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  • The Progress from “Like” to “Lov(s)e”

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The Progress from “Like” to “Lov(s)e”

最終更新:2023年05月15日 20:24

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メジロエスキー メジロプログレス


─────
 枯れ葉が風に舞い、月が私たち2人を照らす帰り道、

「私、エスキーちゃんのことが──」

 1人の少女の恋が、

「ごめんなさい──」

終わる。

 〜The Progress from “Like” to “Lov(s)e”〜

 ──これは失恋を知るための物語

─────
「お疲れさまです、エスキーちゃん。トレーニング付き合っていただいてありがとうございます」
「こちらこそありがとうございます、プログレス姉さまっ!」

 例年より短い梅雨が終わり、いよいよ夏の使者が地面から姿を見せる時期が迫ってきた今日、私はエスキーちゃんと併走を含めた合同トレーニングを行っていた。外ラチに掛けていたタオルで額に滲んだ汗を拭っていると、エスキーちゃんが自分と私の分のスポーツドリンクを手にして駆け寄ってきた。

「はい、こちらプログレス姉さまの分です、どうぞっ!」
「ありがとうございますエスキーちゃん……ふぅ、少し冷たいドリンクが体に染みていく感覚、やはり気持ちいいですね」

 少しはしたないと思いつつも500mlのペットボトルを一度に半分飲み干してしまう。それぐらい今日のトレーニングはハードだった。なにせ相手が相手だったから。

「冷えすぎたものは体によくないんですが、やっぱりおいしく感じちゃいますよね……もしかして今日のトレーニングしんどかったですか?」
「違う、とは言えないですね。エスキーちゃんについていくのはとても大変でした。その分いろいろと学べましたし、力になった気がします。次は負けませんよ」

 私の頭の中を見透かしたかのごとく、心配そうな顔で上目遣いに顔を見つめてくるエスキーちゃん。そんな彼女のかわいらしさについ本音とともに虚勢を張ってしまった。

「ふふっ、期待してますね?」
「それではシャワーを浴びて今日のトレーニングは終わりにしましょうか」

 首にはタオル、左手には残り少なくなったペットボトルを持ってそのままトレーニングコースを後にしようと歩き始めると、体操服を後ろから引っ張られる感覚がした。ふと立ち止まり振り返ると、エスキーちゃんがなにやらもじもじとした様子で口を開いた。

「シャワーを浴びたあと、お時間いただけますか……?」
「大丈夫ですけど……何かありました?」
「少し相談したいことがありまして……いい、ですか?」

 エスキーちゃんが私に相談ごと……トレーニングのことではないし、宿題のことでもおそらく、というより確実にない。クラスは違っても彼女の勉学の成績が優秀であることは知っているから、あまり勉強が得意ではない私に質問してくることはないはず。だったら一体……?

「いいですよ。でしたらカフェテリアに集合することにしましょうか」
「ありがとうございますっ! でしたら急いでシャワー浴びてきますねっ!」

 ぺこりと頭を下げ颯爽と駆けていく姿を後ろから見つめる。これが全ての始まりだなんて知ることはなく、ただ彼女のかわいらしさに微笑みを浮かべながら。

─────
 シャワーから上がり制服に着替えると、早歩きで待ち合わせ場所へと向かった。そしてカフェテリアに到着して彼女の姿をきょろきょろと探していると、少し遠くにこちらに手を振る小さな少女の姿を認め、ぴょこぴょこ跳ねているのを目印に彼女の席までたどり着く。そうしてカウンター型の座席に腰かけていたエスキーちゃんの隣の席に座ろうとすると、エスキーちゃんが椅子をさっと引いて私が座りやすいように調整してくれた。

「ありがとうございます……こちらは?」
「自動販売機で売っていたアイスミルクティーですっ! いつもメジロ家でいただくものよりは安価で申し訳ないですけど、お話を聞いてもらう手前、飲み物ぐらいは用意しないとと思いまして」

 私の目の前に置かれていたのは、午後にしか飲んではいけないとされる小さな紅茶のペットボトル。お屋敷ではいつもカップに入れてくれるものをいただくから、普段とは違って少し新鮮に感じた。

「そんなの気にしなくていいですのに……それで話というのは?」

 キャップを捻り一口だけ口に含む。ミルクの甘みとともに、わずかだが紅茶のいい香りを感じて少し頬が緩む。ただそんな私とは対称的に、目の前のエスキーちゃんは膝に手を置きながらこちらを真剣な表情をして見つめていた。

「あのですね……」
「うん……」

 彼女の厳しい面持ちに、先ほど緩んだ頬が再び硬直を見せる。一体どのような相談なのかぐっと身構えていると……

「最近ドーベル姉さまがつれないんですっ!」
「……えっ?」

 想定外の話に力が抜けて椅子からずれ落ちそうになってしまう。えーっと……それって……

「えっ、じゃありませんっ! 重要な問題なんですっ! わたしの気持ちが姉さまに伝わってないんですよっ!」
「……とりあえず順を追って説明してもらえませんか?」

 ガクリときた私を見てぷんぷんと怒った彼女の気をなんとか抑えながら話の経緯を聞き取る。怒りながらもところどころうっとりとする彼女の姿に呆れつつも、なんとか今に至るまでの話を教えてもらった。

「つまり、『前からドーベルさんに好き好きアピールをしていたところ、最近なぜか気もそぞろで相槌も適当になっている。もしかして嫌われたのでは?』ということですか?」
「そういうことですっ! これは一大事ですよ、一大事っ!」

 なるほど、恋を知らない私には難しい問題だったみたい。

「うーんっと……とりあえず一旦ドーベルさんの様子を観察してみては? 押して駄目なら引いてみろともいいますし、アピールを抑えめにして、何に気が向いているかを見てみたらどうですか?」

 だからこういった当たり障りのない、インターネットで調べたらすぐに出てきそうな回答しかできない。そのようなありきたりの答えにため息をつくかと思っていたけど……

「あっ、そんな手段が……」

 エスキーちゃんはそのような方法があったのかと初めて気づいたみたいに考え込んでしまっていた……いや、この様子だと本当に思いつかなかったのかもしれない。

「あのー……エスキーちゃん?」

 私の何気ない一言からぶつぶつと独り言をこぼしながら考え込んでしまった彼女に小さく声をかける。ただ反応する様子がなかったから、身体的接触で気を引こうと頬をつんつんと突いてみた。

「エスキーちゃん? 大丈夫ですか?」
「でしたらタイミングを見計らって……あっ! ごめんなさいプログレス姉さま。せっかく解決策を教えていただいたのに、つい1人で考え込んでしまって……」

 ぷにぷにした頬の感触を右手の人差し指で何度か楽しんでいると、ようやくそれに気づいたのか独り言をやめこちらへ向き直った。

「いえ、私の考えた答えで解決できそうならそれだけで大丈夫ですよ」

 そう言って解決の糸口を彼女が掴んだことを確認したところで椅子から立ち上がろうとすると、デジャヴのように手を引っ張られた。今度は後ろからではなく真正面から。

「エスキーちゃん? 今度はどうされましたか?」
「明日お暇ですか?」

 明日は土曜日。トレーニングも休みで特に急用は入っていない。

「何も予定はないですけど……」
「だったら今日のお礼をさせてくださいっ! エスコートしますのでっ!」
「えっと……でしたらお願いします?」

 大したことは伝えていないけど、彼女の案内でどこか連れて行ってもらえるなら、ありがたくその気持ちを頂戴することにしよう。

「それでは明日朝11時に栗東寮の玄関前で待ち合わせでっ!」

 そうしてまた彼女は私の目の前から颯爽と去っていった。数十分前に見た光景が場所と衣服だけ変えて私の網膜に映り込んでいた。

─────
「集合時間には……まだ間に合いますよね……」

 翌朝いつものように目が覚めたものの、何を着ていこうか、髪型はなどなどいろいろと悩んでいると、いつの間にか約束の時間が近づいていた。こうなればと一番シンプルにまとまるワンピースの上に薄手のカーディガンを羽織り、髪も特に手を加えることなく自然に整えるだけにした。そうして身なりを整えると、少し小走りで寮の玄関へと急ぐ。エスキーちゃんの方から誘われたのに待たせるわけにはいかないから。

「エスキーちゃんはどこでしょう?」

 手首に巻いた腕時計がちょうど11時を指し示したタイミングで玄関前に到着する。ただそこにはエスキーちゃんの姿はなく小首を傾げる。その瞬間横から……

「わっ!」
「きゃあ!? エスキーちゃん!?」

 素敵なワンピースを身に纏ったエスキーちゃんが飛び出してきた。玄関の扉の横に隠れて私を驚かそうと待機していたらしい。とっても可愛らしいいたずらに私は驚かされたみたい。

「ごめんなさい、びっくりさせたみたいで」
「気にしないでください。それにしてもワンピース被ってしまいましたね」

 そう、彼女も私と同様ワンピースの上にカーディガンを身に纏っている。色や柄に多少の違いはあれど、ある意味おそろコーデだ。

「なんだかこの格好が落ち着くんです。勝負服と似ているからでしょうか」

 彼女の勝負服も今日着てきたようなワンピースを基本にしたシンプルな衣装となっている。かわいらしさと走りやすさを両立させた、彼女にお似合いな勝負服だ。

「今日のエスキーちゃん、とても素敵ですよ」
「ありがとうございますっ! 時間も時間ですし、そろそろ行きましょうか」

 手を繋ごうと右手を差し伸べる彼女にほんの少し先ほどのいたずらのお返しをしてみる。いたずらというより、軽いお芝居みたいなものだけど。

「あら、それではエスコートしてくださる? 小さな騎士(ナイト)さま?」

 こう見えても私もメジロの令嬢の一員。エスコートされることには慣れている。さてエスキーちゃんはどう返すのかと楽しみにしていると、片膝をついて私の手をとり、

「お姫さまのご指示のままに」

 と、私の手の甲に唇をそっと当ててにこやかに微笑んだ。

「え、え、え……エスキーちゃん!?」

 想像のはるか斜め上を通り越した超紳士的な振る舞いに目は白黒、頬は真っ赤、体は硬直、言葉も上手く出てこない。まさかエスキーちゃんがこんなことをしてくるなんて思いもしなかった。

「なんちゃって……ってプログレス姉さま? おーい、大丈夫ですか?」

 そんなフリーズ中な私を見て、彼女は顔の近くで空いている手をひらひらと振る。数度繰り返されたところでようやく意識がはっきりとした私は胸に手を当て1回、2回と大きく深呼吸をし息を整えた。

「ごめんなさい、また驚かせちゃったみたいで」
「私が驚きすぎただけですから。それでは改めて案内お願いしますね」

 私より少しだけ小さな手を握り寮の前から門、そして外へと彼女に連れられて歩いていく。それはまさに互いを信頼しているお姫さまとお抱えの騎士のように。

─────
「それで最初はどちらに?」
「最初はプログレス姉さまが好きそうなお店にご案内しますっ!」
「私が好きそうなお店……?」

 2人仲良く歩いているとあっという間に府中の駅が目の前に現れた。ただそのまま駅の改札に向かうのではなく、彼女は私を駅直結のショッピングモールへと手を引っ張っていった。

「このお店は……?」
「パンケーキのお店です。こういうのお好きかなと思いまして」

 甘いものはもちろん大好きな私だけど、駅の近くにこのようなお店があるのは知らなかった。最近オープンしたのだろうか。

「大好きです! ちなみにメニューは……」

 メニューを開くとそこには名前を見るだけでおいしそうなパンケーキがずらりと並んでいた。ロイヤルミルクティー味のもの、抹茶味のもの、ブルーベリーが添えられたもの……どれもこれもよだれが出てきそう。

「ちなみにエスキーちゃんのオススメはどれですか?」
「わたしは苺がいっぱい並んでいるのが大好きですっ! 添えられたチョコにつけて食べるのもとってもおいしくて……」

 彼女の語りに惹かれてしまい、私は彼女オススメのパンケーキを注文する。彼女の方はまだ食べたことがないレモンとジェラートが添えられたパンケーキを頼んだ。当然アイスティーを忘れることなく。

「うわぁ……すっっっごく美味しそうですっ……!」
「見るだけでふわふわなのが分かりますね……苺もいっぱい……!」

 注文が来るまでの間談笑していると、あっという間に目の前にふわふわのパンケーキが並べられた。私たちはもはや光り輝いてすら見えるパンケーキを携帯で急いで写真におさめると、すぐさま小さくナイフで切ってフォークで口へと運ぶ。

「ん〜〜〜っ!!! おいひいふぇす……」
「私も……ここのお店は覚えておかないと……」

 お互いにモグモグパクパクと勢いよく口に運び、その度にうっとりとした表情を浮かべる。たまには少しお行儀が悪いけれど、お互いのパンケーキを互いに食べさせあったりもして。つい先ほど注文したはずなのに、瞬く間に目の前のお皿の上からパンケーキがなくなっていた。

「とても美味しかったです。このような素敵なお店を教えていただきありがとうございます」
「いえいえ、満足いただけてなによりです。あっ、プログレス姉さま、お口の端にクリームが」

 あらいけないとナプキンで拭き取ろうとした直前、向かいの席のエスキーちゃんが右手を伸ばしたかと思うと、人差し指でクリームをすくい取り、そのままぱくっと口にくわえた。私はまた思考が止まり、顔が苺のように赤く染まっていった。

「ごめんなさい、少しはしたなかったですね……ってまたプログレス姉さま固まってますね……でしたらその間にお会計済ませてきますね」

 ナプキンで指先と口を拭いたエスキーちゃんはお財布を持ってレジへと向かう。そして私と彼女の支払いを済ませたところでもう一度席へと戻ってきた。私の体はそこでようやくフリーズが解除され、頭も体も現実世界へと帰還した。改めて口をナプキンで拭いて綺麗にすると、お代を出してくれた彼女に頭を下げる。

「ありがとうございます、エスキーちゃん。次の支払いは私にさせてください」
「今日はわたしが誘ったんですからわたしに出させてくださいっ! 1日エスコートするって決めたんですからっ!」

 それぐらいはとも思いつつ、出してもらえるなら存分に楽しもうなんて考えてしまうズルい私もいる。

 ──けれど一番ズルいのは私の胸をドキドキさせるエスキーちゃん、貴方ですよ。

─────
 続いて向かったのは府中駅から何度か電車を乗り継いだ、東京随一のベイエリア、お台場。駅から数分歩いた先の、オフィスビルに隣接した複合型商業施設の中にあるゲームセンターに私たちは足を踏み入れた。ただここで疑問が1つ。

「エスキーちゃん」
「どうされました?」
「ゲームセンターならここまで来なくてもよかったのでは?」

 そう、ゲームセンターなら学園の近くにもいくつか存在している。それこそ今いるこのゲームセンターと同じ系列のお店もあるのにわざわざここまで来た意味は一体……

「それはこのあとのお楽しみですっ♪」
「お楽しみ……?」

 何やら気になるけど、私の手を引いて電子音や人の声で騒がしい店内を意気揚々と進んでいく彼女の姿を見て、ひとまず理由を考えるのを放棄し目の前のことを楽しもうと決意した。

「じゃじゃーんっ!」
「あっ、エスキーちゃんの勝負服を着たぱかぷちがありますね!」

 私の背丈以上の大きな箱が並ぶお店の中を私と手を繋ぎながらてくてくと歩くエスキーちゃん。そんな彼女が立ち止まったUFOキャッチャーの中にはかわいい勝負服を着たエスキーちゃんのぱかぷちが多数鎮座していた。

「制服姿のものは持っていますが、勝負服の方はまだゲットできてないですね……ゲットしないと……」

 メジロ家のぱかぷちは一通り揃えたい欲がある私は誰かのものが出るたびにゲームセンターに向かい、上手くないながらも手に入れてきた。だから今回も頑張って取らないと……

「それにしてもエスキーちゃん、ぱかぷちもう2種類出ているのですね」
「わたしも話を聞いた時はびっくりしました。確かに先日ダービーを勝ったところですけど、お話自体はそれより前に頂いていたので」

 ウマ娘のグッズはある程度の人気があれば作っていただける。ただぱかぷちは製造コストの関係か、GⅠを勝利したウマ娘を中心に製造されている。その上で複数ver.作られるウマ娘というのは、よほど人気があるか数多くレースを制したウマ娘に限られる。エスキーちゃんの場合は確かに現時点で既にGⅠを3勝しているから十分その資格を有してはいるけど、どちらかといえば彼女自身の魅力が世間に広く認められているからだろうと私は考えている。

「エスキーちゃん大人気ですね」
「多くの方に応援していただいて嬉しいですっ! これからももっと頑張らないとっ!」

 ふんすと秋以降に向けて気合を入れ直すエスキーちゃん。そんな動作の1つ1つが大変可愛らしい。その上レースに出ればとんでもない末脚を炸裂させて1着をもぎ取るのだから、人気が出て当然だと私は思う。

(ですが、今日見せてくれたようなかっこよさも持ち合わせているのですよね。もしかしたらあまり知られていないかもしれませんけど)

 少なくとも彼女がそのような仕草を見せたことはレース前後、学園内でもそう多くはないはず。いつも側にいるドーベルさんに対してはやはりかわいらしい様子で接しているように思える。すなわちそれは、

(かっこいいエスキーちゃんは私だけが知っている……ということでしょうか)

 図らずして垣間見ることができた彼女の新たな一面。可憐な花束の中に一輪だけ刺さった男性的な凛々しい花。私はその美しさに知らないうちに少しずつ心を惹かれていく。甘いお菓子の味を初めて知った子どものように心が彼女に引き寄せられていく。

 ──みにくい独占欲も道連れにして。

─────
「ゲームセンター、スポーツ用品店、本屋、そしてカフェ……いっぱい歩き回りましたねー」
「あとは服屋さんも見て回りましたね。エスキーちゃんも私も結局ウィンドウショッピングだけで終わってしまいましたけど」

 UFOキャッチャーでお互いのぱかぷちをゲットしてプレゼントしあったあとは、ゲームセンターでは2人で協力プレイができるシューティングゲームや音楽ゲームをともに楽しんだ。エスキーちゃんはどれも上手で、特にシューティングゲームでは私に適切な指示を出してくれて、初めてのプレイにも関わらず、見事に最後までクリアすることができた。

「プログレス姉さまに似合いそうな素敵なお洋服がいろいろありましたのに……」
「それこそエスキーちゃんにお似合いのかわいい服もたくさんありましたよ?」

 別に買いたいと全く思わなかったわけではない。いくつか興味が引かれる服もあるにはあったのだけど、エスキーちゃんが『でしたらわたしが払いますね』とすぐにお財布を出そうとしてくれたのがどうにも申し訳なかったのと、ただでさえ片手がエスキーちゃんのぱかぷちを入れた大きな袋で塞がっているのにこれ以上荷物を抱えるわけにはいかなかったから。

(手が繋げなくなってしまいますから……)

 左手ではエスキーちゃんのぱかぷちを入れた袋をしっかり掴んで、そして右手はエスキーちゃんの手をぎゅっと握って。この幸せな時間を可能な限り堪能しておきたい私のわがまま。

「プログレス姉さま、話は変わるんですけど本屋さんでなにやら参考書とにらめっこされてましたよね。もしかして勉強の調子が……」
「あぅ……見られてましたか……」

 そう、私は勉強があまり得意な方ではない。他のメジロ家の皆さんはレースだけではなく勉学も優秀なのに、ほぼ私だけが取り残される格好になってしまっていた。もちろん目の前のエスキーちゃんは今更言うまでもない。

 そんな私のしょんぼりとした様子を心配してくれたのか、『このままではメジロ家の威厳が……』とでも考えたのか、ワンピースを着た妖精が私に手を差し伸べてくれた。

「よろしければわたしがお教えしましょうか? せめて夏休みの宿題ぐらいはお手伝いさせていただきますけど……」
「ほ、本当ですか! ありがとうございます! これで夏休み明けに先生に叱られずに済みます!」

 まさに天界から気まぐれに施しを与えた女神、救世主、もしかしたら天使なのかもしれない。エスキーちゃんのちょうど後ろの天井にかかっている天井の照明が後光か何かのようにも見えてくるぐらいに、彼女の姿が神々しく見えた。

「……いつも先生に怒られているんですか?」
「いつもではありませんよ!? 時々、時々ですから!」
「怒られていることは否定しないんですね……」

 彼女の私に対する見る目が少し変化したように見えるけど、私の勉学の危機と比べたら些細なこと。これでマックイーンさんを始め、偉大なメジロ家の方々に少しは追いつけるかもしれないのだから。

(エスキーちゃんを独り占めできてラッキー……とは考えていませんからね!?)

 誰に対する自己弁護なのかは分からないけれど、これは伝えておかないととなぜか思ってしまった。

─────
「それではそろそろ行きましょうか」
「行くとはどちらへ?」

 夕方からそろそろ夜へと名前を変える時間帯、カフェを出て建物の外の方へと私の手を握りながら歩いていく彼女に問いかける。夕食をとるにしては少しばかり早く、ただこのまま帰るのも少し名残惜しい時間に彼女は私をどこにエスコートしてくれるのだろう。

「それは着いてからのお楽しみですっ♪」
「エスキーちゃんは意地悪です……」

 もちろん私に嫌がらせをしたくてしていることではないのは分かっている。おそらく、きっと、いえ必ず私を楽しませてくれる、喜ばせてくれるための隠しごとだろうから。

 歩くこと10分少々、たどり着いたのはすぐそこに海が広がる見晴らしのいい公園。そして目線を上げるとそこには……

「きれい……」

 彩り鮮やかに光りきらめくレインボーブリッジ、橋の向こう側に見える街の絶えることない輝き。

「ですよね。これをお見せしたかったんです」

 彼女がわざわざお台場に私を連れてきてくれた意味をやっと理解することができた。

「エスキーちゃん、ありがとうございます。このような素敵な景色を見せていただいて」

 歩道の脇に設けられたベンチに2人並んで腰かけ、ここまでエスコートしてくれた彼女に感謝の気持ちを伝える。私はただ彼女の相談事に有り体な返事をしただけなのに、彼女は今日一日私を最大限楽しませてくれようといろいろ考えて動き回ってくれたのだから。

「プログレス姉さまにいただいたものと比べたら全然です。ですけど……」

 一旦口と目を閉じ、そして再び私の目を見て口を開く。

「わたしも今日姉さまと一緒に過ごせてすっごく楽しかったですっ! またお出かけしたいですっ!」

 その瞳はどこまでもまっすぐで、とてもキラキラと輝いていた。イルミネーションよりもずっときらめく笑顔は思わず目を細めてしまうほど眩しい。

「……私もです、エスキーちゃん」

 指切りげんまんと約束を交わし、再び夜景へと目を移す。そして私は彼女の左手にそっと右手を重ねる。優しく壊さないように、それでいて決して離さないように温かい手をふんわりと包み込んだ。

 ──貴方の手を掴んで進んだ先に夏は待っている。私の揺れる想い、進む関係、全てを待ちわびながら一歩、二歩と進んだ先に彼女は静かに佇んでいる。

─────
 時は進み、いよいよ夏真っ盛り。私たちは今学園主催の夏合宿に参加するために海辺までやってきている。ただ今は……

「エスキーちゃ〜ん……ここってどう解くのでしょう……?」
「そこはこうやって因数分解すると、xとyが求まるので……」
「なるほど! エスキーちゃん賢いです! これで手ごわい夏休みの宿題もおしまいですね!」

 エスキーちゃんに宿題を教えてもらっていた……学年は私の方が上なのに。

「一応聞きますけど……去年まではどうされてたんですか……?」

 終わらせた宿題を意気揚々と片付けていると、小さくため息をついたエスキーちゃんが呆れ半分心配半分に聞いてくる。えーっと去年は……

「確か少し遅れてしまったような……?」
「その記憶すら曖昧なんですか……はぁ……」
「ちょっと今私のことバカにしませんでした!?」

 この合宿中こういうやりとりを頻繁に行っていた私たち。私が賢さ1と呼ばれる所以の醜態を晒し、それを彼女が呆れてツッコミを入れ、私が逆ギレをする。もちろん原因は私にあることは理解しているから、本格的に喧嘩を始めることはない。お笑いでいうところの定番ギャグというものだ。むしろこれがないとハリがない……という言い訳をする。

「まあプログレス姉さまが勉強が苦手なことは前々から分かっていたことなので……」
「なので?」

 今まで私のすぐ横にぴったりとくっついて勉強を教えてくれていたエスキーちゃんがおもむろに立ち上がると、何も言わずに姿を消した。返事を無視されたと思った私が困惑している間に、彼女は何冊かの書籍を胸に抱えて再び姿を見せた。それを今まで宿題を広げていた机の空きスペースによいしょと置くと、

「これ、夏合宿終わるまでに全部やってもらいますから」

 スパルタ教師へと変貌した。

「えーっと……エスキーちゃん? これわりと量あると思うのですけど……全部、ですか?」
「全部です」
「ウソですよね?」
「勉強でわたしがウソをつくと思われているんですか?」

 目の前には国語や数学を始めとした基礎科目の他に、この学園特有のスポーツ系の科目についての分厚い参考書が科目ごとに1冊ずつ積み上げられている。そして夏合宿は残り1ヶ月ほど。

「もしこれをこなさなかったら……?」
「合宿最終日の自由時間はなしです。もちろん教えるわたしもですけど」

 私だけだったら最悪自分だけが悲しい思いをするから、最大限の努力はするけどもまあ終わらなくてもいいかと思えた。ただそうじゃない。エスキーちゃんの時間も奪ってしまう。だったら頑張るしかない。私のせいで彼女の時間を奪うわけにはいかない。

「あー、そうですそうです。もちろんご褒美もちゃんと用意してありますよ?」
「スイーツですか!?」
「マックイーン姉さまじゃないんですから……」

 再びため息をつくと、私の耳に口を寄せ囁く。

「最終日、プログレス姉さまに秘密の場所を教えてあげます。ドーベル姉さまにも教えていないとっておきを」
「……なにがなんでも終わらせます」

 私の揺れる想いに気づいているのかどうなのか。仮に気づいていたとすればそれはお誘いに他ならず、気づいてなかったとしてもそれが私のモチベーションに繋がると分かっているということ。

(人をやる気にさせるのが上手ですよね、エスキーちゃん。もしかして指導者に向いているのではないでしょうか)

 1番上に置かれていた参考書を手元に開けると再び頭をフル回転させながら必死にシャーペンを動かす。少し詰まっても考えることは放棄せず、先へ先へと走っていく。どうしても分からなくなってしまった場合でも横から優しい先生が

「ここはですね──」

 と手を差し伸べてくれる。そしてまた前に進む。解いて解いて、たまには一休みして、笑って、難しくて泣きそうになって、だけど解けたらハイタッチもしたりして。

 先生と生徒の関係でいるのはこの場だけ。そう願う。あくまで彼女とは対等でいたいから。理由はまだ言えないけど、なぜか心の底で強く願うようになった。

─────
 そして迎えた合宿最終日前日。

「これで……終わり……です……」

 最終科目の最後の問題が解き終わり、机にぱたりとひれ伏す私。エスキーちゃんはその背中をぽんぽんと叩いて健闘を讃えてくれた。

「よく頑張りました、プログレス姉さま。これで今までの復習はバッチリです」
「エスキーちゃんもありがとうございます。つきっきりでサポートしていただいて」

 膨大な量をこなす私も間違いなく大変ではあったけれど、その私が記す解き方や解答を一つ一つチェックしながら、間違っている部分は厳しく指導しつつ、正解であればそれ以上に褒めてくれる。そして解答に窮すれば答えの糸口を教えてくれる。飴と鞭を上手に使い分けるその指導方法は、何度か先生と呼び間違えてしまうぐらい完璧なものだった。

「いえいえそれほどでも。兎にも角にもこれで夏休みが明けてからもバッチリ授業の内容が理解できますねっ!」
「……はい」
「で き ま す よ ね ?」
「……はい!」

 圧がすごい。少しこわい。私より小さいはずなのに、威圧感だけなら比べものにならないほど私を圧倒している。これが無敗の2冠ウマ娘のなせる業なのだろうか。

「ふぅ……この先も勉強で分からないことがあればいつでも聞きにきてください。教えられる範囲で教えますから」

 体や声からふっと力を抜き、今度はエスキーちゃんの方が机にぱたりと倒れ込む。昼間はトレーニングで体を酷使し、夕方以降は私の勉強を頭を酷使しながらつきっきりで見守っていれば、いくら彼女といえど疲弊するのも無理はない。そんな頑張り屋さんな彼女の背を私はゆっくりと撫でてあげる。

「ありがとうございます。そしてお疲れさまでした。今日はゆっくり休んでください」
「今日は部屋に戻ったらすぐ寝るようにします……あっ、それで肝心の話なんですけど」

 むくりと起き上がりいつの日かと同じように耳元で内緒の話をしてくれる。

「明日、皆さんの目を盗んでこっそり2人だけで素敵な場所に行きましょう。きっとプログレス姉さまも気に入ってくれると思います」
「素敵な……場所……」
「はい。2人だけの秘密ですよ?」

 私だけが知る貴方の秘密がもう1つ。他の誰にも知られたくない、知られるわけにはいかない。だから私は、

「分かっています。私とエスキーちゃんだけの秘密です♪」

 芽吹き、根を張り、そして太陽へ手を伸ばす独占欲という名の花を枯らすことがないように水をやる。

 ──その先に何が待ち受けるのかを知ることはなく。

─────
 翌日、合宿最終日。この日は午前中にのみトレーニング時間が設けられていて、午後はみんな一律で自由時間となっていた。トレーニング以外ならどう過ごすかは個々人に委ねられていて、体の休息に努める人、夏休みの宿題がまだ片付いておらず、合宿所に籠もって必死に手を動かす人、そして全力で夏を楽しもうとビーチで遊ぶ人、みんな思うがままに合宿での最後の時間を過ごしていた。私たちはというと、メジロの皆さんで集まって、

「ライアン、決めちゃって!」
「マックイーン、いくよ!」
「そう簡単に決めさせませんわ! はい!」
「マックイーン、こちらも反撃です!」

 ビーチバレーをしていたり、

「ブライト、そっちのお城のバランス崩れてるよ」
「あら〜? ありがとうございます、ドーベル♪」

 お城を作っていたり、

「みんな元気ね……」

 ビーチパラソルの下でドリンク片手に優雅に海を眺めていたりしていた。

「青春って感じですねえ……」
「エスキーちゃんの年齢で言うことではないと思いますけど……それで秘密の場所って……?」

 そう、今日はこの合宿中勉強を頑張ったご褒美にエスキーちゃんのとっておきを教えてもらえることになっていた。なんでもドーベルさんにも教えていないとかなんとか。

「皆さんこっち見てませんね……はい、今のうちにこっそり行ってしまいましょうっ!」
「わわっ!? いきなり手を引っ張らなくても……!」

 他のメジロの方々がこちらを注目していないことを確認した上でエスキーちゃんは私の手を取り、皆さんがいる砂浜から少し離れた木が生い茂っているエリアまで小走りで駆けていく。まるで秘密の逃避行でもしているかのように。

(なんだか駆け落ちしているみたいです……)

 そう例えてしまう時点で既に私の彼女に対する想いは固まっていたのかもしれない。言葉にはまだしていないだけ。この合宿中、私が気づかないうちに外堀だけではなく内堀まで埋められてしまっていたようだ。毎日彼女がすぐ隣にいて、私に素敵な笑顔を見せてくれて、時々ドキッとさせることも言ってきて。

『今はプログレス姉さまだけのわたしですから』

『プログレス姉さまの寝顔、かわいくてつい撮っちゃいましたっ♪』

 私はその度に心が跳ねて、鼓動が速くなって。

『今日も頑張ったのでわたしがぎゅーってしてあげますっ』

『プログレス姉さまの手、あったかいですねっ!』

 頬が赤く染まり、言葉も上手く出てこないけど。目は、目だけは。

『わたし、プログレス姉さまのこと大好きですっ!』

 貴方のその瞳から目を逸らせなくなっていた。

「ふぅ、着きましたっ! ここがわたしの秘密の洞窟ですっ!」

 頭の中で想いがぐるぐると駆け巡っている間にいつの間にか森を抜けて別のビーチが眼前に広がっていた。ただそこには人の子一人おらず、遠くの方から学園の人たちの楽しそうな声が小さく響いてくるぐらいの静けさが保たれていた。ただエスキーちゃんの秘密の場所は静かな砂浜そのものではなく、山肌が波か何かで削られ抉られた、まるで隠れ家のような洞窟だった。

「よいしょっと。中は結構広いのですね。入り口だけ大きいのかと思っていました」
「ふふーんっ! 甘く見ましたねプログレス姉さまっ!」

 どんなもんだいと胸を張るエスキーちゃん。こういうところは年相応でとってもキュート。ただ彼女はそれだけのウマ娘ではない。

「プログレス姉さま、顔を上げて天井を見てもらえませんか?」
「天井? あっ……」

 そこに広がっていたのは、射し込んだ太陽の光を反射しキラキラ煌めく鉱石たち。一つ一つが星のようで、お昼なのに夜空の下に立っているかのよう。外の熱気もそれほど中に入ってこないのも手伝って、今が何時なのか分からなくなってしまうぐらいに。

「ねっ? 綺麗でしょ?」
「はい……とても……」

 2人で仰向けに寝転び、真昼に広がる星空を静かに見つめる。彼女のお気に入りの場所、それは喧騒から離れた素敵な秘密基地だった。

─────
「日が傾いてきましたね……もう少し楽しみたかったんですけど……」
「エスキーちゃんと一緒ならあっという間でした」

 仰向けになって洞窟の天井を見つめたり、たまに砂浜で城を建築したり、少し海に入ったりしていると、2人だけの時間は瞬く間に過ぎ去っていった。あれほど高い位置に昇っていた太陽も徐々に傾き、今では空の色を青から赤へと塗り替えていた。

「それにしてもエスキーちゃん、泳げないんですね。少し意外でした」

 勉強もできるし、レース運びも目を見張るものがある。そしてなんといってもかわいくてかっこよくて……そんな彼女に苦手分野があるとは思いもしなかった。

 そんな私のからかい混じりの発言に彼女は頬をぷくっと膨らませて言い訳、もとい反論を始めた。

「わたしにだって苦手なものの1つや2つぐらいありすよっ! ファッションセンスだってそんなにですし、もちろん苦手な食べ物だってありますから」
「ですけど合宿前のデ……お出かけの時のワンピースはとっても素敵でしたよ?」

 まさかのオソロファッションになってしまったあの日の彼女はまさに可憐な美少女という言葉が似合う佇まいで私の前へと現れた。ただその立ちふるまいには、お茶目なところと洗練された凛々しさがスパイスとして含まれていたけれど。

「……あれは姉さまに選んでいただいたものですから。今日の水着もそうですし」
「……そうなんですね」

 一見華奢な女の子に見える彼女だが、女性として強調される部分はそれなりに「ある」。身長は私の方が高いけれど、スタイルとしては彼女の方がいい。そんな彼女が今日身にまとっていたのはビキニの上にパレオを腰に巻いた、少女というより大人の女性らしさが押し出されている水着だった。てっきり私は彼女がドーベルさんに見てもらうために選んだものかと考えていたけれど、実情はそうではなかったらしい。

「似合って、ますか?」
「もちろんですよ」

 夕日を背景に砂浜で儚げに微笑む彼女の姿はどんな絵画よりも可憐で綺麗で美しい。携帯やカメラはここには持ってきていないから、何度も何度も瞼のシャッターを切り、忘れないように心のフォルダに1枚1枚丁寧に収めていく。彼女が私だけに見せる笑顔を繰り返し繰り返し。いつまでも独占したい気持ちを抑えながら、彼女の吸い込まれそうな綺麗な瞳をまっすぐ見つめて。

─────
「エスキーちゃん。そろそろ集合時間ですから戻りましょうか」
「そう……ですね。ちょっぴり寂しいですけど」

 空の主役が太陽から星に交代する前に彼女をここから連れ出す。集合時間に遅れないように、誰かが私たちを探しにくる前に彼女の手を取って、今度は私が元来た道へと連れて行こうとしたら……

「わっ!?」
「きゃっ!? プログレス姉さま大丈夫ですかっ!?」

 早く帰らないということに意識を取られ、足元にできていた穴ぼこに躓き砂浜へ転んでしまった。幸いにも受け身の体勢で倒れ込むことができたから、頭から落ちることはなく顔に傷がつくことはもなかった。ただ受け身の体勢ということは今は仰向けになっているということ。倒れ込む直前にエスキーちゃんの手を離したけど、少しだけ引っ張ってしまった関係で彼女もこちらへ倒れ込んでしまっているということ。すなわち、

(顔が……)

 目が逢う。時が止まる。心臓は高鳴り、貴方に鼓動が聞こえそう。綺麗な色をした唇の間からは甘い吐息が私に降り注いでいた。

(もし……もし……)

 ここで目を閉じたらどうなるのだろう。そんな考えが頭をよぎる。いつか読んだ少女漫画みたいな、この前テレビで流れていたドラマみたいな、憧れていたシーンが私にもなんて。

(貴方になら……)

 目の前が真っ暗になる。貴方が思わず息を呑むのが聞こえる。胸のドキドキが貴方に聞こえてしまっても構わない。この時、この一瞬が永遠なものになればそれだけでいい。

「プログレス姉さま……」

 吐息が唇にかかる。そして訪れる柔らかい感触。おそるおそる目を開くとそこには……

「エスキー、ちゃん……?」
「本当にしちゃったと思いました?」

 右手の人差し指を私の唇に横向きに当てて微笑むエスキーちゃんの顔があった。いたずら混じりのその笑顔は少し子どもっぽくて、だけどほんのり頬も赤くなっていて。

「エスキーちゃんはいじわるです……」

 私の乙女心をもて遊ぶなんて。

「いたずらしたのはプログレス姉さまの方が先じゃないですかっ! ほら、立ってください」
「よいしょ……っと。ありがとうございます」

 彼女の差し伸べてくれた手を取り立ち上がる。もう一度彼女の手を引いて今度こそともほんの少し考えたけれど、流石にいたずらが過ぎると思い自重した。

「それでは合宿所まで戻りましょうか」
「また案内お願いしますね」

 握った手を組み替える。指と指とが絡み合うそんな握り方に。一瞬だけびくっと跳ねた貴方は私の気持ちを汲み取ってくれたのか、言葉に出すことなく笑顔で応じてくれた。

 誰かに見つかるまでのほんのわずかな時間だけど、今だけはこうしていたい。

 ──だってもう、私の心は貴方に奪われてしまったのだから。

─────
「ここ……っ!」
「……っ!?」

 合宿が終わり、秋。まだ陽射しが厳しく私たちを照りつけるトレーニングコースで私はエスキーちゃんの菊花賞への練習相手として汗を流していた。レース自体は勝ってはいないものの、1ハロン距離が長い春の天皇賞で勝利していること、距離は違えど京都で開催されるエリザベス女王杯で優勝したことから、淀の舞台を知る者として是非にとエスキーちゃん自身から請われた。当然今の私が彼女のお誘いを断ることなどあり得ない。スケジュール帳を確認するまでもなく二つ返事で了承した。

「お疲れさま、2人とも。最後いい伸びだったよ」

 併走トレーニングを終え、コースの外でエスキーちゃんと2人体を休めていると、2人分のタオルとドリンクを持ったドーベルさんが少し小走りで駆け寄ってきた。私たちは軽く一礼をするとタオルとドリンクを受け取り、汗を拭きながら乾いた喉を潤した。

「んっ……んっ……ふぅ、やっぱり走ったあとのスポーツドリンクは美味しいですねっ!」
「ですね。それにしてもエスキーちゃん、スタミナすごくついてきましたね」

 レースまでおよそ1ヶ月ほど。前哨戦となる神戸新聞杯やセントライト記念をパスして本番へと向かう彼女は、徹底的に京都の3000mの対策を日本ダービーのあとから続けていた。ダービーから一気に3ハロンも延長されるこの舞台、当たり前ながらスタミナがなければ上位争いすら夢のまた夢。無敗クラシック2冠という偉業を達成していてもそれにあぐらをかくことはなく、ただ勝利だけを目指している彼女の姿は太陽に照らされ眩しく煌めいていた。

「そんなことはー……ありますねっ! タイムもそれを示していますし。ねっ、姉さまっ!」

 話を振られたドーベルさんは手元のタブレットの電源を入れ、これまでのタイムがずらりと並べられた画面を私たちに見せてくれる。そこには私にもはっきりと分かるほどの綺麗な成長曲線が記されていた。

「こう数字で見せてもらうと改めて凄さが伝わってきますね……明日レースでも勝ってしまうのでは?」
「今から京都に行きましょうかっ!」
「プログレス、あまりこの子を調子に乗せないようにね。まあ確かに凄いのは事実なんだけどさ。アンタも無理はしないように」

 私たちに見せていた表を閉じ、タブレットの画面の明かりを落とすドーベルさん。エスキーちゃんとのやりとりを傍から見ていると、長年連れ添った者にしか出せない雰囲気をかすかに感じ取り、もやもやとした感情が頭と心を支配する。

(私、私の方がエスキーちゃんのことを……いえ、何を私は考えているのでしょう。醜い感情をドーベルさん相手に抱いてしまうなんて……)

 軽く頭を振り雑念を追い払う。運よく眼前の2人は私の不審な仕草に気づくことはなく、話は知らない間に菊花賞前後のスケジュールに移っていた。

「とりあえずスクーリングの予定は金曜の午前中に確保してあるから、当日の朝に出発してレース場に向かう段取りでよろしくね」
「了解ですっ! 淀の舞台は走ったことないですから、コースを見させていただくだけでもありがたいですねっ! ちなみになんですけど……その日のお昼からは時間、ありますよね?」
「予定は何も入ってないけど……はいはい分かった、空けておくからアンタの好きにして」
「やったあっ! 楽しみにしてますねっ!」

 土曜にスクーリングという名の下見を行えないのは当然当日はレースが開催されるから。だから学園に申し出てレース当週の平日に行うのが一般的。別に特別彼女だから認められていることではなく、他の出走するウマ娘たちも申し出さえすれば支障なく許可される。それを今回彼女たちは直前の金曜日に行うらしい。その上でエスキーちゃんがドーベルさんに午後の予定を聞いたということは、そのままレース当日まで滞在するのだろう。あとは……

(言葉にはしませんでしたがデート、ですよね……)

 エスキーちゃんの性格上バ場状態の確認をせずに出かけることはしないはず。だからレース当日は朝からレース場に赴いている上、レース前日も可能な限り間近で観戦することを心がけている。となれば自由時間はスクーリングの日の午後のみ。言うまでもなく彼女はドーベルさんのことが大好きだから、ドーベルさんの予定まで確認したということは「そういうこと」なのだと。2人だけで京都を巡るのだということに間違いない。

「いいですね……あっ」
「プログレス姉さま? どうかされました? いいですねって」

 つい本音が漏れてしまい慌てて口を押さえる。しかしこぼれた5音は彼女たちの耳に届き、こちらへ注意を向けさせる羽目になってしまった。

「違うんです違うんです。お二人が仲良くて羨ましいなと思っただけですから!」

 嘘ではない。ただし真意でもない。なぜなら「嫉妬」という感情を、「悔しい」という想いを言葉に乗せていないのだから。それでも彼女たちにはかすかに伝わっていたようで。

「姉さま……」
「もうそんな目で見ないの。次の月曜日休養にしてもらうから。プログレスは自分でなんとかしてね。アタシにできるのはこれぐらいだから」
「えっ……どうして私のために……?」

 ここまでしてもらうほどの何かを私は与えられていない。エスキーちゃんにも、当然ドーベルさんに対しても。だから私のことは置いておいても構わない。そのはずなのに。

「わたしもプログレス姉さまとお出かけしたいですからっ!」

 彼女たちはそんな私も受け止めてくれる。仮にそれがメジロの一族としての当然の振る舞いだったとしても、憐憫の情から発した施しだったとしても、私はただただ嬉しかった。

「ありがとうございます、エスキーちゃん、ドーベルさん。この恩はいずれどこかで必ず」

 どのような形であっても絶対に。それが私にできる精一杯のことだから。

─────
 迎えた菊花賞当日。私は京都レース場の観客席、ゴール前の特等席で彼女の勇姿を見守っていた。

『──さあ2度目の坂越え……おっと!? ここで早くもメジロエスキーが先団に取りついた! 掛かり気味か? それとも想定通りなのか?』

(息もまだ上がっていないみたいです。これは間違いなく想定通りのロングスパート……つまりここからはエスキーちゃんの独壇場……!)

『さあ第4コーナーで早くも先頭はメジロエスキー! ここからまだゴールまで400mありますが……突き放す突き放す突き放す! 後ろからは何にも来ない!』

 スタートから好位につけて、そのままじっと我慢。そして迎えた2度目の坂越えで一気に加速して先団を捉えると、これまで鍛えたスタミナに物を言わせてロングスパートをかけ、一気に後続を引き離す。仕掛けどころを間違えない抜群のレースセンスに無尽蔵に近いスタミナが加わればもはや鬼に金棒、獅子に鰭、虎に翼。怖いものなど何もない。

『ぐんぐんリードが広がっていってこれは楽勝ムード! 無敗3冠はさらなる栄光への通過点に過ぎないのか! メジロエスキー、今圧勝でゴールイン! 無敗の3冠ウマ娘、ここに誕生!』

 強い。ただそれだけで十分だった。見る者に勇気と希望を、そしてともに駆ける者には絶望を与えるその圧倒的な走り。レース場全体から万雷の拍手と割れんばかりの歓声が雨のように彼女に降り注ぐ。それを彼女は小さな体をもって一身で受け止め、深々と観客席に向かって一礼をする。応援してくれた現地のファンだけでなく、テレビやラジオで彼女の走りに声援を送ってくれた方たちに伝わるように長く深く。ワンピース姿の素敵な勝負服には跳ねた芝や土がくっつき、ドーベルさんに整えてもらった綺麗な黒髪は少しボサボサになり、かわいい顔には汗が流れている。それでも3000mを先頭で駆け抜けた彼女の姿はただひたすらに美しかった。

─────
 レース後の控え室。まさに千客万来の祝福を受けたあとの彼女のところへ1人静かに立ち寄る。レースだけでなく多数の記者からの取材、そして学園の子たちからのおめでとうの言葉全てに対応しきった彼女は珍しく疲弊していた。机にうつ伏せになっているところを見ると、声をかけるのを躊躇ってしまう。ただ私の入室した時に聞こえた扉の音と近づいてくる足音に反応したのか、彼女の方から私に話しかけてくれた。

「プログレス姉さま、見守っていただいてありがとうございます。ゴール前でまっすぐレースを見つめる姿、ちゃんと分かってましたよ」
「ありがとうはこちらの台詞ですよ。素晴らしいレースを見せていただいてありがとうございます。そして優勝おめでとうございます!」
「ありがとうございますっ! 練習もいっぱい付き合っていただいて……今日勝つことができたのはプログレス姉さまのおかげですっ!」

 椅子に座っていたところを勢いよく立ち上がり、私に向かって飛び込んでくるエスキーちゃん。私はそんな彼女をなんとか受け止め優しく抱き締める。

(エスキーちゃん柔らかくていい匂い……私とっても幸せです……)

 ひそかに恋慕の情を寄せている相手を両腕の中に収められる多幸感は何物にも代えがたい喜びを与えてくれる。それでいて隙間なく相手に触れ合うことでまさに天にも昇るほどの幸福が私を包み込んでくれる。

「ん゛ん゛っ゛!」

 一体どれほどの間彼女の温もりを全身で感じていたのだろう。実は私がこの部屋に入る前からこの場にいたドーベルさんの咳払いで我に返った私は腕の中に収まっていたエスキーちゃんを解放した。見られていたことをすっかり忘れていた私の真っ赤な顔は、控え室に備えつけられた鏡に見逃されることなくばっちりと映り込んでいた。恥ずかしい……

「エスキー、このあとはウイニングライブの準備があるから急ぎ目にお願いね。レース後のマスコミ対応はもう終わったけど、ライブ後にまたあるかもしれないから、想定問答は考えておいて。たぶん『3度目のwinning the soulはどんな気持ちで歌われましたか?』とか聞かれるかもしれないから」
「了解ですっ! バッチリキッチリ答えられるように頑張りますっ!」

 そろそろお暇しないとと思い、2人に頭を下げ部屋の外に出ようとすると、エスキーちゃんから呼び止められる。

「プログレス姉さま、明日のことなんですけど……」
「エスキーちゃんはどこか行きたいところはありますか?」

 京都には幾度となく足を運んだ関係で、主だった観光スポットであれば軽く案内ができる程度にはこの街に詳しくなった。それでも彼女の方が詳しいから逆に解説されるかもしれないけれど、それ以上に今度は私が彼女をエスコートしたいという想いが強い。

「金曜日は宇治と、ホテルへ向かう途中の伏見の方を姉さまと巡りましたし、そこ以外ならどこでも嬉しいですっ!」

 夕方には新幹線に乗る必要がある関係で多くのエリアを訪れることはできない。朝から回れるにしても1つに絞らないといけない。

(だとしたら……あの場所は外したくないので……) 

「清水寺辺りはどうでしょうか? いわゆる東山の方面になりますけど」

 京都駅からそれほど遠くはなく、かつ有名スポットをいくつか回れる鉄板コース。南禅寺まで行くことができるかは時間次第ではあるけれど、仮に行けなくても満足できるレベルの観光はできると思う。

「清水寺……はいっ、そこでお願いしますっ!」

 元気いっぱいの返事をもらえたことで集合時間と場所もこの場で決めてしまう。17時過ぎの新幹線に乗ることを考えると……

「朝10時に祇園四条駅の改札前に集合、でどうでしょう?」
「分かりましたっ! 携帯のスケジュールにも入れておいて……はいっ、それでは明日楽しみにしてますねっ!」

 笑顔で手を振る彼女にこちらも手を振って応え、扉を開ける直前にドーベルさんにも一礼してから部屋から外に出る。扉を閉めて周りに誰もいないことを確認してから握りこぶしを作って小さくガッツポーズを決める。

(明日は2人きりで京都デート……!)

 今にもスキップしそうなテンションでウイニングライブの会場へと早めに足を運ぶ。彼女のセンターをしっかりと目に焼きつけるために、そして早く席に座って明日のプランを考えるために、はしたなく思われない程度に早歩きで向かう。

(忘れられない1日にできますように……)

 ──天におわす神様に願いを捧げる。どうかこの幸せな日々が長く続きますようにと、強く、強く、力を込めて。

─────
翌朝9時30分。集合時刻より早めに四条大橋の東側でエスキーちゃんを待っている私はしきりに手鏡で髪が乱れていないか、化粧は崩れていないかを確認していた。先程から昨日の夜必死に考えてまとめたスケジュールを携帯でチェック→身だしなみの確認→スケジュールの確認……とエンドレスに繰り返している様は傍から見るといささか滑稽に見えているかもしれない。本人はそのようなことまで気は回っていないのだけれど。

(とりあえず17時に京都駅へ戻ることを考えると……少しぎりぎりにはなりますが夕焼けは見ることができそうですね……)

 「京都デート半日プラン!」や「気になるあの子と行きたい京都のデートスポット!」といった各種サイトを巡ったり、今日の日の入りの時間を調べたりして作った私渾身のデートプラン。エスキーちゃんがエスコートしてくれたあのお台場デートと比べたらお粗末な出来かもしれないけれど、十分満足させられるものにはなっているはず。

「今日は1日天気が良さそうで何よりです……」
「天気がどうされました?」
「わっ!?」

 携帯を見ながら独りごちていると、顔と携帯の隙間にエスキーちゃんの頭がぐいっと入り込んできた。彼女の不意の一撃に思わず手から携帯を落としそうになってしまった。

「おはようございます、プログレス姉さま。少し早かったでしょうか?」
「い、いえ、そんなことは……かわいい……」

 彼女の姿を上から下までじっくりと見る。耳がぴょこんと飛び出したベレー帽に、トップスはオーバーサイズのスウェット。首元から白いものが見えているから中にはブラウスを着ているのだろうか。そしてスウェットのお腹の部分だけロングのプリーツスカートの中に入れ込んでいて、靴は丈が短いレザー製のもの。斜めに肩にかけたショルダーバッグはスカートの色と合わせていて、全体として背伸びしつつも彼女のキュートな部分が遺憾なく発揮されていて文句の付けどころがない。このような女の子がデートの待ち合わせ場所で待っていたら、惚れない男の子なんていないと思う。まあ私は前から惚れているのだけれど。

「今日のために頑張っちゃいました……えへへ……」

 私の一言に人差し指で頬を掻きながら照れるエスキーちゃん。かわいすぎて今すぐにでも抱き締めて大好きと伝えたい欲求をなんとか堪え、手を繋ごうと手を伸ばす。

「集合時刻の5分前ですけど行きましょうか」
「はいっ! 今日はエスコートお願いしますねっ!」

 互いの手が一番触れ合う形で手を繋ぐ。貴方は私を拒むことなく受け入れてくれる。今日この1日で少しでも私のことを好きになってくれるように、私の想いが"like"ではなく"love"だと伝わるように精一杯頑張ろう。

(この想い、伝わりますように……)

─────
「プログレス姉さま、ここってもしかして……」
「そうです。かの有名な『縁切り神社』ですよ」

 最初に訪れたのは巷で話題になっている縁切り神社、安井金比羅宮。周囲の住宅街から切り離された静謐で異質な空間、これまで訪れた参拝者たちの強い想いや念が境内全体を包み込んでいるようだ。ただインターネットでまとめられたイメージが強烈すぎて、実は「縁結び」の神社でもあることはあまり知られていないのかもしれない。隣のエスキーちゃんも少し怯えているぐらいだし。

「大丈夫ですよ、エスキーちゃん。ここは悪い縁を切って、良縁を結んでくれる神社ですから。特に周囲の誰かに不満を持っているわけではありませんよ」
「よかったです……もしかしてトレーナーさんへの恨みつらみを書くのかと思っていました……」
「あはは……トレーナーさんにそのような感情は抱いていませんから安心してください。もちろん他の方にもです」

 少なくともトレーナーさんに対する不満という不満は特にない。むしろよく導いてもらって感謝しているぐらい。ただエスキーちゃんに抱いているような情を彼に向けることはないけれど。

「もちろんわたしもありませんけど……願い事はなんて書きましょうか……」
「なんでもいいですよ。『プログレス姉さまともっと仲良くなりたい』といったものでも」

 他人の願いを自分の都合のいいように誘導するのは心が引けるけれど、彼女にはもっと私の方を見てほしい。そしてもし……

(私のことを好きになってくれたら嬉しいなって……)

 ただエスキーちゃんは私が誘導したことに気づくことなく、なるほどと軽く何度か頷いていた。少々残念な気持ちになったけれど、今はまだスタートしたところ。これから徐々に関係を進めていければいい。

「まずは本殿に参拝して、そのあとにお金を納めてからお札1枚に願い事を書くんですよ」
「それでそのお札を持って、願い事を念じながら石の中を行ったり来たりすると……」
「そして最後にお札を碑に貼りつけて完了です」
「なるほどです。それでは早速本殿を参拝しましょうか」

 碑から歩いてすぐの場所にある本殿へ2人並んで参拝を済ませると、いよいよお札を書きにかかる。財布から100円玉を取り出して納めると、左手でお札を手にし、右手に持ったペンで願い事をしたためていく。

(私の願いは……)

 悩むことはない。なぜなら私の想いは1つだけなのだから。

「エスキーちゃん。書けました?」
「これでよしっと……はいっ、ばっちりですっ!」

 互いの願い事は見ないようにやや離れた記入台で書いていたから、もちろんエスキーちゃんは私の願いは知らないし、私も彼女の願いを知る由はない。最後にお札を貼りつけた場所を見に行けば分かるのだけれど、それはあまりにも無粋で失礼だからするつもりは微塵もない。彼女も考えは同じだと思う。


「それでは行きましょうか」
「はいっ!」

 碑の前に立ち、小さく深呼吸をする。まずは表から裏へ、そして裏から表へ、碑の中央に開いた穴を身を屈めて通り抜ける。強く想いを念じながら、神様に通じますようにと願いを込めて。

(エスキーちゃんが私のことを好きになってくれますように……)

 最後までくぐり抜けると、お札の裏に糊を塗り、碑へと貼りつけに行く。見られることはないけれど、ぎりぎり手が届くぐらいの場所にぺたりと剥がれないように貼りつける。

「これでよし……と」

 ホッとひと息つくとエスキーちゃんの方も碑をくぐり抜けてお札を貼りに行くところだった。糊が服につかないように若干体から離してお札を持っているから見ようと思えば見ることができるかもしれないけれど、そのような無粋な真似はメジロ、というより1人のウマ娘としてすることはできない。気にもならないといったら嘘になるけれど。

「よいしょっと……なんとか貼れましたっ!」
「でしたらおみくじを引きに行きましょうか」
「はいっ!」

 碑のすぐ近くにある授与所に向かうと、なにやらここでは恋みくじというものが引けるらしい。2人ともせっかくだからと引いてみると……

「私は中吉でした」
「わたしは吉でした……最近おみくじで大吉や中吉を引けないんですよね……運は悪くないと思うんですが」

 ただくじの中身を見せてもらうと、それほど悪いことは書いていないように思える。もちろん私にとっても。本人はしょんぼりしているけれど。

「結んで帰ります?」
「いえっ、持って帰りますっ! 仮に悪い結果でも引いたおみくじを持って帰るのがわたしのポリシーなのでっ! あっ、すいません、少しお手洗いに行ってきますね」
「ではここで待っていますね」

 パタパタと駆けていく彼女がこちらの姿を視認できなくなったのを確認するやいなや、授与所にささっと立ち寄り御守を1つ購入する。買うのはもちろん、

(えんむすび御守……大切にしないと……)

 この恋が実ろうと実らまいとまた来よう。そして結果報告をしよう。いつになるか分からないけれど必ず。

─────
 エスキーちゃんがお手洗いから戻ってきたあと、安井金比羅宮をあとにしてすぐ近くに位置する建仁寺を訪れた。広い境内を2人のんびりと歩きつつ、このお寺の目玉ともいえる枯山水を含めた庭園を言葉静かに巡った。はるか昔、このお寺が建立された鎌倉時代から現代までの大河の流れに思いを馳せつつ、大好きな彼女と手を繋いで緑多き境内を歩いていく。

「わたし、ここ好きかもです。静かで落ち着いていて」
「気に入ってもらってよかったです」

 彼女の言葉にほんわかとした安堵感に身体を包まれた。プランを組んでいるとき外すか入れるか一番迷ったのがこの名所だったから。

「わたしこの街のこと好きなんです。歴史が好きだったので自然と勉強する機会も多くて。ただあまり訪れる機会があまりなくて……なので今日プログレス姉さまと回れることが本当に嬉しいんです。伝わりにくいかもしれないですけど……」
「ううん、そんなことありません。エスキーちゃんの気持ち、楽しそうな顔と声からしっかり伝わっていますよ」
「ならよかったですっ!」

 2人並んで眼前の枯山水を静かに座って眺める。交わす言葉の数は少なくとも互いの気持ちは伝わっている、そう思うことができた。

─────
 時計が12時を回り、昼食を取るために北門から花見小路通に抜け、四条通を右に折れる。幾分歩くと目の前に見えてくる八坂神社のすぐ右手に小さく佇んているごはん処へ足を踏み入れる。あらかじめ料理を含めて予約していたこともあり、席への案内や料理の配膳は非常にスムーズだった。15種類のおばんざいとこのお店の名物料理の柚子の雑炊。量もそれなりにあったけれど、それはウマ娘、苦労することなく次々と胃袋に収めていく。

「どれも美味しいですねっ! こんな素敵なお店どこで知ったんですか?」
「以前京都を訪れたとき案内いただいたんです。その際にいただいた雑炊がとても美味しかったので、是非エスキーちゃんにも食べてほしいなと思いまして」

 京都といえば貴船や鴨川沿いの伝統的な川床料理が有名だ。人によっては一乗寺や東大路通界隈の京都ラーメンも名物だと言う人もいるかもしれない。もちろんラーメンも美味しいけれど、私はこのような古来より受け継がれてきた伝統的な京料理も好きだ。エスキーちゃんの食の好みはまだそれほど知らないけれど、嫌いなものはあまりないと聞いていたのでこのお店をチョイスした。

「雑炊も温かくて体がぽっかぽかになります……あっという間に食べ切っちゃいました」
「満足してくれてなによりです。ちなみに私ももう食べ終わってしまいました、えへへ」

 丸々1つ黄色い柚子が真ん中に入っている雑炊を2人ともペロリと平らげ満足そうな笑みを浮かべる。手元の温かいお茶を一口啜るとナプキンで口を軽く拭く。お手洗いで簡単に化粧を整えて席に戻ってくると、エスキーちゃんがなにやら頬を膨らませて私の方を睨んでいた。

「プログレス姉さま……」
「えっ!? エスキーちゃんどうかしました!?」

 料理は美味しく食べていたのに……私が席に戻る間に一体何が……

「お会計、先に済まされていたんですね……わたしが出そうと思っていたのに……」
「ああ、そのことですか。当たり前です。今回は私がエスキーちゃんをエスコートしているのですから、お代ぐらい払わせてください」

 注文する料理は既に決まっていたから当然代金も食べ終わる前に確定する。だから彼女がお手洗いに立ったタイミングで店員さんに頼んで会計を終わらせていた。

「むぅ……」
「もう、そんなに頬を膨らませたら、せっかくのかわいい顔が台無しですよ〜」

 そう言いながらも膨らんだ頬をつんつんとつつく。何度か柔らかい頬の感触を指先で楽しんでいると、機嫌を直してくれたのか、頬を萎ませてそのかわいい顔に笑顔が浮かんだ。

「分かりました。でしたら今日はもう徹底的に甘えちゃいますからねっ! 覚悟してくださいっ!」
「ふふっ、どんとこいですよ」

 それから二言三言言葉を交わすと、そろそろ次の行き先へ向かう時間になり席を立った。見送りの店員さんに料理や接客への感謝を伝えて店を出ると、元来た方角に進路を変え、今度は朱塗りが眩しい門をくぐる。そう、次に訪れるのは八坂神社と円山公園。こちらも秋の京都を楽しむなら是非訪れるべきスポットだ。

──デートは続く。甘えたな彼女とともに。

─────
「少々時期が早かったでしょうか……」
「そうかもですけど、ほらっ! 少しずつ赤く染まってきてますよっ!」

 朱塗りの門をくぐり、石畳の階段や道を抜けた先に広がる八坂神社の中心地。私たちはそこでまたおみくじを引いたり能舞台や舞殿を見て回った。中でも身も心も美しくなるという言い伝えが残る美容水には2人とも興味津々で、互いに綺麗になりますようにと手の甲に2、3滴、もしかするともっと多くつけていたのがこの場所での一番のハイライトかもしれない。

 そして入ってきた門と反対側に位置する真っ赤な鳥居を抜けた先に広がっていたのは円山公園。春には公園全体の桜が見事に咲き誇り、その中でも「祇園枝垂桜」と呼ばれている巨大な枝垂れ桜は夜になるとライトアップされ、その姿はまさに幻想的。実際生で見たことはないけれど、いつかは見ることができればと時期を見計らっている。ただ今は秋。桜は咲いてはいないが、ところどころ木々の葉が少しずつ色づき始めているのが目に入る。

「枝垂れ桜があるのは知ってたんですけど、それ以外にもこれだけ大きな日本庭園が広がってたなんて知りませんでした……」

 私の左腕に自身の右腕を絡ませつつ、目を輝かせながら右、左、上と様々な方向へ視線を向ける彼女の姿を見ていると、胸の奥がほんのりと暖かくなる。自分の好きなものを好きな人が好きになってくれる幸福感は何事にも代えがたい。私は思わず飛び跳ねてしまうところを懸命に堪え、彼女を公園のさらに奥へと案内した。

「こちらが知恩院で、その奥には青蓮院があります。時間もまだありますし覗いてみましょうか」
「もちろんですっ! 歴史の舞台をこうして生で見ることができるなんてとってもとっても幸せですぅ……」
「……ごめんなさい、エスキーちゃん。私我慢できません」
「プログレス姉さま……? わっ!?」

 駄目だ。かわいすぎる。ふにゃっと崩れた表情、甘くてとろける声、そして腕を組んでいるからこそより伝わる体の柔らかさ。昼食のあとに腕を組み始めてから必死に堪えてきたけれど、もう耐えられない。

「んん〜〜っ!!! 柔らかくてかわいくて暖かくて……もう離したくありません!!!」
「ちょっとプログレス姉さまっ!? なんだかいつもとキャラ違いませんっ!?」
「そんなことありませんよ? あー、もうこのままずっとエスキーちゃんのこと抱き締めていたいです……!」

 大好きな人を目一杯抱き締める、これ以上の幸せはそうそうない。おそらく今世界で一番幸せなウマ娘は私で間違いないだろう。他の誰にも負ける気がしない。

「次行く場所あるんですよねっ!? 早く行かないと時間が……っ!」
「……はっ! うっかり忘れるところでした!」

 エスキーちゃんの一言ではっと我に返る。そうだ、彼女にはもっと見せたい場所がある。ここで時間を浪費するわけにはいかない。

「ごめんなさい、エスキーちゃん。つい衝動が……」
「時間があるときなら構いませんけど、流石に急いでいるときは……」
「……分かりました。やや早歩きで見て回りますよ!」
「いや、そういうことを言いたかったわけではなくてですねっ!? プログレス姉さま聞いてますかっ!?」

 そうと決まれば話は早い。知恩院や青蓮院には申し訳ないけれど、さっと見て回って次の場所へと向かわせてもらう。

(時間に余裕を持たせて回って、最後はエスキーちゃんのことをいっぱいいーっぱいぎゅっとしてあげるんですから!)

 特急メジロプログレス、ただいま暴走中。停車するまでもうしばらくお待ちください。

─────
 足早に知恩院と青蓮院を見て回ると、踵を返して再び円山公園へと戻る。そしてそのまま南の方へと通り抜け、ねねの道を辿り、東側にある高台寺への入口を横目にさらに南下を続けた。ただ2つほど寺社仏閣を回ると流石に心も落ち着きを取り戻し、先程の痴態が時間差で頭に流れ込んできて急に恥ずかしくなり、二寧坂への始点辺りで足を止めた。

「えーっと……エスキーちゃん?」
「どうされました、プログレス姉さま?」
「先程はごめんなさい。つい暴走してしまって……」

 1人で勝手に楽しくなり、1人で勝手に盛り上がり……エスコートすると言っていたはずなのに、これではただの一人芝居だ。そう深く反省しているところ、私の左腕にしがみつく彼女は小首を傾げながら不思議そうに呟いた。

「プログレス姉さまってわりとこういうところありません?」
「えっ!? そうなんですか!?」

 心当たりは……いくつか思い浮かぶ。それこそエスキーちゃんといる時でもここまでではないけれど、少々舞い上がってしまったことが幾度かあった。その際はすぐに落ち着くことはできたけれど、今日は2人きりのデートということもあって、熱が冷めるまでに時間がかかってしまった。

「うぅ……年上の貫禄がボロボロです……」
「大丈夫ですよ、プログレス姉さま。わたしは姉さまのこと優しくて素敵なお姉さんだって分かっていますから」

 もしかしなくても年下の女の子、しかも好意を寄せている子に慰められているのは恥ずかしいことこの上ないけれど、頭をポンポンと撫でてもらえたからよしとしよう、うん。私はヘコんでもすぐに元通りになるのが取り柄だから。まあそれはそれとして……

「こんな私でも好きでいてくれますか……?」

 と、まだ落ち込んでいるふりをして聞いてみる。明らかにどさくさに紛れている感が否めないけど、手段は選んでいられない。

「もちろん大好きですよ?」
「……ちゅーとかしてくれますか?」
「えっ? えーっと……」

 あっ、流石に踏み込みすぎたかもしれない。ただ時間を逆再生する手段というものはこの世になく、一度口から飛び出した言葉をなかったことにすることはできない。元通りに戻ったはずのテンションが再び急降下を見せていると、目の前の彼女が急に背伸びをして私の頬に顔を寄せてきた。

「特別、ですよ?」
「えっ?」

 柔らかいものが左の頬に触れたと思うと、彼女の顔が私から離れていく。想定外の事態に襲われて何度も目をぱちくりさせている私を見て、頬を朱色に染めた彼女が顔を俯かせたまま上目遣いで小さく囁いた。

「わたしとプログレス姉さまとの秘密、ですからね?」
「……はい」

 いつもは元気で溌剌な彼女が真っ赤な顔をしてただ私の左腕にしがみついている。先程の急襲と普段とのギャップに私はダウン寸前だった。

「……ゆっくり歩きましょうか」
「はい。エスコート、お願いします」

 ──あの感触は当分忘れられそうにない。

─────
「チームの皆さんへのお土産、どうしましょうか?」
「やっぱり生八ツ橋が鉄板でしょうか。わたしは姉さまの分とメジロのお屋敷に持っていく分も合わせて買おうかなと思ってます」

 先程のこともあり、互いに照れて言葉を上手く交わせない時間がしばらく続いた。ただ二年坂から産寧坂を歩いている最中、エスキーちゃんがお土産物屋さんやお菓子のお店、お箸を作ってくれるお店などに目を輝かせて私を引っ張ってくれたおかげで事件直後よりかは会話を続けることができるようになっていた。

 そして今は若干季節外れかもしれないけれど、互いにコーンのアイスクリームを片手にベンチで休憩しながらお土産について相談している。ちなみに私がバニラ味でエスキーちゃんが抹茶味。なんでも『京都に来たからには抹茶味しかありえませんっ!』とのこと。私は前に一度食べたことがあるから、今回はシンプルなフレーバーをチョイスした。

「エスキーちゃんが生八ツ橋を買うなら、私はお菓子ではなく少し変わった物を買いましょうか。例えばお漬物とか」
「お漬物っ! わたし大好きですっ! 白ご飯にすっごく合うんですねぇ……自分用に買っちゃいたいぐらいですっ!」
「なら食べ終わったらお店に向かいましょうか。この辺りで2店舗ほど有名なお店がありますから、買うならそこで選んでしまいましょう」

 幸いにも時間はそれなりに余裕がある。少しだけ早歩きしたおかげか、もう少しゆっくりしても予約している新幹線には十分間に合いそう。

「了解ですっ! あっ、姉さま姉さま」
「どうしました、エスキーちゃん?」

 段取りも決まり、アイスクリームも半分以上食べ終わり、いよいよ完食に向けてラストスパートに入った頃、なにやら物欲しそうな顔で彼女が話しかけてきた。

「一口、いただけませんか?」

 なんだそんなことか。それぐらいお安い御用、むしろ全部食べさせてあげたいぐらいだ。ひとまず彼女の要望通りスプーンで一口掬って彼女の口へと運ぶ。

「いいですよ。はい、あーん」
「あーん……ん〜っ! 美味しいですっ!」

 かわいい。本当にかわいい。食べてしまいたいぐらいかわいい。だけどそれは許されないから、とりあえず今は彼女の持っている抹茶風味のアイスクリームを一口ねだることにした。

「でしたら私もエスキーちゃんのを一口もらってもいいですか?」
「もちろんいいですよっ! はい、あーんっ!」
「あーん……んっ、やっぱりこの味美味しいですね!」

 エスキーちゃんが言うとおり、やはり京都に来たからには抹茶を食べないといけないなと、飲み込んでからもかすかに口の中に残る風味を堪能していると、隣に座るエスキーちゃんがなにやら不敵な笑みを浮かべた。

「えーっと、エスキーちゃん? もしかして私の頬にアイスクリームがついていたりします?」

 念のためカバンから手鏡を取り出し確認するも、特に口の周りが汚れているようには見えない。それではエスキーちゃんはどうしてあのような笑みを浮かべたのだろう。私は分からないまま自身のアイスクリームを食べ進めると、待っていましたとばかりに彼女が口を開いた。

「スプーン、使っちゃいましたね」
「スプーンって……あっ」
「間接キス、しちゃいましたね」

 食べさせあいの方に気を取られていて、そこまで気を回せていなかった。言われてみれば自分が使っていたスプーンでエスキーちゃんに食べさせていたような……

「もう、エスキーちゃん! 先程のことがあってその発言は確信犯ですよ!」
「えへへ、ごめんなさい。つい気になってしまって」

 そう言って自分のアイスクリームをスプーンで掬って口に運ぶエスキーちゃん。あれ、これってもしかして……

「エスキーちゃんの方も間接キスになってませんか?」
「あーん……あっ」

 スプーンを口にくわえた瞬間顔が徐々に赤く染まっていく。カウンターが飛んでくるとは考えていなかったのだろう、スプーンを口から抜き取るとそのまま固まってしまった。

「……とりあえずこの話はなかったことにして、早く食べきりましょうか」
「そう、ですね……」

 先程のことがフラッシュバックしそうになるのを目の前の崩れそうになっている白い塊を口に止めどなく放り込むことでなんとか抑え、少しはしたないけれどコーンも全部食べきって包み紙とスプーンだけゴミ箱に入れる。2人揃って近くのお手洗いで軽く化粧を整えたところで、何事もなかったかのように再び腕を組んで目の前の坂を登り始めた。

(ただ意識するなというのは……)

 頬に触れた柔らかい唇、そしてそこに間接キス。傍から見ると平静を保っているように見えるかもしれないけれど、当の本人は沸騰寸前だ。

(頑張れ私、負けるな私……)

 私の想いはもう確定事項なのだから、あとは彼女に嫌われないように、好きになってもらうようにするだけ。そのためにもこれ以上の痴態を晒すわけにはいかない。

 ──いよいよ、本日のクライマックスが近づいてくるのだから。

─────
「ここがかの有名な清水寺ですか……」

 坂を登り、それぞれお土産を購入し、再び坂を登った先に見えてきたのは朱塗りの門と三重塔。エスキーちゃんはその2つをひとまず1枚写真に収めると、ツーショット写真を撮ろうと私に提案してきた。

「自撮り棒は持ってきてないので普通に手持ちで撮りますねっ」
「はーい」

 顔を寄せ合い、背景が写るように角度を調節。そしてお互い笑顔ではいチーズ。念のため何枚かパシャパシャと撮ってどれがいいか見比べる。

「プログレス姉さまはどれがいいと思いますか?」
「そうですね……どれもエスキーちゃんがかわいいから全部いいと思います!」
「むぅ……じゃあもう全部送っちゃいますねっ!」

 わずかに頬を膨らませたかと思うとすぐに萎ませ、携帯の画面をささっと指で動かして操作する。そして携帯をカバンの中に戻したところでLANEの通知が私の携帯から鳴り響いた。

「わぁ……ありがとうございます、エスキーちゃん! 先程のだけじゃなくて他の場所の写真まで!」
「いえいえ。今日の思い出は全部共有したいですから」

 そう言われると私の方も今日撮った写真を全部エスキーちゃんに送信する。もちろん「京都デート」という名前のフォルダを作って。

「これで全部送信っと……それでは行きましょうか」
「ですね。最後まで楽しみましょうっ!」

─────
「今日は平日ですし、胎内巡りはそれほど混んでいないみたいですね。行ってみましょうか」
「胎内巡り、ですか。真っ暗な中を歩いていくとか聞いたような……怖く、ないですよね?」

 メインの本堂に向かう前に見えてきたお堂、随求堂の前を通るといつもは混雑している胎内巡りの列がなく、すぐにでも入ることができるとの案内がされていた。真っ暗ということに若干怖がっている彼女を宥めながら連れて行き2人分の代金を支払うと、靴を脱いで渡されたビニール袋に入れる。2人とも初めてということもあり、入口で拝観方法の説明を受けてから階段をゆっくりと下りていく。先は暗く、徐々に何も見えなくなっていく。数珠状の手すりを頼りに、後ろにいるエスキーちゃんの気配を確認しつつ、一歩一歩慎重に歩を進める。


「プログレス姉さま、そこにいますよね?」
「大丈夫ですよ、エスキーちゃん。私は貴方の前にいます」

 暗闇が苦手だったのかもしれない。だったら無理に連れてくることもなかったかもしれないと真っ暗な空間の中後悔していると、そんな私の気配を察知してか、後ろからエスキーちゃんが小さな声で話しかけてきた。

「プログレス姉さま、確かに真っ暗闇なのはちょっぴり怖いですけど、姉さまがすぐ側にいてくれているのでわたし大丈夫ですよ」
「エスキーちゃん……」

 年は私の方が上のはずなのに、こういうとき彼女の方が先輩に、年上に思えてしまう。それが優しい声色からくるものなのか、その堂々とした精神からくるものなのかは分からないけれど、お手本として私も見習わないとと強く思う。

 そしてゆっくりと歩いていった先に大きな石が見えてくる。光がわずかに差し込む中でその石に書かれていたのは、古来から現代まで仏教を通じて日本を含めた東アジアに広まった一文字の梵字。そして入口で受けた説明の通り、石に触れながら願い事を1つ強く願う。今私が一番望んでいることを心にこめて。

(どうかエスキーちゃんと……)

 隣で私と同じように祈る貴方が何を願っているかは分からないけれど、私はただただ祈るだけ。少しの間だけでもいいから結ばれますようにと。

─────
「ふぅ〜、地上に帰ってきましたっ!」
「とても生き生きしていますね、エスキーちゃん」

 願い事を済ませ、今度は逆に階段を上がり地上へと戻ってきた私たち2人。地下ではときおり震えた声を出していた彼女も地上に上がればこのように元通りになる。

「さて、そろそろ時間も時間ですし、本堂の方へ行きましょうか」
「本堂といえば……もしかして有名な、アレですか?」
「そうです、アレです」

 八つ刻も終わりが見えてきた頃、私たちはいよいよ本堂、通称清水の舞台へと足を踏み入れる。2人分の拝観料を払い、向かった先に広がっていたのは京都の街を一望できる素晴らしい桧舞台だった。

「ここが清水の舞台……」
「凄いですよね。とても広くて眺めも良くて。今日は見ることはできませんけど、夜になるとライトアップされてもっと綺麗な景色を見ることができるんですよ」

 少しずつ傾き始めた太陽を背景に、視界全体に広がる歴史と文化の街を2人横に並んで眺める。紅葉はまだそこまで色づいてはいないけれど、季節の移ろいを見ることができているのは純粋に嬉しい。ここでも京の都をバックにツーショットを撮ったり、それぞれをパシャパシャと撮りあったり、思うがままに今のこの瞬間を切り取った。決して忘れることがないように何枚も何枚も。

「エスキーちゃん、今日楽しかったですか?」

 写真を撮るのが一段落し、再び静かに舞台の側で、徐々に夕焼けに染まっていく古都を寄り添いながら見つめる。そんな中発した私の問いかけに彼女は笑顔で頷いた。

「もちろんですっ! 最高に楽しかったですっ!」
「それなら頑張った甲斐がありました。こちらこそ一緒に街を巡ることができて楽しかったです。ありがとうございます、エスキーちゃん」

 元はと言えば私のわがままが発端のこのデート。それなのに彼女は屈託のない笑顔で喜びを私に伝えてくれる。太陽よりも眩しく、星より美しいその瞳の中に私の姿が映っていることが今なにより幸せだ。

(今伝えなきゃ、ですよね……)

 一つ深呼吸。目を閉じ息を整え、もう一度彼女の瞳を真正面から見つめる。喉に貼りついた言葉を剥がして今、

「「あのっ!」」

 声が重なり、言葉が再び喉の奥へと沈み込んでいく。彼女の方も想定外だったのかおっかなびっくりした表情を浮かべていたものの、瞬発力の差で先に次の言葉を言われてしまった。

「プログレス姉さまの方からどうぞっ! わたしはあとででいいので」
「私こそあとででいいですから。エスキーちゃんの方からお願いします」
「いやいや」
「いやいや」

 そんな問答が幾度か繰り返され数分、エスキーちゃんの方が先に折れ、ぼそぼそといった感じで話し始めた。

「あの、ですね。わたし次は有馬記念に出走する予定なんです。もちろんファン投票で選ばれたら、ですけど」
「絶対選ばれますから大丈夫ですよ。それで?」

 同年の無敗のクラシック3冠ウマ娘がファン投票で選ばれないことなんてまずありえない。杞憂と言い切ってしまってもいいほどに。ただその部分は彼女も分かっているはずだろうから、おそらく問題はその先。選出されたあとの話となると……

「もしそこで勝つことができたらですね……」
「勝つことができたら……?」

 一旦言葉を切り、目を閉じる。そして一度、二度と大きく深呼吸をして息を整えると、今度は彼女が私の瞳を見つめ、告げた。

「年明け早々、日本を発ちます。しばらく帰ってきません」

 私から世界の音を、色を、全てを奪い去る言葉を。

「え……」

嘘ですよね、という6音が喉から出てこない。まだ言葉を話せない赤ん坊のように、「あ」や「え」といった母音以外の言葉が口から漏れてこない。

「こんな時にごめんなさい。でもプログレス姉さまにはどうしても言っておかないとと思って」

 太陽はまだ地上を照らしているはずなのに、星が空を照らす刻はまだ先なのに、どうして目の前の世界は暗く閉じているのだろう。彼女の声しか聞こえることがない、彼女の姿しか見えない、一つの理想の世界のはずなのに、どうして。

「ちなみにこのことはまだドーベル姉さまとプログレス姉さまにしか伝えてませんから、他の人には絶対内緒にしてくださいね。有馬記念で負けたら海外挑戦自体白紙になりますから。国内を制していないのに海外に打って出るなんてこと、わたしのプライドが許しませんからね」

 ああ、駄目だ。そのようなことを言われると、心の醜い部分が頭をもたげてくる。『負けてしまえば、彼女は来年も私の隣にいる』、『彼女が負ければ願いが叶う確率が上がる』。

負ければ負ければ負ければ負ければ負ければ負ければ負ければ負ければ負ければ負ければ負ければ負ければ負ければ負ければ負ければ負ければ負ければ負ければ負ければ負ければ負ければ負ければ負ければ

(違う! そんなこと考えちゃいけない! 願うのは彼女の勝利、ただそれだけ、それだけのはずなのに……)

 涙が零れそうになる。彼女の夢が叶えば私の夢は遠のく。彼女の夢が叶わなかったら私の夢は少し近くなる。2人の夢が同時に叶うことはおそらく、ない。その事実が強く、強く胸を叩く。痛い、苦しい、辛い、悲しい……どうして……どうして……

「姉、さま……? どこか具合が悪いんですか……?」

 優しい彼女は私の想いに気づくことなく、ただ甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる。泣きそうな私の体調を慮って向けるその心配そうな瞳にはただ慈しみの感情だけが満ちていた。

「だ、大丈夫です。少し驚いてしまっただけで。エスキーちゃんの海外挑戦、楽しみですね。応援してます」

 本心ではないその言葉は彼女にどう伝わったのか。私はその答えを確かめるのが怖くて彼女の顔から目を逸らす。無理やり顔に貼りつけた笑顔を涙で剥がしてしまうわけにはいかないから。

「ありがとうございます、プログレス姉さま。それで姉さまがわたしに伝えたかったことってなんですか?」

 そういえばそんな話をしようとしていた気がする。だけどこんな顔で、こんな気持ちで伝えちゃいけない。伝えては彼女に失礼だ。だから私はごまかした。

「えーっと……忘れてしまいました、えへへ」

 決して彼女に気づかれないようにバカのふりをして、頬に力を込めて笑顔を作り出して押し隠す。見えないように心の奥底にしまいこんで鍵をかける。そしてその鍵を遠い未来へと放り投げた。自分で拾い上げるのか、誰かが見つけてくれるのか分からないけれど、今は固く閉じ込めていたい。

 ──そうしないと今ここで叫び出してしまいそうだから。

─────
 あのあと音羽の滝や、行きに通らなかった道のお店を横目に見ながら坂を下っていった。相変わらず彼女は私の左腕をしっかりと抱え込み、時にはぴょんぴょんと跳ね、楽しいという感情を全身で表現しながら私へエスコートしてくれた感謝を伝えてくれた。

「これで帰りの新幹線には間に合いそうですか?」
「バスがすごく遅れることがなければ大丈夫ですね。ある程度余裕を見て切符を買いましたから」

 坂を下り、しばらく歩いた先のバス停から京都駅行きのバスに乗車する。私たちと同じぐらいの年代の学生服を着た生徒や、ぐんと年上の大学生らしき人、京都に住んでいると思われるおじいさんやおばあさんたちも乗せたバスは時間通りに京都駅に到着し、乗客を駅の側へと吐き出した。

「時間は……大丈夫ですね。せっかくですから預けた荷物を回収したら、駅弁を買って新幹線の中で食べちゃいましょうか」
「駅弁……っ! はいっ! 食べたいですっ!」

 『駅弁っ、駅弁っ』と私の腕を引くエスキーちゃんに連れられ、ガラス張りのターミナルへと向かう。辛い想いも引き連れて旅は終わりへとひた走る。

 大好きな貴方へ伝えるはずの想いの行き先は分からない。ただ季節のみが移ろいゆく。

 ──冬はもうすぐそこまで近づいていた。

─────
 光陰矢の如しとはよく言ったもので、そこから1ヶ月は瞬く間に過ぎ去っていった。もしかしたら秋の京都での一件に意識を持っていかれて気もそぞろだったせいもあるかもしれないけれど、あまりにも一瞬の出来事だったように思う。

「──さまっ! プログレス姉さまっ! わたしの話聞いてましたか?」
「……ごめんなさい、聞いてませんでした」

 今だってエスキーちゃんの話を右から左に聞き流してしまう始末。想いそのものは心の奥底に押し込めたものの、あのときに何を言われたのかは記憶にはっきりと残っているわけで。気を取られるのも無理はない、と言い訳をさせてほしい。

「もうっ! もう一度言いますからねっ! 姉さまとのクリスマスデート、どっちが気に入っていただけると思いますか?」
「えーっと……それは私ではなくドーベルさんに聞いた方がいいのでは?」
「それだったらサプライズにならないじゃないですかーっ!」

 なるほど。おそらく、というより確実にこの子は私の想いに気づいていない。なぜならもし知っていればそのような相手にこんな残酷な話を振るはずがないのだから。彼女が気づいていてなお聞いてくるような鬼畜かつ残酷極まりない性格をしているとは思わないし、思いたくはない。とりあえず今は彼女の質問に真摯に答えるとしよう……真摯に……真摯に……

(無理ですね! 好きな人が好きな人と行くデート先のことを一緒に悩んであげるなんて私にはできません!)

 ただ突き放すなんてことをできるはずがない。突き放すわけでもなく、かといって私の心が傷つかない方法……

(そうです、そうです! これなら納得してくれるかもしれません!)

 その答えを聞いて彼女がどう思いどう動くかなんて考えないまま、私は口を開いた。

「両方のプランとも一度やってみたらどうでしょうか? それでエスキーちゃんが満足した方を選べば、ドーベルさんもきっと喜んでくれると思いますよ!」
「なるほど、確かにそれはそうですね……」

 そうだ、これでいい。もうこれで私の手からこの話は離れるはず。そのはずだった。

「でしたらプログレス姉さまに付き添ってほしいです。1人と2人では歩く速さや遊ぶ時間も変わってきますし、なにより自分だけだとどうしてもバイアスがかかってしまいますから、他の方の率直な意見が欲しいです」
「私、ですか?」
「はい、もちろんですっ!」

 想像していた話の流れと全く違う。このまま私は席を外し、トレーニングに向かう予定だったはず。それなのにどうして仮想デートに私が付き添う話になっているのか。

「私以外にもご友人だったり他のチームの方もいらっしゃいますよね? 私でなくてもいいのでは?」

 ひと月前の一件がなければ快諾していた、というよりむしろ私の方からお誘いしていた話。ただ今は可能なら他の方に譲りたいという想いの方が強い。なぜならまた辛い想いをしてしまうから。また思い出してしまうから。それなのに目の前の貴方は私を求める。

「姉さま関係の相談に乗っていただいているのはプログレス姉さまだけなんですっ。こんなこと頼めるの、プログレス姉さまだけなんですっ!」

 たった一度の偶然が私の恋心を発露させたとも知らずに、貴方は私を信頼してくれる。恋心の矢印が自身に向いていることも知らずに私を頼ってくれる。

「……分かりました。いつにしますか?」

 そんな彼女の気持ちを無下にするほど冷たくもないし、覚悟が決まっているわけでもない。万が一、億が一運が良ければなんて希望も抱いてしまったりして。鍵をかけたはずなのに建付けが悪いのだろうか。かすかに、ほんのわずか、心の底から滲み出てくる。私の秘めた想いが、押し隠したはずの気持ちがじんわりと心を侵食し始める。

「そうですね。有馬記念がちょうどクリスマスイブですから、その2週間前と1週間前ではどうでしょう?」
「その日は……大丈夫です。時間はまたプラン通りの時間でいいですか?」
「はいっ! それでお願いしますっ!」

 もとより予定は入れていなかった。携帯で確認したのもただのふり。

 もしかしたら彼女と出かけることもあるかもなんて淡い期待をかすかに抱いて、予定を埋めずに空けたままにしていた。もし当日まで何もなければ、そのまま休日トレーニングに充ててしまえばいいと思っていた。

 それが今、『エスキーちゃんとデート』という予定に塗りつぶされ、心もほんのりと熱を帯び始める。

 1回目の仮想クリスマスデートまで残り半月ほど。私はその日を指折り数えて待っていることとしよう。牛歩のような時の流れに身を任せて一歩ずつ。

─────
 ただそんな待ち望んだ1回目のデートは最初からついていくので精一杯だった。

「おはようございます、プログレス姉さまっ! 早く行きますよっ!」
「えっ、今来たばかりなんですけど……しかもまだ6時回ったところですよ……?」
「この時間から出ないと開園に間に合いませんからっ! ほらっ!」

 と、朝6時に寮の前に集合するだけでも大変だったのに、そこから県境を1つ跨いだ先の夢の国に開園から連れて行かれ、夕暮れどきまで遊び回った(それ自体はとても楽しかった)と思えば、

「エスキーちゃん、ここは……?」
「ヘリポートですけど?」

 2つ隣の駅に向かうとそのままタクシーへ乗り込み、対岸に先程まで遊んでいたテーマパークを臨むヘリポートへとやってきた。

「それでは乗り込みましょうか」
「えっ、あっ、本当に乗るんですね……」

 目の前でローターを回したヘリに2人して乗り込み、シートベルトを締める。それを確認したパイロットがドアを閉め安全確認を済ませると、ローターの回転速度をさらに上げ、3人を乗せた鉄の塊がふわりと大空へと飛び立った。

「それでここからどうするんですか?」
「40分ぐらい東京や横浜の街を見て回ります。その途中にクリスマスプレゼントをお渡しできればと考えてますっ」
「な、なるほど……壮大なプランですね……」

 もはやクリスマスデート云々を飛び越えてプロポーズの域に達しているのではないだろうか。いくらメジロ家でもまだ中等部の学生、流石にいきなりこれは嬉しいというより重くて怖い。空の上から見るレインボーブリッジや東京タワー、横浜のランドマークタワーはとても綺麗だけれど、もうそれだけでお腹いっぱいだ。

「あっ、見てください、プログレス姉さまっ! あれ中華街じゃないですかっ?」
「あ、本当ですね。上から見ても意外と分かるものなんですね」

 ただそれでも彼女と過ごす2人きりの空の旅はとても楽しかった。遠くに東京タワーが見えて指を差してはしゃいだり、あの夏の日に横に並んで見たレインボーブリッジのイルミネーションの色が変わっていることに気づいてびっくりしたり。

 2人で笑いながら過ごす40分は、秋に凍りついた想いを溶かしていくほどには熱く濃密なひとときだった。飛び立つ前はスケールの大きさに若干引いてしまっていたところがあったけれど、今はこうしてヘリから降り立つのが少しだけ名残惜しく感じてしまうほど、ワクワクドキドキが止まらない。

「エスキーちゃん、ありがとうございました。最初は驚いてしまいましたけど、乗ってみると想像以上にはしゃいでしまいました」
「それならよかったですっ! あっ、そうですそうです、忘れるところでした」

 エスキーちゃんはそう言って顔の前で手をパンと鳴らし、スタッフに何かを持ってくるように伝える。そのまましばらく待っていると、スタッフの方が彼女に花束を手渡した。そしてその花束を彼女は私に笑顔で差し出す。

「本番ではないですから機上ではプレゼントを渡せなかったので。今日はこちらをどうぞっ!」
「もらって、いいん、ですか?」

 私はただ彼女のデートプランに付き添っただけ。しかもこれで終わりではなく、また来週もう1回残っている。それなのにプレゼントまでもらってしまっていいのだろうか。

「もらってください。今日付き添っていただいたお礼ですから、もらってくれないとわたし拗ねちゃいますよ?」

 目が泳ぎ言葉が途切れる私を見て、彼女は両手で抱えた花束をぐいっと私の胸元へと押しつける。私は目の前の彼女の意志の強さに観念、いや土俵の外まで押し出され、両手でブーケを受け取った。

「分かり、ました。お礼なら受け取るしかありませんね。ありがとうございます」
「こちらこそありがとうございますっ! それではプランAはここまでなので、帰り道は今日の感想を教えてくださいっ!」
「えーっとですね、まずは朝は──」

 駅までのタクシーの中や帰りの電車の中で今日の反省会、という名のダメ出しの会を行った。『流石に朝早すぎる』だったり、『夢の国で遊ぶのはいいけどそのあとにヘリコプターでの遊覧を持ってくるのはかなりヘビー』だったり、『その上で機内でプレゼントを渡すのは情報量が多すぎて処理しきれない』だったり。私の一つ一つの指摘に都度うっと胸を押さえる彼女だったけれど、それでもヘコむことなく目標を達成するためにメモをまとめる姿はとても健気でかわいかった。

(その矢印、私にも向かないでしょうか……って何考えているんでしょう……)

 羨ましい。彼女の好意を一身に受けるドーベルさんが羨ましくて、妬ましい。私だってこの子の側にいたいのにどうしてどうしてどうして……

「夕食はどうしますか? 駅の近くのファミレス行っちゃいます?」
「いいですね! 私あまりファミレスに行く機会が多くないので楽しみです!」

 ああ、駄目だ。奥へ奥へと押し込めたはずなのに。鍵はしっかりかけたはずなのに、どうして飛び出そうとするのだろう。鍵はまだ誰にも見つかっていないはずなのに。封をしたはずの想いがわずかに、しかし確実に隙間から扉の外へと滲み出てくる。

 ──この想いの行く果て、来週になれば分かるのだろうか。

─────
 ちなみに帰ってから今日の夢の国&ヘリコプターデートの総額を検索して計算してみたら、想像以上にすごい金額が弾き出されて声を失ってしまった。

(これ、いくらメジロ家の一員といえども、学生が仮想デートとしてぽんと払える金額ではないような……ねえエスキーちゃん、一体そのお金はどこから……?)

─────
 迎えた翌週の日曜日、エスキーちゃんとの2回目の仮想デートの日がやってきた。今度は朝5時に起きないといけない、ということはなく、朝9時に寮の前で待ち合わせをして出発する極めて常識的なスケジュールとなっている。

「エスキーちゃんおはようございます。待ってくれていたんですね」
「おはようございます、プログレス姉さまっ。付き添っていただくからには当然ですっ!」

 集合時間の数分前に待ち合わせ場所に向かうと、もう既にエスキーちゃんが静かに待ってくれていた。この寒い季節ならではのケーブルニットとチェック柄のサイドプリーツスカートの上に、さらりとチェスターコートを一枚羽織るファッション。しかも首元にはモコモコのマフラーを巻いていて、それが彼女自身のキュートさを倍増させていた。靴は歩きやすそうなフラットシューズだから、今日も先週ほどではないけど歩き回るのだろうか。

「あっ、今日はあっち行ったりこっち行ったりはないので大丈夫ですっ! 先週の反省から原案よりちょっぴり修正しましたのでっ!」

 私の思考回路を読んだのか、もしかして顔に薄っすらと感情が出ていたのか、憂慮していたことをバッサリと斬り捨ててくれた。流石に先週はやりすぎたと考え直してくれたらしい。

「それなら良かったです……朝早くから動き回るの、結構骨が折れましたから……」

 いくらステイヤーな私でも、早朝からいくつか電車を乗り継いだ先で夕方までアトラクションを多数乗ったり歩き回ったりするのは足が棒になるぐらい大変だった。そのあとの空からの絶景は見事だったけれど、それ以上に疲弊した思い出の方が強いぐらいだから。

「ちなみに今日はどこまで行くんですか?」
「今日はショッピングモール&ホテルディナープランですっ!」

 先週とうってかわって今回は定番といってもいいデートプランだ。これならそこまで構えなくてもいいかな。

「あっ、そうですそうです。1つお願いしたいことがあるんですけどいいですか?」
「どうしました、エスキーちゃん?」

 お願いって……なんだろう?

「今日はより本番に雰囲気を近づけたいので、いつもの呼び方じゃなくて『姉さま』って呼んでもいいですか?」
「なるほど。それぐらいなら全然構いませんよ。あっ、それだったら私もエスキーちゃんのこと『エスキー』って呼んだ方がいいですか?」

 より本番を想定するなら片方だけではなく双方の呼称を合わせるべきだろう。可能であれば私も敬語を外してドーベルさんのものを真似できればいいのだけれど、長年使ってきた敬語口調を変えるのはなかなか骨だと思ったのでそこは勘弁してもらおう。

「そうですねっ! でしたら仮想デート中はその呼び方でお願いします、『姉さま』っ!」
「こちらこそお願いしますね、『エスキー』」

 普段とは異なる呼び方にいささか面映ゆくなり互いに照れてしまう。ただここで照れていては話が前に進まないから、どうにか堪えて手を繋いで寮の外へと踏み出していった。

─────
「そういえばエスキーち……エスキー」
「どうされました、プロ……姉さま?」

 府中の駅から電車に乗り、何度か乗り継いだ先にあるショッピングモールへ、駅からの遊歩道を歩いている時になっても、呼び方はまだ互いにぎこちない。なんだか付き合いたての年の差カップルみたいだなと自分で考えて少し恥ずかしくなる。

「今日の洋服も素敵ですね。先週もとってもかわいかったですけれど、マフラーのモコモコ具合がとってもキュートです」
「えへへ……せっかくの姉さまとのデートですから頑張っちゃいましたっ! これでもトレーニングや勉強の合間を縫ってファッションの勉強もしてるんですよっ!」

 先週は先週で秋の京都の時に被っていたベレー帽にこれまたオーバーサイズのかわいいスウェット、下はふんわりとした花柄のロングスカートと、かわいさ満点の着こなしをしていた。これも『姉さま』に好きになってもらうため、なんだろう。

「本当にかわいいですね……私ならこんなかわいい女の子に『好きですっ』って告白されたら、間髪入れずに『こちらこそ』って言うんですけど……」
「えーっと……姉さま? それって……」

 これはいけない。ついペラペラと本音混じりに告白まがいなことをしてしまった。嘘ではないにしても今言うのは何か違う。

 ──言うならそう、もっとタイミングを見計らって。

「ごめんなさい、エスキー。私はただ服が素敵ですって言いたかっただけなんです。さあ立ち止まっていないで早く行かないと。このままだも予定崩れてしまいませんか?」
「そうですそうですっ! ちょっと早歩きで行きますよっ!」

 なんとかごまかすことができたみたいで内心ほっと胸を撫で下ろす。おそらく彼女の予定でも最後に告白のシーンを作っているはずだから、到着したばかりのタイミングで告白したりされたりするのは想定外なのだろう。

(でしたらそのあと私も……)

 あのときは言えなかった言葉、今日なら伝えられるだろうか。まだ心の鍵はかけたままだけれど、帰り道に鍵が落ちていることを願っている。

─────
「感動してしまいましたね。特に最後のシーンなんて私泣いてしまいました」
「人気先行型だと思いましたけど話もしっかりしてましたし、役者さんの演技も良かったですねっ!」

 お昼過ぎ、モール内のカフェで昼食を取りながら、先程まで観ていた映画について2人で語り合う。

「主人公のウマ娘が最後の最後でレースに勝って、大好きなトレーナーさんと幸せを分かち合う……ベタかもしれないですけれどいいお話でした」
「そしてラストシーンで主人公が告白して、トレーナーさんはそれをキスで受け入れて……やっぱりぐっときちゃいますねっ!」
「そして流れる主題歌……あー、もう一回観たいです!」

 大まかな話の流れとしてはこうだ。
 田舎からトレセン学園に通うために上京してきたウマ娘が、初めての東京でオロオロと迷っていたところを一人の爽やかな大人の男性に助けられる。名前も聞けず、お礼を言う暇もなく去っていった相手に一目惚れしてしまう女の子。ただそのあとすぐに男の人と再会することができた……トレセン学園の中で。運良く憧れの人と専属契約を結ぶことができたものの、相手は当然自分を担当ウマ娘としか見てくれない。そこからどうにか自分のことを好きになってもらおうと、レースを、恋を、勉強をと奮闘し、最後には私が言った通り彼女の想いが伝わって大団円、ハッピーエンドで幕を下ろす。

「周りのお客さんもハンカチで目元押さえてましたもんね。確かにこれは売れるのも納得ですね……」
「なんだかエスキーって考え方が一段上ですよね……」
「そうですか? あんまり意識したことなかったですけど」
「少なくとも中等部の子の見方ではないと思いますよ?」

 時折エスキーちゃんが見せる同年代の子から一歩引いたような姿勢や振る舞い。普段がわりとかわいい感じの行動をしている分、余計にそのギャップが大きく見える。

「あまり自分では気にしたことありませんでしたけど……」

 若干考え込む仕草を見せるも、すぐにまあいいかと言わんばかりに目の前のレモンティーを飲んでいエスキーちゃん。全て食べ終わっている私はその間にお手洗いへお化粧を軽く直しに向かった。彼女を待たせないようにぱぱっと終わらせて席に戻ると、とっくに席を立ち、コートを羽織ってマフラーを巻いた彼女が

「では、行きましょうか」

 と、私の手を握ってお店の外へと歩き出した。

「エスキー? もしかして……」
「お会計は済ませましたよ? もっと姉さまと回りたいところありますから」

 携帯でスケジュールを確認する彼女を横目に小さな溜め息をつく。

(こういうところですよ、エスキーちゃん……貴方のそういうところが私は……)

 先程は口にしなかったけれど、こういった紳士でスマートな振る舞いもこの年代の学生ができるものではない。ただ私はそんな彼女がかっこいいなと思ってしまう。つい心を傾かせてしまう。

(1ヶ月近く前までは何事にも上の空、彼女への想いもマリアナ海溝へと沈めていたはずなのに……私ってすっごく単純ですね……)

 諦め、もはや凪いでいた心の波が先週と今のこの彼女とのひとときだけで荒だってしまう。穏やかでいられなくなる。

(やはり言わないと……伝えないと……)

 このまま終われば悔やむこともできなくなるから。

(今日、仮想デートが終わったときに伝えます。貴方のことが好きですと。"like"などではなく"love"なんですよと)

 撮り終わった映画のように、もはやエンディングは確定していたとしても。私は伝えたい。

 ──貴方のことが大好きです、と。

─────
 そのあともTHE 王道なデートは続いた。2人で仲良くウィンドウショッピングをしたり、ゲームセンターでUFOキャッチャーをしたり、カラオケで横にぴったりくっつきながらデュエットしたり。先週が「ともに夢を見る」ものだとすれば、今日は「これから夢を見るための」デートだったように思う。それこそ前者は結婚のプロポーズで使うなら相手も喜んでくれるかもしれないけれど、カップルになるための告白に使うのはやはり嬉しいというより驚きの感情が強く出てしまう。

「エスキー、このあとにディナーに向かうんですよね?」
「そうですよ、姉さま。しばらく夕焼けを2人で眺めてからホテルにゴーですっ!」

 ショッピングモールを後にして、夕日が照らす海辺の公園の遊歩道を手を繋いでゆっくりと歩く。暑い夏が訪れる前、彼女が私を連れてきてくれたときのように。彼女への想いはあのときとは違うけれど、夕焼けに染まる街並みは変わることなく美しい。

「ねえ、エスキー。1つ聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」
「どうぞどうぞっ! 答えられる範囲でお答えしますよっ!」

 想いを伝えるのは全てが終わってからというのは決めている。ただどうしても先に聞いておきたいことがあった。

「ドーベルさんのどういったところが好きなんですか?」

 私とドーベルさんと何が違うのか。何が彼女を惹きつけるのか、その理由を。

「……長くなりますよ?」
「予約に間に合うように手短にお願いしますね?」

 ディナーもコースを予約しているから、当然遅れてしまえばお店に迷惑をかけることになる。だから先に一言だけ釘を差した。

「まずはお顔、と言いたいところなんですけど、それは甘いです、甘々です。わたしはドーベル姉さまのその心に惚れました。姉さまも知っていると思うんですが、ドーベル姉さまは幼い頃にいろいろあって男の人が苦手でした。その影響もあってあまり外向的な性格ではなくなってしまいました。ただそれでもトゥインクル・シリーズで活躍したい、自分を変えたいという想いで努力を重ねていきます。時には心が折れかけることもありました。ただそれでも起き上がって前に進む、その強さと美しさ、わたしはそこに惚れました」

 一度そこでひと息ついて話を続ける。

「次はやはり美しいその容姿ですね。自分ではあまり自身を持たれてないですけど、贔屓目に見なくてもこれぞクールビューティーな女性ですよね。目がキリッとしていて、もちろんそれ以外の顔のパーツも整っていて。それでいてスタイルもいい。このまま成長していけば万人をも魅了する天下無双の女性になること間違いないです。他に挙げるとするなら、やはりあの長くて綺麗な髪ですよね。何度か触らせてもらったことがあるんですけど、さらさらで光り輝いていて……わたしもあんな風になれたらなって憧れちゃいます。短いですけどこんな感じでしょうか?」
「な、なるほど……ありがとうございます」

 これで短いのかという驚愕の思いと、私が持ち合わせていないものばかりで立ち向かえないなという落胆の思いが交差する。掴んだ栄光の数も違えば、ともに過ごした時間も違う。好きになったのがあまりにも遅すぎた……いや早くても追いつけなかっただろう。今の彼女のうっとりとした表情を見れば分かる。そういう次元の話ではないのだと。

(初めから負け戦、ですか……)

 ある程度は理解していたつもりだった。分が悪い勝負だと。とてつもない追い込みでも決めない限り、到底追いつける背中ではないということを頭の片隅では分かっていたはずなのにどうしても、どうしても諦めたくなかった。なぜなら……

(初恋が、誰かを心から好きになることがこれが初めてでした。その想いをやすやすと放り投げて諦めてしまうなんて、そんなの私のプライドが許したくないんです)

 だから想いは伝える。結末がどうなろうと、彼女がどう受け止めてくれるかは分からないけれど、今の貴方への想いは本物だから。

─────
「とっても美味しかったですねっ! 窓から見る景色も綺麗でしたしっ!」
「夜景、光り輝いていましたね。お料理もどれも良かったです」

 著名なホテルの中にある、ミシュランの一つ星を何年も続けて獲得しているレストランを後にして私たちは帰路につく。海鮮や野菜を中心としたコースと、食後のチョコレートケーキはまさに絶品の一言だった。2人向かい合って美味しいですねと微笑むひとときは何物にも代えがたく、こんな幸せな時間が永遠に続けばいいのにと思ってしまった。

「これで終わり、ですか?」
「もちろん帰るまでがデートですけどそうですね。プレゼントはディナーの最後に渡すつもりですから、あとは2人仲良く寮まで戻るだけですっ!」

 隣で微笑む貴方と私の間に冷たい木枯らしが吹き抜ける。寒風はやがて道端の枯れ葉をすくい上げ、天へとまき散らす。その葉の行き先を目で追っていると、三日月がもの寂しく闇夜を照らしているのを視界に捉えた。無数の星と同じ空に浮かんでいるのに実際の距離は気が遠くなるほどかけ離れている。私にはそれが自分と彼女との関係のように思えた。

「姉さま? 急に立ち止まられてどうされました?」
「あっ、ごめんなさい。月と星が綺麗でつい見とれてしまいました」

 自分でも気づかない間にピタッと足を止め、虚ろな目で空を見上げていたようだ。彼女は私が急に止まるものだからつい私と手を離してしまったみたい。

「もう姉さまったら、えへへ」

 彼女には今の私はどう見えているのだろうか。信頼できる先輩? 仲のいい友人? それとも……

「ねえ、エスキーちゃん」
「えっと……どうされました、プログレス姉さま?」

 私の呼びかけに瞬時に仮想デートが終わったのだと理解し、呼び方を元通りに切り替えるエスキーちゃん。その辺りの反応速度も素晴らしい。

「今から貴方に伝えたいことがあります」

 ただ私は自分の想いを伝えることに精いっぱいで、あとから振り返ったときに気づいただけ。今はただただ感情を言葉に、声に出すことに必死だった。

「……はい」

 貴方は私のいつもとは違う、それこそレースのときとも異なる雰囲気を瞬時に察知して真剣な表情で私の顔を、瞳をまっすぐに見つめてくれている。

「私は──」

 どうか届け、私の想い。受け取って、私の言葉を。

「エスキーちゃんのことが好きです。貴方に恋をしています」

 貴方のかわいい顔が好き。貴方のニカッと笑う顔が好き。レースのときの真面目な顔が好き。勉強を教えてくれるときの優しい声が好き。ふと見せる凛々しい表情が好き。不意に見せるかっこいい振る舞いが好き。たまに照れて真っ赤になるそんなところも好き。貴方の全てが、好き。だから。

「私とお付き合いしていただけませんか?」

 鍵はとっくに開いていた。想いはただ溢れ、体の中を奔流する。頭の先から足の先まで満ちた想いは貴方への恋心。私は今それを言葉にした。もう、引き返せない。

「えっと……考える時間をください」

 もしかしたらどこか予想していたのかもしれない。親愛以上の念を抱かれているのではないかと、心のどこかで。ただそれが今だとは考えもしなかっただろう。来週にはいろんな意味での大一番が控えているのだから、私の想いにまで気を回す余裕はなかったように思える。少なくとも私が今彼女の様子を見る限りでは。

 1分、2分、3分。寒空の下彼女の逡巡は続く。混乱しているようには見えないものの、気持ちをどのように言語化すればいいかに苦慮しているようなそんな印象を受ける。受けて入れてくれればそれが私にとっての一番のハッピーエンドになるけれど、たぶん、きっと……

「ありがとうございます。プログレス姉さまのお気持ち、びっくりしましたけど嬉しいです。こんな風に誰かに告白される経験なかったですから」

 返事がまとまったのかようやくエスキーちゃんは口を開く。ただその表情は固く、重い。

「少し考えてみました。ドーベル姉さまのことは一旦置いといて、プログレス姉さまの気持ちを受け入れた場合のことを、貴方と過ごす日々のことを」

 先程の時間はそのための時間だったのか。そこまで考えてくれていたとは思いもしなかった。

「春にはお花見、夏はプール、秋は紅葉狩り、冬はスケートに楽しく2人で。想像するだけでワクワクしました。どんな素敵な毎日なんだろうって。絶対絶対楽しいだろうなって」

 途中一瞬見せた笑顔がすぐに曇る。だから答えは、たぶん。

「わたしもプログレス姉さまのことが好きです、大好きです。嘘じゃありません。だけど」

 天を見上げ、敗北を悟る。これがそうか。

「ごめんなさい。わたしにとってドーベル姉さまが一番ですから」

 失恋か。

 ──分かっていた。勝ち目なんてないって。レースで例えたら、私はまだスタートしたばかりなのに、ドーベルさんはもう最後のコーナーを回っている。そんな絶望的な差は覆しようがなかった。分かっていた、はずなのに。

「です、よね……あはは……ドーベルさんに敵うわけないですよね……」

 どうして涙がこぼれてくるのだろう。

「プログレス姉さま……」

 貴方は優しくカバンから取り出したハンカチで私の涙を拭いてくれる。告白を断ったはずなのにその相手の涙を拭いとってくれる。

「ぐすっ……ごめんなさいエスキーちゃん。突然告白なんかして、その上で泣いてしまった私の隣にいてくれて……うぅ……」
「当たり前です。どんなときでもプログレス姉さまを一人ぼっちになんかさせません。気持ちは嬉しかったですから」

 ああ、ずるい。こんなのもっと好きになってしまう。反則だ。だから私は、

「そんなエスキーちゃんにお願いがあります」
「今のわたしにできることがあれば、なんでも」

 最後までみっともなくあがく。もしこれで嫌われてしまったら、なんてことは頭から放り投げて、貴方に求める。

「キス、してくれませんか」

 最後の施しを。あの夏と秋の続きをここで。

「……目、つぶってください」

 ようやく涙が止まった瞳を閉じると、

「──っ」

 柔らかく温かい感触が唇に触れた。秋に頬に触れた感触が私の唇に、今。

 ──初めてのキスは涙とほんのりチョコレートの味がした。

「んっ……目、開けていいですよ」

 おそるおそる目を開けると、そこには頬が若干朱色に染まったエスキーちゃんの姿が見えた。私との距離は先程より離れていて、彼女もかなり恥ずかしかったように思う。

(しちゃった……してしまいました……)

 まあそれ以上に私の方が熱暴走しそうなんだけれど。

「ごめんなさいエスキーちゃん、変なお願いした上に聞いてもらって……」
「……いいんです。2回目はないですからね?」
「……はい」
「ならよしです。それでは帰りましょうか」

 そう言って普段と変わりなく手を繋ごうと右手を差し伸べてくれる彼女。私は少々躊躇いつつもその手を取り、ぎゅっと握る。

 ただ、彼女の手はなんだか先程より温かく感じた。私の方が熱くなっているはずなのに。ということは、つまり。

(やっぱりかわいいですね、エスキーちゃんって)

 フラレたはずなのにどうしてだろう。告白前より彼女のことをより愛おしく感じるようになった。

 ──想いは形を変える。"love "から"like"へと元の形に変化して。ただ、前よりその形は深く、固い。

(大好きですエスキーちゃん。これまでも、そしてこれからも)

─────
『──さあ第4コーナーを迎えますが、おーっと、ここで外からスーッとメジロエスキーが上がっていったぁ! 最後の直線310m! もうメジロエスキーが先頭に並んで……一気に交わした! リードを1バ身、2バ身と広げていく! 後続も追いすがるがこれは届きそうにない! シニアの壁、なんだそれは、関係ない! メジロエスキー圧勝でゴールイン! 大外枠、そして無敗3冠のジンクス、まとめて吹き飛ばしました! その瞳の先にはもう、遠くパリロンシャンの舞台が映っているのか!』

 デート、そして私の告白から1週間後、中山レース場で行われた有馬記念でエスキーちゃんは後続をちぎり捨てて勝利を飾った。枠順抽選会で大外16番枠を引いた瞬間は会場やSNSから悲鳴が上がったのに対し、『ピンク色ってかわいいですよねっ!』と言ってのけた自信は紛れもなく本物だった。

「おめでとうございます、エスキーちゃん。そして頑張ってきてください」

 私は早くに確保したゴール前最前列の位置から彼女へ祝福の言葉と拍手を贈る。GⅠ5勝目を飾った王者の走りは冬の寒空の下で一際輝いて見えた。

「あっ、プログレス姉さまっ! 応援、来ていただいてたんですねっ! ありがとうございますっ!」

 ウイニングランの最中、ゴール前の私の存在に気がついたのか、エスキーちゃんが外ラチをくぐって私のところへ駆け寄ってくる。周囲は若干騒然としているが、彼女はそれに気をかけることなく私に満面の笑顔でエールへの感謝を伝えにきてくれた。

「おめでとうございます、エスキーちゃん。絶対勝つって信じていましたよ」
「本当ですかっ!? その期待に応えられて嬉しいですっ!」

 自分が勝ったことより己の走りを信じてくれたことにより喜びを感じる彼女は、やはり他のウマ娘とは一線を画している。これならば世界のどこに行っても大丈夫だろう。

「……これから頑張ってくださいね。応援、してますから」
「……っ! はいっ、頑張りますっ! それではまたあとでっ!」

 彼女は気づいてくれただろうか、いや気づいてくれたに違いない。先程の言葉にただこれから先も応援し続ける意味だけ込めたわけではないことを。

(ドーベルさんとの関係、そして来年からの海外遠征。どうか良い結果が生まれることを)

 彼女の幸せをただただ願う。恋が実るように、夢が叶いますように。

─────
「改めてお疲れさまでした。ドーベルさんもお疲れさまです」
「ありがとうございますっ、プログレス姉さまっ!」
「プログレスの方こそなんかいろいろこの子がお世話になったみたいでありがとね」

 ウイニングランののち、ウイニングライブまでの休憩時間の間にひっそりと控え室を訪れる。流した汗を拭き取って髪や化粧を整えた彼女は、レースのときとまた醸し出す雰囲気が違っていて可憐で美しい姿をしていた。私はそんな彼女と彼女を横で支えたドーベルさんへ、手元に準備していたかわいい紙袋を2人それぞれに差し出す。

「いえいえ、私の方こそ楽しかったですからお互い様です。あとこれ、お二人へのクリスマスプレゼントです。できれば明日の夜お二人だけのときに中身を見ていただけると嬉しいです」
「明日……あっ」
「よく分からないけど……分かった。プログレスの言う通りに開けるね。ありがと、プログレス」

 なにやら勘づいたエスキーちゃんに対し、ドーベルさんの方は首を傾げながらプレゼントをカバンに入れる。私はその光景をニコニコして見つめてから、ウイニングライブの席へ向かうためにという理由ですぐに控え室を後にした。

(明日のデート、どうか上手くいきますように。クリスマスプレゼント、喜んでくれるといいな……)

 私が2人に渡したのはお揃いの耳飾り。それが意味することはつまり……

(成功を祈ってますよ、エスキーちゃん)

 彼女の幸せを願って足取り軽やかにウイニングライブの観客席へと向かう。嫉みや僻みの心はもうあの日に置いてきた。今の私は彼女たちにエールを送る1人のサポーター。

 結末はまだ分からないけれど、その先に幸あらんことを。

─────
 翌日夜、デートが終わったであろうタイミングを見計らって彼女にLANEを送ってみた。

「上手くいきましたか、っと。あっ、もう既読つきました」

 返ってきた返事は……

「『v』ですか。おめでとうございます、エスキーちゃん」

 細かいことはまた今度会った際に聞き出すとして、今はただ祝福の言葉を贈ろう。

「おめでとうございます、っと。これからも私は応援し続けますよ」

 彼女の勇気にエールを。そして彼女たちの新しい未来へエールを。

─────
「──、あなたはメジロドーベルを妻とし、病めるときも健やかなるときもその愛で互いに支え、尽くすことを誓いますか?」
「はい、誓います」
「新婦メジロドーベル、あなたは──」

 あれから数年、私は今目の前で執り行われている結婚式へ招かれ、2人の幸せを祝福していた。元チームのメンバーやメジロ家の方々、その上学園の関係者の方々が大集合したチャペルはそれはもう豪華絢爛、美麗荘厳、言葉にするのが野暮なくらい立派な舞台だった。

(おめでとうございます、ドーベルさん、元ドーベルさんのトレーナーさん、いえ、エスキーちゃん)

『えっ、エスキーちゃんって……えっ……?』
『信じられないかもしれないけど、本当なの。ただ絶対他言しちゃダメだからね』
『それはもちろん守りますけど……本当にそんなことが……?』

 彼女は私への宣言通り1年ほど海外遠征へ旅立ち、数多くの栄冠を手にして再び日本へと帰ってきた。そして迎えたラストラン、2度目の有馬記念でも勝利を掴むとその場で引退を発表。今後はレースから離れ、海外でウマ娘の研究に携わるとの発言に最初は彼女ならやりかねないと考えていた私だった。海外へ再び見送る時は泣いてしまったけれど、いつかまたどこかで会えるだろうと信じていた。

 ただしばらくしてお屋敷に呼び出され、ドーベルさんとおばあさまから彼女の身に起きた真実について話を聞かされた。最初は何を言っているのかまるで理解できなかったけれど、ドーベルさんの話と記憶とを擦り合わせていくと腑に落ちる部分が多々あり、納得せざるを得なかった。また元の姿に戻ったドーベルさんのトレーナーさんとも話がバッチリと噛み合ったことからも、確かに彼は彼女だったのだなと信じるしかなかった。

(ただエスキーちゃんは初めて見たときからドーベルさんに好き好きアピールをしていましたよね……感情表現の方法が変われど方向性については姿が変わったとて大きくは揺らがないでしょうから、もしかしてエスキーちゃんになる前から……)

 あくまでただの仮説で誰にも確かめてはいない。ただ目の前の幸せそうな2人を見ていると、自分の考えは正しいのではと思ってしまう。そもそもドーベルさんがエスキーちゃんの告白を受け入れたのも、おそらくそういうことなのだろう。

(羨ましいですね。まさにベストカップルですね。お二人ともおめでとうございます)

 新郎新婦が腕を組んでチャペルから退場するのを他のゲストとともに盛大な拍手で見送る。その2人の後ろ姿に一瞬エスキーちゃんが映り込んだ気がして私は目を擦った。

(あれ? 気のせい、ですよね? 今そこにエスキーちゃんがいたような……)

 ドーベルさんとエスキーちゃんは背格好が若干似ていたから、きっとそれで錯覚してしまっただけ。たぶん、きっと。

─────
 挙式が終わり、新郎新婦とゲスト全員が青空の下広場へと集う。新郎新婦が何か準備をしている中、ふと後ろの方を振り返ってみると、元チームメンバーがガトリングタイプのバブルマシーンを複数台セットして、辺り一面をシャボン玉まみれにしていた。もう少し抑えてください。せっかくの綺麗な衣装がベタベタになるじゃないですか。

 そう注意しようと歩いていこうとしたとき、

「それ!」

 というドーベルさんのかけ声が聞こえ、反射的に2人の方を見る。すると、綺麗な放物線を描いたブーケが私に目がけて飛んできて、

「えっ?」

 すぽりと胸元に納まった。

「プログレス! 次はあなたの番だからね!」

 ドーベルさんの大きな声とともに周囲からエールが投げかけられる。頑張ってねと、結婚式呼んでねと。まだお相手も決まっていないのに。

「が、頑張ります……」

 若干たじたじになりながらも決意表明を果たす。そのときどこからか、

『わたしも応援してますからっ!』

 と聞こえ、周囲をぐるりと見渡す。彼女の姿は、ない。だけど私は彼女の言葉に心の中で答える。

(応援、してくださいね)

 見上げると広がる雲ひとつない綺麗な青い空。いつか空の上で笑いあえたらいいな。そんなことを願いながら、私はブーケを優しくぎゅっと抱き締めた。

〜Fin.〜

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