど、自警団所属なの」
ふわりと拳に笑いかけて、彼女は正面に居る少女に目配せをする。少女はテーブルに銃を置いて腕を組み、ふてくされたような様子を見せた。
「中等部三年、霜月ひばな。自警団。今日は静音さんの付き添いだ。静音さんはガードが甘いから、今日は私がサポートしてる」
今日は、ということは、入れ換わり立ち替わりでサポーターでも付いているのだろう。確かに迂闊に放ってはおけない。少女の自己紹介が終わると三人の視線が拳に集まり、思わず軽く咳ばらい。
「ぁー。高等部三年、風紀委員の鉄拳だ。今日は雫に誘われてきたんだが、未だに何も聞かされていない。雫、今から説明してくれないか」
拳の前に座る雫がようやくまともに頷いた。
「本日は秋の中身を解体したいと思いまして、姉さんを呼ばせていただきました!」
「そうねぇ、水瀬くんねぇ……」
「姉崎さんは秋と知り合いなんですか?」
拳が訊く。
「静音でいいわよ~。まぁ、ちょっとだけね」
返事がふわふわしていた。本当に、秋は学園で一体どんな立ち周りをしているのだろう、と拳は思った。
「こほん。ええっと、ぶっちゃけ秋がヘナチョコ気味だから、なんか遊んであげようって話ね。それに姉さんの銃、見たでしょ?」
「あの茶番か」
「そ。姉さんの能力は人の心を癒す力があるんだよ。喫茶店テロリストだったひばなちゃんが、なんとびっくり甘いもの大好き少女に早変わり! みたいな能力」
「あの茶番か」
がちゃこん。
「二回も言うな先輩」
「いいか。それは人の顔面にわざわざ二丁も向けるものじゃないぞ後輩」
「話が進まないよ、だいじょぶひばなちゃん?」
「大丈夫ですよ、雫さん」
にーこにこっ♪ って感じ。中性的なウルフヘアが犬っぽい。銃持ってるけど。
「……」
拳は何か納得いかなかったが、とりあえず雫に視線を戻した。
「で、水瀬はどうするんだ。あいつは部屋から出られんぞ」
「え? 出せばいいじゃん」
「俺が許さん」
「……ぇぇぇぇ……」
それを聞くと、雫は口を台形に広げて、拳を真っ直ぐに見た。
拳は正直、風紀委員としての自分が校則からはみ出たことを許すはずがないということを、雫も解っていると思っていた。
まさかここにきて「それはないでしょ」といった顔をされても拳は困るし、それでも根本を曲げるつもりなどないのに。
「拳君、冷たいよ」
雫は呟く。
「公平なだけだ」
言いきった。その言葉は、一生徒として間違っていないといえる。自身がかく在るべきとして、風紀委員となることを選んだのだ、今更になってこんなこと、いちいち迷うことではない。
公平だ。感情的ではない、合理性には欠けているかもしれない。だが、それは秩序を保つ、守る、現状を維持し続けるには極めて重要なことであるのだ。
この島に来てから自分は、そうすることを、
…………?
はた、とひらめきのような変な感覚を拳は覚えた。
「む……」
「拳君?」
自分はどうして今、こんなことを考えたのだ。
『今更になって迷うことはない』? ここに来てからの自分、風紀委員としての鉄拳は、『それすらを』考えたことがないではないか。
秋は部屋から出さない。その主張は変えない。自分は風紀委員として客観的立場に居ることで常に公平さを保ってきていた。最近の瀬古の件も、瓦錬隆盛の件も、秋への対応は『当然だ』と考え、その不当性、正当性のどちらもを指摘をした。それが普段の自分の姿だ。その公平さに迷いはあったか。ある筈がない。
「…………」
「どしたの急に、何かあった?」
「いや」
その今の『普通』に、どうして妙な感覚を抱いてしまっているのだ。
ここ以前のことは立ち切ったではないか。捨てたつもりで、諦めることにした。そんなこともあった、ほんの一時的に悩んでいた。しかし、ただそれだけだったのではないのか。
いいや、もしかしたら、少し違うのか。もしかしたら、自身で無理矢理叩き潰し、完全に目を背けただけなのか。もしかしたら、あんな結果になった過去の自分の愚かさから、やはり逃げ出してしまっていたのか。
「あらあら~……?」
左の静音が、ふわりと笑顔を見せた。少し首を捻って、それから納得したような顔になっていた。
彼女の力は、心を癒す力。頭に受けたあの銃弾は、心を癒すもの。これが癒しの結果なのか? この混濁とした気持ちの悪い感覚は、何だ。
「静音さん」
拳は自分の胸に、いやな引っ掛かりを覚えていた。
「ん? なにかしら?」
「俺をもう一度撃ってくれないか」
「拳君、急にどうしたの?」
「なんか予想外にわけわかんない先輩だな……」
しかし静音は笑顔で頷いて、大きな白のリボルバーを掲げた。静音の顔は小さく、さらにリボルバーの大きさ、存在感を際立たせる。
「ねぇ。この弾、実は胸が一番効くんだけど。どうしたいかな?」
「じゃあ、胸に一発、お願いします」
「拳君ってば」
「うん。いいわよ~」
がちりと胸に、銃口があてられる。細い指が撃鉄を起こす。引き金に力がかかる。この一撃で、微かに違和感のあるこの想いを解消したかった。その癒しをもって、これを消せるなら。
心の隅にねじ込んだ今の拳にとっての『異物』が、彼女の銃弾の衝撃によって蠢いているようで。今にも喉元から溢れ出し、外に飛び出してこの白黒の床を這い回りそうになっていて。
「心層侵慈(ゆ~・らヴ・み~)」
と。
にこやかに放たれる静音の声は、あくまでもふんわりとしていた。
がんっ。
◆
がりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがり。
四〇〇字詰めの原稿用紙に「ごめんなさい」と書き続ける作業によって鉛筆を三本は消費した。
「……もうやめていいんじゃねえのこれ」
水瀬秋が独りごちるのも仕方がなかった。
寮室内中心のテーブルには鉛筆で黒くなった原稿用紙と真っ白の用紙が同じ高さで積まれていて、黒い方をせっせと積み上げていた手はもう限界にきていたのだ。
気分を変えようにも、室内でできる趣味もなければ、流行りの漫画や小説に手を伸ばすこともあまりしないので、時間を上手く潰せない。
嗚呼、二週間という長い長い謹慎がこんなにも辛いなんて。まだ六日目なのに。
「暇だ」
ぽいっと鉛筆を床に投げ出して、テーブルの下に潜るように、仰向けに床に倒れた。
ついでに頭を掻くと、側頭部に包帯が巻かれていたことを思い出した。ついでに、保健室の読心独身女医に包帯を換えてもらったとき、何故か彼女がにやりとしていたことも思い出した。
この包帯は謹慎寸前に寮を出ていった時に起こった、意図の解らない爆発によってのものだ。余計な話を避けたかったため、拳へ「ティナにヤキ入れられた」とか言い訳をしたのだが、多分信用されていない。
本当に、あの野郎は何がしたかったのか。
ちょうどナイーブだった時の襲撃だったため、問答無用でプチンといってしまった。実際は相手も何か、それなりの理由はあったのかもしれない。『門前払い』への恨みを間接的に吹っかけてきた瀬古みたいに。
その件によって、実は臆病なのか、本当に正当な理由であるのか、当時一緒に居たティナは秋から距離を置くとはっきりと言った。
『もう少し警戒を強めたほうがいいと思いました。私も最近は気を抜きすぎていたようです』
なんていう風に。トンデモ会長の寮室の、そこに何故か副会長も居て、寝かされていたティナは半泣きだったかもしれない。
それ以来、会ってない。実際律儀に謹慎喰らってるので、拳にしか会ってない。
会ってないといえば、咲はどうしているのだろう。
怪我の程度はそれほど重くはないという話だが、それなりには重いことは間違いなかった。あの変態槍、同程度の傷で許してやったことに感謝しろ。
あんな力の使い方、少しの冗談にもなっていない。
槍男は完全に阿呆だが、爆発男ももしそういう類いの人間なら、あれくらいの傷は妥当だろう。
「はあ……」
類は友を呼ぶ。瀬古も、程度とやり方は違えどそういう人間だった。
秋は寝そべったまま何気なく、寝巻きのポケットに手を突っ込む。カッターナイフは、現在自室に居ることもあり手元には携帯していない。
だが今だからこそ、カッターナイフくらいは携帯しておくべきなのかもしれない。
なぜなら。そう、『類は友を呼ぶ』のだから。
がちゃり。
ふいにドアノブが回る音がした。
「おう拳、反省文の量がマジでやばいから削ってくれるように――」
かちゃり。
拳銃がドアの隙間から、はみ出てきた。
「ちょ……え?」
ぬっと出てきた拳銃が、自動式拳銃であることは一応わかった。あまり知識はないので、その程度だ。
「自警団だ、妙な行動を取ったらぶっぱなす。常に女を侍らす水瀬秋、お前は今の私にとって多大な警戒に値する人間だ」
ドアの隙間から中性的な声が。
「いや、なに、報復か?」
秋はこそこそと立ち上がり、中に伸びてきている銃口から離れ、壁に沿ってドアに接近した。
「動くな、動くなよ水瀬秋……」
相手はアホなのか、部屋の中のほうを警戒していない。銃だけ差し向けて勝った気でいるのだ。
腕を絡め取れるところまで静かに接近し、すぐに銃を奪うことにする。さすがに秋も、自警団の報復に討たれたくはない。
「そこだ!」
しかし部屋の中に向いていた銃は、相手の裏側、ドア越しにまで移動していた秋の方を向いた。
「なんでっ!」
どうんと重たい発砲音。秋は銃口が自分を向いた時点で咄嗟に床に伏せており、体に穴が空いていないことに一瞬安堵した。
「突入!」
「ぐえっ!」
なんとも伏せた場所が悪かった。勢いよく開けられた部屋のドアは低い体勢で伏せた秋の頭に激突した。
その間も、どたどたどたどた。
「あっ! 拳君! 火事! シャワー室の手前がバーニングボヤ!」
「なんだと!? おい後輩! お前とんでもないことをしてくれたな!」
「やかましいぞ先輩! 水瀬秋にも茶番を体験させてやろうとか言ってたくせに! ノリノリだったくせに! これは私のせいではない!」
「あら。水瀬くんノックアウトされちゃってるみたいねー」
一瞬何が起きたのかわからなくなっていた秋だったが、謹慎中に火事を起こしたとなれば大変なことに発展するのは目に見えている。急いで消化をして、何も無かったことにしなければ。
痛む頭を抑えつつ、入ってきた集団に這いつくばったまま叫んだ。
「窓際に消火用のスプレーがある! 急いで消せぇっ!」
もっててよかった消火スプレー。
この時初めて秋は、この部屋の壁がソース臭いことに感謝することになる。
寮の壁、床は、微妙に燃えにくいらしい。煙もそれほど上がらず、幸いにも火災報知機に反応する前に火を留めることができた。
ばたばたとしながら窓を開け、シャワー室の換気扇を回し、五人も入って狭くなった寮室に全員が尻を落ちつけた。
「秋」
一息つき、テーブルの前に座った拳は口を開いた。
「おい拳、お前が居るってのになんだこれ、ていうかなんだこいつ」
が、さえぎられる。秋は疲れたような表情をして拳を見返して、拳銃を発砲した張本人であるひばなを指差した。
「水瀬先輩私は悪くないんですこっちのわけわかんない先輩が悪い」
するとひばなは秋に対して「ちがうちがう」と手を振りながら、もう片手で拳に銃を向ける。そこで拳はぴくりと片眉を持ち上げて、
「おれのせいか。いい度胸だ後輩、文句があるならかかってこい」
腕組んだ。
「私、今、文句言ったぞ……」
ひばなもなにやら不満そうに銃を持った腕を組んで頭を垂れた。もう話す気にならなくなったようだ。好機だ。
「よし。それでだ、秋」
「どれでだ馬鹿野郎」
ひばなとのやりとりの最中も怪訝な顔をしていた秋が眉間に皺を寄せる。拳は仕方ないのであえて真剣な表情を作り、なだめるような声を意識した。
「お互いそろそろ、腹を割って話してもいい頃じゃないか」
強制しようというわけではない。
「は? そんなことよりお前はこの状況把握してないのか? おかしいだろ色々と、つーかこのくだり考えたのお前?」
スルーされてしまった。しかし拳は引かない。
「話がこじれるから説明したくない」
「……したくない、って。一体拳の身に何が起きたんだよ……」
心底心配そうに顔を青くさせて、秋は口に手をあてた。確かに普段の拳を知っていればこの行動は奇行とも呼べるレベルのものだ。拳自身はそれを意に介すこともしないが。
そのまま秋は不審がった表情で、拳と同時にやってきた面子をゆっくりと確認していく。
と、
「あ」
止まる。
「ん? ふふ、私の顔に何かついてるかしら、水瀬くん」
「姉崎……なんで?」
「ふふふふふふふふふふふふふふふふ」
ベッドに座っていた彼女は笑う、笑う、笑う。喫茶店に居た時の彼女とは少々違い、楽しそうというか嬉しそうな表情を秋と拳の間で揺り動かす。そこに狂気のようなものを感じてしまったのは、拳が彼女に対し非人間的な評価を下しているためなのかもしれない。
「秋ー、わたしはー?」
「お前はそこでおとなしく寝ててほしい」
「そんなっ……」
同様にベッドに座っていた雫は柔らかく体を曲げつつ、ひばなに向かって絡みつくように倒れ込んだ。
「ひばなちゃん慰めて!」
「雫さんにこんなぞんざいな扱いを……そういえばあの音無ですらこの前何か言っていたし、本当にろくな男じゃないんだな水瀬先輩……」
中等部の女生徒にまで呆れられた声を出されている秋。しかし視線は未だ静音に注がれ、相手をする気はないらしい。
「姉崎。あれか、拳に撃ったのか? つーかなんでお前がここに?」
「雫ちゃんの紹介で。ちなみに鉄くんとはなりゆきで……ね?」
むにゃんと笑って拳に笑いかける静音に、思わず深く頷いてしまう。その言葉尻になにやら秘密な関係を結んでいるような気分になったが、優越感はあまりなかった。
「無闇に撃つな。ああいう弾に頼っても自分のためにならないだろ」
「秋、静音さんの力を知ってたのか」
「前に喰らった」
なんと! と過剰に反応しそうになる拳だったが、静音がそれよりも先に口を開いた。
「何某に頼っても自分のためにならない、って? それ、水瀬くんが言う台詞かなあ」
「一般論を話してんだよ。他人の内面なんて、勝手に干渉していいもんじゃない」
反射的に拳は、秋の言葉を聞いた雫の顔を見た。雫はひばなと絡みついたままいつの間にか静かになっており、無表情に秋と静音を眺めていた。
「水瀬くんこそ」
静音は笑っている。優しい笑顔で垂れた目をさらに緩めている。
「他人の内側にずけずけ踏み込んでいってること、気付いた方がいいんじゃないかな」
「そんなことはしない。あくまでも俺は」
「こういうのは、する、しない、じゃないの。うぅん。本当に面白いなぁ、水瀬くんは」
金属的な硬い音がどこかで鳴った。
ベッドに座る静音は、テーブルの反対側に胡坐をかいた秋と正面から見つめ合っている。手にはどこからか取りだした巨大なリボルバーを持って、銃口は真っ直ぐに秋を捉えて。
「今の年頃の私達は、いずれの何某に対しても向き合うことがどうしたって必要だって、わかってるでしょう?」
「……!」
拳はそれを聞いて完全に固まってしまった。
一瞬状況を目で追っておらず、この部屋で何が起こっているのかもわからなくなりそうだった。
静音の片足はテーブルの上に乗り、跨ぐような体勢で秋の眼前に立っていた。すらりとした腕は秋の胸に向けて伸ばされ、秋はそれを嫌がる様子も見せなかった。
浮気者の夫に向けて妻がけじめをつけさせるかのような姿にも見え、静音の制服姿はあまりにもこの瞬間から浮わついた、非現実的なものに映ってしまう。
「水瀬くんはあえて目を逸らしてる? 根本的にそんな気がないから気付くこともできない? それともあなたはわかってて、全部それが自分や他人のためだって割り切ってるかな?」
秋は答えない。
一方で拳は静音の話の具体性の無さに、自分をそこへと重ねてしまおうとしていた。
なにがし、という漠然とした言い方。それは会話をしている二人以外の人間に対しての配慮であるのだろうが、誰にでも当てはまり得る問いになってしまっている。
「まだ答えが無いなら、知りたい?」
かちん、とシリンダーが回転した。
「それを撃っても無いままかもな」
「今なら少しは在るかもしれないわよ?」
「根拠がない」
「そんなのなくてもいいじゃない? 私はただ、あなたみたいな人にものすごく興味があるだけだから。得意の『お願い』、聞いてくれる?」
ここで、ふっと秋が噴き出したような気がした。しかし二人の様子は変わっていない。直接相対して、妙な空気で通じ合っているようだった。
「ああ……そういや、一日五善とか言ってた時期もあった気がするな。もうほとんど身に染み込んでてすっかり忘れてた」
秋は目を閉じ、降参のポーズか両手を前に持ち上げた。
それを見た静音は頷いて、口角を吊りあげながら。
「じゃあ、久々の一善目を噛み締めて。お願い、私に撃たれて? 水瀬くん」
秋は溜め息をつく。
「頼みなんて勝手にしろって。十個くらいまでなら、こっちも勝手に応えてやるから」
「そう?」
がんっ。
銃口の先の秋の胸元で、ピンク色の粉が飛び散った。
最終更新:2011年09月26日 22:33