駆動方式(自動車)

登録日:2025/10/03 (金) 00:02:53
更新日:2025/10/17 Fri 18:40:09
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駆動方式とは、自動車の「エンジン」と「駆動輪(ドライブトレイン)」の位置関係のことである。かいつまんで言えば、「エンジンをクルマのどこに置いて」「どのタイヤを動かすのか」をパターン別に分類分けしたもの。


はじめに:駆動方式の重要性

駆動方式は自動車の様々な性能を決める上で非常に重要なものとなっている。なぜならこれらの配置は、クルマの「挙動」「居住性」に大きく関わってくるからである。

まず、エンジンに関しては、エンジンはクルマの部品の中で最も重い部品であることが最たる理由である。
すなわち、エンジンの配置場所を決めることはクルマの重心位置を決めるに他ならないのだ。エンジンの配置=重心配置は、クルマの挙動特性に大きな影響を与えている。
一方で、エンジンは車内スペースを最も圧迫する部品だということも考慮する必要がある。
エンジンのサイズは種類にもよるため、一概には表せないが……ここでは簡単に、1×1×1mの立方体としよう*1
これが車内のド真ん中にあったら邪魔で仕方ない。そんなデカブツが堂々と鎮座していたら人も荷物も詰めないし、スペース面では無駄でしかない。なので、居住性や積載性を重視するなら、自然とエンジンは端に寄せることとなる。
また、駆動輪の違いも「クルマの挙動」だけでなく実は「スペース効率」にも影響してくる。これに関しては詳しく解説すると長くなるため個々の解説に譲るが、「エンジン」と「駆動輪」が変わるだけで自動車の様々なパラメーターが変わる、というだけでも覚えておいてほしい。

駆動方式一覧

先に断っておくと、本項では一般的な乗用車・商用車によく見られる方式についての解説としている。
以下に挙げる方式の他に、例えばフォークリフト等には「ミッドシップエンジン・フロントドライブ」とでも言うべき方式を採用しているものもあるが、乗用車等には採用例がないため割愛する。

フロントエンジン・フロントドライブ/FF

ファイナルファンタジーやハウンド・ドッグの名曲ではなく、エンジンを車両の前方に置き、前側のタイヤを駆動する方式。
フロントの車軸より前から車軸直上にかけてエンジンが来るため、フロントオーバーハング(フロントタイヤ〜車両前端部の長さ)が長くなりやすいのが外観上の特徴。

クルマの駆動に必要な要素が全てエンジンルーム内で完結しているため、車両後方をまるまる乗員・貨物スペースに充てられるのが最大の強み。
この点から普段使い用途では最強と評することができ、事実現在販売されている乗用車の大半がこの方式
特にファミリーカー向きの駆動方式と言えるが、一方でFFのスポーツカーも決して少なくはない。
国内では特にホンダがFFスポーツのクルマ作りを得意としているほか、欧州、特にフランスではファミリーカーをベースにエンジンチューンや足回りの強化を施したホットハッチというスタイルが発達している。

一方で「エンジン・駆動輪・操舵全てをフロントに収める」という構造上の制約から、1960年代まではホンダやミニなど限られたメーカーでしか採用例が無かった。
1969年に発売されたフィアット128でエンジンと変速機を直列配置して省スペースを図った「ジアコーサ式レイアウト」が採用されて以降急速に普及し、現代に至っている。

商用車でも荷台部分の低床化を目的として採用例があり、古くからフランス車ではそうした例があるほか、日本でも70年代初頭にいすゞ自動車がエルフの派生車種として「マイパック」を発売したが、全く売れずに3年ほどで生産終了となった*2。近年では技術の進歩に伴い、日野自動車がマイパックに近いレイアウトを採用した「デュトロZEV」を発売している。

メリット

  • 自動車を構成する上で最も重くて巨大な部品であるエンジンをはじめとして、各種の部品を前にまとめることができる。
  • 車内空間を全般的に広く取りやすい。一般的なファミリーカーの車高において、後部座席の足元もフラットになる。
  • 部品点数をある程度少なくでき、重量面においても軽量に作りやすい傾向がある。
  • 一番重い部品のエンジンが前にあるため、駆動輪であり操舵輪でもあるフロントタイヤに常時荷重がかかりやすく、直進時の安定性が良好な傾向にある。これは未舗装路や湿潤路面、積雪路面などにおいても発揮され、トータル的な走行安定性を確保しやすい。

デメリット

  • 駆動輪と操舵輪を兼ねる上、常に荷重がかかりやすい状況下にさらされるフロントタイヤは他駆動方式よりも消耗が早い。
  • 車両後部が軽くなりやすいためリアタイヤはグリップ力を失いやすく、摩擦係数の低い路面(特に凍結路等)ではスリップした場合不安定な状況になりやすい。
  • 基本的にトランスミッションの設計自由度が低下することと、前輪が駆動輪となる都合上、一般車レベルの設計では高出力を発揮するエンジンの搭載・利用が難しく、同時に車重のある車両に用いづらい。
  • FF車両が主流となり設計・整備の双方が浸透した現在ではあまり問題点となりづらいが、基本的に車両前部に部品が極端に集中しているため整備性が悪い。

挙動特性

直進安定性が良い=曲がりにくいと言え、基本的にはアンダーステア傾向が強く、リアが出づらい。
これは加減速も旋回も全てフロントタイヤが担っている弊害でもある。
加えて加速性能に関しては後輪駆動車より不利なのは否めない。
というのも慣性の法則上、クルマが加速する際は荷重(≒力)が後輪側にかかるため。後輪駆動車ならこの荷重移動を有効に使えるが、前輪駆動の場合加速しようとすると駆動輪の荷重が抜ける=パワーが逃げてしまう格好になるのだ。これが大出力化が難しい理由でもある。

このあたりの理由からハイパワーになりがちなレースゲームの類では「FF車は収録困難」とアナウンスされる*3、収録されていても旋回挙動の癖がやけに強い車種が多くなるなど、FFの特性の再現に困ったらしき作品も多い。

また、旋回時にFF独特の傾向が現れることは利点とも欠点とも言える。
主に低速ギアでの旋回中にアクセルをオフ(あるいは一定以上戻す)にすることよって、車体がステアリングを切っている方向に急激に切れ込む現象が起こる。これをタックインと言い、FF車独特の現象及び走行テクニックである。
特にFF形式が普及した当初はタックインの挙動が強く出る車両が比較的多かった。現在では出力特性や、タイヤ&サスペンションの設計により、その当時よりも挙動としては緩やかになっている傾向にある。

ターマックにおいてのドリフト走行にはあまり向かないが、サイドブレーキの併用と適切な荷重移動、ステアリングワークによってドリフト自体は可能であり、駆動方式において不利でありながらも行うドリフトは「Fドリ」と個名で呼ばれるほど。
基本的にはターマックではグリップ走行向き。

モータースポーツの世界では採用例が少なく、かつてのグループA、現在のTCRなど市販車の延長線レベルに留まっている。2015年には日産がル・マン24時間レースに、FF方式のプロトタイプカー「GT-R LM NISMO」を投入したが、トラブルが相次ぎ結果は残せなかったし*4、先述のグループAもFF車が投入されたのは一番下のクラスであり、花形は最上位クラスにいた4WDのスカイラインGT-Rだった*5
ではFFは全くモータースポーツ向きではないのかと言えばそんなことはなく、ラリーの世界ではシトロエン・クサーラが’99年のWRC第5・6戦で4WDのWRカーを差し置いて総合優勝という成果を残してもいる。
一応補足しておくと「このときクサラに適応されていたF2キットカーの規則はFFを使用する代わりに、WRカーより遥かに軽いうえに様々な改造が可能で、この2イベントは4WDのメリットがあまり目立たない舗装路面でコーナーが多いイベントだった」という但し書きはつく。
実際、翌年からF2キットカーの車重増加やエンジンパワー低下のための新レギュレーションが発行され、クサラはWRカーに移行してしまった。

フロントエンジン・リアドライブ/FR

ファンロードではない。
エンジンは前に置き、ドッキングされたトランスミッションから延びたプロペラシャフトで後輪に動力を伝え、後輪を駆動する方式。
FFと同様に車軸前方にエンジンを置く方式と、車軸後方(フロントタイヤと運転席の間)に置く方式とがあり、後者はフロントミッドシップとも呼ばれる。
後者の場合、フロントタイヤ〜乗員スペース間が長くなりやすい。
またエンジン-トランスミッション-プロペラシャフト-後車軸と一直線に繋ぐことになるためエンジンは縦置きに配置されるのが基本で、それゆえそもそもボンネットが長くなりやすい。
さらにリヤタイヤ後方には特にスペースが必要ないため短くまとめられることが多い。
こうして形成される「ロングノーズ・ショートデッキ」と呼ばれるスタイリングは、車両を横から見た時のプロポーションが黄金比に近くなるため美しく見えやすく、優雅なシルエットを称えられる名車は得てしてこの駆動方式であることが多い。

かつては乗用車においては最も多い駆動方式であり、構造のシンプルさ、全体から見た設計の自由さ、整備性の良さから広く採用されてきた。
現在は高級車やスポーツモデル、トラックなどに主に使われている。ごく稀にエルグランドやハイエースをはじめとしたワンボックスとかのファミリーカーも使っていたり。

メリット

  • 構造がシンプルかつ大馬力に対応しやすい。
  • エンジン・トランスミッションを始めとした各部品が離れた場所にあるため整備性がよい。
  • エンジンが前側にある一方で駆動系部品の一部は後ろあるため、車体の前後重量バランスを良好な設計にしやすい。
  • 運転時の車体の挙動が素直で操作性がよい。実際にほぼ50:50に近いFR車種も存在するほど。
  • 操舵輪と駆動輪の振り分けが行われているため、タイヤの負担が分散され性能にも余裕が持てる(これは後述する後輪駆動全てに共通する事柄である)。
  • 後述の4WDとの設計的親和性を高くしやすい。

デメリット

  • プロペラシャフトの分だけ重量と部品点数が増え、コストも高くなる。
  • 車両の中央をプロペラシャフトが通るため少なからずセンタートンネルが必要となり、車内空間を広くとるのには限界がある。一般的なファミリーカーの車高では、後部座席の足元に通る突起が目立つ。
  • プロペラシャフトからのデフとドライブシャフトがある都合上、リアサスペンションの設計が難しくなる。
  • 駆動輪に対しての荷重が弱く、非舗装路や積雪地などの悪路に最も弱い駆動方式にある。

挙動特性

スポーツ走行においては、フロントに荷重を残して旋回しつつリアタイヤでパワースライドを起こす等の操作が最も行いやすいため、ドリフト走行をしやすいのが利点。ドリフトがやりたければまずはこの駆動方式の車を選ぼう。実際にドリフトを広めるのに大きく貢献した頭文字D主人公が駆るハチロクはFRだし、同作品で取り上げられている車の中でドリフト入門車・走り屋入門車として紹介される180SXやS13シルビアもFRである。また、D1グランプリでは現状本戦クラスの選手はほとんどが「(FRの)ZN8型86に800-1000馬力までチューニングした2JZ*6を載せた車」を使用。少し前までは同じくFRのS15シルビアに同じような改造を施したクルマで出場していた。
逆を言えば雑にアクセルを開けるとスピンしやすいということでもある。とはいえこれは後輪駆動車共通の特徴でもあり、ミッド・リアエンジン車よりは制御しやすい方(ゆえにドリフト向き)。
良くも悪くも素直な挙動特性なため、スポーツドライビング入門としてもよくオススメに挙がる。

モータースポーツでは、市販車ベースとなるGTカー・ツーリングカーで特にポピュラーな方式。
一方で専用設計のフォーミュラカー・プロトタイプカーでは後述するMRの利点が勝るため、現在では採用されていない。
FRがプロトタイプに採用された最後のケースは、2000年代に存在した「パノス・エスペラント」というマシンである。

ミッドシップエンジン・リアドライブ/MR

エンジンを車体の中央(区分で言うと前輪の車軸と後輪の車軸の間が定義)に置き、後輪を駆動する方式。
その定義上、上述した「フロントミッドシップ」もMRと言えるが、実際の挙動や機構面はFRのそれであるため留意。
典型的なレイアウトでは運転席と後輪の間にエンジンが来るため、外観上はドア〜リヤタイヤ間が長くなる傾向にある。このスペースに吸気口を設けてあることも多い。

構造上、車体ド真ん中にエンジンが来るため車内スペースが圧迫される欠点がある。
そのためスーパーカーやレーシングカーなどでの採用が中心であるが、エンジンが小型であればそのデメリットをある程度打ち消せるため、スポーツ走行を求めない設計の乗用車でも採用されることがある。
例としては初代トヨタ・エスティマや三菱・i、ホンダ・Zなどが挙がる。
ただし、それらはエンジン配置を工夫して床下に収めることで居住空間を確保したものであるうえ、頑張って実現したところで整備性などの面でFF等に劣ってしまう。そのため、やはりファミリーカーでの採用は非常に稀。
SUVではランボルギーニが「チーター」という米軍納入向けの試作車を作ったこともあったが、リアヘビーが原因で結局量産には至らず、その後も採用事例はない。
他にも、「農道のランボルギーニ」ことホンダ・アクティは、フラットな荷台スペースを確保できることからミッドシップレイアウトを貫き続けていた。

一方FF車の普及以降は「エンジンと駆動系の部品をそっくり後部に移設すれば安価なスポーツカーを生産できる」ことに気がついたメーカーがMR車を製造するようになり、日本車初の量産ミッドシップ車となったトヨタ・MR2もこの発想から生まれたものである。

メリット

  • 車の部品で一番重いエンジンが中央にあるため、設計にもよるが重量バランスが安定する。
  • 重量物が車体中心部に近い位置にあるため、慣性モーメントが小さくなり初期旋回性(回頭性)が良く、基本的運動性能が高い。
  • 加速時・減速時における重量バランスを良好な状態に持ち込みやすい。

デメリット

  • エンジンが運転席と車軸の間にある都合上、エスティマのようなミニバン型でもない限り車内空間に大きな制限ができる。
  • 設計によっては重量バランスの偏りが起き、アンダーステア・オーバーステアそれぞれの両極端さが大きい。重心が中央点に近いためこういった際の修正が効きづらく、スピンに陥るリスクはFRよりも高い。
  • 上記の理由からステアリング操作はシビアであり、細かいステア修正が必須のドリフト走行には不向き。D1GPでもMR車で出場した選手は割といろんな車種がエントリーしていた時期にもほとんどいない。「サーキットの狼」等自動車漫画ではMR車のドリフトがしょっちゅう出て来るが、あくまでもフィクションと割りきるべきだろう。
  • エンジンが車体中央にあるため冷却が難しい。一般的にエンジンを冷やす熱交換器は車体前部にあることが多いため、冷却系配管長が長くなる傾向にある。
  • エンジンの配置が“車体の中心”であることや、トランスミッションやその他の部品多数を始めとしたレイアウトの問題がつきまとうため、全般的に整備性が悪い。
  • パワートレインが運転席の背後にあるため、メカノイズが車内に響きやすい。

挙動特性

旋回性能はピカイチで、その特性上舗装路での走行性能においては最優と言える方式。それゆえ、F1やWEC等のモータースポーツでは最も活躍している駆動方式と言えるだろう。
というのも車重の大部分が車体中央付近にある=重心がほぼ中央に来るため、旋回方向にかかる力への抵抗が少ないのだ。
初めてMR車に乗った人は、そのコーナリングのキレに驚くだろう。

一方で、旋回性能が高いということは先述のようにスピンしやすいということでもあり、限界を超えた途端コマの如く回りだしてしまう。
そのため特にハイパワーなMR車は扱いに注意が必要で、全体的に上級者向けとも言える。
二代目MR2(SW20型)が「じゃじゃ馬」「危険」と評されたのも、ひとえにこの特性を足回りでカバーしきれていなかったがため。まあ初代MR2はもっと過敏だったんだけど。
また近年のスーパーカーでは高出力化が進みすぎて2WDでは制御が難しいケースも見られ、「ミッドシップベースのAWD」や「MR+フロントのみモーター駆動」という形式も見られる。

リアエンジン・リアドライブ/RR

ワゴンRのモデルでも、ロールス・ロイスではないし、レイジレーサーの略やラリティでもない。
動力を後輪の車軸よりも後ろに置き、後輪を駆動させる。FFの逆に近い。
外観上の特徴もやはりFFの逆で、リアオーバーハング(後車軸〜車体後端)が長くなりやすい。またリヤガラス下付近に吸気口を備えることが多く、そこへ向かって効率よく空気を導くため特徴的な流線型をしているのもよくある特徴か。

モータリゼーション黎明期~発展期においては現在のFFに相当するポジションで、設計の単純さや、車内を広く取りやすいこと、フロントが軽量であることからの操舵性の良さ(パワーステアリングが希少だった)などから大衆車向けのレイアウトとしてもよく普及していた。
フォルクスワーゲン・ビートル(Type1)やスバル・360が代表例だろう。

が、走行速度のアベレージが上がったことや車体設計の大幅な進歩、性能向上、トランクの容積が増やしづらい等の要因により特異な挙動と独特な特性の目立つRR方式は一気に廃れていった。
そんな欠点だらけのRRに固執し、執念で一級品のスポーツカーに仕上げてしまうポルシェはやはり変態だ。そしてドイツの技術は世界一ィィィィィ!ということだ。
ちなみにバスにおいては「構造が簡単になり、プロペラシャフトがないだけむしろ車内が広く取れる」という理由でRR全盛。後述の「トランクはどこに設けるか?」についても、バスならば「そもそも不要(路線バスでわざわざ荷物をトランクに別搭載する路線はない)」と「床下に『ミッドシップトランク』を作ればいい(要するに高速バスのあれ)」の2択で定着しているためそんなに問題にならないのだろう。
また最近はモーターが内燃エンジンより小さいためRRでもFF同様またはそれに加えてフロントにも荷室が確保できるという大きい荷室容量が取れるため電気自動車ではよく使われている。

他にも、「農道のポルシェ」ことスバル・サンバーは悪路走破性や静粛性から自社生産時代は一貫してRRを貫き続けた。

メリット

  • FFと同様、部品点数を少なく抑えられる。
  • 設計がシンプルで、車内空間を広く取りやすい。
  • 駆動輪にかかる荷重が大きく、加速性能が高い。悪路に強い。それは前述のバスの例でも、たくさんお客様を乗せても業務に支障をきたさない強みにもなる。
  • ブレーキ時に4輪にバランス良く荷重がかかるため、ブレーキング性能の高い車両に設計しやすい。
  • 先述した「外見は多少どうでもいい部類なので、キャビンをできる限り広くしたい」場合だけではなく、「バスのように後方にカウンターウェイトが存在することが用途上望ましい」場合も圧倒的に有利。

デメリット

  • 車体前部に重量物が何もないため、前輪への荷重を得づらい。そのため回頭性が悪い。また、高速走行時の直進安定性が低い。
  • 上記の問題を解決するには極めて高度かつ高剛性な車体設計が求められ、コストが高騰しがち。
  • 重量物のエンジンが旋回軸から一番遠いところにあるので、一言で言えば「エンジンに振り回されながら曲がる」ような状態を強いられるため、高速でのコーナリングが難しい。
  • 後輪に負担が集中するため、他駆動方式と比較するとリアタイヤの消耗が速い。
  • MR車以上にエンジンの冷却が難しくなり、冷却系の配管長が長くなりやすい。
  • 構造上、リアトランクを設けられない*7。ある程度まとまった大きさの荷物を出し入れするのが想定される場合には採用できなくなりうる。例えば荷物運びを想定した商用車には不向きだし、ファミリーカーでも「ゴルフに行きたい」「趣味の集まりの際に荷物がかさばる」「せっかくクルマで買い物に行くんだから、できる商品だけでも買いだめしたい」などの需要に応えるにはFFにリードを許す。

挙動特性

加速性能は2WD中最強。
そもそもリヤヘビーで常時リアに荷重がかかっているようなものであるため、加速時には荷重移動も味方につけた発進が可能。
同様にブレーキングも2WDどころか全駆動方式で最強。重量物であるエンジンが後ろを抑え込んでくれるため、リア荷重が抜けにくくタイヤのグリップをフルに活用できる。

……が、それ以上にRRといえば癖のありすぎる挙動が曲者。
まずは直進安定性。少々極端な例えだが、チョロQで遊んだことのある方は「ケツにコインを挟んだ状態」をイメージして貰えればなんとなく想像できるだろう。アレほどではないにせよ、そもそもの構造からして不安定になりやすいのだ。
そして最大の問題がコーナリング性能。前輪に荷重をかけるのが難しい=旋回方向に十分な力をかけづらく曲がりにくい。そのくせ、いざ曲がり出すとリヤが遠心力で膨らもうとするため、ともすればそのまま「ぐるんっ」といきかねない。このアンダーステアの後、強烈なオーバーステアに転じる(アンダーオーバー)挙動の危険性が、次第にRR車が敬遠されるようになってしまった要因の一つでもある。
RR車にこだわり続けたポルシェの歴史は、この挙動と格闘し続けた歴史でもあるのだ。

変わったところでは先述した「エンジン自体がカウンターウェイトになる」という点から、いわゆるフォークリフトはほとんどがRRで設計されている。
性質上『魔改造の夜』ごっこをするバカタレでもなければスピードを出さないこと、またバックで移動することが自動車としては非常に多いことから*8、RRそのもののデメリットもそこまで問題にならない、という理由もあるようだ。

四輪駆動/4WD、AWD

エンジンの動力を四輪全てに伝達する方式。4WD(Four Wheel Drive)、AWD(All Wheel Drive)とも呼称される。
エンジンの搭載位置は定義されないため、フロントエンジンのみならずミッドシップエンジン4WDやリアエンジン4WD等も存在する。

国内の乗用車メーカーとして四輪駆動に高度な開発能力を持つスバルでは、高度な駆動系統の処理能力を持ったコンピューターとの組み合わせによる「シンメトリカル・AWD」を売りとして現行車種に設定、状況を問わぬ走行安定性を実現しているほか、市販向け4WD車自体が昔のスバルの「ためしに(後輪に)接続してみたんだ…」という「ff-1 1300Gバン 4WD」が始まりである。
この時は一応「FFモデルがメインで、AWDは東北電力の山中巡回用特注モデル」ではあったが、モーターショーでのウケが非常に良かったため、以降スバルは4WDに注力するようになった記念碑的な車種であった。

電気自動車の場合はプロペラシャフトは使わず、モーターを2個以上使ってAWDを実現している。
モーターを増やすことで実現している都合でグレードの1つというよりもハイパフォーマンスモデルとして扱われることが多い。
やはり航続距離は減る傾向ではあるが、モーターの性質上動力割り振りを短時間で細かく変えたり、必要に応じてモーターの出力を変えるなどきめ細やかな制御ができる。

また4WDが出始めの時期は、状況に応じて前2輪への駆動をハブで切り離し、2WDと4WDを切り替えられるパートタイム4WDが出ていた時期もあったが、センターデフで前後輪へのトルク分配を制御する電子制御フルタイム式4WDが普及して以降は廃れていった。

メリット

  • 全てのタイヤに駆動力が伝達され、トラクションが発生するため悪路の走破性が最も高く、路面条件の悪い状況下からの脱出力が高い。
  • 駆動力の分散も併合して行われるため、直進時・旋回中それぞれの安定性が高い。
  • エンジンブレーキが四輪にバランス良く効く。
  • 大出力もしくは大トルク車両との相性が良い。

デメリット

  • 四輪が駆動する以上、機械的・設計的にも構造が最も複雑になり、コストが高騰しやすく他駆動方式よりも重量増が避けられない。
  • 安定性が高いため、MRとは違う意味でドリフト走行には向かない(できないわけではない)。
  • 複雑化に伴う整備性の悪化やメンテナンス部分の増加が避けられない。FFモデルの設定がある or 4WDモデルの設定がある車両に顕著で、その場合の整備性は非常に劣悪なものになる。
  • 横置きエンジンがベースの車両ではトランスミッションの設計制約が最も大きい。
  • 重量増と併せ、駆動力の分散から燃費の面において不利になりやすい。

挙動特性

大雑把に評するなら、高加速、大重量、高燃費。
四輪全てを使って加速するため、加速時のトルクは言うまでもなく最強。そのトルクフルな特性に加え、前後どちらかが浮いたり泥濘にハマったりしていても他のタイヤで脱出可能(な時がある)という点から悪路走破性も2WDとは比較にならない。そのため豪雪地帯等で特に広く扱われる。
ただ殆どの4WD車両は「仕様上完全にタイヤが滑るとそのタイヤしか回らなくなる」ため、スタックした場合は脱出不可能になることが多い。そのためランクルのようなヘビーデューティなSUVは「デフやセンターデフをロックして完全直結式にする」というシステムが備わっている。
その安定した走破性の高さは、大きなトルクを伝達することによってさらに広く活かされるため、乗用車以外にも軍用車両、土木や建設用の特殊用途車両等にも主流として用いられている。
こうした用途では四輪のみならず六輪以上のものもある。
また前輪駆動車よりは前輪にかかる負担が軽く、後輪駆動車より直進安定性に優れるという「いいとこ取り」な面もある。

ただし、四輪全てに力がかかるぶん、高速巡行時はお互い足を引っ張りあう形になりやすい。加えて2WDに比べ複雑な機構であるうえ、単純に「タイヤを動かす仕組みがもう1組必要になる」ことからどうしても車重は嵩んでしまう。そのため得てして燃費は悪め。
また、ラリーで活躍するそのイメージとは裏腹に原理的には曲がりにくい駆動方式でもある。というのも、前輪はFFと同じで加減速も旋回も全て請け負い、役割分担ができないうえに上述の重量増も乗っかるため。
ゆえにラリー等ではいっそ思いっきりドリフトして無理矢理曲げるというシーンも多く見られたが、近年では「FF車とさほど曲がりやすさは変わらない」と「タイヤが進歩しすぎて砂地ですらドリフトしないで走った方が速い」が組み合わさった結果、一部の「どうしてもグリップでは回りきれない」コーナーでサイドブレーキドリフトを要するのと、「雪路面では真っすぐブレーキするより横を向けてブレーキしたほうが止まる」という理由でブレーキングからコーナーの入口までドリフトするぐらいで、WRカー全盛期ほどのド派手なドリフトは見られなくなっている。
どんなコースであれドリフトとグリップの中間が最も速いのだ。

一方1980年代以降はハイパワーなエンジンの出力を効率よく伝達するために用いられるケースもあり、その先駆けとなったアウディ・クワトロは今なおラリーの世界において革新的な技術をもたらした車として知られている。
日本車ではアウディと同じくラリー競技で活躍したスバル・インプレッサ(WRXもこの系統)と三菱・ランサーエボリューション、ロードカーではその強さからグループAのカテゴリーを消滅に追い込んだR32型スカイラインGT-Rがあまりにも有名。
F1では60年代以前に四輪駆動車が開発されたこともあったが、重量増加のデメリットもあり結果を残せず、つくったはいいが実戦導入にすら至らないものもあった。80年代には前2後4の6輪車が開発され、後輪4つを駆動するという変則的な4WDも開発されたが、こちらも実戦の導入には至らなかった。最終的に「駆動輪2つのみ」というレギュレーションが誕生して4WDはF1で事実上禁止されることとなったが、軽量なボディとハイグリップなタイヤによる高い旋回性を持ち味に舗装路を走る現代F1に4WDを採用するメリットがあるのかは、仮に解禁されたとしても怪しいところである。
フィクションの世界においては新世紀GPXサイバーフォーミュラに影響を与えており、同作品に登場する近未来(1990年代の作品でありながら、舞台設定は2010〜20年代)のレーシングマシンは2000馬力前後という超高出力なパワートレインを搭載していて、2輪駆動ではとてもパワーを使い切ることができない。そのため、この作品に登場するマシンは全てAWD*9を採用している。


追記・修正はそれぞれの駆動方式を乗り比べてからお願いします。

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最終更新:2025年10月17日 18:40

*1 戦車向けでもなければここまで巨大な自動車用エンジンというのはそうそうないが、あくまでわかりやすさ重視である。

*2 但し玩具のトミカでは2000年代初頭まで発売されていたので、それで知った人も多いだろう。

*3 最終的に600~800馬力に強化される『湾岸MIDNIGHT MAXIMUM TUNEシリーズ』では実際にホンダ参戦後も原作登場車種のはずのインテグラTYPE RはCPU専用車種となっている。原作コミックでもそのインテグラのドライバーに対して「FFで400馬力は踏めんぞ」というセリフがある。

*4 そもそもアレは本来モーターで後輪を駆動する4WDのはずだったが色々あってハイブリッドシステムがただの錘と化していた。

*5 なお日本ではGT-Rが最上位クラスの他車を駆逐してしまい、GT-RのGT-RによるGT-Rのためのレースになってしまった。

*6 だいたいは元からインタークーラーとツインターボが付属しているGTE型。80型スープラのターボモデルのエンジンで、クルマとしてのジャンルが違うアリストもドナーにできるため、チューンする際の限界ラインが高い割には割と入手しやすい

*7 実際には「フロントボンネットの開閉機能を残してそこをトランクとする」ことで解決している車種が多い。

*8 というかどっちを前進方向とするかの解釈によっては「数少ない、RF車が主流の用途」ともいえる。

*9 4つ以上のタイヤを装着しているマシンも珍しくないため4WDというのは適切な表現のではない。