昔、一度、親に連れられて劇を見に行ったことがある。
舞台上を役者が踊る。歌い、踊り、劇を行う。ただのミュージカル。
でも、それを見て私は意味がわからなかった。
どうして踊るのか、どうして歌うのか、どうして……彼らが劇を行うのか。
彼らが登場人物になり切って劇を行う理由が理解出来なかった。
そして、物語の中の彼らを侮辱するような、そんな彼らを許せなかった。
物語の中の彼らを役者である彼らが話し、感情を歌と踊りで表すそんな彼らが。
舞台上を役者が踊る。歌い、踊り、劇を行う。ただのミュージカル。
でも、それを見て私は意味がわからなかった。
どうして踊るのか、どうして歌うのか、どうして……彼らが劇を行うのか。
彼らが登場人物になり切って劇を行う理由が理解出来なかった。
そして、物語の中の彼らを侮辱するような、そんな彼らを許せなかった。
物語の中の彼らを役者である彼らが話し、感情を歌と踊りで表すそんな彼らが。
その時は許せなかった。消したくなるほどに。
でも、今なら分かる。役者である彼らはただ役目を果たしただけなのだと。そして物語の彼らは、役者である彼らがいなければ語られることは無いのだと。それが物語の中の、彼らの運命なのだと。
―――中央に転校してきて一週間。色んなものを見てきた。
走る彼女ら、その走りに色んなものを見出し力にした。
たった一週間だが理解した事がある。いや、気がついたこととも言える。
そして、それは私の運命として見えた。
走る彼女ら、その走りに色んなものを見出し力にした。
たった一週間だが理解した事がある。いや、気がついたこととも言える。
そして、それは私の運命として見えた。
『物語の中の私は、役者で演出家であるミスターシービーが居なければ語られない』
そういう運命。
それいうわた█ の運命。
それいう███ のうんめい。
それが私の―――私の―――。
―――認めない。認めない認めない認めない。
―――認められるわけが、無い。
それいう
それいう
それが私の―――私の―――。
―――認めない。認めない認めない認めない。
―――認められるわけが、無い。
山があるなら乗り越えよう。海があるなら飛び越えよう。壁があるなら壊そう。運命を乗り越えるためなら、なんでもしよう。
それが私に出来る―――――。
それが私に出来る―――――。
◆◇◆◇◆
『暑い……』
季節外れの真夏日の様な暑さが大地を包む中、自分は模擬レースを見る為にレース場に向かって歩いていた。
その最中にふと、校舎の脇の日陰の中に自動販売機とプラスチックのベンチで構成された小さな休憩所が目に付いた。
その最中にふと、校舎の脇の日陰の中に自動販売機とプラスチックのベンチで構成された小さな休憩所が目に付いた。
『少し休んでいこう』
財布を取りだしながら自動販売機に近づく、何を買おうかと考えながら歩んでいくと視界の端に定期的に動く何かを感じた。
よく見ると日陰で見ずらいが黒い何かがひょこひょことベンチの後ろ側で動いている。更によく見るとそれは真っ黒な毛並みの尻尾のようで、誰が見ても穏やかで緩やかな動きをしている。
よく見ると日陰で見ずらいが黒い何かがひょこひょことベンチの後ろ側で動いている。更によく見るとそれは真っ黒な毛並みの尻尾のようで、誰が見ても穏やかで緩やかな動きをしている。
『(誰かが寝ている……?)』
この炎天下とも言える真夏のような日にとても暑いだろう。
『(もしかして!)』
最悪の考えに辿り着くまでにそう時間はかからなかった。あんなところで寝ていると熱中症になっていてもおかしくない。
そう思ったらいてもたってもいられず、尻尾の元へ暑さも忘れて走った。
そう思ったらいてもたってもいられず、尻尾の元へ暑さも忘れて走った。
◆◇◆◇◆⏰
そこに居たのはすやすやと眠る、ジャージ姿の黒毛のウマ娘だった。特に熱中症という雰囲気も無く汗はかいているがそれが熱中症の症状を有している様には到底思えなかった。
その姿を見てどっと疲れがやってくる。焦って損をしたとは口が裂けても言えないが、汗をかいてしまい身体が水分を欲するのがわかる。
隣の自販機からスポーツドリンクを買うと、彼女の安全の為にウマ娘の寝ている席の向かい側の席に座った。どちらも日陰ではあるがスーツだからか妙に蒸し暑い。
その姿を見てどっと疲れがやってくる。焦って損をしたとは口が裂けても言えないが、汗をかいてしまい身体が水分を欲するのがわかる。
隣の自販機からスポーツドリンクを買うと、彼女の安全の為にウマ娘の寝ている席の向かい側の席に座った。どちらも日陰ではあるがスーツだからか妙に蒸し暑い。
「すぅ……すぅ……」
向かいの席からは小さな寝息が聞こえるが彼女を起こすべきか否かを頭の中で議論する。
今の状態は正直良いとは言えない。この暑さの中だと熱中症の危険が高いしプラスチックのベンチで寝ているというのも良くない。
だが、寝ているウマ娘を無闇に起こすと蹴り飛ばされることもある。常人だと一撃で意識を刈り取られるだろう。
だが、起こさないと模擬レースに行くことは出来ない。勿論、理由は熱中症の危険のある子を一人にしてはおけないからだ。
だが、だが、だが。頭の中で繰り返していると
今の状態は正直良いとは言えない。この暑さの中だと熱中症の危険が高いしプラスチックのベンチで寝ているというのも良くない。
だが、寝ているウマ娘を無闇に起こすと蹴り飛ばされることもある。常人だと一撃で意識を刈り取られるだろう。
だが、起こさないと模擬レースに行くことは出来ない。勿論、理由は熱中症の危険のある子を一人にしてはおけないからだ。
だが、だが、だが。頭の中で繰り返していると
「ん、んぅぅあぁぁ………暑っ……」
黒毛のウマ娘が目を覚ました。起き上がりながら背伸びをしてそのままやじろべえが元に戻る時のようにベンチに座り、ぼんやりとこちらを見ている。
寝ている時は気が付かなかったが座高を見るに相当体が大きそうだ。
寝ている時は気が付かなかったが座高を見るに相当体が大きそうだ。
「だ…………誰?」
『え、あ、あぁ』
眠気まなこに腑抜けた様子の声でこちらを向く彼女に急に話しかけられ、驚きで少し腑抜けた声が出てしまった。
はっとして、服に着けていたトレーナーバッチを見やすいように突き出した。
はっとして、服に着けていたトレーナーバッチを見やすいように突き出した。
「へぇ、トレーナー。そう」
『君はこんなところで何を?』
トレーナーだということを分かってもらったら聞きたいことを聞く。
「あぁ、模擬レースに行こうと思って…暑かったから自販機と日陰のあったここで休んで、眠くなったから寝ただけだよ。特に理由なんてない」
『じゃあ、君は模擬レースに?』
「あぁ、出る。まさか、もう始まってる?なら急がないと」
そういうとベンチの下からカバンを取りだし、急いでレース場に向かおうとする。
当たり前の様に支度をして駆け出そうとするウマ娘を見て
当たり前の様に支度をして駆け出そうとするウマ娘を見て
『ちょ、ちょっと待って!』
思わず声をかけてしまった。
「………何?」
『いや、流石にそんな寝起きでレースに出ても、ちゃんとした実力は発揮できないと思うのだけど……』
「あぁ、なんだそんなこと。ならレースを見ればわかる。そうだろ?」
そう言うと彼女は走り去ってしまった。